説明

シラン架橋水密材およびそれを用いたシラン架橋ポリエチレン絶縁電線

【課題】 十分な水密性を維持すると共に、シラン架橋水密絶縁電線とした場合の皮剥ぎ性が良好で、また端末部や接続部に水が存在した場合にも酸の発生がない優れたシラン架橋水密材を提供することにある。
【解決手段】 メルトマスフローレート(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのエチレン・エチルアクリレート共重合体或いはエチレン・エチルアクリレート共重合体どうしの混合物が、28〜62%の架橋度にシラン架橋された水密材とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外の配線用として用いるシラン架橋ポリエチレン絶縁電線、並びにその浸水防止に用いるシラン架橋水密材に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外配線用として用いる絶縁電線は、複数の素線を撚り合せた導体上に絶縁層を押出し被覆したものであり、前記複数の素線を撚り合せた導体には雨水等の浸入を防止するために、導体素線間に水密処理が行なわれている。例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体やエチレン・エチルアクリレート共重合体を前記素線間に充填させることによって行なわれている。また、さらに水密性を向上させるために、前記水密材に無水マレイン酸を添加すること、前記エチレン・酢酸ビニル共重合体やエチレン・エチルアクリレート共重合体として、酢酸ビニルやエチルアクリレートの含有量の高いものを用いること、さらにエチレン・酢酸ビニル共重合体やエチレン・エチルアクリレート共重合体のメルトマスフローレートの大きなものを使用して、素線の間隙により充填しやすくすることが行なわれている。しかしながら、前述の水密材は接着性が向上されたことによって、絶縁電線の布設時等における皮剥ぎ作業性が問題となっている。これに対して、シラン架橋水密電線に於いては、電線製造に際して加熱や加圧をしないために、前述の水密材を使用しても皮剥ぎ時の問題が少ない利点がある。このような技術に関して特許文献1には、エチレン−アクリル酸エチル共重合体と無水マレイン酸系共重合体およびテルペン系共重合とシラン架橋剤を配合したシラン架橋水密材が提案されている。また特許文献2には、オレフィン系樹脂にエチレン−アクリル酸・無水マレイン酸共重合体とベンゾトリアゾールおよびシラン架橋剤を配合したシラン架橋水密材が開示されている。しかしながら、これらのシラン架橋水密材に於いては、無水マレイン酸の構造を持つため水の存在下で酸を発生する問題がある。特に端末部や接続部に於いては、水との接触する可能性が高く問題があり、改良が望まれていた。
【特許文献1】特開2001−250430号公報
【特許文献2】特開2002−138169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明が解決しようとする課題は、十分な水密性を維持すると共にシラン架橋水密絶縁電線とした場合の皮剥ぎ性が良好で、また端末部や接続部に水が存在した場合にも酸の発生がない優れたシラン架橋水密材、並びに前記の特性を有する屋外用のシラン架橋ポリエチレン絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載されるように、メルトマスフローレート(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのエチレン・エチルアクリレート共重合体或いはエチレン・エチルアクリレート共重合体どうしの混合物が、28〜62%の架橋度にシラン架橋された水密材とすることによって、解決される。
【0005】
また請求項2に記載されるように、請求項1に記載のシラン架橋水密材が、導体素線間に充填されているシラン架橋ポリエチレン絶縁電線とすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、メルトマスフローレート(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのエチレン・エチルアクリレート共重合体(以下EEA)或いはEEAどうしの混合物が、28〜62%の架橋度に架橋されたシラン架橋水密材としたので、導体と絶縁体層との密着性が良く水密性に優れると共に、特定の架橋度に架橋したのでシラン架橋水密絶縁電線に用いた場合には、皮剥ぎ性が良好となる。また前記シラン架橋水密材は、EEAを用いるため水の存在により酸を発生する問題がないシラン架橋水密材である。
【0007】
そして、前述のシラン架橋水密材を導体素線間に充填した屋外用のシラン架橋ポリエチレン絶縁電線(以下シラン架橋PE絶縁電線)とすることによって、優れた水密性を有するシラン架橋PE絶縁電線として機能し、また布設作業時等に於いては適度な皮剥ぎ性を有し、実用的である。さらに、端末部や接続部における水の存在による酸の発生問題がない、優れたシラン架橋PE絶縁電線が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。請求項1に記載される発明は、メルトマスフローレート(以下MFR)が57〜275g/10minのEEA或いはEEAどうしの混合物が、28〜62%の架橋度にシラン架橋された水密材である。このように、ベース樹脂として比較的MFRの大きなEEA等を用い、特定の架橋度に架橋されて用いるので、水密絶縁電線とした場合には皮剥ぎ性に優れたシラン架橋PE絶縁電線が得られる。
【0009】
以上のように、シラン架橋水密材としてMFRが比較的大きいEEAをベース樹脂として用いても、特定の架橋度に架橋することによって高い水密性を保持しながら良好な皮剥ぎ性が得られる。MFRの大きなEEAをベース樹脂とする水密材を水密絶縁電線に用いた場合、皮剥ぎ時に導体上に水密材が残留する問題が生じる。これは、前記EEAが柔らかく、皮剥ぎ時にかかる力にEEAが耐えられずに破断するためである。このため破断強度の大きな樹脂を使用することが考えられるが、一般にはMFRが大きくなると破断強度が小さくなることが知られている。このため、MFR(190℃、2.16kg)が275〜57g/10minのEEAを用い、これを28〜62%の架橋度にシラン架橋することによって、良好な皮剥ぎ性が得られるようにしたものである。
【0010】
なお、EEA或いはEEAどうしの混合物は、MFR(190℃、2.16kg)が前述の範囲であれば種々のグレードのものを使用できるが、エチルアクリレート量(以下EA量)が10〜35wt%程度のものが好ましい。そしてEEAは、前述のように単独で、或いは混合物として使用される。前記混合物は、種々のMFRに調整するのに都合が良い。また具体的な商品としては、三井・デュポンポリケミカル社のA−704、A−713、A−709や日本ユニカー社のNUC−6570、NUC−6070等が使用可能である。また前記シラン架橋水密材には、シラン架橋させるためのシラノール化合物、ジクミルパーオキサイド(以下DCP)等の有機過酸化物が添加される。また、イルガノックス300等のチオビスフェノール系の酸化防止剤や商品名がイルガノックス1010等のヒンダードフェノール系の酸化防止剤、FEFカーボン(東海カーボン社製)等のカーボンブラック、酸化マグネシウム(MgO)等の中和剤や、その他必要な添加剤を配合することができる。そして、例えば加圧ニーダー、2軸混練機等の公知の手段によってシラン架橋水密材を作製することができる。
【0011】
前記シラン架橋に用いるシラノール化合物としては、ビニルトリメトキシシランをはじめ、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が使用される。また、架橋度を28〜62%に特定するのは、架橋度が28%未満であると、水密材と導体の密着力より水密材の破断力が小さくなるために皮剥ぎ性が悪く、また62%を超えると、水密材の導体への密着力が低下するために水密性が不十分となるためである。また、EEA或いはEEAどうしの混合物のMFR(190℃、2.16kg)を275〜57g/10minとするのは、MFRが275g/10minよりも大きくなると、成型時に流れ易く形状を保てなくなり、また57g/10minよりも小さな場合には、導体素線の中心まで注入できなくなるためである。
【0012】
次に前記シラン架橋水密材を用いたシラン架橋PE絶縁電線について説明する。請求項2に記載されるように、前記のシラン架橋水密材を種々の方法によって、導体素線間に充填することによって架橋ポリエチレン絶縁電線とすることができる。一例を図1に示す。このシラン架橋PE絶縁電線は屋外用の水密絶縁電線として用いるもので、複数の素線1、1´を撚り合わせて導体2が形成され、この素線1、1´間に前述のシラン架橋水密材3を充填・被覆することによって、水密性を保持させるものである。そして、その上にシラノール化合物とDCPが添加されたPE混和物が押出し被覆され、シラン架橋されて架橋PEの架橋絶縁体層4が形成されシラン架橋PE絶縁電線となる。より具体的には、銅素線等からなる撚線導体間に、MFR(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのEEA或いはEEAどうしの混合物中に特定量のDCP並びにシラノール化合物を添加した水密材を圧入すると共に、DCP等の架橋剤とシラノール化合物が配合されたPE混和物が押出し被覆され、ついで温水や熱水中に浸漬するか、大気中に放置することによってシラン架橋される。この際の条件によって、水密材も28〜62%の架橋度にシラン架橋することができる。このように、気中等で加熱しなくても、シラン架橋PE絶縁体層と同時に目的とする架橋度のシラン架橋水密材とすることができるので好ましい。このようにして得られたシラン架橋PE絶縁電線は、十分な水密性を維持すると共に、皮剥ぎ性が良好で作業性に優れ、また端末部や接続部に水が存在した場合にも酸の発生がない優れた屋外用のシラン架橋ポリエチレン絶縁電線を提供することができる。
【実施例】
【0013】
表1に記載するMFR(190℃、2.16kg)の異なるEEAを、EEA単独或いはそれ等の混合物(質量部で表示)としてMFRの異なるベース樹脂とし、このベース樹脂100質量部に対して、DCP0.05質量部およびビニルトリメトキシシランの添加量を種々変えて添加した。また老化防止剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社のイルガノクス1010を0.1質量部添加して水密材とした。なおEEAは、三井・デュポンポリケミカル社のA−707(EA含有量が25質量%、MFRが275g/10min)およびA−713(EA含有量が25質量%、MFRが20g/10min)である。ついでこの水密材を、未架橋のシランPE混和物が被覆された19本撚線導体(導体サイズ60cm)間に充填し、ついで温水中或いは熱水中に浸漬してシラン架橋処理を行なった。これによって、架橋度の異なるシラン架橋水密材とした。
【0014】
以上のように作製したシラン架橋PE絶縁電線を用いて、水密性並びに皮剥ぎ性試験を行なった。まず、前述のシラン架橋PE絶縁電線を10倍径における5往復曲げを加えた後、水密性は、シラン架橋PE絶縁電線の片方の端部50mmが水圧0.05MPaとなるように23℃の水中に24時間浸漬し、水の浸入距離(mm)を測定したものである。そして浸水長が2000mm以上の場合を不合格とした。水密性の結果は、水の浸入距離を浸水長(mm)として記載した。また皮剥ぎ性は、工具GSピーラを用いて皮剥ぎを行ない、3つの導体素線上に跨ってシラン架橋水密材が残留していない場合を、合格として○印で、3つの導体素線上に跨ってシラン架橋水密材の残留が見られる場合は、不合格として×印で記載した。なおシラン架橋水密材の架橋度は、シラン架橋水密材の特定量を110℃のキシレン中に24時間浸漬した後、80℃で12時間乾燥し、その残量を測定して計算した。さらにMFR(190℃、2.16kg)は、JIS K7210プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)およびメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法に準拠した。結果は、表1のとおりである。
【0015】
【表1】

【0016】
表1から明らかなとおり、MFR(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのEEA或いはEEAどうしの混合物が、28〜62%の架橋度に架橋されたシラン架橋水密材を使用したシラン架橋PE絶縁電線は、導体と絶縁体層との密着性が良好で水密性に優れると共に、導体素線間にシラン架橋水密材が残留しない皮剥ぎ性を有するものであった。また、水の存在による酸の発生の問題もないものである。より詳細に説明する。実施例1〜4に示されるように、MFRが275g/10minのEEAを架橋度が28〜62%に架橋したシラン架橋水密材を使用した場合は、浸水長が1200mm以下と水密性に優れ、また皮剥ぎ性も導体素線間に水密材が残留しない作業性の良いものであることが判る。また実施例5〜7に示されるように、MFRを57g/10minとしたEEAどうしの混合物を用いて、架橋度を28〜62%としたシラン架橋水密材を使用した場合は、浸水長が1500mm以下と十分水密性を有し、また皮剥ぎ性も、導体素線間に水密材が残留しない作業性の良好なものであった。
【0017】
これに対して、比較例1〜7に記載される本発明の範囲を外れたシラン架橋水密材を使用したシラン架橋PE絶縁電線は、水密性または皮剥ぎ性のいずれかに問題があった。
すなわち比較例1に見られるように、MFRが275g/10minであっても未架橋の場合には、導体素線間に水密材が残留して皮剥ぎ性に問題があった。また比較例2に見られるように、MFRが275g/10minであっても、架橋度が20%と低い場合には、導体素線間に水密材が残留して皮剥ぎ性に問題があった。さらに比較例3に見られるように、MFRが275g/10minであっても架橋度が65%と高くなると、浸水長が2000mmを超えて水密性に問題があった。また比較例4のように、MFRが187g/10minであって、架橋度が70%の場合には、浸水長が2000mm以上となって水密性に問題があった。さらに比較例5のように、MFRが57g/10minであっても架橋度が25%と低い場合には、導体素線間に水密材が残留して皮剥ぎ性に問題があった。また比較例6のように、MFRが57g/10minであっても架橋度が67%と高い場合には、浸水長が2000mm以上となって水密性に問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のシラン架橋PE絶縁電線は、十分な水密性を維持すると共に、皮剥ぎ性が良好で作業性に優れ、また端末部や接続部に水が存在した場合にも酸の発生がない優れたシラン架橋ポリエチレン絶縁電線であるから、実用的な屋外用のシラン架橋水密絶縁電線として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一例を示すシラン架橋PE絶縁電線の概略断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 素線
1´ 素線
2 導体
3 シラン架橋水密材
4 絶縁体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトマスフローレート(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのエチレン・エチルアクリレート共重合体或いはエチレン・エチルアクリレート共重合体どうしの混合物が、28〜62%の架橋度にシラン架橋されたことを特徴とするシラン架橋水密材。
【請求項2】
請求項1に記載のシラン架橋水密材が、導体素線間に充填されていることを特徴とするシラン架橋ポリエチレン絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2006−348240(P2006−348240A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179383(P2005−179383)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】