説明

シャフトスプライン塑性加工方法

【課題】シャフトワークのスプラインを塑性加工する部分のバリの発生を抑制し、かつスプライン先端の大径盛下がりを防止することが可能である。
【解決手段】シャフトワーク24にスプラインを塑性加工するシャフトスプライン塑性加工方法であり、シャフトワーク24は、成形するスプライン30の体積と塑性加工する部分の体積を等しくし、かつ、スプライン30を最初に成形する部分を最大径として、最初に成形する部分から円錐状に塑性加工しない部分へ延ばしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シャフトワークにスプラインを塑性加工するシャフトスプライン塑性加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、周波数変調によってワークを塑性加工するものがあり(特許文献1)、この塑性加工は、素形材からそのまま製品が得られるのであり、余分部分の除去加工は不要となり、製造コストの低減、および切り粉の全廃が可能となる。このような塑性加工は、現実的には余分部分の除去加工の完全排除は困難であるが、かなりのところまで減らすことができる。
【0003】
この塑性加工によって、図8に示すように、例えば船外機のシャフトワークにスプラインを形成する場合には、シャフトワーク100がブランク形状であり、スプライン先端の大径盛下がりを考慮し、スプラインを塑性加工する部分101は先端部101aをラッパ形状にする必要がある。
【特許文献1】特許第3572544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、スプラインを塑性加工する部分101の先端部101aをラッパ形状にすることは、周波数変調によってシャフトワーク100を塑性加工するものに限らず、他の塑性加工、例えばスプライン転造等でも実施されている。
【0005】
しかし、シャフトワーク100をブランク形状で塑性加工すると、図9に示すように、スプライン110間の歯稜部120にバリ120aが発生する。
【0006】
この発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、シャフトワークのスプラインを塑性加工する部分のバリの発生を抑制し、かつスプライン先端の大径盛下がりを防止することが可能なシャフトスプライン塑性加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成されている。
【0008】
請求項1に記載の発明は、シャフトワークにスプラインを塑性加工するシャフトスプライン塑性加工方法であり、
前記シャフトワークは、
成形するスプラインの体積と塑性加工する部分の体積を等しくし、
かつ、スプラインを最初に成形する部分を最大径として、
前記最初に成形する部分から円錐状に塑性加工しない部分へ延ばしている、
ことを特徴とするシャフトスプライン塑性加工方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、送り装置により前記シャフトワークと金型との間に相対的な運動を発生させ、前記シャフトワークにスプラインを、周波数変調による塑性加工する、
ことを特徴とする請求項1に記載のシャフトスプライン塑性加工方法である。
【発明の効果】
【0010】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0011】
請求項1に記載の発明では、シャフトワークは、成形するスプラインの体積と塑性加工する部分の体積を等しくし、かつ、スプラインを最初に成形する部分を最大径として、最初に成形する部分から円錐状に塑性加工しない部分へ延ばすことで、変曲点部がなくバリの発生を抑制し、かつスプライン先端の大径盛下がりを防止することができ、素形材からそのまま製品が得られ、余分部分の除去加工は不要となり、製造コストの低減が可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、シャフトワークにスプラインを、周波数変調による塑性加工し、金型を前後にある周波数で振動させながら、すなわち周波数変調運動させながら、素形材へ押し込んで成形することにより、送り力は連続塑性加工と比較し半減、作動エネルギーを節約し、小さな装置で成形が可能になる。また、前後振動により加工油が常に後進時に成形点へ供給され、金型と素形材との焼付きを防ぎ、小さな送り力は素形材の曲がりや変形なども防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明のシャフトスプライン塑性加工方法の実施の形態について説明するが、この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明はこれに限定されない。
【0014】
図1はシャフトスプライン塑性加工装置の概略図、図2はシャフトスプライン塑性加工の金型の断面図、図3はシャフトワークの加工前の側面図、図4はシャフトワークの加工後の側面図、図5はスプライン間の歯稜部の拡大図である。
【0015】
この実施の形態のシャフトスプライン塑性加工装置1は、図1に示すように、シャフトワーク24にスプラインを塑性加工するための装置であり、装置本体2には、支柱3とチャック4が設けられている。支柱3とチャック4との間には、タイバー5,6が設けられ、タイバー5,6にはスライダ15が移動可能に設けられ、スライダ15には金型ホルダ7が取り付けられ、この金型ホルダ7に金型8が内蔵されている。
【0016】
また、支柱3には、第1の送り装置9が設けられている。第1の送り装置9には、加圧シリンダ10が用いられ、スライダ15に設けられた金型ホルダ7を介して金型8を移動させる。第1の送り装置9には、周波数変調装置11が内蔵され、この周波数変調装置11によって塑性加工に必要な周波数変調を行う。
【0017】
装置本体2には、支柱20が設けられ、この支柱20には第2の送り装置21が取り付けられている。第2の送り装置21には、ワーク挿入シリンダ22が用いられ、ワーク挿入シリンダ22のワークグリップ23にシャフトワーク24が挿入されている。ワーク挿入シリンダ22によってシャフトワーク24を金型8の方向へ移動させ、シャフトワーク24と金型8との間に相対的な運動を発生させ、シャフトワーク24にスプラインを塑性加工する。
【0018】
次に、このシャフトスプライン塑性加工の動作を説明する。まず、シャフトワーク24をワークグリップ23に挿入して取り付け、ワーク挿入シリンダ22の作動でワークグリップ23を介してシャフトワーク24をチャック4内に移動しチャック4で保持する。そして、金型ホルダ7を加工シリンダ10で周波数変調装置11によって周波数変調させながら前進させる。このとき、金型ホルダ7内の金型8でシャフトワーク24に塑性変形を加えスプラインを成形する。
【0019】
シャフトスプラインの塑性加工後は、金型ホルダ7を加工シリンダ10で後進させる。チャック4の保持を解除し、ワーク挿入シリンダ22の作動でシャフトワーク24を後進させ、スプラインを成形したシャフトワーク24をワークグリップ23から取り外す。
【0020】
次に、金型ホルダ7に保持された金型8は、図2に示すように、金型ホルダ7は、薄鋼帯で構成され、金型ホルダ7の内部にはスリーブ12を介して金型8が設けられている。また、金型ホルダ7には、加工油通路13が形成されている。
【0021】
シャフトスプラインの塑性加工は、素形材のシャフトワーク24を強くクランプし、スプライン形状を反転写した金型8を素形材のシャフトワーク24へ強く押し込んでスプラインを成形する。スプラインの寸法、形状は、型形状に左右される。金型8は、金型ホルダ7へ圧入した状態で保持するため、圧入状態で要求形状を満足する必要がある。また、金型8は超硬製で、一度製作したスプライン歯形は事実上変更できない。これらの問題点改善のため、内部に金属バネの薄鋼帯を介した金型ホルダ7にスリーブ12で金型8を保持し、金型8の前後方向保持位置を、例えば0.5mm単位で調整可能とする構造を採用している。この構造により、シャフトワーク24のオーバーピン径を最大0.1mmの範囲で微調整可能としている。
【0022】
シャフトワーク24は、図3に示すように、スプラインを塑性加工する部分24aは、スプラインを塑性加工するスプライン有効長L2を有している。このスプライン有効長L2は、連結する部材と係合して動力を伝達する部分であり、スプライン有効長L2の基部24bの径d2より先端部24cの径D2が大きく、基部24bから先端部24cに所定角度θ2のストレートな傾斜面24dを有する円錐状に形成されている。
【0023】
この実施の形態のスプラインを塑性加工する部分24aは、
先端部24cの径D2=21.02
基部24bの径d2=20.145
スプライン有効長L2=9.688>スプライン有効長7.8
所定角度θ2=2.747度
に設定している。
【0024】
この実施の形態の設定によって、シャフトワーク24は、成形するスプラインの体積と塑性加工する部分の体積を等しくし、かつ、スプラインを最初に成形する部分である先端部24cを最大径として、この先端部24cから円錐状に塑性加工しない部分である基部24bへ延ばしている。
【0025】
このシャフトワーク24に、図1に示すシャフトスプライン塑性加工装置を用い、図4及び図5に示すようなスプライン30を周波数変調による塑性加工した。
【0026】
このシャフトスプライン30の塑性加工は、スプライン形状を反転写した金型8を素形材へ強く押し込んでスプライン30を成形する。周波数変調による塑性加工は、金型8を前後にある周波数(材質や仕様などにより最適化調整)で振動させながら、すなわち周波数変調運動させながら、素形材のシャフトワーク24へ押し込んで成形する。このことにより、送り力は連続塑性加工と比較し、図6に示すように、半減、作動エネルギーを節約し、小さな装置で成形が可能になった。また、前後振動により加工油通路13から加工油が常に後進時に成形点へ供給され、金型8と素形材のシャフトワーク24との焼付きを防ぎ、小さな送り力は素形材の曲がりや変形なども防ぐことができる。
【0027】
周波数変調による塑性加工は、圧倒的な短時間で、ホブによる除去加工比10分の1以下で加工を達成できる。また、ホブによる除去加工と比較し、ピッチ誤差と歯形誤差は、JISの精度規格で1から3等級向上する。
【0028】
塑性加工油は、特にステンレスなどの難塑性材用途において、塩素系極圧剤を使用しているが、この実施の形態では、スプラインの塑性加工に適した塩素フリー塑性加工油を用いた。
【0029】
押し力は、図7に示すように、塩素フリー塑性加工油を用いることで、周波数変調による塑性加工が終了まで一定を保ち、かつ、最小の戻り力とすることができた。
【0030】
シャフトワーク24は、図3に示すように、低炭素合金鋼を冷間鍛造した後、除去加工を加え素形材としている。素形材の形状は、成形するスプライン30の体積と周波数変調による塑性加工する部分の体積を等しくし、かつ、スプライン30を最初に成形する部分である先端部24cを最大径として、この先端部24cから円錐状に周波数変調による塑性加工しない部分である基部24bへ延ばしている。この周波数変調による塑性加工する範囲の形状において、屈曲点がないと、図4及び図5に示すように、歯稜部31にバリが発生することをなくすことができる。
【0031】
このように、シャフトワーク24は、変曲点部がなくバリの発生を抑制し、かつスプライン先端の大径盛下がりを防止することができ、素形材からそのまま製品が得られ、余分部分の除去加工は不要となり、製造コストの低減が可能となる。
【0032】
また、シャフトワーク24にスプライン30を、周波数変調による塑性加工し、金型8を前後にある周波数で振動させながら、すなわち周波数変調運動させながら、素形材へ押し込んで成形することにより、送り力は連続塑性加工と比較し半減、作動エネルギーを節約し、小さな装置で成形が可能になる。また、前後振動により加工油が常に後進時に成形点へ供給され、金型8と素形材との焼付きを防ぎ、小さな送り力は素形材の曲がりや変形なども防ぐことができる。
【0033】
この実施の形態は、シャフトワーク24にスプライン30を、周波数変調による塑性加工する場合について説明したが、これに限定されず、周波数変調によらないで塑性加工する場合にも適用できる。また、シャフトワーク24は、船外機の動力伝達において用いられるが、これに限定されず車両の動力伝達にも用いることができる。
【0034】
船外機においては、原動機であるエンジンから推進機であるプロペラまでの動力伝達には、2本のシャフトを使用している。垂直に配置したエンジンのクランクシャフト後端から下方向へ向かうドライブシャフトと、このドライブシャフトとギアセットを介して直角に交わるプロペラシャフトである。このいずれのシャフトも両端部にスプラインを有する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明は、シャフトワークにスプラインを塑性加工するシャフトスプライン塑性加工方法に適用でき、シャフトワークのスプラインを塑性加工する部分のバリの発生を抑制し、且つスプライン先端の大径盛下がりを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】シャフトスプライン塑性加工装置の概略図である。
【図2】シャフトスプライン塑性加工の金型の断面図である。
【図3】シャフトワークの加工前の側面図である。
【図4】シャフトワークの加工後の平面図である。
【図5】スプライン間の歯稜部の拡大図である。
【図6】塑性加工送り力比較を示す図である。
【図7】送り力評価を示す図である。
【図8】従来のシャフトワークの加工前の側面図である。
【図9】従来のシャフトワークの加工後の平面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 シャフトスプライン塑性加工装置
2 装置本体
3 支柱
4 チャック
5,6 タイバー
7 金型ホルダ
8 金型
9 第1の送り装置
10 加圧シリンダ
11 周波数変調装置
20 支柱
21 第2の送り装置
22 ワーク挿入シリンダ
23 ワークグリップ
24 シャフトワーク
24a スプラインを塑性加工する部分
24b 基部
24c 先端部
24d 傾斜面





【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトワークにスプラインを塑性加工するシャフトスプライン塑性加工方法であり、
前記シャフトワークは、
成形するスプラインの体積と塑性加工する部分の体積を等しくし、
かつ、スプラインを最初に成形する部分を最大径として、
前記最初に成形する部分から円錐状に塑性加工しない部分へ延ばしている、
ことを特徴とするシャフトスプライン塑性加工方法。
【請求項2】
送り装置により前記シャフトワークと金型との間に相対的な運動を発生させ、前記シャフトワークにスプラインを、周波数変調による塑性加工する、
ことを特徴とする請求項1に記載のシャフトスプライン塑性加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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