説明

シリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法、該複合粒子又はそれを含有する顔料、填料もしくは紙

【課題】 炭酸カルシウムの特性にシリカの特性を付与したインクジェット記録用紙に好適なシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法の提供。
【解決手段】 高比表面積の炭酸カルシウムの形成工程である炭酸化反応過程、典型的には、水酸化カルシウムスラリーを撹拌しながら二酸化炭素と空気との混合ガスを導入して炭酸化反応を行う過程において、炭酸化反応開始後から炭酸化終了までの間に、アルカリ金属イオンの共存下でケイ酸アルカリを添加して、引き続き混合ガスを導入して炭酸化反応を継続させ、スラリーのpHが7に達した時点で炭酸化反応を終了させることにより該複合粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用紙などの紙の顔料や填料として好適に使用できるシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法、該複合粒子、又はそれを含有する顔料、填料もしくは紙に関する。
より詳しくは、ケイ酸アルカリをシリカ源とし、高比表面積の炭酸カルシウムの表面にシリカを沈澱させ固着させることにより、炭酸カルシウムに高比表面積、高吸液性、鮮やかな発色性等のシリカの優れた機能を付与することを特徴とするシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法、該複合粒子、又はそれを含有する顔料、填料、インクジェット記録用紙等の印刷用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の複合粒子の主要構成物の一つである炭酸カルシウムには結晶構造の違いにより、カルサイト型、アラゴナイト型、バテライト型の3種が知られており、工業的に用いられているものとしては、製法の違いにより重質炭酸カルシウムと合成(軽質)炭酸カルシウムとの2種がある。
前者の重質炭酸カルシウムは、天然に産出する白色度の高い結晶質石灰石(カルサイト型)の微粉砕品であり、粉砕、分級という比較的簡易なプロセスで製造できる。
その粒子は、物理的粉砕物に特有な不定形をなし粒度分布が広いものではあるが、高白色度や経済性を生かして、プラスチック、ゴム、樹脂、製紙用の填料や顔料として広く一般に用いられている。
【0003】
後者の合成炭酸カルシウムは、その名のとおり化学的に合成した炭酸カルシウムであり、軽質あるいは沈降性炭酸カルシウムとも呼ばれており、カルサイト型とアラゴナイト型のものがある。
その製造方法には、水酸化カルシウムスラリーに二酸化炭素を導入し化学的に沈澱させる炭酸ガス化合法、塩化カルシウムと炭酸ソーダとの反応により沈澱させる塩化カルシウムソーダ法、水酸化カルシウムと炭酸ソーダとの反応により沈澱させる石灰ソーダ法、水酸化カルシウムと炭酸水素カルシウムとの反応により沈澱させる水処理法等が知られている。
【0004】
合成炭酸カルシウムの製造方法には前記したとおりの既知の方法があるが、国内では良質の石灰石原料が豊富に産出することから、そのほとんどは炭酸ガス化合法によって製造されている。
その合成炭酸カルシウムの製造においては、原料とする消石灰スラリー中のカルシウムの濃度、炭酸化反応を行う温度や炭酸化の速度、共存イオン等の製造条件を調節することによって、粒子形状、粒子径、比表面積等の物性をある範囲においてコントロールすることが可能である。
【0005】
その形態としては、具体的には、カルサイト型のコロイド状、連鎖状、立方体状、紡錘状、そしてアラブナイト型の柱状の炭酸カルシウムがよく知られており、それぞれで主たる用途も異なる。
すなわち、コロイド状炭酸カルシウムは、粒子径が0.02〜0.08μmのコロイド状粒子で、プラスチック、ゴム、塗料等の填料として用いられている。
連鎖状炭酸カルシウムは、一次粒子径が0.02〜0.08μmの結晶粒子が細長く連鎖状につながっているもので、ゴム、インキ、プラスチックの填料となる。
立方体状炭酸カルシウムは、粒子径が0.1〜0.2μmの立方体状粒子で、特に製紙や塗料用の顔料として優れている。
【0006】
また、紡錘状炭酸カルシウムは、長径0.5〜5.0μm、短径0.1〜2.0μmの紡錘状粒子で、通常は数μmの凝集体を形成していることから製紙用填料等として広く利用されている。
柱状炭酸カルシウムは、長径1.0〜20μm、短径0.1〜1.0μmの柱状粒子で分散性に優れており、その代表的な用途としては製紙用の顔料、填料が挙げられる。
これらの合成炭酸カルシウムは、上記したとおり他の素材に比較し製造工程が簡易であり、経済性、物性的な安定性、粒子形状の多様性、高白色度等の優れた特徴を有していることから、様々な工業的用途で使われている。
【0007】
他方、本発明の複合粒子のもう一方の主要構成物はシリカであるが、それについては、一般にSiO2という化学組成を有する二酸化ケイ素もしくは無水ケイ酸と呼ばれるものを指すことが多いものの、水和(含水)二酸化ケイ素SiO2・nH2Oを含めてシリカと呼称することもある。
工業用合成シリカ系素材としては、無水シリカ、含水シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル等があり、高比表面積、ガス吸着能の高さ、微細性、細かい空隙への浸透力や吸着力、付着力の高さ、高吸油性、粒子の均一性、高分散性等の優れた特性を活かして、幅広い分野で利用されている。
【0008】
そのうちの無水シリカは、四塩化ケイ素の熱分解やアーク炉中での珪砂の加熱還元・酸化によって得られるもので、ゴム、塗料、インキ、樹脂等の補強剤やチクソトロピー付与剤等に利用されている。
含水シリカは、ケイ酸ナトリウムの硫酸による分解により製造され、ゴムの補強充填剤をはじめ塗料のつや消し剤、製紙、樹脂フィルム等で使用されている。
【0009】
また、コロイダルシリカは、ケイ酸化合物から不純物を除去して無水ケイ酸のゾルとし、pH及び濃度を調節し、ゾルを安定化させた球状、連鎖状、不定形等の形状を有する非晶質シリカであり、樹脂の加工性改良剤、ワックス、サイジング剤、ラテックスの品質改良剤、バインダー、印刷用紙の印刷適性向上剤あるいは金属表面処理剤等として用いられている。
シリカゲルは、ケイ酸ソーダを無機酸で分解することによって得られる含水ケイ酸であり、食品、医薬、繊維、ガスもしくは空気等の脱湿乾燥剤、触媒やその担体、ゴム充填剤、又は塗料やインキの増粘もしくは沈降防止剤等の用途で使用されている。
【0010】
このように合成シリカは、高比表面積、ガス吸着能の高さ、微細性、細かい空隙への浸透力や吸着力、付着力の高さ、高吸油性、粒子の均一性、高分散性等の優れた特性を活かして、ゴム、製紙、塗料、石油精製触媒等の幅広い分野で利用されている。
上記したように工業用無機系素材の中でも、炭酸カルシウム及びシリカ系素材は、最も広く用いられている素材であるが、それぞれ優れた特性を有している反面、短所も持ち併せている。
例えば、炭酸カルシウムは、ゴム用填料として用いた場合、表面が不活性でゴム分子に対して化学的にも物理的にも親和性が乏しいため、ゴム製品の補強効果に欠ける。
【0011】
そして、製紙用、特に印刷用紙の顔料や填料として用いた場合、インキの吸収性が合成シリカよりも低いため、インキセット性、インキの裏抜け、印刷部の不透明性の点で支障をきたすことがある。
しかも、酸に対する抵抗性に乏しいことから、硫酸バンドを用いる酸性抄紙等、酸性物質との併用が困難である。
一方、シリカ系素材は、製紙用顔料として用いた場合、塗工剤の粘度上昇の原因となることから塗工剤中への高配合が容易でない。
なお、ゴム用填料としてもゴム組成物の粘度が著しく高くなることが指摘されている。
【0012】
また、コロイダルシリカは、溶液の温度、pH、電解質濃度等の変動や、長期保存、有機溶剤等に対する安定性の面で問題を生じることがある。
さらに、炭酸カルシウム等と比較して高価であることも、製品中への高配合や大量使用の妨げとなっている。
このように炭酸カルシウムと合成シリカは、それぞれが固有の特長(長所)と短所を有していることから、炭酸カルシウムとシリカを複合化することにより、これらの短所を解消すべく様々な技術やその用途に関する研究が古くから行われ、提案がなされている。
【0013】
[先行技術文献1]
【特許文献1】特公平2−56376号公報
【特許文献2】特公平4−63007号公報
【特許文献3】特開平11−107189号公報
【特許文献4】米国特許第3373134号公報
【特許文献5】特公昭43−3487号公報
【特許文献6】特公昭44−5330号公報
【0014】
[先行技術文献2]
【特許文献7】特公昭44−14699号公報
【特許文献8】特開昭60−222402号公報
【特許文献9】特開昭61−118287号公報
【特許文献10】特公平8−1038号公報
【特許文献11】特開平11−29319号公報
【特許文献12】特許第3392099号公報
【0015】
例えば、特許文献1には、炭酸カルシウム粒子表面を無機酸によって活性化し、その表面にケイ酸あるいはケイ酸塩を反応させることによって生成されるCaSiO3を介してケイ酸あるいはケイ酸塩の被覆層が形成された複合改質顔料が提案されている。
特許文献2には、炭酸カルシウム等の粉体と水和ケイ酸との混合物を粉砕するという物理的手法によって、インクの裏抜け防止性能を備えた紙の填料に好適な、炭酸カルシウム等の粉体と水和ケイ酸との特異な複合粉体の製造方法、特許文献3には、炭酸カルシウム等の微小粒子をケイ酸アルカリ溶液中に分散させ、そこに特定の条件の下に鉱酸を添加することによって、水和ケイ酸粒子中に炭酸カルシウム等の微粒子が均一に複合化された複合粒子の製造方法が提案されている。
【0016】
上記の技術以外にも、炭酸化反応時にコロイド状ケイ酸や活性ケイ酸を使用して製造した特異な形状や特性を有する合成炭酸カルシウムが知られている。
例えば、特許文献4には、水酸化アンモニウムの添加によりpHが8以上のアルカリを維持した塩化カルシウム水溶液中で、所定量のコロイド状ケイ酸の存在下、二酸化炭素ガスあるいは炭酸アンモニウムを反応させることにより非晶質ケイ酸が生成され、それは炭酸カルシウムの粒の内部に分散した複合体となっていることが開示されている。
特許文献5では、活性けい酸の存在下で水酸化カルシウムの水性懸濁液にCO2含有ガスを反応させることによって、不規則な方解石構造及び密でない2次構造を持つ、分散性のよい炭酸カルシウムを製造する方法が開示されている。
【0017】
特許文献6には、塩化カルシウムと炭酸ガス又は/及び炭酸アンモニウムをコロイドけい酸又は水溶性けい酸の存在下において液温35℃未満でかつ水酸化アンモニウムでpH8以上とした水溶液中で反応させることにより非晶質けい酸が生成され、それが炭酸カルシウムの核となったバテライト系炭酸カルシウムを主成分とする紙コーティング用顔料として開示されている。
特許文献7では、水酸化カルシウム水性懸濁液の二酸化炭素含有ガスによる炭酸化反応を、活性けい酸の存在下で開始し、微分散性炭酸カルシウムを製造する方法が開示されている。
【0018】
さらに、シリカと炭酸カルシウムの複合体等の用途に着目して開示された技術もあり、例えば農薬用担体(特許文献8)、感熱記録材料配合剤(特許文献9)、インクジェット記録紙用顔料(特許文献10)、ゴム等の補強用充填剤(特許文献11)等が挙げられる。
それらには、前記した複合体と異なる製法あるいは構造のものが例示されている。
例えば、特許文献8に記載の炭酸カルシウム−珪酸複合体は、Zn、Mg、Al等の金属を炭酸化反応時に共存させ、炭酸化率が80%に達するまで炭酸ガスを単独で吹き込み、その後珪酸アルカリ又は珪酸ゾルを添加し更に炭酸ガスを吹き込んで炭酸化を完了し製造されるものである。
こうして得られた炭酸カルシウム−珪酸複合体は、径0.01×長さ0.05〜1.00μmの連鎖状粒子であり、表面に珪酸が被覆されたものではない。
【0019】
また、特許文献9は、ケイ酸ソーダと塩化カルシウム又は水酸化カルシウムの水溶液に炭酸ガスを吹き込んで共沈させたものであり、酸化ケイ素と炭酸カルシウムが分子状態かあるいはそれに近い状態で結合したものと考えられている。
特許文献10では、珪酸ソーダに塩化カルシウムを反応させて得られた珪酸カルシウムに炭酸ガスを吹き込むことにより得られる炭酸カルシウム複合シリカを使用している。
上述したこれらの技術は、炭酸カルシウムの短所を補いシリカの有する特性を生かすという点で、ある程度の効果を見ることができるが、下記のとおり、本発明とは異なる物理的手法であったり、本発明とは異なるものの製造方法で、かつ実用化されていないことからもわかるように十分なものとはいえず、それぞれが課題(問題)を残すものとなっている。
【0020】
例えば、特許文献2あるいは特許文献11で開示された複合体の製造方法は、物理的手法によるものである。
また、特許文献3の方法では、微小粒子としては酸化チタンが好適であり、炭酸カルシウムを使用しても、炭酸カルシウムの粒子表面を均一に覆った複合粒子を得ることができない。
特許文献8に記載の炭酸カルシウム−珪酸複合体は単純な連鎖状粒子であり、特許文献9の酸化ケイ素−炭酸カルシウム複合物は酸化ケイ素と炭酸カルシウムが分子状態かあるいはそれに近い状態で結合したものと考えられている。
【0021】
また、炭酸化反応時にコロイド状けい酸や活性けい酸を使用して製造した合成炭酸カルシウムにしても、特許文献4では非晶質ケイ酸が炭酸カルシウムの粒子の内部に分散した複合体であり、特許文献5では不規則な方解石構造及び密でない2次構造を持つ炭酸カルシウムである。
特許文献6では非晶質けい酸が炭酸カルシウムの核となったバテライト系炭酸カルシウムであり、特許文献7では微分散性炭酸カルシウムであり複合体ではない。
すなわち、これらの技術において得られた粒子は、特定形状の炭酸カルシウム、いわゆる紡錘状、コロイド状、立方体状、柱状、連鎖状等の炭酸カルシウムの表面をシリカで被覆したシリカ−炭酸カルシウム複合粒子ではない。
【0022】
これらの技術と一線を画し、前記した問題を解決した技術として特許文献12に開示の方法があり、それには炭酸カルシウムの形成工程である炭酸化反応過程において、炭酸カルシウムの結晶核生成後にコロイダルシリカ又は無水シリカを添加し、その後炭酸化反応を完了させて、炭酸カルシウムの表面にシリカ微粒子を付着し固定したシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法が開示されている。
【0023】
この方法は系外よりシリカ微粒子を添加し炭酸カルシウム表面にシリカ微粒子を付着、固定するという製造工程の簡便さという点では画期的なものである。
しかしながら、この製造方法は、炭酸カルシウムに対し比較的高価な粒子状のコロイダルシリカや無水シリカを原料として使用するため、製造したシリカ−炭酸カルシウム複合体も一般の合成炭酸カルシウムに比較するとやや高価になり、製紙、塗料、樹脂用途への汎用粉体としての利用については経済性の点で難を残している。
【0024】
一方、近年のインクジェットプリンターの普及にともない、その印刷に適した印刷用紙、すなわちインクジェット記録用紙の市場ニーズが高まり、その要求を達成すべく数多くの特許が出願されている。
インクジェット記録用紙には、明確な塗工層を有していないノンコート紙と塗工層を有するコート紙がある。
コート紙は更にマット紙と光沢紙に分けられ、その基材にはいわゆる紙の他、合成紙、フィルム、布、不織布が使用され、コート紙における塗工層の役割は、インクの吸収性、にじみ防止、耐水性、耐候性、発色性、色再現性等の印刷適性の向上にある。
【0025】
すなわち、塗工タイプのインクジェット記録用紙は、紙などの基材に多孔質顔料とPVA等の樹脂成分を塗工して印刷適性を付与したインクジェット専用紙であり、カラー写真印刷に多用されることから、極めて高いレベルの発色性や色再現性、耐水性や耐候性、インクの吸収性が要求されている。
ここで使用される多孔質顔料としては、含水シリカやコロイダルシリカ等のシリカ類が主であり、炭酸カルシウム類はほとんど使用されていない。
その理由は一般の炭酸カルシウムはインクの吸収能力がシリカに較べて低いばかりでなく、発色性や色再現性においてもシリカを越えることができないことによるものと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
このような事情に鑑み、本発明者らは、製紙、特にインクジェット記録紙用の多孔質顔料として炭酸カルシウムを利用することについて鋭意検討を重ね、その結果インクの吸収能力に優れ、かつ発色性や色再現性においても優れた炭酸カルシウムを主体とする材料の開発に成功した。
すなわち、本発明者らは、高比表面積の炭酸カルシウムを基材に使用し、比較的安価なケイ酸アルカリを使用して、その表面にシリカを担持ないし被覆することにより、含水シリカやコロイダルシリカに匹敵する印刷適性をインクジェット記録用紙に付与でき、かつ経済性においても満足できるシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法の開発に成功した。
【0027】
したがって、本発明は、従来の高比表面積を有する合成炭酸カルシウムの表面を比較的安価なケイ酸アルカリを使用してシリカ微粒子を担持ないし被覆することにより、含水シリカやコロイダルシリカに匹敵する印刷適性をインクジェット記録用紙に付与でき、かつ経済性においても満足できるシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法を提供することを解決すべき課題とするものである。
さらに、本発明は該複合粒子、又はそれを含有する顔料、填料もしくは紙を提供することも解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、前記した課題を解決した新規なシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法を提供するものである。
その複合粒子の製造方法は、高比表面積を有する炭酸カルシウムの形成工程である炭酸化反応過程において、アルカリ金属イオンの共存下で、炭酸カルシウムの結晶核生成後にケイ酸アルカリを添加して、炭酸カルシウムの表面にシリカを固着させた、BET法による比表面積が60〜200m2/gであり吸液量が80〜250ml/100gであることを特徴とするものである。
また、本発明は該複合粒子、又はそれを含有する顔料、填料もしくは紙を提供するものである。
なお、ここでいう吸液量とは、吸油量、吸水量を指し、少なくともそのいずれかが上記範囲に含まれることが必要である。
【発明の効果】
【0029】
本発明のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法により得られたシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は、高比表面積の炭酸カルシウム表面に平均粒子径10〜100nmの化学的な沈澱反応により生成したシリカが分散して均一に付着し固定されているものであり、BET法による比表面積が60〜200m2/gと高いばかりでなく、吸油性及び吸水性に関しては、シリカを被覆しない基材の炭酸カルシウムと対比して同等以上の特性を発現する。
また、本発明の複合粒子は、インクジェット記録用紙に要求されるようなインクの吸収性や鮮やかな発色性、色再現性を有した経済性に優れた多孔質顔料となる。
【0030】
このようして得られたシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は、高比表面積のみならず、ガス吸着能の高さ、微細性、細かい空隙への浸透力や吸着力、付着力の高さ等において優れた性能を有するものであり、インクジェット記録用紙のみならず、その他の印刷用紙等の紙をはじめ、インキ、塗料、樹脂、ゴム等の顔料や填料として独特の効果を発揮する可能性があるばかりでなく、高機能複合材料としての利用も有望視されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下において、本発明に関し発明を実施するための最良の形態を含む実施の形態について説明するが、本発明は、それによって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
本発明のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は、前記したとおり高比表面積の炭酸カルシウムの形成工程である炭酸化反応過程において、炭酸化反応が終了するまでの間に、アルカリ金属イオンの共存下でケイ酸アルカリを添加して、炭酸化反応を完了させることにより製造されるものである。
【0032】
本発明における炭酸化反応については、高比表面積を有する炭酸カルシウムが形成できる限り特に限定されることはなく、炭酸ガス化合法、塩化カルシウムソーダ法、石灰ソーダ法あるいは水処理法等の各種方法が採用できるが、炭酸ガス化合法が本邦においては適しており経済的でもあり好ましい。
本発明の複合粒子を構成する成分の1つである炭酸カルシウムについては、シリカを被覆しない状態での比表面積が50m2/g以上である高比表面積を有する炭酸カルシウムであれば、その製造方法は特に限定されず、それには下記特許文献に提案されているような方法がある。
【0033】
[先行技術文献3]
【特許文献13】特開昭48−103100号公報
【特許文献14】特開昭56−17925号公報
【特許文献15】特公平5−55449号公報
【特許文献16】特開2001−72413号公報
【特許文献17】特開2003−246617号公報
【非特許文献1】石膏と石灰、No.194,pp.3−12,1981
【0034】
例えば、特許文献13には、水酸化カルシウムに対し5〜30重量%の亜硫酸カルシウムが添加された水酸化カルシウムを20重量%以下含有する石灰乳に、0〜40℃の温度で炭酸ガスを吹込むことを特徴とするBET比表面積が90〜100m2/gの極微細化炭酸カルシウムの製造方法が開示されている。
特許文献14には、水酸化カルシウムの水懸濁液に、水酸化カルシウム100部当り硫酸を0.5〜8部混合した後、炭酸化を行ない短径が0.02〜0.03μmでアスペクト比が10の微粒子で連鎖状の炭酸カルシウムの製造方法が開示されている。
【0035】
特許文献15には、アニオン有機ポリホスホネート電解質を含有する水酸化カルシウム水性スラリー中にCO2を吹込み比表面積が60m2/g以上の微細沈降炭酸カルシウムを製造する方法が開示されている。
特許文献16には、「さらに好ましくは」の場合にはBET比表面積が50m2/gの炭酸カルシウムが製造できること、及びその製造方法においては可溶性金属塩、多価アルコール、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸、硫酸亜鉛、ヘキサメタリン酸ソーダ、ビスホスホン酸等の各種添加剤を用いることが記載されている。
そして、それら添加剤を用いた実施例においては、いずれもBET比表面積が71〜130m2/gのものが製造できることが記載されている。
【0036】
特許文献17には、消石灰懸濁液にクエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤等の金属イオン封鎖剤を添加し、二酸化炭素含有ガスを吹き込んで炭酸化率20〜25%まで炭酸化を行った後、さらに金属イオン封鎖剤を多段添加しながら、二酸化炭素含有ガスを吹き込み、反応を終結させることにより、BET比表面積が100〜200m2/gで、吸油量が150〜200ml/100gのメソ孔担持炭酸カルシウムの製造方法が開示されている。
【0037】
本発明において高比表面積の炭酸カルシウムはこのような公知の方法により製造することができる。
これらの炭酸カルシウムは全てカルサイト型であるが、アラゴナイト型やバテライト型、あるいは非晶質の炭酸カルシウムであってもよい。
すなわち本発明において、高比表面積を有する炭酸カルシウムを形成するには、前記既知の添加剤をはじめ、各種の高比表面積形成用助剤を用いることが簡便である。
【0038】
その高比表面積形成用助剤としては、硫酸をはじめ、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硫酸バンド、硫酸マグネシウム等の硫酸塩や塩化亜鉛に代表される可溶性金属塩、亜硫酸カルシウム、ケイ酸ソーダ、燐酸および燐酸塩、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤、アニオン有機ポリホスホネート電解質、多価アルコール等があげられる。
これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
本発明者らも、合成時に高比表面積形成用助剤として、硫酸または硫酸塩、あるいはそれらを併用する方法やクエン酸等のヒドロキシカルボン酸を添加することにより製造できることを確認している。
【0039】
例えば、炭酸ガス化合法において、石灰乳を調製後、炭酸ガスの導入開始に相前後して
高比表面積形成用助剤として例えば硫酸又は硫酸塩、またはそれらの併用、あるいはヒドロキシカルボン酸を添加することにより、比表面積が50〜170m2/gで一次粒子径が20〜40nmの微細な炭酸カルシウムの連鎖状ないし繊維状粒子が製造できる。
炭酸ガス化合法においては、炭酸化反応の終了はpHの測定により簡便に行うことができ、炭酸化過程が進行するに従いスラリー中のpHが低下し、炭酸化反応が終了した時点ではpH7となるので、このpHの変化を継続して計測することにより炭酸化反応の終点を知ることができる。
【0040】
本発明の複合粒子を構成するもう1つの成分であるシリカの原料としては、ケイ酸アルカリであれば特に限定されず、例えばケイ酸ナトリウム(ソーダ)やケイ酸カリウムがあげられる。
本発明においては、シリカとは炭酸カルシウムの形成工程である炭酸化反応過程においてケイ酸アルカリを添加して、炭酸カルシウムの表面に固着するものを指すのであるから、この炭酸化過程において、ケイ酸アルカリが反応して炭酸カルシウムの表面に固体として析出するものであればよく、それは二酸化ケイ素あるいはその含水物のいずれであってもよい。
【0041】
本発明により炭酸カルシウム表面に沈澱させ固着させたシリカの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で観察すると10nm〜100nmの範囲にある。
このシリカの粒子径とは、炭酸カルシウム表面に固着した粒子状の形態をなすシリカ粒子の直径(形態が球でない場合は長径と短径の平均値とする)のことであり、走査型電子顕微鏡による表面形状の観察や、透過型電子顕微鏡における透過電子像の観察により測定したものである。
なお、このシリカは、現状においては粉末X線回折により非晶質と推定されるが、その構造あるいは組成の詳細は確認できていない。
【0042】
本発明で使用するシリカ原料のケイ酸アルカリについては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等が使用でき、ケイ酸ナトリウムは、Na2O・nSiO2・nH2Oという一般式で示され、水ガラスとも呼ばれている液状品や粉末の無水物であるケイ酸ナトリウムガラス、フレーク状のオルソケイ酸ナトリウムが使用できる。
さらに、ケイ酸カリウムはK2O・nSiO2という組成を有し、通常は水溶液となっており、一般工業用のケイ酸カリウムの他、ブラウン管用蛍光物質結合剤として使用されている高純度ケイ酸カリウムが使用できる。
【0043】
本発明では、ケイ酸アルカリからのシリカの生成反応は、アルカリ金属イオンの共存下で行うことが必要であり、このことが本発明の最大の特徴であるが、そのアルカリ金属イオンの種類や添加する方法は特に限定されない。
アルカリ金属イオンの添加については、その塩化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩等が使用でき、この中でも入手が容易な塩化ナトリウムや塩化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸ナトリウム等から1種以上をそのまま、あるいは水溶液として添加する方法が最も簡便であり工業的には望ましい。
【0044】
次いで、本発明のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法について詳述する。
本発明のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は、高比表面積の炭酸カルシウムの形成工程において、炭酸カルシウムの結晶核生成後から炭酸化反応終了までの間に、アルカリ金属イオン共存下でケイ酸アルカリを添加することによって製造でき、ケイ酸アルカリを添加する前にアルカリ金属イオンを何らかの方法で反応系内に存在させておくことを特徴とする。
【0045】
カルシウム源としては、石灰石を焼成して製造した生石灰(酸化カルシウム)を水和させた消石灰(水酸化カルシウム)が好適であるが、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等を使用しても良い。
また、これらの炭酸化には上記の生石灰製造時の排ガス等の二酸化炭素含有ガスや二酸化炭素の純ガスの他、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カルシウム等の可溶性炭酸塩が利用できる。
【0046】
アルカリ金属イオンの添加時期については、炭酸化反応開始前、あるいは炭酸化反応開始時以降であれば、ケイ酸アルカリの添加の前であることが必要である。
その添加量はケイ酸アルカリに含有される無水ケイ酸(SiO2)量100重量部に対し、アルカリ金属イオンとして0.1〜100重量部が望ましい。
少ないと炭酸カルシウムの表面に均一に被覆できず、シリカの単独粒子や凝集粒子が増加する。
他方、多すぎると多量のアルカリ金属化合物を使用することになり経済性が低下するばかりでなく、製品に残存するアルカリ金属や塩素イオン等の陰イオンが増加して、顔料や填料として使用する際に不具合が生じるおそれがある。
【0047】
ケイ酸アルカリを添加する時期については、炭酸カルシウムの結晶核生成開始時以降であり、望ましくは炭酸化率が50%以上となった炭酸化反応過程であり、より望ましくは合成炭酸カルシウムの結晶が生成し十分成長した炭酸化率が75%に達した以降で、さらに望ましくは炭酸化率が90%付近で添加するのが良い。
このようにしてシリカが高比表面積の炭酸カルシウム表面に強固にかつ効率よく付着、固定したシリカ−炭酸カルシウム複合粒子が得られる。
ここにおける炭酸化率とは以下の式によって表される。
炭酸化率=(炭酸化反応によって生成した炭酸カルシウム中のカルシウム重量÷反応系内に存在し炭酸化反応により炭酸カルシウムになりうるカルシウムの総重量)×100
【0048】
また、ここにおける炭酸カルシウムの結晶核生成の開始は、炭酸ガス化合法においては水酸化カルシウムスラリーの導電率を連続的に計測することで容易に知ることができる場合がある(非特許文献1参照)が、結晶核の生成が確認できないことも多く、その時には常法により懸濁液をサンプリングし粉末X線回折法や電子顕微鏡を用いれば確認することができる。
なお、炭酸ガス化合法以外の方法で製造する場合、例えば炭酸化反応に炭酸ナトリウム等の可溶性炭酸塩を使用する場合は、添加開始時から核の形成が始まるため、結晶核生成は炭酸化開始時に一致する。
【0049】
ケイ酸アルカリの添加量に関しては、特に制限はなくシリカ−炭酸カルシウム複合粒子に求められる合成シリカに由来する特性の度合いによって決定できるが、炭酸化反応終了時の炭酸カルシウム100重量部に対して無水ケイ酸(SiO2)として0.1〜100重量部、望ましくは1〜30重量部、より望ましくは5〜30重量部であることがよい。
なお、ここでいうケイ酸アルカリの添加量とは、添加したケイ酸アルカリ量そのものではなく、添加するケイ酸アルカリに含有される無水ケイ酸量をいう。
【0050】
その添加量については、0.1重量部未満であると、シリカの特性がほとんど発揮されず、生成物はカルシウム自体の性質とほとんど変わらないため、本発明の課題を達成できないことがある。
逆に多すぎると、経済的に不利になるばかりでなく、比表面積の低下や吸油量や吸水量の吸液量の低下を招き、本発明の課題を達成できないことがある。
【0051】
また、炭酸化反応を終了させた高比表面積の合成炭酸カルシウムを利用しても本発明のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は製造できる。
その場合には、比表面積が50m2/g以上の高比表面積の合成炭酸カルシウムスラリーに水酸化カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム源を適量添加した後、アルカリ金属イオンとケイ酸アルカリを加え、さらに炭酸ガス等の炭酸源で再度炭酸化を行えば良い。
その場合におけるアルカリ金属イオンとケイ酸アルカリの添加時期は、再炭酸化反応開始前であればいずれを先に添加しても良い。
しかし、再炭酸化反応開始後に添加する際には、ケイ酸アルカリの添加の前にアルカリ金属イオンを添加しておくことが必要である。
【0052】
以上の反応操作によって、高比表面積炭酸カルシウム粒子表面に、走査型電子顕微鏡での表面形状の観察や透過型電子顕微鏡における透過電子像の観察による、シリカの平均粒子径、すなわち炭酸カルシウム表面に固着した粒子状の形態をなすシリカの平均粒子径が10〜100nmの合成シリカが高比表面積炭酸カルシウムの表面に付着し固定された、本発明のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は製造できる。
こうして得られたシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は、炭酸カルシウム単独よりも比表面積は通常10m2/g以上高くなり、吸液量すなわち吸油量や吸水量においても10ml/100g以上上昇する。
【0053】
本発明のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法は、高比表面積の炭酸カルシウムの形成工程においてケイ酸アルカリを添加するという新規でかつ簡便な手法で容易に実施することができ、経済性においても優れている。
このようにして得られたシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は、高比表面積の炭酸カルシウム表面に平均粒子径10〜100nmの化学的な沈澱反応により生成したシリカが分散して均一に付着し固定されているものである。
【0054】
そのシリカ−炭酸カルシウム複合粒子は、高比表面積であるばかりでなく、吸油性及び吸水性といった吸液性に関しては、シリカを被覆しない基材の炭酸カルシウムと対比して、同等かそれ以上の特性を発現する。
また、本発明の複合粒子は、炭酸カルシウムの表面をシリカ粒子が被覆しているため、シリカ系の多孔質粒子と同等以上のインクジェット記録用紙に要求されるようなインクの吸収性や鮮やかな発色性、色再現性を有した経済性に優れた多孔質顔料となる。
【0055】
[実施例及び比較例]
以下において、本発明の複数の実施例及び比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によってなんら限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
また、以下に記載するBET法による比表面積は、Mountech社 Macsorb HM−1201を使用して、吸油量はJIS K5101によって測定したものであり、吸水量は該JISに準じて測定したものであり、その際には吸油量測定の際に使用するアマニ油に代えて水を使用した。
【実施例1】
【0056】
[高比表面積形成用助剤として硫酸亜鉛+硫酸の使用]
工業用生石灰3kgを15リットルの水で水和し、濃度9.1重量%の石灰乳(水酸化カルシウムスラリー)を調製し、この水酸化カルシウムスラリー2.0kgを450rpmで撹拌しながら、塩化ナトリウム15.0gを水に溶解した10重量%溶液全量を添加した。
温度を28℃に調整した後、炭酸ガス量3.8リットル/分、空気量8.8リットル/分の混合ガスを導入しながら、硫酸亜鉛7水和物24.2gの水溶液と硫酸16.7gを添加した。
【0057】
炭酸化率が90%に達した時点で、3号ケイ酸ナトリウムの28重量%溶液をSiO2重量に換算して、生成する炭酸カルシウム100gに対し10gとなるように徐々に添加し、スラリーのpHが7に達した時点で炭酸化反応を終了させた。
得られた生成物は、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察によると、繊維長0.5μm程度の繊維状の炭酸カルシウムの表面に10〜50nm前後のシリカ微粒子が付着し固定されているシリカ−炭酸カルシウム複合粒子であった。
また、BET法による比表面積は69.1m2/g、アマニ油による吸油量は108ml/100g、吸水量は130ml/100gであった。
【実施例2】
【0058】
実施例1で調製した水酸化カルシウムスラリー2.0kgを450rpmで撹拌しながら、温度を28℃に調整した後、炭酸ガス量3.8リットル/分、空気量8.8リットル/分の混合ガスを導入しながら、硫酸亜鉛7水和物22.7gの水溶液と硫酸8.3gを添加した。
炭酸化率が90%に達した時点で、塩化ナトリウム30gを溶解した10重量%水溶液全量を添加し、更に3号ケイ酸ナトリウムの28重量%溶液をSiO2重量に換算して、生成する炭酸カルシウム100gに対し20gとなるように徐々に添加し、スラリーのpHが7に達した時点で炭酸化反応を終了させた。
【0059】
得られた生成物は、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察によると、繊維長0.3μm程度の繊維状炭酸カルシウムの表面に10〜50nm前後のシリカ微粒子が付着し固定されているシリカ−炭酸カルシウム複合粒子であった。
また、BET法による比表面積は76.2m2/g、アマニ油による吸油量は105ml/100g、吸水量は140ml/100gであった。
【実施例3】
【0060】
[高比表面積形成用助剤として硫酸亜鉛のみ使用]
濃度7.3重量%の水酸化カルシウムスラリー2.0kgを450rpmで撹拌しながら、温度を15℃に調整した後、炭酸ガス量1.5リットル/分、空気量2.1リットル/分の混合ガスを導入しながら、水に溶解した硫酸亜鉛7水和物5.7gを添加した。
炭酸化率が60%に達した時点で、塩化ナトリウム5.0gを水に溶解した10重量%溶液全量を添加し、更に3号ケイ酸ナトリウムの28重量%溶液をSiO2重量に換算して、生成する炭酸カルシウム100gに対し10gとなるように徐々に添加し、スラリーのpHが7に達した時点で炭酸化反応を終了させた。
【0061】
得られた生成物は、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察によると、粒径が20nmのコロイド状粒子が連鎖状に連なった炭酸カルシウムの表面に10〜50nm前後のシリカ微粒子が付着し固定されているシリカ−炭酸カルシウム複合粒子であった。
また、BET法による比表面積は63.5m2/g、アマニ油による吸油量は89ml/100g、吸水量は105ml/100gであった。
【実施例4】
【0062】
[高比表面積形成用助剤としてクエン酸使用]
水道水1.8kgを撹拌しながら、工業用消石灰200gを加え濃度10重量%の水酸化カルシウムスラリーを調製した。
この中にクエン酸3gを水道水に溶解させた水溶液を添加し、スラリー温度を10℃に調整した後、炭酸ガスを1.2リットル/分の速度で導入した。
【0063】
炭酸化開始10分後に再度クエン酸3gを水道水に溶解させた水溶液を添加し、同様にして18分後、25分後にも添加した。
炭酸化開始50分後(炭酸化率80%)に塩化ナトリウム30gを水に溶解した10重量%溶液全量を添加し、更に3号ケイ酸ナトリウムの28重量%溶液をSiO2重量に換算して、生成する炭酸カルシウム100gに対し20gとなるように徐々に添加した。
炭酸化開始後65分でpHが7になったため炭酸化を終了した。
【0064】
得られた生成物は、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察によると、繊維長0.3μm程度の繊維状の炭酸カルシウムが3〜7μmの凝集体を形成しており、その表面には10〜70nm前後のシリカ微粒子が多孔質状に付着し固定しているシリカ−炭酸カルシウム複合粒子であった。
また、BET法による比表面積は154.4m2/g、アマニ油による吸油量は169ml/100g、吸水量は183ml/100gであった。
【実施例5】
【0065】
[シリカ複合体形成用添加剤として塩化カリウム使用]
塩化ナトリウムを塩化カルシウムに変更した以外は、実施例1と同様にしてシリカ−炭酸カルシウム複合粒子を製造した。
得られた生成物は、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察によると、繊維長0.5μm程度の繊維状の炭酸カルシウムの表面に10〜70nm前後のシリカ微粒子が付着し固定されているシリカ−炭酸カルシウム複合粒子であった。またBET法による比表面積は65.7m2/g、アマニ油による吸油量は103ml/100g、吸水量は118ml/100gであった。
【0066】
[比較例1(シリカ複合体形成用添加剤としての塩化ナトリウム不使用)]
実施例1と同様の条件で、塩化ナトリウムを添加せずに炭酸化反応を終了させた。
得られた生成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、繊維長0.5μm程度の繊維状の炭酸カルシウムが形成されており、その表面には10〜50nm前後のシリカ微粒子がわずかに認められるものの、ほとんどのシリカ粒子は凝集体をなして混在しており、炭酸カルシウムの表面を被覆した本発明のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子とはことなるものであった。
なお、本試料のBET法による比表面積は63.6m2/g、アマニ油による吸油量は102ml/100g、吸水量は117ml/100gであった。
【0067】
[比較例2(高比表面積形成用助剤不使用(紡錘状炭酸カルシウム形成))]
温度26℃に調節した濃度6.2重量%の水酸化カルシウムスラリー2.0kgを撹拌しながら、塩化ナトリウム33.5gを水に溶解した10重量%溶液全量を添加した。
その後、濃度25容量%の二酸化炭素と空気との混合ガスを、水酸化カルシウム100g当たり0.35リットル毎分の速度で導入し炭酸化反応を開始した。
その炭酸化反応の炭酸化率が90%に達した時点で、3号ケイ酸ナトリウムの28重量%溶液33.5g(SiO2重量に換算して、生成する炭酸カルシウム100g当たり20g)を添加すると共に、引き続き混合ガスを導入して炭酸化反応を継続させ、スラリーのpHが7に達した時点で炭酸化反応を終了させた。
【0068】
得られた生成物は、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察によると、長径1.0〜2.0μm、短径0.3〜0.5μmの紡錘状炭酸カルシウム粒子表面に10〜50nm前後のシリカ微粒子が付着し固定されているシリカ−炭酸カルシウム複合粒子であった。
この複合粒子のBET法による比表面積は12.9m2/g、アマニ油による吸油量は81ml/100g、吸水量は88ml/100gであった。
比表面積が小さいことは細孔が少ないことを示しており、インクジェット記録用紙用の多孔質顔料としては不十分なものであった。
【0069】
[比較例3(高比表面積形成用助剤不使用(柱状炭酸カルシウム形成))]
温度40℃に調節した濃度12.1重量%の水酸化カルシウムスラリー2.0kgを撹拌しながら、塩化ナトリウム1.63gを水に溶解した10重量%溶液全量を添加した。
その後、濃度25容量%の二酸化炭素と空気との混合ガスを、水酸化カルシウム100g当たり0.17リットル毎分の速度で導入し炭酸化反応を開始した。
その炭酸化反応の炭酸化率が90%に達した時点で、3号ケイ酸ナトリウムの28重量%溶液130.8g(SiO2重量に換算して、生成する炭酸カルシウム100g当たり40g)を添加すると共に、引き続き混合ガスを導入して炭酸化反応を継続させ、スラリーのpHが7に達した時点で炭酸化反応を終了させた。
【0070】
得られた生成物は、SEMでの観察によると、長径1.0〜3.0μm、短径0.1〜0.3μmの柱状炭酸カルシウム粒子表面に20〜80nm前後のシリカ微粒子が付着し固定されているシリカ−炭酸カルシウム複合粒子であった。
また、柱状炭酸カルシウム表面の約9割がシリカ微粒子によって覆われていたが、その周囲にはシリカの単独粒子も微量ながら観察された。
この複合粒子のBET法による比表面積は12.9m2/g、アマニ油による吸油量は70ml/100g、吸水量は102ml/100gであった。
比表面積が小さいことは細孔が少ないことを示しており、インクジェット記録用紙用の多孔質顔料としては不十分なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高比表面積を有する炭酸カルシウムの形成工程である炭酸化反応過程において、炭酸カルシウムの結晶核生成後に、アルカリ金属イオンの共存下でケイ酸アルカリを添加して、炭酸カルシウムの表面にシリカを固着させた、BET法による比表面積が60〜200m2/gであり吸液量が80〜250ml/100gであることを特徴とするシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法。
【請求項2】
炭酸カルシウム表面に固着させたシリカの平均粒子径が10nm〜100nmの範囲にある請求項1に記載のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法。
【請求項3】
ケイ酸アルカリがケイ酸ナトリウムである請求項1又は2に記載のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属イオンがナトリウム又はカリウムである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法。
【請求項5】
ケイ酸アルカリの添加量が、炭酸カルシウム100重量部に対し無水ケイ酸に換算し0.1〜100重量部である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属イオンの添加量が、添加するケイ酸アルカリに含有される無水ケイ酸量100重量部に対し0.1〜100重量部である請求項1ないし5のいずれか1項に記載のシリカ−炭酸カルシウム複合粒子の製造方法。
【請求項7】
高比表面積を有する炭酸カルシウムの形成工程において、硫酸、可溶性金属塩、ヒドロキシカルボン酸、キレート剤、多価アルコールから選択される高比表面積形成用助剤を1種または2種以上添加する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のシリカー炭酸カルシウム複合粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法で製造されたシリカ−炭酸カルシウム複合粒子。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法で製造されたシリカ−炭酸カルシウム複合粒子を含有する顔料、填料又は紙。

【公開番号】特開2007−70164(P2007−70164A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259342(P2005−259342)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】