説明

シューホールドダウン装置

【課題】シューホールドダウンピンの扁平頭部をカップ部材の掛止穴に能率よく容易に挿通させるシューホールドダウン装置を提供する。
【解決手段】シューホールドダウンピン56の大径基部56aの底面56dには、シューホールドダウンピン56の扁平頭部56bの扁平方向に関連する形状で突き出された突部56eが備えられているため、作業者がシューホールドダウンピン56の大径基部56aの底面56dに備えられた突部56eを触ることによって扁平頭部56bを見なくてもシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bの扁平方向が分かるので、カップ部材54の掛止穴54aにシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bを能率よく容易に挿通させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキ用のシューホールドダウン装置に係り、特にシューホールドダウン装置をドラムブレーキに容易に組み付けるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ドラムブレーキに用いられるシューホールドダウン装置は、たとえば特許文献1に示すように、(a) 一軸心まわりにコイル状に巻回され、その一軸心がブレーキシューウェブに対して垂直となるようにそのブレーキシューウェブ上に載置されたシューホールドダウンスプリングと、(b) そのシューホールドダウンスプリング上に載置された円板状のカップ部材と、(c) 大径基部がバッキングプレートの所定位置に設けられた取付穴の周縁に掛止されるとともに扁平頭部がそのブレーキシューウェブとそのシューホールドダウンスプリングとを通りそのカップ部材に長手状に形成された掛止穴を挿通するシューホールドダウンピンとを有し、(d) そのシューホールドダウンスプリングが圧縮されそのシューホールドダウンピンの扁平頭部がそのカップ部材の掛止穴に挿通されるとともにそのカップ部材がそのシューホールドダウンピンまわりに所定角度回転させられることによってそのシューホールドダウンピンの扁平頭部がそのカップ部材に掛止されるものである。
【0003】
また、上記のようなシューホールドダウン装置は、ドラムブレーキに組み付けられる際、作業者の指によって前記シューホールドダウンピンの前記大径基部を前記バッキングプレートの取付穴の周縁に押し付けながら前記シューホールドダウンピンを前記バッキングプレートから直立させた状態で組み付けが行われるものである。また、前記シューホールドダウンピンの軸心方向において前記カップ部材の掛止穴と前記シューホールドダウンピンの扁平頭部との形状は略同じで長手状であり、前記扁平頭部と前記掛止穴との向きを合わせることによって前記シューホールドダウンピンの扁平頭部が前記カップ部材の掛止穴を挿通するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−257538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなシューホールドダウン装置は、例えば専用の組付治具等を用いて前記シューホールドダウンスプリングを圧縮しつつ前記シューホールドダウンピンの扁平頭部を前記カップ部材の掛止穴に挿通させる際、前記カップ部材の掛止穴は小さくそのカップ部材によって前記シューホールドダウンピンの前記扁平頭部が隠れて前記扁平頭部の扁平方向が分かり難くなるため、前記掛止穴と前記扁平頭部の形状とが合うように向きを微調整させながら前記扁平頭部を前記掛止穴に挿通させる必要があった。そのため、シューホールドダウン装置の取付け作業において、工数および熟練が必要になるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、シューホールドダウンピンの扁平頭部をカップ部材の掛止穴に能率よく容易に挿通させるシューホールドダウン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) 一軸心まわりにコイル状に巻回され、その一軸心がブレーキシューウェブに対して垂直となるようにそのブレーキシューウェブ上に載置されたシューホールドダウンスプリングと、(b) そのシューホールドダウンスプリング上に載置された円板状のカップ部材と、(c) 大径基部がバッキングプレートの所定位置に設けられた取付穴の周縁に掛止されるとともに扁平頭部がそのブレーキシューウェブとそのシューホールドダウンスプリングとを通りそのカップ部材に長手状に形成された掛止穴を挿通するシューホールドダウンピンとを有し、(d) そのシューホールドダウンスプリングが圧縮されそのシューホールドダウンピンの扁平頭部がそのカップ部材の掛止穴に挿通されるとともにそのカップ部材がそのシューホールドダウンピンまわりに所定角度回動させられることによってそのシューホールドダウンピンの扁平頭部がそのカップ部材に掛止されるシューホールドダウン装置であって、(e) 前記シューホールドダウンピンの大径基部の底面には、前記シューホールドダウンピンの扁平頭部の扁平方向に関連する形状で突き出された突部が備えられていることにある。
【0008】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記シューホールドダウンピンは、軸部と、その軸部の径よりも小さい厚みとその軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部と、前記バッキングプレートの取付穴よりも大径の大径基部とを有するものであり、(b) 前記シューホールドダウンピンの突部は、前記扁平頭部の軸断面においてその扁平頭部の長手方向と同方向又はそれと直角方向に伸びる長手形状であることにある。
【0009】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記シューホールドダウンピンは、軸部と、その軸部の径よりも小さい厚みとその軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部と、前記バッキングプレートの取付穴よりも大径の大径基部とを有するものであり、(b) 前記シューホールドダウンピンの突部は、一対の突起により構成されるものであり、(c) 前記一対の突起とを結ぶ直線の方向は、前記扁平頭部の軸断面においてその扁平頭部の長手方向と同方向又はそれと直角方向であることにある。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のシューホールドダウン装置によれば、(e) 前記シューホールドダウンピンの大径基部の底面には、前記シューホールドダウンピンの扁平頭部の扁平方向に関連する形状で突き出された突部が備えられているため、作業者が前記シューホールドダウンピンの大径基部の底面に備えられた前記突部を触ることによって前記扁平頭部を見なくても前記シューホールドダウンピンの前記扁平頭部の扁平方向が分かるので、前記カップ部材の掛止穴に前記シューホールドダウンピンの前記扁平頭部を能率よく容易に挿通させることができる。
【0011】
請求項2に係る発明のシューホールドダウン装置によれば、(a) 前記シューホールドダウンピンは、軸部と、その軸部の径よりも小さい厚みとその軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部と、前記バッキングプレートの取付穴よりも大径の大径基部とを有するものであり、(b) 前記シューホールドダウンピンの突部は、前記扁平頭部の軸断面においてその扁平頭部の長手方向と同方向又はそれと直角方向に伸びる長手形状であるため、作業者が前記シューホールドダウンピンの大径基部の底面に備えられた前記突部を触ることによって前記扁平頭部を見なくても前記扁平頭部の軸断面におけるその扁平頭部の長手方向が容易に分かる。
【0012】
請求項3に係る発明のシューホールドダウン装置によれば、(a) 前記シューホールドダウンピンは、軸部と、その軸部の径よりも小さい厚みとその軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部と、前記バッキングプレートの取付穴よりも大径の大径基部とを有するものであり、(b) 前記シューホールドダウンピンの突部は、一対の突起により構成されるものであり、(c) 前記一対の突起とを結ぶ直線の方向は、前記扁平頭部の軸断面においてその扁平頭部の長手方向と同方向又はそれと直角方向であるため、作業者が前記シューホールドダウンピンの大径基部の底面に備えられた前記一対の突起を触ることによって前記扁平頭部を見なくても前記扁平頭部の軸断面におけるその扁平頭部の長手方向が容易に分かる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例のデュオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のII-II視断面図である。
【図3】図1の実施例のドラムブレーキのシューホールドダウン装置に備えられたシューホールドダウンピンを説明する図である。
【図4】図3のIV-IV視面図である。
【図5】図3のV-V視面図である。
【図6】図1の実施例のドラムブレーキのシューホールドダウン装置に備えられたシューホールドダウンピンの扁平頭部がカップ部材の掛止穴に挿通し、その掛止穴から扁平頭部が突出した状態でカップ部材がシューホールドダウンピン回りに所定角度回転した状態を示す図である。
【図7】図2のシューホールドダウン装置の組付工程を説明する図である。
【図8】図2のシューホールドダウン装置の組付工程を説明する図である。
【図9】図2のシューホールドダウン装置の組付工程を説明する図である。
【図10】本発明の他の実施例のシューホールドダウン装置を示す図であり、図2に対応するものである。
【図11】本発明の他の実施例のシューホールドダウン装置に備えられたシューホールドダウンピンを説明する図であり、図3に対応するものである。
【図12】本発明の他の実施例のシューホールドダウン装置に備えられたシューホールドダウンピンを説明する図であり、図4に対応するものである。
【図13】本発明の他の実施例のシューホールドダウン装置に備えられたシューホールドダウンピンを説明する図であり、図5に対応するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の一実施例のパーキングブレーキ用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10を中央部に備えたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ12のハット型ディスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型ディスクは、円板状外周部と有底円筒状中央部とを備え、その円板状外周部がディスクブレーキの摩擦板として機能し、その有底円筒状中央部が車輪と一体的に回転するブレーキドラム14として機能するように構成されている。また、ブレーキドラム14は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム14の内周面16を示している。
【0016】
ドラムブレーキ10は、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート18を備えている。このバッキングプレート18の外周部には、前記ハット型ディスクの円板状外周部を保護するためのディスクカバー20が固定されている。
【0017】
また、ドラムブレーキ10は、バッキングプレート18の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設される円弧形状の一対のブレーキシュー22,24と、その一対のブレーキシュー22,24の一端部すなわち図1の上端部の間において位置固定に設けられて制動時一対のブレーキシュー22,24を拡開させる拡開装置26と、それら上端部を互いに接近する方向に常時付勢して拡開装置26に当接させるためのコイル状のリターンスプリング28と、一対のブレーキシュー22,24の他端部すなわち図1の下端部の間に介在させられてアジャストホイール30の回転に伴って全長が変化すなわち伸長させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置32と、それら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置32を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング34とを備えている。
【0018】
スプリング34の中間部分は間隙調節装置32のアジャストホイール30に接触させられており、アジャストホイール30が振動等によって回転しないようになっている。それら間隙調節装置32およびスプリング34は、一対のブレーキシュー22,24の他端部間を相対回転可能に連結するものであるので、間隙調節機能を備えた連結装置として機能している。
【0019】
一対のブレーキシュー22,24は、何れもバッキングプレート18の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ(ブレーキシューウェブ)36,38と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム40,42と、それらシューリム40,42の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング44,46とを備えてそれぞれ構成されている。上記バッキングプレート18、シューウェブ36,38、シューリム40,42は、いずれも鋼板から打ち抜かれ且つ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。
【0020】
一対のブレーキシュー22,24は、シューウェブ36、38の長手方向の中央付近にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置48,50によって拡開可能にバッキングプレート18に設けられている。シューホールドダウン装置48および50は相互に同様に構成されているので、以下においては一方のシューホールドダウン装置であるシューホールドダウン装置50を用いて説明する。
【0021】
シューホールドダウン装置50は、図2に示すように、ばね材から成る断面円形の線材が一軸心Aまわりにコイル状に複数回巻回されその一軸心Aがシューウェブ38に対して略垂直になるようにそのシューウェブ38上に載置されたシューホールドダウンスプリング52と、そのシューホールドダウンスプリング52上に載置された略円板状のカップ部材54と、そのカップ部材54の中心部に貫通されて設けられた長手状の掛止穴54aと、バッキングプレート18の所定位置に貫通されて設けられた略円状の取付穴18aと、一端部である大径基部56aが取付穴18aの周縁に掛止されるとともに他端部である扁平頭部56bがシューウェブ38に貫通された貫通穴38aとシューホールドダウンスプリング52の一軸心Aとを通りカップ部材54の掛止穴54aを挿通する略円柱形状のシューホールドダウンピン56とによって構成され、シューホールドダウンスプリング52がシューウェブ38からバッキングプレート18方向に圧縮されることによって発生する弾性復帰力をカップ部材54およびシューホールドダウンピン56を介してバッキングプレート18に伝達することによってシューウェブ38をバッキングプレート18側に常時押圧させるものである。そのため、シューホールドダウン装置50は、シューウェブ38すなわちブレーキシュー24をバッキングプレート18に対して面方向の相対移動可能に保持することができる。
【0022】
シューホールドダウンピン56は、図2乃至図4に示すように、バッキングプレート18からシューウェブ38方向に伸びる略円柱状の軸部56cと、その軸部56cのバッキングプレート18側とは反対側の端部をヘディング加工することによって略円柱状の軸部56cの径よりも小さい厚みと略円柱状の軸部56cの径よりも大きい幅寸法を有した略半円板形状の扁平頭部56bと、軸部56cのバッキングプレート18側の端部に設けられたバッキングプレート18の略円状の取付穴18aの径よりも大きい略円板形状の大径基部56aとによって構成されている。
【0023】
図5に示すように、シューホールドダウンピン56の大径基部56aの底面56dには、その底面56dの外周部の2箇所から突き出された一対の突部56eが備えられている。それら一対の突部56eは、扁平頭部56bの軸心Bに直交する断面においてその扁平頭部56bの扁平方向である長手方向に関連された形状、すなわちその長手方向と同じ方向に連なるように所定間隔dを隔ててそれぞれ長手形状に形成されている。図5において1点鎖線で長方形状に記載されているものは扁平頭部56dであり上記扁平頭部56bの軸心Bに直交する断面すなわち扁平頭部56bの軸断面を示すものである。また、図5において2点鎖線で円状に記載されているものは大径基部56aの底面56dに刻印等が行われる平坦領域56fを示すものである。
【0024】
図6に示すように、カップ部材54の掛止穴54aは、シューホールドダウンピン56の軸心B方向において扁平頭部56bと略同様な長手形状を成しているため、カップ部材54とシューホールドダウンピン56との位置がシューホールドダウンピン56の軸心B方向において扁平頭部56bの形状と掛止穴54aの形状とが一致するような場合に、シューホールドダウンピン56の扁平頭部56bはカップ部材54の掛止穴54aを挿通することができる。図6の左図は、シューホールドダウンピン56の扁平頭部56bがカップ部材54の掛止穴54aに挿通され状態を示す図である。
【0025】
また、図6に示すように、シューホールドダウンピン56の扁平頭部56bがカップ部材54の掛止穴54aに挿通され、扁平頭部56bがカップ部材54の掛止穴54aから突出している状態でカップ部材54がシューホールドダウンピン56の軸心Bまわりに所定角度たとえば90度回転させられると、図2に示すように扁平頭部56bがカップ部材54の掛止穴54aから取り出すことができない状態すなわち扁平頭部56bがカップ部材54に掛止された状態となる。図6の右図は、扁平頭部56bがカップ部材54の掛止穴54aから突出している状態でカップ部材54がシューホールドダウンピン56の軸心Bまわりに45度程度回転させられた状態を示す図である。
【0026】
図7乃至図9は、シューホールドダウン装置50の組付工程を説明するものであり、以下においてそのシューホールドダウン装置50の組み付け工程を説明する。先ず作業者は、シューホールドダウンピン56の扁平頭部56bをバッキングプレート18の取付穴18aとシューウェブ38の貫通穴38aとに挿通させて作業者の指58によってシューホールドダウンピン56の大径基部56aをバッキングプレート18の取付穴18aの周縁に押し付けながら図7に示すようにシューホールドダウンピン56をバッキングプレート18から直立させた状態にさせる。
【0027】
次に、作業者は、図8に示すように、シューホールドダウンスプリング52をシューウェブ38上に載置させそのシューホールドダウンスプリング52上にカップ部材54を載置させる。そして、作業者は、図9に示すように、例えば専用の組付治具60を用いてシューホールドダウンスプリング52をシューウェブ38からバッキングプレート18方向に圧縮してカップ部材54の掛止穴54aをシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bに接近させて掛止穴54aに扁平頭部56bを挿通させる。
【0028】
従来では、カップ部材54の掛止穴54aが小さくそのカップ部材54によってシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bが隠れて扁平頭部56bの扁平方向が分かり難くなるため、作業者はカップ部材54の掛止穴54aと扁平頭部56bの形状とが合うように向きを微調整させながらシューホールドダウンスプリング52を圧縮させて掛止穴54aに扁平頭部56bを挿通させていた。
【0029】
しかしながら、シューホールドダウンピン56の大径基部56aの底面56dには一対の突部56eが備えられ、作業者はシューホールドダウンピン56をバッキングプレート18から直立状態にさせるためにその指58を大径基部56aの底面56dに押し付けて一対の突部56eに触れており、扁平部材56bが見えなくても突部56eの形状からシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bの扁平方向すなわち扁平頭部56bの軸断面における扁平頭部56bの長手方向が分かる。そのため、作業者はカップ部材54の掛止穴54aとシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bとの向きが一致するように容易に位置決めができ、シューホールドダウンスプリング52を圧縮させて能率よく容易にカップ部材54の掛止穴54aにシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bを挿通させることができる。また、作業者の手には例えば軍手等の手袋が装着されているが一対の突部56eはその手袋を介して作業者の指58にその一対の突部56eの形状が分かる程度の高さに大径基部56aの底面56dから突き出しているものである。
【0030】
また、従来では、シューホールドダウンピンには一対の突部56eがなく大径基部56aの底面56dは平らで滑り易いことから、掛止穴54aと扁平頭部56bとの向きが合うように微調整する際作業者の指58によって大径基部56aの底面56aを介してシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bを軸心Bまわりに回転させることが難しかったが、本実施例では一対の突部56eが大径基部56aの底面56dの滑り止めとして機能するので作業者の指58でシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bを容易に軸心Bまわりに回転することができ、作業者は掛止穴54aと扁平頭部56bとの向きが一致するように好適に位置決めをすることができる。
【0031】
図9に示すように、シューホールドダウンピン56の扁平頭部56bがカップ部材54の掛止穴54aから突出させた状態で作業者はカップ部材54およびシューホールドダウンスプリング52を専用の取付治具60によりシューホールドダウンピン56の軸心B回りに90度程度回転させることによって、カップ部材54およびシューホールドダウンスプリング52がシューホールドダウンピン56に装着され、シューホールドダウン装置50がドラムブレーキ10に組み付けられる。
【0032】
また、従来では、シューホールドダウンピンには一対の突部56eがなく大径基部56aの底面56dは平らで滑り易いため、カップ部材54およびシューホールドダウンスプリング52が専用の取付治具60によりシューホールドダウンピン56の軸心B回りに回転させられると、作業者の指58で大径基部56aの底面56dを押さえ付けていてもシューホールドダウンピン56もカップ部材54およびシューホールドダウンスプリング52と一緒に共回りし易かったが、本実施例では一対の突部56eが大径基部56aの底面56dの滑り止めとして機能するので作業者の指58の押さえ付ける力で十分にシューホールドダウンピン56の軸心Bまわりの共回りが好適に抑制することができる。
【0033】
本実施例のシューホールドダウン装置50によれば、シューホールドダウンピン56の大径基部56aの底面56dには、シューホールドダウンピン56の扁平頭部56bの扁平方向に関連する形状で突き出された突部56eが備えられているため、作業者がシューホールドダウンピン56の大径基部56aの底面56dに備えられた突部56eを触ることによって扁平頭部56bを見なくてもシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bの扁平方向が分かるので、カップ部材54の掛止穴54aにシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bを能率よく容易に挿通させることができる。
【0034】
また、本実施例のシューホールドダウン装置50によれば、シューホールドダウンピン56は、軸部56cと、その軸部56cの径よりも小さい厚みとその軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部56bと、バッキングプレート18の取付穴18aよりも大径の大径基部56aとを有するものであり、シューホールドダウンピン56の突部56eは、扁平頭部56bの軸断面においてその扁平頭部56bの長手方向と同方向に伸びる長手形状であるため、作業者がシューホールドダウンピン56の大径基部56bの底面56dに備えられた突部56eを触ることによって扁平頭部56bを見なくても扁平頭部56bの軸断面におけるその扁平頭部56bの長手方向が容易に分かる。
【実施例2】
【0035】
また、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の他の実施例において実施例相互間で共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0036】
本実施例のシューホールドダウン装置62は、異なるシューホールドダウンピン64を備える以外は実施例1のシューホールドダウン装置50と略同様であって、図10乃至図13はそのシューホールドダウンピン64を説明する図であり、前述の実施例1の図2乃至図5に対応するものである。
【0037】
図10乃至図12に示すように、シューホールドダウンピン64は、実施例1の軸部56cと略同様のバッキングプレート18からシューウェブ38方向に伸びる略円柱状の軸部64cと、その軸部64cのバッキングプレート18側とは反対側の端部をヘディング加工することによって略円柱状の軸部64cの径よりも小さい厚みと略円柱状の軸部64cの径よりも大きい幅寸法を有した実施例1の扁平頭部56bと略同様の略半円板形状の扁平頭部64bと、実施例1の大径基部56aと略同様の軸部64cのバッキングプレート18側の端部に設けられたバッキングプレート18の略円状の取付穴18aの径よりも大きい略円板形状の大径基部64aとによって構成されている。
【0038】
図13に示すように、シューホールドダウンピン64の大径基部64aの底面64dには、その底面64dの外周部の2箇所から突き出された一対の突起64eが備えられている。それら一対の突起64eを結ぶ直線66の方向は扁平頭部64bの軸心Cに直交する断面においてその扁平頭部64bの長手方向に関連させた形状、すなわちその長手方向と略同方向である。図13において1点鎖線で長方形状に記載されているものは扁平頭部64bであり上記扁平頭部64bの軸心Cに直交する断面すなわち扁平頭部64bの軸断面を示すものである。また、図13において1点鎖線の直線は一対の突起64eとを結ぶ直線66を示すものである。また、図13において2点鎖線で円状に記載されているものは大径基部64aの底面64dに刻印等が行われる平坦領域64fを示すものである。
【0039】
実施例1と略同様に、シューホールドダウン装置62の組付け作業において、作業者はシューホールドダウンピン64をバッキングプレート18から直立状態にさせるために指58を大径基部64aの底面64dに押し付け一対の突起64e間に位置してそれらに触れており、扁平部材64bが見えなくても一対の突起64eとを結ぶ方向からシューホールドダウンピン64の扁平頭部64bの扁平方向すなわち扁平頭部64bの軸断面における扁平頭部64bの長手方向が分かる。そのため、作業者はカップ部材54の掛止穴54aとシューホールドダウンピン64の扁平頭部64bとの向きが一致するように容易に位置決めができ、シューホールドダウンスプリング52を圧縮させて能率よく容易にカップ部材54の掛止穴54aにシューホールドダウンピン64の扁平頭部64bを挿通させることができる。また、作業者の手には例えば軍手等の手袋が装着されているが一対の突起64eはその手袋を介して作業者の指58にその一対の突起64eの形状が分かる程度の高さに大径基部64aの底面64dから突き出しているものである。
【0040】
本実施例のシューホールドダウン装置62によれば、シューホールドダウンピン64は、軸部64cと、その軸部64cの径よりも小さい厚みとその軸部64cの径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部64bと、バッキングプレート18の取付穴18aよりも大径の大径基部64aとを有するものであり、シューホールドダウンピン64の大径基部64aの底面64dには、その底面64dから突き出された一対の突起64eが備えられており、その一対の突起64eとを結ぶ直線66の方向は、扁平頭部64bの軸断面においてその扁平頭部64bの長手方向と略同方向であるため、作業者がシューホールドダウンピン64の大径基部64aの底面64dに備えられた一対の突起64eを触ることによって扁平頭部64bを見なくても扁平頭部64dの軸断面におけるその扁平頭部64bの長手方向が容易に分かる。
【0041】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0042】
たとえば、本発明のシューホールドダウン装置50において、シューホールドダウンピン56の大径基部56aの底面56dに備えられた一対の突部56eは、扁平頭部56bの軸断面においてその扁平頭部56bの長手方向と略同方向に連なり所定間隔dを隔てた長手形状であったが、突部56eの形状は作業者が突部56eに触った際にシューホールドダウンピン56の扁平頭部56bの扁平方向がその扁平頭部56bを見なくても分かる形状すなわち扁平頭部56bの扁平方向に関連する形状であればよく、例えば突部56eは扁平頭部56dの軸心Bに直交する断面においてその扁平頭部56dの長手方向と平行な方向或いは直角方向に伸びる1本或いは2本の長手形状であってもよい。
【0043】
また、本発明のシューホールドダウン装置62において、シューホールドダウンピン64の大径基部64aの底面64dに備えられた一対の突起64eは、その一対の突起64eとを結ぶ直線66の方向が扁平頭部56bの軸断面においてその扁平頭部56bの長手方向と略同方向であったが、一対の突起64eは作業者がその一対の突起64eに触った際にシューホールドダウンピン64の扁平頭部64bの扁平方向がその扁平頭部64bを見なくても分かるものであればよく、例えば一対の突起64eは、その一対の突起64eとを結ぶ直線66の方向が扁平頭部64dの軸断面においてその扁平頭部64dの長手方向と略直角方向に配設されるものであってもよい。
【0044】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
18:バッキングプレート
18a:取付穴
36、38:シューウェブ(ブレーキシューウェブ)
50、62:シューホールドダウン装置
52:シューホールドダウンスプリング
54:カップ部材
54a:掛止穴
56、64:シューホールドダウンピン
56a、64a:大径基部
56b、64b:扁平頭部
56c、64c:軸部
56d、64d:底面
56e:突部
64e:突起
66:一対の突起とを結ぶ直線
A:一軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸心まわりにコイル状に巻回され、該一軸心がブレーキシューウェブに対して垂直となるように該ブレーキシューウェブ上に載置されたシューホールドダウンスプリングと、該シューホールドダウンスプリング上に載置された円板状のカップ部材と、大径基部がバッキングプレートの所定位置に設けられた取付穴の周縁に掛止されるとともに扁平頭部が該ブレーキシューウェブと該シューホールドダウンスプリングとを通り該カップ部材に長手状に形成された掛止穴を挿通するシューホールドダウンピンとを有し、該シューホールドダウンスプリングが圧縮され該シューホールドダウンピンの扁平頭部が該カップ部材の掛止穴に挿通されるとともに該カップ部材が該シューホールドダウンピンまわりに所定角度回動させられることによって該シューホールドダウンピンの扁平頭部が該カップ部材に掛止されるシューホールドダウン装置であって、
前記シューホールドダウンピンの大径基部の底面には、前記シューホールドダウンピンの扁平頭部の扁平方向に関連する形状で突き出された突部が備えられていることを特徴とするシューホールドダウン装置。
【請求項2】
前記シューホールドダウンピンは、軸部と、該軸部の径よりも小さい厚みと該軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部と、前記バッキングプレートの取付穴よりも大径の大径基部とを有するものであり、
前記シューホールドダウンピンの突部は、前記扁平頭部の軸断面において該扁平頭部の長手方向と同方向又はそれと直角方向に伸びる長手形状であることを特徴とする請求項1のシューホールドダウン装置。
【請求項3】
前記シューホールドダウンピンは、軸部と、該軸部の径よりも小さい厚みと該軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部と、前記バッキングプレートの取付穴よりも大径の大径基部とを有するものであり、
前記シューホールドダウンピンの突部は、一対の突起により構成されるものであり、
前記一対の突起とを結ぶ直線の方向は、前記扁平頭部の軸断面において該扁平頭部の長手方向と同方向又はそれと直角方向であることを特徴とする請求項1のシューホールドダウン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−286053(P2010−286053A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140606(P2009−140606)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】