説明

シャッタ装置

【課題】低コストで良好な撮像結果が得られるシャッタ装置を提供する。
【解決手段】先幕3〜5、後幕6〜8の作動中に、NDフィルタ9は、フィルタ駆動部材18、19によって、シャッタ開口21内のスリットSに連動可能となっている。このように、NDフィルタ9を、スリットSに連動させるようにすれば、NDフィルタ9を、スリットSをカバーする大きさとすればよいので、NDフィルタ9を小さくすることができるようになる。すなわち、小さいNDフィルタ9で、ダイナミックレンジを向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器用のシャッタ装置に関し、より詳細には、デジタルカメラやビデオカメラ等の光学機器に好適に使用できるシャッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
極めて輝度の高い被写体を、例えばデジタル一眼レフカメラで撮影する場合、撮像素子への入射光量をピンホール状態まで絞ると、回折現象が発生し、撮像された画像に、いわゆる小絞りぼけが生じる。このような小絞りぼけは、シャッタ速度の制御などで回避するのは困難である。小絞りぼけを解消する方法として、減光(ND;Neutral Density)フィルタを用いる方法がある。NDフィルタは、少なくとも可視光域の光に対してほぼ均一な透過特性を備えるフィルタである(例えば特許文献1参照)。例えば、カメラの外付けのレンズ鏡筒内にNDフィルタを設け、絞りをピンホール状態まで絞らずに、外付けのレンズ鏡筒の前面にNDフィルタを取り付けて撮像素子への入射光量を減光する方法が、従来より用いられている。NDフィルタを採用すれば、そのカメラの信号の再現能力(ダイナミックレンジ)が向上する。
【特許文献1】特開2007−187992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、外付けのレンズ鏡筒のレンズの前面にNDフィルタを設け、小絞りを解消しようとすると、NDフィルタを、レンズ内に入射する入射光束の入射領域全体をカバーする大きさとする必要がある。また、NDフィルタは、上述したように小絞りぼけなどが生じるような場合に用いられるが、その使用は極めて明るい場合に限定され、使用頻度は少ないのが一般的である。以上の点を考慮すると、非常に高価な大型のNDフィルタの装着は、ユーザにとって望ましいことではない。また、外付けのレンズ鏡筒の前面にNDフィルタを装着した場合には、装着されたNDフィルタに異物が付着して、良好な撮像結果が得られなくなる可能性もある。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、低コストで良好な撮像結果が得られるシャッタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係るシャッタ装置は、シャッタ開口を有するシャッタ基板と、前記シャッタ開口を開放した後に遮蔽するように駆動される遮光部と、入射光束の強度を変更する光学フィルタと、前記遮光部の駆動により移動する前記シャッタ開口内の通光領域に前記光学フィルタを連動させる連動機構と、を備える。
【0006】
また、前記連動機構により、前記通光領域に前記光学フィルタを連動させるか否かを切り替える切り替え装置をさらに備えることとしてもよい。
【0007】
また、前記通光領域の移動方向に関する前記光学フィルタの幅を、前記シャッタ開口の幅よりも短くするのが望ましい。
【0008】
また、前記光学フィルタがカメラの内部に格納されるものであることが望ましい。
【0009】
また、前記遮光部を駆動する駆動装置をさらに備え、前記光学フィルタは、前記駆動装置の駆動により、前記通光領域と連動するようにしてもよい。
【0010】
前記光学フィルタは、NDフィルタであることとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シャッタ装置に、光学フィルタが設けられている。この光学フィルタは、連動機構により、遮光部の駆動により移動するシャッタ開口内の通光領域に連動可能となっている。このようにすれば、光学フィルタを、入射光束の通過領域全体(すなわちシャッタ開口)をカバーする大きさではなく、遮光部の駆動中の通光領域をカバーできる程度の大きさまで小さくすることができるようになる。この結果、小さい光学フィルタで、ダイナミックレンジを向上させることができるようになる。また、光学フィルタがカメラの内部に格納されるようにシャッタ装置に収納されるので、光学フィルタへの異物の付着を防止することができるようになる。このため、低コストで、良好な撮像結果が得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1には、本発明の一実施形態に係るシャッタ装置1の全体が示され、図2には、図1のA−A’断面図が示されている。また、図3、図4、図5には、それぞれ図2のB−B’断面図、C−C’断面図、D−D’断面図が示されている。
【0014】
図1、図2に総合して示されるように、本実施形態に係るシャッタ装置1は、シャッタ基板2と、先幕3、4、5と、後幕6、7、8と、光学フィルタとしてのNDフィルタ9と、先幕駆動部材10、11と、後幕駆動部材13、14と、仕切板16、17と、連動機構としてのフィルタ駆動部材18、19と、受板20とを備えている。なお、先幕3、4、5と、後幕6、7、8と、先幕駆動部材10、11と、後幕駆動部材13、14とで、遮光部が構成されている。仕切板16、17及び受板20は、図1、図3〜図5では、図示されていない。
【0015】
このシャッタ装置1は、例えば、一眼レフカメラの内部において、そのカメラのレンズと撮像素子との間の焦点面(フォーカルプレーン)近傍に設けられている。シャッタ装置1は、図示しないレンズ鏡筒の取り付け位置よりも撮像素子側のカメラの本体(ハウジング)の内部に設けられ、非動作時にはNDフィルタ9は仕切板17と受板20との間に格納され、先幕3、4、5はシャッタ開口21を閉じている。このため、レンズ鏡筒の取替えの際にもNDフィルタ9はハウジングの内部に密封されて露出することなく、NDフィルタ9への異物の付着を極力抑えることができる構成となっている。図2では、−Y側がカメラのレンズ側となっており、+Y側が撮像素子側となっている。入射光束は、レンズを介して+Y方向に進み、このシャッタ装置1を介して撮像素子に至る。図1、図3〜図5では、+Y側、すなわち、カメラの撮像素子側からシャッタ装置1を見ている。
【0016】
図2に示されるように、シャッタ基板2は、レンズ側に配置されている。シャッタ基板2には、シャッタ開口21が設けられている。カメラのレンズを介した入射光束は、このシャッタ開口21からシャッタ装置1内に入射する。
【0017】
先幕3〜5は、シャッタ開口21の開放用のシャッタ羽根である。先幕3〜5は、図3に示されるように、先幕駆動部材10、11にY軸回りに回動可能に連結されている。先幕駆動部材10、11の端部は、シャッタ基板2に、Y軸回りに回動可能に軸支されている。先幕3〜5及び先幕駆動部材10、11は、全体として平行リンク機構を構成する。したがって、先幕駆動部材10、11がシャッタ基板2に対して回転すると、先幕3〜5が、Z軸方向に移動するようになる。この移動により、先幕3〜5は、シャッタ開口21を遮蔽したり開放したりすることができるようになっている。
【0018】
なお、以下では、適宜、先幕3〜5を、全体で、先幕ユニット60と呼び、先幕駆動部材10、11を、全体で先幕駆動機構70と呼ぶこととする。
【0019】
図2に戻り、仕切板16は、先幕3〜5と、後幕6〜8との間に挿入されている。仕切板16は、開放状態となっているシャッタ開口21を介して入射した光束をそのまま通過させる開口部を有している。
【0020】
後幕6〜8は、シャッタ開口21の遮蔽用のシャッタ羽根である。後幕6〜8には、図4に示されるように、後幕駆動部材13、14にY軸回りに回動可能に連結されている。後幕駆動部材13、14の端部は、シャッタ基板2にY軸回りに回動可能に軸支されている。後幕6〜8及び後幕駆動部材13、14は、全体として平行リンク機構を構成する。したがって、後幕駆動部材13、14がシャッタ基板2に対して回転すると、後幕6〜8が、Z軸方向に移動するようになっている。この移動により、後幕6〜8は、シャッタ開口21を遮蔽したり開放したりすることが可能である。
【0021】
なお、以下では、適宜、後幕6〜8を、全体で後幕ユニット61と呼び、後幕駆動部材13、14を、全体で後幕駆動機構71と呼ぶこととする。
【0022】
図2に戻り、仕切板17は、後幕6〜8と、NDフィルタ9との間に挿入されている。仕切板17は、開放状態となっているシャッタ開口21を介して入射した光束をそのまま通過させる開口部を有している。
【0023】
NDフィルタ9は、少なくとも可視光域の光の強度を、その波長に関係なく、ほぼ均一に減衰させる(ほぼ均一な透過特性を備える)フィルタである。NDフィルタ9を用いれば、入射光束の強度だけを特定比率で減らすことができる。NDフィルタ9は、Z軸方向の幅が狭くなっており、X軸方向の幅はシャッタ開口を充分にカバーできる幅となっている。NDフィルタ9は、図5に示されるように、フィルタ駆動部材18、19にY軸回りに回動可能に軸支されている。フィルタ駆動部材18、19の端部は、シャッタ基板2にY軸回りに回動可能に連結されている。NDフィルタ9及びフィルタ駆動部材18、19は、全体として平行リンク機構を構成する。フィルタ駆動部材18、19がシャッタ基板2に対して回転すると、NDフィルタ9がZ軸方向に移動するようになっている。
【0024】
なお、以下では、フィルタ駆動部材18、19を、適宜、全体でフィルタ駆動機構72と呼ぶこととする。
【0025】
図2に戻り、受板20は、最も撮像素子側に配置されている。受板20にもシャッタ開口21が設けられている。シャッタ基板2のシャッタ開口21が開放されている場合、シャッタ基板2のシャッタ開口21に入射した光束は、すべて受板20のシャッタ開口21から出射され、撮像素子に至る。なお、このシャッタ装置1は、フォーカルプレーンシャッタであるため、このシャッタ開口21がそのまま、撮像素子の撮像領域に対応する。
【0026】
図6には、本実施形態に係るシャッタ装置1が組み込まれたカメラの制御系が示されている。図6に示されるように、先幕駆動部材10は、シャッタ基板2の裏側に設けられたY軸回りに回動する回動部材31と接続されており、回動部材31の回動に従って回動する。回動部材31は、駆動装置としてのアクチュエータ51によって駆動される。
【0027】
後幕駆動部材14は、シャッタ基板2の裏側に設けられたY軸回りに回動する回動部材32と接続されており、回動部材32の回動に従って回動する。回動部材32は、駆動装置としてのアクチュエータ52によって駆動される。
【0028】
フィルタ駆動部材18は、回動部材33と接続されており、シャッタ基板2の裏側に設けられたY軸回りに回動する回動部材33の回動に従って回動する。回動部材33は、駆動装置としてのアクチュエータ53によって駆動される。
【0029】
アクチュエータ51〜53は、カメラのCPU50によって制御されている。CPU50は、撮像に必要とされる露光時間に基づいて、先幕3〜5と後幕6〜8とシャッタ開口21とによって形成されるスリットのスリット幅を決定し、そのスリット幅で露光されるように、各アクチュエータ51〜53を制御する。
【0030】
なお、各アクチュエータ51〜53としては、電磁石による吸引力とばねの復帰力とを組み合わせることにより、先幕(開放シャッタ羽根)及び後幕(閉鎖シャッタ羽根)の展開(シャッタ開口閉鎖)及び重畳(シャッタ開口開放)動作を行わせる方式のものを採用することができる。このような方式のアクチュエータについては、例えば、特開平7−20534号公報等に開示されているので、詳細な説明を省略する。
【0031】
シャッタ装置1には、切り替え機構55がさらに設けられている。切り替え機構55は、CPU50からの指示により、オンオフされるようになっている。
【0032】
また、カメラには、NDフィルタ9を用いるか否かを切り替えるための不図示の切り替えボタンが設けられている。切り替えボタンが、光学フィルタ9を使用する方に設定されていると、CPU50は、切り替え機構55をオンにして、アクチュエータ53を駆動する。一方、切り替えボタンが、光学フィルタ9を使用しない方に設定されていると、CPU50は、切り替え機構55をオフにして、アクチュエータ53の駆動を停止させる。
【0033】
次に、本実施形態に係るシャッタ装置1の動作について説明する。以下の動作は、CPU50による制御によって行われる。
【0034】
(露光時間が長い場合)
まず、図7(A)〜図7(E)を参照して、周辺が暗い状況での撮影で、長い露光時間が必要であり、シャッタ速度を遅くする場合について説明する。まず、図7(A)に示されるように、先幕ユニット60によって、シャッタ開口21は完全に遮蔽されている。カメラのシャッタボタンが押下され、レリーズ状態となると、図7(B)に示されるように、CPU50の制御の下、アクチュエータ51を介して、先幕駆動機構70が駆動される。この駆動により、先幕ユニット60が、−Z方向に移動し始め、シャッタ開口21がその+Z側端から徐々に開放され始める。これにより、シャッタ開口21内の通光領域としてのスリットSが形成される。
【0035】
図7(C)に示されるように、先幕ユニット60が、−Z方向にさらに移動し、シャッタ開口21が完全に解放されるようになる。そして、露光時間に応じた時間が経過した後、図7(D)に示されるように、CPU50の制御の下、アクチュエータ52を介して、後幕駆動機構71が駆動される。これにより、後幕ユニット61が、−Z方向に移動し始め、シャッタ開口21が、その+Z側端から徐々に遮蔽され始める。そして、図7(E)に示されるように、シャッタ開口21が、後幕ユニット61によって完全に遮蔽され、露光が終了する。
【0036】
図7(A)〜図7(E)に示される動作では、露光時間が長く設定されており、カメラの絞りが大きめに設定されているため、CPU50は、切り替え機構55をオフにしてアクチュエータ53の駆動を停止し、NDフィルタ9は、スリットSに連動させることなく、シャッタ開口21の+Z側に停止したままとなっている。なお、この後、シャッタ装置1は、CPU50の制御の下、アクチュエータ51、52の駆動によって、図7(A)に示される状態に戻る。
【0037】
(露光時間が短く、NDフィルタを連動させる場合)
次に、図8(A)〜図8(D)、図9(A)〜図9(D)を参照して、周辺が極めて明るい状況での撮影で、露光時間が短く設定され、かつ、NDフィルタ9を使用するように切り替えボタンが設定されている場合について説明する。この場合には、CPU50は、切り替え機構55をオンにしてアクチュエータ53を駆動可能としている。
【0038】
まず、図8(A)に示されるように、先幕ユニット60によって、シャッタ開口21は完全に遮蔽されている。カメラのシャッタボタンが押され、レリーズ状態となると、図8(B)に示されるように、CPU50の制御の下、アクチュエータ51を介して、先幕駆動機構70が駆動されて、先幕ユニット60が、−Z方向に移動し始める。これにより、シャッタ開口21がその+Z側端から徐々に開放され始める。
【0039】
この先幕ユニット60の移動に追従し、CPU50の制御の下、アクチュエータ53を介して、フィルタ駆動機構72が駆動され、NDフィルタ9が、−Z方向に移動し始める。この移動により、シャッタ開口21の+Z側端に形成されたスリットを通過した光束は、すべてNDフィルタ9を通過して、減光された状態で、撮像素子に至るようになる。
【0040】
図8(C)に示されるように、先幕ユニット60の−Z方向への移動に伴って、スリットSのスリット幅は次第に大きくなっていく。この間、NDフィルタ9は、常に、そのスリットSを覆うように、−Z方向に移動しているため、スリットSを通過した光束は、すべてNDフィルタ9を通過し、減光される。
【0041】
そして、スリットSが、設定された露光時間に応じたスリット幅に近づくと、図8(D)に示されるように、CPU50の制御の下、アクチュエータ52を介して、後幕駆動機構71が駆動されて、後幕ユニット61が、−Z方向に移動し始める。そして、後幕ユニット61により、シャッタ開口21が、その+Z側端から徐々に遮蔽され始める。
【0042】
その後、図9(A)、図9(B)に示されるように、先幕ユニット60及び後幕ユニット61の駆動により、スリットSは、一定のスリット幅を維持したまま、−Z方向に移動する。この移動に連動して、NDフィルタ9も、このスリットSを常に覆うべく、−Z方向にスリットSとほぼ同じ速度で移動する。このときのスリットSのスリット幅は、NDフィルタ9の幅よりも小さくなっているため、スリットSを通過したすべての光束は、NDフィルタ9に入射し、減光される。
【0043】
その後、図9(C)に示されるように、スリットSがシャッタ開口21の−Z側端に達すると、後幕ユニット61の駆動により、スリットSのスリット幅が徐々に狭まっていく。なお、スリットSが、シャッタ開口21の−Z側端に到達したときには、NDフィルタ9も、すでにシャッタ開口の−Z側端に到達している。
【0044】
最後に、図9(D)に示されるように、シャッタ開口21が、完全に後幕ユニット61によって遮蔽され、露光が終了する。このときには、NDフィルタ9の移動もすでに停止している。なお、この後、シャッタ装置1は、CPU50の制御の下、アクチュエータ51〜53の駆動によって、図8(A)に示される状態に戻る。
【0045】
(露光時間が短くても、NDフィルタを連動させない場合)
露光時間が短く設定されていても、カメラの切り替えボタンが、NDフィルタ9を使用しない方に設定されていた場合には、CPU50が、切り替え機構55をオフにして、アクチュエータ53の駆動を停止するため、NDフィルタ9は、スリットSに連動することなく、シャッタ開口21の+Z側に停止したままとなる。
【0046】
図10(A)には、NDフィルタ9をスリットSに連動させなかったときの撮像素子の撮像領域内のセンサ位置(Z軸方向の位置)と露光量との関係が示され、図10(B)には、NDフィルタ9をスリットSに連動させたときの撮像素子の撮像領域内のセンサ位置と露光量との関係が示されている。なお、シャッタ装置1はフォーカルプレーンシャッタであるため、撮像領域内のセンサ位置は、シャッタ開口21内のZ軸方向の位置に対応する。前提として、図10(A)の場合も、図10(B)の場合も、スリットSのスリット幅及びカメラの絞り量は同じとなっている。
【0047】
図10(A)及び図10(B)に示されるように、撮像領域内のすべてのセンサ位置において、NDフィルタ9を連動させた場合には、露光量が一様に小さくなっている。
【0048】
逆に言えば、NDフィルタ9を、スリットSに連動させれば、カメラの絞りをさらに絞って小絞りにしなくても、露光量を小さくすることができるようになる。この結果、カメラのダイナミックレンジを広げることができるようになる。
【0049】
絞りには撮影条件に応じた適正値があり、これを変えると、被写界深度も変わってしまう(絞るほど深くなる)。これに対して、本実施形態のように、NDフィルタ9を用いて露光量を小さくさせるようにすれば、絞りを適正値とし、被写界深度を最適に保ったままで、露光量を小さくすることができるようになる。すなわち、NDフィルタ9を用いることによって、撮像条件の設定の自由度が増すようになる。
【0050】
また、本実施形態によれば、スリットSのスリット幅をさらに狭くしたり、先幕ユニット60及び後幕ユニット61の開閉速度(シャッタ速度)を速くしたりしなくても、すなわち、先幕ユニット60及び後幕ユニット61に対して複雑な機械制御を行わなくても、カメラのダイナミックレンジを広げることができるようになる。
【0051】
近年では、撮像結果の高画質化の要求に伴い、カメラの撮像素子のセルの小ピッチ化が進んでいる。セルの微細化が進むと、1画素あたりに蓄積できる電子数が減少して、ダイナミックレンジが低下する。このようなダイナミックレンジの減少対策として、各セルの感度を上げると、いわゆるセル飽和が発生し、かえって画質が低下するおそれがある。本実施形態に係るシャッタ装置1は、セルの感度を上げなくても、カメラのダイナミックレンジを向上させることができることから、セルの小さい高画質なカメラに好適に使用することができる。
【0052】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、シャッタ装置1には、通過する光束の強度を減衰させるNDフィルタ9が設けられている。このNDフィルタ9は、フィルタ駆動機構72によって、先幕ユニット60、後幕ユニット61の駆動中に、シャッタ開口21内のスリットSに合わせて連動可能となっている。このようにすれば、NDフィルタ9を、シャッタ開口21全体をカバーする大きさではなく、先幕3〜5、後幕6〜8の駆動中のスリットSをカバーできる程度の大きさまで小さくすることができるようになる。この結果、小さい光学フィルタで、ダイナミックレンジを向上させることができるようになる。また、NDフィルタ9をシャッタ装置1の内部に収め、ハウジング内に密封することができるようになるので、NDフィルタ9への異物の付着を防止することができるようになる。このため、低コストで、良好な撮像結果が得られるようになる。
【0053】
より具体的には、スリットSの移動方向(−Z方向)に関するNDフィルタ9の幅は、シャッタ開口21の幅(すなわち、入射光束の幅)よりも狭くなっている。これにより、NDフィルタ9を小型化して、装置の製造コストを低減することができるようになる。ただし、NDフィルタ9のZ軸方向の幅は、少なくとも、NDフィルタ9が用いられる場合のスリットSのスリット幅以上である必要がある。
【0054】
このようなNDフィルタ9の小型化は、特に、一眼レフカメラのような、大口径のカメラに好適であり、本実施形態のシャッタ装置1のような大口径のフォーカルプレーンシャッタに好適である。
【0055】
また、本実施形態によれば、NDフィルタ9を外付けのレンズ鏡筒のレンズ前面ではなく、シャッタ装置1内、すなわち本体内に収納することができるようになるので、NDフィルタ9への異物の付着を防止することができるようになる。さらに、NDフィルタ9を、撮像素子などとともに、異物が入らないようなカメラのハウジング内に密封しておくことができる。このようにすれば、NDフィルタ9への異物の付着を防止し、良好な撮像状態を維持することができるようになる。
【0056】
なお、上記実施形態に係るシャッタ装置1では、先幕ユニット60及び後幕ユニット61を作動させるアクチュエータ51、52と、NDフィルタ9を駆動するアクチュエータ53とを別々としたが、これらを一部共通化するようにしてもよい。このようにすれば、部品点数をさらに削減することができる。
【0057】
また、本実施形態に係るシャッタ装置は、内部に備える光学フィルタを、NDフィルタとした。このようなNDフィルタとしては、樹脂材料に吸収剤を分散させたフィルタ、表面に無機膜を蒸着させたフィルタ、カーボンナノチューブを分散させたインクをフィルム等の透明基材に塗布したフィルタなどを用いることができる。しかしながら、本発明の光学フィルタは、NDフィルタに限られず、入射する光束の強度を変更する別の光学フィルタであってもよい。
【0058】
なお、NDフィルタ9の動きは、シャッタ開口21内のスリットSの動きに応じたものとなるが、NDフィルタ9の動きを、そのスリットSの動きに完全に同期させる必要はない。露光がされている間に、NDフィルタ9が、スリットSを常に覆っているようにすればよい。
【0059】
また、本実施形態に係るシャッタ装置1では、切り替えボタンの操作に従ったCPU50の制御により、NDフィルタ9をスリットSに連動させるか否かを切り替え可能とした。例えば、長い露光時間が必要となる場合には、NDフィルタ9をスリットSに連動させず、露光時間が短くなる場合であっても、ユーザの操作によって、NDフィルタ9をスリットSに連動させるか否かを切り替えられるようにした。これにより、ユーザの好みに応じた撮像状態を提供することが可能となる。
【0060】
なお、アクチュエータ53と回動部材33との間を脱着可能な脱着機構を設け、上記切り替えボタンの操作によって、その連結機構を介してアクチュエータ53と回動部材33との間を連結したり、その連結を解除したりして、NDフィルタ9をスリットSに連動させるか否かを切り替えるようにしてもよい。
【0061】
なお、本実施形態に係るシャッタ装置1は、いわゆるフォーカルプレーンシャッタであったが、それ以外のシャッタ装置であっても、露光時間に応じた大きさの通光領域(シャッタ開口よりも小さい領域)がシャッタ開口内を移動する方式のシャッタ装置であれば、本発明を適用することができるのは勿論である。
【0062】
また、上記実施形態に係るシャッタ装置1は、先幕を3枚とし、後幕を3枚としたが、先幕及び後幕は、それぞれ少なくとも1枚あればよい。
【0063】
また、上記実施形態に係るシャッタ装置1では、アクチュエータとして、電磁石による吸引力とばねの復帰力とを組み合わせることにより、先幕(開放羽根)及び後幕(閉鎖羽根)の展開(シャッタ開口閉鎖)及び重畳(シャッタ開口開放)動作を行わせる方式のものを採用したが、本発明はこれには限られない。例えば、特開2001−215556号公報に開示されているように、永久磁石製の回転子と固定子コイルとを組み合わせてなるムービングモータをアクチュエータとして採用し、そのムービングモータを、シャッタ羽根を開閉駆動するセクタアームを所定角度だけ揺動させることにより、開閉動作させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係るシャッタ装置1の全体図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】図2のB−B’断面図である。
【図4】図2のC−C’断面図である。
【図5】図2のD−D’断面図である。
【図6】図1のシャッタ装置が組み込まれるカメラの制御系の構成を示す図である。
【図7】図7(A)〜図7(E)は、露光時間が長い場合のシャッタ装置の動作を示す図である。
【図8】図8(A)〜図8(D)は、露光時間が短い場合のシャッタ装置の動作を示す図である。
【図9】図9(A)〜図9(D)は、露光時間が短い場合のシャッタ装置の動作を示す図である。
【図10】図10(A)は、NDフィルタを使用しない場合における撮像素子のセンタ位置と露光量との関係を示すグラフであり、図10(B)は、NDフィルタを使用しない場合における撮像素子のセンタ位置と露光量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1 シャッタ装置
2 シャッタ基板
3、4、5 先幕
6、7、8 後幕
9 NDフィルタ
10、11 先幕駆動部材
13、14 後幕駆動部材
16、17 仕切板
18、19 フィルタ駆動部材
20 受板
21 シャッタ開口
31、32、33 回動部材
50 CPU
55 切り替え機構
60 先幕ユニット
61 後幕ユニット
70 先幕駆動機構
71 後幕駆動機構
72 フィルタ駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャッタ開口を有するシャッタ基板と、
前記シャッタ開口を開放した後に遮蔽するように駆動される遮光部と、
入射光束の強度を変更する光学フィルタと、
前記遮光部の駆動により移動する前記シャッタ開口内の通光領域に前記光学フィルタを連動させる連動機構と、を備えるシャッタ装置。
【請求項2】
前記連動機構により、前記通光領域に前記光学フィルタを連動させるか否かを切り替える切り替え装置をさらに備える請求項1に記載のシャッタ装置。
【請求項3】
前記通光領域の移動方向に関する前記光学フィルタの幅が、前記シャッタ開口の幅よりも短いことを特徴とする請求項1又は2に記載のシャッタ装置。
【請求項4】
前記光学フィルタがカメラの内部に格納されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシャッタ装置。
【請求項5】
前記遮光部を駆動する駆動装置をさらに備え、
前記連動機構は、前記駆動装置の駆動により、前記光学フィルタを前記通光領域に連動させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシャッタ装置。
【請求項6】
前記光学フィルタは、NDフィルタであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシャッタ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−186845(P2009−186845A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28123(P2008−28123)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】