説明

シリカクロスの製造方法並びにその製造方法により得られるエキスパンションジョイント用耐火帯としてのシリカクロス

【課題】部品点数減に資するとともに、構造の簡素化を図り、かつ、作業性の向上にも優れたエキスパンションジョイント用耐火帯としての高耐火性と高強度を兼ね備えたシリカクロスの提供を図る。
【解決手段】二酸化ケイ素とアルミナと酸化ナトリウムとで組成され、微量の砒素が混入された原料1を、ブッシング容器2に入れ1300度以上の高温で軟化し繊径が5.5〜6.5μmの単繊維3を生成するブッシング工程と、前記ブッシング工程により生成された単繊維3に液体サイジング材4を吹き付けてサイジングを施すサイジング工程と、前記サイジング工程によりサイジングが施された単繊維3複数本を一にまとめて撚りをかけてできる糸体5をボビン6で巻き取る撚り工程と、前記撚り工程によりボビン6に巻き取られた糸体5を織り込むことで原反7を生成する織工程と、前記織工程により生成された原反7を酸性液体8中に浸水させて酸処理を行う酸処理工程と、から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカクロスを製造するための方法並びにその製造方法により得られるシリカクロスに関し、詳しくは、エキスパンションジョイント用耐火帯として用いられるシリカクロスの製造方法並びにその製造方法により得られるシリカクロスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、防火シャッターやエキスパンションジョイント31の耐火帯30として、耐火性能に優れるシリカクロスが用いられている。
かかるシリカクロスを製造するにあたっては、例えば二酸化ケイ素52〜56質量%、アルミナ(酸化アルミニウム)12〜16質量%、ナトリウム15〜25質量%、酸化ホウ素(ボロン)5〜25質量%、酸化マグネシウム0〜6質量%、酸化カルシウム16〜26質量%、酸化ナトリウム0〜1質量%により組成される原料が一般的に使用され、製造されている。
【0003】
ところで、シリカクロスの製造過程において、完成品の二酸化ケイ素の比率を高くするために、酸処理によって余分な組成物を溶かし出す作業が行われる。しかしながら、上記のように多種の組成物から成る原料を使用した場合、図5の組成比較表からわかるように、二酸化ケイ素以外の余分な組成物が溶け出すことで、その後の完成品の密度は大きく減少し、それに伴って強度も著しく減少することとなる。
【0004】
また、上記原料の組成中にカルシウム成分が含まれているため、酸処理を行う際の酸性液体として硫酸を使用した場合、該カルシウム成分が硫酸カルシウム化(石膏化)してしまう。したがって、かかる酸処理に硫酸を使用することができず、代わって塩酸を使用した酸処理が行われているが、塩酸を使用することでアルミナ成分も溶け出てしまうこととなり、結果として完成するシリカクロスの強度が低くなってしまうこととなる。
【0005】
エキスパンションジョイント31の耐火帯30については、上記のシリカクロスのほか、セラミックファイバーブランケットなどが用いられており、かかるエキスパンションジョイント31の従来構造は、いずれの耐火帯30を使用する場合においても、図7に示すような態様となっている。すなわち、躯体32間の空間にU字状に耐火帯30を配置し、取付部材34の一端を耐火帯30の端辺に固定するとともに、該取付部材34の他端を躯体32に固定して、ジョイントカバー33で被覆した状態で該ジョイントカバー33と躯体32とを固定する態様である。これは、従来の耐火帯30が強度的に低いため、躯体32の角辺に当接した状態が長期間続くことにより当該当接箇所の劣化を招いてしまうことから、耐火帯30が躯体32角辺に当接しないよう躯体32間の空間にU字状に配置する必要があったため、かかる態様を採らざるを得ないものであった。
なお、かかる態様を採用するには、耐火帯30とジョイントカバー33のほか、別途取付部材を必要とするため、部品点数増だけでなく、構造の複雑化及び作業の煩雑化の要因となっていた。
【0006】
【特許文献1】特開2002−88932号公報
【特許文献2】特開2001−115566号公報
【特許文献3】特開平10−18473号公報
【特許文献4】特開平8−336609号公報
【特許文献5】特開平7−268969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、部品点数減に資するとともに、構造の簡素化を図り、かつ、作業性の向上にも優れたエキスパンションジョイント用耐火帯としての高耐火性と高強度を兼ね備えたシリカクロスを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、二酸化ケイ素とアルミナと酸化ナトリウムとで組成され、微量の砒素が混入された原料を、ブッシング容器に入れ1300度以上の高温で軟化し繊径が5.5〜6.5μmの単繊維を生成するブッシング工程と、前記ブッシング工程により生成された単繊維に液体サイジング材を吹き付けてサイジングを施すサイジング工程と、前記サイジング工程によりサイジングが施された単繊維複数本を一にまとめて撚りをかけてできる糸体をボビンで巻き取る撚り工程と、前記撚り工程によりボビンに巻き取られた糸体を織り込むことで原反を生成する織工程と、前記織工程により生成された原反を酸性液体中に浸水させて酸処理を行う酸処理工程と、から成るシリカクロスの製造方法である。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、前記請求項1に係る発明に加え、前記酸処理工程により酸処理が行われた原反を約680度の高温に熱せられた炉内を通過させて熱処理を行う熱処理工程が備えられているシリカクロスの製造方法である。
【0010】
さらに、請求項3に係る発明は、前記ブッシング工程において用いられる前記原料について、二酸化ケイ素76〜77質量%、アルミナ3〜4質量%、酸化ナトリウム20質量%の組成割合から成るものを採用したシリカクロスの製造方法である。
【0011】
またさらに、請求項4に係る発明は、前記サイジング工程において用いられる前記液体サイジング材として、酸化亜鉛またはシラン(水素化ケイ素)のいずれか一方若しくは両方が含まれているものを採用したシリカクロスの製造方法である。
【0012】
さらにまた、請求項5に係る発明は、前記酸処理工程において用いられる酸性液体として、硫酸を採用したシリカクロスの製造方法である。
【0013】
そしてまた、請求項6に係る発明は、前記いずれかの方法により製造されたエキスパンションジョイント用耐火帯としてのシリカクロスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるシリカクロスの製造方法によれば、従来製法により製造されるシリカクロスに比して耐火性能はそのままに高強度のシリカクロスを製造することが可能であって、本製造方法により製造されたシリカクロスをエキスパンションジョイント用耐火帯として使用することで、当該エキスパンションジョイント全体の部品点数が減少され、それに伴って構造の簡素化に資するとともに作業効率の向上にも資するといった、優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る製造方法によりシリカクロスが製造される工程を示すフローチャートである。(実施例1)
【図2】本発明に係る製造方法によりシリカクロスが製造される工程を示す説明図である。(実施例1)
【図3】本発明に係る製造方法によりシリカクロスが製造される工程を示すフローチャートである。(実施例2)
【図4】本発明に係る製造方法によりシリカクロスが製造される工程を示す説明図である。(実施例2)
【図5】本発明に係る製造方法により製造されたシリカクロスと従来製法により製造されたシリカクロスとの組成比較表である。
【図6】本発明に係る製造方法により製造されたシリカクロスをエキスパンションジョイント用耐火帯に使用した際の構造を示す説明図である。(実施例3)
【図7】従来の製造方法により製造されたシリカクロスをエキスパンションジョイント用耐火帯に使用した際の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、二酸化ケイ素とアルミナと酸化ナトリウムとで組成された原料1から、ブッシング工程、サイジング工程、撚り工程、織工程、酸処理工程という各工程を経てシリカクロス10を製造することを最大の特徴とする。以下、本発明にかかるシリカクロス10の製造方法並びにその製造方法により得られるエキスパンションジョイント用耐火帯としてのシリカクロス10の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0017】
なお、本発明は、下記の実施形態に示した構成・態様に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の要旨に逸脱しない範囲で、任意に変更することができるものである。
【実施例1】
【0018】
図1及び図2は、本発明の第一の実施例に係る製造方法によりシリカクロス10が製造される工程を示しており、図1はフローチャート、図2は概略説明図である。本実施例に係るシリカクロス10の製造方法は、ブッシング工程と、サイジング工程と、撚り工程と、織工程と、酸処理工程と、から構成されている。
【0019】
ブッシング工程は、原料1から単繊維3を生成する工程である。
具体的には、下面に複数の微細孔を有するブッシング容器2内にシリカクロス10の原料1を投入した状態で、該ブッシング容器2を1300度以上の高温域に加熱して原料1を溶融・軟化させることで、その溶融・軟化した原料1が微細孔から単繊維3として排出されることとなる。微細孔は、ブッシング容器2の下面に複数備えられており、その数については特に限定するものではないが、例えば500〜5000の微細孔が一つのブッシング容器2下面に備えられている。
溶融・軟化した原料1は、かかる複数の微細孔から同時に排出されることとなり、すなわち単繊維3は、ブッシング容器2下面に備えられた微細孔の数だけ同時に生成されることとなる。
【0020】
排出される単繊維3の繊径は、5.5乃至6.5μmの範囲内とする。したがって、ブッシング容器2における微細孔の孔径について、かかる単繊維3の繊径を考慮して設定される。なお、単繊維3の繊径については、微細孔の孔径のみで決定されるものではなく、溶融・軟化した原料1の粘度や、後述する撚り工程時におけるボビン6での巻き取り速度によっても変化するため、実際はこれらの条件全てに基づいて、単繊維3の繊径を上記範囲内に調整することとなる。
【0021】
本工程において使用する原料1は、二酸化ケイ素とアルミナと酸化ナトリウムとで組成されており、かつ、微量の砒素が混入されて成る。二酸化ケイ素はシリカクロス10の主成分であり、また、アルミナはシリカクロス10の強度に影響を及ぼすものである。組成中に酸化ナトリウムを有するのは、アルカリ金属を入れることで原料1の溶融温度を下げることができるためである。なお、砒素を混入するのは、生成される単繊維3内に空気が入って強度が落ちることを抑制するとともに、単繊維3の表面がザラつくことを抑制するためである。
【0022】
前記原料1の組成割合については、特に限定するものではなく、上記各組成物の機能・役割を考慮して適宜決定すればよい。
このとき、本実施例にかかる原料1として、例えば二酸化ケイ素76〜77質量%、アルミナ3〜4質量%、酸化ナトリウム20質量%の組成割合から成るものを使用することが考え得る。従来原料1に比して、本実施例にかかる原料1における二酸化ケイ素の組成割合が大きいのは、後述する酸処理工程における酸処理後のシリカクロス10について、高密度を維持するためである。また、アルミナの組成割合は、完成したシリカクロス10に所定強度を保持させるため必要な量として決定されている。さらに、酸化ナトリウムの組成割合は、原料1が1300度程度で溶融・軟化するために必要な量として決定されている。
【0023】
前記ブッシング工程後、次にサイジング工程へ移行する。該サイジング工程は、前記ブッシング工程により生成された単繊維3にサイジングを施す工程である。
サイジングとは、単繊維3の表面を保護することを目的に行われるもので、液体状のサイジング材(液体サイジング材)4を単繊維3表面に吹き付けることで行われる。
該液体サイジング材4としては、一般に澱粉液やポリビニルアルコール、液体シリコン樹脂などが用いられており、本実施例においても同様である。なお、本実施例にかかる液体サイジング材4として、液体状の酸化亜鉛やシラン(水素化ケイ素)を用いる態様が考え得る。これらは夫々単独で用いてもよく、あるいは、両方が含まれたものを液体サイジング材4として使用することも可能である。また、前記従来の液体サイジング材4との混合も考えられ、その使用態様に限定はない。
【0024】
前記サイジング工程後、次に撚り工程へ移行する。該撚り工程は、前記サイジング工程によりサイジングが施された単繊維3から糸体5を生成する工程である。
すなわち、サイジングが施された単繊維3について、複数本を一にまとめて撚りをかけることで、糸体5を生成する。一にまとめる単繊維3の本数については、該単繊維3の繊径を考慮しつつ生成される糸体5の太さ設定によって決定されるもので、特に限定はないが、例えば500〜5000本の単繊維3を一にまとめ、糸体5が生成される。
このように、複数本の単繊維3を一にまとめて撚りをかけることで糸体5が生成されることとなるが、少数の単繊維3に撚りをかけて糸体5を生成した後、その少数単繊維3から成る糸体5複数本を更に撚りをかけつつ一にまとめて最終的に多数の単繊維3から成る糸体5を生成する態様も考え得る。
なお、このようにして生成された糸体5は、ボビン6によって巻き取られる。このとき、ボビン6に糸体5を巻き取る際の巻き取り速度が、前記ブッシング工程において生成される単繊維3の繊径に影響を及ぼすことは、上述した通りである。
【0025】
前記撚り工程後、次に織工程へ移行する。該織工程は、前記撚り工程により生成された糸体5から原反7を生成する工程である。
すなわち、ボビン6に巻き取られた糸体5を織り込むこと、本実施例にかかるシリカクロス10の原反7が生成されることとなる。なお、糸体5を織り込む際の織り方については、特に限定するものではなく、平織や朱子織、綾織など、常法の織り方で足りる。
【0026】
前記織工程後、次に酸処理工程へ移行する。該酸処理工程は、前記織工程により生成された原反7に酸処理を行う工程である。
具体的には、原反7を所定時間かけて酸性液体8中に浸水・通過させることで、酸処理が行われる。かかる酸処理により、原反7から酸化ナトリウムが溶け出し、すなわち不要なアルカリ成分が除去されることとなる。
酸処理に使用する酸性液体8については、塩酸や硫酸が考え得る。ただし、塩酸を酸処理に使用した場合には、アルカリ成分を除去するだけでなくアルミナも溶け出してしまうため、最終完成品の強度が低下してしまうこととなる。したがって、本実施例にかかる酸処理に使用する酸性液体8としては、硫酸を使用することが好ましい。
【0027】
ところで、上記酸処理を経ることでアルカリ成分が除去されてしまうため、酸処理前(原反7)と酸処理後(シリカクロス10)とでは、密度に変化を生じることとなる。かかる密度の変化は、酸処理でどれだけの不要成分が除去されたかによって推し測ることができ、これは酸処理前(原反7)と酸処理後(シリカクロス10)の重量比較によって容易に判別可能である。図5は、本発明に係る製造方法により製造されたシリカクロス10と従来製法により製造されたシリカクロス30との組成比較表である。図5の組成比較表からわかるように、本実施例に係る製造方法により製造されたシリカクロス10は、酸処理前(原反7)に対し酸処理後(シリカクロス10)において24%減量されていることがわかる。
【0028】
本実施例にかかるシリカクロス10は、以上の各工程を経て製造される。完成したシリカクロス10は、図5の組成比較表からわかるように、その組成割合が二酸化ケイ素94〜98質量%、アルミナ1〜5質量%であり、酸処理後の減量率が24%であって、アルミナ成分が含有されるとともに高密度であることから高い強度を有するとともに、優れた耐熱収縮性(熱収縮率7%)を備えたシリカクロス10を提供するものである。
これに対し従来品は、図5からわかるように、二酸化ケイ素99質量%、アルミナ0質量%であり、酸処理後の減量率が48%であって、アルミナ成分が含まれないとともに低密度であることから、本発明品に比し強度が劣るとともに、耐熱収縮性(熱収縮率15%)にも劣るシリカクロス30となる。
【実施例2】
【0029】
図3及び図4は、本発明の第二の実施例に係る製造方法によりシリカクロス10が製造される工程を示しており、図3はフローチャート、図4は概略説明図である。本実施例に係るシリカクロス10の製造方法は、ブッシング工程と、サイジング工程と、撚り工程と、織工程と、酸処理工程と、熱処理工程と、から構成されている。
なお、本実施例におけるブッシング工程から酸処理工程までは、上記第一の実施例と同様であるため、説明を省略する。
【0030】
本実施例においては、前記酸処理工程後に熱処理工程が行われる。該熱処理工程は、前記酸処理工程により酸処理が行われた原反7に熱処理を行う工程である。
具体的には、前記酸処理工程により酸処理が行われた原反7について、高温に熱せられた炉9内を通過させることで、熱処理が行われる。熱処理に要する温度、すなわち炉9内温度については、例えば680度前後の高温域とすることが想定される。また、熱処理に要する時間・速度については、特に限定するものではなく、製品のヒートストレスや完成品について目指す熱収縮率などを考慮して、適宜決定される。なお、シリカクロス10のヒートストレスは大きく、あまり長時間をかけて熱処理を行うと、優れた耐熱収縮性を得ることはできるものの、強度が著しく低下してしまうこととなるため、熱処理態様として例えば約2m/秒の速度で6mの炉9内を約3秒かけて通過させる態様が考え得る。
【0031】
本実施例にかかるシリカクロス10は、以上の各工程を経て製造される。完成したシリカクロス10は、図5の組成比較表からわかるように、その組成割合が二酸化ケイ素94〜98質量%、アルミナ1〜5質量%であり、酸処理後の減量率が24%であって、アルミナ成分が含有されるとともに高密度であることから高い強度を有するとともに、優れた耐熱収縮性(熱収縮率1%以下)を備えたシリカクロス10を提供するものである。
これに対し従来品は、図5からわかるように、二酸化ケイ素99質量%、アルミナ0質量%であり、酸処理後の減量率が48%であって、アルミナ成分が含まれないとともに低密度であることから、本発明品に比し強度が劣るとともに、耐熱収縮性(熱収縮率7%前後)にも劣るシリカクロス30となる。
【実施例3】
【0032】
図6は、上記第一の実施例または第二の実施例に係る製造方法により製造されたシリカクロス10について、エキスパンションジョイント用耐火帯として使用した際の構造を示す説明図である。
すなわち、図面に示すように、シリカクロス10の中央部が躯体12間の空間部にU字状に配置されるとともに、シリカクロス10の両端部は各躯体12表面へ夫々延設された状態に配置される。かかる状態にてシリカクロス10の上方からジョイントカバー13を被覆することにより、エキスパンションジョイント11が構築されることとなる。
【0033】
本実施例において、上記構造を採用することにより、シリカクロス10と躯体12とを固定するための取付部材を別途用意する必要がなくなり、構造の簡素化、作業効率の向上に資することとなる。また、シリカクロス10が、図面に示すようにジョイントカバー13と躯体12との間にも配置されることとなるため、従来のように躯体32間の空間部だけでなく、より広範囲に耐火帯としての耐火機能を具備させることが可能となる。
【0034】
ところで、本実施例にかかるシリカクロス10を使用することで、取付部材を不要としてエキスパンションジョイント11の構造を簡素化可能な理由は、当該シリカクロス10が有する性能によるものである。
すなわち、本実施例で使用するシリカクロス10は、上記第一の実施例または第二の実施例に係る製造方法により製造されていることから、従来品に比して高い強度を有しており、かつ、耐熱収縮性にも優れた効果を発揮するものである。したがって、図面に示すように躯体12の角辺に当該シリカクロス10が当接した状態で配置されても何ら問題がなく、また、かかる状態が長期間続いたとしてもシリカクロス10における当接箇所の劣化の心配もない。
【0035】
なお、本実施例におけるシリカクロス10を躯体12へ固定する方法については、別途取付部材を用いないこと以外は特に限定はないが、例えば粘着材を介してシリカクロス10と躯体12とを接着したり、あるいは、ジョイントカバー13を躯体12に固定する方法をそのまま用いて、該ジョイントカバー13上方からシリカクロス10を突き抜けて躯体12まで一体的に固定する態様が考え得る。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、シリカクロス10の製造に際し使用する原料1として、二酸化ケイ素とアルミナと酸化ナトリウムとで組成され、かつ、微量の砒素が混入されて成るものを使用することで、硫酸による酸処理を可能とし、それによりアルミナ成分を残存させるとともに高密度状態を確保し、もって完成品としてのシリカクロス10の性能向上特に強度向上が図られるといった、優れた作用効果を発揮するものであって、本発明に係るシリカクロス10の製造方法並びにその製造方法により得られるエキスパンションジョイント用耐火帯としてのシリカクロス10の産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0037】
1 原料
2 ブッシング容器
3 単繊維
4 液体サイジング材
5 糸体
6 ボビン
7 原反
8 酸性液体
9 炉
10 シリカクロス
11 エキスパンションジョイント
12 躯体
13 ジョイントカバー
30 耐火帯
31 エキスパンションジョイント
32 躯体
33 ジョイントカバー
34 取付部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキスパンションジョイント用耐火帯としてのシリカクロスの製造方法であって、
二酸化ケイ素とアルミナと酸化ナトリウムとで組成され、微量の砒素が混入された原料を、ブッシング容器に入れ1300度以上の高温で軟化し繊径が5.5〜6.5μmの単繊維を生成するブッシング工程と、
前記ブッシング工程により生成された単繊維に液体サイジング材を吹き付けてサイジングを施すサイジング工程と、
前記サイジング工程によりサイジングが施された単繊維複数本を一にまとめて撚りをかけてできる糸体をボビンで巻き取る撚り工程と、
前記撚り工程によりボビンに巻き取られた糸体を織り込むことで原反を生成する織工程と、
前記織工程により生成された原反を酸性液体中に浸水させて酸処理を行う酸処理工程と
から成ることを特徴とするシリカクロスの製造方法。
【請求項2】
前記シリカクロスの製造方法において、
前記酸処理工程により酸処理が行われた原反を約680度の高温に熱せられた炉内を通過させて熱処理を行う熱処理工程が備えられていることを特徴とする請求項1に記載のシリカクロスの製造方法。
【請求項3】
前記ブッシング工程において用いられる前記原料の組成割合が、二酸化ケイ素76〜77質量%、アルミナ3〜4質量%、酸化ナトリウム20質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリカクロスの製造方法。
【請求項4】
前記サイジング工程において用いられる前記液体サイジング材として、酸化亜鉛またはシラン(水素化ケイ素)のいずれか一方若しくは両方が含まれていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシリカクロスの製造方法。
【請求項5】
前記酸処理工程において用いられる酸性液体が、硫酸であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のシリカクロスの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか記載の方法により製造されたエキスパンションジョイント用耐火帯としてのシリカクロス。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−112967(P2013−112967A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259037(P2011−259037)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(599099526)株式会社光和 (9)
【Fターム(参考)】