説明

シュープレス装置及びその加圧脱水方法

【課題】シュープレス装置において、ブランケットとプレスシューとの間のニップ部に形成される潤滑油膜を適正範囲に保持して、ブランケットの破損又は破断を防止し、かつ低動力で省エネ運転を達成する。
【解決手段】固定された支持軸の周りを回転可能に配置された筒状又はループ状のブランケット2と、該ブランケットと湿紙wを挟むカウンタロール3と、該ブランケットを該ブランケットの背面側から加圧するプレスシュー1と、該ブランケットと該プレスシューとのニップ部に潤滑油を供給する手段4とを備えたシュープレス装置において、ブランケット2とプレスシュー1とのニップ部に形成された潤滑油膜oにレーザ光lを照射し該レーザ光が潤滑油膜oの表面及び裏面から反射する反射光rを分析して潤滑油膜oの膜厚を測定する測定装置本体21を設け、該油膜厚を適正範囲に保持しながら加圧脱水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿紙を加圧脱水する抄紙機のプレスパート等に設けられたシュープレス装置において、ブランケットとプレスシューとのニップ部に形成される潤滑油膜の膜厚を測定し、該膜厚を適正範囲に維持することにより、潤滑油の膜切れを防止するとともに、低動力運転を可能にしたシュープレス装置及びその加圧脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機のプレスパートには、湿紙を加圧脱水するためのシュープレス装置を備えたものがある。このシュープレス装置は、プレスシューとカウンタロールとが備えられ、プレスシューの周りには筒状のブランケット又は複数のガイドローラに案内されるループ状のブランケットが回転自在に配置されている。ブランケットは粘弾性を有し、例えばウレタンゴムを主体とし、それに基布を織り込んで製造される。ブランケットとカウンタロール間には湿紙の走行方向に所定長さを有するニップ部が形成され、湿紙はその両面又は片面をフェルトで担持されながらブランケットとともに該ニップ部を通過して加圧脱水される。
【0003】
前記ニップ部においてブランケットはプレスシューに圧接しながら移動するため、ブランケットとプレスシューとの間に潤滑油を供給し、該ニップ部では潤滑油膜を形成してブランケットが潤滑油膜を介してプレスシューに対して円滑に摺動できるようにしている。
この潤滑油の作用態様によって、シュープレス装置は一般に動圧型と静圧型に分類される。たとえば特許文献1(特開2004−137618号公報)には、従来公知の動圧型シュープレス装置が開示されている。
【0004】
図8は該公知の動圧型シュープレス装置を示す模式的横断面図である。図8において、プレスシュー101は潤滑油の動圧によってブランケット102を支持し、カウンタロール103側へ押付けるようになっている。潤滑油は、プレスシュー101の入側、即ち、ブランケット102がプレスシュー101のプレス面111に進入する部分に設けられたシャワー104からブランケット102の内面に噴射され、ブランケット102の内面に潤滑油膜を形成する。
【0005】
湿紙wは、フェルトf及びfに挟持されてブランケット102とカウンタロール103とのニップ部に矢印a方向から進入し、加圧脱水される。また油圧ピストン113及び114は支持梁112に支持され、プレスシュー101をブランケット102に向けて付勢する。
【0006】
一般に動圧型シュープレス装置では必要油膜厚を確保するために高粘度の潤滑油が用いられ、潤滑油はブランケット102の回転に伴い、ブランケット102の背面に付着した状態でプレスシュー101とブランケット102の間に巻き込まれる。そして、潤滑油がカウンタロール103の形状に合わせて形成されたプレス面111上を流れる際の速度に応じて動圧が発生し、この動圧によってブランケット102はプレスシュー101に非接触状態で支持される。
【0007】
一方、静圧型シュープレス装置では、プレスシューは該ブランケットから供給される高圧の潤滑油の静圧によってブランケットを支持し、カウンタロール側へ押付けるようになっている。このため、プレスシューの表面には高圧の潤滑油を溜めるための静圧ポケットが形成されている。静圧ポケットには高圧の潤滑油が注入され、注入された潤滑油の圧力(静圧)によりブランケットがプレスシューに非接触状態で支持される。
【0008】
さらに特許文献1には、静圧を主体としてこれに動圧を加味したいわば混合型のシュープレス装置も開示されている。図9はこの混合型シュープレス装置の構造を示す概略図である。図9において、プレスシュー201は動圧型シュープレス装置と同様に、カウンタロール203の形状に合わせて形成されたプレス面211を備えている。プレスシュー201とブランケット202との間に巻き込まれてくる潤滑油には、このプレス面211上を流れる際の速度に応じて動圧が発生する。
【0009】
またプレス面211の中央部には静圧型シュープレス装置と同様に、静圧ポケット212が形成されており、図示しない油圧ポンプに接続された油供給孔213から静圧ポケット212に高圧の潤滑油が注入される。従って、この混合型シュープレス装置では、ブランケット202は、プレス面211上を流れる潤滑油の動圧と静圧ポケット212に注入された潤滑油の静圧とによってプレスシュー201に非接触状態で支持される。
【0010】
また特許文献2(特開2000−291641号公報)及び特許文献3(特表2001−518574号公報)には、前記混合型のシュープレス装置が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開2004−137618号公報
【特許文献2】特開2000−291641号公報
【特許文献3】特表2001−518574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のようにブランケットとプレスシューとの間には潤滑油膜が形成され、油膜切れが起こると、ブランケットの破損又は破断に繋がる。このため動圧型シュープレス装置では必要油膜厚を確保しやすい比較的高粘度の潤滑油が用いられるが、潤滑油の粘度が高いと、大きなせん断力が発生し、発熱しやすい。ウレタンゴムを主体とするブランケットの許容温度は約80℃であり、これ以上になると、熱変形を起こし、ブランケットの寿命が短縮されるとともに、湿紙に均一な圧力が付加されなくなる。
また潤滑油の粘度が高いほど油圧ポンプ等の動力がかかり、省エネに反するとともに、取り扱いが面倒になるという問題がある。
【0013】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、シュープレス装置において、ブランケットとプレスシューとの間のニップ部に形成される潤滑油膜を該ニップ部の入口から出口まで安定して確保することにより、ブランケットの破損又は破断を防止し、かつ低動力で省エネ運転を達成できるシュープレス装置及びその加圧脱水方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するため、本発明のシュープレス装置は、固定された支持軸の周りを回転可能に配置された筒状又はループ状のブランケットと、該ブランケットと湿紙を挟むカウンタロールと、該カウンタロールを該ブランケットを介して加圧するプレスシューと、該ブランケットと該プレスシューとのニップ部に潤滑油を供給する手段とを備えたシュープレス装置において、
前記ブランケットと前記プレスシューとのニップ部に形成された潤滑油膜にレーザ光を照射し該レーザ光が該潤滑油膜の表面及び裏面から反射する反射光を分析して該潤滑油膜の膜厚を測定する測定装置を設けたものである。
【0015】
ブランケットとプレスシューとの間には潤滑油膜が形成され、プレスシューの加圧力によって線圧が保持されるが、ブランケットがウレタンゴムを主体とし、粘弾性体であるため、従来油膜厚測定が難しく、また厳密な解析を行なう場合、ブランケットの弾塑性特性を考慮したETHL(弾性熱流体潤滑)解析が必要であるが、ETHL解析が困難であり、正確な油膜厚測定は困難であった。
【0016】
本発明装置では、レーザ光を使用した測定法による測定装置を設けたことにより、潤滑油膜の膜厚を測定可能にしたものである。この測定装置では、潤滑油膜の測定箇所にレーザ光を照射し、該潤滑油膜の表面から反射した反射光及び該潤滑油膜の裏面から反射した反射光を受光し、受光した反射光を反射光の強度に対応した電気信号に変換する。該電気信号からノイズを除去し、該電気信号の強度及び反射光を受光した位置に対応した波形をつくる。これら2つの波形の波形間距離から該潤滑油膜の膜厚を測定するものである。
【0017】
本発明装置においては、前記構成の測定装置を設けることにより、該潤滑油膜の膜厚測定を可能にしたものである。従って該潤滑油膜厚の測定値を監視しながらシュープレス装置の運転を行ない、油膜厚が油膜切れのおそれのある50μmに近づいた場合には、油膜厚を増加することによって、油膜切れを防止することができる。
なお本発明装置の前記測定装置は、正反射方式又は拡散反射方式のどちらを採用した測定装置であってもよい。
【0018】
本発明装置において、前記測定装置は、プレスシューの長手軸方向の外側に配置されレーザ光を発信し、測定箇所の前記潤滑油膜で反射した該レーザ光の反射光を受信する測定装置本体と、該プレスシューの内部に配置され、該測定装置本体から発信するレーザ光を測定箇所の前記潤滑油膜側へ反射するとともに該潤滑油膜で反射した反射光を該測定装置本体側へ反射する反射鏡と、該プレスシューの内部に設けられた前記レーザ光及びその反射光の導通孔とから構成するのが好ましい。
【0019】
プレスシューの内部は、潤滑油膜がせん断力を受けて加熱されるため温度が高く、かかるプレスシューがカウンタロールに与える加圧力の反力をカウンタロールから受けるため、前記測定装置本体はプレスシューの長手軸方向外側に配置する必要がある。また、該測定装置本体が発信するレーザ光を潤滑油膜に向けて反射する反射鏡は、プレスシューの内部に設けたレーザ光の潤滑油膜の測定箇所までの到達、及び潤滑油膜の表面及び裏面で反射した反射光が該測定装置本体に到達するのを容易にする。
レーザ光はプレスシュー内部の高温環境によって変化することはないので、レーザ光をプレスシューの内部に通した油膜厚の測定に十分適用できる。
【0020】
前述のように潤滑油膜の表面及び裏面で反射した反射光を該測定装置本体で取り込んで分析する場合、潤滑油膜の表面と裏面の距離が微小であるので、潤滑油膜の表面及び裏面で反射した反射光を基に表示した2つの波形が重なり合い、これら波形間の距離を正確に測定できない場合がある。
そのため本発明装置において、レーザ光が照射される潤滑油膜の前面にレーザ光の進行方向に所定厚を有する反射体を設け、該反射体で反射した反射光を該測定装置本体で受信して該潤滑油膜の膜厚を測定するように構成するとよい。
【0021】
潤滑油膜の前面にレーザ光の進行方向に比較的大きな厚さを有する反射体を設け、該反射体の前面で反射させた反射光を測定装置に取り込み、前述の手法で波形をつくる。潤滑油膜の裏面と反射体の表面とは比較的離れているので、潤滑油膜の裏面で反射した反射光でつくった波形と反射体の表面で反射した反射光でつくった波形とは、比較的離れて表示される。従って、これら波形間の距離を正確に測定することは容易である。この距離から該反射体の厚さを減算することにより、潤滑油膜の膜厚を正確に測定することができる。該反射体は、プレスシュー内の高圧環境に対応できる耐圧強度のある材料で構成されるとよい。
【0022】
また本発明装置において、潤滑油を貯留するタンクと、該タンク内の潤滑油を冷却する手段と、該潤滑油の温度を検知するセンサと、該センサの温度検出値及び前記測定装置の油膜厚測定値に基づいて該冷却手段を制御するコントローラとを備え、該コントローラによって該潤滑油の温度を制御することにより該潤滑油膜の膜厚を所定の範囲に制御するように構成するとよい。
【0023】
潤滑油は温度を高くすれば粘度が低下し、温度を低くすれば粘度が増加する。また潤滑油膜は、プレスシューとブランケットとの間のニップ部でせん断力を受けて加熱され、運転中次第に温度が高くなって粘度が低下し、該ニップ部で油膜厚が小さくなる傾向にある。
従ってシュープレス装置の運転中、潤滑油膜厚とタンク内の潤滑油の温度を検知しながら前記コントローラにより該タンク内の潤滑油の温度を制御することにより、該ニップ部の潤滑油膜厚を適正範囲に維持させることができる。
【0024】
また本発明装置を用いた本発明の加圧脱水方法は、潤滑油膜にレーザ光を照射しその反射光を分析することにより該潤滑油膜の膜厚を測定し、該膜厚を50μm以上に保持しながら湿紙の加圧脱水を行なうものである。
潤滑油膜の膜厚を監視しながら加圧脱水運転を行なうことで、潤滑油膜の膜切れを未然に防止することができる。潤滑油膜の膜厚が必要以上に大きい場合には、潤滑油の温度を上げる等の方法により潤滑油の粘度を低下させることにより該膜厚を小さくすることができる。これによって該膜厚を適正範囲にすることができる。また潤滑油膜の膜厚を監視しながら加圧脱水運転を行なうため、潤滑油膜を必要以上に高粘度にすることがなく、かつ該膜厚を必要以上に増大させることがないので、加圧脱水運転に要する動力を低下させることができる。
【0025】
潤滑油膜の膜厚は50μmが最小許容膜厚であり、これ以下になると、油膜切れによりブラケットの破損又は破断に繋がる危険域となる。従って潤滑油膜の膜厚は油膜全域に亘って50μm以上とする必要がある。また潤滑油膜の膜厚の適正範囲は100〜500μmである。潤滑油膜の膜厚を該適正範囲に保持して運転することにより、膜切れのおそれがなく、かつ低動力運転が可能になる。また潤滑油の発熱も少なくなるので、ブランケットの熱変形を招くこともない。
また本発明方法において、潤滑油膜の膜厚が前記適正範囲内に保持されるように該潤滑油膜の温度を制御するようにすれば、潤滑油膜の温度を制御することにより潤滑油の粘度を制御し、これによって容易に該膜厚を該適正範囲に保持して運転することができる。
【0026】
また本発明方法において、プレスシューの長手軸方向両端部であってブランケットとプレスシューとのニップ部の入口部及び出口部の油膜を測定するとよい。該ニップ部の油膜厚は該ニップ部の中央部よりも長手軸方向両端部で小さくなる傾向があるので、該両端部の油膜厚を測定すれば、特にプレスシュー中央部での膜厚を測定する必要はない。プレスシューの長手軸方向両端部での油膜厚測定は、測定装置をシュープレス装置の長手軸方向の外側に設置して行なうことができる。従って測定装置を高温高圧環境にあるプレスシューの内部に設ける必要がないので、測定装置の正常な作動を維持できる利点がある。
【0027】
また、油膜厚は通常の操作では該ニップ部の入口部及び出口部で最大膜厚又は最小膜厚となるように制御されるので、該入口部及び出口部の油膜厚を測定しておけば、該ニップ部の湿紙走行方向のほぼ全領域の油膜厚の最大値及び最小値を把握することができる。
従ってプレスシューの両端部の該入口部及び出口部の油膜厚を測定して、それを監視することにより、該ニップ部全域での油膜厚を適正範囲に保持することができる。
【0028】
また本発明方法において、シュープレス装置を動圧型及び静圧型の組み合わせとし、プレスシューとブランケットのニップ部に供給される潤滑油の動圧とプレスシューの該ニップ部に面して設けられた静圧ポケットに注入される該潤滑油の静圧とを組み合わせることによって、油膜厚を前記適正範囲に保持するようにするとよい。
該潤滑油膜に動圧のみならず、プレスシューの加圧面に静圧を付与することにより、油膜厚を形成するのが容易になる。従って潤滑油の粘度に関わらず油膜厚を危険値以上に保持するのが容易になる。このように動圧に静圧を組み合わせることによって、該ニップ部の湿紙の走行方向入口部から出口部の全域に亘る油膜厚の制御が容易になり、かつ動力を最小にする油膜厚に制御することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のシュープレス装置及びその加圧脱水方法によれば、シュープレス装置にレーザ光を利用した測定装置を設けることにより、ブランケットとプレスシューとの間の潤滑油の膜厚を測定し、該測定値を監視しながら加圧脱水を行うので、該膜厚を適正範囲、好ましくは100〜500μmの範囲内に保持することが容易になる。従って、油膜切れによるブランケットの破損又は破断を起こすことがなく、かつ必要以上に潤滑油の粘度を高くする必要がないので、シュープレス装置の運転時の動力を低減し、省エネを達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、本発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
(実施形態1)
【0031】
図1は本発明を動圧型シュープレス装置に適用した第1実施形態の部分構成図、図2は、図1中のX−X線に沿う断面図である。図1は従来の動圧型シュープレス装置を示す図7の上部に相当する部分の図である。図1において、抄紙機のプレスパート等に設けられたシュープレス装置では、プレスシュー1とカウンタロール3との間にニップ部が形成され、該ニップ部にウレタンゴムを主材料とする粘弾性を持つ筒状のブランケット2が回転可能に配置されている。ブランケット2は図示しない固定された支持軸の回りを回転可能に配置されている。
【0032】
カウンタロール3とブランケット2は、矢印a方向に回転し、プレスシュー1は油圧ピストン13によって矢印b方向に移動して、そのプレス面11でブランケット2を介しカウンタロール3との間で長手軸方向に100〜1000kN/mの線圧を形成する。ブランケット2がプレスシュー1のプレス面11に進入する入口部分に設けられたシャワー4から潤滑油がブランケット2の背面に向けて噴射され、ブランケット2の背面に潤滑油膜oを形成する。潤滑油がプレスシュー1とブランケット2との間に巻き込まれ、プレス面11上を流れる際の速度に応じて動圧が発生する。湿紙wは、その両側をフェルトf及びfに挟まれた状態でシャワー4が配置された入口側からブランケット2の表面とカウンタロール3間のニップ部に進入し、矢印a方向に走行して加圧脱水されて該ニップ部から出る。
【0033】
プレスシュー1は油圧ピストン13にピン5を介して取り付けられ、ピン5を中心として矢印c方向に微小角度回転可能である。またピン5の周囲に円弧状の長孔6が穿設され、長孔6に図示しない固定部材に取り付けられたピン7が挿入され、プレスシュー1の矢印c方向の回転によりピン7が長孔6内を摺動するとともに、ピン7が長孔6内の任意の位置でプレスシュー1を固定できる構成になっている。これによってブランケット2とプレスシュー1の間隔を湿紙wが該ニップ部に進入する入口部(以下「入口部」という)及び湿紙wが該ニップ部を出る出口部(以下「出口部」という)で微小に調整可能であり、従って該入口から該出口に亘る該ニップ部の潤滑油による動圧分布を変更することができる。
【0034】
図2は図1のX−X断面図、図3はプレスシュー1を上から視た模式図である。図3に示すように、潤滑油の膜厚を測定するための測定装置本体21がプレスシュー1の長手軸方向両端部の外側であって、該ニップ部の入口部及び出口部にそれぞれ4箇所に設けられている。
【0035】
図2に該測定装置の詳細を示す。図2において、プレスシュー1には長手軸方向にレーザ光を通す孔22が穿設され、孔22は反射鏡23が設置された空間24に連通されている。空間24の内部で反射鏡23は該孔22を通るレーザ光lを測定箇所となる潤滑油膜oに向けて直角方向に反射するように配置される。反射鏡23で反射されたレーザ光lは測定箇所となる潤滑油膜oの表面及び裏面で反射され、それらの反射光は反射鏡23に戻り、反射鏡23で再び反射されて測定装置本体21で受光される。
【0036】
潤滑油膜の測定方法の原理を図4により説明する。図4(A)において、測定対象物31の厚さdを測定する場合、測定対象物31にレーザ光lを照射し、測定対象物31の第1面(表面)及び第2面(裏面)で反射した反射光r及びrを受光部32で受光する。
受光部32では、反射光の光量に応じた電圧信号、例えば明の場合は高く暗の場合には低い電圧信号を出力し、この電圧信号からノイズを除去し、最適化処理し、該電気信号の強弱に対応した波形で表すと、図4(B)のようになる。
【0037】
図4(B)中、eが反射光rによる波形であり、eが反射光rによる波形である。これらの波形間の距離hは、受光部32で受光した時の反射光間の距離に対応するものであり、反射光間の距離は第1面と第2面との間隔dに対応するものである。これによって波形eと波形eとの距離を求めることで測定対象物31の厚さdを求めることができる。
【0038】
本実施形態において、前記の原理により、潤滑油膜oにレーザ光rを照射することにより、潤滑油膜oの厚さを測定できるが、潤滑油膜oの膜厚が微小であると、表面及び裏面での反射光の波形が重なり合って波形間の距離hを正確に求めることが出来ない場合がある。
そこで本実施形態では、図2に示すように、反射鏡23で潤滑油膜の方向に反射されたレーザ光の経路中に、潤滑油膜oの表面jに対面して反射体25が配置されている。反射体25はガラスでできており、レーザ光lに対面する表面gと裏面gとの間隔は予め所定寸法に決められている。ただし反射体25の厚さは潤滑油膜oの膜厚よりも十分に大きいものを用いる。
【0039】
かかる構成において、測定装置本体21から反射鏡23に向けてレーザ光rを照射すると、レーザ光lは反射鏡23で潤滑油膜oに向けて反射される。その後レーザ光lは反射体25の表面g、潤滑油膜oの表面j及び裏面jでそれぞれ反射され、それらの反射光はさらに反射鏡23で反射されて、測定装置本体21に受光される。この測定装置本体21は拡散反射方式もしくは正反射方式を採用したものである。なお拡散反射方式を採用する場合は、反射光は反射位置に応じて微小位置だけずれて受光される。
【0040】
測定装置本体21で受光された各反射光は前記のような電圧信号への変換が行われ、図4(B)に示すような波形で表すことができる。この場合、潤滑油膜oの膜厚は微小であるので、潤滑油膜oの表面jの反射光による波形と裏面jの反射光による波形は接近してほとんど重なり合ってしまい、これら波形間の距離を正確に求めることが困難な場合がある。
【0041】
しかし、潤滑油膜oの裏面jの反射光による波形と反射体25の表面gの反射光による波形とは十分に離れて表示されるので、これらの波形間の距離を正確に求めることができる。従ってまずこれら波形間の距離を測定して潤滑油膜oの裏面jと反射体25の表面gとの間の距離を求め、その値から予めわかっている反射体25の厚さiを減算すれば、潤滑油膜oの膜厚kを正確に求めることができる。
なお反射体25は、レーザ光を反射するものであれば、使用可能であるが、プレスシュー1の内部に設けられるため、プレスシュー1が受ける線圧に耐えられる強度を有するものであり、かつ潤滑油がせん断力を受けた場合に発する熱に耐えられる材質のものとするのがよい。
【0042】
このように本実施形態では、プレスシュー1とブランケット2とのニップ部の長手軸方向両端部及び入口部と出口部の潤滑油膜oの膜厚kを測定しつつシュープレス装置を運転することができる。従って、潤滑油膜oの膜厚が油膜切れとなる危険値である50μmに近づいた時は、潤滑油の温度を制御して潤滑油の粘度を制御することによって、油膜厚を適正範囲である100〜500μmの範囲内に戻すようにする。なお、場合によってはプレスシュー1とブランケット2間の線圧を制御するか、あるいは油膜厚が50μm以下になり、緊急を要する時は装置を停止することができる。
【0043】
図5は本実施形態の制御系を示すブロック線図である。本実施形態では、図5に示すように、潤滑油タンク26の潤滑油の温度を検知する温度センサ27と、潤滑油タンク26に貯留された潤滑油を所望の温度に冷却する冷却手段28と、温度センサ27の検出温度と測定装置本体21で測定した潤滑油膜値を入力し、潤滑油膜厚が適正値である100〜500μmの範囲内に維持するように冷却手段28を制御するコントローラ29とを備える。また緊急の場合、即ち油膜厚が50μmを以下になっているような場合は、コントローラ29からの指令でシュープレス装置の駆動装置30を停止させることができる。
【0044】
湿紙wの加圧脱水運転中、潤滑油は、プレスシュー1とブランケット2のニップ部で絶えずせん断力を受けるため徐々に温度が高くなる傾向にある。潤滑油の温度が高くなると、粘度が低下し、粘度が低下すると、潤滑油膜oの膜厚は減少する。潤滑油膜oの膜厚が減少して50μmに近づくと、ブランケット2の破損又は破断のおそれがあるので、本実施形態では、測定装置本体21が100μm以下の膜厚を検知すると、コントローラ29によって冷却手段28を作動させ、潤滑油タンク26の潤滑油の温度を下げるようにする。
【0045】
潤滑油の温度を下げることによって、潤滑油の粘度を上げ、膜厚を適正値である100〜500μmの範囲内に戻すことができる。あるいは逆に潤滑油膜oの膜厚が500μmを越えた場合には、潤滑油の冷却を止めて潤滑油の粘度を下げることにより、膜厚を500μm以下にすることができる。
このようにして、図6に示すように潤滑油膜oの膜厚を適正値である100〜500μmの範囲内に維持して運転することができる。
【0046】
このように本実施形態によれば、潤滑油膜oの膜厚を監視しながらシュープレス装置を運転できるので、油膜厚を適正範囲に保持して運転することができる。
通常潤滑油の粘度は150〜220cstで運転しているが、本実施形態によれば、油膜厚を100〜500μmに保持できるので、安全のため必要以上に潤滑油の粘度を高くする必要がない。従って、100〜150cstの低粘度で運転が可能になり、これによってシュープレス装置の動力を10%低減できる。
【0047】
また低粘度の潤滑油で運転できるようになるので、プレスシュー1のプレス面11や潤滑油境界層での摩擦動力が減り、これによってプレスシュー1の発熱が抑えられ、ブランケット2の寿命が延びる長所がある。
(実施形態2)
【0048】
次に本発明を動圧と静圧を併用したハイブリッドシュープレス装置に適用した実施形態を図7により説明する。図7において、前記第1実施形態を示す図1と同一の部位又は機器は図1と同一の符号を付し、これら同一符号を付した部位又は機器の説明を省略する。
図7において、図1と異なる構成は、プレスシュー1のプレス面11の中央部に静圧ポケット41が設けられ、該静圧ポケット41の出口側(湿紙wの走行方向下流側)に段差部42を介して深さの浅い第2の静圧ポケット43が設けられている。第2の静圧ポケット43の深さは200μmとしている。
【0049】
これら静圧ポケット41及び43にはプレスシュー1に穿設された油供給孔44を介して油圧ポンプ45から高圧の潤滑油が注入され、静圧ポケット41及び43に注入された潤滑油の圧力(静圧)がブランケット2に付与される。本実施形態のシュープレス装置のプレス面11の潤滑油による圧力分布は、シャワー4から供給された潤滑油の発生する動圧と静圧ポケット41及び43に注入された潤滑油が発生する静圧の圧力分布の合計となる。また静圧による圧力分布は、静圧ポケット41の出口側に深さの浅い第2の静圧ポケット43を設けたことにより、入口部から出口部に向かって圧力が高くなる搾水に適した圧力分布となる。
【0050】
本実施形態のように動圧型と静圧型を併用する場合、潤滑油膜oの膜厚を測定しながら運転し、静圧を調整し、シャワー4から供給する潤滑油量を調整することで動圧を調整する。この場合、潤滑油の粘度にかかわらず、静圧の作用で潤滑油の膜厚を一定の範囲に維持しやすくなる。またプレスシュー1とブランケット2とのニップ部において、入口部から出口部に至る全領域に亘って圧力分布を調整できるので、該全領域に亘って潤滑油膜厚を調整可能となる。
【0051】
本実施形態によれば、静圧を作用させることで動圧を低減できるため、従来の動圧型シュープレス装置より低動力で運転でき、従来のシュープレス装置より動力を20%低減できる。また静圧を常時作用させることで、潤滑油の膜切れを起こさないため、ブランケット2の破損又は破断を防止できるとともに、前記第1実施形態よりも潤滑油の適正な膜厚を50〜100μmに低減できる。このように潤滑油の粘度にあまり影響を受けずに、潤滑油の膜厚を適性値に保持できる。
(実施形態3)
【0052】
次に本発明の第3実施形態を説明する。本実施形態は、静圧型シュープレス装置に本発明を適用した場合である。即ち図7の静圧ポケット41及び43に供給した潤滑油によりプレスシュー1のプレス面11とブランケット2との間に潤滑油膜を形成し、該潤滑油の静圧を0.5〜5Mpaとするものである。
本実施形態においても、潤滑油膜の膜厚を測定しながら運転し、該測定結果に基づき静圧ポケットに供給する潤滑油の静圧及び潤滑油量を微調整し、プレスシューとブランケットとの間の潤滑油膜を維持する。
【0053】
このように静圧型シュープレス装置においても、本発明を適用することにより、プレスシューのプレス面とブランケットとの間の潤滑油膜を維持して、ブランケットの破損又は破断を防止できる。
なお本発明のシュープレス装置は、抄紙機のプレスパートのみならず、ドライヤパートの下流側に設けられ湿紙表面に光沢を出す工程であるカレンダパートに適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、シュープレス装置のプレスシューとブランケットとのニップ部に形成される潤滑油の膜厚を適正範囲に保持してブランケットを破損又は破断を招かない安全運転と低動力運転をともに可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を動圧型シュープレス装置に適用した第1実施形態の部分構成図である。
【図2】図1中のX−X線に沿う断面図である。
【図3】前記第1実施形態のプレスシュー1の平面視模式図である。
【図4】潤滑油膜の測定方法の原理を示す説明図である。
【図5】前記第1実施形態の制御系を示すブロック線図である。
【図6】前記第1実施形態の潤滑油膜厚制御曲線を示す線図である。
【図7】本発明を動圧型及び静圧型を組み合わせたシュープレス装置に適用した第1実施形態の部分構成図である。
【図8】従来公知の動圧型シュープレス装置を示す模式的横断面図である。
【図9】従来公知の動圧型及び静圧型を組み合わせたシュープレス装置を示す模式的横断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 プレスシュー
2 ブランケット
3 カウンタロール
4 シャワー
13 油圧ピストン
21 測定装置本体
22 孔
23 反射鏡
25 反射体
26 潤滑油タンク
27 温度センサ
28 冷却手段
29 コントローラ
l レーザ光
o 潤滑油膜
r 反射光
w 湿紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された支持軸の周りを回転可能に配置された筒状又はループ状のブランケットと、該ブランケットと湿紙を挟むカウンタロールと、該カウンタロールを該ブランケットを介して加圧するプレスシューと、該ブランケットと該プレスシューとのニップ部に潤滑油を供給する手段とを備えたシュープレス装置において、
前記ブランケットと前記プレスシューのニップ部に形成された潤滑油膜にレーザ光を照射し、該レーザ光が該潤滑油膜の表面及び裏面から反射する反射光を分析して該潤滑油膜の膜厚を測定する測定装置を設けたことを特徴とするシュープレス装置。
【請求項2】
前記測定装置が、
前記プレスシューの長手軸方向の外側に配置され、レーザ光を発信し、測定箇所の前記潤滑油膜で反射した該レーザ光の反射光を受信する測定装置本体と、
該プレスシューの内部に配置され、該測定装置本体から発信するレーザ光を測定箇所の前記潤滑油膜側へ反射するとともに該潤滑油膜で反射した反射光を該測定装置本体側へ反射する反射鏡と、
該プレスシューの内部に設けられた前記レーザ光及びその反射光の導通孔とから構成されることを特徴とする請求項1に記載のシュープレス装置。
【請求項3】
前記レーザ光が照射される前記潤滑油膜の前面にレーザ光の進行方向に所定厚を有する反射体を設け、該反射体で反射した反射光を該測定装置本体で受信して該潤滑油膜の膜厚を測定するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のシュープレス装置。
【請求項4】
前記潤滑油を貯留するタンクと、該タンク内の潤滑油を冷却する手段と、該潤滑油の温度を検知するセンサと、該センサの温度検出値及び前記測定装置の油膜厚測定値に基づいて該冷却手段を制御するコントローラとを備え、
該コントローラによって該潤滑油の温度を制御することにより該潤滑油膜の膜厚を所定の範囲に制御するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のシュープレス装置。
【請求項5】
請求項1のシュープレス装置を用いた加圧脱水方法において、
前記潤滑油膜にレーザ光を照射し、その反射光を分析することにより該潤滑油膜の膜厚を測定し、該膜厚を50μm以上に保持しながら湿紙の加圧脱水を行なうことを特徴とするシュープレス装置の加圧脱水方法。
【請求項6】
前記潤滑油膜の膜厚を100〜500μmに保持することを特徴とする請求項5に記載のシュープレス装置の加圧脱水方法。
【請求項7】
前記潤滑油膜の膜厚が前記適正範囲内に保持されるように該潤滑油膜の温度を制御することを特徴とする請求項5又は6に記載のシュープレス装置の加圧脱水方法。
【請求項8】
前記プレスシューの長手軸方向両端部であって前記ニップ部の湿紙走行方向の入口部及び出口部の潤滑油膜の膜厚を測定することを特徴とする請求項5に記載のシュープレス装置の加圧脱水方法。
【請求項9】
前記シュープレス装置が動圧型及び静圧型の組み合わせであって、前記ニップ部に供給される前記潤滑油の動圧と前記プレスシューの該ニップ部に面して設けられた静圧ポケットに注入される該潤滑油の静圧とを組み合わせることによって、該潤滑油膜の膜厚を前記適正範囲に保持することを特徴とする請求項5又は6に記載のシュープレス装置の加圧脱水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−121170(P2008−121170A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309731(P2006−309731)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】