説明

ショートアーク型放電ランプおよびショートアーク型放電ランプの製造方法

【課題】長期間にわたってエミッタ源が枯渇することなく、アークに面した陰極先端へ、エミッタをすみやかに、かつ安定して供給し、照度変動の増大を防ぐことができる陰極を備えるショートアーク型放電ランプを提供すること。
【解決手段】発光管10の内部に一対の陰極20と陽極30とが対向配置され、該陰極20は、エミッタを含有するタングステン材よりなる本体部21と、軸部22とよりなり、該本体部21は、その先端から該陰極20の内部を伸びる細穴26を備えるショートアーク型放電ランプにおいて、該細穴26の内面は、開口近傍が非炭化部28であり、該非炭化部28よりも深い箇所に炭化層27が設けられていることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や液晶の製造分野などの露光用光源、あるいは映写機やデジタルシネマなどの光源に適用されるショートアーク型放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
水銀を封入したショートアーク型放電ランプは、発光管内に対向配置された一対の電極の先端距離が短く、点光源に近いことから、光学系と組み合わせることにより集光効率の高い露光装置の光源として利用されている。また、キセノンを封入したショートアーク型ランプは、映写機などにおいて可視光の光源として用いられている。近年ではデジタルシネマ用光源としても使用されている。
【0003】
図8は、ショートアーク型放電ランプの全体構成を示す概略図である。
ショートアーク型放電ランプ1の発光管10はガラスよりなり、略球状の発光部11と両端の封止部12とを備えている。発光管10内部に形成された空間Sには、一対の陰極20と陽極30が対向配置されている。陰極20および陽極30は、先端の本体部に軸部22、32が嵌入されて構成されている。陰極の材料は、例えば、タングステンである。
【0004】
従来から、例えば、酸化トリウムを含有するタングステンにより構成された陰極など、タングステン材料にエミッタを含有させた陰極を用いたものが知られている。
また、エミッタを含有した陰極をもつランプにおいて、陰極にエミッタを供給するための細穴を設けたもの(特許文献1)が知られている。
図7(a)は、特許文献1で示された従来のショートアーク型放電ランプに陰極の本体部を示す拡大断面図である。
陰極の本体部21の基端側には軸部22を嵌入するための嵌入孔23が形成されている。本体部21の先端には、平坦な先端面25を有すると共に、この先端面25に陰極の長手方向に伸びる細穴26が形成されている。
この細穴26の内部に導入されたエミッタが、この細穴26の内周面における表面拡散を利用して、細穴26から外部へ放出され、アークに供給される。
本体部21の先端近傍に形成されたテーパー部24には、炭化タングステンよりなる炭化層27が形成されており、低い温度であってもエミッタ酸化物を還元して、速やかにエミッタをアークに供給することが出来る。このような炭化層27は、炭素を塗布して焼成したり、炭化タングステンを塗布して焼結したりすることによって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−96965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、ランプが高出力化して大型化するにともなって、短時間で露光面における照度変動率が増大する問題が発生している。これは陰極側面から先端へのエミッタの供給が不足してくるために起こると考えられる。
すなわち、エミッタは陰極20側面のテーパー部24から、表面拡散によってアークが形成される先端面25近傍まで供給されるが、先端近傍は高温のため多くのエミッタが先端面25に供給されることなく消失する。消失することなく陰極20の先端面25に到達するエミッタも、テーパー部24の表面に析出するエミッタ源が枯渇してくると供給が停滞してしまい、陰極先端への安定した供給ができなくなり、先端面25でのエミッタ不足を引き起こす。
さらに、テーパー部24に設けられた炭化タングステン層27で還元されたエミッタが離脱して発光空間内に放出されると、発光管内壁面が白濁する原因にもなる。
【0007】
そこで、本発明者らは陰極の側面からではなく、主に細穴の内部から効率よくエミッタを供給する手段を検討した。図7(b)は、参考例としての陰極本体部を示す断面図である。
図7(b)において、陰極本体部21は、その先端に開口を有する細穴26が長手方向に形成されており、細穴26の内面全体に炭化層27が形成されている。この炭化層27は炭化タングステンであり、これによって、低い温度であってもエミッタ酸化物を還元して、速やかにエミッタをアークに供給することが出来る。
細穴26の開口は、ランプ点灯中にアークが発生する陰極先端に形成されており、この開口から供給されるエミッタは必然的にアークに面した陰極先端に供給される。また、エミッタは拡散する過程で蒸発したとしても、アーク中で電離して陰極先端に戻るので消失することがない。
しかし、このような陰極をもつランプを点灯して照度変動についての評価実験を行ったところ、細穴26の内面に炭化層27を設けていないランプよりも、照度変動が大きくなる時間が早いランプがあった。このランプについて、陰極を破断して細穴26の様子を観察したところ、陰極先端付近で細穴26が塞がっていた。これは、炭化タングステンの融点がタングステンと比べて低いため、熱移動によって変形し、細穴26を塞いでしまったと考えられる。さらに、これによって細穴26内からのエミッタの供給が停止され、照度変動が大きくなったと考えられる。
【0008】
以上により、本発明は、長期間にわたってエミッタ源が枯渇することなく、アークに面した陰極先端へ、エミッタをすみやかに、かつ安定して供給し、照度変動の増大を防ぐことができる陰極を備えるショートアーク型放電ランプを提供することを目的とする。また、本発明のショートアーク型放電ランプを簡便に製造する方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、発光管の内部に一対の陰極と陽極とが対向配置され、該陰極は、エミッタを含有するタングステン材よりなる本体部と、軸部とよりなり、該本体部は、その先端から該陰極の内部を伸びる細穴を備えるショートアーク型放電ランプにおいて、該細穴の内面は、開口近傍が非炭化部であり、該非炭化部より深い箇所に炭化層が設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、細穴内面の炭化層は、開口から2mm以上深い箇所に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、上記課題を解決する本発明の製造方法は、発光管の内部に一対の陰極と陽極とが対向配置され、該陰極は、エミッタをするタングステン材よりなる本体部と、軸部とよりなり、該本体部は、その先端から該陰極の内部を伸びる細穴を備えるショートアーク型放電ランプの製造方法において、前記本体部の基端側から第二の細穴を形成し、該第二の細穴に炭素源を充填し、熱処理を施して第二の細穴の内面に炭化層を形成した後、該本体部の先端側から、第一の細穴を形成して、該第一の細穴の内面に非炭化部を形成すると共に、第二の細穴と連通させる工程を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の製造方法は、発光管の内部に一対の陰極と陽極とが対向配置され、該陰極は、エミッタを含有するタングステン材よりなる本体部と、軸部とよりなり、該本体部は、その先端から該陰極の内部を伸びる細穴を備えるショートアーク型放電ランプの製造方法において、前記本体部の先端側から細穴を形成し、該細穴に炭素源を充填し、熱処理を施して細穴の内面に炭化層と、非炭化部とを形成する工程を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の製造方法は、発光管の内部に一対の陰極と陽極とが対向配置され、該陰極は、エミッタを含有するタングステン材よりなる本体部と、軸部とよりなり、該本体部は、その先端から該陰極の内部を伸びる細穴を備えるショートアーク型放電ランプの製造方法において、 前記本体部の先端側から細穴を形成し、該細穴に炭素源を充填し、熱処理を施して細穴の内面に炭化層を形成した後、該本体部の先端側から該細穴よりも径の大きい拡張穴を形成することで非炭化部を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細穴内に設けられた炭化層により、アークが形成された陰極先端へ安定してエミッタをすみやかに供給して、照度変動を防ぐことができる。また、エミッタが消失しにくいため、長時間にわたって照度変動を防ぐことができる。
さらに、細穴の開口近傍が非炭化部であることにより、融点が高いために、熱移動により細穴が変形して塞がることがない。
【0015】
また、本発明によれば、炭化層は開口から2mm以上深い箇所に設けられることにより、細穴が塞がるという問題をより確実に防止することができる。
【0016】
本発明の製造方法によれば、陰極の先端部に開口する細穴の内周面に、簡便な方法により炭化層を設けることができる。また、第一の細穴と第二の細穴を、2段階に分けて形成することにより、細穴の先端近傍に確実かつ容易に非炭化部を形成することが出来る。
【0017】
また、本発明の製造方法によれば、陰極の先端部に開口する細穴の内周面に、きわめて簡便な方法により炭化層と非炭化部とを分けて設けることができる。
【0018】
また、本発明の製造方法によれば、充填する炭素源の量を調整する必要もなく、きわめて簡便に炭化層を形成することができ、かつ確実に非炭化部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかるショートアーク型放電ランプの陰極の断面図である。
【図2】本発明の第一の実施形態にかかる陰極の製造工程を説明するための断面図である。
【図3】本発明の第二の実施形態にかかるショートアーク型放電ランプの陰極の断面図である。
【図4】本発明の第二の実施形態にかかる陰極の製造工程を説明するための断面図である。
【図5】本発明の第二の実施形態にかかる陰極の製造工程の他の例を説明するための図である。
【図6】本発明のショートアーク型放電ランプの実験結果について示す図である。
【図7】(a)は、従来のショートアーク型放電ランプにかかる陰極の断面図である。(b)は、参考例としてのショートアーク型放電ランプにかかる陰極の断面図である。
【図8】ショートアーク型放電ランプの全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図8は、ショートアーク型放電ランプの全体構成を示す概略図である。
ショートアーク型放電ランプ1の発光管10は、中央に位置する略球状に形成された発光部11と両端に位置する柱状の封止部12を備える。発光管10の内部には、陰極20の本体部21と陽極30の本体部31とが、互いに向き合って配置されるとともに、発光物質が封入されている。
【0021】
陰極20は、その先端側が、陽極30の本体部31に向かうにつれて次第に縮径するテーパー部を有する本体部21と、この本体部21の基端側に続く棒状の軸部22とにより構成される。
陽極30は、その先端側に丸みが形成された本体部31と、この本体部31の基端側に続く棒状の軸部32とにより構成される。
【0022】
陰極20および陽極30の材料には、タングステンが用いられる。陰極に用いられるタングステン材にはエミッタを含有させる。エミッタとしては、酸化トリウム(ThO)、酸化イットリウム(Y)、またはランタノイド系の酸化物である、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(Ce、またはCeO)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化ジスプロシウム(Dy)、酸化サマリウム(Sm)、もしくは酸化ネオジム(Nd)などを好適に用いることができ、例えば酸化トリウムであれば2wt%程度の量がタングステンに含有される。これらエミッタを含有させると、電極の仕事関数が低下し、電子放出が容易になるという効果がある。
また、陰極先端にはアークが形成されているため、密度の低いタングステンでは熱伝導が悪く高温になり、先端を消耗する。したがって、陰極に用いられるタングステン材としては、密度が18g/cc以上、好ましくは19g/cc以上のものが好ましい。
【0023】
封入する主発光物質は、水銀であり、封入量は例えば1mg/cc以上である。水銀を封入した場合は、さらにその他にバッファガスとして希ガス、例えば、キセノンガス、アルゴンガス、クリプトンガスのうちの何れか1種以上を0.01〜1MPa(室温)封入しても良い。
または、封入する主発光物質は希ガスであり、例えば0.5MPa(室温)以上のキセノンガスが封入される。
【0024】
両端の各封止部12には、電極の軸部と電気的に接続された図示略のモリブデン箔が埋設されており、気密封止構造が形成される。封止部12の外端からは、前述のモリブデン箔と電気的に接続された外部リード13が突出しており、この外部リード13に図示略の給電装置が接続されて電流供給が行われる。
なお、封止構造は上記に限定されるものではなく、主にキセノンを封入した映写機用の放電ランプの場合であれば、箔を使用せず、発光管に使用するガラスとは熱膨張係数が異なる段継ぎガラスによって、電極軸部が直接封止される。
【0025】
図1は、本発明のショートアーク型放電ランプにかかる陰極を示す断面図であり、陰極を長手方向に沿って切断したものである。ここで長手方向とは、陰極の先端側から基端側への方向をいう。
陰極20の本体部21は、軸部22よりも大径の略円柱状であり、先端に向かうにしたがって小径となるテーパー部24を備えている。テーパー部24のさらに先端側は、例えば平面によって形成された先端面25であり、この図の場合には本体部21は円錐台状に形成されている。テーパー部24のテーパー角は、40〜90°であり、例えば60°である。なお、先端面25は球面であってもよい。
【0026】
細穴26は、径の小さい第一の細穴261と、径の大きい第二の細穴262よりなり、先端面25に開口端を有し、陰極20の長手方向に沿って形成される。第一の細穴261の径(以下穴径ともいう)は、φ0.08〜φ1mmであり、例えばφ0.1mmである。また、第二の細穴262の径(以下穴径ともいう)は、φ0.3〜φ5mmであり、例えばφ2mmである。細穴26の形状は、通常、断面円形状のものが作製しやすいが、断面矩形状であってもかまわない。
第一の細穴261は、その径が大きすぎる場合には先端面25の面積が減少して、電流密度が上昇してしまい、陰極先端が温度上昇によって変形しやすくなったり、タングステンの結晶粒成長を促進したりするため、上記の範囲で形成されることが好ましい。
本体部21の基端側には、軸部22を嵌入するための嵌入孔23が形成されて、軸部22が嵌入されている。なお、本体部21と軸部22との固定は嵌入によるものでなくともよく、溶接してもよいし、螺子などで固定しても良い。
【0027】
陰極20中に含有されるエミッタは、酸化物の形で金属中に存在する。エミッタは、高温部で還元されて、陰極の内部から粒界拡散や粒内拡散によって表面に移動するか、または表面拡散によって表面を移動する。
先端面25に設けられた細穴26は、その内周表面が陰極の先端面に対して連続しており、かつ細穴26の開口は点灯時にアークが形成される場所でもある。そのため、細穴26の内周表面からアーク形成位置まで表面拡散、または気相拡散によってエミッタを供給することができる。
しかも、細穴26内から供給されるエミッタは、必然的にアークが形成された陰極先端に送り込まれることとなる。アーク中へ蒸発したエミッタは、陽イオン化するために再び陰極に戻り、消失しにくくなる。
【0028】
さらに、この細穴内には炭化タングステンである炭化層27が設けられているので、比較的低温から酸化物エミッタを還元することができ、エミッタを速やかにアークまで供給することが出来る。この炭化層27は、後述する熱処理によって陰極20そのものを炭化した炭化層であって、細穴内周の最表面から深さ方向に、例えば30μm程度の厚みをもって形成されている。
また、細穴26の先端開口近傍の内面には、炭化処理がされていない非炭化部28が設けられている。非炭化部28は、例えば細穴26の開口から深さ方向に4mmの箇所の内面まで設けられる。これは、炭化タングステンは融点が低いため、アークの熱によって細穴26が塞がることを防止するためである。
【0029】
上記の陰極によれば、エミッタ源が枯渇することなく、アークに対して安定してエミッタをすみやかに供給して、照度変動を防ぐことができる。また、非炭化部が設けられているため、細穴が塞がるおそれもない。
【0030】
続いて、上記(図1)の陰極の製造方法について説明する。
図2(a)〜(d)は、陰極の本体部を製造する方法の、各工程を説明するための陰極本体部の断面図である
図2(a)に示すように、まず陰極本体部21の材料として酸化物エミッタが添加されたタングステンロッドを所定の長さに切り出す。切り出したタングステンロッドの一方の端部を先端とし、先端側にテーパー部24を所定の角度で切削によって形成する。
本体部21の基端側には、軸部22を嵌入するための嵌入孔23を切削により形成する。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、陰極本体部21の基端側から、第二の細穴262を切削によって形成する。
次に、この第二の細穴262内に炭素(黒鉛)粉末を充填して真空中で熱処理することによって、図2(c)に示す箇所に炭化層27が形成される。
第二の細穴262内には、塗布焼成や蒸着によって炭化層27を形成することは困難であるが、このように穴内に炭素源を充填すると、炭素源が穴内壁と十分に接触することとなり、熱処理によって表面から深さ方向に十分な厚みの炭化層27が形成される。
【0032】
次に、図2(d)に示すように、陰極先端側の先端面25から放電加工により基端側に向かって、第二の細穴262よりも径の小さい第一の細穴261を形成していき、第二の細穴262と連通させる。第一の細穴261が形成された後は、軸部22を嵌入して陰極が完成する。
炭化層27を形成した後に設けた第一の細穴261内は確実に非炭化部28となる。これは、先端近傍の細穴内に、非炭化部が簡単かつ確実に形成されるという点で有利である。
また、先端側と基端側の2方向から細穴を掘削して、陰極本体部内で連通させることは困難であるが、第一の細穴261よりも穴径の大きい第二の細穴262を形成しておくことにより、容易にこれらを連通させることが出来る。
【0033】
上記の工程を有する陰極の製造方法によれば、陰極の先端部に開口する細穴の内周面に、簡便な方法により炭化層を設けることができる。
また、第一の細穴と第二の細穴を、2段階に分けて形成することにより、細穴の開口近傍に確実かつ容易に非炭化部を形成することが出来る。
【0034】
図3は、本発明の第二の実施形態にかかるショートアーク型放電ランプの陰極を示す断面図であり、陰極を長手方向に沿って切断したものである。
図3においては、細穴の構成のみが図1の陰極と相違するので、それ以外の構成の説明は省略する。また、本実施形態においては、細穴は本体部の先端側から形成するため、本体部と軸部とは一部材により一体に形成してもよい。
細穴26は、先端面25に開口を有し、陰極20の長手方向に沿って、略一定の穴径で形成されている。穴径は、φ0.08〜φ1mmであり、例えばφ0.1mmである。穴の深さは適宜設定されるものであり、基端側まで貫通していてもかまわない。
【0035】
細穴26内には、同様に炭化タングステンである炭化層27が設けられている。さらに、細穴26の先端近傍には炭化がされていない非炭化部28が設けられている。
本実施形態における、炭化層27および非炭化部28の役割は、第一の実施形態にかかる陰極と同様であるが、製造方法が異なる。
【0036】
図4(a)および(b)は、上記(図3)の陰極の本体部を製造する方法の、各工程を説明するための陰極本体部の断面図である。
まず、所定の長さに切り出したタングステンロッドを用意し、一端を先端側としてテーパー部24を形成する。また、基端側には嵌入孔23を形成する。ここまでは、図2(a)で説明した工程と同様である。
【0037】
次に、図4(a)に示すように、陰極本体部21の長手方向に沿って、先端面25から基端側へ伸びる細穴26を放電加工により作成する。形成した細穴26には、細穴26の深さよりも短い炭素棒40を炭素源として挿入する。なお炭素源は粉末であっても良い。または、炭素源は炭素粉末が含まれた炭素ペーストであってもよい。
【0038】
次に、炭素棒40を挿入した陰極本体部21を真空中で保持し、熱処理をすることによって、図4(b)に示す箇所に炭化層27が形成される。また、炭素棒40は、細穴26の深さよりも短いため、先端面25近傍の細穴26内は非炭化部28となる。
【0039】
上記の工程を有する陰極の製造方法によれば、陰極の先端部に開口する細穴の内周面に、きわめて簡便な方法により炭化層を設けることができる。
また、充填する炭素源の量を調整することにより、細穴内に炭化層と非炭化部を分けて形成することができる。
【0040】
また、非炭化部28は以下のような方法によっても形成することができる。
図5(b)は細穴26内に非炭化部を形成する他の方法の工程を説明するための陰極本体部の断面図である。
図5(a)は、図4(b)に示した陰極本体部21において、炭化層27が細穴26の内周面全体にわたって形成されたものである。この炭化層27は、細穴全体にわたって炭素源を充填して熱処理することによって得られる。
まず、この陰極本体部21を作製し、放電加工等により作製した細穴26内に炭化層27を形成した後に、先端面25の開口側から、細穴26よりも径の大きい穴である、拡張穴263を、例えば放電加工により新たに形成する。
これにより、細穴26の開口近傍に形成されていた炭化層を一部削り取ることで、図5(b)に示すように、この拡張穴263の内周面を非炭化部とすることができる。炭化層の厚みは例えば30μmであるから、その場合は拡張穴263を形成する際に削り取る厚みは100μm以下で足りる。なお、拡張穴263の形状は円柱状の穴に限られない。
【実施例】
【0041】
これらの陰極の、照度変動に対する効果を確認する実験について以下に示す。試験用ランプとして、水銀封入量2mg/cc、バッファガスとしてアルゴン(Ar)ガスを0.3MPa封入した種々のランプを作製し、ランプ入力電力10kWで点灯寿命テストを実施した。試験用ランプには、比較のために細穴の内部に炭化層を設けないものも用いた。
細穴の内部に炭化層が形成されているかどうかは、陰極本体部を半分に破断し、破断面の様子を実態顕微鏡で観察し、さらに破断面を研磨して金属顕微鏡で観察し、また、X線回折法により炭化タングステン(WC、WC)の回折ピークを観測することにより確認した。
照度変動が点灯中に生じた場合、ランプ電圧も変動するので、簡易的に電圧変動が発生するまでの時間を評価した。
【0042】
試験に用いた各種ランプの陰極は、図1に示した二段階の細穴を形成して炭化層を設けたもの、図3に示した単一の細穴を形成して炭化層を設けたもの、また、比較例として、細穴内には炭化層を全く設けないもの(不図示)のいずれかであるが、具体的な炭化層の形成方法が異なるため、その製造方法とそれに対応する各ランプ番号を以下に示す。
なお、全てのランプの陰極について、陰極本体部は、酸化トリウムが2wt%添加されたタングステンロッドを先端径φ2mm、テーパー角60°の形状に切削したものを用いた。以下に示す炭化層の形成方法は、その後の工程についてのものである。
【0043】
<製法A>
図7(b)に示した陰極を製造するために、陰極本体部21に、放電加工を用いて先端面25から穴径φ0.35mm、穴の深さ10mmである細穴26を形成した。細穴の中にはφ0.3mm、長さが十分な炭素棒を穴の底に突き当たるまで挿入して、細穴から突出した分を折り取った。その後、真空中で熱処理をし、炭化層を形成した。この製法では、細穴の内面全体に炭化層が形成される。
【0044】
<製法B>
図4(b)に示した陰極を製造するために、陰極本体部21に、放電加工を用いて先端面25から穴径φ0.35mm、穴の深さ10mmである細穴26を形成した。細穴の中にはφ0.3mm、長さ9mmの炭素棒を挿入して、穴の底に突き当たるまで押し込んだ。その後、真空中で熱処理し、炭化層を形成した。上記の例においては、細孔の開口から深さ方向に1mm以上の箇所の内面は炭化層が形成されない非炭化部であり、それよりも深い位置に炭化層が形成される。
また、非炭化部と炭化層の構成比は、挿入する炭素棒の長さを調整することにより変更することができる。例えば、穴の深さが10mmの場合、細穴の開口から深さ方向に2mm以上の位置まで非炭化部を設けるには、8mmの炭素棒を用いればよい。
【0045】
<製法C>
図4(b)に示した陰極を製造するために、陰極本体部21に、放電加工を用いて先端面25から穴径φ0.35mm、穴の深さ10mmである細穴26を形成した。この細穴に注射針を挿入し、炭素粉末が0.15mg/mm含まれたペーストを、注射針を引き抜きながら注入した。注入量は穴底から8mmの位置まで満たすように0.76mmとした。乾燥後、真空中で熱処理をし、炭化層を形成した。上記の例においては、細穴の開口から深さ方向に2mm以上の箇所の内面は炭化層が形成されない非炭化部であり、それよりも深い位置に炭化層が形成される。また、非炭化部と炭化層の構成比は、注入する炭素ペーストの量を調整することにより変更することができる。
【0046】
<製法D>
図2(d)に示した陰極を製造するために、陰極本体部21の基端側から、φ2mmの第二の細穴262を先端から5mmの位置まで形成し、炭素粉末を詰め込んだ。その後、真空中で熱処理し、炭化層を形成した。炭化層形成後、陰極の先端面25から、φ0.2mmの第一の細穴261を形成して第二の細穴262と連通させた。上記の例においては、細穴の開口から深さ方向に5mmまでの第一の細穴261の内面が非炭化部となり、それより深い位置にある第二の細穴の内面が炭化層となる。
【0047】
<製法E>
図5(b)に示した陰極を製造するために、陰極本体部21に、放電加工を用いて先端面25から穴径φ0.35mm、穴の深さ10mmである細穴26を形成した。この細穴に注射針を挿入し、炭素粉末が0.15mg/mm含まれたペーストを注入し、細穴を満たした。乾燥後、真空中で熱処理し、炭化層を形成した。その後、さらに陰極先端側から放電加工によって、細穴26に穴径φ0.5mmの穴である拡張穴263を、開口から深さ方向に2mmの箇所まで形成することで非炭化部を形成した。上記の例においては、細穴の開口から2mmまでの第一の細穴261の内面が非炭化部となり、それよりも深い位置にある第二の細穴の内面が炭化層となる。
【0048】
図6(a)は、試験を行ったランプについて、その番号と、上記の炭化層の形成方法と、点灯寿命テストにおける点灯開始から電圧変動発生までの時間、細穴の塞がりの有無との関係を示す。
ランプNo.1は、炭化層を形成しないランプ、ランプNo.2は細穴の内面全体に炭化層を形成したランプ、No.3〜No.10は開口近傍に非炭化部を形成したランプである。
図6(a)に示すように、細穴内部すべてを炭化したランプNo.2は点灯から562時間で電圧変動が大きくなり、細穴も塞がっていた。また、細穴の開口から1mmの箇所までに非炭化部を設けたランプNo.3は、電圧変動が大きくなるまでの時間が点灯から886時間後に延びたが、細穴は塞がっていた。
細穴の開口から深さ方向に2mmの箇所まで非炭化部を形成したランプNo.4〜10は、その全てのランプにおいて細穴が塞がることは無く、1000時間を経過しても電圧変動は増加しなかった。
細穴の内面に炭化層を設けたランプでは、陰極の細穴内に設けた炭化層によって、低い温度から酸化物エミッタが還元されてアークに供給されるとともに、エミッタはイオン化して陰極に帰還するため、エミッタが消失しにくくなった効果によるものといえる。
一方、開口から2mm未満の箇所に炭化層を設けたランプでは、細穴が塞がってしまうという結果となった。これは、炭化タングステンが熱移動によって変形したためと考えられる。
以上のことから、細穴の開口近傍には非炭化部を設けることで、細穴が塞がることを防止でき、エミッタが安定して供給されるので、電圧変動、つまり照度変動が大きくなるまでの時間が延びることがわかる。
【0049】
また、封入する発光物質が異なる場合でも効果が得られることを検証するため、キセノン(Xe)ガスを2MPa封入した種々のランプを作製し、ランプ入力電力4kWで点灯寿命テストを実施した。試験用ランプには、比較のために細穴の内部に炭化層を設けないものも用いた。陰極本体部は、酸化トリウムが2wt%添加されたタングステンロッドを先端径φ0.6mm、テーパー角40°の形状に切削したものを用いた。炭化層の具体的な形成方法については以下に示す。
【0050】
図7(b)に示した陰極を製造するために、陰極本体部21に、放電加工を用いて先端面25から穴径φ0.11mm、穴の深さ5mmである細穴26を形成した。この細穴に注射針を挿入し、炭素粉末が0.15mg/mm含まれたペーストを注入し、細穴を満たした。乾燥後、真空中で熱処理し、炭化層を形成した。
【0051】
図4(b)に示した陰極を製造するために、上記<製法C>と同様の方法を用い、陰極本体部21に、放電加工を用いて先端面25から穴径φ0.11mm、穴の深さ5mmである細穴26を形成した。この細穴に注射針を挿入し、炭素粉末が0.15mg/mm含まれたペーストを、注射針を引き抜きながら注入した。注入量は穴底から、それぞれ、3mm、2mmの位置まで満たすように0.03mm、0.02mmとした。乾燥後、真空中で熱処理をし、炭化層を形成した。
【0052】
図6(b)に、それぞれのランプにおいて、炭化層の形成方法と、点灯寿命テストにおける点灯開始から電圧変動発生までの時間、細穴の塞がりの有無との関係を示す。
細穴内部すべてを炭化したランプNo.12は点灯から129時間で電圧変動が大きくなり、細穴も塞がっていた。
細穴の開口から2mm以上の箇所まで非炭化部を形成したランプは、すべて500時間を経過しても電圧変動は増加しなかった。このように、封入する発光物質が異なる場合であっても同様の効果があることを確認することができた。
【0053】
以上により、エミッタを含有する陰極の先端に形成した細穴の内面に、炭化層を形成することで、エミッタは必然的にアークが発生する陰極先端に拡散して、アーク中で電離したエミッタが再び陰極先端に戻るため、消失しにくく、安定して供給することができる。また、細穴の開口から深さ方向に2mm以上の箇所に炭化層を設けることで、熱によって変形して穴が塞がることなく、長時間にわたってエミッタを供給することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 放電ランプ
10 発光管
11 発光部
12 封止部
13 外部リード
20 陰極
21 本体部
22 軸部
23 嵌入孔
24 テーパー部
25 先端面
26 細穴
261 第一の細穴
262 第二の細穴
263 第三の細穴
27 炭化層
28 非炭化部
30 陽極
31 本体部
32 軸部
S 発光空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管の内部に一対の陰極と陽極とが対向配置され、該陰極は、エミッタを含有するタングステン材よりなる本体部と、軸部とよりなり、該本体部は、その先端から該陰極の内部を伸びる細穴を備えるショートアーク型放電ランプにおいて、
該細穴の内面は、開口近傍が非炭化部であり、該非炭化部より深い箇所に炭化層が設けられていることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
前記細穴内面の炭化層は、開口から2mm以上深い箇所に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
発光管の内部に一対の陰極と陽極とが対向配置され、該陰極は、エミッタを含有するタングステン材よりなる本体部と、軸部とよりなり、該本体部は、その先端から該陰極の内部を伸びる細穴を備えるショートアーク型放電ランプの製造方法において、
前記本体部の基端側から第二の細穴を形成し、該第二の細穴に炭素源を充填し、熱処理を施して第二の細穴の内面に炭化層を形成した後、該本体部の先端側から、第一の細穴を形成して、該第一の細穴の内面に非炭化部を形成すると共に、第二の細穴と連通させる工程を有することを特徴とするショートアーク型放電ランプの製造方法。
【請求項4】
発光管の内部に一対の陰極と陽極とが対向配置され、該陰極は、エミッタを含有するタングステン材よりなる本体部と、軸部とよりなり、該本体部は、その先端から該陰極の内部を伸びる細穴を備えるショートアーク型放電ランプの製造方法において、
前記本体部の先端側から細穴を形成し、該細穴に炭素源を充填し、熱処理を施して細穴の内面に炭化層と、非炭化部とを形成する工程を有することを特徴とするショートアーク型放電ランプの製造方法。
【請求項5】
発光管の内部に一対の陰極と陽極とが対向配置され、該陰極は、エミッタを含有するタングステン材よりなる本体部と、軸部とよりなり、該本体部は、その先端から該陰極の内部を伸びる細穴を備えるショートアーク型放電ランプの製造方法において、
前記本体部の先端側から細穴を形成し、該細穴に炭素源を充填し、熱処理を施して細穴の内面に炭化層を形成した後、該本体部の先端側から該細穴よりも径の大きい拡張穴を形成することで非炭化部を形成する工程を有することを特徴とするショートアーク型放電ランプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−282758(P2010−282758A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133314(P2009−133314)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】