説明

サーモクロミズム性の遷移金属錯塩化合物

【課題】有害金属を含まず、簡便に製造でき、温度の上昇または下降途中の特定の温度を可逆的または不可逆的で明瞭な変色によって表示できるサーモクロミズム性を示す遷移金属錯塩化合物を提供する。また、それを含有し、微妙な変色温度の調整が可能な温度インジケータを提供する。
【解決手段】遷移金属錯塩化合物は、二つの配位性窒素原子を含有する配位子が2価遷移金属イオンに配位した錯カチオンと、過塩素酸イオンおよび四フッ化ホウ酸イオンの混合カウンターアニオンとからなる。温度インジケータは、遷移金属錯塩化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度の上昇や下降の途中の特定温度を可逆的または不可逆的な変色によって表示する温度インジケータの原料として用いられるサーモクロミズム性の遷移金属錯塩化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
浴槽、機械、設備、定温保存品の温度や、人や家畜の体温を検知して管理するために、特定の温度で変色する呈色性有機化合物やサーモクロミズム性物質を含む温度インジケータが、汎用されている。
【0003】
呈色性有機化合物として、特許文献1に電子供与性の呈色性有機化合物と電子受容性の有機化合物とを含むインジケータが記載されている。一般に有機化合物は光によって分解し易いため、それを含むインジケータは、耐久性特に耐光性が不十分である。
【0004】
一方、サーモクロミズム性物質としてハロゲン化水銀錯体が、古くから使用されていたが、水銀に対する人体安全性対策や環境保護対策の観点から、忌避されるようになっている。
【0005】
水銀を含まないサーモクロミズム性物質として、非特許文献1および2に、遷移金属イオンへ配位子が配位した錯カチオンと、単一のカウンターアニオンとの錯塩化合物が、記載されている。
【0006】
その内の代表的なサーモクロミズム性物質であるビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)四フッ化ホウ酸塩の昇温時の変色温度は約20℃であり、ビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩の昇温時の変色温度は約45℃である。
【0007】
最もニーズがある温度インジケータの温度域は、丁度その間の20〜45℃の生活環境温度である。とりわけ35〜40℃付近の人や家畜の体温、38〜42℃付近の浴槽の湯温、20〜30℃付近の室温、20〜45℃付近で定温管理すべき製品温度等を検知するものが最も求められている。錯塩化合物は化学構造に応じた固有の変色温度を有するから、それを含む温度インジケータを用いても、個体ごとに微妙に異なる平熱、人によって微妙に好みが異なる湯温や室温、製品ごとに異なる最適温度を、個別に検知することができない。変色温度が僅かに異なる錯塩化合物を試行錯誤により調製するのは、面倒である。
【0008】
【特許文献1】特開平5−32045号公報
【非特許文献1】コオーディネーション ケミストリー レビューズ(Coordination Chemistry Reviews)、(オランダ)、1982年、第47巻、p.125−164
【非特許文献2】インオーガニック ケミストリー(Inorganic Chemistry)、(米国)、1978年、第17巻、第9号、p.2498−2502
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、有害金属を含まず、簡便に製造でき、温度の上昇または下降途中の特定の温度を可逆的または不可逆的で明瞭な変色によって表示できるサーモクロミズム性を示す遷移金属錯塩化合物を提供することを目的とする。また、それを含有し、微妙な変色温度の調整が可能な温度インジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の遷移金属錯塩化合物は、二つの配位性窒素原子を含有する配位子が2価遷移金属イオンに配位した錯カチオンと、過塩素酸イオンおよび四フッ化ホウ酸イオンの混合カウンターアニオンとからなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の遷移金属錯塩化合物は、請求項1に記載されたもので、前記配位子が、エチレンジアミン骨格含有配位子、またはトリメチレンジアミン骨格含有配位子であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の遷移金属錯塩化合物は、請求項1に記載されたもので、前記配位子が、前記二つの配位性窒素原子の少なくとも一つを含む複素環を有していることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の遷移金属錯塩化合物は、請求項1に記載されたもので、下記化学式(1)
【化1】

(式(1)中、Mは、2価で、ニッケルイオン、または銅イオン;R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、およびR12は、同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4で直鎖状、分岐鎖状、または環状のアルキル基、およびアラルキル基の何れかの基、またはRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、R10とR11、R11とR12、およびRとR12の少なくとも何れかの間が繋がって複素環を形成する基;m1およびm2は、同一または異なり、1〜2の数;nは0.1〜1.9の数)
で表されることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の遷移金属錯塩化合物は、請求項4に記載されたもので、前記複素環がピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環、ピペラジン環、ジアザヘプタン環、ジアザオクタン環、またはピリジン環であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の示温材は、請求項1〜5の何れかの遷移金属錯塩化合物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の遷移金属錯塩化合物は、特定の温度を可逆的または不可逆的で明瞭な変色によって表示できる。しかも水銀のような有害金属を含まないから安全であるうえ、耐久性に優れている。この遷移金属錯塩化合物の混合カウンターアニオンの組成比を調整するだけで、変色温度を自在に調整することができる。遷移金属化合物は、安価でかつ簡便に、製造できる。
【0017】
混合カウンターアニオンの組成比を適度に調整した遷移金属錯塩化合物を含有する温度インジケータは、所望温度域の任意温度で変色して、温度を表示する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
本発明の遷移金属錯塩化合物の一例は、前記化学式(1)で表されるものである。
【0020】
この遷移金属錯塩化合物は、過塩素酸遷移金属塩と四フッ化ホウ酸遷移金属塩とを適当な比で混合した遷移金属含有の混合カウンターアニオン用溶液を、配位子含有溶液に滴下することにより製造される。
【0021】
遷移金属は、配位子が配位して錯塩化合物の中心金属を形成するもので、2価のニッケル、2価の銅であることが好ましい。
【0022】
配位子は、複素環を有しないエチレンジアミン骨格含有配位子として、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−プロピルエチレンジアミン、N−イソプロピルエチレンジアミン、N−tert-ブチルエチレンジアミン、N−ベンジルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジプロピルエチレンジアミン、N,N−ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N−ジtert-ブチルエチレンジアミン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン、N,N'−ジメチルエチレンジアミン、N,N'−ジエチルエチレンジアミン、N,N'−ジプロピルエチレンジアミン、N,N'−ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N'−ジtert-ブチルエチレンジアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミン、N,N−エチルメチルエチレンジアミン、N,N−メチルプロピルエチレンジアミン、N,N−イソプロピルメチルエチレンジアミン、N,N−tert-ブチルメチルエチレンジアミン、N,N−ベンジルメチルエチレンジアミン、N,N−エチルプロピルエチレンジアミン、N,N−エチルイソプロピルエチレンジアミン、N,N−tert-ブチルエチルエチレンジアミン、N,N−ベンジルエチルエチレンジアミン、N,N−イソプロピルプロピルエチレンジアミン、N,N−tert-ブチルプロピルエチレンジアミン、N,N−ベンジルプロピルエチレンジアミン、N,N−tert-ブチルイソプロピルエチレンジアミン、N,N−ベンジルイソプロピルエチレンジアミン、N,N−ベンジルtert-ブチルエチレンジアミン、N,N'−エチルメチルエチレンジアミン、N,N'−メチルプロピルエチレンジアミン、N,N'−イソプロピルメチルエチレンジアミン、N,N'−tert-ブチルメチルエチレンジアミン、N,N'−ベンジルメチルエチレンジアミン、N,N'−エチルプロピルエチレンジアミン、N,N'−エチルイソプロピルエチレンジアミン、N,N'−tert-ブチルエチルエチレンジアミン、N,N'−ベンジルエチルエチレンジアミン、N,N'−イソプロピルプロピルエチレンジアミン、N,N'−tert-ブチルプロピルエチレンジアミン、N,N'−ベンジルプロピルエチレンジアミン、N,N'−tert-ブチルイソプロピルエチレンジアミン、N,N'−ベンジルイソプロピルエチレンジアミン、N,N'− ベンジルtert-ブチルエチレンジアミンが挙げられる。
【0023】
また、配位子は、複素環を有するエチレンジアミン骨格含有配位子として、1−(2−アミノエチル)ピペリジン、1−(N'−メチル−2−アミノエチル)ピペリジン、1−(N'−エチル−2−アミノエチル)ピペリジン、1−(N'−プロピル−2−アミノエチル)ピペリジン、1−(N'−イソプロピル−2−アミノエチル)ピペリジン、1−(N'−tert-ブチル−2−アミノエチル)ピペリジン、1−(N'−ベンジル−2−アミノエチル)ピペリジン、2−(アミノメチル)ピペリジン、2−(N'−メチル−アミノメチル)ピペリジン、2−(N'−エチル−アミノメチル)ピペリジン、2−(N'−プロピル−アミノメチル)ピペリジン、2−(N'−イソプロピル−アミノメチル)ピペリジン、2−(N'−tert-ブチル−アミノメチル)ピペリジン、2−(N'−ベンジル−アミノメチル)ピペリジン、2−(アミノメチル)−1−メチルピペリジン、2−(アミノメチル)−1−エチルピペリジン、2−(アミノメチル)−1−プロピルピペリジン、2−(アミノメチル)−1−イソプロピルピペリジン、2−(アミノメチル)−1−tert-ブチルピペリジン、2−(アミノメチル)−1−ベンジルピペリジン、2−(アミノメチル)ピロリジン、2−(アミノメチル)−1−メチルピロリジン、2−(アミノメチル)−1−エチルピロリジン、2−(アミノメチル)−1−プロピルピロリジン、2−(アミノメチル)−1−イソプロピルピロリジン、2−(アミノメチル)−1−tert-ブチルピロリジン、2−(アミノメチル)−1−ベンジルピロリジン、2−(N'−メチル−アミノメチル)ピロリジン、2−(N'−エチル−アミノメチル)ピロリジン、2−(N'−プロピル−アミノメチル)ピロリジン、2−(N'−イソプロピル−アミノメチル)ピロリジン、2−(N'−tert-ブチル−アミノメチル)ピロリジン、2−(N'−ベンジル−アミノメチル)ピロリジン、4−(2−アミノエチル)モルフォリン、4−(N'−メチル−2−アミノエチル)モルフォリン、4−(N'−エチル−2−アミノエチル)モルフォリン、4−(N'−プロピル−2−アミノエチル)モルフォリン、4−(N'−イソプロピル−2−アミノエチル)モルフォリン、4−(N'−tert-ブチル−2−アミノエチル)モルフォリン、4−(N'−ベンジル−2−アミノエチル)モルフォリン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、1−(N'−メチル−2−アミノエチル)ピペラジン、1−(N'−エチル−2−アミノエチル)ピペラジン、1−(N'−プロピル−2−アミノエチル)ピペラジン、1−(N'−イソプロピル−2−アミノエチル)ピペラジン、1−(N'−tert-ブチル−2−アミノエチル)ピペラジン、1−(N'−ベンジル−2−アミノエチル)ピペラジン、2−アミノメチルピリジン、2−(N'−メチル−アミノメチル)ピリジン、2−(N'−エチル−アミノメチル)ピリジン、2−(N'−プロピル−アミノメチル)ピリジン、2−(N'−イソプロピル−アミノメチル)ピリジン、2−(N'−tert-ブチル−アミノメチル)ピリジン、2−(N'−ベンジル−アミノメチル)ピリジン、ホモピペラジン、N−メチルホモピペラジン、N−エチルホモピペラジン、N−プロピルホモピペラジン、N−イソプロピルホモピペラジン、N−tert-ブチルホモピペラジン、N−ベンジルホモピペラジンが挙げられる。
【0024】
また、配位子は、トリメチレンジアミン骨格含有配位子として、1,5−ジアザシクロオクタン、1−メチル−1,5−ジアザシクロオクタン、1−エチル−1,5−ジアザシクロオクタン、1−プロピル−1,5−ジアザシクロオクタン、1−イソプロピル−1,5−ジアザシクロオクタン、1−tert-ブチル−1,5−ジアザシクロオクタン、1−ベンジル−1,5−ジアザシクロオクタンが挙げられる。
【0025】
温度インジケータは、例えば、遷移金属錯塩化合物のそのままであってもよく、カプセルや容器に封入したものであってもよい。また、遷移金属錯塩化合物やそれを含有するマイクロカプセルがインキビヒクルや溶媒に分散されたインキで基材上に印刷されたものであってもよい。
【0026】
本発明を適用するもので過塩素酸イオンおよび四フッ化ホウ酸イオンの混合カウンターアニオンを有する遷移金属錯塩化合物の試作の例を、実施例1〜3に示す。また、本発明を適用外のものであって過塩素酸イオンまたは四フッ化ホウ酸イオンの単一カウンターアニオンを有する遷移金属錯塩化合物の試作の例を、比較例1〜2に示す。
【0027】
(実施例1)
四フッ化ホウ酸(II)六水和物3.45g(10mmol)(AlfaAesor社製)と、過塩素酸銅(II)水和物3.70g(10mmol)(ALDRICH社製)とを、ガラス容器内で、エタノール50mlに溶解させて、遷移金属含有の混合カウンターアニオン用溶液を調製した。
【0028】
N,N−ジエチルエチレンジアミン4.64g(40mmol)(和光純薬工業株式会社製)を、別なガラス容器内で、エタノール50mlに加えて、配位子含有溶液を調製した。
【0029】
攪拌させながらこの配位子含有溶液に、遷移金属含有の混合カウンターアニオン用溶液を、徐々に加えた。その後、この混合溶液を、5〜50重量%濃縮し、冷却すると、結晶が析出した。生成した結晶を、吸引ろ過によりろ別し、ジエチルエーテルで洗浄した。
【0030】
得られた結晶を、シリカゲル入りデシケーター中で乾燥し、遷移金属錯塩化合物としてビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)・1四フッ化ホウ酸イオン・1過塩素酸イオン塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][BF4・ClO4])の結晶を得た。
【0031】
この結晶を赤外分光計(FT-IR: KBr錠剤法/測定装置:PerkinElmerSpectrum2000)により測定した分光学的データは、カウンターアニオンBF4に起因する522cm-1付近およびClO4に起因する624cm-1付近に吸収ピークが存在することから、この構造を支持する。
【0032】
この結晶を−15℃まで冷却してから、徐々に加熱すると、30℃付近で赤色から黒紫色に変色するサーモクロミズムを示した。また、黒紫色に変色した結晶を、再度、−15℃まで冷却すると、20℃付近で赤色に復色し、可逆的な変色を示した。
【0033】
(実施例2)
四フッ化ホウ酸(II)六水和物を5.18g(15mmol)、過塩素酸銅(II)水和物を1.85g(5mmol)用いたこと以外は、実施例1と同様にして遷移金属錯塩化合物を製造したところ、ビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)・1.5四フッ化ホウ酸イオン・0.5過塩素酸イオン塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][1.5BF4・0.5ClO4])の結晶を得た。実施例1と同様に測定した赤外分光計による分光学的データは、BF4に起因する522cm-1付近およびClO4に起因する624cm-1付近に吸収ピークが存在することから、この構造を支持する。
【0034】
(実施例3)
四フッ化ホウ酸(II)六水和物を1.73g(5mmol)、過塩素酸銅(II)水和物を5.56g(15mmol)用いたこと以外は、実施例1と同様にして遷移金属錯塩化合物を製造したところ、ビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)・0.5四フッ化ホウ酸イオン・1.5過塩素酸イオン塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][0.5BF4・1.5ClO4])の結晶を得た。実施例1と同様に測定した赤外分光計による分光学的データは、BF4に起因する522cm-1付近およびClO4に起因する624cm-1付近に吸収ピークが存在することから、この構造を支持する。
【0035】
(比較例1)
四フッ化ホウ酸(II)六水和物を6.90g(20mmol)用い、過塩素酸銅(II)水和物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして遷移金属錯塩化合物を製造したところ、ビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)・2四フッ化ホウ酸塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][2BF4])の結晶を得た。昇温時の変色温度は約20℃である。
【0036】
(比較例2)
四フッ化ホウ酸(II)六水和物を用いず、過塩素酸銅(II)水和物を7.40g(20mmol)用いたこと以外は、実施例1と同様にして遷移金属錯塩化合物を製造したところ、ビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)・2過塩素酸塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][2ClO4])の結晶を得た。昇温時の変色温度は約45℃である。
【0037】
実施例1〜3、および比較例1〜2で得た遷移金属錯塩化合物の各結晶の示差熱走査熱量分析を行なった。
【0038】
測定には示差熱走査熱量分析装置(PERKIN ELMER製DifferentialScanningCalorimeter Pyris1)を用いた。
【0039】
−40℃〜80℃の間で、昇温速度10℃/分で温度上昇させたときの示差熱走査熱量分析を図1上段に示す。なお、横軸はサーモクロミズム温度を示し、各ピーク位置は各結晶のサーモクロミズム温度である。縦軸は熱流(Heat Flow Endo Up)を示し、各ピークの形状は、縦軸方向での縮尺を調整して示してある。
【0040】
図1から明らかなように、単一のカウンターアニオンである比較例1のビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)四フッ化ホウ酸塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][BF42)のピークが32℃付近であり、比較例2のビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][ClO42)のピークが52℃付近にあった。それらの間に、混合カウンターアニオンである実施例1〜3のビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)・四フッ化ホウ酸イオン・過塩素酸イオン塩の各ピークとして、[Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][1.5BF4・0.5ClO4]が約37℃、[Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][BF4・ClO4]が約42℃、[Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][0.5BF4・1.5ClO4]が約47℃の順で認められた。このことは、変色温度も同様な傾向を示すことを表している。
【0041】
一方、80℃〜−40℃の間で、降温速度10℃/分で温度降下させたときの示差熱走査熱量分析を図1下段に示す。図1から明らかなように、単一のカウンターアニオンである比較例1のビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)四フッ化ホウ酸塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][BF42)のピークが16℃付近であり、比較例2のビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩([Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][ClO42)のピークが42℃付近にあった。それらの間に、混合カウンターアニオンである実施例1〜3のビス(N,N−ジエチルエチレンジアミン)銅(II)・四フッ化ホウ酸イオン・過塩素酸イオン塩の各ピークとして、[Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][1.5BF4・0.5ClO4]が約20℃、[Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][BF4・ClO4]が約27℃、[Cu〔(C2H5)2NC2H4NH22][0.5BF4・1.5ClO4]が約37℃の順で認められた。このことは、変色温度も同様な傾向を示すことを表している。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の遷移金属錯塩化合物は、温度の上昇や下降の途中の特定温度を変色によって表示するため、温度インジケータの原料として有用である。温度インジケータは、浴槽の湯温管理、機械、設備の温度管理、配電設備の過熱事故防止、定温保存品の流通温度管理、体温管理、サーモクロミズムの教育用実験器材として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明を適用する遷移金属錯塩化合物および本発明を適用外の遷移金属錯塩化合物の示差熱走査熱量分析の熱分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの配位性窒素原子を含有する配位子が2価遷移金属イオンに配位した錯カチオンと、過塩素酸イオンおよび四フッ化ホウ酸イオンの混合カウンターアニオンとからなることを特徴とする遷移金属錯塩化合物。
【請求項2】
前記配位子が、エチレンジアミン骨格含有配位子、またはトリメチレンジアミン骨格含有配位子であることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属錯塩化合物。
【請求項3】
前記配位子が、前記二つの配位性窒素原子の少なくとも一つを含む複素環を有していることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属錯塩化合物。
【請求項4】
下記化学式(1)
【化1】

(式(1)中、Mは、2価で、ニッケルイオン、または銅イオン;R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、およびR12は、同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4で直鎖状、分岐鎖状、または環状のアルキル基、およびアラルキル基の何れかの基、またはRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、R10とR11、R11とR12、およびRとR12の少なくとも何れかの間が繋がって複素環を形成する基;m1およびm2は、同一または異なり、1〜2の数;nは0.1〜1.9の数)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属錯塩化合物。
【請求項5】
前記複素環がピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環、ピペラジン環、ジアザヘプタン環、ジアザオクタン環、またはピリジン環であることを特徴とする請求項4に記載の遷移金属錯塩化合物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの遷移金属錯塩化合物を含有することを特徴とする温度インジケータ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−169215(P2007−169215A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369391(P2005−369391)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(305013910)国立大学法人お茶の水女子大学 (32)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】