説明

シリカ系汚れの付着防止剤、該付着防止剤用共重合体及び付着防止方法

【課題】冷却水系、ボイラ水系、膜処理装置などで発生するシリカ系汚れの付着を効果的に防止することができるシリカ系汚れの付着防止剤、該付着防止剤用共重合体及び付着防止方法を提供する。
【解決手段】カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体を含むシリカ系汚れの付着防止剤であって、該共重合体のスルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15〜2.0であり、該共重合体が、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸モノマー単位及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸モノマー単位を有することを特徴とするシリカ系汚れの付着防止剤、該付着防止剤用共重合体、及び、該共重合体を循環水に添加することを特徴とするシリカ系汚れの付着防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系汚れの付着防止剤、該付着防止剤用共重合体及び付着防止方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、冷却水系、ボイラ水系、膜処理装置などで発生するシリカ系汚れの付着を効果的に防止することができるシリカ系汚れの付着防止剤、該付着防止剤用共重合体及び付着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリカ系スケールの防止剤として、アクリル酸、マレイン酸などのカルボキシル基を有する低分子量ポリマー、低分子量のポリアクリルアミド、ホスホン酸、ポリリン酸塩などが知られている。例えば、高シリカ含有水用シリカ系スケール防止剤として、分子量200〜10,000のポリ(メタ)アクリルアミドを含むシリカ系スケール防止剤が提案されている(特許文献1)。また、シリカ系スケール及びカルシウム系スケールの付着防止に対して優れた効果を発揮するスケール防止剤として、N−ビニルホルムアミド単位又はN−ビニルアセトアミド単位を50モル%以上有する重合体及びリン化合物を含有するスケール防止剤が提案されている(特許文献2)。さらに、シリカ系スケールの防止効果に特に優れたスケール防止剤として、(ポリ)アルキレンポリアミン又はその誘導体とエチレン性不飽和化合物との反応物を含むスケール防止剤が提案されている(特許文献3)。
【0003】
これらの従来のスケール防止用のポリマーやホスホン酸などは、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛などの主として熱交換器の伝熱面などに付着する高温スケールを対象としていた。また、従来よりシリカ系スケールの防止剤として用いられるポリアクリルアミド、ポリビニルホルムアミドなども、高温部に付着するマグネシウム含有量の高いケイ酸マグネシウムを主成分とするシリカ系スケールを対象としていた。
【0004】
近年、アルミニウムが関与する低温のシリカ系汚れやシリカ系スケールが多く問題にされるようになってきた。水源の水質悪化のために、工業用水の除濁に用いる凝集剤に由来するアルミニウムの濃度が高くなる傾向がある。アルミニウムの濃度が高い水を用いると、シリカとアルミニウムを含有するシリカ系汚れが付着しやすい。また、用水向けの膜処理において、膜の目詰まりを防ぐために前処理として凝集剤による除濁を行うと、かえってシリカ系汚れが膜に付着しやすくなることが分かってきた。
【0005】
低温のシリカ系汚れは、熱交換器に付着して伝熱阻害を引き起こすのみならず、配管などの非伝熱面にも付着する。例えば、冷却水系の場合、冷却水流量の低下により所定の冷却能力がとれなくなる障害や、冷却塔に付着したシリカ系汚れにより冷却効率が低下する障害や、冷却塔に付着したシリカ系汚れが剥離して、熱交換器に詰まるなどの障害を引き起こす。これらの低温部にも付着するシリカ系汚れに対して、従来から使用されている水溶性ポリマーなどは、ある程度の付着防止効果を有するが、満足し得る水準ではなかった。
【特許文献1】特開昭61−107997号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平10−323696号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平11−290891号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、冷却水系、ボイラ水系、膜処理装置などで発生するシリカ系汚れの付着を効果的に防止することができるシリカ系汚れの付着防止剤、該付着防止剤用共重合体及び付着防止方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、スルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15〜2.0であるカルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体を循環水に添加することにより、シリカ系汚れの発生を効果的に防止することができ、スルホン酸基を有するモノマー単位として、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸単位又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸単位を有する共重合体が特に有効であることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体を含有するシリカ系汚れの付着防止剤であって、カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸及び/又はメタクリル酸であり、スルホン酸基を有するモノマーが、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸であることを特徴とするシリカ系汚れの付着防止剤、
(2)カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体において、スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10〜70モル%である(1)記載のシリカ系汚れの付着防止剤、
(3)カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体を含むシリカ系汚れの付着防止剤であって、該共重合体のスルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15〜2.0であり、該共重合体が、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸モノマー単位及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸モノマー単位を有することを特徴とするシリカ系汚れの付着防止剤、
(4)シリカ系汚れの付着防止剤用共重合体であって、アクリル酸及び/又はメタクリル酸に由来するカルボキシル基を有するモノマー単位と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸に由来するスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体であることを特徴とするシリカ系汚れの付着防止剤用共重合体、
(5)カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体であって、カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸及び/又はメタクリル酸であり、スルホン酸基を有するモノマーが、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸である共重合体を、循環水に添加することを特徴とするシリカ系汚れの付着防止方法、
(6)カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体において、スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10〜70モル%である(5)記載のシリカ系汚れの付着防止方法、及び、
(7)カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体であって、スルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15〜2.0であり、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸モノマー単位及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸モノマー単位を有する共重合体を、循環水に添加することを特徴とするシリカ系汚れの付着防止方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤及び付着防止方法によれば、シリカ系汚れの付着量
を大幅に低減し、冷却水系、ボイラ水系、膜処理装置などに障害を生ずることなく、安定して運転することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤の第一の態様は、カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体を含有するシリカ系汚れの付着防止剤であって、カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸及び/又はメタクリル酸であり、スルホン酸基を有するモノマーが、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸であるシリカ系汚れの付着防止剤である。
【0010】
本発明において、スルホン酸基を有するモノマーとして用いられる3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)は、式[1]で表される構造を有する化合物であり、2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸(SEMS)は、式[2]で表される構造を有する化合物である。3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸と2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸は、いずれもアクリル酸又はメタクリル酸と良好な共重合性を有し、ラジカル重合により高分子量の共重合体を得ることができる。
【化1】

【0011】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤の第一の態様においては、カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体において、スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10〜70モル%であることが好ましく、15〜50モル%であることがより好ましい。スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10モル%未満であっても、70モル%を超えても、シリカ系汚れの付着防止効果が十分に発現しないおそれがある。
【0012】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤の第二の態様は、カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体を含むシリカ系汚れの付着防止剤であって、該共重合体のスルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15〜2.0であり、該共重合体が、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸モノマー単位及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸モノマー単位を有するシリカ系汚れの付着防止剤である。本態様のシリカ系汚れの付着防止剤においては、該共重合体のスルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.18〜1.0であることがより好ましい。カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体のスルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15未満であっても、2.0を超えても、シリカ系汚れの付着防止効果が十分に発現しないおそれがある。
【0013】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤の第二の態様において、共重合体にカルボキシル基を付与するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、p−ビニル安息香酸、アトロパ酸、桂皮酸などや、それらの塩、それらの無水物などを挙げることができる。
【0014】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤の第二の態様において、共重合体にスルホン酸基を付与するモノマーとしては、必須成分である3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸のほかに、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸4−スルホブチル、アリルオキシベンゼンスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸などや、それらの塩などを挙げることができる。
【0015】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤用共重合体は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸に由来するカルボキシル基を有するモノマー単位と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸に由来するスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体である。本発明のシリカ系汚れの付着防止剤用共重合体は、スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10〜70モル%であることが好ましい。
【0016】
本発明において、共重合体のカルボキシル基又はスルホン酸基は、遊離のカルボキシル基又はスルホン酸基とすることができ、あるいは、カルボン酸塩基又はスルホン酸塩基とすることもできる。カルボン酸塩又はスルホン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩や、アンモニウム塩などを挙げることができる。遊離のカルボキシル基を有するモノマーと遊離のスルホン酸基を有するモノマーとを共重合して、遊離のカルボキシル基と遊離のスルホン酸基とを有する共重合体を得ることができ、さらに、この共重合体を中和することにより、カルボン酸塩基とスルホン酸塩基とを有する共重合体とすることができる。
【0017】
また、カルボン酸塩基を有するモノマーとスルホン酸塩基を有するモノマーとを共重合して、カルボン酸塩基とスルホン酸塩基とを有する共重合体を得ることができ、この共重合体を酸と反応することにより、遊離のカルボキシル基と遊離のスルホン酸基とを有する共重合体とすることができる。さらに、遊離のカルボキシル基を有するモノマーとスルホン酸塩基を有するモノマーとの共重合、カルボン酸塩基を有するモノマーと遊離のスルホン酸基を有するモノマーとの共重合を行うこともできる。本発明において、カルボキシル基を有するモノマー及びスルホン酸基を有するモノマーは、それぞれ1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
本発明において、カルボキシル基を有するモノマーとスルホン酸基を有するモノマーとの共重合体の分子量に特に制限はないが、重量平均分子量として1,000〜100,000であることが好ましく、2,000〜70,000であることがより好ましい。該共重合体の重量平均分子量が1,000未満であると、シリカ汚れの付着防止効果が十分に発現しないおそれがある。該共重合体の重量平均分子量が100,000を超えると、共重合体の水溶液の粘度が高くなりすぎて、作業性が低下するおそれがある。共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリエチレンオキシドを標準物質として求めることができる。
【0019】
本発明において、カルボキシル基を有するモノマーとスルホン酸基を有するモノマーとの共重合体を製造する方法に特に制限はなく、例えば、塊状重合、溶液重合などを挙げることができる。カルボキシル基を有するモノマー、スルホン酸基を有するモノマー及びそれらの共重合体は、いずれも水溶性である場合が多いので、水を溶媒とする水溶液重合を好適に用いることができる。カルボキシル基を有するモノマーとスルホン酸基を有するモノマーとを水に溶解し、雰囲気を不活性ガスで置換し、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩などの水溶性ラジカル重合開始剤を添加して加熱することにより、共重合体の水溶液を得ることができる。水溶液重合によれば、重合条件の選定により共重合体の分子量と分子量分布を容易に制御することができ、得られた共重合体の水溶液は、そのままシリカ系汚れの付着防止剤として使用することができる。
【0020】
本発明においては、カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位を有する共重合体として、さらに他のモノマー単位を有する三元以上の共重合体を用いることができる。水溶液重合により共重合体を製造するとき、共重合させる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドンなどを挙げることができる。
【0021】
本発明のシリカ系汚れの付着防止方法の第一の態様においては、カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体であって、カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸及び/又はメタクリル酸であり、スルホン酸基を有するモノマーが、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸である共重合体を、循環水に添加する。本発明方法の第一の態様においては、カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体において、スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10〜70モル%であることが好ましく、15〜50モル%であることがより好ましい。スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10モル%未満であっても、70モル%を超えても、シリカ系汚れの付着防止効果が十分に発現しないおそれがある。
【0022】
本発明のシリカ系汚れの付着防止方法の第二の態様においては、カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体であって、スルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15〜2.0、より好ましくは0.18〜1.0であり、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸モノマー単位及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸モノマー単位を有する共重合体を、循環水に添加する。カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体のスルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15未満であっても、2.0を超えても、シリカ系汚れの付着防止効果が十分に発現しないおそれがある。
【0023】
本発明方法において、カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体を循環水に添加する場所に特に制限はなく、シリカ汚れが付着する箇所に直接添加することができ、あるいは、その箇所よりも前段の任意の箇所に添加することができる。例えば、冷却水系においては、熱交換器本体、循環水ピット、冷却塔の配管ラインなどの任意の箇所に添加することができ、あるいは、循環水系に補給する補給水にあらかじめ添加しておくこともできる。本発明方法を適用するとき、水質条件や、ボイラ、熱交換器運転条件などに特に制限はなく、通常の水質、ボイラ、熱交換器運転条件などで運転することができる。
【0024】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤及び付着防止方法により効果的にシリカ系汚れの付着を防止し得る詳細な作用機構は不明であるが、カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体が、アルミニウムを核とするシリカの析出物に吸着し、析出物を水中に分散することによりシリカ系汚れの付着を防止すると推測される。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例においては、川崎市工業用水を採取し、これを500Lの補給水タンクに分取し、ポリマーを固形分濃度として4mg/L添加し、図1に示す小型の模擬冷却水系に供給して、濃縮倍数5倍で運転した。採取した川崎市工業用水のイオン状シリカの濃度は、27mgSiO2/Lであった。スライムコントロール処理として、次亜塩素酸ナトリウムをCl2として2mg/Lとなるように1日1回バッチで添加した。補給水タンク1から、給水ポンプ2により保有水量10Lの循環水ピット3に補給水を送り、循環水ピットに備えられた水位センサーと電気伝導率センサーにより、濃縮倍数5倍に管理した。循環水ピットから循環ポンプ4により循環水を5L/minで送り出し、恒温水槽5内の銅管を通して加熱し、冷却塔6に導いた。冷却塔における蒸発水量は約25L/日であり、冷却塔における冷却温度は約2℃であった。恒温水槽から冷却塔への配管の途中に、内径14mm、長さ14mmのSUS304TP−SC製の評価チューブ7を取り付け、試験開始前の評価チューブの重量と14日間運転後の評価チューブの重量の差から、汚れの付着量を求めた。
【0026】
実施例1
アクリル酸と2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸とのモル比60:40の共重合体(重量平均分子量60,000)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、3.8mgであった。
実施例2
アクリル酸と3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸とのモル比60:40の共重合体(重量平均分子量16,000)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、4.3mgであった。
実施例3
アクリル酸と3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸とのモル比69:31の共重合体(重量平均分子量12,000)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、5.6mgであった。
実施例4
アクリル酸と3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸とのモル比80:20の共重合体(重量平均分子量9,300)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、7.9mgであった。
実施例5
アクリル酸と3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸とのモル比85:15の共重合体(重量平均分子量10,700)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、8.4mgであった。
実施例6
アクリル酸ナトリウムと3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸とのモル比91:9の共重合体(重量平均分子量3,000)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、18.4mgであった。
【0027】
比較例1
アクリル酸ナトリウムの単独重合体(重量平均分子量3,500)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、27.4mgであった。
この汚れについて、組成分析を行った。酸不溶解分53.5重量%(うちSiO245.5重量%)、Al2312.4重量%、強熱減量23.0重量%であった。
比較例2
マレイン酸の単独重合体(重量平均分子量550)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、31.6mgであった。
比較例3
マレイン酸とイソブチレンとのモル比50:50の共重合体(重量平均分子量14,500)を用いて試験を行った。汚れ付着量は、23.5mgであった。
実施例1〜6及び比較例1〜3の結果を、第1表に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
第1表に見られるように、アクリル酸と3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸の共重合体を循環水に添加した実施例1〜6では、シリカ系汚れの付着量が少なく、特にスルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.18〜0.67である実施例1〜5では、シリカ系汚れの付着量が非常に少ない。また、実施例1〜6において、スルホン酸基/カルボキシル基のモル比が大きいほど、シリカ系汚れの付着量が少なくなる傾向が認められる。これに対して、カルボキシル基のみを有する単独重合体又は共重合体を添加した比較例1〜3では、シリカ汚れの付着量が多い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のシリカ系汚れの付着防止剤、該付着防止剤用共重合体及び付着防止方法によれば、(メタ)アクリル酸と3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸との共重合体を循環水に添加することにより、シリカ系汚れの付着を効果的に防止して、冷却水系、ボイラ水系、膜処理装置などに障害を生ずることなく、安定して運転することができる。本発明のシリカ系汚れの付着防止剤及び付着防止方法は、地熱発電所の還元井などで発生するシリカ系汚れの付着防止に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例及び比較例で使用した模擬冷却水系装置の工程系統図である。
【符号の説明】
【0032】
1 補給水タンク
2 給水ポンプ
3 循環水ピット
4 循環ポンプ
5 恒温水槽
6 冷却塔
7 評価チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体を含有するシリカ系汚れの付着防止剤であって、カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸及び/又はメタクリル酸であり、スルホン酸基を有するモノマーが、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸であることを特徴とするシリカ系汚れの付着防止剤。
【請求項2】
カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体において、スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10〜70モル%である請求項1記載のシリカ系汚れの付着防止剤。
【請求項3】
カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体を含むシリカ系汚れの付着防止剤であって、該共重合体のスルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15〜2.0であり、該共重合体が、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸モノマー単位及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸モノマー単位を有することを特徴とするシリカ系汚れの付着防止剤。
【請求項4】
シリカ系汚れの付着防止剤用共重合体であって、アクリル酸及び/又はメタクリル酸に由来するカルボキシル基を有するモノマー単位と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸に由来するスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体であることを特徴とするシリカ系汚れの付着防止剤用共重合体。
【請求項5】
カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体であって、カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸及び/又はメタクリル酸であり、スルホン酸基を有するモノマーが、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸である共重合体を、循環水に添加することを特徴とするシリカ系汚れの付着防止方法。
【請求項6】
カルボキシル基を有するモノマー単位とスルホン酸基を有するモノマー単位とを有する共重合体において、スルホン酸基を有するモノマー単位の組成比が10〜70モル%である請求項5記載のシリカ系汚れの付着防止方法。
【請求項7】
カルボキシル基とスルホン酸基とを有する共重合体であって、スルホン酸基/カルボキシル基のモル比が0.15〜2.0であり、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸モノマー単位及び/又は2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸モノマー単位を有する共重合体を、循環水に添加することを特徴とするシリカ系汚れの付着防止方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−334495(P2006−334495A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161494(P2005−161494)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】