説明

シュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキ

【課題】制動時に第1ストラット部材と第2ストラット部材と間で発生する摩擦を低減することのできるシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキを提供することにある。
【解決手段】第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とを離間する方向に付勢するコイル状のスプリング(弾性部材)62が受入穴58a内に備えられているので、その第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との間でありそれら軸心C上である受入穴58a内に配設されたスプリング62によって、ドラムブレーキ10制動時に第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とはそれら軸心C方向に対して精度よく略平行に離間する方向に付勢されるため、第1ストラット部材56の螺子部56aと第2ストラット部材58の受入穴58aの内周面との間の摩擦を大幅に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキに関し、特にシュー間隙自動調節機構の構造を変更してドラムブレーキの性能が向上する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキのシュー間隙自動調節機構の一種に、たとえば特許文献1に示すような、(a) 一端に螺子部を備え、他端が一対のブレーキシューの一方に係合する第1ストラット部材と、その第1ストラット部材の螺子部を受け入れるために一端に開口する受入穴を備え、他端がその一対のブレーキシューの他方に係合する第2ストラット部材と、スターホイールを備えて上記第1ストラット部材の螺子部に螺合するアジャストナットとを有し、非制動時におけるその一対のブレーキシューの間隔を規定するストラットと、(b) 上記スターホイールに係合させられる係合部を先端部に備えて制動時における上記第1ストラット部材と上記第2ストラット部材との間の軸心方向の相対移動に連動して上記スターホイールを一方向に回転させるアジャストレバーとを備えるものがある。
【0003】
上記のようなシュー間隙自動調節機構は、一般的に上記一対のブレーキシューの一方と上記第1ストラット部材との間および上記一対のブレーキシューの他方と上記第2ストラット部材との間にそれぞれ張設された一対のリターンスプリングが備えられており、制動時にその一対のリターンスプリングの付勢力によって上記第1ストラット部材と第2ストラット部材とは、一対のブレーキシューの拡開量に応じて上記第1ストラット部材と上記第2ストラット部材との軸心方向に相対移動する。
【特許文献1】特開昭58−77931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来のシュー間隙自動調節機構おいて、上記一対のリターンスプリングは、上記第1ストラット部材と第2ストラット部材とをそれら軸心方向に対して精度よく平行に付勢することが難しく、その一対のリターンスプリングの付勢力により上記第1ストラット部材と第2ストラット部材とに偏心荷重が加わるため、制動時に第1ストラット部材の螺子部と第2ストラット部材の受入穴の内周面との間で比較的大きな摩擦が生じて第1ストラット部材と第2ストラット部材とを滑らかに相対移動できずシュー間隙自動調節機構の作動が円滑に得られない可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、制動時に第1ストラット部材と第2ストラット部材と間で発生する摩擦を低減することのできるシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) 一端に螺子部を備え、他端が一対のブレーキシューの一方に係合する第1ストラット部材と、その第1ストラット部材の螺子部を受け入れるために一端に開口する受入穴を備え、他端がその一対のブレーキシューの他方に係合する第2ストラット部材と、スターホイールを備えて前記第1ストラット部材の螺子部に螺合するアジャストナットとを有し、非制動時におけるその一対のブレーキシューの間隔を規定するストラットと、(b) 前記スターホイールに係合させられる係合部を先端部に備え、基端部が前記第2ストラット部材に取り付けられ、制動時における前記第1ストラット部材と前記第2ストラット部材との間の軸心方向の相対移動に連動して前記スターホイールを一方向に回転させるためのアジャストレバーとを有するシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキにおいて、(c) 前記第1ストラット部材と前記第2ストラット部材とを離間する方向に付勢する弾性部材が前記受入穴内に備えられていることにある。
【0007】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記螺子部が挿入された挿入穴を有し、前記アジャストナットと第2ストラット部材との間に挟まれる第1レバー部と、その第1レバー部材に対して直角よりも大きい所定角度に折り曲げられた第2レバー部とを有するレバー部材を更に含み、(b) 前記第1レバー部には、その第1レバー部のアジャストナット側の先端部分が切欠かれ、(c) 非制動時には、前記レバー部材の第1レバー部は、前記第2ストラット部材と前記アジャストナットとの間に挟圧され、前記第2レバー部は前記係合部が前記スターホイールから離れる方向へ前記アジャストレバーをその付勢力に抗して押し曲げるものであり、(d) 制動時には、前記第2ストラット部材と前記アジャストナットとの離間にしたがって前記アジャストレバーの付勢力にしたがって前記第2レバー部が前記第2ストラット部材に近接させられそのアジャストレバーの係合部が前記スターホイールを一方向に回転させることにある。
【0008】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1または2に係る発明において、前記アジャストレバーの先端部には、前記アジャストナットに係合して第1ストラット部材が第2ストラット部材から脱落することを防止するストッパー部が備えられていることにある。
【0009】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれかに係る発明において、前記アジャストレバーの先端部には、前記スターホイールを挟んで前記係合部と反対側に位置しそのスターホイールの外周歯に摺接させられる摺接係合部が備えられていることにある。
【0010】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれかに係る発明において、前記アジャストレバーの基端部は、前記第2ストラット部材を把持するようにその第2ストラット部材に嵌め着けられていることにある。
【0011】
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれかに係る発明において、前記第2ストラット部材の所定位置には、前記基端部を嵌め着けるための嵌着溝が備えられていることにある。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明のシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキよれば、前記第1ストラット部材と前記第2ストラット部材とを離間する方向に付勢する弾性部材が前記受入穴内に備えられているので、その第1ストラット部材と第2ストラット部材との間でありそれら軸心上である前記受入穴内に配設された前記弾性部材によって、制動時に第1ストラット部材と第2ストラット部材とはそれら軸心方向に対して精度よく平行に離間する方向に付勢されるため、第1ストラット部材と第2ストラット部材との間の摩擦を大幅に低減することができる。したがって、シュー間隙自動調節機構の作動が円滑に得られる。
【0013】
また、請求項2に係る発明のシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキによれば、(a) 前記螺子部が挿入された挿入穴を有し、前記アジャストナットと第2ストラット部材との間に挟まれる第1レバー部と、その第1レバー部材に対して直角よりも大きい所定角度に折り曲げられた第2レバー部とを有するレバー部材を更に含み、(b) 前記第1レバー部には、その第1レバー部のアジャストナット側の先端部分が切欠かれ、(c) 非制動時には、前記レバー部材の第1レバー部は、前記第2ストラット部材と前記アジャストナットとの間に挟圧され、前記第2レバー部は前記係合部が前記スターホイールから離れる方向へ前記アジャストレバーをその付勢力に抗して押し曲げるものであり、(d) 制動時には、前記第2ストラット部材と前記アジャストナットとの離間にしたがって前記アジャストレバーの付勢力にしたがって前記第2レバー部が前記第2ストラット部材に近接させられそのアジャストレバーの係合部が前記スターホイールを一方向に回転させるものであるため、前記レバー部材は、その第1レバー部の前記アジャストレバー側の先端部に切欠かれた切欠によってその切欠分だけ制動時の前記第1ストラット部材と第2ストラット部材との間の軸心方向の相対移動に連動して前記第2レバー部が前記第2ストラット部材に接近する量を大きくすることができ、その切欠によって前記第1ストラット部材と第2ストラット部材との間の軸心方向の相対移動に連動する前記アジャストレバーの係合部の移動量を増加することができる。そのため、前記レバー部材に前記切欠を設けることによって容易に制動時の前記アジャストレバーの係合部の移動量を調節することができる。
【0014】
また、請求項3に係る発明のシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキによれば、前記アジャストレバーの先端部には、前記アジャストナットに係合して第1ストラット部材が第2ストラット部材から脱落することを防止するストッパー部が備えられているため、そのストッパー部によって、前記シュー間隙自動調節機構をドラムブレーキに組み付ける際、前記弾性部材によって第1ストラット部材と第2ストラット部材とが離間して第1ストラット部材が第2ストラット部材から脱落することが防止されるのでドラムブレーキの組付工程を容易にすることができる。
【0015】
また、請求項4に係る発明のシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキによれば、前記アジャストレバーの先端部には、前記スターホイールを挟んで前記係合部と反対側に位置しそのスターホイールの外周歯に摺接させられる摺接係合部が備えられているため、制動時、非制動時に前記アジャストレバーの係合部が前記スターホイールの外周歯上を移動しても前記スターホイールは前記摺接係合部および前記係合部によって挟まれた状態であるので、制動時、非制動時の前記アジャストレバーのいきかえりの移動によって前記スターホイールがともに回転することが防止される。
【0016】
また、請求項5に係る発明のシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキによれば、前記アジャストレバーの基端部は、前記第2ストラット部材を把持するようにその第2ストラット部材に嵌め着けられているため、そのアジャストレバーの基端部によってそのアジャストレバーを第2ストラット部材に組み付けることができるので、従来アジャストレバー組付時に必要であった組付部品や組付工程を省くことができドラムブレーキ製造時のコストを低減させることができる。
【0017】
また、請求項6に係る発明のシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキによれば、前記第2ストラット部材の所定位置には、前記基端部を嵌め着けるための嵌着溝が備えられているため、前記アジャストレバーの基端部を前記嵌着溝に移動させるだけで前記アジャストレバーを前記第2ストラット部材に組み付けることができるので、前記アジャストレバーの組付工程を簡単にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は簡略化されており、それら各部の寸法等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付ドラムブレーキであるリーディング・トレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、ブレーキドラム12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0020】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0021】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18,20と、その一対のブレーキシュー18,20の一端部すなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたホイールシリンダ22と、一対のブレーキシュー18,20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢してホイールシリンダ22に当接させるために、その一端部間に張設されたコイル状のリターンスプリング24と、一対のブレーキシュー18,20の一端部間に掛け渡された非制動時における一対のブレーキシュー18,20とブレーキドラム12との間すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調節機構26と、一対のブレーキシュー18,20の他端部すなわち図1の下端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたアンカ28と、一対のブレーキシュー18,20の下端部間に張設されてそれら下端部をアンカ28に常時当接させるスプリング30とが備えられている。
【0022】
一対のブレーキシュー18,20は、何れも、バッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ32,34と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム36,38と、それらシューリム36,38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40,42とによってそれぞれ構成されている。また、一対のブレーキシュー18,20は、シューウェブ32およびシューウェブ34にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置44,46によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。また、ブレーキシュー18の一端部には、平板状のパーキングブレーキレバー48の基端部がピン50により相対回動可能に連結されている。バッキングプレート16、シューウェブ32,34、シューリム36,38は、いずれも鋼板から打ち抜かれ且つ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。
【0023】
シュー間隙自動調節機構26は、図1に示すように一対のブレーキシュー18,20の一端部間に掛け渡たされ、非制動時における一対のブレーキシュー18,20の間隔すなわち一対のブレーキシュー18、20とブレーキドラム12の内周面14との間隙を規定するストラット52と、そのストラット52に備えられたアジャストレバー54とによって構成されている。
【0024】
ストラット52は、図2に示すように、一端に外周面が螺刻された螺子部56aを備え、他端がブレーキシュー18のシューウェブ32に係合する第1ストラット部材56と、その第1ストラット部材56の螺子部56aを受け入れるために一端に開口する受入穴58aを備え、他端がブレーキシュー20のシューウェブ34に係合する第2ストラット部材58と、スターホイール60aを備えて第1ストラット部材56の螺子部56aに螺合するアジャストナット60と、第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とを離間する方向に付勢するため第1ストラット部材56の螺子部56aと第2ストラット部材58の受入穴58a内の底面58bとの間に圧縮された状態で配設されたコイル状のスプリング(弾性部材)62と、を備えている。また、ブレーキシュー18および20には、第1ストラット部材56および第2ストラット部材58すなわちストラット52を支持するために相手に向かって突出した支持突起18aおよび20aがそれぞれ形成されている。
【0025】
コイル状のスプリング62は、リターンスプリング24の付勢力より小さい力で第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とを離間する方向に付勢するため、ドラムブレーキ10の非制動時には、そのスプリング62の付勢力によって第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とを離間すなわち一対のブレーキシュー18,20を拡開させることはできない。しかし、ドラムブレーキ10の制動時には、前記ホイールシリンダ22により一対のブレーキシュー18、20が拡開させられるため、第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とは、上記スプリング62の付勢力によってブレーキシュー18と第1ストラット部材56との間およびブレーキシュー20と第2ストラット部材58との間の隙間を埋めるように相互に離間する方向へ移動させられる。そのため、一対のブレーキシュー18,20の拡開量は、第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との軸心C方向の相対移動量、つまり、それらの離間量と略同様である。
【0026】
また、コイル状のスプリング62は、第1ストラット部材56の螺子部56aと第2ストラット部材58の受入穴58aの底面58bとの間で且つ第1ストラット部材56および第2ストラット部材58の軸心Cと同心に受入穴58a内に配設されているため、そのスプリング62が第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とを付勢する方向と第1ストラット部材56および第2ストラット部材58の軸心C方向とが精度よく略一致する。そのため、ドラムブレーキ10制動時、上記スプリング62の付勢力によって第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とにはほとんど偏心荷重が加わらず、第1ストラット部材56の螺子部56aと第2ストラット部材58の受入穴58aの内周面との間で起こる摩擦がほとんど生じることがなくなり第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とが滑らかに相対移動すなわち離間させられる。
【0027】
図2、3に示すように、アジャストレバー54は、たとえばばね板材から構成されており、そのアジャストレバー54を第2ストラット部材58に取り付ける基端部54aと、その基端部54aからブレーキシュー20側に延長されて第2ストラット部材58と係合する係合突起部54bと、アジャストレバー54の先端部に設けられアジャストナット60のスターホイール60aと係合する係合部54cと、アジャストレバー54の先端部に設けられスターホイール60aを挟んで係合部54cと反対側に位置しスターホイール60aの外周歯に摺接させられる摺接係合部54dと、その摺接係合部54dの先端部から係合部54c側に延設されたストッパー部54eとを備えている。アジャストレバー54、基端部54a、係合突起部54b、係合部54c、摺接係合部54d、ストッパー部54eは、プレス加工によって一枚の金属板から一体的に成形されたものである。
【0028】
図4に示すように、基端部54aには、その両側から第2ストラット部材58を抱き込むように相対向に形成された一対の嵌着部54fが備えられており、その一対の嵌着部54fは、第2ストラット部材58を把持するようにその第2ストラット部材58に嵌め着けられることにより、アジャストレバー54は、その一対の嵌着部54fを介して第2レバー部材58に固定されている。そのため、従来アジャストレバー組付時に必要であった組付部品やその組付工程たとえばリベットかしめのリベットやそのリベットかしめ工程を省くことができる。また、第2ストラット部材58には、図4に示すように基端部54aの一対の嵌着部54fを嵌め着けるために長手方向において嵌着部54fより僅かに大きい一部分が削除された嵌着溝58eが周方向に備えられており、一対の嵌着部54fがその嵌着溝58e内に嵌め着けられることによって、アジャストレバー54は、第2ストラット58の軸心C方向の移動が拘束される。つまり、上記係合突起部54bおよび嵌着溝58eによって、アジャストレバー54は、その基端部54aの一対の嵌着部54fを介して第2ストラット部材58に固定される。また、アジャストレバー54の組付工程は、基端部54の一対の嵌着部54fを第2ストラット部材58の一端から嵌着溝58e内へ移動させるだけなので簡単である。
【0029】
係合突起部54bは、図2、3に示すように第2ストラット部材58の端部の両側面58dを挟むようにその第2ストラット部材58の端部の厚みより僅かに大きい間隔で基端部54aからブレーキシュー20側に延設された一対の突起である。そのため、車両走行中の振動等によって、アジャストレバー54が第2ストラット部材58の軸心C回りに回動しようとすると、係合突起部54bである上記一対の突起は、第2ストラット部材58の両側面58dに当接するため、アジャストレバー54の回動は防止される。
【0030】
ストッパー部54eは、コイル状のスプリング62の付勢力によって第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とが所定量以上離間するとその第1ストラット部材56の螺子部56aに螺合されているアジャストナット60に当接するように摺接係合部54dの先端部から係合部54c側に延設されており、シュー間隙自動調節機構26をドラムブレーキ10に組み付ける際、コイル状のスプリング62の付勢力によって第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とが離間して第1ストラット部材56が第2ストラット部材58から脱落しないように作業者がそのシュー間隙調節機構26を手で押さえながら取り扱うことがなくなるのでドラムブレーキ組み付け工程を容易にすることができる。
【0031】
図2、3、5に示すように、アジャストナット60と第2ストラット部材58との間には、第1ストラット部材56の螺子部56aが挿入された挿入穴64aを有し、アジャストナット60と第2ストラット部材58との間に挟まれる略円筒形状の第1レバー部64bと、その第1レバー部64bに対して直角よりも大きい所定角度たとえば約100°に折り曲げられた板状の第2レバー部64cとによって構成されたレバー部材64が備えられており、第2レバー部64cの先端部は、アジャストレバー54の中央部分に当接して図5に示す矢印F方向に付勢されている。
【0032】
ドラムブレーキ10の非制動時の状態を示す図5の(a)によれば、レバー部材64の第1レバー部64bは、アジャストレバー54に付勢されることにより第2ストラット部材58とアジャストナット60すなわち第1ストラット部材56とを離間するように付勢する。しかし、レバー部材64の第1レバー部64bはリターンスプリング24の付勢力によって第2ストラット部材58とアジャストナット60とに挟圧されるので、レバー部材64の第2レバー部64cはアジャストレバー54のその付勢力に抗して第1ストラット部材56から離れる方向にアジャストレバー54を押し曲げる。アジャストレバー54の付勢力とコイル状のスプリング(弾性部材)62の付勢力とを合わせた力は、リターンスプリング24の付勢力より小さいものである。
【0033】
ドラムブレーキ10の制動時の状態を示す図5の(b)によれば、レバー部材64の第1レバー部64bは、コイル状のスプリング62の付勢力による第2ストラット58とアジャストナット60との離間する量に従ってアジャストレバー54の付勢力によって傾き第2レバー部64cの先端部が第2ストラット部材58に接近し、アジャストレバー54は矢印F方向に移動させられる。
【0034】
図1に戻り、パーキングブレーキレバー48には、その先端部に連結されたパーキングブレーキケーブル66が備えられており、図示しないパーキングレバーの操作によりパーキングブレーキケーブル66を介してパーキングブレーキレバー48の先端部がバッキングプレート16の中心側へ回動させられると、ブレーキシュー20がストラット52に押されて外周側へ移動させられるとともにブレーキシュー18がピン50に押されて外周側へ移動させられるので、一対のブレーキシュー18,20が拡開されて制動力が発生させられるようになっている。
【0035】
以上のように構成されたドラムブレーキ10は、図示しないブレーキペダル操作に伴ってホイールシリンダ22のピストンが突き出されることにより一対のブレーキシュー18,20の一端部が互いに離隔する方向に拡開され制動力が発生する。一対のブレーキシュー18、20が拡開することによって、第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とは、コイル状のスプリング62の付勢力によって第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とを離間させその離間する量に応じて、アジャストレバー54は、レバー部材64を介して矢印F方向に移動させられる。
【0036】
図6に示すように、アジャストレバー54が矢印F方向に移動させられると、そのアジャストレバー54の先端部に備えられた係合部54cはスターホイール60aの外周歯に当接された状態で矢印F方向へ移動させられる。この際、係合部54cがスターホイール60aに回転トルクを付与するが、スターホイール60aは、図6で示す係合部54cと互いに略平行であり且つスターホイール60aに摺接する摺接係合部54dと係合部54cとによって挟み込まれるため、回動することができない。また、ドラムブレーキ10の制動状態が解除されて係合部54cがスターホイール60aの外周歯に当接された状態で矢印F方向の反対方向へ移動させられてスターホイール60aに回転トルクが付与しても摺接係合部54dと係合部54cとによってスターホイール60aが挟み込まれるため、スターホイール60aは回動することができない。すなわち、摺接係合部54dと係合部54cとによって、ドラムブレーキ10の制動時、非制動時によるアジャストレバー54の係合部54cの往復移動によって、スターホイール60aに回転トルクが生じてもスターホイール60aがその係合部54cと共に回動することが防止される。
【0037】
ドラムブレーキ10の制動作動毎において、係合部54cの移動位置がスターホイール60aの1歯を乗り越えることがなけれは係合部54cとスターホイール60aが噛み合うことなくスターホイール60aを回動させることはない。しかし、係合部54cの移動位置がスターホイール60aの1歯を乗り越えてスターホイール60aと噛み合うと、ドラムブレーキ10の制動力解除時のアジャストレバー54の戻りによって係合部54cは矢印F方向の反対方向に移動させられスターホイール60aが回動させられアジャストナット60のねじの作用によってストラット52を伸長してシュー間隙が調節される。これにより、一対のブレーキシュー18,20の摩耗によって一対のブレーキシュー18,20の拡開量が所定以上となると、スターホイール60aが回動させられて、ライニング40,42とブレーキドラム12の内周面14との間隙が自動的に調節される。
【0038】
図5に示されたレバー部材64を拡大して示す図7に示すように、レバー部材64の第1レバー部64bには、第1レバー部64bのアジャストナット60側の先端部分が段差状に切り欠かれた切欠68が備えられている。この切欠68によって、レバー部材64の第1レバー部64bは、ドラムブレーキ10制動時の第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との軸心C方向における距離Aが切欠68がない場合の第1レバー部64bの距離Bより短くなるため、切欠68を備える第1レバー部64bは、切欠68がない第1レバー部64の距離Bと同じになるためにその差である距離Dを第2レバー部64cの先端部をさらに第2ストラット部材58に接近させて増加させることになる。そのため、レバー部材64は、その切欠68によってその切欠68の幅Eを大きくすればドラムブレーキ10の制動時の第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との間の軸心C方向の相対移動量に対する第2レバー部64cの先端部が第2ストラット部材58に接近する量を大きくすることができる。すなわち、切欠68の幅Eを調整することによって、ドラムブレーキ10の制動時における第1ストラット部材56と第2ストラット部材の離間量に対するアジャストレバー54の係合部54cが矢印F方向に移動する移動量を調節することができる。図7に示された一点鎖線は、ドラムブレーキ10制動時のレバー部材64の状態を示すものである。
【0039】
図8に示すように、レバー部材64の第1レバー部64bは、アジャストレバー54の付勢力によって、その第2ストラット58側の面64d内の点(1)で第2ストラット部材58と点接触し、アジャストナット60側の面64e内の点(2)と点(3)とを結ぶ線すなわち切欠68のエッジでアジャストナット60と線接触する。そのため、レバー部材64は、その点(1)と点(2)および点(3)を結ぶ線とを介して第2ストラット部材58とアジャストナット60との間で挟持されるので、車両走行中の振動等による軸心Cまわりの回動が防止される。
【0040】
本実施例のシュー間隙自動調節機構26を備えたドラムブレーキ10によれば、第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とを離間する方向に付勢するコイル状のスプリング(弾性部材)62が受入穴58a内に備えられており、その第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との間でありそれら軸心C上である受入穴58a内に配設されたスプリング62によって、ドラムブレーキ10制動時に第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とはそれら軸心C方向に対して精度よく略平行に離間する方向に付勢されるため、第1ストラット部材56の螺子部56aと第2ストラット部材58の受入穴58aの内周面との間の摩擦を大幅に低減することができる。
【0041】
また、本実施例のシュー間隙自動調節機構26を備えたドラムブレーキ10によれば、アジャストレバー54の基端部54aの一対の嵌着部材54fは、第2ストラット部材58を把持するようにその第2ストラット部材58に嵌め着けられており、そのアジャストレバー54の基端部54aの一対の嵌着部材54fによってそのアジャストレバー54を第2ストラット部材58に組み付けることができるので、従来アジャストレバー組付時に必要であった組付部品や組付工程を省くことができドラムブレーキ10製造時のコストを低減させることができる。
【0042】
また、本実施例のシュー間隙自動調節機構26を備えたドラムブレーキ10によれば、第2ストラット部材58の所定位置には、基端部54aの一対の嵌着部材54fを嵌め着けるための嵌着溝58eが備えられており、アジャストレバー54の基端部54aの一対の嵌着部材54fを嵌着溝58eに移動させるだけでアジャストレバー54を第2ストラット部材58に組み付けることができるので、アジャストレバー54の組付工程を簡単にすることができる。
【0043】
また、本実施例のシュー間隙自動調節機構26を備えたドラムブレーキ10によれば、(a) 螺子部56aが挿入された挿入穴64aを有し、アジャストナット60と第2ストラット部材58との間に挟まれる第1レバー部64bと、その第1レバー部64bに対して直角よりも大きいたとえば約100°に折り曲げられた第2レバー部64cとを有するレバー部材64を更に含み、(b) 第1レバー部64bには、その第1レバー部64bのアジャストナット60側の先端部分が切欠かれ、(c) ドラムブレーキ10非制動時には、レバー部材64の第1レバー部64bは、第2ストラット部材58とアジャストナット60との間に挟圧され、第2レバー部64cは係合部54cがスターホイール60aから離れる方向(矢印F方向の反対方向)へアジャストレバー54をその付勢力に抗して押し曲げるものであり、(d) ドラムブレーキ10制動時には、第2ストラット部材58とアジャストナット60との離間にしたがってアジャストレバー54の付勢力にしたがって第2レバー部64cの先端部が第2ストラット部材58に近接させられそのアジャストレバー54の係合部54cがスターホイール60aを一方向に回転させるものである。これにより、レバー部材64は、その第1レバー部64bのアジャストナット60側の先端部に切欠かれた切欠68によってその切欠68分だけドラムブレーキ10制動時の第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との間の軸心C方向の相対移動に連動して第2レバー部64cの先端部が第2ストラット部材58に接近する量を大きくすることができ、その切欠68の幅Eによって第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との間の軸心C方向の相対移動に連動するアジャストレバー54の係合部54cの移動量を増加することができる。そのため、レバー部材64に切欠68を設けることによって容易にドラムブレーキ10制動時のアジャストレバー54の係合部54cの移動量を調節することができる。
【0044】
また、本実施例のシュー間隙自動調節機構26を備えたドラムブレーキ10によれば、アジャストレバー54の先端部には、アジャストナット60に係合して第1ストラット部材56が第2ストラット部材58から脱落することを防止するストッパー部54eが備えられているため、そのストッパー部54eによって、シュー間隙自動調節機構26をドラムブレーキ10に組み付ける際、コイル状のスプリング(弾性部材)62によって第1ストラット部材56と第2ストラット部材58とが離間して第1ストラット部材56が第2ストラット部材58から脱落することが防止されるのでドラムブレーキ10の組付工程を容易にすることができる。
【0045】
また、本実施例のシュー間隙自動調節機構26を備えたドラムブレーキ10によれば、アジャストレバー54の先端部には、スターホイール60aを挟んで係合部54cと反対側に位置しそのスターホイール60aの外周歯に摺接させられる摺接係合部54dが備えられており、ドラムブレーキ10制動時、非制動時にアジャストレバー54の係合部54cがスターホイール60aの外周歯上を移動してもスターホイール60aは摺接係合部54dおよび係合部54cによって挟まれた状態であるので、ドラムブレーキ10制動時、非制動時のアジャストレバー54のいきかえりの移動によってスターホイール60aがともに回転することが防止される。
【0046】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0047】
たとえば、本発明のシュー間隙自動調節機構26を備えたドラムブレーキ10において、第2ストラット部材58の受入穴58a内にはコイル状のスプリング62が備えられていたが受入穴58aに備えられるものはスプリングに限定されるものではなく、板ばねなど第1ストラット部材56と第2ストラット58とを離間させる弾性部材であればなんでもよい。
【0048】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施例のリーディング・トレーリング型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のII-II視断面図である。
【図3】シュー間隙自動調節機構のアジャストレバーを説明するための図2の矢印A方向から見た拡大図である。
【図4】図2のIV-IV視断面図である。
【図5】アジャストレバーの付勢力によるレバー部材のドラムブレーキ制動時、非制動時の状態を説明するための図である。
【図6】図2のVI-VI視断面図である。
【図7】図5のレバー部材の拡大図である。
【図8】図5の(b)のVIII-VIII視断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10:ドラムブレーキ
18,20:一対のブレーキシュー
26:シュー間隙自動調節機構
52:ストラット
54:アジャストレバー
54a:基端部
54c:係合部
54d:摺接係合部
54e:ストッパー部
56:第1ストラット部材
56a:螺子部
58:第2ストラット部材
58a:受入穴
58e:嵌着溝
60:アジャストナット
60a:スターホイール
62:コイル状のスプリング(弾性部材)
64:レバー部材
64a:挿入穴
64b:第1レバー部
64c:第2レバー部
68:切欠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に螺子部を備え、他端が一対のブレーキシューの一方に係合する第1ストラット部材と、該第1ストラット部材の螺子部を受け入れるために一端に開口する受入穴を備え、他端が該一対のブレーキシューの他方に係合する第2ストラット部材と、スターホイールを備えて前記第1ストラット部材の螺子部に螺合するアジャストナットとを有し、非制動時における該一対のブレーキシューの間隔を規定するストラットと、
前記スターホイールに係合させられる係合部を先端部に備え、基端部が前記第2ストラット部材に取り付けられ、制動時における前記第1ストラット部材と前記第2ストラット部材との間の軸心方向の相対移動に連動して前記スターホイールを一方向に回転させるためのアジャストレバーとを有するシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキにおいて、
前記第1ストラット部材と前記第2ストラット部材とを離間する方向に付勢する弾性部材が前記受入穴内に備えられていることを特徴とするシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキ。
【請求項2】
前記螺子部が挿入された挿入穴を有し、前記アジャストナットと第2ストラット部材との間に挟まれる第1レバー部と、該第1レバー部材に対して直角よりも大きい所定角度に折り曲げられた第2レバー部とを有するレバー部材を更に含み、
前記第1レバー部には、該第1レバー部のアジャストナット側の先端部分が切欠かれ、
非制動時には、前記レバー部材の第1レバー部は、前記第2ストラット部材と前記アジャストナットとの間に挟圧され、前記第2レバー部は前記係合部が前記スターホイールから離れる方向へ前記アジャストレバーをその付勢力に抗して押し曲げるものであり、
制動時には、前記第2ストラット部材と前記アジャストナットとの離間にしたがって前記アジャストレバーの付勢力にしたがって前記第2レバー部が前記第2ストラット部材に近接させられ該アジャストレバーの係合部が前記スターホイールを一方向に回転させることを特徴とする請求項1のシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキ。
【請求項3】
前記アジャストレバーの先端部には、前記アジャストナットに係合して第1ストラット部材が第2ストラット部材から脱落することを防止するストッパー部が備えられていることを特徴とする請求項1または2のシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキ。
【請求項4】
前記アジャストレバーの先端部には、前記スターホイールを挟んで前記係合部と反対側に位置し該スターホイールの外周歯に摺接させられる摺接係合部が備えられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかのシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキ。
【請求項5】
前記アジャストレバーの基端部は、前記第2ストラット部材を把持するように該第2ストラット部材に嵌め着けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかのシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキ。
【請求項6】
前記第2ストラット部材の所定位置には、前記基端部を嵌め着けるための嵌着溝が備えられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかのシュー間隙自動調節機構を備えたドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−281179(P2008−281179A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128299(P2007−128299)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】