説明

シアノ架橋金属錯体の微細加工方法およびシアノ架橋金属錯体の微細加工装置

【課題】簡易な方法でシアノ架橋金属錯体の微細加工を行うこと。
【解決手段】基板表面に形成されたシアノ架橋金属錯体製の試料(4)と、前記試料(4)を支持して移動させる試料移動装置(2b)と、前記試料(4)に対して、パルス幅がフェムト秒のレーザー光であるフェムト秒レーザ光を、予め設定された閾値以上のエネルギー強度で照射するレーザー光源(2c)と、前記試料移動装置(2b)を制御して、前記試料(4)の被加工位置(6)を、前記フェムト秒レーザー光照射位置(6)に移動させる加工位置制御手段(C2)、を有する制御装置(3)と、を備えたシアノ架橋金属錯体の微細加工装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に形成されたシアノ架橋金属錯体の微細加工方法および微細加工装置に関し、特に、パルス幅がフェムト秒(10−15秒)オーダのフェムト秒レーザー光を利用したシアノ架橋金属錯体の微細加工方法および微細加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、シアノ架橋金属錯体は、電池の電極材料や、電圧を印加すると変色するエレクトロクロミック材料、ガスを検出するガスセンサー材料、水素吸蔵材料として期待されており、精力的な研究が成されている。この研究の結果、シアノ架橋金属錯体の均質な膜が得られている。前記シアノ架橋金属錯体の膜に、製膜後の簡単な処理で、所定のパターンに沿った形状に加工するパターンニング加工等の微細加工ができれば、その応用範囲は極めて広く、このような技術が望まれている。
一般的な半導体回路における微細加工技術として、化学薬品を使用して表面を溶かして所定のパターンに加工を行う湿式エッチング(例えば、特開平11−54476号公報等参照)や、基板上に形成された金属膜に対してレーザー光を照射して、金属を溶かして所定のパターンに加工を行うレーザアブレーション技術(例えば、特開2005−212013号公報、特開2003−211400号公報等参照)等のエッチング技術が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−54476号公報(要約書)
【特許文献2】特開2005−212013号公報
【特許文献3】特開2003−211400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(従来技術の問題点)
しかしながら、前記湿式エッチング技術では、化学薬品を使用するため、試料が濡れたり、変質したりする恐れがあると共に、大規模な施設が必要となり、廃液処理の問題も発生し、環境に対する配慮が問題となる。
レーザアブレーション技術は、金属材料に対して、数百パルスのレーザー光を照射して、金属を除去する技術であるが、シアノ架橋金属錯体に対して試みられたことはこれまでなかった。これは、シアノ架橋金属錯体は、光による物性(変色特性や磁気特性等)の変化が大きい材料であることが知られているためであり、レーザー光のような光を照射すると、物性が変化してしまうものと当業者の間では考えられていたためである。
なお、光を照射すると物性が変化するとの知見に基づき、本発明者は、先に、室温で光照射を行うことでシアノ架橋金属錯体中の結晶水を脱離させて物性を変化させる発明について出願を行っている(特願2007−191255号)。
【0005】
本発明者は、さらに鋭意研究を行い、シアノ架橋金属錯体の物性を効率的に変化させようとしたところ、想定していなかった結果であるシアノ架橋金属錯体の物性を変化させることなく、シアノ架橋金属錯体を部分的に除去可能な本発明をするに至ったものである。
前述の事情に鑑み、本発明は、簡易な方法でシアノ架橋金属錯体の微細加工を行うことを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明のシアノ架橋金属錯体の微細加工方法は、
基板表面に形成されたシアノ架橋金属錯体に、予め設定された閾値以上のエネルギー強度のパルスレーザー光を照射して、前記シアノ架橋金属錯体を除去することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシアノ架橋金属錯体の微細加工方法において、
Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0以上2以下の数、yを0より大きく1以下の数、nを0より大きく10以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)・nHOで表される前記シアノ架橋金属錯体、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のシアノ架橋金属錯体の微細加工方法において、
パルス幅がフェムト秒のレーザー光であるフェムト秒レーザー光により構成された前記パルスレーザー光を使用することを特徴とする。
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項4に記載の発明のシアノ架橋金属錯体の微細加工装置は、
基板表面に形成されたシアノ架橋金属錯体製の試料と、
前記試料を支持して移動させる試料移動装置と、
前記試料に対して、パルス幅がフェムト秒のレーザー光であるフェムト秒レーザー光を、予め設定された閾値以上のエネルギー強度で照射するレーザー光源と、
前記試料移動装置を制御して、前記試料の被加工位置を、前記フェムト秒レーザー光照射位置に移動させる加工位置制御手段、を有する制御装置と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1、4に記載の発明によれば、簡易な方法でシアノ架橋金属錯体の微細加工を行うことができる。
請求項2に記載の発明によれば、化学式AM[L(CN)・nHOで表される前記シアノ架橋金属錯体について、パルスレーザー光が照射された部分のみを除去する微細加工を行うことができる。
請求項3に記載の発明によれば、1パルス分の照射で、照射部分のシアノ架橋金属錯体を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の実施例1の微細加工装置の全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1の微細加工装置1は、加工装置本体2と、前記加工装置本体2に電気的に接続された制御装置3とを有する。前記加工装置本体2は、ケース2aと、前記ケース2a内部に支持された試料移動装置2bと、前記試料移動装置2bの上方に配置されたレーザー光源装置2cとを有する。前記試料移動装置2bは、上下方向(Z軸方向)に移動可能なZステージSTzと、ZステージSTz上で左右方向(Y軸方向)に移動可能なYステージSTyと、YステージSTy上で前後方向(X軸方向)に移動可能なXステージSTxと、XステージSTx上でXY平面内で回転可能な回転ステージSTrとを有する。
【0013】
前記回転ステージSTr上には、結晶水を含有するシアノ架橋金属錯体製の試料4が支持されている。なお、実施例1では、試料4は、導電性ガラス(ITO:Indium Tin Oxide)の基板表面に、厚さ1μm以下のシアノ架橋金属錯体の薄膜を形成したものを使用している。実施例1の試料4では、シアノ架橋金属錯体は、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、nを0より大きく10以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)・nHOで表される。実施例1では、前記Aのアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、前記Mの遷移金属としては、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、V、Cu、Znが挙げられる。また、Lの遷移金属としては、Fe、Cr、V、Mn、Tiが挙げられる。また、x、y、nは、それぞれ、遷移金属Mの1モルに対するアルカリ金属A、L(CN)、結晶水HOの割合(モル)を示し、シアノ架橋金属錯体では、製法や構造により、xが0〜2、yが0〜1、nが0〜10の値を取りうる。
なお、前記シアノ架橋金属錯体の膜は、スピンキャスト法(スピンコート法)や電解析出法等の従来公知の製膜法で作製することができる。
【0014】
実施例1では、前記レーザー光源装置2cは、パルス状の波形のパルスレーザー光を照射するパルスレーザー光源装置により構成されており、焦点位置6は固定されている。また、実施例1のレーザー光源装置2cは、パルス幅がピコ秒(10−12秒)よりも小さい1〜100フェムト秒(10−15秒)オーダのパルスレーザー光を照射するレーザー光源装置を使用している。このようなレーザー光源装置として、例えば、チタン・サファイアレーザー光源装置を使用することが可能であるが、チタン・サファイアレーザー光源装置に限定されず、フェムト秒オーダのパルスレーザー光を照射可能な任意のレーザー光源装置であれば任意の光源装置を使用可能である。
【0015】
図2は、実施例1の制御装置3の制御部の機能ブロック図である。
実施例1の制御装置3は、パーソナルコンピュータにより構成されており、コンピュータ本体H1と、画像を表示するディスプレイH2と、キーボードH3およびマウスH4からなる入力装置H3,H4とを有する。
図2において、制御装置3の記憶装置には、微細加工プログラムAP1が記憶されており、微細加工プログラムAP1は、機能手段(プログラムモジュール)C1,C2を有する。
光源制御手段C1は、前記レーザー光源2cを制御して、パルスレーザー光の照射を制御する。なお、実施例1の光源制御手段C1は、パルスレーザー光を1ショットずつ照射可能に制御する。
加工位置制御手段C2は、XステージSTxの位置を制御するXステージ制御手段C2aと、YステージSTyの位置を制御するYステージ制御手段C2bと、ZステージSTzの位置を制御するZステージ制御手段C2cと、回転ステージSTrの位置を制御する回転ステージ制御手段C2dと、を有し、試料位置移動装置2bの位置を制御して、試料4の位置を移動させる。
【0016】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の微細加工装置1では、試料移動装置2bに試料4が支持された状態で、前記試料4の位置の移動により、パルスレーザー光の焦点位置6に試料4の加工対象の位置である被加工位置を一致させる。この状態で、パルス幅がフェムト秒であり且つ予め設定された閾値以上のエネルギー強度のパルスレーザー光が1ショット(1パルス分)、焦点位置6である被加工位置に照射されることにより、被加工位置6のシアノ架橋金属錯体が除去される。このとき、除去された部分の周囲、近傍のシアノ架橋金属錯体は、物性が変化することなく除去が行われる。そして、試料移動装置2bを制御して、シアノ架橋金属錯体を除去したい位置を、焦点位置6に順次移動させることで、設定された配列、パターン(模様)に微細加工を行うことができる。
【0017】
(実験例)
次に、シアノ架橋金属錯体へのフェムト秒パルスレーザー光の照射により微細加工が可能であることを確認するための実験を行った。
実験例1では、照射されるフェムト秒パルスレーザー光は、波長が400nm(3.10[eV]、チタン・サファイアレーザーの2次高調波)および800nm(1.55[eV]、チタン・サファイアレーザーの基本波)のものを使用して、励起光強度(エネルギー密度)[mJ/cm]を変化させた。
シアノ架橋金属錯体の膜としては、電解析出法で析出後に酸化処理を行って作製したNa0.34Co[Fe(CN)0.72・3.9H0(以下、「膜A」)と、膜Aとは異なる条件で作製したNa0.74Co[Fe(CN)0.72・3.9H0(以下、「膜B」)とを使用した。
【0018】
(実験例1)
図3は実験例1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルの測定結果の説明図であり、横軸に波数をとり、縦軸にスペクトル強度を取ったグラフである。
実験例1では、膜Aを使用して、シアノ架橋金属錯体の膜が形成された試料に対して、フェムト秒パルスレーザー光を照射して、赤外吸収スペクトルを測定した。レーザー光の強度は、照射前(=0mJ/cm)、67mJ/cm、80mJ/cm、86mJ/cm、として実験を行った。実験結果を図3に示す。なお、図3では、見やすさのために、スペクトルは縦軸方向にずらして記載する。
【0019】
図3において、測定されたシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルでは、2090[cm−1]と2160[cm−1]が、Fe2+とFe3+のシアノ架橋金属錯体のCNの伸縮振動モードに対応しており、スペクトル強度が膜厚に対応している。また、波数3400[cm−1]のピークが水(結晶水)に対応している。
そして、図3のグラフからわかるように、波長800nmのフェムト秒パルスレーザー光を使用した場合、86mJ/cm以下のレーザー光を照射してもスペクトル形状は変化しない、すなわち、Fe2+とFe3+の割合や結晶水の脱離等が発生しておらず、シアノ架橋金属錯体の物性が変化していないことが確認された。
【0020】
(実験例2)
図4は実験例2の実験結果の説明図であり、横軸にエネルギー強度をとり、縦軸に正規化されたピークのスペクトル強度を取ったグラフである。
実験例2では、膜Aを使用して、波長およびエネルギー強度を変化させたフェムト秒パルスレーザー光を、1ショット照射した場合に得られた赤外吸収スペクトルにおいて、2090[cm−1]と2160[cm−1]のスペクトル強度について、レーザー光照射前のスペクトル強度を基準として正規化した値を測定した。測定結果を図4に示す。
【0021】
図4において、波長を400nmに設定した場合、レーザー光照射前(=0[mJ/cm])と、101[mJ/cm]、112[mJ/cm]では、2090[cm−1]と2160[cm−1]の両方共に、スペクトル強度に変化がなかった。すなわち、レーザー光が照射されても、シアノ架橋金属錯体の膜Aに物性に変化がなかった。
一方、レーザー光のエネルギー強度を124[mJ/cm]と139[mJ/cm]にすると急激に減少した。すなわち、照射位置6におけるシアノ架橋金属錯体の膜厚が減少し、除去されたことが確認された。
【0022】
図5はパルスレーザー光のエネルギーの分布の説明図である。
また、図4の実験結果をみると、膜Aについては、124[mJ/cm]、139[mJ/cm]のグラフの測定値の傾きから、波長が400nmの場合、除去されるか否かの閾値は112[mJ/cm]になった。
したがって、フェムト秒パルスレーザー光は、図5に示すようなエネルギーの分布になっており、エネルギー強度が、閾値である112[mJ/cm]よりも大きい部分では膜Aが除去され、112[mJ/cm]以下の部分では、物性が全く変化しないことが確認された。
【0023】
同様にして、波長を800nmに設定した場合、レーザー光照射前(=0[mJ/cm])と、67[mJ/cm]、73[mJ/cm]、80[mJ/cm]では、2090[cm−1]と2160[cm−1]の両方共に、スペクトル強度に変化がなかった。一方、レーザー光のエネルギー強度を86[mJ/cm]にすると急激に減少し、シアノ架橋金属錯体の除去が確認された。したがって、波長が800nmの場合、閾値は、83[mJ/cm]になった。
【0024】
(実験例3)
図6は実験例3の実験結果の説明図であり、横軸にエネルギー強度をとり、縦軸に正規化されたピークのスペクトル強度を取ったグラフである。
実験例3では、膜Bを使用して、波長およびエネルギー強度を変化させたフェムト秒パルスレーザー光を、1ショット照射した場合に得られた赤外吸収スペクトルにおいて、2090[cm−1]と2160[cm−1]のスペクトル強度について、レーザー光照射前のスペクトル強度を基準として正規化した値を測定した。測定結果を図6に示す。
【0025】
図6において、波長を400nmに設定した場合、レーザー光照射前(=0[mJ/cm])と、17[mJ/cm]、25[mJ/cm]、38[mJ/cm]、53[mJ/cm]、62[mJ/cm]、76[mJ/cm]、99[mJ/cm]、114[mJ/cm]では、2090[cm−1]と2160[cm−1]の両方共に、スペクトル強度に変化がなかった。すなわち、レーザー光が照射されても、シアノ架橋金属錯体の膜については、物性に変化がなかった。
【0026】
図7は実験例3において、131[mJ/cm]のフェムト秒パルスレーザー光を1ショット照射した前後の試料表面を赤外顕微鏡で観察した図であり、図7Aはレーザー光照射前の観察図、図7Bはレーザー光照射後の観察図である。
一方、レーザー光のエネルギー強度を131[mJ/cm]にすると急激に減少した。したがって、図7Bの楕円で囲まれた部分に示されるように、シアノ架橋金属錯体の膜Bが除去されたことが確認された。なお、図7Bにおけるシアノ架橋金属錯体の除去された部分が左右方向に長細いのは、レーザー光が斜めから照射されたためであり、除去された領域は40μm×160μm程度であった。
なお、図6の実験結果をみると、膜Bについては、レーザー光の波長が400nmの場合、除去されるか否かの閾値は123[mJ/cm]になった。
【0027】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H05)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、使用するレーザー光の波長やエネルギー等は、例示した数値に限定されず、適宜変更可能である。
【0028】
図8は本発明の変更例の説明図であり、図8Aはレーザー光照射前の断面図、図8Bは図8Aの膜に対してレーザー光が照射された後の断面図、図8Cは図8Bで除去された部分に成膜した状態の断面図である。
(H02)前記実施例において、基板表面に形成されたシアノ架橋金属錯体の膜に対してレーザー光を除去することで、基板表面にシアノ架橋金属錯体の配列、パターンを形成する構成を例示したが、この構成に限定されず、例えば、図8A、図8Bに示すように、レーザー光を照射して、シアノ架橋金属錯体の膜4aから配列に沿ってシアノ架橋金属錯体を除去した後に、除去した部分4bを埋めるように別の材料4c(例えば、化学的な組成が異なり、物性(色等)が異なるシアノ架橋金属錯体)を埋めるように成膜することで、シアノ架橋金属錯体を有する面内超構造の基板を作製可能である。
【0029】
(H03)前記実施例において、試料移動装置2bとして、4つのステージSTx、STy、STz、STrを設ける場合を例示したが、これに限定されず、加工の必要に応じて、ステージの数を増減することも可能である。例えば、ZステージSTzを省略したり、回転が必要ない場合には回転ステージSTrを省略することも可能である。
(H04)前記実施例において、レーザー光源2cに対して、試料移動装置2bを移動させることで被加工位置を移動させたが、これに限定されず、レーザー光源2cを移動させるように構成することも可能である。あるいは、試料4表面に、加工パターンに対応する電磁波透過部を有するマスクを配置し、マスクの上方からフェムト秒パルスレーザー光を照射するように構成することも可能である。
【0030】
(H05)前記実施例において、1つのレーザー光を照射して、パターン等を形成する構成を例示したが、この構成に限定されず、例えば、2つのレーザー光をずらして照射することで、光の干渉効果を利用して、等間隔に並んだマイクロワイヤー(直径がμmオーダまたはそれ以下の非常に細い線材)を作製することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
前述の本発明のシアノ架橋金属錯体の微細加工を行うことにより、例えば、膜状のシアノ架橋金属錯体についてエレクトロクロミック応答性を有する任意のパターンの表示基板を提供することができ、例えば、電場を印加すると加工時に残った部分が文字や絵として浮き上がり、電場の印加を停止すると文字や絵が消えるといったことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は本発明の実施例1の微細加工装置の全体説明図である。
【図2】図2は実施例1の制御装置3の制御部の機能ブロック図である。
【図3】図3は実験例1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルの測定結果の説明図であり、横軸に波数をとり、縦軸にスペクトル強度を取ったグラフである。
【図4】図4は実験例2の実験結果の説明図であり、横軸にエネルギー強度をとり、縦軸に正規化されたピークのスペクトル強度を取ったグラフである。
【図5】図5はパルスレーザー光のエネルギーの分布の説明図である。
【図6】図6は実験例3の実験結果の説明図であり、横軸にエネルギー強度をとり、縦軸に正規化されたピークのスペクトル強度を取ったグラフである。
【図7】図7は実験例3において、350[mJ/cm]のフェムト秒パルスレーザー光を1ショット照射した前後の試料表面を赤外顕微鏡で観察した図であり、図7Aはレーザー光照射前の観察図、図7Bはレーザー光照射後の観察図である。
【図8】図8は本発明の変更例の説明図であり、図8Aはレーザー光照射前の断面図、図8Bは図8Aの膜に対してレーザー光が照射された後の断面図、図8Cは図8Bで除去された部分に成膜した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…微細加工装置、
2b…試料移動装置、
2c…レーザー光源、
3…制御装置、
4…試料、
6…被加工位置,レーザー光照射位置、
C2…加工位置制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成されたシアノ架橋金属錯体に、予め設定された閾値以上のエネルギー強度のパルスレーザー光を照射して、前記シアノ架橋金属錯体を除去することを特徴とするシアノ架橋金属錯体の微細加工方法。
【請求項2】
Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、nを0より大きく10以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)・nHOで表される前記シアノ架橋金属錯体、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のシアノ架橋金属錯体の微細加工方法。
【請求項3】
パルス幅がフェムト秒のレーザー光であるフェムト秒レーザー光により構成された前記パルスレーザー光を使用することを特徴とする請求項1または2に記載のシアノ架橋金属錯体の微細加工方法。
【請求項4】
基板表面に形成されたシアノ架橋金属錯体製の試料と、
前記試料を支持して移動させる試料移動装置と、
前記試料に対して、予め設定された閾値以上のエネルギー強度のパルスレーザー光を照射するレーザー光源と、
前記試料移動装置を制御して、前記試料の被加工位置を、前記パルスレーザー光照射位置に移動させる加工位置制御手段、を有する制御装置と、
を備えたことを特徴とするシアノ架橋金属錯体の微細加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図3】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−105028(P2010−105028A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280711(P2008−280711)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(599112582)財団法人高輝度光科学研究センター (35)
【Fターム(参考)】