説明

シリカ膜、該シリカ膜を有する生体活性材料及びその形成方法

【課題】 水酸化ケイ素を含むシリカ膜、該シリカ膜を有する生体活性材料及びその形成方法を提供する。
【解決手段】 この発明は、水酸化ケイ素(SiOH)を含むポリシラザン由来のシリカ膜にあり、さらに、基材と、水酸化ケイ素を含むポリシラザン由来のシリカ膜とからなる生体活性材料にある。さらに、この発明は、ポリシラザンを含むコーティング液を基材に塗布する塗布工程と、前記コーティング液が塗布された基材を焼成処理する焼成工程と、前記焼成工程の際又は焼成工程後に実行される水酸基付与工程とによって少なくとも構成されるシリカ膜形成方法にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリシラザン由来のシリカ膜、該シリカ膜を有する生体活性材料及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ハイドロキシアパタイトを直接基材にプラズマ溶射して基材上にコーティングする方法を開示する。
【0003】
特許文献2は、生体用端子の製造において焼結法を用いることが開示されている。
【0004】
特許文献3は、第3の方法としてチタンからなる基材表面へカルシウムイオンを注入した後、擬似体液に浸漬させる方法を開示する。
【0005】
特許文献4は、第4の方法としてチタンからなる基材を高濃度のアルカリ水溶液で処理した後、さらに600℃で加熱処理した後、擬似体液に浸漬させる方法を開示する。
【0006】
特許文献5には、本出願人によってなされたもので、上記方法の改善策が開示される。この特許文献5に開示される発明は、ポリシラザンとカルシウム化合物を混合させたコーティング液を、基材表面にコーティングし、その表面からハイドロキシアパタイト等のアパタイトを良好に形成し、優れた生体親和性を発揮する生体活性材料及びこの生体活性材料を構成するアパタイト形成能を有する膜並びにこのアパタイト形成能を有する膜を得るためのコーティング液を得ることにあり、このアパタイト形成能を有する膜を簡便な操作で、且つ高価な設備を用いることなく形成できるようにしたものである。
【特許文献1】特開昭62−34559号公報
【特許文献2】特公平2−13580号公報
【特許文献3】特開平10−179717号公報
【特許文献4】特開平10−179718号公報
【特許文献5】特開2004−141630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、高温で熱処理する際に、原料のハイドロシキアパタイトが一旦溶融することになるため、異なる種類のハイドロキシアパタイトができてしまい、生体との親和性に問題が生じる点で好ましくないと言える。さらに、ハイドロキシアパタイト自体の緻密な膜形成が困難なこと、基材とハイドロキシアパタイトとの密着性が悪く歩留まりが著しく低いこと、さらに高価な装置を必要とする点で不都合である。
【0008】
また、特許文献2に開示される方法では、上述した特許文献1に開示される方法と同様に、高温で熱処理する際に原料のハイドロキシアパタイトが一旦溶融することにあるため、異なる種類のハイドロキシアパタイトができてしまい、生体との親和性に問題が生じる。
【0009】
さらに、特許文献3に開示される方法では、カルシウムイオンをイオン注入するための高価な装置が必要であり、またコーティングされた基材の表面に歪みが生じるという問題点がある。
【0010】
さらにまた、特許文献4に開示される方法では、高濃度のアルカリ水溶液処理と高温処理が必要であるため、手間がかかり、コスト高になるという問題点があった。
【0011】
さらに、特許文献5に開示される方法においては、ポリシラザンとカルシウム化合物を複合化させるには手間がかかり、また、この膜からカルシウムが溶出した際には膜欠陥を生じさせてしまうという可能性があった。
【0012】
さらに、本発明者らは、ポリシラザンから作製した二酸化ケイ素(SiO)膜に対して生体活性能をさらに付与するために、膜中の水酸化ケイ素(SiOH)の量を増加させることが重要であることを見出した。
【0013】
このため、この発明は、水酸化ケイ素を含むシリカ膜、該シリカ膜を有する生体活性材料及びその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、この発明は、水酸化ケイ素(SiOH)を含むポリシラザン由来のシリカ膜にあり、さらに、基材と、水酸化ケイ素を含むポリシラザン由来のシリカ膜とからなる生体活性材料にある。
【0015】
さらに、この発明は、ポリシラザンを含むコーティング液を基材に塗布する塗布工程と、前記コーティング液が塗布された基材を焼成処理する焼成工程と、前記焼成工程の際又は焼成工程後に実行される水酸基付与工程とによって少なくとも構成されるシリカ膜形成方法にある。
【0016】
前記水酸基付与工程は、高湿度環境下での曝露処理であり、親水性剤への浸漬処理であり、高湿度環境下での曝露処理と、親水性剤への浸漬処理であることが望ましい。さらに、前記親水性剤は、界面活性剤を含有するpH4.5〜7.0の水溶液であることが望ましい。
【0017】
前記焼成工程における焼成温度は120〜160℃が好ましく、焼成時間は0.5〜1.5時間が好ましい。
【0018】
さらに、前記暴露処理温度は10〜40℃が好ましく、湿度は60〜100%、処理時間は0.5時間〜1週間がそれぞれ好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリシラザンから二酸化ケイ素膜を作製する際に、二酸化ケイ素膜内の水酸化ケイ素(SiOH)の量が増加することから、ハイドロキシアパタイトの形成過程において、カルシウムイオン(Ca2+)がアパタイト誘起官能基である水酸化ケイ素に引き寄せられ、そこからハイドロキシアパタイトの結晶が析出・成長するという効果が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施例について図面により説明する。
【実施例1】
【0021】
図1に示されるように、本発明の第1の実施例に係る生体活性材料のシリカ膜の形成方法100は、先ずステップ110において、ポリシラザンを含むコーティング液を基材に塗布する。尚、本発明のコーティング液は、これを塗布して得られる膜がアパタイト形成能を有するものであり、その主成分はポリシラザンである。このポリシラザンとしては、鎖状ポリシラザン、環状ポリシラザン等があり、特に鎖状ポリシラザンとしては、ペルヒドロポリシラザン、ポリメチルヒドロシラザン、ポリN−メチルシラザン、ポリN−(トリエチルシリル)アリルシラザン、ポリN−(ジメチルアミノ)シクロヘキシルシラザン、フェニルポリシラザン等が挙げられる。また、使用するポリシラザンはこれらの内の1種又は2種以上の混合物であっても良い。また、ポリシラザンを含むコーティング液には、アミン系などの触媒を添加してもよい。
【0022】
前記ポリシラザンを溶解する溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル類等が挙げられる。
【0023】
前記基材としては、チタン、ステンレス鋼、チタン合金、コバルト−クロム−モリブデン合金などの金属、ジルコニア、アルミナなどのセラミック、超高分子量ポリエチレンなどのプラスチック類が挙げられる。また、この基材には、生体親和性が要求される分野に使用されるものが好適に選択され、特に、人工骨、人工歯根、骨欠損充填材、人工関節、血液濾過材及びカテーテル等に使用される金属、セラミック、プラスチックが好適に選択される。
【0024】
前記基材の形状としては、板状、球状、円柱状、円筒状、繊維状、多孔質状等が挙げられる。特に、血液濾過材には繊維状、多孔質状等の形状が、カテーテルには円筒状が挙げられる。また、人工骨、人工歯根、骨欠損、人工関節等にはそれぞれに適した形状をとることが望ましい。
【0025】
前述したアミン系触媒含有ポリシラザンは通常、コーティングを施しただけでは二酸化ケイ素(SiO)に転化するのに2週間程度要するため、ステップ120の焼成処理工程において、焼成処理を行う。この焼成処理における焼成条件は、150℃、60分である。焼成温度は120~160℃が好ましく、焼成時間は0.5~1.5時間が好ましい。焼成処理によって、ポリシラザンの二酸化ケイ素への転化を促進する。この結果、前記基材の表面にシリカ膜が形成される。
【0026】
そして、本願発明の第1の実施例では、ステップ120の焼成処理工程の後、ステップ130において、高湿度雰囲気における曝露工程を実行する。この曝露処理は、前記シリカ膜が形成された基材を、温度23℃、湿度98%の条件下に24時間滞在させることで行われる。暴露処理温度は、10〜40℃が好ましく、湿度は60〜100%、処理時間は0.5時間〜1週間がそれぞれ好ましい。この曝露処理工程において、前記シリカ膜の表面に、水酸化ケイ素(SiOH)が付与されるものである。これによって、製品Aを得ることができる。
【実施例2】
【0027】
本願発明の第2の実施例に係る生体活性材料のシリカ膜の形成方法100は、前述した第1の実施例のステップ120の焼成処理工程の後に、ステップ130の曝露工程の代わりに、ステップ140において親水性溶液への浸漬処理工程を行うことにある。この浸漬処理工程において、親水性溶液への浸漬時間は、24時間である。また、前記親水性溶液の親水促進剤としては、クエン酸によりpH6.0に調整した水溶液とアルキルスルホン酸ナトリウムの混合液を使用した。これによって、製品Bを得ることができる。
【実施例3】
【0028】
本願発明の第3の実施例に係る生体活性材料のシリカ膜の形成方法100は、前述した第1の実施例のステップ120の焼成処理工程の後に、第1の実施例に係るステップ130の曝露工程を行い、さらに第2の実施例に係るステップ140の親水性溶液への浸漬処理工程を行うことにある。これによって、製品Cを得ることができる。
【0029】
上述した方法によって製造されたいずれの製品A,B,Cも、その表面に水酸化ケイ素が付与されていることが確認された。また、それぞれの製品A,B,Cについては、付与された水酸化ケイ素の量が異なるものである。製品A,B、Cを擬似体液に浸漬した結果、アパタイトの析出は、
A;○ B;◎ C;◎
であり、それぞれアパタイトの析出が観察された。さらに、それぞれの製品A,B,Cにおいて、焼成温度及び焼成時間の調整、曝露条件及び曝露時間の調整、親水性溶液の調製及び浸漬時間の調整を行うことによって、水酸化ケイ素の量を調整することができるものである。
【0030】
このように、水酸化ケイ素の量を調整することによって、ハイドロキシアパタイトの結晶の析出・成長を調整することも可能となり、また高い生体活性能を付与することができるようになるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本願発明のシリカ膜の製造工程を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0032】
100 形成方法
110 コーティング液の塗布
120 焼成処理
130 曝露処理
140 浸漬処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ケイ素を含むポリシラザン由来のシリカ膜。
【請求項2】
基材と、水酸化ケイ素を含むポリシラザン由来のシリカ膜とからなる生体活性材料。
【請求項3】
ポリシラザンを含むコーティング液を基材に塗布する塗布工程と、
前記コーティング液が塗布された基材を焼成処理する焼成工程と、
前記焼成工程の際又は焼成工程後に実行される水酸基付与工程とによって少なくとも構成される請求項1又は2記載のシリカ膜形成方法。
【請求項4】
前記水酸基付与工程は、高湿度環境下での曝露処理であることを特徴とする請求項3記載のシリカ膜形成方法。
【請求項5】
前記水酸基付与工程は、親水性剤への浸漬処理であることを特徴とする請求項3記載のシリカ膜形成方法。
【請求項6】
前記水酸基付与工程は、高湿度環境下での曝露処理と、親水性剤への浸漬処理であることを特徴とする請求項3記載のシリカ膜形成方法。
【請求項7】
前記親水性剤は、界面活性剤を含有するpH4.5〜7.0の水溶液であることを特徴とする請求項5又は6記載のシリカ膜形成方法。
【請求項8】
前記焼成工程における焼成温度は120~160℃であることを特徴とする請求項3〜7のいずれか一つに記載のシリカ膜形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−312833(P2007−312833A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142756(P2006−142756)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(501138046)有限会社コンタミネーション・コントロール・サービス (12)
【Fターム(参考)】