説明

ショートアーク放電灯用陰極およびアーク放電方法

【課題】大電流を入力しても、高輝度で安定したアーク放電を維持できる陰極電極を提供する。
【解決手段】陰極14は、電子放射性物質を含有する高融点金属によって構成されており、先細状である。先端部外縁には環状の高仕事関数領域14Bが形成されている。高仕事関数領域14Bは、その結晶粒が先端部中央の結晶粒に比較して大きくなっている。これにより、エミッタの放出が、高仕事関数領域14Bで取り囲まれた低仕事関数領域14Aから行われる。陰極14の先端を大径D1にすることができるので、陰極14先端からバルク領域への熱伝達がよくなる。よって、大電流を入力しても陰極14先端部が過剰に高温になる事を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子放射性物質を含有させたショートアーク放電灯用陰極に関し、特に安定したアーク放電が可能な放電灯用陰極に関する。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク放電灯は、アーク放電に伴う高輝度の光をフォトリソグラフィや投影機の光源によく利用されている。
【0003】
このショートアーク放電灯では、タングステンやモリブデンなどの高融点金属を電極基材とし、トリウムやランタンなどの電子放射を容易にし、電極先端温度を下げる電子放射性物質(エミッター)をドープした陰極、特には、タングステン(W)に酸化トリウム(ThO2)を含有させたトリエーティッドタングステン(通常2wt%ThO2−W)、あるいは陰極本体を高融点金属で形成し、電子放射性物質を含んだ高融点金属を本体の先端に埋め込むようにした陰極が用いられている。
【0004】
ところで、ショートアーク放電灯用陰極において、電子放射性物質、例えばトリウムが陰極先端部に均一に供給されないと、輝点の広がりや収縮、アーク放電の局所的集中が発生することが知られている。陰極先端部におけるトリウムの供給は、高融点金属、例えばタングステンの結晶粒界での拡散(粒界拡散)と、陰極表面に析出したトリウムの拡散(表面拡散)とタングステンの結晶粒子内での拡散(粒内拡散)によって行われる。
【0005】
そこで、陰極先端部の結晶粒を粗大化させるとともに、酸化トリウムの含有量を0.1質量%以下に制限することにより、トリウムの拡散をコントロールして適量のトリウムを陰極先端部に供給し、アーク放電の偏りやチラツキを少なくするようにした技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−110083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1記載のショートアーク放電灯用陰極では、入力電流を大きくすると、陰極が過剰に高温となって陰極の損耗・変形が起こる。これにより、先端径が広がって点灯初期時の輝度及び安定性を維持できないという問題がある。
【0008】
また、陰極先端径が広がると電流密度の低下から発光輝点の輝度の低下が発生するだけでなく、陰極先端での微視的なアーク輝点移動が大きくなり安定度が低下する。
【0009】
本発明はかかる問題点を解決し、大電流を入力しても高輝度で安定したアーク放電を長期間維持できるようにしたショートアーク放電灯用陰極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極は、少なくとも先端部に電子放射性物質を含有する高融点金属部を有し、先細状のショートアーク放電灯用陰極であって、前記先端部上面は、1)電子放射性物質を放出する所定の仕事関数を有する第1の仕事関数領域、および、2)前記第1の仕事関数領域を取り囲み、仕事関数が前記第1の仕事関数領域よりも大きな第2の仕事関数領域、を有する。したがって、アーク放電する範囲を前記第2の仕事関数領域で取り囲まれた第1の仕事関数領域に偏らせることができる。これにより、アーク放電する範囲を限定しつつ陰極の先端を太くできる。よって、陰極先端からバルク領域への熱伝達がよくなる。
【0011】
(2)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極においては、前記高融点金属部は、前記先端部に埋め込まれた埋め込み部で構成されている。したがって、埋め込み型の高融点金属部を有する陰極であってもアーク放電する範囲を前記第2の仕事関数領域で取り囲まれた第1の仕事関数領域に偏らせることができる。これにより、アーク放電する範囲を限定しつつ埋め込み部を太くできる。
【0012】
(3)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極においては、前記高融点金属部は、陰極側壁まで達しており、かつ、前記先端部近傍の側面は、前記第1の仕事関数領域よりも仕事関数が大きな第3の仕事関数領域で構成されている。したがって、前記側面からの表面拡散による電子放射性物質の供給を抑制することができる。
【0013】
(4)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極は、第2の仕事関数領域の結晶粒を前記第1の仕事関数領域の結晶粒よりも粗大とすることにより、前記仕事関数が第1の仕事関数領域よりも第2の仕事関数領域の方が大きい。このように結晶粒を大きくすることにより、アーク放電する範囲を前記第2の仕事関数領域で取り囲まれた第1の仕事関数領域に偏らせることができる。
【0014】
(5)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法は、少なくとも先端部に電子放射性物質を含有する高融点金属部を有し、先細状のショートアーク放電灯用陰極の製造方法であって、前記先細状の先端部上面に第1の仕事関数領域、および前記第1の仕事関数領域を取り囲む仕事関数が大きな第2の仕事関数領域を形成している。したがって、アーク放電する範囲を前記第2の仕事関数領域で取り囲まれた第1の仕事関数領域に偏らせることができる。これにより、アーク放電する範囲を限定しつつ陰極の先端を太くできる。また、陰極の先端を大径にすることにより、陰極先端からバルク領域への熱伝達がよくなる。
【0015】
(6)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法においては、前記第2の仕事関数領域は、熱エネルギーが与えられることにより、溶解および凝固することにより、形成される。したがって、簡易に、前記第2の仕事関数領域を形成することができる。
【0016】
(7)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法においては、前記高融点金属部は、前記先端部に埋め込まれた埋め込み部で構成されており、前記埋め込み部との境界面に向けて電子ビームを照射し、前記境界面を深溶込溶接する。したがって、前記埋め込み部との境界の密着性を高くすることができる。
【0017】
(8)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法は、前記高融点金属部は、陰極側壁まで達しており、かつ、前記先端部近傍の側面は、前記第1の仕事関数領域よりも仕事関数が大きな第3の仕事関数領域で構成されている。したがって、前記側面からの表面拡散による電子放射性物質の供給を抑制することができる。
【0018】
(9)本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法は、A)以下の1)〜3)を有するショートアーク放電灯用陰極、を製造するショートアーク放電灯用陰極の製造方法であって、1)先細状であり、2)少なくとも先端部に電子放射性物質を含有する高融点金属部を有し、3)前記先細状の先端部上面のほぼ中央に位置する第1の領域、および前記第1の領域を取り囲む第2の領域が形成されている、B)前記第2の領域に対して熱エネルギーを与えることにより、前記第2領域を溶解させたのち、凝固させることにより、前記第2領域を形成する。これより前記第1の領域を取り囲むように高仕事関数領域である第2領域が形成される。したがって、アーク放電する範囲を前記第2の領域で取り囲まれた第1の領域に偏らせることができる。
【0019】
(10)本発明にかかるアーク放電させる方法は、少なくとも、先端部が電子放射性物質を含有する高融点金属によって構成された先細状のショートアーク放電灯用陰極と陽極間とでアーク放電させる方法であって、前記先細状の先端部上面における外縁に設けられた環状領域表面をその内側の領域よりも高仕事関数とし、前記環状領域からのアーク放電を起こしにくくしている。これによりアーク放電する範囲を前記第2の領域で取り囲まれた第1の領域に偏らせることができる。
【0020】
本明細書において「先細状の」とは、円錐の先端部を平面とする場合はもちろん、前記先端部が球状である場合も含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明が適用される陰極を備えたショートアーク型水銀放電灯の構造の1例を示す図である。
【図2】本発明に係るショートアーク型水銀放電灯の陰極電極の好ましい実施形態の断面構造及びその仕事関数を示す図である。
【図3】上記の実施形態における陰極先端部の結晶粒を示す図である。
【図4】上記実施形態におけるアークの放射を模式的に示す図である。
【図5】上記の実施形態及び従来技術における熱伝達の状況を模式的に示す図である。
【図6】第2の実施形態を示す図である。
【図7】第3の実施形態を示す図である。
【図8】第4の実施形態を示す図である。
【図9】第4の実施形態の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明における実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
(1.第1実施形態)
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1に、本発明が適用される陰極を備えたショートアーク型水銀放電灯の構造の1例を示す。石英ガラス製の封体10は中央が略球状に膨出され、両端はシール部を介して封止され、口金11が嵌められている。封体10内にはアルゴン又はキセノンなどの所定のガスに加えて、水銀が所定の圧力・量で封入されている。封体10の両端部にはタングステン棒12が挿通されている。タングステン棒12の先端には陽極13及び陰極14がそれぞれ取り付けられている。陽極13と陰極14の間はアーク放電がおこるよう所定の隙間が設けられる。
【0025】
図2に、本発明に係るショートアーク型水銀放電灯陰極の好ましい実施形態を示す。陰極14全体は、酸化トリウムを含有するタングステンで構成されており、その先端部は先細状である。本実施形態においては、先細状として、先端に向かうに従って径が小さくなり、先端部に平面を有する台形円錐状とした。
【0026】
先端部表面には、ドーナッツ状の高仕事関数領域14Bおよび、高仕事関数領域14Bで取り囲まれる低仕事関数領域14Aが形成されている。
【0027】
本実施形態においては、3 kW入力の放電管に適用したので、陰極14の先端外径D1、内径D2をそれぞれD1=1.2mm、D2=0.6mmとした。
【0028】
本実施形態において、高仕事関数領域14Bを以下のようにして形成した。レーザー加工、電子ビーム加工や放電加工によって、高仕事関数領域14Bを溶融しそのまま凝固させる。これにより、図3に示すように、中央部分(14A)の結晶粒と比べて、大きな結晶粒がその周辺(14B)に形成される。一般的に、酸化トリウム含有するタングステンの結晶粒は15μm〜50μmである。これに対して、上記溶解処理がなされた結晶粒は100μm以上と粗大化される。
【0029】
表面からの結晶粒が粗大化されると、結晶粒界の密度が低下し、陰極先端部表面への粒界拡散によるトリウムの供給速度が遅くなることにより、先端部外縁部でのトリウムの粒界拡散によるバルク領域から先端部への供給が抑制される。その結果、先端部外縁部でのトリウムの粒界拡散は結晶粒の小さい中央部分の粒界拡散に比して速度が遅くなる。
【0030】
図2Bに低仕事関数領域14Aと高仕事関数領域14Bの仕事関数の違いを示す。
【0031】
中央部分に位置する低仕事関数領域14Aの仕事関数が、その周囲の高仕事関数領域14Bに比較して低いと、図4に示されるように電子放射14Eを中央部分に集中させることができる。なぜなら、高仕事関数領域14Bはアーク放電に寄与する割合が低いからである。これにより、アーク放電は主に陰極14の先端部中央部分で起こる。
【0032】
また、アーク放電する範囲は狭い方が好ましい。このため、従来は、図5Aに示すように、先端径D2をできる限り小さくするようにしている。これに対して、本件陰極では、アーク放電する範囲を陰極14の先端部中央部分14Aに偏らせることができるので、図5Bに示すように、陰極14の先端を大径D1にすることができる。これにより、陰極14先端からバルク領域への熱伝達がよくなる。その結果、大電流を入力しても陰極14先端部が過剰に高温になる事を防止できる。このことは、陰極14先端の損耗や変形を長期にわたって抑制でき、高輝度で安定したアーク放電を長期にわたって維持することができる。
【0033】
本実施形態においては、高仕事関数領域14Bを溶融することにより、陰極14の先端部外縁に結晶粒の粗大化した高仕事関数領域14Bを環状に形成したが、結晶粒の粗大化以外の手法で前記高仕事関数領域を形成するようにしてもよい。
【0034】
高融点金属にはタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブを挙げることができる。また、電子放射物質にはランタン、セリウムなどの希土類金属、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、トリウム及びそれらの酸化物の単体又は複合物質を挙げることができる。
【0035】
本実施形態においては、図2A示す外径D1を内径D2の2倍としたが、これに限定されない。通常、外径D1が内径D2の1.5倍〜4.0倍となることが好ましい。
【0036】
上記実施形態においては、超高圧水銀放電灯に適用した場合について説明したが、その他のショートアーク放電灯にも適用可能である。
【0037】
(2.第2実施形態)
図6に第2の実施形態を示す。この例は、第1実施形態の陰極と比較すると、陰極14の側面部分にも、低仕事関数領域14Aよりも高仕事関数を有する高仕事関数領域14Fが形成されている。トリウムが粒界拡散により、バルク部分から高仕事関数領域14Fを通過して陰極側面部の表面に供給されることを抑制できる。
【0038】
本実施形態においては、高仕事関数領域14Fを高仕事関数領域14Bとほぼ同じ大きさの結晶粒としたが、これに限定されない。
【0039】
なお、高仕事関数領域14Fの軸方向の長さLは、陰極先端径D1の1.5倍〜3.0倍程度の位置まで形成することが望ましい。これは、陰極先端の高温部から距離をとり、温度を下げる事により、トリウムの表面拡散速度を下げる事ができるからである。また、陰極側面部から、表面拡散によりトリウムが高仕事関数領域14Fに供給されることを抑制することができる。
【0040】
(3.第3実施形態)
図7に第3の実施形態を示す。本例は本体部分14Aの側面に酸化トリウムの還元を促進する炭化層14Gが結晶粒粗大化領域14Fに連続するように形成する。炭化層14Gは、例えば浸炭法によって形成することができる。炭化により酸化トリウムの還元が促進されるため、炭化層から電極内部方向へのトリウムの供給が増え、電極先端の低仕事関数領域へ充分なトリウムが供給される。
【0041】
(4.第4実施形態)
図8Aに第4の実施形態である陰極30を示す。陰極30は、本体部31および本体部31の先端に埋め込まれた埋め込み部32で構成される。埋め込み部32は、酸化トリウムを含有するタングステンで、本体部31はタングステンで構成される。本実施形態においては、先端部表面には、ドーナッツ状の高仕事関数領域34Bおよび、高仕事関数領域34Bで取り囲まれる低仕事関数領域34Aが形成されている。
【0042】
このように、本件発明をかかる埋め込み式の陰極に適用することにより、埋め込み部の径が大きい場合にも、陰極先端部中央部分におけるアーク放電が可能となる。
【0043】
このような埋め込みタイプの製造方法としては、酸化トリウムを含有するタングステンを予め円柱状に加工し、本体部31に埋め込む方法と、本体部31の底付き穴に酸化トリウムを含有するタングステンの粉を入れ、ホットプレスのように熱および圧力で固める手法がある。ただ、いずれの方法も本体部31の穴の側壁との密着が不十分となるおそれがある。
【0044】
かかる問題を解決するために、本実施形態においては、図9に示すように、埋込部32と本体部31の境界面に向けて、陰極先端側から電子ビームを照射する。これにより加熱部の温度はタングステンの蒸発温度以上となる。これにより電子ビームは、容易に深くまで進入し、最終的には、キーホールを形成する。このようにして、電子ビーム溶接による深溶込み溶接がなされる。かかる電子ビーム溶接は通常真空で行なわれる。このため他の溶接法に比較して清浄な溶接金属と良好な溶接ビードを得る事ができる。高仕事関数領域33Bの形成については上記実施形態と同じである。
【0045】
なお、密着性が問題とならない場合には、このような深溶込溶接は必須ではない。上記実施形態のように、レーザー加工、電子ビーム加工、放電加工等により、先端表面を溶解凝固させて、仕事関数の高い領域を形成するようにすればよい。
【0046】
なお、図8Bに示すように、第2実施形態と同様に陰極30の側面部分にも、低仕事関数領域34Aよりも高仕事関数を有する高仕事関数領域34Fを形成するようにしてもよい。このように側面に高仕事関数領域34Fを形成するには、本体31の側面まで溶解凝固させるようにすればよい。
【0047】
(5.他の実施形態)
上記実施形態においては、陰極形状としてタングステン棒の先端に、図2に示すような先細状の電極本体を取り付けた場合について説明したが、トリウムを含むタングステン棒の先端をそのような形状に加工するようにしてもよい。
【0048】
本実施形態においては、先端部が平面である場合について説明したが、先端部を球状としてもよい。この場合、第1の仕事関数領域だけをそのようにしてもよいし、第1の仕事関数領域および第2の仕事関数領域を含めてそのような形状としても良い。
【0049】
上記実施形態に記載した陰極は、下記発明として把握することができる。
【0050】
先端部分が電子放射性物質を含有する高融点金属によって構成された先細状のショートアーク放電灯用陰極であって、
前記先細状の先端部上面に第1の仕事関数領域、および前記第1の仕事関数領域を取り囲む仕事関数が大きな第2の仕事関数領域を有し、
前記先細状の先端部近傍の側面には、前記第1の仕事関数領域よりも仕事関数が大きな第3の仕事関数領域を有すること、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極。
【0051】
(6.先の出願における開示)
本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極は、電子放射性物質を含有する高融点金属によって構成された先細状のショートアーク放電灯用陰極であって、前記先端部上面は、1)電子放射性物質を放出する所定の仕事関数を有する第1の仕事関数領域、および、2)前記第1の仕事関数領域を取り囲み、仕事関数が前記第1の仕事関数領域よりも大きな第2の仕事関数領域を有する。
【0052】
したがって、アーク放電する範囲を前記第2の仕事関数領域で取り囲まれた第1の仕事関数領域に偏らせることができる。これにより、アーク放電する範囲を限定しつつ陰極の先端を太くできる。これにより、陰極先端からバルク領域への熱伝達がよくなる。
【0053】
本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極は、第2の仕事関数領域の結晶粒を前記第1の仕事関数領域の結晶粒よりも粗大とすることにより、前記仕事関数が第1の仕事関数領域よりも第2の仕事関数領域の方が大きい。このように結晶粒を大きくすることにより、アーク放電する範囲を前記第2の仕事関数領域で取り囲まれた第1の仕事関数領域に偏らせることができる。
【0054】
本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極は、前記先細状の先端部近傍の側面に、前記第1の仕事関数領域よりも仕事関数が大きな第3の仕事関数領域を有する。したがって、前記側面からの表面拡散による電子放射性物質の供給を抑制することができる。
【0055】
本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法は、電子放射性物質を含有する高融点金属によって構成された先細状のショートアーク放電灯用陰極の製造方法であって、前記陰極は、前記先細状の先端部上面に第1の仕事関数領域、および前記第1の仕事関数領域を取り囲む仕事関数が大きな第2の仕事関数領域を有する。
【0056】
したがって、アーク放電する範囲を前記第2の仕事関数領域で取り囲まれた第1の仕事関数領域に偏らせることができる。これにより、アーク放電する範囲を限定しつつ陰極の先端を太くできる。また、陰極の先端を大径にすることにより、陰極先端からバルク領域への熱伝達がよくなる。
【0057】
本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法は、前記第2の仕事関数領域は、熱エネルギーが与えられることにより、溶解および凝固することにより、形成される。したがって、簡易に、前記第2の仕事関数領域を形成することができる。
【0058】
本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法は、前記先細状の先端部近傍の側面にも、前記第1の仕事関数領域よりも仕事関数が大きな第3の仕事関数領域を形成する。したがって、前記側面からの表面拡散による電子放射性物質の供給を抑制することができる。
【0059】
本発明にかかるショートアーク放電灯用陰極の製造方法は、A)以下の1)〜3)を有するショートアーク放電灯用陰極、を製造するショートアーク放電灯用陰極の製造方法であって、1)先細状であり、2)電子放射性物質を含有する高融点金属によって構成され、3)前記先細状の先端部上面のほぼ中央に位置する第1の領域、および前記第1の領域を取り囲む第2の領域が形成されている、B)前記第2の領域に対して熱エネルギーを与えることにより、前記第2領域を溶解させたのち、凝固させることにより、前記第2領域を形成する。これより前記第1の領域を取り囲むように高仕事関数領域である第2領域が形成される。したがって、アーク放電する範囲を前記第2の領域で取り囲まれた第1の領域に偏らせることができる。
【0060】
本発明にかかるアーク放電させる方法は、電子放射性物質を含有する高融点金属によって構成された先細状のショートアーク放電灯用陰極と陽極間とでアーク放電させる方法であって、前記先細状の先端部上面における外縁に設けられた環状領域表面をその内側の領域よりも高仕事関数とし、前記環状領域からのアーク放電を起こしにくくした。これによりアーク放電する範囲を前記第2の領域で取り囲まれた第1の領域に偏らせることができる。
【符号の説明】
【0061】
14 陰極
14A 低仕事関数領域
14B 高仕事関数領域
14C 高融点金属基体
14D 電子放射物質含有高融点金属
14E アーク
14F 高仕事関数領域
14G 炭化層
30 陰極
31 本体
32 埋め込み部
34A 低仕事関数領域
34B 高仕事関数領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも先端部に電子放射性物質を含有する高融点金属部を有し、先細状のショートアーク放電灯用陰極であって、
前記先端部上面は、
1)電子放射性物質を放出する所定の仕事関数を有する第1の仕事関数領域、および、
2)前記第1の仕事関数領域を取り囲み、仕事関数が前記第1の仕事関数領域よりも大きな第2の仕事関数領域、
を有すること、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極。
【請求項2】
請求項1のショートアーク放電灯用陰極において、
前記高融点金属部は、前記先端部に埋め込まれた埋め込み部で構成されていること、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極。
【請求項3】
請求項1のショートアーク放電灯用陰極において、
前記高融点金属部は、陰極側壁まで達しており、かつ、前記先端部近傍の側面は、前記第1の仕事関数領域よりも仕事関数が大きな第3の仕事関数領域で構成されていること、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかのショートアーク放電灯用陰極において、
前記第2の仕事関数領域の結晶粒を前記第1の仕事関数領域の結晶粒よりも粗大とすることにより、前記仕事関数が前記第1の仕事関数領域よりも前記第2の仕事関数領域の方が大きいこと、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極。
【請求項5】
少なくとも先端部に電子放射性物質を含有する高融点金属部を有し、先細状のショートアーク放電灯用陰極の製造方法であって、
前記先細状の先端部上面に第1の仕事関数領域、および前記第1の仕事関数領域を取り囲む仕事関数が大きな第2の仕事関数領域を形成したこと、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極の製造方法。
【請求項6】
請求項5のショートアーク放電灯用陰極の製造方法において、
前記第2の仕事関数領域は、熱エネルギーが与えられることにより、溶解および凝固することにより、形成されること、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6のショートアーク放電灯用陰極の製造方法において、
前記高融点金属部は、前記先端部に埋め込まれた埋め込み部で構成されており、
前記埋め込み部との境界面に向けて電子ビームを照射し、前記境界面を深溶込溶接すること、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極の製造方法。
【請求項8】
請求項5または請求項6のショートアーク放電灯用陰極の製造方法において、
前記高融点金属部は、陰極側壁まで達しており、かつ、前記先端部近傍の側面は、前記第1の仕事関数領域よりも仕事関数が大きな第3の仕事関数領域で構成されていること、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極の製造方法。
【請求項9】
A)以下の1)〜3)を有するショートアーク放電灯用陰極、を製造するショートアーク放電灯用陰極の製造方法であって、
1)先細状であり、
2)少なくとも先端部に電子放射性物質を含有する高融点金属部を有し、
3)前記先細状の先端部上面のほぼ中央に位置する第1の領域、および前記第1の領域を取り囲む第2の領域が形成されている、
B)前記第2の領域に対して熱エネルギーを与えることにより、前記第2領域を溶解させたのち、凝固させることにより、前記第2領域を形成すること、
を特徴とするショートアーク放電灯用陰極の製造方法。
【請求項10】
少なくとも、先端部が電子放射性物質を含有する高融点金属によって構成された先細状のショートアーク放電灯用陰極と陽極間とでアーク放電させる方法であって、
前記先細状の先端部上面における外縁に設けられた環状領域表面をその内側の領域よりも高仕事関数とし、前記環状領域からのアーク放電を起こしにくくしたこと、
を特徴とするアーク放電方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−109192(P2012−109192A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17505(P2011−17505)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(599117211)株式会社ユメックス (22)
【Fターム(参考)】