説明

ショックアブソーバ

【課題】 MR流体を用いずに減衰力の調整が可能なショックアブソーバを提供すること。
【解決手段】 作動流体を封入され一端面からピストンロッド31を侵入及び退出可能とするシリンダ20と、シリンダ内の内周面上を長軸方向に、ピストンロッドと一体に変位可能なピストン30と、を有するショックアブソーバを提供する。ショックアブソーバは、シリンダ20と連通した作動流体のリザーバ32と、リザーバ32に備えられた磁界を発生させる励磁器33と、を有し、励磁器33が磁界を発生させた場合、作動流体の一部が作動流体から分離されリザーバ32に収容される、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のショックアブソーバに関し、特に、ショックアブソーバの減衰力を調整可能なショックアブソーバに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架装置が備えるショックアブソーバは、ショックアブソーバと平行に備えられるバネの振動を速やかに減衰させて車体を安定させる。ショックアブソーバは、所定の粘度を有するオイルなどの作動流体が、オリフィスを通過する時の粘性抵抗によりバネの振動を減少させる。
【0003】
車両に生じる振動は路面状態や速度等により大きく変化するため、減衰力を調整できるショックアソーバが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1記載のショックアブソーバは、磁場に対し可逆的に粘度が変化する磁性流体(以下、MR流体という)を作動流体として用い、磁場の印可を制御することでバネに働く減衰力を調節可能としている。
【0004】
しかしながら、MR流体は磁場が印可されていない状態でも高い粘度を有することから、振動に対する減衰が粗くなってしまう。このため、MR流体と所定の作動流体を同時に利用できる2重管式のショックアブソーバが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2記載のショックアブソーバは、共軸の2重管の外部シリンダに所定の作動流体を充填し、内部シリンダが外部シリンダの作動室内に可動自在に挿入される。また、内部シリンダにはMR流体が充填されていると共に、コイルを有するピストンが可動自在に挿入される。かかるショックアブソーバでは、比較的低粘性の作動流体により衝撃に敏感に反応できると共に、コイルに電流を流しMR流体の粘度を調整することでバネに働く減衰力を調整できる。
【特許文献1】米国特許第5284330号明細書
【特許文献2】特開2002−195340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1又は2に記載されたショックアブソーバのMR流体は、オイルに微小な磁石を分散させたものであるため、その密度差により磁石の沈殿が生じてしまう。沈殿が生じ不均一となったMR流体は、磁場を印可しても所望の粘度に変化せず、減衰力の適切な調整が困難となる。
【0006】
また、MR流体の粘度の変化に所望の幅を持たせるように粘度調整を行うと、大型の磁気回路及び磁気遮蔽回路が必要になるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、MR流体を用いずに減衰力の調整が可能なショックアブソーバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、作動流体を封入され一端面からピストンロッドを侵入及び退出可能とするシリンダと、シリンダ内の内周面を長軸方向に、ピストンロッドと一体に変位可能なピストンと、を有するショックアブソーバにおいて、シリンダと連通した作動流体のリザーバと、リザーバ(例えば、サブシリンダ32、リザーバ室R4)に備えられた励磁器(例えば磁界発生装置33)と、を有し、励磁器が磁界を発生させた場合、作動流体の一部が作動流体から分離されリザーバに収容される、ことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、作動流体の一部を分離することで、MR流体を用いずに減衰力の調整が可能なショックアブソーバを提供することができる。
【0010】
また、本発明のショックアブソーバの一形態において、作動流体に磁性イオン液体が混成されており、励磁器が磁界を発生させた場合、磁性イオン液体がリザーバに収容される、ことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、磁性イオン液体がリザーバに収容されることで作動流体の粘度が低下するので、減衰力の調整をすることができる。
【0012】
また、本発明のショックアブソーバの一形態において、作動流体にイオン化の程度の異なる2種以上の磁性イオン液体が混成されており、励磁機の磁界の強さに応じて、リザーバに収容される磁性イオン液体の量が変動する、ことを特徴とする。本発明によれば、磁界の強さに応じて、減衰力を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
MR流体を用いずに減衰力の調整が可能なショックアブソーバを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態のショックアブソーバの概略断面図を示す。ショックアブソーバ1は、シリンダ20及びピストン30の構成部材からなるいわゆるモノシリンダ型のショックアブソーバである。
【0015】
シリンダ20は作動流体25で満たされており、上端部内周面上には環状のロッドガイド26が組み付けられている。シリンダ20には、その上端面から、円柱状のピストンロッド31が、シール材27及びロッドガイド13を介して液密的に侵入及び退出可能に挿入されている。ピストンロッド31の上端部は図示しない車体に固着されている。
【0016】
ピストンロッド31の下端部には、環状のピストン30がピストンロッド31と一体的に長軸方向に変位するように組み付けられている。ピストン30は、シリンダ20内にその内周面上を液密的かつ摺動可能に組み込まれており、シリンダ20内を上下室R1,R2に区画している。
【0017】
ピストン30には、上下室R1,R2を連通させるとともに作動油の流れに対して油路抵抗を付与するオリフィスとして少なくとも2つの連通路30aが形成されている。連通路30aには一方向性バルブが固定され、一方の連通路30aは上室R1から下室R2へ作動流体の流入のみを許可し、また、他方の連通路30aは下室R2から上室R1への作動流体の流入のみを許可する。
【0018】
シリンダ20は、浮動ピストン21により区切られたガス室23を終端部22の側に有する。ガス室23は、例えば、窒素ガスが充填されており、ピストン30が上下動した場合のピストンロッド31によるシリンダ20の内容積の変動を吸収する。浮動ピストン21は、ガス室23の体積変動に合わせて上下動可能なピストンである。
【0019】
シリンダ20は連通して接続されたサブシリンダ32を有しており、連通路32aを介して、作動流体25がシリンダ20とサブシリンダ32を流動可能となっている。サブシリンダ32は、磁界発生装置33を備える。磁界発生装置33は、電流コイルなどで磁界を発生させる装置である。磁界発生装置33は、減衰力制御装置に接続されており、減衰力制御装置により磁界の発生が制御され、これによりショックアブソーバ1の減衰力が制御される。
【0020】
作動流体25について説明する。作動流体25は、少なくも一つの磁性イオン液体と、ショックアブソーバに一般的に用いられるオイル(以下、ノーマルオイルという)とを成分とする流体である。磁性イオン液体は、プラスの電荷を持つ陽イオンと、マイナスの電荷を持つ陰イオンのみからなるイオン液体で、磁性を有することから磁石を近づけると磁石に強く引き付けられる。
【0021】
磁性イオン液体は常温で液体であり、また、高温安定性に優れ、不揮発性である。また、磁性イオン液体は、科学的に安定しており、他のオイルと混ぜても別の液体になりにくく、マクロ的にそれぞれのオイルの粘度や透磁率が独立に存在する。したがって、磁性イオン液体とノーマルオイルとは、例えば磁石を用いれば混成した状態から磁性イオン液体とノーマルオイルとに分離可能であり、また、再度、混成することができる。なお、磁性イオン液体としては、例えば、塩化鉄(III)酸1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム、bmim〔FeCl〕を用いる。
【0022】
図2は、作動流体25の物性を説明するための図である。図2では、物性として粘度を示すが透磁率等の他の物性についても同様である。図2(a)は、作動流体25に磁界が与えられていない状態を、図2(b)は作動流体25に磁界が与えられている状態をそれぞれ示す。
【0023】
磁界が与えられていない状態では、作動流体25は磁性イオン液体25aとノーマルオイル25bとが混成した状態となり、粘度η2を示す。磁石39により作動流体25に磁界を与えると、磁性イオン液体25aが磁石39に引きつけられ、磁性イオン液体25aとノーマルオイル25bとが分離する。
【0024】
磁性イオン液体25aの粘度がη1、ノーマルオイル25bの粘度がη0とすると、磁性イオン液体25aは通常ノーマルオイル25bより高い粘度を有するので、η1>η0となる。また、磁性イオン液体25aと通常ノーマルオイル25bとが混成した作動流体25は、η1よりも低く、η0よりも高い粘度を有するので、η1>η2>η0となる。
【0025】
図1のショックアブソーバ1の場合、磁界発生装置33が磁界を発生させた場合、磁性イオン液体25aがサブシリンダ32に収容され、また、磁界発生装置33が磁界を発生を中止した場合、磁性イオン液体が開放されることとなる。したがって、磁界発生装置33の磁界のオン・オフにより、作動流体の粘性を調整できることとなる。
【0026】
すなわち、ショックアブソーバ1は、磁界が発生していない状態では粘度η2の粘性抵抗の中でピストン30が移動する。また、磁界が発生している状態では磁性イオン液体25aがサブシリンダ32に収容された状態となるので、粘度η0の粘性抵抗の中でピストン30が移動することとなる。すなわち、ショックアブソーバ1の減衰力を2段階に調整可能となる。引きつけられた磁性イオン液体25aは、磁界がなくなるとショックアブソーバの作動により再分散される。
【0027】
なお、後述のように、磁界発生装置33に磁化遮蔽手段を備え、磁界発生装置33が磁界を発生することによりショックアブソーバ1又は周辺の金属の磁化を防止することが好適である。
【0028】
減衰力制御装置について説明する。図3は、減衰力制御装置の機能ブロック図を示す。車両情報入力手段41又は減衰レベル設定手段42から送出された情報は減衰力制御装置43に入力される。
【0029】
車両情報入力手段41には、加速度センサ(以下、Gセンサ44という)及び温度センサ45が接続されている。Gセンサ44は、車両の上下方向及び前後方向の加速度を検出する。減衰力制御装置43は、車両情報入力手段41から送出された上下方向の加速度に基づき、凹凸の大きい路面を走行しているような場合、磁界発生装置33に磁界を発生させショックアブソーバ1の減衰力を減少させる。また、車両に制動が加えられ、前後方向に所定の閾値以上の加速度が検出されたような場合には、磁界発生装置33に磁界を発生させないことで減衰力を増加させピッチング量を減少させることができる。
【0030】
また、温度センサ45は、好適には作動流体の温度を検出し、また、例えばショックアブソーバ1付近の温度を検出する。減衰力制御装置43は、温度が高い場合には磁界発生装置33に磁界を発生させないことでショックアブソーバ1の減衰力を増加させる(作動流体を高粘度にする)。また、減衰力制御装置43は、温度が低い場合には磁界発生装置33に磁界を発生させショックアブソーバ1の減衰力を減少させる(作動流体を低粘度にする)。したがって、磁性イオン液体が混成された作動流体を用いたショックアブソーバ1では、車両の走行状態や温度に応じて、減衰力を自動的に調整することができる。
【0031】
また、減衰レベル設定手段42は、ユーザ(例えば運転者)によるショックアブソーバ1の減衰力の設定を可能とする。例えば、ユーザが低い減衰力を好む場合(やわらかい乗り心地を好む場合)、磁界発生装置33に磁界を発生させてショックアブソーバ1の減衰力を低下させる(作動流体を低粘度にする)。また、ユーザが高い減衰力を好む場合(固い乗りごこちを好む場合)、磁界発生装置33に磁界を発生させないことでショックアブソーバ1の減衰力を増加させる(作動流体を高粘度にする)。
【0032】
以上のように、本実施の形態のショックアブソーバは、作動流体に磁性イオン液体を混成することで、作動流体の粘度を変化させ、減衰力を調整することができる。減衰力は、ユーザが好みで設定することもできるし、車両の走行状況や環境に応じて自動的に制御されるので、乗り心地の優れた車両を提供できる。
【0033】
〔作動流体の変形例〕
作動流体の変形例について説明する。図2ではノーマルオイルと一つの磁性イオン液体とが混成した作動流体について説明したが、本変形例では、三種類の磁性イオン液体が混成した作動流体について説明する。上述のとおり、磁性イオン液体は、他のオイルと混ぜても別の液体になりにくく、マクロ的にそれぞれのオイルの粘度や透磁率が独立に存在する。このため、作動流体の粘度は、作動流体を構成する磁性イオン液体のそれぞれの粘度に応じて定まる傾向を有する。
【0034】
図4(a)は、作動流体に混成された三種類の磁性イオン液体の粘度とイオン化程度を示す図である。磁性イオン液体Aの粘度をηA、磁性イオン液体Bの粘度をηB、及び、磁性イオン液体Cの粘度をηCとした。また、ηA>ηB>ηC>η0(ノーマルオイル)である。
【0035】
また、イオン化の程度は、磁性イオン液体A>磁性イオン液体B>磁性イオン液体Cである。したがって、イオン化の程度の大きい磁性イオン液体Aは、弱い磁界により磁力の影響を受け、また、イオン化の程度の小さい磁性イオン液体Cはより強い磁界でなければ磁力の影響を受けない。
【0036】
図4(b)は、磁界発生装置33の磁界の強さにより変化する作動流体の構成と粘度及び減衰力の関係を示す図である。磁界が発生させられていない場合、作動流体の構成はノーマルオイル+磁性イオン液体A,B、Cとなる。磁界の強さがゼロの場合の作動流体の粘度は、最も粘度の高い磁性イオン液体Aを含むため最も大きい。
【0037】
弱い磁界が発生させられた場合、磁性イオン液体Aが磁界発生装置33に引きつけられるので、作動流体の構成はノーマルオイル+磁性イオン液体B、Cとなる。また、この場合の作動流体の粘度は、最も粘度の高い磁性イオン液体Aのみを含まないため2番目に大きい。
【0038】
中程度の磁界が発生させられた場合、磁性イオン液体A及びBが磁界発生装置33に引きつけられるので、作動流体の構成はノーマルオイル+磁性イオン液体Cとなる。また、この場合の作動流体の粘度は、最も粘度の高い磁性イオン液体Aと次に粘度の高い磁性イオン液体Bを含まないため小さい。
【0039】
強い磁界が発生させられた場合、磁性イオン液体AないしCが磁界発生装置33に引きつけられるので、作動流体の構成はノーマルオイルのみとなる。また、この場合の作動流体の粘度は、更に小さくなる。
【0040】
ショックアブソーバ1の減衰力は、作動流体の粘度が大きければ大きく、粘度が小さければ小さくなるので、磁界の強さを制御することで、ショックアブソーバの減衰力を調整できる。
【0041】
したがって、図4(a)のように三種類の磁性イオン液体が混成されている場合、減衰力制御装置は、ショックアブソーバ1の減衰力を4段階に調整できる。
【0042】
次に、4段階に粘度調整が可能な作動流体を用いて、温度変化があってもショックアブソーバ1の減衰力を同程度に保持する場合について説明する。図5(a)は、温度センサ45が検出した温度とショックアブソーバ1の減衰力の関係の一例を示す図である。検出された温度が高温であれば、減衰力制御ECU43は磁界の強さを0とする。また、検出された温度が常温であれば、減衰力制御ECU43は磁界の強さを小とする。同様に、検出された温度が低温1であれば、減衰力制御ECU43は磁界の強さを中として、検出された温度が低温2(<低温1)であれば、減衰力制御ECU43は磁界発生装置33の磁界の強さを大とする。
【0043】
すなわち、温度が高いほど粘度の高い構成となるように磁界の強さを制御する。作動流体の温度が変動すれば作動流体の粘度も変更しショックアブソーバの減衰力も変動するが、減衰力制御装置が係る制御を行うことで作動流体の構成を変更できるので、車両周辺の温度にかかわらずショックアブソーバ1の減衰力を安定的に保つことができる。
【0044】
また、ショックアブソーバ1の減衰力をユーザの好みに応じて4段階に調整する場合について説明する。図5(b)は、作動流体の粘度の切替スイッチの設定とショックアブソーバ1の減衰力の関係の一例を示す図である。ユーザが切替スイッチを高粘度に設定した場合、減衰力制御ECU43は磁界の強さを0とする。図4(b)によれば、磁界の強さが0の場合、減衰力は大となる。ユーザが切替スイッチをノーマル粘度に設定した場合、減衰力制御ECU43は磁界の強さを小とする。図4(b)によれば、磁界の強さが小の場合、減衰力は中となる。ユーザが切替スイッチを低粘度1に設定した場合、減衰力制御ECU43は磁界の強さを中とする。図4(b)によれば、磁界の強さが中の場合、減衰力は小となる。ユーザが切替スイッチを低粘度2(<低粘度1)に設定した場合、減衰力制御ECU43は磁界の強さを大とする。図4(b)によれば、磁界の強さが大の場合、減衰力は更に小さくなる。
【0045】
したがって、図5(b)のように、ユーザが作動流体の粘度を選択可能とすれば、ショックアブソーバ1の減衰力をユーザの好みに応じて調整できる。
【0046】
〔ショックアブソーバの変形例〕
これまでモノシリンダ型のショックアブソーバの減衰力を磁性イオン液体を構成に含む作動流体で調整する実施の形態について説明したが、ショックアブソーバの型式は磁性イオン液体を磁界により所定部位に収容できるものであればどのような型式であってもよい。
【0047】
図6(a)は、ツインチューブ型のショックアブソーバ2の概略断面図を示す。ショックアブソーバ2は、円筒状の内筒50と、円筒状の外筒51とからなる2重構造を有する。なお、図6(a)において図1と同一構成部分には同一の符号を付しその説明は省略する。
【0048】
内筒50は作動流体25で満たされており、上端部内周面上には環状のロッドガイド13が組み付けられている。内筒50には、その上端面から、円柱状のピストンロッド31が、シール材27及びロッドガイド26を介して液密的に侵入及び退出可能に挿入されている。ピストンロッド31の上端部は図示しない車体に固着されている。
【0049】
ピストンロッド31の下端部には、環状のピストン30がピストンロッド31と一体的に長軸方向に変位するように組み付けられている。ピストン30は、内筒50内にその内周面上を液密的かつ摺動可能に組み込まれており、内筒50内を上下室R1,R2に区画している。
【0050】
ピストン30には、上下室R1,R2を連通させるとともに作動油の流れに対して油路抵抗を付与するオリフィスとして少なくとも2つの連通路30aが形成されている。連通路30aには一方向性バルブが固定され、一方の連通路30aは上室R1から下室R2へ作動流体の流入のみを許可し、また、他方の連通路30aは下室R2から上室R1への作動流体の流入のみを許可する。
【0051】
外筒51は、内筒50の外周面との間にリザーバ室R3を形成している。また、外筒51と一体的な下蓋57と内筒50の下端面とを区画するように、円板状のベースバルブ54が組み付けられ、リザーバ室R4を形成している。
【0052】
ベースバルブ54には、リザーバ室R4と下室R2とを連通させる連通路59が形成されており、連通路59を介して作動流体が充填されている。また、ベースバルブ54には、リザーバ室R3とリザーバ室R4とを連通させる連通路55が形成されている。リザーバ室R3内には窒素、空気などの気体が封入されているとともに、連通路55を介して作動流体が流入している。
【0053】
ピストンロッド31の内筒50に対する侵入及び退出によって、作動流体が占める内筒50の内容積が変化するが、この体積変化は連通路59、55を介してリザーバ室R3に対する作動流体の流入出により吸収される。連通路59は、作動油の流れに対して油路抵抗を付与するオリフィスとして機能し、連通路30aと共に、ピストンロッド31の侵入及び退出に対し適切な減衰力を作用させる。
【0054】
リザーバ室R4には、磁界発生装置33が備えられている。また、磁界発生装置33には、磁化遮蔽手段61が備えられており、磁界発生装置33が磁界を発生することによりショックアブソーバ2又は周辺の金属を磁化することを防止する。強度やコストの点から、ショックアブソーバ2は金属で形成することが好ましいが、繊維強化樹脂など磁化されない材質でリザーバ室R4を形成してもよい。
【0055】
また、図6(b)のように、磁界発生装置33を直接、作動流体と接するように構成してもよい。図6(b)では、リザーバ室R4に直接磁界発生装置33が挿入されている。直接、作動流体を磁化できるので磁界発生装置33を小型化できる。
【0056】
図6(a)又は(b)のようなショックアブソーバでは、磁界発生装置33が磁界を発することで、リザーバ室R4に磁性イオン液体が収容されるので、作動流体の粘度、すなわちショックアブソーバの減衰力を調整できる。減衰力の調整段階は2段階であってもよいし、4段階又はそれ以上であってもよい。
【0057】
また、ツインチューブのショックアブソーバであっても、図1のようにサブシリンダを設けて磁性イオン液体を収容できる。図7(a)は、サブシリンダを有するツインチューブ型のショックアブソーバ3の概略断面図を示す。なお、図7(a)において、図6と同一構成部分には同一の符号を付しその説明は省略する。
【0058】
図7(a)では、リザーバ室R4とサブシリンダ32とが接続されており、連通路32aを介して作動流体が流通している。サブシリンダ32の上部には磁界発生装置33が備えられている。ショックアブソーバ3、特にサブシリンダ32が金属の場合には、磁化遮蔽手段を設け、ショックアブソーバ2又は周辺の金属を磁化することを防止する。また、サブシリンダ32を樹脂など磁化されない材質で形成してもよい。
【0059】
また、図7(b)のように、磁界発生装置33を直接、作動流体と接するように構成してもよい。図7(b)では、サブシリンダ32の内部に直接磁界発生装置33が挿入されている。直接、作動流体を磁化できるので磁界発生装置33を小型化できる。
【0060】
図7(a)又は(b)のようなショックアブソーバでは、磁界発生装置33が磁界を発することで、サブシリンダ32に磁性イオン液体が収容されるので、作動流体の粘度、すなわちショックアブソーバの減衰力を調整できる。減衰力の調整段階は2段階であってもよいし、4段階又はそれ以上であってもよい。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態のショックアブソーバは、作動流体に磁性イオン液体を混成することで、減衰力を調整できる。磁性イオン液体は、MR流体と異なり沈殿等を生じにくいので粘度の調整を適切に行うことができる。また、磁性イオン液体の場合、磁界発生装置33や磁気遮蔽回路61を小型化できるので配置が容易であり、コストや車両重量の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ショックアブソーバの概略断面図である。
【図2】作動流体の物性を説明するための図である。
【図3】減衰力制御装置の機能ブロック図である。
【図4】作動流体に混成された磁性イオン液体の物性の一例である。
【図5】磁界の強さとショックアブソーバの減衰力の関係を示す図である。
【図6】ツインチューブ型のショックアブソーバの概略断面図である。
【図7】サブシリンダを有するツインチューブ型のショックアブソーバの概略断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1、2、3 ショックアブソーバ
20 シリンダ
21 浮動ピストン
23 ガス室
25 作動流体
26 ロッドガイド
27 シール材
30 ピストン
31 ピストンロッド
33 磁界発生装置
50 内筒
51 外筒
54 ベースバルブ
61 磁気遮蔽回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を封入され一端面からピストンロッドを侵入及び退出可能とするシリンダと、
前記シリンダ内の内周面を長軸方向に、前記ピストンロッドと一体に変位可能なピストンと、を有するショックアブソーバにおいて、
前記シリンダと連通した前記作動流体のリザーバと、
前記リザーバに備えられた励磁器と、を有し、
前記励磁器が磁界を発生させた場合、前記作動流体の一部が前記作動流体から分離され前記リザーバに収容される、
ことを特徴とするショックアブソーバ。
【請求項2】
前記作動流体に磁性イオン液体が混成されており、
前記励磁器が磁界を発生させた場合、前記磁性イオン液体が前記リザーバに収容される、
ことを特徴とする請求項1記載のショックアブソーバ。
【請求項3】
前記作動流体にイオン化の程度の異なる2種以上の磁性イオン液体が混成されており、
前記励磁機の磁界の強さに応じて、前記リザーバに収容される前記磁性イオン液体の量が変動する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のショックアブソーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−292096(P2006−292096A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114610(P2005−114610)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】