説明

シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの製造方法

【課題】シクロアルカンの転化率を高くしても、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの選択率を良好に維持して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを収率良く製造しうる方法を提供する。
【解決手段】シクロアルカンを含む液相を攪拌しながら該液相に酸素含有ガスを供給し、シクロアルカンを酸素で酸化してシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法であって、シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける液相側酸素移動容量係数kaが、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaよりも高くなるように、攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つを調整することを特徴とする前記製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロアルカンを含む液相に酸素含有ガスを供給することによりシクロアルカンを酸素で酸化してシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロアルカンを含む液相に酸素含有ガスを供給することによりシクロアルカンを酸素で酸化してシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法として、例えば、特許文献1には、複数の反応器を直列に接続し、反応開始から反応終了まで各反応器の攪拌回転数、酸素含有ガスの供給速度や液量を一定として反応を行う方法が記載されており、非特許文献1には、一つの反応器で反応開始から反応終了まで攪拌回転数、酸素含有ガスの供給速度や液量を一定として反応を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56−92829号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・ポルフィリンズ・アンド・フタロシアニンズ(Journal of Porphyrins and Phthalocyanines)」、(米国)、2008年、第12巻、p.27−34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、シクロアルカンの転化率を高くしたときに、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの選択率が低下してしまうことがあった。そこで、本発明の目的は、シクロアルカンの転化率を高くしても、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの選択率を良好に維持して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、シクロアルカンを含む液相を攪拌しながら該液相に酸素含有ガスを供給し、シクロアルカンを酸素で酸化してシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法であって、シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける、下式(I)
a=0.4(P/V)0.560.70.7 (I)
(式(I)中、kaは液相側酸素移動容量係数[1/h]、Pは攪拌動力[kW]、Vは液相の容量[m]、Vは酸素含有ガスの空塔速度[cm/min]、Nは攪拌回転数[rpm]を表す。)
で示される液相側酸素移動容量係数kaが、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaよりも高くなるように、攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つを調整することを特徴とするシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シクロアルカンの転化率を高くしてもシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの選択率を良好に維持して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明ではシクロアルカンを原料に用い、シクロアルカンを含む液相を攪拌しながら該液相に酸素含有ガスを供給することにより、該酸素含有ガス中の酸素で酸化して、対応するシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する。
【0010】
原料のシクロアルカンとしては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロオクタデカンのような、単環式で環上に置換基を有しないシクロアルカンの他、デカリンやアダマンタンのような多環式のシクロアルカン、メチルシクロペンタンやメチルシクロヘキサンのような環上に置換基を有するシクロアルカン等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0011】
酸素含有ガスは、例えば、空気であってもよいし、純酸素であってもよいし、空気又は純酸素を、窒素、アルゴン、ヘリウムのような不活性ガスで希釈したものであってもよい。また、空気に純酸素を添加した酸素富化空気を使用することもできる。酸素含有ガスの原料コストを考慮すると、酸素含有ガスとして、空気又は空気を不活性ガスで希釈したものが好ましい。空気を不活性ガスで希釈する場合、空気と不活性ガスの混合ガス中の酸素の含有割合は1体積%以上とするのが好ましい。
【0012】
本発明では、シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける、下式(I)
a=0.4(P/V)0.560.70.7 (I)
(式(I)中、kaは液相側酸素移動容量係数[1/h]、Pは攪拌動力[kW]、Vは液相の容量[m]、Vは酸素含有ガスの空塔速度[cm/min]、Nは攪拌回転数[rpm]を表す。)
で示される液相側酸素移動容量係数kaが、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaよりも高くなるように、攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つを調整することを特徴とする。
【0013】
ここで、液相側酸素移動容量係数kaとは、攪拌しながら液相に酸素含有ガスを供給する操作において、酸素の液相への吸収性を示す指標であり、攪拌回転数、攪拌翼の形状及び数、装置形状、液相の容量、酸素含有ガスの供給方式等により変化する値である。攪拌しながら液相に酸素含有ガスを供給する場合において、液相側酸素移動容量係数kaは上式(I)のとおり定義される。
【0014】
本発明では、シクロアルカンの転化率に応じて、攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つを調整することを特徴とする。具体的には、シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける液相側酸素移動容量係数kaが、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaよりも高くなるようにするためには、該転化率が0.5〜5%のいずれかになったときに、下記(1)〜(4)の少なくとも一つの操作を行えばよい。
(1)攪拌動力Pを増加させる。
(2)液相の容量Vを減少させる。
(3)酸素含有ガスの空塔速度Vを増加させる。
(4)攪拌回転数Nを増加させる。
【0015】
液相側酸素移動容量係数kaを高めるために攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つを調整するのは、シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときであり、好ましくは該転化率が1〜3.5%のいずれかになったときであり、より好ましくは該転化率が1.2〜2.5%のいずれかになったときである。なお、攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つを調整するのは1回だけに限られず、2回以上段階的に増加させてもよい。
【0016】
反応形式は、シクロアルカンと酸素含有ガスを流通させる連続式でもよく、反応器中の一定量のシクロアルカンに酸素含有ガスを流通させる半回分式でもよく、反応器中の一定量のシクロアルカンと一定量の酸素含有ガスを反応させる回分式でもよい。それぞれの反応形式において、液相中のシクロアルカンの転化率を測定し、該転化率が0.5〜5%のいずれかになったときに、上述の操作を行うことにより、該転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける液相側酸素移動容量係数kaを該転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaより高くすることができる。また、連続式の場合、反応混合物を直列に接続した複数の反応器に連続して流通させ、液相中のシクロアルカンの転化率を測定し、該転化率が0.5〜5%のいずれかになったときに、液相側酸素移動容量係数kaが高くなるように攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つが調整された下流側の反応器に反応混合物を移すことにより、該転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける液相側酸素移動容量係数kaを該転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaより高くすることができる。複数の反応器を使用する場合、反応器は2〜6器を直列に接続するのが好ましい。
【0017】
シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときに高められる液相側酸素移動容量係数kaは、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaに対して、1.1倍以上であるのが好ましく、3倍以上であるのがより好ましく、10倍以上であるのが更に好ましい。
【0018】
攪拌動力P[kW]は、例えば、攪拌下におけるモーター消費電力により求めることができるが、下式(II)によっても算出することができる。
=1.8(PND/Q0.080.39×10−3 (II)
(式(II)中、Pは酸素含有ガス供給前の攪拌動力[kW]、Nは攪拌回転数[rpm]、Dは攪拌翼径[cm]、Qは単位時間当りの酸素含有ガス供給量[ml/min]を表す。)
【0019】
攪拌動力Pは、反応器の水平断面積、攪拌翼の形状、攪拌翼の大きさ、攪拌翼の数、邪魔板の有無、邪魔板の大きさ、邪魔板の形状、邪魔板の数、攪拌回転数、単位時間当りの酸素含有ガス供給量等に依存するものである。攪拌動力Pを増加させる方法としては、液相中のシクロアルカンの転化率を測定し、該転化率が0.5〜5%のいずれかになったときに、攪拌動力が高められるように反応器の水平断面積、攪拌翼の形状、攪拌翼の大きさ、攪拌翼の数、邪魔板の大きさ、邪魔板の形状、及び邪魔板の数からなる群より選ばれる少なくとも一つを調節する方法や、攪拌回転数Nを増加させる方法等が挙げられるが、攪拌回転数Nを増加させる方法が好ましい。
【0020】
前記攪拌翼としては、例えば、タービン型、プロペラ型、パドル型、傾斜パドル型、湾曲パドル型、いかり型、ブルマージン型、螺旋帯型、螺旋軸型等、公知の種々の攪拌翼が挙げられる。前記攪拌翼の数は、適宜選択される。
【0021】
上式(II)中の酸素含有ガス供給前の攪拌動力Pは、例えば、攪拌下におけるモーター消費電力により求めたり、攪拌機の所要動力に関する無次元数である動力数N[−]の下記定義式(III)から算出することができる。
=(P)/(ρN) (III)
(式(III)中、gは重力換算係数、ρは液の密度[kg/cm]、Nは攪拌回転数[rpm]、Dは攪拌翼径[cm]である。)
【0022】
前記動力数Nは、攪拌翼の形状や邪魔板(バッフル)の数等によって異なるが、例えば、「化学工学便覧」改訂五版、丸善株式会社、昭和63年3月18日、p.895−896に掲載されている図20・8記載の曲線や永田の式から算出することができる。また、前記動力数Nは、反応場が十分発達した乱流域にあるときは一定値となることが知られている。
【0023】
攪拌動力Pを増加させる場合、シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける攪拌動力Pは、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの攪拌動力Pに対して、1.1倍以上であるのが好ましく、3.8倍以上であるのがより好ましく、16倍以上であるのが更に好ましい。
【0024】
液相の容量Vは、シクロアルカンを含む液相を攪拌しながら該液相に酸素含有ガスを供給してシクロアルカンを酸素で酸化してシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する際、反応器内に存在する液相の容量を指すものである。この液相は、具体的には、シクロアルカン、シクロアルカンの酸化反応が進行するに従い生成するシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノン、必要に応じて使用される反応溶媒、触媒、及びラジカル開始剤、等からなる。液相の容量Vを減少させるには、例えば、液相を反応器から抜き出せばよい。
【0025】
酸素含有ガスの空塔速度Vは、前記液相に供給する酸素含有ガスの体積流量を、反応器の水平断面積で除して算出される値を意味する。酸素含有ガスの空塔速度Vを増加させる方法としては、単位時間当りの酸素含有ガスの供給量を増加させる方法や、反応混合物を直列に接続した複数の反応器に連続して流通させて反応を行う形式では、液相中のシクロアルカンの転化率を測定し、該転化率が0.5〜5%のいずれかになったときに、空塔速度Vが増加するように反応器の水平断面積を調節した下流側の反応器に反応混合物を移す方法が挙げられる。
【0026】
攪拌回転数Nは、反応器に設置された攪拌翼の単位時間当りの攪拌回転数であり、適宜設定されうる。攪拌回転数Nを増加させる場合、シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける攪拌回転数Nは、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの攪拌回転数Nに対して、1.1倍以上であるのが好ましく、1.6倍以上であるのがより好ましく、2.8倍以上であるのが更に好ましい。
【0027】
反応温度は通常50〜200℃、好ましくは100〜170℃であり、更に好ましくは、120〜160℃である。反応圧力は通常0.1〜10MPa、好ましくは0.2〜2MPaである。反応溶媒は必要に応じて用いることができ、例えば、アセトニトリルやベンゾニトリルのようなニトリル溶媒、酢酸やプロピオン酸のようなカルボン酸溶媒等を用いることができる。
【0028】
シクロアルカンの転化率やシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの選択率をさらに向上させるために、触媒を使用するのも有効である。その種類は適宜選択されるが、カルボン酸のコバルト塩を使用するのが有利である。カルボン酸のコバルト塩は、1価又は多価の脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸又は芳香族カルボン酸のコバルト塩であることができ、その好適な例としては、酢酸コバルト、2−エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、シュウ酸コバルト、ラウリン酸コバルト、パルミチン酸コバルト、ステアリン酸コバルト等が挙げられる。カルボン酸コバルトの使用量は、シクロアルカンに対して通常0.01〜100重量ppm、好ましくは0.1〜50重量ppmである。
【0029】
反応を促進するためにラジカル開始剤を用いることができ、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等を用いることができる。
【0030】
酸化反応後の後処理操作については、特に限定されないが、例えば、反応混合物中に原料のシクロアルカンに対応するシクロアルキルヒドロペルオキシドが含まれる場合、アルカリ処理や還元処理等により、目的とするシクロアルカノールやシクロアルカノンに変換することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、反応液中のシクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドの分析はガスクロマトグラフィーにより行い、この結果から、シクロヘキサン転化率、並びにシクロヘキサノン、シクロヘキサノール及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドの各選択率を算出し、各選択率の合計選択率を算出した。
【0032】
液相側酸素移動容量係数ka、攪拌動力Pは、上記式(I)〜(III)より算出した。尚、上記式(III)における動力数Nは、5.6×10−9(一定値)であった。
【0033】
実施例1
1Lオートクレーブに、シクロヘキサン300g及び触媒として2−エチルヘキサン酸コバルト(II)0.25mgを入れた。1段のディスクタービン翼にて攪拌回転数100rpmで攪拌し、室温にて系内を窒素で0.70MPaまで昇圧した後、窒素300Nml/min流通下、140℃に昇温した。次いで、窒素450Nml/min及び空気150Nml/minを供給して反応を開始した。反応開始から2時間後に攪拌回転数を100rpmから300rpmに切替え、さらに、反応開始から3時間後に攪拌回転数を300rpmから500rpmに切替えた。反応開始から3.5時間後に反応を終了した。各反応時間における液相側酸素移動容量係数、攪拌動力、液相の容量、酸素含有ガスの空塔速度、及び攪拌回転数を表1にまとめる。
【0034】
攪拌回転数300rpmの条件では、100rpmの時と比べ液相側酸素移動容量係数kaは12倍となり、攪拌動力は20倍となった。攪拌回転数500rpmの条件では、100rpmの時と比べ液相側酸素移動容量係数kaは36倍となり、攪拌動力は81倍となり、300rpmの時と比べ液相側酸素移動容量係数kaは3.1倍となり、攪拌動力は4.0倍となった。
【0035】
反応開始から2時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は1.6%であり、シクロヘキサノンの選択率は19.8%、シクロヘキサノールの選択率は14.1%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は61.3%であった(合計選択率95.2%)。
反応開始から3時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は3.4%であり、シクロヘキサノンの選択率は26.6%、シクロヘキサノールの選択率は28.8%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は36.8%であった(合計選択率92.1%)。
反応開始から3.5時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は4.6%であり、シクロヘキサノンの選択率は30.8%、シクロヘキサノールの選択率は30.9%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は29.0%であった(合計選択率90.7%)。
【0036】
実施例2
1Lオートクレーブに、シクロヘキサン300g及び触媒として2−エチルヘキサン酸コバルト(II)0.25mgを入れた。1段のディスクタービン翼にて攪拌回転数100rpmで攪拌し、室温にて系内を窒素で0.70MPaまで昇圧した後、窒素300Nml/min流通下、140℃に昇温した。次いで、窒素450Nml/min及び空気150Nml/minを供給して反応を開始した。反応開始から2時間後に攪拌回転数を100rpmから500rpmに切替えた。反応開始から3.3時間後に反応を終了した。各反応時間における液相側酸素移動容量係数、攪拌動力、液相の容量、酸素含有ガスの空塔速度、及び攪拌回転数を表1にまとめる。
【0037】
攪拌回転数500rpmの条件では、100rpmの時と比べ液相側酸素移動容量係数は36倍となり、攪拌動力は81倍となった。
【0038】
反応開始から2時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は1.6%であり、シクロヘキサノンの選択率は23.7%、シクロヘキサノールの選択率は12.2%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は58.7%であった(合計選択率94.7%)。
反応開始から2.8時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は3.2%であり、シクロヘキサノンの選択率は29.0%、シクロヘキサノールの選択率は25.2%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は37.9%であった(合計選択率92.1%)。
反応開始から3.3時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は4.4%であり、シクロヘキサノンの選択率は33.3%、シクロヘキサノールの選択率は29.0%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は28.4%であった(合計選択率90.6%)。
【0039】
比較例1
1Lオートクレーブに、シクロヘキサン300g及び触媒として2−エチルヘキサン酸コバルト(II)0.25mgを入れた。1段のディスクタービン翼にて攪拌回転数100rpmで攪拌し、室温にて系内を窒素で0.70MPaまで昇圧した後、窒素300Nml/min流通下、140℃に昇温した。次いで、窒素450Nml/min及び空気150Nml/minを供給して反応を開始した。反応開始から4.5時間後に反応を終了した。各反応時間における液相側酸素移動容量係数、攪拌動力、液相の容量、酸素含有ガスの空塔速度、及び攪拌回転数を表1にまとめる。
【0040】
反応開始から2時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は1.3%であり、シクロヘキサノンの選択率は22.3%、シクロヘキサノールの選択率は6.6%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は66.8%であった(合計選択率95.7%)。
反応開始から3.3時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は2.9%であり、シクロヘキサノンの選択率は32.0%、シクロヘキサノールの選択率は23.0%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は37.3%であった(合計選択率92.4%)。
反応開始から4.5時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は4.0%であり、シクロヘキサノンの選択率は36.4%、シクロヘキサノールの選択率は28.7%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は24.9%であった(合計選択率90.0%)。
【0041】
比較例2
1Lオートクレーブに、シクロヘキサン300g及び触媒として2−エチルヘキサン酸コバルト(II)0.25mgを入れた。1段のディスクタービン翼にて攪拌回転数500rpmで攪拌し、室温にて系内を窒素で0.70MPaまで昇圧した後、窒素300Nml/min流通下、140℃に昇温した。次いで、窒素450Nml/min及び空気150Nml/minを供給して反応を開始した。反応開始から3時間後に反応を終了した。各反応時間における液相側酸素移動容量係数、攪拌動力、液相の容量、酸素含有ガスの空塔速度、及び攪拌回転数を表1にまとめる。
【0042】
反応開始から1.5時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は1.4%であり、シクロヘキサノンの選択率は21.9%、シクロヘキサノールの選択率は13.0%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は58.8%であった(合計選択率93.7%)。
反応開始から2.5時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は3.6%であり、シクロヘキサノンの選択率は30.0%、シクロヘキサノールの選択率は29.1%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は32.3%であった(合計選択率91.3%)。
反応開始から3時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は4.7%であり、シクロヘキサノンの選択率は33.7%、シクロヘキサノールの選択率は30.4%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は25.3%であった(合計選択率89.4%)。
【0043】
比較例3
1Lオートクレーブに、シクロヘキサン300g及び触媒として2−エチルヘキサン酸コバルト(II)0.25mgを入れた。1段のディスクタービン翼にて攪拌回転数500rpmで攪拌し、室温にて系内を窒素で0.70MPaまで昇圧した後、窒素300Nml/min流通下、140℃に昇温した。次いで、窒素450Nml/min及び空気150Nml/minを供給して反応を開始した。反応開始から1.7時間後に攪拌回転数を500rpmから100rpmに切替えた。反応開始から4時間後に反応を終了した。各反応時間における液相側酸素移動容量係数、攪拌動力、液相の容量、酸素含有ガスの空塔速度、及び攪拌回転数を表1にまとめる。
【0044】
攪拌回転数100rpmの条件では、500rpmの時と比べ液相側酸素移動容量係数は0.028倍となり、攪拌動力は0.012倍となった。
【0045】
反応開始から1.7時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は1.6%であり、シクロヘキサノンの選択率は21.7%、シクロヘキサノールの選択率は29.9%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は41.6%であった(合計選択率93.1%)。
反応開始から2.8時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は3.0%であり、シクロヘキサノンの選択率は31.0%、シクロヘキサノールの選択率は26.2%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は34.4%であった(合計選択率91.6%)。
反応開始から4時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は4.2%であり、シクロヘキサノンの選択率は35.9%、シクロヘキサノールの選択率は32.0%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は20.9%であった(合計選択率88.8%)。
【0046】
実施例1〜2、比較例1〜3の反応結果を表2にまとめる。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
実施例1〜2は、反応途中に攪拌回転数を上げる操作で液相側移動容量係数を高くすることにより、表2に示すとおり、反応時間の経過とともにシクロヘキサン転化率が高い値を示しても、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドの合計選択率が高い値を維持していることがわかる。これに対して、比較例1〜3では、反応終了まで同一の攪拌回転数で液相側移動容量係数を一定とした場合、あるいは反応途中に攪拌回転数を下げる操作で液相側移動容量係数を低くした場合には、表2に示すとおり、反応時間の経過とともにシクロヘキサン転化率が高い値を示すと、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドの合計選択率が低い値となることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロアルカンを含む液相を攪拌しながら該液相に酸素含有ガスを供給し、シクロアルカンを酸素で酸化してシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法であって、シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける、下式(I)
a=0.4(P/V)0.560.70.7 (I)
(式(I)中、kaは液相側酸素移動容量係数[1/h]、Pは攪拌動力[kW]、Vは液相の容量[m]、Vは酸素含有ガスの空塔速度[cm/min]、Nは攪拌回転数[rpm]を表す。)
で示される液相側酸素移動容量係数kaが、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaよりも高くなるように、攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つを調整することを特徴とするシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの製造方法。
【請求項2】
シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける液相側酸素移動容量係数kaが、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaに対して、1.1倍以上になるように、攪拌動力P、液相の容量V、酸素含有ガスの空塔速度V、及び攪拌回転数Nのうち少なくとも一つを調整する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける液相側酸素移動容量係数kaが、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaよりも高くなるように、攪拌動力Pを増加させる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける攪拌動力Pを、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの攪拌動力Pに対して、1.1倍以上に増加させる請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける液相側酸素移動容量係数kaが、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの液相側酸素移動容量係数kaよりも高くなるように、攪拌回転数Nを増加させる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
シクロアルカンの転化率が0.5〜5%のいずれかになったときにおける攪拌回転数Nを、シクロアルカンの転化率が0.5%になるまでの攪拌回転数Nに対して、1.1倍以上に増加させる請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
シクロアルカンがシクロヘキサンである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−132202(P2011−132202A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295024(P2009−295024)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】