説明

シリコンウェーハの洗浄方法

【構成】半導体シリコンウェーハの洗浄方法であって、アルカリ・過酸化水素・水より成る洗浄液に、0.1乃至100ppm のコンプレクサン或いはそのカルボン酸基配位子を他の酸基で置換したキレート化剤を添加してシリコンウェーハの洗浄を行い、次いで1ppm 以上のフッ酸が添加された水を用いてリンスを行なうことを特徴とする。
【効果】最小でも6槽の洗浄槽乃至リンス槽を必要としたRCA処理の洗浄システムに対し、基本的に僅か2槽で全洗浄システムを構成することができ、装置価格、装置所要面積、稼働経費の点ではるかに有利となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体シリコンウェーハの製造工程並びに半導体デバイス製造工程におけるシリコンウェーハ表面の洗浄方法に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体用シリコンウェーハの清浄化の対象となるのは微粒子汚染と化学汚染である。これらに対して広く使われている洗浄法はRCA法と呼ばれるもので、3種の洗浄液、即ち、水酸化アンモニウム・過酸化水素・水から成る洗浄液(SC−1)、稀フッ酸から成る洗浄液(DHF)、塩酸・過酸化水素・水より成る洗浄液(SC−2)を用いて洗浄を行なうものである。
【0003】この洗浄法が登場した当初の清浄化作用についての考え方は化学汚染に対するものだけであった。即ち、SC−1を用いてアンミン錯イオンを形成する金属や有機質汚染を除き、この際生じた自然酸化膜を次のDHF(通常、HF:H2 O=1容:50〜200容)で溶解除去してこの膜に捕捉されていた不純物を同時に除き、仕上げとして重金属溶解作用の強いSC−2で最後まで残存した金属を取り除くというものである。この洗浄法においては、最後に洗浄な自然酸化膜が形成されているとされ、この膜が形成されている為に、洗浄後のウェーハは親水性となっている。
【0004】その後、SC−1が他の洗浄液に比して抜群の微粒子除去効果を示すことが認識され、現在ではこのRCA法は、特にLSIの分野で広く採用されるに至っている。標準的なSC−1の組成は、アンモニア水(28重量%):過酸化水素水(30〜35重量%):水=1容:1容:5容であり、この洗浄液を用いての処理は、一般に70〜80℃で10分程度である。この処理は、シリコン表面に対して若干のエッチング作用を伴い、シリコン表面に微細なピットを生じることがあるので、水の稀釈を増すとかアンモニアの濃度を減少させる等の手段が適宜試みられている。
【0005】上述したRCA法による洗浄では、各洗浄液による処理の後、ウェーハ表面並びにウェーハキャリヤに吸着した洗浄液を除いて次の処理に送るために、純水による十分なリンスが必要である。即ち、この洗浄法では、少なくとも3つの洗浄処理と3つの純水リンス処理が必要となる。従って、生産性の点から、量産工場の洗浄装置としては、多数のウェーハを搭載したキャリヤを連続的に搬送して多槽(この場合6槽以上)の処理槽に順次浸漬する構造が採用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、SC−1による洗浄の後に行なわれる稀フッ酸(DHF)による自然酸化膜を除去する処理では、SC−1の微粒子除去効果とは逆に、ウェーハ裏面乃至その周辺、キャリヤ・容器壁等から離脱した微粒子等により、ウェーハ表面の微粒子濃度が通常増加する。しかも、DHFによる洗浄に引き続いて行なわれるSC−2洗浄では微粒子除去効果が弱く、付着した微粒子を十分に除去することが困難である。従って、現在ではLSIのパターン微細化が進み、微粒子除去の重要性が急速に増したので、当初のRCA法の順序を変えて、DHF→SC−1→SC−2の順序での洗浄が試みられている。
【0007】しかし、上記のような洗浄順序では、SC−1に使用する薬品の順序を極めて高純度にしないと、最終のSC−2洗浄の後でも十分な清浄度が得られないという問題がある。即ち、SC−1洗浄では、該洗浄液中のFeやAl等がウェーハに非常に吸着し易く、洗浄時に成長する自然酸化膜中に取り込まれる。ところが、後続するSC−2洗浄ではシリコン表面に対するエッチング作用がないため、かなりの量のこれら金属が不純物として残存してしまうのである。このため、SC−1洗浄後のFeやAlの吸着量を1010atoms/cm2 以下に抑えようとするだけで、SC−1洗浄液中のFeやAlの濃度は0.01ppb 程度の高純度に制御しなければならないのである。
【0008】従って、高価な超高純度の薬品が必要となるばかりか、洗浄液乃至薬液供給系の清浄度を特に厳しく管理しなければならないが、FeやAlはクリーンルーム内で最も汚染しやすい不純物であるため、この管理は容易ではない。また洗浄槽には連続してウェーハが搬入されてくるので、ウェーハが持ち込むFeやAlが槽内の洗浄液中に蓄積する。従って、高清浄度を確保するためには、洗浄液を毎回交換しなければならない場合も生じ、直接材料費だけでなく廃液処理の負担も大きくなる。
【0010】そこで実際は、洗浄工程をSC−1→SC−2→DHFの順序とし、リンスの際に1MHz程度の超音波を加えることにより、最終のDHFで発生した微粒子を除去することが行なわれている。即ち、SC−1で自然酸化膜中に取り込まれた重金属は、上記の如くSC−2では有効に洗浄されず、DHFによる自然酸化膜除去がフッ酸の洗浄力と相まって有効に洗浄除去されるのである。
【0011】しかし、上記の方法では微粒子の除去を満足に行なうことが極めて難しい。また、前述した何れの順序による方法を採用した場合にも、洗浄後のウェーハを表面分析すると、しばしば1010atoms/cm2 以上の汚染金属が検出されることがある。現在、十分に制御された洗浄な半導体製造ラインでも1012atoms/cm2 程度の金属汚染が認められることがある。超高集積デバイスでは、108 atoms/cm2のオーダーまでの清浄化が要求されるので、洗浄システムには、表面の汚染金属レベルを3桁以上低減することが望まれている。RCA洗浄方式は、薬液自体には十分な洗浄力があるとしても、使用薬品・純水の品質、洗浄装置の保守等の面で厳しい管理が要求されるのである。
【0012】また、生産に使われるウェーハの直径が大きくなるにつれて洗浄装置も大型化し、8”ウェーハの6槽構造の洗浄装置では、ローダ部、乾燥部、アンローダ部も含めると長さは10mにも達する。一方、デバイス高度化とともに必要な新たな製造装置が急激に増加し、これに伴ってクリーンルーム面積も必然的に拡大するので、洗浄装置のこのような長大化は、投資や稼働上の経済性或いは装置内清浄度維持の為の保守面でも好ましいものではない。
【0013】さらに高度化したデバイスでは、製造装置のプロセスチャンバーにウェーハを投入する直前に、自然酸化膜をフッ化水素ガスで除くドライプロセスも必要となる。このプロセスでは、微粒子や金属元素等の汚染は除き得ないので、予め、これらの有害物質の付着が必要なレベル以下までに十分に洗浄された清浄自然酸化膜を有するウェーハにしなければならない。
【0014】従って本発明の目的は、多数の洗浄槽を必要とせず、少ない洗浄槽によりシリコンウェーハの洗浄を行なうことが可能であるとともに、且つDHF→SC−1→SC−2の順序のRCA洗浄方式に劣らない微粒子除去能力と、SC−1→DHF→SC−2の順序のRCA洗浄方式に劣らない化学汚染除去能力を有し、清浄な自然酸化膜を有するウェーハとすることが可能なシリコンウェーハの洗浄方法を提供することにある。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明によれば、アルカリ・過酸化水素・水より成る洗浄液に、0.1 乃至100ppm のコンプレクサン或いはそのカルボン酸基配位子を他の酸基で置換したキレート化剤を添加してシリコンウェーハの洗浄を行い、次いで1ppm 以上のフッ酸が添加された水を用いてリンスを行なうことを特徴とする半導体シリコンウェーハの洗浄方法が提供される。
【0016】
【作用】本発明は、RCA洗浄における金属元素除去の主力であるSC−2を省き、その代わりにコンプレクサン等のキレート化剤をSC−1に添加することによりその金属汚染洗浄力を強化し、SC−1→SC−2と同等あるいはそれ以上の洗浄効果を上げることに成功したものである。また微粒子汚染し易い疎水性面を生じるDHF洗浄を行なわず、その代わりに上記SC−1洗浄の後に、微量のフッ酸を添加した水を用いてリンスを行なうことにより、自然酸化膜の表層部に偏在する残存汚染金属及び吸着添加剤を溶出させるとともに、微粒子を離脱させやすい親水性面を維持して微粒子除去効果を高めたものである。
【0017】放射性同位元素で標識したNa或いはFeを1012atoms/cm2 の量で汚染させたウェーハについて、RCA洗浄を行なった後の該金属の残存量を、放射能計数値から求めると、どの順序の方式で行なっても108 atoms/cm2 程度となり、非常によい洗浄効果が確認できる。しかし、実際の製造ラインにおけるRCA洗浄ウェーハの表面分析では、NaでもFeでも1010atoms/cm2 以上の汚染がみられることがある。このような場合、洗浄装置内に清浄ウェーハを所定時間放置して表面分析を行なう装置内の環境汚染試験によっても、これらが検出され、洗浄装置内のSC−2洗浄槽の使用を停止すると放置試験ウェーハの清浄度が向上する。SC−2洗浄を行なうと、高清浄化を目指す程、洗浄装置には構造上及び管理上、さらに厳しい配慮が必要となるので、本発明では、SC−2洗浄省略が、一つの特色である。
【0018】本発明方法においては、まずSC−1にキレート化剤を添加し、その金属汚染洗浄力を強化した洗浄液を用いて洗浄が行われる。このキレート化剤としては、コンプレクサン或いはそのカルボン酸基配位子を他の酸基で置換したキレート化剤が使用される。SC−1に錯化剤を添加してFeやAlに対する洗浄効果を高めようとすることは容易に考えられることであるが、有効な錯化剤は全て有機物である。即ち、この有機物が洗浄液からウェーハに付着すると炭素がデバイス特性に悪影響を与えるので、半導体用高純度無機薬品のTOC規格で要求されるような極めて微量で効果のある高性能の錯化剤を用いなければならない。然しながら、本発明においては、この洗浄に後続して行われるフッ酸添加純水リンスにより自然酸化膜に吸着した有機物が除かれるので、比較的多量、例えば10ppm 程度、場合によっては100ppm のキレート化剤をSC−1に添加しても、洗浄後のウェーハに有害なレベルの有機物汚染を残さない。従って、本発明に必要なキレート化剤については、高性能は必要であるが必ずしも超高性能は必要でない。SC−1洗浄後のウェーハに残存し易い金属元素の中でデバイス特性上特に問題なものはFeなので、本発明においては、10ppm 以下の濃度で洗浄後のFeの残存率が約1%以下となるコンプレクサン等をキレート化剤として用いた。
【0019】本発明において、キレート化剤として使用されるコンプレクサンとしては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)等を例示することができ、またそのカルボン酸基配位子を他の酸基で置換したものとしては、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)等がある。また置換配位子にPを含むものには本発明に係わるキレート化作用の強いものがあり、その例としてアルキルアミノジメチレンジホスホン酸、ポリメチレンビス(ニトリロジメチレン)テトラホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)、さらにこれらのホスホン酸をホスフィン酸に置換したものを挙げることができる。本発明に係わるこれら添加剤は、添加後の液中でその中の金属不純物が洗浄を妨害しないレベルにまで十分に精製されたものでなければならない。また洗浄対象元素が多種多様の場合など、必要に応じて、これらキレート化剤を2種以上組み合わせて使用することもできる。このキレート化剤の添加量は、0.1〜100ppm である。
【0020】また上記キレート化剤が添加されるSC−1は、先にも説明した通り、アルカリ、過酸化水素及び水からなるものである。このアルカリとしては、例えば水酸化アンモニウムや、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリメチル(2−ヒドロキシ)エチルアンモニウム等の金属成分を有していない有機アルカリ等を例示することができる。その組成は、一般にアルカリが0.05〜5重量%、過酸化水素が0.05〜10重量%及び残量が水となっている。
【0021】本発明において使用されるキレート化剤は、高濃度の過酸化水素あるいはアルカリの中では長期間安定であるものは少ないので、洗浄に際して予めキレート化剤を添加して洗浄液を調製しておく場合、その保存期間はできるだけ短い方が望ましい。またこれらのキレート化剤は、通常、水に難溶性のものが多いが、アルカリ性にすると容易に水溶液とすることができる。従って、水難溶性のキレート化剤を使用する場合には、このアルカリ水溶液を洗浄装置付属の調合槽に添加して、前述した組成の洗浄液を調製することもできる。また、特に金属汚染のひどいウェーハを処理する場合には、このキレート化剤の水溶液を直接洗浄槽に添加して洗浄効果の強化と、後続ウェーハに対する液からの吸着汚染抑止作用の強化とを行うこともできる。
【0022】上記の組成のSC−1洗浄液に前述したキレート化剤が添加された洗浄液は、一般にその添加量が10ppm 程度で、Feの他、Ni,Cr,Cu,Zn等、半導体プロセスで有害な重金属の表面付着量を2桁あるいはそれ以上低減できる。特にコンプレクサン置換配位子にPを含むものは、これらの金属に対する洗浄効果は更に強化され、例えばFeについて、添加量10ppm 程度で約3桁、1ppmでも2桁の低減が可能である。ただ何れのものも III族のアクセプターであり膜成長プロセス制御上有害なAl汚染に対しては十分でなく、ほぼ1桁の低減効果に止まる。これは自然酸化膜を汚染するAlの大部分がSi原子と置換されていると理解され、この除去は後述するリンスによるエッチングによって行われる。
【0023】本発明においては、上記洗浄液を洗浄槽に供給してウェーハの洗浄を行った後に、1ppm 以上のフッ酸が添加された純水を用いてリンスが行われる。微量のフッ酸は洗浄液に入るとシリコンの自然酸化膜へ強い影響を与えるがアルカリ性液中では反応性を示さない。従って、前記SC−1洗浄後のリンス用の純水に微量のフッ酸を添加しても、リンス槽に投入されてきたSC−1液で濡れたシリコン表面への影響は殆どないといえる。リンス水の流れでSC−1液のほとんどが除かれた段階から、本発明の特色とする作用が表れる。即ち、1ppm 以上のフッ酸を添加した純水でのリンスは、先の洗浄でウェーハ表面に吸着したキレート化剤に対して強い除去作用を有している。またこの純水を加温する程、この除去作用は強まる。一方、RCA処理中のDHFで処理した後純水でリンスするというような工程では、キレート化剤がDHF処理後直ちにウェーハ表面に移行仕手除去されにくくなる。
【0024】リンス水中のフッ酸濃度は、化学汚染除去の点からは濃いほどよい。しかし、あまり濃くなると配管材料等からの汚染を生じ、特別なリンス液供給機構が必要となる問題があるため、一般的にはフッ酸濃度は100ppm 程度以下が好適である。これ以上の濃度になると、リンスの最終段階で純水へのフッ酸添加を短時間中止し、ウェーハに吸着したF原子を離脱させる処理が必要となる。
【0025】本発明において、先に行われるキレート化剤添加SC−1液による洗浄で十分に除去できないAl原子に対して、上記のフッ酸添加純水リンスでの洗浄効果を顕著に高めるためには、該純水を加温(通常、40〜70℃程度)してリンスを行うことが望ましく、例えばフッ酸濃度100ppm 、50℃の10分リンスで表面Al濃度を約1/20程度にまで低減することができる。これは、Alがウェーハ表面に形成されている自然酸化膜の表面近くの薄層に偏在しており、その層がエッチングされたものと考えることができる。この条件下での長時間リンスにおける水滴接触角変化をしらべた実験から、このリンスでのエッチング量が数Åであることが推測できた。SC−1におけるエッチング作用は、シリコン表面の自然酸化膜形成を伴いつつ進行するので、洗浄されない不純物や液から吸着する不純物が自然酸化膜の表層に偏在可能性は大きい。本発明におけるリンスによる表面キレート化剤に対する除去効果も同様の作用として説明できる。
【0026】またSC−1洗浄後においても残存しているFeに対しても、例えばリンス水温度50℃程度に加温すると、フッ酸濃度が10ppm 程度で10分のリンスで残存率は約1%となり、表面濃度が2桁低減する。Cr,Ni,Znに対する加温フッ酸添加純水リンスの洗浄効果はFeと同程度である。Cuに対しての洗浄効果は、これらよりも劣るが、フッ酸濃度100ppm 、50℃の10分リンスで1桁程度の低減は可能である。
【0027】超清浄化のための洗浄では、薬液処理の段階では必要な清浄度レベルに達していても、超純水リンスの段階で逆に汚染するおそれがある。水からシリコン表面に吸着しやすい元素があるため、洗浄表面のそれらの濃度を108 atoms/cm2 のレベルに保とうとすると、リンス用超純水に対して極めて厳密な純度管理が必要となる。水から吸着し易い不純物は、Fe,Al,Cu等であり、リンス時間が長いほどまたpHが高いほど吸着し易くなる。リンス効率を高めるためにクイック・ダンプ方式等が採用されているが、リンス時間は通常10分は必要である。特にSC−1洗浄の後のリンス槽中ではまずpHが高くなるので、FeやAl等が超純水中で数ppt の超微量であったとしても10分のリンスで109 atoms/cm2レベルの汚染を生じる可能性が高い。しかし1ppm 以上のフッ酸添加純水リンスの場合には、リンス水中にFeやAl等が数十ppt 存在していても、これらからの汚染を108 atoms/cm2 のレベルに止めることができる。
【0028】よく知られているように、酸化膜表面に対して希フッ酸でエッチングを行うと、膜が残存している間はその表面は強く親水性化されると共に強い脱微粒子作用が見られる。本発明のフッ酸添加純水リンスにおいても、シリコン表面に自然酸化膜のある限り十分な脱微粒子効果が認められ、洗浄後のウェーハ表面の親水性は強い。本発明におけるキレート化剤添加SC−1洗浄は、微粒子除去効果において従来のSC−1洗浄とまったく変わらない。従って本発明方法においては、SC−1洗浄槽及びリンス槽のわずか2槽処理でも、その相乗効果で、RCA法でもっとも微粒子除去効果の大きいDHF→SC−1→SC−2の6槽処理よりも優れた微粒子除去効果を示す。
【0029】本発明において、特に金属汚染除去を重視する場合は、クイック・ダンプ・リンスの途中の1回がDHF処理となるようにその回だけ希フッ酸を直接リンス槽に添加して目的を達成することができる。その時点でウェーハ表面が疏水性化して微粒子除去の面では劣るが、一方、この後のリンスで自然酸化膜が生じにくいという利点もあり、本発明は最終的に自然酸化膜のない表面が必要な洗浄にも対応し得る。
【0030】
【実施例】次に本発明を実施例によって説明するが、勿論、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は洗浄によるウェーハの超清浄化を目的とするものであり、目的清浄度が108 atoms/cm2 オーダーである為、表面分析による効果の確認が難しい。従って以下の実施例の幾つかは放射性同位元素(RI)で標識した元素で汚染させたテストウェーハに対する洗浄効果を、洗浄前後の放射能計数値の比較で行なうRIトレーサ法を用いた。以下の実施例で59Feは、59Feで標識したFeを意味するものである。
【0031】実施例159Feの1012atoms/cm2 を水酸化鉄コロイドとして汚染させたシリコンウェーハに対し、NH4 OH:H2 2 :H2 O=1容:1容:5容のSC−1液に本発明のキレート化剤を用いて70℃×10分の洗浄を行った時の洗浄後の59Feの残存率を表1に示す。ここでC(P1)は、アルキルアミノジメチレンジホスホン酸の低分子量のものの略称である。因みにキレート化剤を添加しない時は6.5%であった。いずれのキレート化剤も、10ppm 〜100ppmの添加で59Feの表面濃度レベルを2桁から3桁下げられる。また配位子にPを含むものは洗浄効果が大きく、C(P1)では、0.1ppm でも2桁近い低減が得られた。
【0032】
【表2】


【0033】実施例2SC−1液の組成を、NH4 OH:H2 2 :H2 O=1容:1容:12.5容、並びに1容:1容:25容とし、実施例1と同様に洗浄を行った結果を表2に示す。SC−1液を標準組成から2倍、3倍に薄めても本発明で用いるキレート化剤の効果は変わらない。尚、ここでC(P2)は、ポリメチレンビス(ニトリロジメチレン)テトラホスホン酸の低分子量のものの略称である。
【0034】
【表2】


【0035】実施例364Cuは希フッ酸から析出させ、22Na,51Cr,57Niは塩化物として、それぞれ略1012atoms/cm2 付着させたシリコンウェーハに対し、NH4 OH:H2 2 :H2 O=1容:1容:12.5容のSC−1液に本発明のキレート化剤TTHA 10ppmを添加したもので、70℃×10分の洗浄を行った時の残存率を表3に示す。Naはキレートを作らないが、SC−1そのものに洗浄力があり、キレート化剤は別にこれを妨害していない。
【0036】
【表3】


【0037】実施例4キレート化剤無添加のSC−1液に塩化アルミニウムの微量を溶解して6枚のシリコンウェーハを同時に浸漬し、その3枚のAl表面付着量をフッ酸で気相分解フレームレス原子吸光法により分析したところ、平均で9×1011atoms/cm2であった。残りの3枚に対し、NTPOの10ppm を添加したSC−1で70℃×10分の洗浄を行い、同様の分析を行ったところ、平均で1.04×1011atoms/cm2 であった。本発明で用いるキレート化剤添加SC−1の洗浄効果は、Al汚染に対してはやや悪く、この例では洗浄後約10%が残存している。
【0038】実施例5SC−1洗浄で吸着した本発明のキレート化剤を後続するフッ酸添加水のリンスどの位除去できるかについてRIトレーサ法で検討した。キレート化剤NTPOはC原子の数とP原子の数で同じであり、かつ塩化アンモンとホルムアルデヒドと亜リン酸から比較的容易に合成できるので、この検討の対象に選び、中性子照射によって32Pで標識したNTPOを合成した。14Cを使わず32Pを選んだのは、後者の方がはるかに高い非放射能のものが得られ、かつβ線についてもはるかにエネルギーが強いからである。NTPO 100ppm を含むSC−1を用いてシリコンウェーハを70℃×10分処理し、数回純水リンスして自然乾燥し、32P即ちCの吸着量を調べたところ、略5×1015atoms/cm2 のウェーハへの吸着が認められた。これをHF 10ppm、50℃の純水でリンスしたところ、検出限界の5×1013atoms/cm2 以下となった。NTPO 10ppmを含むSC−1で洗浄したウェーハは、HF 1ppm を添加した室温の純水でリンスしてもP即ちCの吸着は検出限界以下であった。本発明のHF添加純水は、ウェーハに吸着したキレート化剤を実害のないレベルまで低減できる。
【0039】実施例6実施例4と同じ条件で、塩化アルミニウムの微量を添加したSC−1液を用いて表面Al濃度1〜2×1011atoms/cm2 のテストウェーハを作成し、HF添加純水リンスでのAl洗浄効果を調べた。結果を表4に示す。尚、分析法は実施例4と同じである。Alに対しては、リンス純水のHF添加量の増量と加温が有効であることが認められた。
【0040】
【表4】


【0041】実施例7キレート化剤TTHAを添加したSC−1を用いて70℃×10分の洗浄を行ったウェーハに対し、100 ppm のHFを添加した純水を50℃に加熱してリンスを行い、リンス時間に対する水滴接触角の変化を表5に示す。HF100ppm, 50℃の純水リンスでは、リンス時間10分でもおそらく自然酸化膜表面の数Åがエッチングで除去されていると推定される。
【0042】
【表5】


【0043】実施例859Feを含むSC−1液で処理した後、1〜3×1010atoms/cm2 59Feが残存しているウェーハに対して、HFを添加した純水を加温して10分リンスした時の59Feの残存率を表6に示す。汚染レベルを2桁下げ、108 atoms/cm2のレベルに低減できることが認められる。
【0044】
【表6】


【0045】実施例964Cuについても実施例8と同様に加温したHF添加純水リンスの洗浄効果を調べた。結果を表7に示す。CuについてはHF添加純水リンスの洗浄効果が弱い。従って、SC−1に添加するキレート化剤は、Cuに対して洗浄効果の強いものを使用することが必要であるが、一般にコンプレクサンにはCuに対してキレート化効果のあるものが多い。
【0046】
【表7】


【0047】実施例10フッ酸添加純水リンスでの微粒子除去作用を評価するため、放射性元素で標識した塵埃を用い、RIトレーサ法を行なった。即ち、99Tcで標識した炭素微粒子を吸着させた室内塵埃を、DHF処理した疎水性シリコンウェーハ表面とEDTA添加SC−1液で処理した親水性シリコン表面とへ、それぞれ放射能計数値(5,000 〜10,000)cpmとなるように付着させた。これらを純水で10分リンスした所、前者が約30%、後者が約35%計数値が減少した。同様の付着を行なったこれらウェーハに対し、HF10ppm 添加純水リンスを50℃に加熱して10分リンスした所、前者の計数値は略半分となったのに対し、親水性シリコン面では残存計数値は数十cpm となり、99%以上の付着塵埃を除くことができた。SC−1処理後の本発明のリンスでは、原則的には自然酸化膜を残した親水性面でのリンスなので、HF添加純水には極めて良好な微粒子除去が期待できる。
【0048】実施例11クリーンブース内に6槽の石英ガラス製実験槽があり、奇数番目を薬液槽、偶数番目をクイック・ダンプのできる流水リンス槽とし、薬液槽の上縁には十分な排気機構が設けられている洗浄実験装置において、薬品は分析値において市販の最高レベルのもの、リンス水は18MΩcmの超純水を使用し、工業用薬品に浸漬して意識的に化学汚染・微粒子汚染させた5" ウェーハをフッ素樹脂PFAのキャリヤに入れて洗浄実験を行なった。まず一連のRCA方式での洗浄実験を1週間繰り返し、1か月後、第5槽と第6槽とを用いて本発明の洗浄方法を1週間繰り返した。乾燥はスピンナーを用い、キャリャからの洗浄済ウェーハを1枚抜取りフッ酸による気相分解を行なって原子吸光法で表面分析し、他のウェーハではレーザ散乱表面検査装置で0.2μm 以上の微粒子を数えた。結果を表8に示す。この結果から、微粒子除去についてはいずれのRCA方式よりも、2槽方式の本発明の洗浄方法が優れていることが理解される。またRCA方式の場合、おそらくはSC−2のHClに基づく環境汚染、SC−1槽の不純物管理不足等が原因と思われる若干の金属汚染を含んだウェーハ表面分析結果がでており、本発明の洗浄システムの方が安定した表面清浄度が得られる。
【0049】
【表8】


【0050】尚、SC−1は1容:1容:12.5容、SC−2は1容:1容:5容で、それぞれ70℃×10分の浸漬処理を行なった。DHFは、1容:50容で30秒浸漬した。キレート化剤はNTPO 3ppm 、HF添加純水リンスとしては、HF 10ppm、50℃の加温水を用いた。
【0051】実施例12本発明によれば、第1段階のキレート化剤添加SC−1液による洗浄だけで、デバイス作成上ほぼ十分な清浄度が得られることを、MOS ダイオード( 500mμ□) による絶縁耐圧歩留りで確認した。無添加の高純度薬品によるSC−1液を用いた場合とを、70℃×10分の洗浄で比較する。結果を図1に示す。尚、本発明方法において使用したキレート化剤は、NTPO 1ppm であり、リンスは共に超純水によった。
【0052】実施例13本発明のフッ酸添加純水リンスの効果を電気特性で確認するために、上例のキレート化剤無添加SC−1液を用いて洗浄され超純水でリンスされたウェーハと、これを100ppmHF添加純水で50℃×10分リンスした場合を、再結合ライフタイムで比較した。結果を図2に示す。この結果より、加温HF添加水リンスの洗浄効果が明らかであり、十分なライフタイムが得られることが理解される。
【0053】実施例14標準組成のSC−1のアンモニア水をテトラメチルアンモニウム(TMAH)の1重量%で置換した場合の本発明における洗浄効果を、実施例11と同じキレート化剤、同じ装置、同じ洗浄・リンス条件によって調べた。結果を表9に示す。キレート化剤添加SC−1を用いた場合と差のない良好な結果が得られる。
【0054】
【表9】


【0055】
【発明の効果】本発明によれば、最小でも6槽の洗浄槽乃至リンス槽を必要としたRCA処理の洗浄システムに対し、基本的に僅か2槽で全洗浄システムを構成することができ、装置価格、装置所要面積、稼働経費の点ではるかに有利となる。しかもRCA洗浄では、その薬液処理順序を如何に変えても、化学汚染除去と微粒子汚染除去との間に矛盾があるが、本発明の方法では、RCA処理と同等の化学汚染除去能力と、この処理に勝る微粒子除去能力を有する。また本発明に必要なキレート化剤は、金属キレート化作用の強いもの程望ましいことは言うまでもないが、特に高度な作用のある特別の物質でなくとも、例えば入手の容易な市販のコンプレクサンキレート化剤でも十分目的を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法におけるキレート化剤添加SC−1液による洗浄前後におけるMOSダイオードの絶縁耐圧歩留りを示す図。
【図2】キレート化剤無添加SC−1液を用いて洗浄され超純水でリンスされたウェーハと、これを100ppmHF添加純水で50℃×10分リンスした場合の、再結合ライフタイムとを比較して示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルカリ・過酸化水素・水より成る洗浄液に、0.1乃至100ppm のコンプレクサン或いはそのカルボン酸基配位子を他の酸基で置換したキレート化剤を添加してシリコンウェーハの洗浄を行い、次いで1ppm 以上のフッ酸が添加された水を用いてリンスを行なうことを特徴とする半導体シリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項2】 フッ酸が添加された水を加温してリンスを行なう請求項1に記載の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−216098
【公開日】平成6年(1994)8月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−349881
【出願日】平成4年(1992)12月1日
【出願人】(592188265)エヌティティ エレクトロニクス テクノロジー株式会社 (1)
【出願人】(390039619)株式会社ピュアレックス (19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)