説明

シリカ骨格を有する導電性接着剤及びその作製方法

【課題】高温下でも導電性及び接着力が良好なシリカ骨格を有する導電性接着剤を提供する。
【解決手段】シリコン原子を有する疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、添加金属とを含む多孔質シリカ材料前駆体溶液からなる熱硬化性の導電性接着剤であって、この導電性接着剤中のミセルに凝集した金属元素に基づいて熱硬化後に導電性の経路を形成して導電性接着可能にするものであり、例えば300℃の高温でも接着力が落ちない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性のシリコーン系接着剤であってシリカ骨格を有する導電性接着剤及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂系の接着剤としてシリコーン系接着剤が知られている。エレクトロニクス実装の分野では、環境保全と鉛に対する規制から鉛フリーはんだ及び導電性接着剤が使用されるようになってきている。
【0003】
この種の導電性接着剤として以下の提案がある。
特開2004−339325号公報に示す例では、体積抵抗率が低下された導電性接着剤として、熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物と、樹脂組成物に分散された導電性粉体及び多孔質粉体とを含み、熱硬化性樹脂を硬化するために加熱すると、加熱により低粘度化された樹脂組成物が多孔質粉体の空孔内に浸透し、その結果、加熱による体積の減少が大きく、熱硬化性樹脂が硬化された状態での体積抵抗率を低くしている(特許文献1、[0011])。
【0004】
また特開2005−89629号公報に示す例では、導電性フィラーのマイグレーション抑制作用を有する化合物の分散性を向上させ、この化合物の添加量を低減することにより体積当たりの導電性の向上及び接着力の向上を図っており、熱硬化性化合物と、導電性フィラーとからなる導電性接着剤が、ヒドラジド化合物を含有する熱硬化性化合物を有していることにより、熱硬化する際に、導電性フィラーのマイグレーション抑制作用を有するヒドラジド化合物が重付加反応によって硬化物中に均一に分散して分散性が向上し、これによりマイグレーション抑制効果が向上して安定な導電性を発揮させている(特許文献2、[0019])。
【0005】
さらに特開2002−80816号公報に示す例では、導電性フィラーと、ヒドロキシ官能性有機化合物とを含む縮合硬化性シリコーン組成物で導電性シリコーン接着剤を調整し、良好な接着性と優れた導電性を有するシリコーン接着剤を形成している(特許文献3、[0005]、[0007])。
【0006】
【特許文献1】特開2004−339325号公報
【特許文献2】特開2005−89629号公報
【特許文献3】特開2002−80816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3に示すような従来の導電性接着剤では、導電性を持たせるために熱硬化性有機材料に金属フィラーを添加したものであるため、例えば大気中200℃以上の高い温度では分解し、接着力を維持することができない。
【0008】
そこで、本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、高温下でも導電性及び接着力が良好なシリカ骨格を有する導電性接着剤及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のうちシリカ骨格を有する導電性接着剤の発明は、シリコン原子を有する疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、添加金属とを含む多孔質シリカ材料前駆体溶液からなる熱硬化性の導電性接着剤であって、導電性接着剤中のミセルに凝集した金属元素に基づいて熱硬化後に導電性の経路を形成して導電性接着可能にする構成を有している。
【0010】
本発明のうちシリカ骨格を有する導電性接着剤の作製方法の発明は、有機シランと、水と、シリコン原子を有する疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、酸性の溶媒とを加えて均一な多孔質シリカ材料を得る前駆体溶液を作製する過程と、前駆体溶液に添加金属を溶解する過程と、金属を含有する前駆体溶液を水で希釈して接着剤原液を作製する過程とを備え、接着剤原液中のミセルに凝集した金属元素に基づいて熱硬化後に導電性の経路を形成して導電性接着可能にする構成を有している。
【0011】
また添加金属を溶解する過程では、添加金属の溶解が、添加した金属アルコキシドの溶解であってもよい。
さらに添加金属を溶解する過程では、添加金属が、好ましくはpH1〜3の酸に溶解した金属によるものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリカ骨格を有する導電性接着剤は、導電性接着剤中のミセル外部へ選択的に金属元素が凝集してナノメートルサイズの金属元素の筒、例えば直径10ナノメートル以下の金属元素の筒を形成し、熱硬化する際、シリカ重合により均一な多孔質シリカとして固化すると同時に界面活性剤が分解し接着剤中から脱離するが、残留した金属元素の筒が導電性の経路を形成する。
したがってシリカ骨格を有する導電性接着剤の発明は、熱硬化後に導電性接着ができるという効果を有する。
【0013】
また本発明のシリカ骨格を有する導電性接着剤の作製方法では、シリカ骨格を有するシリカ導電性接着剤を作製することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、シリカ骨格を有する導電性接着剤の発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態は、シリコン原子を有する疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、添加金属とを含む多孔質シリカ材料前駆体溶液からなる熱硬化性の導電性接着剤であり、この導電性接着剤中のミセルに凝集した金属元素に基づいて熱硬化後に導電性の経路を形成して導電性接着可能にするものである。
【0015】
多孔質シリカ材料前駆体溶液は、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)などの有機シランに、水と、疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、添加金属とを加えて作製する。
【0016】
シリコン原子を有する疎水性有機化合物は、疎水基として炭素数6以下のアルキル基を1個以上有する非重合性の有機シラン化合物及び有機シロキサン化合物のいずれか、或いは両方を使用するのが望ましい。
これら非重合性の有機シラン及び有機シロキサン化合物は重合禁止剤であり、重合反応を抑制する。
非重合性の有機シラン化合物としては、アルコキシシラン(TMOS及びTEOSを除く)、シラザン等が利用でき、非重合性の有機シロキサン化合物としては、オルガノポリシロキサンを利用することができる。
【0017】
アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン及びトリフルオロプロピルトリメトキシシランが利用可能である。
【0018】
シラザンとしては、ヘキサメチルジシラザンが利用可能である。
【0019】
オルガノポリシロキサンとしては、メチル基を有するものが好ましく、例えばヘキサメチルジシロキサンが利用可能である。特に、このヘキサメチルジシロキサンは重合禁止剤として最適である。
【0020】
カチオン系界面活性剤は、塩化アルキルメチルアンモニウム(CH2(CH3)nN(CH3)3Cl:n=7〜15)、塩化アルキルトリメチルアンモニウム(例えば、塩化セチルトリメチルアンモニウム)、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、臭化アルキルメチルアンモニウム(CH2(CH3)nN(CH3)3Br:n=7〜15)、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ジアルキルジメチルアンモニウム、臭化アルキルジメチルベンジルアンモニウム及びアルキルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(CH2(CH3)nN(CH3)3OH:n=7〜15)のいずれかである。
【0021】
またシリカ骨格を有する接着剤に導電性を付加するために金属元素を添加するが、その添加金属は、例えば金属アルコキシドである。
金属アルコキシドとしては、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウムなどのアルコキシドが利用できる。
【0022】
この添加金属は、酸に溶解させた金属を利用してもよく、この酸の水素イオン濃度はpH1〜3であることが好ましい。
例えば、pH1〜3の硝酸に溶解させたAl、Ti、Fe、Co、Niなどの金属が利用できる。
【0023】
ここで、「シリカ骨格を有する」とは、純粋な二酸化珪素の構造を有するものだけでなく、純粋な二酸化珪素の構造ではないがシロキサン結合を有する構造をも意味する。
【0024】
次に本実施形態の作用を説明する。
本実施形態は、有機シランに、水と、シリコン原子を有する疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、金属とを加えた多孔質シリカ材料前駆体溶液からなる熱硬化性の導電性接着剤であるので、接着剤溶液中に円柱状のミセルを形成する。
【0025】
金属イオンは水分子と錯体をつくり、ミセル外部へ選択的に凝集する。そのため金属元素の筒が造られる。その大きさは例えば直径10nm以下となる。このナノメートルサイズの金属筒が溶液中に分散しているため、例えば250℃以上で加熱することで、シリカの重合により均一な多孔質シリカとして固化すると同時に、界面活性剤は分解し、接着剤中から脱離する。
【0026】
金属元素の筒は残留するが、接着剤中に互いにランダムに交差しているので、加熟により導電性の経路を形成し、接着剤は導電性を発揮する。
したがって、本実施形態のシリカ骨格を有する導電性接着剤では、熱硬化後に導電性を有するとともに対象物を接着することができる。
【0027】
次にシリカ骨格を有する導電性接着剤の作製方法について説明する。
シリカ骨格を有する導電性接着剤の作製方法は、先ず、有機シランに、水と、シリコン原子を有する疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、酸性の溶媒とを加えて均一な多孔質シリカ材料を得る前駆体溶液を作製し(第1の過程)、次いで、この前駆体溶液に添加金属を溶解し(第2の過程)、そして、金属を含有する前駆体溶液を水で希釈して接着剤原液を作製する(第3の過程)。
【0028】
この接着剤原液を対象物に、スプレーコーティング、フローコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティングその他のコーティングにより塗布し、例えば250℃で熱硬化させると導電性の接着ができる。
【0029】
このような接着剤原液では、接着剤原液中にミセルを形成し、金属イオンは水分子と錯体を造ってミセル外部に選択的に凝集して金属元素の筒を形成しており、熱硬化することによりシリカの重合により均一な多孔質シリカとして固化すると同時に、残留した金属元素の筒に基づいて導電性の経路を形成し、導電性接着可能にしている。
したがって、シリカ骨格を有する導電性接着剤の作製方法では、高温でも接着力の落ちないシリカ骨格を有するシリカ導電性接着剤を作製することができる。
【0030】
なお、前駆体溶液に添加金属を溶解させる場合、金属アルコキシドを溶解させてもよい。 また、好ましくはpH1〜3の硝酸にAl、Ti、Fe、Co、Niを溶解させたものを混合してもよい。
【実施例1】
【0031】
次に実施例1について説明する。
テトラメトキシシラン(TMOS)として1モルと、H2Oとして6モルと、塩化セチルトリメチルアンモニウム(以下、「C16TACL」という)として0.25モルと、ヘキサメチルジシロキサン(以下、「HMDSO」いう)として0.15モルとを、酸性(pH1〜3、硝酸)の溶媒中に混合して成る混合溶液を20℃で反応させて、均一な多孔質シリカ材料を得る前駆体溶液を得た。これを原液とした。
【0032】
硝酸にAlとして0.1モルを溶解し、H2Oとして5モルで希釈したものを原液に添加し、60分間撹拌した。これを接着剤とした。
両面を0.1μmのラフネスに研磨した厚さ5mm、20mm角のCu板の研磨した面同士に塗布液を0.1g/cm2塗り、両面を圧着したまま、250℃及び300℃で15分間加熱した。
【0033】
被接着物1、2を接着面に平行に引っ張り、せん断接着強度を調べた。
石英ガラス上に1μmの厚さで形成した膜の抵抗率を求めた。
250℃では、せん断接着強度が5.5MPaであり、膜の抵抗率が8.6×10-4Ωcmであった。
300℃では、せん断接着強度が6.2MPaであり、膜の抵抗率が8.4×10-4Ωcmであった。
これら膜の抵抗率及びせん断接着強度の結果を図1に示した。
【実施例2】
【0034】
実施例2は、実施例1の原液を用い、硝酸にFeとして0.1モルを溶解し、H2Oとして5モルで希釈したものを原液に添加し60分間撹拌し、これを接着剤とした。
両面を0.1μmのラフネスに研磨した厚さ5mm、20mm角のCu板の研磨した面同士に塗布液を0.1g/cm2塗り、両面を圧着したまま、250℃及び300℃で15分間加熱した。
【0035】
被接着物1、2を接着面に平行に引っ張り、せん断接着強度を調べた。
そして、石英ガラス上に1μmの厚さで形成した膜の抵抗率を求めた。
250℃では、せん断接着強度が5.1MPaであり、膜の抵抗率が5.0×10-3Ωcmであった。
300℃では、せん断接着強度が5.5MPaであり、膜の抵抗率が4.0×10-3Ωcmであった。
これら膜の抵抗率及びせん断接着強度の結果を図2に示した。
【実施例3】
【0036】
実施例3は、実施例1の原液を用い、硝酸にAl、0.1モルを溶解し、H2O、5モルで希釈したものを原液に添加し、60分間撹拌し、これを接着剤とした。
両面を0.1μmのラフネスに研磨した厚さ5mm、20mm角のCu板の研磨した面同士に塗布液を0.1g/cm2塗り、両面を圧着したまま、300℃で15分間加熱した。
【0037】
被接着物1、2を接着面に平行に引っ張り、せん断接着強度を調べた。
石英ガラス上に1μmの厚さで形成した膜の抵抗率を求めた。
膜の抵抗率は8.6×10-4Ωcm、せん断接着強度は6.2MPaであった。
大気中400℃で1時間加熟後のせん断接着強度は、6.2MPaであり、抵抗率は、1.5×10-3Ωcmであり、強度に劣化は見られない。
これら膜の抵抗率及びせん断接着強度の結果を図3に示した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明に係るシリカ骨格を有する導電性接着剤及びその作製方法は、高温でも接着力の起きない導電性接着剤及びその作製方法として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1の抵抗率とせん断接着強度とを示す図である。
【図2】実施例2の抵抗率とせん断接着強度とを示す図である。
【図3】実施例3の抵抗率とせん断接着強度とを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン原子を有する疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、添加金属とを含む多孔質シリカ材料前駆体溶液からなる熱硬化性の導電性接着剤であって、この導電性接着剤中のミセルに凝集した金属元素に基づいて熱硬化後に導電性の経路を形成して導電性接着可能にするシリカ骨格を有する導電性接着剤。
【請求項2】
前記疎水性有機化合物が、非重合性の有機シラン化合物及び有機シロキサン化合物のいずれか、或いは両方であり、
前記カチオン系界面活性剤が、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、臭化アルキルメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ジアルキルジメチルアンモニウム、臭化アルキルジメチルベンジルアンモニウム及びアルキルトリメチルアンモニウムヒドロキシドのいずれかであり、
前記添加金属が、金属アルコキシドであることを特徴とする請求項1記載のシリカ骨格を有する導電性接着剤。
【請求項3】
前記非重合性の有機シラン化合物がアルコキシシラン及びシラザンのいずれかであり、前記非重合性の有機シロキサン化合物がオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項2記載のシリカ骨格を有する導電性接着剤。
【請求項4】
前記疎水性有機化合物が、疎水基として炭素数6以下のアルキル基を1個以上有していることを特徴とする請求項1記載のシリカ骨格を有する導電性接着剤。
【請求項5】
前記添加金属が、酸に溶解させた金属であることを特徴とする請求項1記載のシリカ骨格を有する導電性接着剤。
【請求項6】
前記酸の水素イオン濃度がpH1〜3であることを特徴とする請求項5記載のシリカ骨格を有する導電性接着剤。
【請求項7】
有機シランと、水と、シリコン原子を有する疎水性有機化合物と、カチオン系界面活性剤と、酸性の溶媒とを加えて均一な多孔質シリカ材料を得る前駆体溶液を作製する過程と、前駆体溶液に添加金属を溶解する過程と、金属を含有する前駆体溶液を水で希釈して接着剤原液を作製する過程とを備え、
上記接着剤原液中のミセルに凝集した金属元素に基づいて熱硬化後に導電性の経路を形成して導電性接着可能にするシリカ骨格を有する導電性接着剤の作製方法。
【請求項8】
前記添加金属を溶解する過程が、添加した金属アルコキシドの溶解であることを特徴とする請求項7記載のシリカ骨格を有する導電性接着剤の作製方法。
【請求項9】
前記添加金属を溶解する過程が、pH1〜3の酸に溶解した金属によるものであることを特徴とする請求項7記載のシリカ骨格を有する導電性接着剤の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−348124(P2006−348124A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174620(P2005−174620)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】