説明

シクロペンタジエニル−フルオレニル配位子が基になったイオン性橋かけIII族メタロセン

本発明は式(I)[(Flu−R”−Cp)M][Li(エーテル)[式中、Cpは置換もしくは未置換のシクロペンタジエニルであり、Fluは置換もしくは未置換のフルオレニルであり、Mは周期律表のIII族の金属であり、そしてR”は、CpとFluの間に位置していて触媒成分に立体剛性を与える構造ブリッジである]で表されるメタロセン触媒成分を開示する。本発明は更に前記メタロセン触媒成分の製造方法およびそれを制御された重合で用いることも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシクロペンタジエニル−フルオレニル成分が基になっていて周期律表のIII族の金属を含有するメタロセン触媒系の分野に関する。本発明はまた前記触媒系を基にした制御された重合(controlled polymerisation)にも関する。
【背景技術】
【0002】

CMe(Cp−Flu)MQ
[式中、Mは周期律表のIVB族の金属であり、Cp−Fluは置換もしくは未置換のシクロペンタジエニル−フルオレニル配位子であり、CMeはシクロペンタジエニルとフルオレニルの間に位置するブリッジであり、そしてQは炭素数が1から20の炭化水素またはハロゲンである]
で表されるIV族メタロセン(metallocenes)がプロピレンの立体規則性および立体選択的重合で用いるに有効な前駆体(precursors)であることが非特許文献1に示されている。そのような化合物は、これにアルモキサン(alumoxane)による活性化を受けさせると非常に高い活性を示して高分子量のシンジオタクテックポリプロピレンを生じさせる。
【0003】
他方、シクロペンタジエニル部分の存在によって安定化されたある種のランタニドアルキルおよびハイドライド錯体がα−オレフィンを重合させかつ極性単量体、例えば(メタ)アクリレートなどの立体規則性重合を開始させ得る単一成分触媒として働くことが約20年に渡って知られているが、それらはいくつかの孤立した例である。それらは例えば非特許文献2、3、4、5または6に記述されている。
【0004】
ホモレプティックなアミド(homoleptic amides)Ln[N(SiMe[ここで、Lnはイットリウム、ランタンまたはネオジムである]とイソプロピリデン橋渡し[Cp−CMe−Flu]2−配位子のアミン脱離反応に関する研究が非特許文献7で行われた。その結果として得られた錯体をマグネシウムもしくはアルミニウムアルキルで活性化させてもエチレンの重合に不活性であることが示された。
【0005】
ジフェニル−炭素橋渡しCp−CPh−Flu配位子のジリチウム種とLnCl(THF)[ここで、LnはYまたはLuである]の塩複分解反応によって構造的に特徴づけられたイオン性錯体[(η,η−Cp−CPh−Flu)LnCl[Li(THF)が良好な収率でもたらされることが非特許文献8および9に示されているが、重合活性は全く記述されていない。
【0006】
[(η,η−Cp−CPh−Flu)LnCl[Li(THF)をLiN(SiMeで処理すると約13%の低い収率ではあるが中性の錯体(η,η−Cp−CPh−Flu)LnN(SiMeがもたらされることが同じグループの別の出版物(非特許文献10)に開示されていて、それはカプロラクトンおよびメタアクリル酸メチル(MMA)の重合を開始させることが確認されてはいるが、ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)は室温で低活性で生成し、含有するrrダイアドは約60%であった。
【0007】
同じグループが前記化学を「軽」ランタニド金属、例えばLaまたはNdなどにまで拡張しようとする他の試み(非特許文献11および12)は失敗に終わったが、数種の誘導体[(Cp−CPh−Flu)Ln((μ−H)BH)[Li(THF)[ここで、LnはLaまたはNdである]は成功裏に合成され、また構造的に特徴づけられ、これは三座BHアニオンとランタニド原子の多様な橋渡し結合によって系が立体的に安定になることによる。
【0008】
中性のカルビル錯体{η,η−Cp−CMe−(2,7−tBu−Flu)}LnCH(SiMeを2段階1槽(one−pot)手順で製造することが特許文献1に開示されており、それは、YCl(THF)とLi[Cp−CMe−(2,7−tBu−Flu)]の間の塩複分解反応に続くLiCH(SiMeによる金属交換反応(transmetallation)を伴う。その表題の錯体の特徴付けで用いられたのはH NMRのみであるが、それはMMAのリビング重合を0℃で開始させて重量平均分子量分布Mが512,000で多分散指数Dが1.66でrrダイアドが78%の重合体をもたらすと主張されている。前記多分散指数Dは数平均分子量に対する重量平均分子量の比率M/Mで定義される。
【0009】
従って、シクロペンタジエニル−フルオレニル配位子とIII族の金属が基になった橋かけメタロセン成分を良好な収率で生じさせかつそれから良好な重合能力を有する触媒系を生じさせる統一的方法は全く存在しない。
【0010】
加うるに、周期律表のIV族の金属が基になった公知のメタロセン触媒系は全部が高価で危険な活性化剤(activating agents)を必要としかつ極性単量体の重合で用いるには適さない。
【特許文献1】JP−A−07258319
【非特許文献1】RazaviおよびFerrara(A.Razavi、J.Ferrara、J.Organomet.Chem.435、299、1992)
【非特許文献2】Ballard他(D.G.H.Ballard、A.Courtis、J.Holton、J.McMeeking、R.Pearce、Chem.Commun.1978、994)
【非特許文献3】WatsonおよびParshall(P.L.Watson、G.W.Parshall、Acc.Chem.Res.1985、18、51)
【非特許文献4】Jeske他(G.Jeske、H.Lauke、H.Mauermann、P.N.Swepston、H.Schumann、T.J.Marks、J.Am.Chem.Soc.1985、197、809
【非特許文献5】Burger他(B.J.Burger、M.E.Thompson、D.W.Cotter、J.E.Bercaw、J.Am.Chem.Soc.1990、112、1566)
【非特許文献6】Yasuda(H.Yasuda、Prog.Polym.Sci.2000、25、573)
【非特許文献7】Dash他(A.K.Dash、A.Razavi、A.Mortreux、C.W.Lehmann、J.−F.Carpentier、Organometallics、2002、21、3238)
【非特許文献8】Qian他(C.Qian、W.Nie、J.Sun、J.Chem.Soc.、Dalton Trans.、1999、3283
【非特許文献9】C.Qian、W.Nie、J.Sun、J.Organomet.Chem.、2001、626、171
【非特許文献10】C.Qian、W.Nie、Y.Chen、J.Sun.、J.Organomet.Chem.645、82、2002
【非特許文献11】C.Qian、W.Nie、Y.Chen、S.Jie、J.Organomet.Chem.2002、645、82
【非特許文献12】W.Nie、C.Qian、Y.Chen、S.Jie、J.Organomet.Chem.2002、647、114
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、シクロペンタジエニル−フルオレニル配位子が基になっておりかつIII族の金属が基になっている橋かけメタロセン成分を良好な収率で生じさせることにある。
【0012】
本発明の別の目的は、スチレンの制御された重合に有効な触媒成分を生じさせることにある。
【0013】
本発明のさらなる目的は、メタアクリル酸メチルをシンジオタクテック重合させ得る触媒成分を生じさせることにある。
【0014】
より一般的に、本発明の目的は、極性もしくは非極性単量体の制御された重合に有効な触媒系を生じさせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明は、式
[(Flu−R”−Cp)M][Li(エーテル) (I)
[式中、Cpは置換もしくは未置換のシクロペンタジエニルであり、Fluは置換もしくは未置換のフルオレニルであり、Mは周期律表のIII族の金属であり、そしてR”は、CpとFluの間に位置(9位)していてこの成分に立体剛性(stereorigidity)を与える構造ブリッジ(structural bridge)である]
で表されるメタロセン触媒成分を開示するものである。
【0016】
前記シクロペンタジエニル上の置換基には特に制限はなく、それらは同じまたは異なってもよく、そしてそれらには炭素原子数が1から20のヒドロカルビルが含まれる。
【0017】
前記フルオレニル上の置換基にも特に制限はなく、それらは同じまたは異なってもよく、そしてそれらには炭素原子数が1から20のヒドロカルビルが含まれる。
【0018】
上述した触媒が有するシクロペンタジエニルとフルオレニルの間に存在させるブリッジの種類自身にも特に制限はない。R”には、典型的に、炭素原子数が1から20のアルキリデン基、ゲルマニウム基(例えばジアルキルゲルマニウム基)、ケイ素基(例えばジアルキルケイ素基)、シロキサン基(例えばジアルキルシロキサン基)、アルキルホスフィン基またはアミン基が含まれる。前記置換基には、好適には、ブリッジを形成する炭素原子数もしくはケイ素原子数が少なくとも1のシリル基もしくはヒドロカルビル基、例えば置換もしくは未置換のエチレニル基(例えば−CHCH−)などが含まれる。より好適には、R”はイソプロピリデン(MeC)、PhC、エチレニルまたはMeSiであり、最も好適には、R”は(MeC)である。
【0019】
Mは、好適には、イットリウム、ランタン、またはランタニド系列の一員である。本説明全体に渡って、用語「ランタニド系列」は、原子番号が58から71の希土類系列の元素を意味する。ランタニド系列の場合、Mは好適にはネオジム、サマリウムである。より好適には、Mはイットリウムである。
【0020】
本発明は、また、前記触媒成分(I)を生じさせる方法も開示し、この方法は、
a)MCl(THF)をエーテルに入れて懸濁させ、
b)(Cp−R”−Flu)のジリチウム塩をエーテルに入れて懸濁させ、
c)懸濁液a)に対する懸濁液b)のモル比を少なくとも2にして懸濁液a)とb)の塩複分解反応を−80℃から60℃の温度で実施し、
d)c)で得た生成物を前記エーテルから結晶化させ、
e)式
[(Flu−R”−Cp)M][Li(エーテル) (I)
で表される結晶性粉末を回収する、
段階を含んで成る。
【0021】
前記エーテルは、例えばテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルオキサイドまたはジイソプロピルオキサイドから選択可能である。それは好適にはTHFまたはジエチルオキサイド(EtO)である。
【0022】
前記温度を好適には−20℃から40℃の範囲、より好適には室温(約20℃)にする。
【0023】
段階e)で得た結晶性粉末は空気に極めて敏感であり、それはペンタンに不溶であり、トルエンに難溶であり、そしてテトラヒドロフラン(THF)またはジエチルオキサイドに易溶である。
【0024】
イオン式(I)のアニオンを図1に示す。
【0025】
本発明は、また、本明細書の上に記述した触媒成分を活性化剤の存在下又は不存在下で極性もしくは非極性単量体の制御された重合で用いることも開示する。
【0026】
本発明は、更に、極性もしくは非極性単量体の単独重合または極性もしくは非極性単量体と共重合用単量体の共重合方法も開示し、前記方法は、
− 式(I)で表されるメタロセンイオン成分を供給し、
− 場合により、活性化剤または移動剤(transfer agent)を供給し、
− 単量体および任意の共重合用単量体を供給し、
− 系を重合条件下に維持し、
− 所望重合体を回収する、
段階を含んで成る。
【0027】
前記任意の活性化剤には、イオン作用を示しかつ配位能力が低いか或は配位能力を持たないルイス酸が含まれる。典型的には、周期律表のIV族の金属と共に用いられているあらゆる活性化剤を本発明で用いることができる。適切なアルミニウム含有活性化剤にはアルモキサンまたはアルキルアルミニウムが含まれる。
【0028】
本発明で使用可能なアルモキサンは良く知られており、それには、好適には、オリゴマー状の線状アルモキサンの場合には式(II):
【0029】
【化1】

【0030】
で表されそしてオリゴマー状の環状アルモキサンの場合には式(III):
【0031】
【化2】

【0032】
で表されるオリゴマー状の線状および/または環状アルキルアルモキサンが含まれ、ここで、nは1−40、好適には10−20であり、mは3−40、好適には3−20であり、そしてRはC−Cアルキル基、好適にはメチルである。アルモキサンを例えばトリメチルアルミニウムと水から生じさせた時に得られるのは、一般に、線状化合物と環状化合物の混合物である。
【0033】
適切なホウ素含有活性化剤には、ホウ素酸トリフェニルカルベニウム、例えばヨーロッパ特許出願公開第0427696号に記述されている如きテトラキス−ペンタフルオロフェニル−ボラト−トリフェニルカルベニウム:
【0034】
【化3】

【0035】
またはヨーロッパ特許出願公開第0277004号(6頁の30行から7頁の7行)に記述されている如き下記の一般式:
【0036】
【化4】

【0037】
で表されるそれらなどが含まれ得る。
【0038】
他の好適な活性化剤には、ヒドロキシイソブチルアルミニウムおよび金属アルミノキシネート(aluminoxinate)が含まれる。
【0039】
また、タイプMgR’(ここで、各R’は、同一もしくは異なり、炭素原子数が1から20のヒドロカルビルである)のアルキル化剤を用いることも可能である。
【0040】
前記移動剤には、例えばHおよび式HSiR”’(ここで、各R”’は、同一もしくは異なり、H原子、または炭素原子数が1から20のヒドロカルビルのいずれかである)で表されるヒドロシランが含まれる。それを重合させる単量体に応じて選択する。
【0041】
本発明で使用可能な単量体には、非極性単量体、例えばエチレン、アルファ−オレフィン、スチレンなど、および極性単量体、例えばアクリレートまたはジエンなどが含まれる。好適には、スチレンおよびメタアクリル酸メチルを用いた。
【0042】
本発明の触媒系は如何なる種類の単独重合方法でも共重合方法でも使用可能であるが、但し必要な触媒活性が悪化しないことを条件とする。本発明の好適な態様では、本触媒系を塊状重合方法または溶液重合方法(これは均一である)またはスラリー方法(これは不均一である)で用いる。溶液方法の場合の典型的な溶媒には、THF、または炭素原子数が4から7の炭化水素、例えばヘプタン、トルエンまたはシクロヘキサンなどが含まれる。スラリー方法の場合には触媒系を不活性な支持体、特に多孔質固体状支持体、例えばタルク、無機酸化物など、および樹脂状支持体材料、例えばポリオレフィンなどに固定しておく必要がある。そのような支持体材料は好適には微細形態の無機酸化物である。
【0043】
本発明に従って望ましく用いる適切な無機酸化物材料には、周期律表IIA、IIIA、IVAまたはIVB族の金属の酸化物、例えばシリカ、アルミナおよびこれらの混合物などが含まれる。単独でか或はシリカまたはアルミナとの組み合わせのいずれかで使用可能な他の無機酸化物はマグネシア、チタニア、ジルコニアなどである。しかしながら、他の適切な支持体材料、例えば微細な官能化ポリオレフィン、例えば微細なポリエチレンなどを用いることも可能である。
【0044】
そのような支持体は、好適には、表面積が200−700m/gで細孔容積が0.5−3ml/gのシリカである支持体である。
【0045】
重合温度は20℃から100℃の範囲である。
【0046】
本発明は、また、本明細書の上に記述した触媒成分を存在させた重合で入手可能な重合体も包含する。
【実施例】
【0047】
イットリウム塩1モル当量当たり2モル当量の配位子を用いた[Flu−CMe−Cp]LiとYCl(THF)の間の塩複分解反応。[(Cp−CMe−Flu)Y][Li(EtO)(THF)の合成。
【0048】
13H−CMe−CH(0.2g、0.734ミリモル)をジエチルエーテル(30mL)に入れることで生じさせた−10℃の溶液を激しく撹拌しながらこれに2当量のn−BuLi(ヘキサン中1.6Mの溶液を0.92mL、1.47ミリモル)を加えた。この反応混合物を室温になるまで温めた。溶液の色が暗黄色に変わり、そして3時間後に黄色の結晶性粉末が沈澱した。このジリチウム塩がエーテルに入っている懸濁液を−20℃に冷却して、これに、YCl(THF)(無水のYClを0.072g、即ち0.368ミリモル用いて調製)をEtO(20mL)入れることで生じさせた懸濁液を加えた。この反応混合物を激しく撹拌しながら周囲温度になるまで温めると色が深赤色に変わった。赤色の溶液を沈澱物から傾斜法で取り出し、真空下で濃縮した後、−20℃に冷却することで、空気に極めて敏感な深赤色の結晶を0.237g(収率70%)得た。
【0049】
[(Cp−CMe−Flu]Y][Li(EtO)(THF)の中の対アニオンは、他のイオン性ランタニドセン(lanthanidocenes)でも観察されるように、4個のエーテル分子が配位しているリチウム原子として表わされる。そのアニオンは、イットリウム原子に2個の不等価(non−equivalnet)(Flu−CMe−Cp)配位子が配位していると言った前例のない構造を有する。それはCp型の配位子を4個有するイオン性のIII族金属化合物を表わし、これは構造的に特徴づけられた初めての例である。フルオレニル部分の結合もまた予想外であった。以下のスキーム1に、X線構造(X−ray structures)で以前に確かめられたジルコニウムおよびランタニドの簡単なアンサ(ansa)−メタロセンの中のフルオレニル配位子のいろいろな結合様式を示す。
【0050】
【化5】

【0051】
大部分の錯体、例えばLee他(Lee,M.H.;Hwang,J−W.;Kim,Y.;Kim,J.;Han,Y.;Do,Y.、Organometallics 1999、18、5124)またはEvans他(Evans,W.J.;Gummersheimer,T.S.;Boyle,T.J.;Ziller,J.W.、Organometallics 1994、13、1281)が観察した如き錯体の中の金属は、例えば(η,η−Cp−CMe−Flu)ZrClおよび(η,η−Cp−MeSi−Flu)YN(SiMeなどの場合のように、フルオレニル配位子の5員環に本質的に対称的にη結合(A)しているか、或は例えば(η,η−Flu)Sm(THF)および(η,η−Cp−SiMe−Flu)YClLi(OEtなどの場合のように、η結合(B)している。非常に稀ではあるが、SchmidおよびVilnius(M.A.Schmid、H.G.Alt、W.Milius、J.Organomet.Chem.、1997、541、3)が他の化合物で記述した如きそれは対称的η結合である。
【0052】
Bochmann他(Bochmann,M.;Lancaster,S.J.;Hursthouse,M.B.;Mazid,M.、Organometallics 1993,12,4718)が(η,η−Cp−CMe−Flu)Zr(μ−H)(Cl)]の中に1個の6員環が有する2個の隣接する炭素原子と中心の環が有する橋頭炭素原子が関与する稀な非対称的η−アリル結合様式(D)が存在することを立証しており、Zr−C結合の距離は2.608(3)−2.686(3)Åの範囲である。この最後に示した結合様式が前記2個のフルオレニル部分の中の一方に存在し、その結合の長さの範囲は下記の通りである:
− 2.690−2.789オングストロームの範囲のY−C(4)
− 2.749−2.806オングストロームの範囲のY−C(10)
− 2.894−3.065オングストロームの範囲のY−C(9)。
【0053】
2番目のフルオレニル部分は前記1番目のフルオレニル部分とは異なる。イットリウム−炭素の結合距離は下記の通りである:
− 2.671−2.722オングストロームの範囲のY−C(34)
− 3.101−3.177オングストロームの範囲のY−C(40)、および
− 3.540−3.633オングストロームの範囲のY−C(39)。
【0054】
この最後に示した2つの結合距離は有意な結合相互作用が起こる距離を越えていると思われ、これはExtended Huckle Molecular Orbitals(EHMO)方法およびDensity Functional Theory(DFT)演算処理で裏付けられる。従って、もう一方のフルオレニル部分の配位はフェニル環が有する1個のみの炭素原子が関与する新規な結合様式(E)による。
【0055】
従って、2個のCp環がη配位していることを考慮すると、化合物[(η,η−Flu−CMe−Cp)(η,η−Flu−CMe−Cp)Y][Li(EtO)(THF)は18電子錯体であると最良の形式で記述される。
メタアクリル酸メチル(MMA)の重合
[(Cp−CMe−Flu)Y][Li(EtO)(THF)を前以て約10mgの量で計り取っておいて、これにメタアクリル酸メチル(3.0mL、27.7ミリモル)をシリンジで添加した後、直ちに適切な温度で激しい撹拌を開始した。所定時間後、シュレンク管を空気に開放して、アセトン(30mL)を添加することで反応を停止させかつ生じた重合体を溶解させた。メタノール(約200mL)を添加して前記重合体を沈澱させ、濾過し、メタノール(30mL)で2回洗浄した後、真空下で乾燥させた。ポリスチレン標準を基準にした一般的較正を用いたGPCで数平均分子量Mnおよび重量平均分子量MwをTHF中で測定した。分子量分布は数平均分子量に対する重量平均分子量の比率Mn/Mwとして定義される多分散性指数Dで記述される。H NMRを用いて前記重合体の微細構造をCDCl中で測定した。
【0056】
重合実験を表Iに開示する如きいろいろな重合条件下で繰り返した。
【0057】
【表1】

【0058】
LaClとTHFの付加体を用いて同様な合成実験を実施した。それによって化合物[(Cp−CMe−Flu)La][Li(EtO)(THF)を単離し、アニオン性のランタン中心部に2個のCp−Flu部分が結合していることが分かった(図2を参照)。しかしながら、このような構造では、リチウムカチオンが独立していなくて1個のシクロペンタジエニル環に橋渡しされている。
スチレンの重合
ランタニド化合物を前以て約10mgの量で計り取っておいて、これにスチレン(3.0mL、25.96ミリモル)をシリンジで添加した後、直ちに適切な温度で激しい撹拌を開始した。所定時間後、シュレンク管を空気に開放して、メタノール中10%のHCl酸溶液(1mL)を添加することで反応を停止させた。メタノール(約200mL)を添加して重合体を沈澱させ、濾過し、メタノール(30mL)で2回洗浄した後、真空下で乾燥させた。結果を必要IIに示す。
【0059】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1に、[(η,η−Flu−R”−Cp)(η,η−Flu−CR−Cp)Y][Li(エーテル)のアニオンの結晶構造を示す。楕円は50%の確率に相当する。
【図2】図2に、[(η,η−Flu−R”−Cp)(η,η−Flu−CR−Cp)La][Li(エーテル)のアニオンの結晶構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

[(Flu−R”−Cp)M][Li(エーテル) (I)
[式中、Cpは置換もしくは未置換のシクロペンタジエニルであり、Fluは置換もしくは未置換のフルオレニルであり、Mは周期律表のIII族の金属であり、そしてR”は、CpとFluの間に位置していて触媒成分に立体剛性を与える構造ブリッジである]
で表されるメタロセン触媒成分。
【請求項2】
Mがイットリウム、ランタン、ネオジムまたはサマリウムである請求項1記載のメタロセン触媒成分。
【請求項3】
R”がCMeである請求項1または請求項2記載のメタロセン触媒成分。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の触媒成分を製造する方法であって、
a)MCl(THF)をエーテルに入れて懸濁させ、
b)(Cp−R”−Flu)のジリチウム塩をエーテルに入れて懸濁させ、
c)懸濁液a)に対する懸濁液b)のモル比を少なくとも2にして懸濁液a)とb)の塩複分解反応を−80℃から60℃の温度で実施し、
d)c)で得た生成物を前記エーテルから結晶化させ、
e)式
[(Flu−R”−Cp)M][Li(エーテル) (I)
で表される結晶性粉末を回収する、
段階を含んで成る方法。
【請求項5】
前記複分解反応を約20℃の温度で実施する請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記エーテルがTHFまたはジエチルオキサイドである請求項4または請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項記載触媒成分の使用であって、活性化剤の存在下又は不存在下で極性もしくは非極性単量体を重合させる使用方法。
【請求項8】
重合体の製造方法であって、
− 請求項1から3のいずれか1項記載のメタロセン成分を供給し、
− 場合により、活性化剤および/または移動剤を供給し、
− 極性もしくは非極性単量体および任意の共重合用単量体を供給し、
− 系を重合条件下に維持し、
− 所望重合体を回収する、
段階を含んで成る方法。
【請求項9】
前記非極性単量体がアルファ−オレフィン、エチレンまたはスチレンである請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記極性単量体がメタアクリレートまたはジエンである請求項8記載の方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項記載の方法で入手可能な重合体。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−515887(P2006−515887A)
【公表日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501607(P2006−501607)
【出願日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000643
【国際公開番号】WO2004/067591
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【出願人】(505252333)サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク (24)
【Fターム(参考)】