説明

シェルアンドチューブ型熱交換器

【課題】 チタン材料を用いて製作しても、シェル内断面において単位面積当たりのチューブの本数を増加することを可能とする。
【解決手段】 第一熱交換流体(51)を流すチューブ(40)と、そのチューブ(40)を収納して前記チューブ(40)の外側を流れる第二熱交換流体(52)を流すシェル(20)と、そのシェル(20)の内部において断面の半分を交互に塞ぐためにシェル(20)の長手方向へ適宜間隔を介して配置した複数のバッフル(41)と、チューブ(40)の両端を保持する管板(44)と、を備える。バッフル(41)は、チューブ(40)の長手方向と同じ方向に延伸したロッド部材(47)へ無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定する。管板(44)は、ロッド部材(47)およびチューブ(40)を無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェルアンドチューブ型熱交換器に関する。特に、溶接困難な細管伝熱管を使用して製作されても、狭い空間内に収納するチューブの本数を多く配置することができ、効率よく熱交換可能なシェルアンドチューブ型熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1および特許文献2に示すように、第一熱交換流体を流す複数のチューブと、その複数のチューブを包含して前記複数のチューブの外側を通過して第二熱交換流体を流すシェルと、を備えて構成されるシェルアンドチューブ型熱交換器がある。
前記シェルの内部には、複数のバッフル板が存在する。そのバッフル板は、シェルの長手方向に対して垂直な断面のほぼ半円部分を塞ぐような形状をなし、複数のバッフル板は半円部分を交互に塞ぐように、シェルの長手方向へ適宜の間隔を介して配置および固定されている。
【0003】
したがって、第一熱交換流体は、複数の各チューブ内を流れる。一方、第二熱交換流体は、シェル内において複数のバッフル板によってジグザグに、複数のチューブの間を通過して流れる。このとき、第一熱交換流体と第二熱交換流体の間で熱交換される。
【0004】
上述したシェルアンドチューブ型熱交換器は、チューブの材質が炭素鋼、ステンレス、チタン、アルミニウム、銅などの合金からなる金属製である。また、複数本のチューブ、複数のバッフル板、シェル等は、例えば溶接やロウ付け等で組み立てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−61071号公報
【特許文献2】特開平8−200984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シェル・アンド・チューブ熱交換器では小型化と熱交換効率向上のため伝熱管(チューブ)に直径が細く薄肉の細管を用いる事がある。多数の細管伝熱管を使用する事で全体寸法を維持したまま伝熱面積の増加と熱伝達率の向上を達成することができるからである。
一方、多数の細管を用いる事で問題も発生する。第一に溶接またはロウ付箇所の増加による製造コストの上昇であり、第二に、薄肉細管の腐食しろが少ない事による腐食耐性の減少である。
また、一次側熱交換流体および二次側熱交換流体が純水または超純水の場合は、第三の問題点として、伝熱管やシェル材表面、さらにロウ付け用ロウ材から金属イオンが溶出して純水度を低下させてしまう。特に、ロウ材からの金属イオン溶出が大きい。
【0007】
そこで上記の第二、第三の問題点を解決するためチタン材でシェルと伝熱管を製作して溶接する方法が取られてきた。
チタン製伝熱管は、腐食や金属イオン溶出による純水純度の悪化に対する問題が解消できる。しかし加工や溶接が困難な金属材質であり、多数の細管を溶接などで組み立てることは困難で工数と加工時間を要するため、それが価格上昇の原因となっていた。したがって、小さい口径のシェル内ではチューブの本数を増やすことが難しく、熱交換効率を向上することが難しかった。

【0008】
本発明が解決しようとする課題は、純水または超純水の純水度を低下させないため、また腐食を防止するために、チタン材料を用いて製作しても、シェル内断面において単位面積当たりのチューブの本数を増加することを可能とする。 特に、小さい口径のシェルにおいても熱交換効率を向上することを可能とするシェルアンドチューブ型熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(第一の発明)
本願における第二の発明は、 第一熱交換流体(51)を流す複数のチューブ(40,40,40,・・・)と、 その複数のチューブ(40,40,40,・・・)を収納して前記複数のチューブ(40,40,40,・・・)の外側を流れる第二熱交換流体(52)を流すシェル(20)と、 そのシェル(20)の内部においてその長手方向に対して垂直な断面のほぼ半分を交互に塞ぐためにシェル(20)の長手方向へ適宜間隔を介して配置した複数のバッフル(41,41,・・)と、 前記複数のチューブ(40)の両端を保持する管板(44,44)と、を備えたシェルアンドチューブ型熱交換器(10) に係る。
前記の各バッフル(41,41,・・)には、前記のチューブ(40,40,40,・・・)を挿入可能であるように複数のチューブ用孔(42,42,42,・・・)を形成している。
前記複数のチューブ(40,40,40,・・・)は、前記の各バッフル(41,41,・・)における複数の各チューブ用孔(42,42,42,・・・)へ挿入して支持されるとともに、前記複数のチューブ(40,40,40,・・・)の両端を前記管板(44,44)に形成した複数の各チューブ用孔(45)へ挿入して支持される構成とする。
また、前記複数のバッフル(41,41,・・)は、チューブ(40,40,40,・・・)の長手方向と同じ方向に延伸した複数のロッド部材(47,47)へ無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定するとともに、前記管板(44,44)は、前記複数のロッド部材(47,47)および前記複数のチューブ(40,40,40,・・・)を無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定する。
【0010】
(用語説明)
「無機ガラス系封孔剤」とは、アルコキシシラン化合物またはその部分加水分解縮合物と、硬化触媒とを少なくとも含有しているものである。 本発明者は、無溶剤であり、モノマー状態では極めて粘性および表面張力が小さく、1μm程度の微細孔および亀裂等であっても浸透可能であるという特性を有していることを見出した。 その浸透過程において、無機系ポリマーを形成して硬化するため、溶接をせずに各構成部品を固定できる。
【0011】
(作用)
全てのチューブ(40,40,40,・・・)は、バッフル(41,41,・・)の複数の各チューブ用孔(42,42,42,・・・)へ挿入し、前記管板(44,44)は、前記複数のロッド部材(47,47)および前記複数のチューブ(40,40,40,・・・)を無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定している。すなわち、溶接しないで組み立てられた組立構造である。溶接やロウ付けによって生じていたチューブ(40)へ与える熱応力、熱歪みなどの影響が少ない。
したがって、複数のチューブ(40,40,40,・・・)と、複数の管板(44,44)と、複数のバッフル(41,41,・・)の寸法精度の向上が実現し、薄肉で小径のチューブ(40)を数多く組み付けることが可能となった。 その結果、外形寸法を大きくすることなく、シェルアンドチューブ型熱交換器(10)の熱交換効率を向上させることが可能となった。
また、無機ガラス系封孔剤(70)は硬化すると無機系ポリマーとなって水に溶出しないので純水度を低下しない。
なお、無機ガラス系封孔剤(70)によって固定する構成は、溶接によって固定する方法に比べて製造効率が向上する場合もある。
【0012】
(第一の発明のバリエーション1)
第二の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記管板(44,44)と前記複数のバッフル(41,41,・・)に、前記複数のロッド部材(47,47)を挿入するロッド部材用孔(43,43,43,・・・)を設け、前記ロッド部材用孔(43,43,43,・・・)に挿入したロッド部材(47,47)へ前記管板(44,44)と前記複数のバッフル(41,41,・・)を無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定してもよい。
【0013】
(作用)
複数のバッフル(41,41,・・)に形成した複数の各ロッド部材用孔(43,43,43,・・・)へ、複数のロッド部材(47,47)を挿入することによって、複数のバッフル(41,41,・・)が複数のロッド部材(47,47)に安定した状態で支持される。そのため、無機ガラス系封孔剤(70)にて各バッフル(41)がロッド部材(47)へ確実に接着固定される。
【0014】
(第二の発明)
本願における第二の発明は、第一の発明において必須構成要件としていた複数のロッド部材(47,47)を省略した構成をなす。
すなわち、第一熱交換流体(51)を流す複数のチューブ(40,40,40,・・・)と、その複数のチューブ(40,40,40,・・・)を収納して前記複数のチューブ(40,40,40,・・・)の外側を流れる第二熱交換流体(52)を流すシェル(20)と、そのシェル(20)の内部においてその長手方向に対して垂直な断面のほぼ半分を交互に塞ぐためにシェル(20)の長手方向へ適宜間隔を介して配置した複数のバッフル(41)と、前記複数のチューブ(40,40,40,・・・)の両端を保持する管板(44,44)と、を備えたシェルアンドチューブ型熱交換器(10)であって、
前記複数のチューブ(40,40,40,・・・)は、前記複数のバッフル(41)に形成した複数の各チューブ用孔(42)へ挿入して支持されるとともに、前記の全チューブ(40,40,40,・・・)の両端を前記管板(44,44)に形成した複数の各チューブ用孔(45)へ挿入して支持される構成とし、 前記複数のバッフル(41,41,・・)は、少なくとも2本のチューブ(40,40)へ無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定する構成であるとともに、前記管板(44,44)は、前記複数のチューブ(40)を無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定する構成とする。
【0015】
(作用)
第二の発明は、第一の発明における作用効果に加え、以下のような効果をなす。
すなわち、複数のチューブ(40,40,40,・・・)が、複数のバッフル(41,41,・・)および管板(44,44)へ、無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定された構造であり、十分な強度を確保でき、ロッド部材(47,47)を省略できた。そのため、部品構成点数を減らし、軽量化や小型化に寄与する。
【0016】
(第一の発明のバリエーション2、および第二の発明のバリエーション1)
第一の発明および第二の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記無機ガラス系封孔剤(70)にて接着固定する対象部材の隙間を、5μmより大きく、かつ、500μmより小さくすることが好ましい。
【0017】
(作用)
対象部材の隙間が5μmより大きく、かつ、500μmより小さい場合は、前記無機ガラス系封孔剤(70)によって適正な接着力が得られる。
【0018】
(第一の発明のバリエーション3、および第二の発明のバリエーション2)
第一の発明および第二の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 シェル(20)の内断面積Scに対する全チューブ(40,40,40,・・・)の内断面積Stの割合は、0.2〜0.3で、かつ1平方センチメートルの単位面積当たりのチューブ(40)本数が7〜9本であることが好ましい。
【0019】
(作用)
シェル(20)内へ、1平方センチメートルの単位面積当たりのチューブ(40)を7〜9本という割合で、多く設けることによって、熱交換効率が向上する。
【0020】
(第一の発明のバリエーション4、および第二の発明のバリエーション3)
第一の発明および第二の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記シェル(20)と前記チューブ(40,40,40,・・・)と前記管板(44,44)と前記バッフル(41,41,・・)と前記ロッド部材(47,47)は、チタン材料で構成されることが好ましい。
【0021】
(用語説明)
「チタン材料」とは、純チタンとチタン合金を含むものである。
【0022】
(作用)
各部材を組立てる時の歪を最小限に抑える構造であるゆえに、熱交換器(10)をチタン材料で製作することができる。その結果、チタン材料で製作した熱交換器(10)は、第一熱交換流体(51)と第二熱交換流体(52)が純水または超純水であっても、不純物が溶出しにくいものである。特に、超純水の場合は純チタンであることが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
請求項1から請求項6に記載の発明によれば、チタン材料を用いて製作しても、シェル内断面において単位面積当たりのチューブの本数を増加することを可能とする。そのため、小さい口径のシェルにおいても、大きい口径のシェルにおいても熱交換効率を向上できるシェルアンドチューブ型熱交換器を提供することができた。
加えて、シェルアンドチューブ型熱交換器の製造効率を向上できる。また、溶接やロウ付けのように加熱不要の工程ゆえ熱変形が少なく、耐熱温度が低い材料にも適用可能な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態のシェルアンドチューブ型熱交換器の要部断面を含む正面図である。
【図2】図1の矢視II−II線の断面図である。
【図3】図3(A)〜(C)は、シェルアンドチューブ型熱交換器の組立工程を示す斜視図である。
【図4】図3(C)に続く組立工程を示す斜視図である。
【図5】本発明の他の実施形態のシェルアンドチューブ型の組立状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本発明の実施形態に係るシェルアンドチューブ型熱交換器10は、図1および図2に示すように、第一熱交換流体51を流す複数のチューブ40,40,40,・・・と、その複数のチューブ4040,40,40,・・・を収納して前記複数のチューブ4040,40,40,・・・の外側を流れる第二熱交換流体52を流すシェル20と、そのシェル20の内部においてその長手方向に対して垂直な断面のほぼ半分を交互に塞ぐためにシェル20の長手方向へ適宜間隔を介して配置した複数のバッフル41,41と、前記複数のチューブ40の両端を保持する管板44,44と、を備えて構成される。
なお、以下においては、説明の簡略化のため、部品番号を繰り返さないで記載する。
【0026】
前記シェル20は、筒状体をなし、本実施形態では円筒形状をなしている。その長手方向の一端側(図1において右端側)に、第一熱交換流体51が流入する第一流入口22を設けている。一方、シェル20の長手方向の他端側(図1において左端側)に、第一熱交換流体51が流出する第一流出口24を設けている。
さらに、前記シェル20の外周には、前記第二熱交換流体52が流入する第二流入口26を、前記第一流出口24の近くに位置して設けている。一方、前記第二熱交換流体52が流出する第二流出口28を、前記第一流入口22の近くに位置して設けている。
【0027】
更に詳しく説明する。
第二流入口26を有する管体27が、円筒形状をなすシェル本体21の外周の上記位置に設けた貫通孔部へ連通するように溶接60で一体的に取り付けられている。一方、第二流出口28を有する管体29が、前記シェル本体21の外周の上記位置に設けた貫通孔部へ連通するように溶接60(図1では図示省略)で一体的に取り付けられている。
【0028】
また、シェル20の内部では、複数のチューブ40の図1において右端を保持する管板44が、前記第二流出口28より右側の位置にて、その第二流出口28と前記第一流入口22との間を遮断するように、シェル20の内周面に溶接61で閉塞固定している。 一方、図1では図示省略しているが、上記と同様にして、複数のチューブ40の図1において左端を保持する管板44が、前記第二流入口26より左側の位置にて、その第二流入口26と前記第一流出口24との間を遮断するように、シェル20の内周面に溶接61で閉塞固定している。上記の左側の各部材は、図3および図4に示されている。
したがって、前記第一流入口22と前記複数のチューブ40の流入口が連通し、前記複数のチューブ40の流出口と前記第一流出口24が連通する。
【0029】
図1および図4に示すように、前記シェル本体21の両端の内周面には、前記管板44を嵌め込むための段付き部31が形成されている。その段付き部31へ嵌め込んだ管板44とシェル本体21の端縁を全周溶接61で一体的に固定する。
さらに、第一流入口22を有する管体23が、前記管板44に露出した複数のチューブ40の流入口と連通するように、前記シェル本体21の右端へ全周溶接61で一体的に取り付けられている。 一方、第一流出口24を有する管体25が、前記管板44に露出した複数のチューブ40の流出口と連通するように、前記シェル本体21の左端へ全周溶接61で一体的に取り付けられている。
【0030】
また、前記シェル20の内部は、複数のバッフル41がシェル20の長手方向に対して垂直な断面のほぼ半円部分を交互に塞ぐように、シェル20の長手方向へ適宜間隔を介して配置されている。
【0031】
上記構成によって、第一熱交換流体51は、シェル20の長手方向の一端側の第一流入口22から各チューブ40の流入口を経てチューブ40内を流れ、各チューブ40の流出口からシェル20の長手方向の他端側の第一流出口24へ流れる。 一方、第二熱交換流体52が、シェル20の外周の第二流入口26からシェル20の内部へ流入する。その第二熱交換流体52は、シェル20内において各チューブ40の外側をチューブ40内の第一熱交換流体51の流れ方向とは逆方向へ流れる。しかも、複数のバッフル41にて案内されて複数のチューブ40の間を通過して、シェル20内をジグザグに流れる。
その過程で、第一熱交換流体51と第二熱交換流体52が熱交換される。その熱交換した第二熱交換流体52はシェル20の外周の第二流出口28へ流れることになる。
【0032】
次に、本実施形態のシェルアンドチューブ型熱交換器10の組立構造およびその方法について、詳しく説明する。
【0033】
前記各バッフル41は、図3(A)および図3(B)に示すように、前記各チューブ40を挿入可能な複数のチューブ用孔42と、複数のロッド部材47を挿入可能な複数のロッド部材用孔43が形成されている。 また、前記管板44は、図3(C)に示すように、前記各チューブ40を挿入可能な複数のチューブ用孔45と、複数のロッド部材47を挿入可能な複数のロッド部材用孔46が形成されている。
【0034】
上記の複数のチューブ40は、図3(A)に示すように、複数のバッフル41に形成した複数の各チューブ用孔42へ挿入して支持される。さらに、前記複数のバッフル41は、図3(B)に示すように、チューブ40の長手方向と同じ方向に延伸した複数のロッド部材47を、前記各ロッド部材用孔43へ挿入することによって、前記複数のロッド部材47にて支持される構成である。
また、前記複数のチューブ40の両端は、前記管板44に形成した複数の各チューブ用孔45へ挿入して支持される。 さらに、前記複数のロッド部材47は、その両端を前記管板44の各ロッド部材用孔46へ挿入することによって支持される構成である。なお、図3では、2本のロッド部材47が使用されている。
【0035】
その組立方法は、図3(A)に示すように、複数のチューブ40がバッフル41の各チューブ用孔42へ挿入される。また、図3(B)に示すように、2本のロッド部材47もバッフル41の各ロッド部材用孔43へ挿入される。同じようにして、図3(C)に示すように、複数のバッフル41が上下に対称となる位置で交互に配置するように、2本のロッド部材47と複数のチューブ40を複数のバッフル41へ差し込んでいく。複数のバッフル41は、2本のロッド部材47および複数のチューブ40の長手方向において適宜間隔を介して所定の位置へ配置される。
【0036】
次に、複数のチューブ40の図4において左側の一端が、管板44の複数のチューブ用孔45へ差し込まれる。また、2本のロッド部材47も図4において左側の一端が、管板44の2つのロッド部材用孔46へ差し込まれる。図4に示すように、2本のロッド部材47の端部と管板44のロッド部材用孔46が無機ガラス系封孔剤70にて接着固定される。次いで、複数の各バッフル41のロッド部材用孔43と各ロッド部材47が無機ガラス系封孔剤70にて接着固定される。
【0037】
次に、無機ガラス系封孔剤70について詳しく説明する。
本実施形態では、無機ガラス系封孔剤70は、アルコキシシラン化合物またはその部分加水分解縮合物と、硬化触媒とを少なくとも含有している。これに無機顔料を含有することもできる。無溶剤であり、粘度および表面張力が低いことによって、1μm程度の微細孔へも、空気を置換しながら浸透していく特性をもっている。したがって、その浸透過程において、空気中の水を吸収したアルコキシシランは、徐々にその水と反応して無機系ポリマーを形成し、硬化してゆく。 なお、ここで重合・硬化した無機系ポリマーは100%ガラス系、すなわち酸化ケイ素であり,炭素等の有機基を含まない。
【0038】
一般的に、無機ガラス系封孔剤70は、塗料と同じように、材料の表面に耐食性ならびに防錆に優れた皮膜を形成する用途で使用されるものであるが、本実施形態では、複数の対象部材を接着固定する用途で使用する。なお、上記の対象部材としては、チューブ40、管板44、バッフル41、ロッド部材47である。
【0039】
金属等の材料の表面にはミクロンオーダの微細孔がたくさんある。すなわち、接着固定する対象部材の表面にもミクロンオーダの微細孔がたくさんある。無機ガラス系封孔剤70を2つの対象部材間の隙間へ流し込むように塗布すると、アルコキシシランが各対象部材の微細孔へ浸透し、硬化して無機系ポリマーとなって微細孔を塞ぐことになる。前記無機系ポリマーは、2つの対象部材の表面の微細孔へ、あたかも木の根が土中にしっかり根付くように浸透して硬化するので、2つの対象部材が無機ガラス系封孔剤70によって接着固定されることとなる。
【0040】
また、無機系ポリマーは水に溶出しない。また、無機ガラス系封孔剤70は無溶剤であるので、容易に使用できるため、熱交換器10の製造効率を高くすることができる。
【0041】
なお、接着固定する対象部材の隙間をSとすると、上記の無機ガラス系封孔剤70によって適正な接着力を得るには、前記隙間Sが、5μmより大きく、かつ、500μmより小さくすることが好ましい。つまり、5μm<S<500μmであることが好ましい。
例えば、チューブ40の外形寸法をdとし、管板44のチューブ用孔45の外形寸法をDとすると、D−dは、5μmより大きく、かつ、500μmより小さくすることが好ましい。つまり、5μm<(D−d)<500μmであることが好ましい。この場合、チューブ40が管板44のチューブ用孔45の中へ均等に挿入されるなら、前記隙間Sは(D−d)/2となるが、通常は偏りが生じるので、上記の範囲では、確実に適正な接着力を得ることができる。
【0042】
以上のことから、一端側の管板44および複数のバッフル41が、2本のロッド部材47へ無機ガラス系封孔剤70にて位置決め接着固定される。一方、複数のバッフル41の各チューブ用孔42と複数のチューブ40は、無機ガラス系封孔剤70にて固定されていない状態である。すなわち、複数のチューブ40は、管板44の各チューブ用孔45および複数のバッフル41の各チューブ用孔42によって保持される状態となる。
しかし、無機ガラス系封孔剤70による接着固定方法は、接着の対象部材に対する歪などの影響が少ないので、チューブ40をバッフル41のチューブ用孔42へ無機ガラス系封孔剤70にて接着固定しても良い。
【0043】
なお、複数の各バッフル41は、その端縁がロッド部材47へ無機ガラス系封孔剤70にて位置決め接着固定されてもよいので、必ずしも各バッフル41に前述したロッド部材用孔43を形成しなくてもよい。
しかし、ロッド部材47が複数の各バッフル41のロッド部材用孔43へ挿入されることによって、複数の各バッフル41は複数のロッド部材47にて安定した状態で支持される。そのため、無機ガラス系封孔剤70にて各バッフル41がロッド部材47へ確実に接着固定されるという点で、ロッド部材用孔43を設けたほうが望ましい。
【0044】
上記のように組み立てられた複数のチューブ40は、その一端側(図4において右端側)からシェル本体21内へ挿入される。前記管板44がシェル本体21の左端の段付き部31へ嵌め込まれる。複数のチューブ40および2本のロッド部材47の図4において右端側が、シェル本体21の右端から突出する。この突出した複数のチューブ40および2本のロッド部材47の右端を、もう一つの管板44の複数のチューブ用孔45および2つのロッド部材用孔46へ差し込んでいく。そして、前記管板44はシェル本体21の図4において右端の段付き部31へ嵌め込まれる。
【0045】
シェル本体21の両端縁と各管板44が、図1に示すように、全周が溶接61で一体的に固定される。次いで、複数の各チューブ40の両端縁が各管板44のチューブ用孔45へ無機ガラス系封孔剤70にて接着固定される。また、2本のロッド部材47の右端が管板44のロッド部材用孔46へ無機ガラス系封孔剤70にて接着固定される。
したがって、複数のチューブ40を保持する両端の管板44と複数のバッフル41が、複数のロッド部材47へ、溶接ではなく、無機ガラス系封孔剤70にて接着固定しているので、従来のような溶接やロウ付けによるチューブ40へ与える熱歪みなどの影響が少ない。
なお、シェル本体21の両端縁と各管板44は、その全周を上記の溶接61に変えて無機ガラス系封孔剤70にて一体的に接着固定しても良い。
【0046】
次に、第一流入口22を有する管体23が、図1に示すように、シェル本体21の右端へ全周溶接61で一体的に取り付けられる。一方、第一流出口24を有する管体25が、図1に示すように、シェル本体21の左端へ全周溶接61で一体的に取り付けられる。
【0047】
以上のことから、シェルアンドチューブ型熱交換器10は、複数のチューブ40が、両端の管板44に形成したチューブ用孔45と複数のバッフル41に形成したチューブ用孔42へ挿入して保持される構成とし、複数のバッフル41へ固定しないで組み立てる組立構造である。しかも、複数のチューブ40を保持する両端の管板44と複数のバッフル41を、複数のロッド部材47へ無機ガラス系封孔剤70にて接着固定しているので、チューブ40へ与える歪みなどの影響を少なくすることができる。
その結果、複数のチューブ40と、複数の管板44と、複数のバッフル41の寸法精度を向上させることができるので、薄肉で小径のチューブ40を数多く組み付けることが可能となった。
しかも、無機ガラス系封孔剤70は硬化すると無機系ポリマーとなって水に溶出しないので純水度を低下しない。また、無機系ポリマーは100%ガラス系であるので、耐熱性に優れ、強酸性などの薬液や排気ガスに対しても耐食性に優れる。
また、無機ガラス系封孔剤70による接着固定方法は、溶接等の固定方法に比べて製造効率が向上するので、チューブ40の本数を多くしても効率よく製作することができる。
【0048】
例えば、シェル本体21の外径寸法が20〜60mmである、シェルアンドチューブ型熱交換器10を例にとって説明する。なお、チューブ40は内径が2mmで、肉厚が0.3mmである。
シェル本体21の内径Dcが18.7mmの場合、チューブ40の本数Ntは20本である。以下、Dcが24.2mmの場合、Ntは35本である。Dcが30.0mmの場合、Ntは55本である。Dcが38.7mmの場合、Ntは105本である。Dcが44.6mmの場合、Ntは137本である。Dcが56.5mmの場合、Ntは223本である。
【0049】
上記の場合、シェル本体21内に配置された、1平方センチメートルの単位面積当たりのチューブ40の本数は、7.29〜8・89となっている。
また、シェル本体21の内径断面積、つまりシェル内断面積をScとし、複数のチューブ40の合計内断面積、つまり複数チューブ全体の内断面積をStとすると、断面積比St/Scは、0.23〜0.28の範囲にあるというデータが得られた。
したがって、チューブ40の内径寸法に関係なく、断面積比St/Scが、0.2〜0.3で、かつ1平方センチメートルの単位面積当たりのチューブ本数が7〜9本であるシェルアンドチューブ型熱交換器10を製作することができた。
【0050】
上述したように、シェル20内に単位面積当たりのチューブ40の本数を多くすることができるので、熱交換効率を向上することができる。
また、上述した例では、チューブ40の本数が最高で223本であるが、例えば1000本以上に多くすることができる。その場合、チューブ40の本数に伴ってシェル本体21は太くなるが、熱交換器10の熱交換容量は増大する。チューブ40を1000本以上に多くしても、チューブ40、管板44、バッフル41、ロッド部材47などの対象部材は、無機ガラス系封孔剤70によって効率よく接着固定することができる。したがって、熱交換器10を効率よく製作することができる。
【0051】
上記の理由で、シェル20、チューブ40、管板44、バッフル41、ロッド部材47がチタン材料であっても、無機ガラス系封孔剤70にて接着固定して組立てることによって、熱交換器10を高精度に、かつ効率よく製作することができる。
なお、本実施形態では、チタン材料とは、純チタンとチタン合金を含むものをいう。例えば、純チタンは、JIS1種、JIS2種などである。一方、チタン合金は、高力合金系のJIS60種やJIS61種、また15−3−3−3合金などがある。さらに、耐食系合金としては、JIS11種、JIS12種などがある。
【0052】
しかも、チタン材料で製作された熱交換器10は、第一熱交換流体51と第二熱交換流体52が純水または超純水であっても不純物が溶出しにくいものとなる。
なお、超純水とは、電気抵抗率が18MΩcm、または電気伝導度が0.055μS/cmである。超純水は、ステンレスをイオン化して溶出してしまうので、純チタン製であることが求められる。また、純水(高レベル)とは、電気抵抗率が2〜10MΩcm、または電気伝導度が0.1μS/cmである。銅やニッケルロウ材を溶出させる力をもつ。純水(低レベル)とは、電気抵抗率が1〜2MΩcm、または電気伝導度が0.5μS/cmであり、蒸留水とも称する。
【0053】
したがって、チタン製の熱交換器10を製作することで、ステンレス製では不可能であった腐食防止と、排熱環境の向上を図ることができる。
これに加えて、前述したように、対象部材を接着固定するための無機ガラス系封孔剤70が硬化すると、100%ガラス系の無機系ポリマーとなるので、水に溶出しないので純水度を低下しないし、強酸性などの薬液や排気ガスに対しても耐食性に優れる。したがって、第一熱交換流体51および第二熱交換流体52は、その一方の流体を高温の排気ガスとし、他方の流体を空気とした場合にも適用できる。
なお、上記の高温の排気ガスとしては、例えば、電気炉、重油等によるガス炉などの溶解炉の排気ガスがある。その他の設備から排出される排気ガスに対しても適用される。すなわち、本願のシェルアンドチューブ型熱交換器10は、上記の排気ガス管路へ設置することができる。
【0054】
次に、本発明の他の実施形態に係るシェルアンドチューブ型熱交換器11について図面を参照して説明する。なお、前述したシェルアンドチューブ型熱交換器10と同様の部材は同じ符号を付して同様の部分の詳しい説明は省略し、主に異なる点について説明する。
この実施形態の熱交換器11が前述の熱交換器10と異なる点は、複数のロッド部材47を使用せず、図5に示すように、複数の各バッフル41が少なくとも2本のチューブ40へ無機ガラス系封孔剤70にて接着固定されることである。
無機ガラス系封孔剤70にて接着固定する工程は常温で行われるため、作業に起因する熱ひずみ等の影響は少なく、複数のロッド部材47を使用しなくても、バッフル41をチューブ40へ接着固定することができる。その結果、複数のロッド部材47を省略できるとともに、ロッド部材47を省略した箇所にチューブ40を配置することによって、チューブ40の本数を増やすことができる。その他の構成は、前述の熱交換器10と同様である。
なお、前述の熱交換器10のように複数のロッド部材47を使用した場合は、複数のチューブ40を支持するための全体の強度を高くする効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、シェルアンドチューブ型熱交換器の製造業、メンテナンス業などにおいて利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0056】
10、11 シェルアンドチューブ型熱交換器
20 シェル 21 シェル本体
22 第一流入口 23 管体
24 第一流出口 25 管体
26 第二流入口 27 管体
28 第二流出口 29 管体
31 段付き部
40 チューブ 41 バッフル
42 チューブ用孔 43 ロッド部材用孔
44 管板 45 チューブ用孔
46 ロッド部材用孔 47 ロッド部材
51 第一熱交換流体 52 第二熱交換流体
60 溶接 61 溶接
70 無機ガラス系封孔剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一熱交換流体を流す複数のチューブと、その複数のチューブを収納して前記複数のチューブの外側を流れる第二熱交換流体を流すシェルと、そのシェルの内部においてその長手方向に対して垂直な断面のほぼ半分を交互に塞ぐためにシェルの長手方向へ適宜間隔を介して配置した複数のバッフルと、前記複数のチューブの両端を保持する管板と、を備えたシェルアンドチューブ型熱交換器において、
前記複数のチューブは、前記複数のバッフルに形成した複数の各チューブ用孔へ挿入して支持されるとともに、前記複数のチューブの両端を前記管板に形成した複数の各チューブ用孔へ挿入して支持される構成とし、
前記複数のバッフルは、チューブの長手方向と同じ方向に延伸した複数のロッド部材へ無機ガラス系封孔剤にて接着固定する構成であるとともに、前記管板は、前記複数のロッド部材および前記複数のチューブを無機ガラス系封孔剤にて接着固定する構成としたシェルアンドチューブ型熱交換器。
【請求項2】
前記管板と前記複数のバッフルに、前記複数のロッド部材を挿入するロッド部材用孔を設け、 前記ロッド部材用孔に挿入したロッド部材へ前記管板と前記複数のバッフルを無機ガラス系封孔剤にて接着固定した請求項1記載のシェルアンドチューブ型熱交換器。
【請求項3】
第一熱交換流体を流す複数のチューブと、その複数のチューブを収納して前記複数のチューブの外側を流れる第二熱交換流体を流すシェルと、そのシェルの内部においてその長手方向に対して垂直な断面のほぼ半分を交互に塞ぐためにシェルの長手方向へ適宜間隔を介して配置した複数のバッフルと、前記複数のチューブの両端を保持する管板と、を備えたシェルアンドチューブ型熱交換器において、
前記複数のチューブは、前記複数のバッフルに形成した複数の各チューブ用孔へ挿入して支持されるとともに、前記複数のチューブの両端を前記管板に形成した複数の各チューブ用孔へ挿入して支持される構成とし、
前記複数のバッフルは、少なくとも2本のチューブへ無機ガラス系封孔剤にて接着固定する構成であるとともに、前記管板は、前記複数のチューブを無機ガラス系封孔剤にて接着固定する構成としたシェルアンドチューブ型熱交換器。
【請求項4】
前記無機ガラス系封孔剤にて接着固定する対象部材の隙間を、5μmより大きく、かつ、500μmより小さくした請求項1から請求項3のいずれかに記載のシェルアンドチューブ型熱交換器。
【請求項5】
シェル内断面積に対する複数チューブ全体の内断面積の割合は、0.2〜0.3で、かつ1平方センチメートルの単位面積当たりのチューブ本数が7〜9本とした請求項1から請求項4のいずれかに記載のシェルアンドチューブ型熱交換器。
【請求項6】
前記シェル、前記チューブ、前記管板、前記バッフルおよび前記ロッド部材は、チタン材料で構成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のシェルアンドチューブ型熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−72923(P2012−72923A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216145(P2010−216145)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(509199579)MDI株式会社 (6)
【Fターム(参考)】