説明

シリコンウェーハのライフタイム評価方法

【課題】より簡便な方法で、ライフタイム測定までの時間を短縮し、かつ、高精度でバラツキの少ないライフタイム値を得ることができるシリコンウェーハのライフタイム評価方法を提供する。
【解決手段】シリコンウェーハの表面にゲート酸化膜を形成して、水銀プローブ法によりライフタイムを評価する方法において、フタル酸エステル化合物を容器内に収容した後、その中に前記ウェーハを入れることにより、前記ゲート酸化膜表面にフタル酸エステル化合物を付着させた後にライフタイムの測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀プローブ法によりライフタイムを評価するシリコンウェーハのライフタイム評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハのライフタイムを評価する方法として、MOSC−t法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
この方法は、評価するシリコンウェーハにMOS構造を構成して、ゲート電極にパルス電圧を印加してエネルギー準位を蓄積状態から深い空乏状態に変化させた後、キャリアが発生することで該エネルギー準位が反転状態へ緩和され、それによって変化するキャパシタの容量及び時間(C−t)を測定し、ゼルブスト(Zerbst)解析を行うことにより、ライフタイム及び表面再結合速度を求めるものである。
また、その他の方法として、容量−電圧(C−V)法により、ライフタイムを評価する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、MOS構造におけるゲート酸化膜とシリコンウェーハとの界面には電荷や界面準位が存在するため、上述したような従来の方法では、前記界面に存在する電荷にトラップ(捕獲)されたキャリアの移動の影響を受けて、正確なライフタイムの測定値を得ることが困難であった。また、ライフタイムの測定値は、ゲート酸化膜形成直後から時間が経つにつれて経時的に変化するものであった。
そのため、ウェーハ面内の複数箇所において、又は、複数のウェーハについてライフタイムを評価する際に、当該測定値にバラツキが生じた場合、そのバラツキがウェーハの特性に起因するものなのか、あるいはまた、上記のような経時変化によるものなのかを判別することが困難であった。
【0004】
これに対して、特許文献4には、高湿度雰囲気下で蓄積状態になるようにMOS構造としたダイオードに電圧を印加し(例えば、p型ウェーハの場合、ゲート電極にマイナスの電圧を印加し)、マイナスの電荷をもったイオンがゲート酸化膜上に十分に漏れた状態で取り出し、乾燥させた後、ゲート電極にプラスの電圧を印加してC−t特性を測定する方法が開示されている。
この方法は、十分に漏れた状態のゲート酸化膜上のイオンが乾燥により固定されるため、この固定イオンによって、シリコンウェーハの表面がプラスに帯電し、ゲート酸化膜との界面にトラップされたキャリアの移動が妨げられ、ライフタイムを正確に評価することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−200348号公報
【特許文献2】特開平5−275509号公報
【特許文献3】特開昭64−65849号公報
【特許文献4】特開昭51−98953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、上述した特許文献1〜3に記載された測定方法において正確なライフタイムの測定値を得るためには、ウェーハ表面にゲート酸化膜を形成後、クリーンルーム内で1ヶ月以上放置して、経時変化による測定値のバラツキを少なくしなければならず、測定を行うまでに長時間かかるという課題を有していた。
【0007】
一方、上記特許文献4に記載されているような方法では、高湿度雰囲気下でウェーハを処理しなければならず、しかも、その後、乾燥工程も経なければならず、測定前の処理が手間を要し、煩雑であった。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、より簡便な方法で、ライフタイム評価のための測定時間を短縮し、かつ、高精度でバラツキの少ないライフタイムの測定値を得ることができるシリコンウェーハのライフタイム評価方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシリコンウェーハのライフタイム評価方法は、シリコンウェーハの表面にゲート酸化膜を形成して、水銀プローブ法によりライフタイムを評価する方法において、前記ゲート酸化膜上に有機物を故意に付着させた後に、前記ライフタイムを評価することを特徴とする。
このように、有機物をゲート酸化膜上に故意に付着させることで、ウェーハとゲート酸化膜との界面に存在する電荷に捕獲されたキャリアの移動を妨げることが可能となり、正確なライフタイムの測定値を得られるまでの時間を短縮することができる。
【0010】
前記有機物は、フタル酸エステル化合物であることが好ましい。
このような有機物を用いることで、前記キャリアの移動を確実に妨げ、正確なライフタイムの測定値を得られるまでの時間を短縮することができる。
【0011】
前記有機物の付着は、前記有機物を容器又は袋内に収容し、前記容器又は袋内に前記ゲート酸化膜を形成したシリコンウェーハを投入することにより行うことが好ましい。
このような方法であれば、前記有機物の付着を簡便な方法で行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水銀プローブ法によりシリコンウェーハのライフタイムを評価する際に、信頼性の高い評価を行うことができるまでの時間を簡便に短縮することができ、かつ、高精度でバラツキの少ないライフタイムの測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1におけるキャリア濃度の深さ分布のグラフの経時変化を示したものである。
【図2】実施例1におけるキャリアのC−t特性のグラフの経時変化を示したものである。
【図3】比較例1におけるキャリア濃度の深さ分布のグラフの経時変化を示したものである。
【図4】比較例1におけるキャリアのC−t特性のグラフの経時変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明においては、シリコンウェーハの表面にゲート酸化膜を形成して、水銀プローブ法によりライフタイムを評価するにあたり、前記ゲート酸化膜上に有機物を故意に付着させた後に、前記ライフタイムを評価する。
このような方法を用いることで、前記ゲート酸化膜と前記シリコンウェーハとの界面に存在する電荷に捕獲されたキャリアの移動を妨げることができ、前記キャリアを安定的に固定させることができる。したがって、ゲート酸化膜形成後、測定値の安定化のために長時間放置する必要がなく、早期にライフタイムの評価を行うことができ、かつ、高精度でバラツキの少ないライフタイム値を得ることが可能となる。
【0015】
水銀プローブ法とは、MOSC−t法における測定方法の一種であり、水銀プローブを電極とした装置を用いて、この水銀プローブをシリコンウェーハ表面のゲート酸化膜に接触させて測定する方法である。この方法は、測定時に酸化膜上に金属電極を形成する必要がないため、測定のための時間の短縮及びコストの削減を図ることができるという利点を有している。
【0016】
本発明における評価方法の適用対象はシリコンウェーハである。このシリコンウェーハは、特に限定されるものではなく、例えば、チョクラルスキー(CZ)法、フローティングゾーン(FZ)法等により得られたシリコン単結晶をスライスした後、少なくとも半導体デバイスが形成される表面を鏡面加工したシリコンウェーハであってもよく、エピタキシャルウェーハ、SOIウェーハ等のいずれであってもよい。
また、前記ゲート酸化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、通常は、酸素雰囲気下での熱酸化により形成され、膜厚は、例えば、20nm〜50μmである。
【0017】
前記ゲート酸化膜上に故意に付着させる有機物としては、フタル酸エステル化合物が好適に用いられる。
フタル酸エステル化合物は、多くは沸点が約300℃以上の高沸点物質であり、塗料や接着剤の溶剤、可塑剤等として汎用されているものである。したがって、容易に入手することが可能であり、かつ、比較的取扱いが容易であるため好ましい。前記フタル酸エステル化合物としては、具体的には、フタル酸ジブチルやDEHP(フタル酸ビス(2−エチルヘキシル))が好適に用いられる。
なお、前記有機物として、低沸点の有機物(例えば、C17〜C19のパラフィン系炭化水素)を用いた場合は、付着処理後のウェーハをクリーンルーム内に放置すると、クリーンルーム内に存在するごく微量の高沸点の有機物によって、ゲート酸化膜上に付着させた低沸点の有機物が置き換えられるため、ウェーハの表面状態が安定せず、結果的に測定するライフタイムの測定値にバラツキが生じる場合がある。
したがって、前記フタル酸エステル化合物としては、高沸点の材料を用いることが好ましく、フタル酸ジブチル(沸点340℃)よりも高い沸点を有するDEHP(沸点385℃)を用いることがより好ましい。
【0018】
前記有機物の付着は、液体状態又は固体状態の有機物をプラスチックや合成樹脂等の容器又は袋内に収容し、前記容器又は袋内に前記ゲート酸化膜を形成したシリコンウェーハを投入することにより行うことが好ましい。
このような方法であれば、前記ゲート酸化膜上に効率よく有機物を付着させることができるため、簡便な作業で、前記ゲート酸化膜と前記シリコンウェーハとの界面に存在する電荷に捕獲されたキャリアの移動を妨げることができる。
【0019】
前記有機物の付着は、前記有機物をプラスチックや合成樹脂等の容器又は袋内に収容し、前記容器又は袋内に前記ゲート酸化膜を形成したシリコンウェーハを投入した後、密閉し、10分以上1時間以下、その密閉状態を保持することが好ましい。
このような方法であれば、前記キャリアの移動を妨げるのに十分な有機物を前記ゲート酸化膜上に付着させることができるため好ましい。
【0020】
前記有機物の付着は、前記ゲート酸化膜形成直後に行うことが好ましい。
これにより、信頼性の高い評価を行うことができるまでの時間を最大限短縮することができるため好ましい。
【0021】
また、本発明におけるライフタイム評価方法においては、前記有機物を付着したウェーハについて、水銀プローブ法によりC−V測定を行い、ウェーハの深さ方向におけるキャリア濃度の均一性を確認した後、前記ライフタイムの評価を行うことが好ましい。
これは、高精度でバラツキの少ないライフタイムの測定値を得ることができれば、ウェーハの深さ方向におけるキャリア濃度が均一化されていることになるからである。
このように、前記ウェーハの深さ方向におけるキャリア濃度の均一性を事前に確認することにより、前記ライフタイムの測定値の信頼性を確認することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
チョクラルスキー法により育成したシリコン単結晶からスライスされた両面が鏡面研磨されたシリコンウェーハ(直径300mm、p型、抵抗率14.0〜14.3Ωcm)を酸素100%雰囲気中、1000℃で熱処理し、厚さ35μmのゲート酸化膜を形成した。
ゲート酸化膜形成直後、DEHPを入れたケースに、前記ゲート酸化膜を形成したシリコンウェーハを投入して密閉して10分間保持し、ゲート酸化膜上にDEHPを付着させた。
その後、水銀プローブを用いて、C−V測定を行い、キャリア濃度の深さ分布を求めた。また、C−t測定を行った。各測定は、DEHPを付着させた後、クリーンルーム内に放置して2日後、3日後、20日後、30日後に行った。図1にキャリア濃度の深さ分布のグラフの経時変化を、図2にC−t特性のグラフの経時変化を示す。
【0023】
[比較例1]
実施例1と同様にゲート酸化膜を形成したシリコンウェーハについて、DEHPを付着させずに、その他は、実施例1と同様にして、キャリア濃度の深さ分布及びC−t特性のグラフの経時変化を求めた。これらの結果をそれぞれ、図3及び図4にグラフで示す。
【0024】
図1と図3に示す分布グラフの比較から、実施例1の方が、比較例1よりも早期に、深さ方向におけるキャリア濃度のバラツキが抑制されていることが認められた。
なお、いずれも、ウェーハ表層部におけるキャリア濃度が高いが、これは、ゲート酸化膜との界面付近の電荷の影響を受けているためと考えられる。
また、図2と図4に示すC−t特性のグラフの比較から、実施例1の方が、比較例1よりも早期に、C−t特性曲線が安定することが認められた。
このことから、ゲート酸化膜表面に所定の有機物を付着させることにより、高精度でバラツキの少ないライフタイムの測定値を得るための時間を短縮することができることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの表面にゲート酸化膜を形成して、水銀プローブ法によりライフタイムを評価する方法において、
前記ゲート酸化膜上に有機物を故意に付着させた後に、前記ライフタイムを評価することを特徴とするシリコンウェーハのライフタイム評価方法。
【請求項2】
前記有機物は、フタル酸エステル化合物であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハのライフタイム評価方法。
【請求項3】
前記有機物の付着は、前記有機物を容器又は袋内に収容し、前記容器又は袋内に前記ゲート酸化膜を形成したシリコンウェーハを投入することにより行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンウェーハのライフタイム評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−26557(P2013−26557A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162098(P2011−162098)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】