説明

シャフト炉式ガス化溶融炉の羽口構造

【課題】 本発明は、一旦設置した場所を変えることなく、炉内への空気や酸素等流体の吹き込み位置を変更することができるような羽口構造を提供することを目的とする。
【解決手段】 シャフト炉式ガス化溶融炉の側壁に形成され断面が上下方向に長い長穴状の貫通穴部と、該貫通穴部に密封的に挿入され着脱可能に装着される燃焼用流体供給管ユニットとを有したシャフト炉式ガス化溶融炉の羽口構造であって、前記燃焼用流体供給管ユニットは、断面が長穴状の外管と、外管内を貫通する内管と、外管に対し内管を所定の位置関係になるように固定する連結具と、外管と内管の隙間に充填された耐火物とを備え、内管に燃焼用流体供給配管が接続され、内管から燃焼用流体が炉内に供給される羽口構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可燃性廃棄物を焼却処理するシャフト炉式ガス化溶融炉に用いられる羽口に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、都市ゴミ、下水汚泥などの可燃性廃棄物の処分方法として、焼却して残渣を埋め立てることが行なわれており、焼却には、ダイオキシン類の発生低減、焼却灰の減容化・再資源化という点で、廃棄物をガス化し焼却残渣を溶融するガス化溶融炉が多用されている。また、最近では自動車や家電製品の廃棄量が増大し、これらから発生するシュレッダーダストも、ガス化溶融炉で焼却して減容化することが図られている。特許文献1には、シュレッダーダストをシャフト炉式ガス化溶融炉で処理するための溶融処理方法が開示されている。
【0003】
特許文献1によれば、シュレッダーダストを乾留することにより発生するタール分の滞留を防止して安定操業するためには、図4に示すように、溶融炉30内の充填層表層ラインであるストックライン(SL)近傍の炉内雰囲気温度が550〜650℃になるように操業するとよいこと、このためには、充填層内に空気又は酸素を吹き込む上段羽口31は、ストックラインにできるだけ近接させること、具体的にはストックラインより下方で充填層全体の高さの0〜30%の距離(L)に位置させるとよいことが説明されている。
【特許文献1】特開2003−247708号公報(段落番号0016〜0018)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、シャフト炉式ガス化溶融炉は、都市ゴミなどの一般廃棄物が主たる被処理物であり、シュレッダーダストを溶融処理するシャフト炉式ガス化溶融炉では、都市ゴミも溶融処理することが求められることが多い。このような炉では、通常、都市ゴミとシュレッダーダストとがランダムに供給されることは少なく、例えば1日単位で主にどちらか一方が供給されるような操業形態がとられ、被処理物の性状の違いに合わせて操業条件が変更される。しかし、シュレッダーダストは都市ゴミに比べて灰分が多く焼却残渣に多量の焼却灰が含まれることから、シュレッダーダスト処理時のストックラインは都市ゴミ処理時より上方となり、供給量を変更するなどで対応してもストックラインを同じレベルに合わせることは難しい。このため、特許文献1で示されたように、上段羽口をシュレッダーダスト処理時のストックラインに近接した位置に設置すると、都市ゴミ処理時にはストックラインより上方に出てしまい、上段羽口としての役割を果たさなくなってしまうことがある。特許文献1には、予め炉体の上下方向に複数の上段羽口を設置し、操業に際して適切な位置の上段羽口を選定してもよいとの記述もあるが、多数の羽口を炉壁に設置することは設備的に冗長となり建設費が増加するだけでなく、小型のガス化溶融炉では寸法的に設置することが難しいという問題がある。
【0005】
従って、本発明は、一旦設置した場所を変えることなく、炉内への空気や酸素等流体の吹き込み位置を変更することができるような羽口構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シャフト炉式ガス化溶融炉の側壁に形成され断面が上下方向に長い長穴状の貫通穴部と、該貫通穴部に密封的に挿入され着脱可能に装着される燃焼用流体供給管ユニットとを有したシャフト炉式ガス化溶融炉の羽口構造であって、その燃焼用流体供給管ユニットは、断面が長穴状の外管と、外管内を貫通する内管と、外管に対し内管を所定の位置関係になるように固定する連結具と、外管と内管の隙間に充填された耐火物とを備え、内管に燃焼用流体供給配管が接続され、内管から燃焼用流体が炉内に供給されることを特徴としている。
本発明における燃焼用流体供給管ユニットは、内管が上下方向に偏心するように固定されているものである。ここで言う偏心とは、内管の中心軸と外管の中心軸が一致していない状態を言い、平行にずれたものと角度がずれたものを総称したものである。
また、本発明における前記燃焼用流体供給管ユニットは、外管に対する内管の固定位置が異なる複数のものが用意され、その中から適宜選択して貫通穴部に装着されるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ガス化溶融炉側壁に一旦設置した羽口場所を変えることなく、かつ操業中の炉であっても炉内へ供給する空気や酸素など燃焼用流体等の上下方向の吹き込み位置を変えることができる。従って、都市ゴミとシュレッダーダストを溶融処理するに際してストックラインを同一レベルに制御できない場合に、被処理物のストックラインに合わせて適宜吹き込み位置を変更することで、適切な操業を行なうことができる。また、操業後の状況に基づき羽口位置を変更したい場合でも、長時間炉を止めて大掛かりな工事を行なう必要がないので、稼動率や熱効率を低下させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の羽口構造に係わる焼却設備の一実施の形態を図面を参照して説明する。
焼却設備は、図3に示すように、都市ゴミやシュレッダーダストなどの廃棄物を焼却する焼却炉1とそれに続く排ガス処理装置10を備えている。焼却炉1は、図2に断面図を示す一次燃焼炉空間をなすシャフト炉式ガス化溶融炉(以下、単にシャフト炉と称する)2と、それに連なる二次燃焼空間をなす二次燃焼炉3とを有し、廃棄物をガスと固形物とに分解する。分解ガスは、十分に制御された雰囲気で燃焼させて有害物質を含まないか含んでも極めて低濃度の排ガスとされ、さらに排ガス処理装置10を経て大気中に放出される。固形物は、溶融状態としてメタルと主に酸化物からなるスラグとに二相分離して炉外に取り出される。取り出されたメタルとスラグは直ちに冷却・固化される。固化したスラグはガラス状であり、水にさらしても含有成分がしみ出すことはなく建設材料などとして再利用可能である。
【0009】
シャフト炉2は、炉底部22にコークス層25を形成し、この上に廃棄物Rを積層し、コークス層25を燃焼させてこの熱で廃棄物Rを燃焼及びガス化するものである。本実施例のシャフト炉2は、炉底部22近傍にプラズマトーチ4と、プラズマトーチ4の上方に第一の羽口5と第二の羽口6を設けている。プラズマトーチ4は同一高さの円周上に2ヶ所設け、プラズマトーチ4から吹き出す高温ガスの方向は平面的には炉体の直径方向、立面的には炉底部の底と垂直部の交点方向としている。第一の羽口5及び第二の羽口6は同じく円周上6ヶ所としている。第一の羽口5及び第二の羽口6から吹き込む空気は、排ガス処理装置10内の熱交換器12で二次燃焼後の高温排ガスと熱交換して高温になったものを使用する。
【0010】
プラズマトーチ4から吹き出す高温ガスは、窒素などの不活性ガスまたは空気や酸素富化空気などの酸素含有ガスである。コークス層25及び廃棄物層26に供給する空気の全てをコークス層25に設けるプラズマトーチから供給すると、コークス消費量の増大を招くため、第一の羽口5及び第二の羽口6は廃棄物層26に設ける。なお、コークス層25に酸素含有ガスを供給する羽口(図示せず)を設けることで、プラズマトーチ4を設けないようにすることもできる。
【0011】
シャフト炉2は、底部には溶融スラグ排出口23が設けてあり、略中間部には廃棄物とコークスを供給する材料供給口28が設けてある。材料供給口28の上部には空気供給口7が設けてあり、ファン(図示せず)により燃焼支持ガス(通常は空気)を供給し、廃棄物から発生した可燃ガスを燃焼する。空気供給口7の上部でシャフト炉2の頂部近傍には排ガス口9が設けてあり、排ガス口9と二次燃焼炉3の上部とはダクト8を介して連接してある。図3に示すように、二次燃焼炉3の下流には排ガス処理装置10が連接され、一次冷却塔11、熱交換器12、二次冷却塔13、集塵機14や、排煙脱硝装置等が適宜設けられ、ガスは誘引ファンで引かれて煙突(図示せず)へと導かれる。一次冷却塔11では排ガスを450℃程度まで冷却し、二次冷却塔13ではダイオキシンの再合成反応が起きやすい温度領域である400〜200℃の温度範囲を急速冷却し再合成を抑えている。
【0012】
シャフト炉2は、廃棄物Rの供給とコークスCの供給を例えば3:1の回数割合で行なうと、廃棄物RとコークスCはほぼ交互に層状をなす。しかもコークス/廃棄物の比率は2重量%程度であるが、廃棄物Rの燃焼はコークスCに比してはるかに速やかであるから、上記燃焼空気の大半は廃棄物Rの燃焼に消費されてしまい、コークスCは燃焼し難くその消費量は少ない。その結果廃棄物層26の上部はゴミリッチ層261となり、廃棄物の燃焼及びガス化が進行する廃棄物層26の中部では廃棄物・コークス混在層262となり、廃棄物層26の下部はコークスリッチ層263となる。その結果、炉底部22内の所定の高さまではコークス層25が継続的に形成されており、コークスCの消費量と供給量とがバランスしている状態ではコークス層25のレベルは維持される。従って、第一の羽口5は廃棄物・コークス混在層262又はコークスリッチ層263に設け、第二の羽口6はゴミリッチ層261のストックライン(SL)に近接し越えない位置に設けるのがよい。第二の羽口6は本発明の羽口構造を有しており、被処理物が都市ゴミからシュレッダーダストに変わるなどでストックラインが変動した時に、それに合わせて空気吹き込み位置を変えることができる。
【0013】
以下、第二の羽口6における本発明の羽口構造について図1をもとに詳しく説明する。
第二の羽口6は、シャフト炉2の側壁に形成した断面が上下方向(高さ方向)に長い長穴状の貫通穴部61と、該貫通穴部61に挿入されて締結され密封的に着脱可能に装着される空気や酸素などの燃焼用流体供給管ユニット65を有している。貫通穴部61は、シャフト炉2の外殻21と耐火材22を貫いて形成された長穴状の貫通穴62と、貫通穴62の内壁面とほぼ同一面の内面を有し外殻21に固定された鋼製のフランジ部材63とからなる。流体供給管ユニット65は、断面外形が貫通穴部内面と略同一の長穴状の外管66と、外管66内を貫通する内管67と、外管66に対して内管67を所定の位置になるように固定するとともに前記フランジ部材63にボルトで締結される連結具68と、外管66と内管67の隙間に充填された耐火物69とを備えている。図1(a)に示すように、内管67の外側端部のフランジに燃焼用流体供給配管70が接続され、矢印で示すように内管67から燃焼用流体が炉内に供給される。
【0014】
流体供給管ユニット65は、図1(b)〜(e)に示すように、外管66に対し内管67の固定位置が上下方向に互いに異なったものを用意しておき、被処理物のストックライン(SL)に合わせて適当なものを選定する。従って、被処理物が変わりストックラインが変化した場合、そのストックラインに適した流体供給管ユニット65に交換することで、適切な条件で操業することができる。流体供給管ユニット65は、貫通穴部61とボルト締結で装着されているので、脱着は短時間で容易に行うことができる。従って、連続運転中でも休風運転時等で行なうことができ炉の運転を止める必要がないので、稼動率や熱効率を低下させることがない。なお、図1(b)〜(d)には、羽口の断面と左右の側面を示している。
【0015】
前記流体供給管ユニット65は、内管67の中心軸と外管66の中心軸が、図1(b)、(d)で示すように上下方向に平行であるが所定量ずれたものや、図1(e)で示すように上下方向に所定角度θ交差したものを準備するが、図1(c)で示すように上下方向にほぼ一致したものも準備してもよい。なお、図1(b)、(d)、(e)のように、内管67の中心軸が外管66の中心軸と上下方向に一致しないものは、内管67は偏心していると称することにする。また、羽口形状がほぼ上下対称であれば、内管67が偏心するように固定された流体供給管ユニット65では、上下を逆にして貫通穴部61に装着することで、この流体供給管ユニット65一つで、上下方向2位置に吹き出すことができる。例えば、図1(b)で示す流体供給管ユニット65を上下逆にして貫通穴部61に装着すると、図1(d)に示すような状態となる。従って、被処理物が変わっても吹き出し位置の変更が2箇所でよいような場合には、内管67が偏心するように固定された流体供給管ユニット1種類だけで対応することもできる。
【0016】
貫通穴部61内面又は外管66外面の上下方向長さSは、前述したように、内管67が外管66内で所定量上下方向に異なった位置をとることができる寸法とする。前記所定量は、被処理物が変わる等でストックラインが変化した時、その被処理物に対して燃焼用流体を適切に吹き付ける位置をとることができる量とするが、貫通穴62の形成位置が上下に多少ずれていても対応できるよう、それ以上の量とすることが望ましい。なお、内管67の上下方向移動可能量は外管66に対する形状でも異なり、図1(c)に示す角状のものは、丸状のものに比して移動できる範囲が小さくなるが、耐火物69を充填するための施工性面では優れている。目的に合わせて、適宜角状、丸状、その組合せ形状などを設定すればよい。
【0017】
上述したように、本発明は、ストックライン近傍の燃焼用流体の吹き出し位置を操業中のストックラインの変化に合わせて適宜変更したい場合に適用できるもので、休風運転中等に行うとよいが、第一の羽口5或いは他の流体吹き出し口であっても、当初設定していた流体吹き出し位置を操業後の状況をもとに変更したいような場合にも適用することができる。この場合、炉を長時間停止して、側壁に穴を開け直すという大掛かりな工事を行なわなくてもよいため、稼動率や熱効率を低下させないだけでなく、設備費用面でも有効である。なお、本発明は、予め上下位置に複数の羽口を設置することが難しい小型のシャフト炉に特に適しており、廃棄物の排出量が比較的少ない(例えば1日当たり100トン以下)自治体などに設置されるシャフト炉に対し有効である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の羽口構造を説明するための概略図である。
【図2】本発明の羽口に係わるシャフト炉式ガス化溶融炉の一例を示す概略図である。
【図3】前記シャフト炉式ガス化溶融炉を備えた焼却設備の一例を示す概略図である。
【図4】従来のストックラインと羽口位置の関係を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0019】
1 焼却炉
2 シャフト炉
3 二次燃焼炉
4 プラズマトーチ
5 第一の羽口
6 第二の羽口
25 コークス層
26 廃棄物層
21 炉体の外殻
22 炉体の耐火材
61 貫通穴部
62 側壁の貫通穴
63 フランジ部材
65 流体供給管ユニット
66 外管
67 内管
68 連結具
69 耐火物
261 ゴミリッチ層
262 廃棄物・コークス混在層
263 コークスリッチ層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト炉式ガス化溶融炉の側壁に形成され断面が上下方向に長い長穴状の貫通穴部と、該貫通穴部に密封的に挿入され着脱可能に装着される燃焼用流体供給管ユニットとを有したシャフト炉式ガス化溶融炉の羽口構造であって、
前記燃焼用流体供給管ユニットは、断面が長穴状の外管と、外管内を貫通する内管と、外管に対し内管を所定の位置関係になるように固定する連結具と、外管と内管の隙間に充填された耐火物とを備え、内管に燃焼用流体供給配管が接続され、内管から燃焼用流体が炉内に供給されることを特徴とする羽口構造。
【請求項2】
前記燃焼用流体供給管ユニットは、内管が上下方向に偏心するように固定されている請求項1記載の羽口構造。
【請求項3】
前記燃焼用流体供給管ユニットは、外管に対する内管の固定位置が異なる複数のものが用意され、その中から適宜選択して貫通穴部に装着される請求項1記載の羽口構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−85563(P2007−85563A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271177(P2005−271177)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】