説明

シリカレンズを全体的に処理して光損傷を低減する方法

強度の高い光源により光学部品に生じる損傷を防止する1つの方法は、光学部品を所定の時間アニーリングすることを含む。他の方法は、フッ化物イオン及び二フッ化水素イオンを含むエッチング液中で光学部品をエッチングすることを含む。該方法はまた、プロセスの間にエッチング溶液を超音波で攪拌すること、次いで光学部品をすすぎ浴ですすぐことを含む。

【発明の詳細な説明】
【陳述】
【0001】
[連邦政府の資金提供による研究又は開発の下でなされた発明の権利に関する陳述]
[0001]米国政府は、米国エネルギー省とローレンス・リバモア・ナショナル・セキュリティー(Lawrence Livermore National Security,LLC)との契約番号DE−AC52−07NA27344に基づいて、本発明における権利を有する。
【背景】
【0002】
[0002]近年、高出力レーザが様々な業界で益々用いられている。光学部品、例えばレンズ、窓などは、高出力の高エネルギーレーザ照射に曝露されると、損傷を受け易い。光学材料は全て、光学材料に固有のプロセスを通じて、十分に高いレーザ強度で最後には損傷することになる。そのような固有の光損傷は、多光子イオン化による高エネルギー蓄積の結果であり、材料のバルク電子構造により決定される。そのような損傷は通常、200GW/cmを超える強度で起こる。しかし、実際には、最高品質の光学部品であっても、固有の損傷閾値よりもかなり低いフルエンスで損傷されることがある。
【0003】
[0003]光損傷を防止及び/又は軽減する様々な方法が現在使用されている。1つの解決策は、そのような光損傷に耐える高品質の光学材料を製造することである。しかし、最高品質のバルク光学材料であっても、材料の表面の光損傷からは免れない。表面損傷の原因の1つは、光損傷前駆体によりサブバンドギャップ光が吸収されるためである。光損傷前駆体は、バルク光学材料の外部からの欠陥である。これらの前駆体によりフルエンスの高い光が吸収されると、表面から材料が爆発的に放出され、これによって直径数ミクロン〜何十ミクロンになりうるピットが後に残される。表面破壊は、典型的には、これらのピットに伴って生じ、高出力又は高エネルギーレーザでさらに照射されると、光学材料はさらに分解する。操作波長が短くなり、赤色から紫外に移行すると、そのような損傷は問題がさらに増大する。同様に、一般にフルエンスが高くなる程、そしてパルス長が短くなる程、損傷の強度が高くなることが見出された。溶融シリカは、光学仕上げプロセスの詳細に応じて、典型的には、高品質バルク材料の固有の損傷閾値(<100J/cm)よりもかなり低い1〜30J/cmのフルエンスで355nm光の3nsパルスに曝露すると、表面損傷を示す。また、反復して長時間照射すると、損傷が許容できないレベルにまで増大する。
【0004】
[0004]光損傷前駆体の密度及び性質は、光学部品の製造の間に用いられる仕上げ及びハンドリングプロセスに大きく依存する。損傷前駆体は、主として、光活性不純物、表面破壊、及びレーザで誘起された損傷部位に関連する。光活性不純物は、研磨の際に光学部品の表面付近の領域に導入される場合がある。表面破壊としては、光学部品の粉砕プロセスの際に導入された破壊、及び光学部品の研磨、洗浄、ハンドリング又は使用の際に形成されたスクラッチ又は押し込み破壊が挙げられる。光学的に誘起された表面損傷部位としては破壊位置が挙げられる。
【0005】
[0005]特にスペクトルの紫外(UV)部分において、溶融シリカ光学部品の耐性を高めて光学部品がフルエンスの高い照射に耐えうるようにするために多くの解決策が提案された。1つの解決策は、光活性不純物及び破壊を除去することであり、それらは両方とも光学部品の製造プロセスで、光吸収性の損傷前駆体として作用し得るためである。例えば、Nichols他への米国特許第6,099,389号には、幾つかの従来の制御された粉砕ステップを用いた後に、従来の研磨を行うことが記載されている。研磨層内の残留セリアが光損傷前駆体として作用するのを防止するために、Nicholsは、ジルコニア系スラリーの使用、又は研磨層から残留セリアを除去するエッチングステップの利用を記載している。提案された他の解決策は、専用の製造プロセスの利用である。例えばMenapace他への米国特許第6,920,765号には、従来の粉砕の後、従来の研磨ステップ及び磁性流体研磨ステップを含む製造プロセスが記載されている。次に、研磨層はエッチングにより除去される。損傷の少ないレンズを製造するさらに他の方法が、Hackelへの米国特許第6,518,539号に記載されている。フルエンスの高いレーザによる反復スキャニングがレンズ全体で実施されて、各表面の欠陥の位置が明らかとなる。欠陥の位置が明らかになると、光学部品の全体的加熱又はエッチングを使用して、欠陥の位置が処理される。また、Brusascoへの米国特許第6,620,333号には、最初に光学部品にレーザを照射して損傷を生じさせ、その後、レーザアブレーションを用いて損傷エリアを処理する方法が開示されている。このタイプの破損軽減法は、光学部品がさらなる損傷を受け易くなることを承知で行うか、又は最終的に光学部品の異なる態様を損傷する場合がある。
【0006】
[0006]先に議論された従来の技術の全てが、実現することが困難な正確さ及び制御をある程度必要とする。また、方法の幾つかは、光損傷の最も多くを占める前駆体、つまりスクラッチ(動的破壊)及び「ディグ」(静的破壊)の1つに関連する破壊表面を無視している。したがって、当技術分野では、光損傷に対する光学部品の耐性を高めるための改善された方法が求められている。また、以前に生じた光損傷部位を軽減するためのより効率的な手段が必要とされている。
【概要】
【0007】
[0007]本発明は概して、光学部品への損傷を軽減及び防止することに関する。より詳細には、本発明は、強度の高い光源、例えばレーザにより光学部品に生じる損傷を軽減及び防止する方法に関する。本発明は、光学表面からの混入物を化学浸出させること、光学部品全体を熱処理して損傷前駆体密度を低減すること、及び/又はフッ化物ベースのエッチング化学を用いて表面からの前駆体層を化学エッチングすることによって、損傷し易いシリカレンズを全体的に処理する技術を提供する。
【0008】
[0008]本発明の特定の実施形態によれば、強度の高い光源に曝露される光学部品を、少なくとも1種の鉱酸を含む水溶液に曝露する。鉱酸は、硝酸(HNO)、塩酸(HCl)、過塩素酸(HClO)、硫酸(HSO)、リン酸(HPO)、又はそれらの組合せを含むことができる。プロセスの一部として、光学部品を50℃〜120℃の範囲内の温度まで加熱してもよい。
【0009】
[0009]本発明の他の実施形態において、溶融シリカ系光学部品を加熱炉に入れ、表面損傷閾値を上昇させるのに十分な時間、700℃〜1050℃の範囲内の温度まで加熱する。一実施態様において、該部品を24時間加熱する。他の実施形態において、該部品を24時間〜48時間加熱する。好ましくは、その後、光学部品を制御された条件下で冷却する。
【0010】
[0010]本発明の他の実施形態において、光損傷を潜在的に受け易い領域を有する光学部品を、フッ化水素酸の水溶液又はフッ化物イオン若しくは二フッ化水素イオンを含む酸性溶液に曝露する。水性エッチング液により光学部品から表面層を除去する。好ましくは該プロセスの間に水溶液を超音波により攪拌する。エッチングプロセスが完了した後、該部品を、高純度水、例えば脱イオン水又は蒸留水を含む溶液ですすぐ。
【0011】
[0011]本発明の他の実施形態において、光学部品を、硝酸(HNO)、塩酸(HCl)、過塩素酸(HClO)、硫酸(HSO)又はリン酸(HPO)のうちの少なくとも1種を含む鉱酸の水溶液に曝露する。その後、水溶液を光学部品と共に、約50℃〜120℃の範囲内の温度まで加熱する。それに続いて光学部品を、フッ化水素酸、フッ化物イオン又は二フッ化水素イオンのうちの1種の化学種を含む水性エッチング溶液に入れ、光損傷前駆体を含む光学部品の領域から表面層を除去して、エッチング関連の光損傷前駆体副生成物を最小限に抑える。さらに、エッチングプロセスの間に超音波又はメガソニック法で水溶液を攪拌する。
【0012】
[0012]幾つかの実施形態において、光損傷を軽減する他の方法は、損傷された部品を、フッ化水素酸、フッ化物イオン又は二フッ化水素イオンのうちの1種の化学種を含む水溶液中で処理して、部品をエッチングすることを含む。エッチングにより、部品から表面層が除去され、エッチング関連の光損傷前駆体副生成物が最小限に抑えられる。水溶液は超音波又はメガソニック法で攪拌する。水溶液のエッチング速度は、反応副生成物の除去速度よりも低くなるように操作する。
【0013】
[0013]他のアプローチにおいて、該方法は、損傷した光学部品を、フッ化水素酸、フッ化物イオン又は二フッ化水素イオンのうちの1種の化学種を含む水溶液中で処理して、部品をエッチングすることを含む。エッチングにより、領域から表面層を除去して、光損傷前駆体副生成物を最小限に抑える。水溶液は、超音波又はメガソニック法を用いて攪拌してもよく、好ましくは水溶液への溶解度が低いヘキサフルオロケイ酸塩を形成することが可能なカチオンを実質的に含まない。カチオンとしては、典型的には、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)、バリウム(Ba2+)、亜鉛(Zn2+)、鉛(Pb2+)、鉄(Fe2+及びFe3+)又はアルミニウム(Al3+)のうちの少なくとも1種が挙げられる。
【0014】
[0014]他の実施形態において、フッ化水素酸、フッ化物イオン又は二フッ化水素イオンのうちの1種の化学種を含む水溶液中に光学部品を入れて、部品をエッチングすることにより、光損傷を軽減する。エッチングにより、該部品から表面層を除去して、エッチング関連の光損傷前駆体副生成物を最小限に抑える。好ましくは、エチレンジアミン二フッ化水素塩又は第一級、第二級若しくは第三級アンモニウムカチオンのフッ化物塩を水溶液に添加して、超音波又はメガソニック法で水溶液を攪拌する。
【0015】
[0015]幾つかの実施形態において、光学部品を、硝酸(HNO)、塩酸(HCl)、過塩素酸(HClO)、硫酸(HSO)又はリン酸(HPO)のうちの少なくとも1種を含む鉱酸の水溶液に曝露する。該部品及び該水溶液を、約50℃〜120℃の範囲内の温度まで加熱し、その後、加熱炉内で24時間〜48時間、700℃〜1050℃の範囲内の温度まで加熱する。
【0016】
[0016]以下の詳細な説明は、添付の図面と共に、本発明の性質及び利点のより十分な理解を与える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による、光学部品を処理して、レーザにより誘起される光損傷を防止するプロセスの流れ図である。
【図2】本発明の一実施形態による、強度の高い光により生じた光学部品への損傷を軽減するプロセスの流れ図である。
【図3】本発明の他の実施形態による、光学部品を処理して、レーザにより誘起される損傷を防止するプロセスの流れ図である。
【特定の実施形態の詳細な説明】
【0018】
[0020]本発明の実施形態は、レーザ又は他の高エネルギービームに曝露された光学部品内の損傷を軽減する方法を提供する。
【0019】
[0021]既存の光損傷を軽減するため、又は光学部品を処理してレーザにより誘起される損傷に対してより耐性にするために用いられるプロセスは、光学部品を製造するのに用いられるプロセスに依存する可能性がある。例えば、セリア又は鉄を基にしたスラリーを用いて研磨された光学部品は、研磨材料により残された残留光活性不純物を含む場合がある。表面付近の層内の光活性不純物は、強度の高い光を吸収することができ、そうしてビームからのエネルギーを光学部品の表面付近に移動させて、局所温度を上昇させることができる。ビームの強度と吸収の強度との組合せが十分であれば、少量の局所プラズマをレンズの表面で点火することができる。そのようなプラズマは、単独で光ビームからエネルギーを吸収して、光パルスが終了するまで、局所温度をさらに上昇させることができる。物理的には、損傷は、溶融した材料、イジェクタ、及び熱による破壊を含むプラズマの表れである。これらの不純物を排除するために用いられるプロセスは、光学部品内の表面破壊を軽減するのに用いられるプロセスと異なっていてもよい。幾つかの例において、ケイ酸ガラス内の表面光損傷が、数J/cm〜30J/cm超の範囲内のフルエンスで生じうることが観察された。したがって、光学部品を処理する幾つかの異なる方法を以下に記載する。特定の方法の選択は、典型的には、光学材料のタイプ、レンズの仕上げに用いられるプロセス、並びに光損傷又は光損傷前駆体の性質及び程度に依存する。
【0020】
[0022]図1は、本発明の一実施形態による光学部品を処理するプロセス100の流れ図である。プロセス100は、本明細書において「浸出」と呼ばれる。浸出は、先に記載された残留光活性不純物を除去することができるプロセスである。ステップ110で、処理される光学部品を用意する。ステップ111で、少なくとも1種の鉱酸を含有する水溶液に光学部品を浸漬する。鉱酸としては、硝酸(HNO)、塩酸(HCl)、過塩素酸(HClO)、硫酸(HSO)、リン酸(HPO)、又はそれらの組合せが挙げられる。全ての酸が水溶液中に存在しなければならないわけではなく、1種の酸を用いてもよい。酸の組合せ及び割合は、光学材料のタイプ、並びに光損傷の性質及び程度に基づいて選択してもよい。ステップ112で、光学部品を水溶液に曝露すると、可溶性不純物、例えば金属元素又は金属酸化物が光学部品の表面領域から除去される。しかし、光学部品そのものは、水溶液に無視できる程度の溶解度しか示さない。したがって、光学部品そのものが分解する危険性は非常に低い。
【0021】
[0023]一実施形態において、過酸化水素(H)を該水溶液に添加して、不純物を除去させる速度を上昇させる。例えば、硝酸約25〜50重量%及び過酸化水素約2〜10重量%を含有する溶液が、可溶性不純物を除去するのに有効であることが示された。可溶性不純物の全てを表面から効果的に除去するのに必要となる時間の長さは、用いられる水溶液のタイプ、溶液の温度、及び処理されている光学部品のタイプに依存する。しかし、一実施態様において、プロセス100を用いて光学部品を約2時間〜約50時間処理する。幾つかの実施形態において、水溶液を浸出プロセスの間に50℃〜120℃の範囲内の温度まで加熱してもよい。浸出プロセスが完了した後、ステップ113で、該部品を好ましくは高純度水ですすぐ。すすぎは、浸出プロセスにより残された光学部品の表面から任意の残留材料を除去するのに役立つ。
【0022】
[0024]従来のプロセスは、赤外(IR)で操作する二酸化炭素(CO)レーザを使用して、シリカ表面の損傷前駆体を局所的に加熱及び除去する光学的軽減技術(optical mitigation techniques)を提供する。このプロセスの1つの欠点は、各部位を位置確認して個別に処理することが必要になることである。本発明は、レンズ全体の熱的軽減が可能であり、個々の損傷部位又は光損傷前駆体の位置を明らかにする必要はない。
【0023】
[0025]図2は、本発明の一実施形態による光学部品の光損傷を軽減する他のプロセス200の流れ図である。ステップ210で、損傷領域を有する光学部品を用意する。ステップ211で、光学部品を加熱装置、例えば加熱炉に入れる。ステップ212で、光学部品全体を、光学部品材料の軟化点未満の温度で所定の時間、等温加熱する。一実施形態において、温度は、700℃〜1050℃の範囲内である。ステップ213で、光学部品を制御された方法、例えば、温度を緩やかに低下させることによって冷却する。従来の冷却法のいずれかを用いてもよい。該プロセスを実施する時間は、損傷の程度及び性質、並びに光学部品の材料に依存する。熱的軽減に必要な時間は24時間〜48時間の範囲内であり得る。一実施形態において、該時間は少なくとも24時間である。一般にアニーリング時間が長い程、より良好な結果が得られる。同様に、アニーリング温度が高い程、より良好な結果が得られる。一実施形態において、光学部品を850℃の温度で24時間加熱すると、許容可能な結果をもたらすことが示された。より大きな表面の傷から損傷前駆体を除去するにはより高温が有利である。等温アニーリング、例えばプロセス200は、光学部品の表面分解又は失透を起こさない最高温度で実施することができる。
【0024】
[0026]プロセス200で処理された光学部品が、光損傷に耐える能力の有意な改善を示すことが観察された。光学部品全体を制御された環境で加熱及び冷却するため、大幅な温度勾配はなく、その結果、光学部品は最小限の応力を受ける。用いられた温度が、光学部品のリフロー(軟化)温度未満であるため、材料の流動がほとんど又は全くなく、光学部品の失透又は変形のリスクがほとんど又は全くない。損傷前駆体の低減を担うメカニズムは、表面を原子規模で効果的に再構成する表面拡散の結果であると考えられ、それにより表面前駆体層を排除する。そのような表面拡散を介したプロセスは、光学部品のバルクリフロー温度よりも有意に低い温度で起こる。光学部品の軟化点温度未満の高温での等温アニーリングは、光学部品の製造時に導入されうる既存の表面傷の損傷耐性を改善するのに有効である。
【0025】
[0027]本発明の他の実施形態は、エッチング技術を用いることにより損傷前駆体を除去する方法を提供する。この実施形態におけるエッチングは、適切な酸性溶液の適用により光学部品の表面付近の領域を化学的に除去することを指す。一実施形態において、該酸性溶液は、フッ化物イオン(F)又は二フッ化水素イオン(HF)を含んでいてもよい。図3は、光学部品を処理して、光損傷に対する光学部品の耐性を改善するか、又は既存の光損傷を軽減するプロセス300の流れ図である。ステップ310で、処理される光学部品を用意する。ステップ311で、フッ化物イオン及び二フッ化水素イオンを含む溶液に光学部品を曝露する。酸性溶液への光学部品の曝露により表面領域の一部が除去される。除去される量は、好ましくは約100ナノメータ〜約100ミクロンの範囲内である。除去される量は、使用される試薬の濃度、温度、及びエッチングに使用される時間を調整することにより制御することができる。必要な材料除去の量は、損傷されたエリアの程度及び性質、並びに光学部品のタイプに依存する。表面のスクラッチ又は破壊が小さい光学部品では、レーザ損傷閾値を改善するのに、短いエッチング時間で十分である。より大きな亀裂及び破壊では、長いエッチング時間が必要となる場合がある。
【0026】
[0028]しかし、幾つかの例において、長いエッチング時間により損傷閾値が低下する可能性がある。性能のこの低下の理由の1つは、エッチング反応の反応生成物が形成され、この反応生成物が表面に体積して損傷前駆体として作用する可能性があり、それが光損傷部位を生じさせ、又は以前に生じた損傷部位が拡大するのに必要なフルエンスを低下させることが原因の可能性がある。これらの再堆積した前駆体は、エッチング表面/溶液境界層から濃縮した欠陥層の堆積の結果、又は高吸収性の塩、例えば、ケイ酸塩エッチング反応の生成物であるヘキサフルオロケイ酸(SF2−)アニオンを含有するものが沈殿した結果である可能性がある。
【0027】
[0029]そのような前駆体の沈殿を防止、低減又は除去するために、エッチングプロセスの間に、ステップ312で、酸性溶液を、例えばキロヘルツの攪拌を使用して超音波により攪拌するか、又は例えばメガヘルツの攪拌を使用してメガソニックにより攪拌する。そのような攪拌は、プロセス300の全て又は一部の間に実施してもよい。例えば、超音波攪拌をプロセス300の少なくとも最後の30分間に施す。攪拌に用いられる超音波振動子は、物理的な表面損傷を誘起しない周波数及び出力範囲で操作することができる。この表面損傷は、典型的には、表面ピッチング及び/又は破壊として表示される。これは、周波数を100キロヘルツ(kHz)〜約3メガヘルツ(MHz)の範囲内に保持することにより回避される。幾つかの実施形態において、メガソニック周波数を、攪拌プロセスに用いることができる。超音波/メガソニック攪拌は、エッチング副生成物の沈殿が光学部品の表面の流れのない境界層内に蓄積するのを防止し、破壊表面に形成されうる任意の沈殿物を取り除くことができる。超音波/メガソニック攪拌は、吸収性不純物、例えば、研磨プロセスの間、光学部品の表面に残されたセリアを除去することもできる。表面をエッチングするため、不純物がエッチング境界層に侵入し、乾燥の際に封入される。
【0028】
[0030]ステップ313で、光学部品を、高純度水、例えば脱イオン水又は蒸留水を含有するすすぎ浴に入れる。超音波/メガソニック攪拌をすすぎサイクルの間に施して、任意の沈殿物を取り除いてもよく、それを光学部品の表面に集めてもよい。ステップ314で、光学部品に高純度水で、残留するエッチング関連の反応生成物及び不純物カチオンの全てを確実に除去するのに十分な時間、スプレーリンスを行う。好ましくは、少なくとも15分間のすすぎ時間に、18メガオーム/cmを超える導電率を有する高純度水でのスプレーリンスを利用して、光学部品を約30分間すすぐ。超音波又はメガソニック攪拌は、エッチングプロセスの間に形成されうる副生成物を低減又は除去する方法の1つであるが、他の技術を先に記載された攪拌技術と共に又はその代わりに用いることができる。
【0029】
[0031]典型的には溶液のエッチング速度を制御して、エッチング境界層内の材料の濃度を低下させる。光学部品の材料をエッチングする速度は、反応副生成物を界面領域から除去する速度未満に低下させる。1つのアプローチにおいて、エッチング速度の低下は、エッチング溶液を水で希釈することにより実現される。
【0030】
[0032]他の実施形態において、エッチング副生成物が沈殿するリスクは、ヘキサフルオロケイ酸アニオン又は二フッ化水素アニオンの存在下で、不溶性の塩を形成するカチオンをエッチング溶液から除外することにより低減される。そのようなカチオンとしては、Na、K、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Zn2+、Pb2+、Fe2+、Fe3+又はAl3+カチオンが挙げられる。エッチング溶液中のフッ化物は、フッ化水素酸(HF)を用いて付与してもよい。幾つかの実施形態において、フッ化物塩(例えば、エチレンジアミン二フッ化水素(NHNH)又は第一級、第二級若しくは第三級アンモニウムカチオンの塩)を添加することにより、追加のフッ化物イオンをエッチング溶液に導入してもよい。
【0031】
[0033]さらに他の実施形態において、フッ化アンモニウム(NHF)の形態でフッ化物イオンを添加することにより、該酸性溶液のpHを制御してもよい。フッ化物塩は、光学部品の酸化ケイ素(SiO)と反応するフッ化物イオンの総数を増加させて、ヘキサフルオロケイ酸アニオンをもたらす。また、フッ化物イオンは、HFの共役塩基であるため、フッ化物塩の追加により緩衝された溶液が生成され、エッチング溶液のpHが安定化する。pHの安定性は、エッチング溶液中のフッ化物化学種の部分分布をほぼ一定レベルに保持することにより、一定のエッチング速度を実現する。フッ化アンモニウム(NHF)をエッチング液の成分として使用する例では、溶液のpHの安定化に用いられるフッ化アンモニウム濃度を思慮深く選択することにより、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウムの沈殿を最小限に抑えることができる。ヘキサフルオロケイ酸アンモニウムの水相と固相との相平衡は次のように表すことができる。
【化1】


(式中、下付き文字s及びaqは、それぞれ固相及び水相を表す。)
【0032】
[0034]熱力学的平衡定数である溶解度積(Ksp)は、溶液中のアンモニウムイオン及びヘキサフルオロケイ酸アニオンの局所モル濃度に関連させて表すことができる。
【数1】

【0033】
[0035]先に示された通り、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム塩の溶解度は、溶液中のアンモニウムイオン濃度の逆二乗に比例して変動する。言い換えると、エッチングプロセスの間に用いられるHFとNHFとの比を制御することにより、沈殿形成の可能性を最小限に抑えることができる。一実施形態において、溶融シリカを、最初はHF1.2モル/L及びNHF3.0モル/Lである水溶液中で30分間エッチングして、レーザ損傷の性能を改善する。しかし、軽減される損傷の性質及び量に応じて、HFとNHFとの様々な他の組合せを水性エッチング溶液中で使用し得ることは理解されたい。
【0034】
[0036]本明細書に記載されたプロセス100、200、300が例示であること、並びにその変更及び改良が可能であることは認識されよう。連続で記載されたステップは並行して遂行することができ、ステップの順序は変更することができ、ステップは改良又は組み合わせることができる。また、プロセス100、200、300を互いに組み合わせて、光学部品を処理してもよい。例えば、光学部品を、最初はプロセス100を用い、続いてプロセス300を用い、最後にプロセス200を用いて処理してもよい。プロセス100、200、300の他の組合せが可能であることは当業者に理解されよう。
【0035】
[0037]さらに、処理される光学部品のタイプ、並びに光損傷の性質及び程度に応じて、光学部品を処理する様々なプロセスに関して記載されたステップ及びサブステップの幾つかを組み合わせて、カスタムプロセスを創り出すことができる。例えば、プロセス100をプロセス200及び300の幾つかの要素と組み合わせて使用して光学部品を処理してもよい。他の組合せも可能であることは当業者に理解されよう。
【0036】
[0038]したがって、本発明を特定の実施形態に関して記載したが、本発明が特許請求の範囲内の全ての改良及び均等物を包含するよう意図されていることは認識されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品の光損傷を低減する方法であって、
前記光学部品を、硝酸(HNO)、塩酸(HCl)、過塩素酸(HClO)、硫酸(HSO)又はリン酸(HPO)のうちの少なくとも1種を含む、鉱酸の水溶液に曝露するステップと、
前記光学部品を含む前記水溶液を約50℃〜120℃の範囲内の温度まで加熱するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
過酸化水素を前記鉱酸水溶液に添加するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液は硝酸約25〜50重量%及び過酸化水素約2〜10重量%を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記光学部品を高純度水で約15分間を超える時間、すすぐステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶融シリカ系光学部品への光損傷を防止する方法であって、
前記溶融シリカ系光学部品を加熱炉に入れるステップと、
前記溶融シリカ系光学部品を、24時間〜48時間、700℃〜1050℃の範囲内の温度まで加熱するステップと、
を含む方法。
【請求項6】
光学部品の光損傷を軽減する方法であって、
レーザ損傷部位、スクラッチ及び化学的不純物を含む光損傷前駆体を含む領域を有する光学部品を用意するステップと、
前記光学部品を、フッ化水素酸、フッ化物イオン又は二フッ化水素イオンのうちの1種の化学種を含み、エッチング速度を有する水溶液に入れるステップと、
前記領域から表面層を除去してエッチング関連の光損傷前駆体副生成物を最小限に抑えるステップと、
超音波又はメガソニック法で前記水溶液を攪拌するステップと、
を含む方法。
【請求項7】
表面層除去ステップは、前記領域から約100ナノメータ〜約100ミクロンの材料を除去するサブステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
攪拌ステップは、100キロヘルツ〜3メガヘルツの範囲内の周波数で実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記光学部品をすすぎ浴に入れるステップと、超音波又はメガソニックにより前記すすぎ浴を攪拌するステップと、をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記すすぎ浴が高純度水を含み、前記高純度水が脱イオン水又は蒸留水のうちの一方である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記光学部品に少なくとも15分間スプレーリンスを行う、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶液はフッ化水素酸及び高純度水を含有する、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記水溶液のエッチング速度を、反応副生成物の除去速度よりも低くなるように操作するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記水溶液は、該水溶液への溶解度が低いヘキサフルオロケイ酸塩を形成することが可能なカチオンを実質的に含まない、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記カチオンは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)、バリウム(Ba2+)、亜鉛(Zn2+)、鉛(Pb2+)、鉄(Fe2+、Fe3+)又はアルミニウム(Al3+)のうちの少なくとも1種を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
エチレンジアミン二フッ化水素塩又は第一級、第二級若しくは第三級アンモニウムカチオンのフッ化物塩を前記水溶液に添加するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項17】
前記水溶液にフッ化アンモニウムを添加して該水溶液のpH濃度を安定化させるステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記水溶液はフッ化水素酸1.2モル/L及びフッ化アンモニウム3モル/Lを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
光学部品を処理する方法であって、
前記光学部品を、硝酸(HNO)、塩酸(HCl)、過塩素酸(HClO)、硫酸(HSO)又はリン酸(HPO)のうちの少なくとも1種を含む、鉱酸の第1の水溶液に曝露するステップと、
前記光学部品を含む前記第1の水溶液を約50℃〜120℃の範囲内の温度まで加熱するステップと、
前記光学部品を、フッ化水素酸、フッ化物イオン又は二フッ化水素イオンのうちの1種の化学種を含み、エッチング速度を有する第2の水溶液に入れるステップと、
前記第2の水溶液を用いて光損傷前駆体を含む領域から表面層を除去して、エッチング関連の光損傷前駆体副生成物を最小限に抑えるステップと、
超音波又はメガソニックで前記第2の水溶液を攪拌するステップと、
を含む方法。
【請求項20】
前記光学部品を加熱炉に入れるステップと、
前記光学部品を24時間〜48時間、700℃〜1050℃の範囲内の温度まで加熱するステップと、
をさらに含む、請求項19に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−506616(P2013−506616A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532194(P2012−532194)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/049856
【国際公開番号】WO2011/041188
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(510218043)ローレンス リバモア ナショナル セキュリティー, エルエルシー (7)
【Fターム(参考)】