説明

シリコンウエハの加工方法

【課題】残留応力やチッピング等がシリコンブロックまたはシリコンスタック表面に残ることもなく、またシリコンブロックまたはシリコンスタックを縦横に効率よく切断することができるようにしたシリコンウエハの加工方法を提供しようとするものである。
【解決手段】シリコンウエハ製造用のシリコンインゴットの片面に磁石に吸着可能な切断ガイドを桝目状に貼付し、上記シリコンインゴットの切断ガイド取付面を磁石を内蔵したテーブル上に搭載して取り付け、上記切断ガイドに沿ってダイシングソーでシリコンブロックを桝目状に所定のサイズに切断した後、切り出したシリコンブロックの端面をエッチング処理し、その後スライスしてシリコンウエハを得るようにしたことを特徴とするシリコンウエハの加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリコンウエハの加工方法、特にシリコンブロック側面に存在する微少な凹凸を平坦化する研磨技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハの需要は、太陽電池などの普及に伴い年々増加している。特に太陽電池においては、一辺が5インチの四角形型のシリコンウエハを54枚程度用いて1枚の太陽電池モジュールを製造するため、その使用量はICやLSIなどのシリコンウエハの使用量に比べて膨大である。
【0003】
このようなシリコンウエハには、多結晶と単結晶があり、次のような方法で製造されている。多結晶シリコンウエハは、四角形型の多結晶シリコンインゴット101を製造し、この多結晶シリコンインゴット101からバンドソー103などを用いて多数の四角形型の多結晶シリコンブロック105を切り出し(図10参照)、さらにこの多結晶シリコンブロック105をスライス加工することにより製造される(図11参照)。図10および図11において、107はシリコンブロックの側面、111はシリコンウエハを示す。
【0004】
また、単結晶シリコンウエハは、引き上げ法により得られた円筒形型のシリコンインゴット(通常、長さ1m以上)から適当な寸法(通常、長さ40〜50cm)の円筒形型の単結晶シリコンブロックを切り出し、次いでオリフラと呼ばれる平坦部を研削し、さらにこの単結晶シリコンブロックをスライス加工することにより製造される。
【0005】
多結晶シリコンブロックおよび単結晶シリコンブロックのいずれを加工する場合においても、シリコンウエハの高い寸法精度が要求される場合には、研削が行われている。具体的には、砥粒を含む円形状の砥石やダイヤモンドホイール(研磨ホイール)を高速回転させ、これにシリコンブロックを押しつけ、相対移動させることにより研削する。
【0006】
従来のシリコンウエハの製造工程において、シリコンブロックまたはシリコンスタックの寸法精度を高める、あるいは表面のうねりをなくすための加工は行われていたが、これらの側面に存在する微小な凹凸の表面粗さを平坦化する加工は行われていなかった。したがって、このようにして得られたシリコンウエハは、さらに側面(端面、外周面ともいう)処理が行われる。端面処理は、特開平10−154321号公報(特許文献1参照)に記載のガラス基板の加工と同様にシリコンウエハの端面を1枚ずつ所定の形状に研削する方法か、あるいは化学研磨(エッチング)などにより行われる。
【0007】
太陽電池用のシリコンウエハの場合、ICやLSIのシリコンウエハの使用量に比べて膨大になるので、上記のようにシリコンウエハの端面を1枚ずつ処理していたのでは、膨大な時間と設備、労力を費やすことになり、工業的に供給が需要に追いつかなくなることが予想される。また、エッチング処理では、処理能力の高い廃液処理設備が必要になり、この点においても設備費の問題が発生する。
一方、シリコンウエハの端面処理を行わないと、太陽電池に用いるようなシリコンウエハの場合には、それ以降の工程で割れが発生し、製品の歩留りが低下するという問題があり、効率的な端面処理の方法の開発が望まれていた。
【0008】
そのため、特開2004−6997号公報(特許文献2参照)では、寸法精度を高める、あるいは表面のうねりをなくす程度以上、具体的には、表面粗さRy8μm以下(好ましくは6μm以下)になるように、シリコンブロックまたはシリコンスタックの側面を研磨により平坦化することが提案されている。
【特許文献1】特開平10−154321号公報
【特許文献2】特開2004−6997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、シリコンブロックまたはシリコンスタックの側面を研磨により平坦化するようにした場合、研磨による残留応力やチッピング等がシリコンブロックまたはシリコンスタック表面に残ってしまうという問題があった。
また、シリコンウエハの製造工程において、シリコンブロックまたはシリコンスタックを所定寸法に切断する際には寸法精度を高める必要があった。しかしながら、従来の切断工程では充分寸法制度を高めることが難しく、またシリコンブロックまたはシリコンスタックを縦横に効率よく切断することができないという問題があった。
そこでこの発明は、残留応力やチッピング等がシリコンブロックまたはシリコンスタック表面に残ることもなく、またシリコンブロックまたはシリコンスタックを縦横に効率よく切断することができるようにしたシリコンウエハの加工方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわちこの発明のシリコンウエハの加工方法は、シリコンウエハ製造用のシリコンインゴットの片面に磁石に吸着可能な切断ガイドを桝目状に貼付し、上記シリコンインゴットの切断ガイド取付面を、磁石を内蔵したテーブル上に搭載して取り付け、上記切断ガイドに沿ってダイシングソーでシリコンブロックを桝目状に所定のサイズに切断した後、切り出したシリコンブロックの端面をエッチング処理し、その後スライスしてシリコンウエハを得るようにしたことを特徴とするものである。
【0011】
この発明のシリコンウエハの加工方法は、上記磁石に吸着可能な切断ガイドを、予め所定位置に切断ガイドを収納できる収納部を備えた整列治具に桝目状に配置して収納し、その状態で整列治具に収納した切断ガイドとシリコンインゴットとを突き合わせて、接着剤を用いて貼付するようにしたことをも特徴とするものである。
【0012】
この発明のシリコンウエハの加工方法は、上記テーブルを、少なくとも90度の角度に回転自在とし、テーブル上に搭載して取り付けたシリコンインゴットを、一定方向に切断した後、テーブルを90度回転させて先の切断方向とは直角の向きに切断できるようにしたことをも特徴とするものである。
【0013】
この発明のシリコンウエハの加工方法は、上記エッチング処理が、酸によるエッチングであることをも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明は以上のように構成したので、残留応力やチッピング等がシリコンブロックまたはシリコンスタック表面に残ることもなく、またシリコンブロックまたはシリコンスタックを縦横に効率よく切断することができるシリコンウエハの加工方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明のシリコンウエハの加工方法の実施の形態を、図面に基いて詳細に説明する。
図1はこの発明のシリコンウエハの加工方法を示す、シリコンブロック切断時の概略斜視図、図2は切断ガイドを整列治具に収納する状態を示す分解斜視図、図3は切断ガイドを整列治具に収納した状態を示す概略斜視図、図4はその概略断面図、図5は切断ガイドをシリコンブロック上にセットした状態を示す概略斜視図、図6はその概略断面図、図7はシリコンブロックを切断する状態を示す概略断面図、図8はシリコンブロックからのシリコンウエハのスライス加工方法を示す概略図、図9はこの発明のシリコンウエハの加工方法を示すブロック図である。
【0016】
図1において、シリコンウエハ製造用のシリコンインゴット1の底面には磁石に吸着可能な切断ガイド3を桝目状に貼付し、上記シリコンインゴット1の切断ガイド3取付面を磁石を内蔵したテーブル5上に搭載して取り付けている。そして、上記切断ガイド3に沿って好ましくは円盤状ダイシングソー7で、シリコンインゴット1を桝目状に所定のサイズに切断するのである。
【0017】
上記磁石に吸着可能な切断ガイド3としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の強磁性体やそれらを主成分とする合金等からなる素材が使用され、特に鉄板が好適に使用される。
また磁石を内蔵したテーブル5としては、テーブル5の全面に磁石を配したり、各切断ガイド3に対応して所定の間隔で磁石を配置することができる。このようにして、磁石に吸着可能な切断ガイド3をテーブル5の上面に所定の間隙を保った状態で吸着させることができる。
【0018】
図7に示すように、上記切断ガイド3に沿って円盤状ダイシングソー7でシリコンインゴット1を桝目状に切断する際、円盤状ダイシングソー7は左右の切断ガイド3間にその先端が入り込むので、円盤状ダイシングソー7がテーブル5の上面を傷付けたり、円盤状ダイシングソー7の刃が傷つくおそれがない。
【0019】
図2ないし図6に、上記磁石に吸着可能な切断ガイド3のシリコンインゴット1への取り付け作業の手順を示す。図2ないし図5に示す整列治具11は、予め所定位置に切断ガイド3を収納できる収納部15を備えた治具本体13と、蓋体17とよりなるものである。
そして、図2および図3に示すように治具本体13の桝目状に形成した仕切り19間の収納部15に磁石に吸着可能な切断ガイド3をそれぞれ収納し、蓋体17を被せて、蓋体17に設けたネジ孔21から切断ガイド3に設けたネジ孔23に小ビス25を螺着して両者を一体化する。
上記蓋体17にはネジ孔21が四方に設けてあるが、切断ガイド3には一方の対角線上にのみネジ孔23が一対形成されている。このようにしておくと、得ようとするシリコンブロックのサイズが異なるときに、一方の対角線上のネジ孔と他方の対角線上のネジ孔とを適宜選択して切断ガイド3を取り付けることにより、サイズの変更にも迅速に対処することができる。当然その場合には、各切断ガイド3の間隔が狭まったり、拡がったりすることとなる。
【0020】
その上で蓋体17を持ち上げると、図4に示すように蓋体17とともに切断ガイド3が治具本体13から抜き取られる。その状態で蓋体17をシリコンインゴット1上に搭載し、シリコンインゴット1と切断ガイド3との間を接着剤で固着すれば、図5のようにシリコンインゴット1と切断ガイド3とが強固に固定される。どのような接着剤を用いるかは、切断ガイド3の素材とシリコンインゴット1とのなじみの良さ等を勘案して、様々な接着剤の中から適宜選択すればよい。
【0021】
蓋体17をシリコンインゴット1上に搭載するに際しては、図6のような取付治具27を用いる。この取付治具27は上面の周囲にシリコンインゴット1を保持する保持ガイド29を備え、また対角線上に一対の取付ガイド31を取り付けられている。他方、上記蓋体17にも取付ガイド31に対応する位置にガイド溝33(図3参照)が設けてあるので、切断ガイド3を取り付けた蓋体17のガイド溝33を、取付ガイド31に沿ってはめ込むことにより、取付治具27上のシリコンインゴット1の上に極めて簡単に搭載することができる。
【0022】
次に、切断ガイド3(例えば鉄板)を固着したシリコンインゴット1を反転し、テーブル5上に搭載する。図7に示す上記テーブル5は、少なくとも90度の角度に回転自在としてある。すなわち、磁石に吸着可能な切断ガイド3を、磁石等を内蔵させたテーブル5上に搭載し、テーブル5の回転とともに切断ガイド3を介して取り付けたシリコンインゴット1を回転させることができるようになっている。
そして、テーブル5上に搭載して切断ガイド3を介して取り付けたシリコンインゴット1を、円盤状ダイシングソー7の刃で一定方向に切断した後、テーブル5を90度回転させて先の切断方向とは直角の向きに切断できるようになっている。
図において41はシリコンインゴット1の側周に配置した位置決めガイド、43は位置決めガイド上に取り付けた、例えばガラス製の倒伏防止材で、シリコンインゴット1の周囲を切断する際に、端材の倒伏を防止するためのものである。
【0023】
以上のようにして切り出したシリコンブロック51は、側周の端面をエッチング処理される。エッチングの際に使用するエッチング剤としては、弗酸や硝酸、塩酸等を適宜配合して使用される。どのような酸を組み合わせるか、あるいはその配合割合や添加剤等は、シリコンインゴットを構成する素材や得ようとする表面状態、その他の条件を考慮して適宜決定することができる。
【0024】
上記の方法によりシリコンブロックの側面に存在する微少な凹凸をエッチング処理した後の表面粗さは、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは6μm以下である。表面粗さが8・m以下であれば、得られたシリコンブロックをスライスしてシリコンウエハを製造し、これを用いて太陽電池パネルを製造した場合に、シリコンウエハの破損が少なくなり、太陽電池パネルの歩留りがより向上するので好ましい。
【0025】
エッチング処理したシリコンブロック51は、図8に示すように、所定のスライサ等を用いてスライスすることにより、両端を切り落とした上、所定の厚みのシリコンウエハ53を得ることができる。
得たシリコンウエハ53は、その端面がすでにエッチング処理を施されており、ほとんどその端面の研磨処理を必要としないものであった。
【0026】
図9にこの発明のシリコンウエハの加工方法を示すものであり、予め準備した所定枚数の切断ガイドを整列治具上へセットする。これとは別に製作したシリコンインゴット上に上記切断ガイドをセットした整列治具をはめ込み、突き合わせた切断ガイドとシリコンインゴットとを接着剤等で固着する。
次いで、底面に切断ガイドを取り付けたシリコンインゴットを、切断ガイド側がテーブルの表面にくるようにしてシリコンインゴットをテーブル上に搭載する。その際、テーブルは内蔵した磁石で磁力で吸着可能な切断ガイドを吸着しており、シリコンインゴットはテーブル上に確実に保持されるようになっている。
【0027】
その後、上記切断ガイドに沿って円盤状ダイシングソーでシリコンブロックを桝目状に切断すると、円盤状ダイシングソーは左右の切断ガイド間にその先端が入り込むので、円盤状ダイシングソーがテーブルの上面を傷付けたり、円盤状ダイシングソーの刃を傷つけることなく、迅速にシリコンインゴットからシリコンブロックを切り出すことができる。
【0028】
以上のようにして切り出したシリコンブロックは、側周の端面をエッチング処理される。シリコンブロックの側面に存在する微少な凹凸をエッチング処理した後の表面粗さは、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは6μm以下である。その上で、得られたシリコンブロックをスライスしてシリコンウエハを製造し、これを用いて太陽電池パネル等を製造する。
このような工程で得たシリコンウエハは、端面等の破損が少なくなり、太陽電池パネルの歩留りがより向上するので好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明によれば、太陽電池モジュールを製造するための一辺が5インチの四角形型のシリコンウエハのみならず、ICやLSIなどの5インチ以上のシリコンウエハ等の加工にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明のシリコンウエハの加工方法を示す、シリコンブロック切断時の概略斜視図である。
【図2】切断ガイドを整列治具に収納する状態を示す分解斜視図である。
【図3】切断ガイドを整列治具に収納した状態を示す概略斜視図である。
【図4】その概略断面図である。
【図5】切断ガイドをシリコンブロック上にセットした状態を示す概略斜視図である。
【図6】その概略断面図である。
【図7】シリコンブロックを切断する状態を示す概略断面図である。
【図8】シリコンブロックからのシリコンウエハのスライス加工方法を示す概略図である。
【図9】この発明のシリコンウエハの加工方法を示すブロック図である。
【図10】従来のシリコンインゴットからのシリコンブロックの切り出し方法を示す概略図である。
【図11】従来のシリコンブロックからのシリコンウエハのスライス加工方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0031】
1 シリコンインゴット
3 切断ガイド
5 テーブル
7 円盤状ダイシングソー
11 整列治具
13 治具本体
15 収納部
17 蓋体
19 仕切り
21,23 ネジ孔
25 小ビス
27 取付治具
29 保持ガイド
31 取付ガイド
33 ガイド溝
41 位置決めガイド
43 倒伏防止材
51 シリコンブロック
53 シリコンウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウエハ製造用のシリコンインゴットの片面に磁石に吸着可能な切断ガイドを桝目状に貼付し、上記シリコンインゴットの切断ガイド取付面を、磁石を内蔵したテーブル上に搭載して取り付け、上記切断ガイドに沿ってダイシングソーでシリコンブロックを桝目状に所定のサイズに切断した後、切り出したシリコンブロックの端面をエッチング処理し、その後スライスしてシリコンウエハを得るようにしたことを特徴とするシリコンウエハの加工方法。
【請求項2】
磁石に吸着可能な切断ガイドを、予め所定位置に切断ガイドを収納できる収納部を備えた整列治具に桝目状に配置して収納し、その状態で整列治具に収納した切断ガイドとシリコンインゴットとを突き合わせて貼付するようにしてなる請求項1に記載のシリコンウエハの加工方法。
【請求項3】
テーブルを、少なくとも90度の角度に回転自在とし、テーブル上に搭載して取り付けたシリコンインゴットを、一定方向に切断した後、テーブルを90度回転させて先の切断方向とは直角の向きに切断できるようにしてなる請求項1に記載のシリコンウエハの加工方法。
【請求項4】
エッチング処理が、酸によるエッチングである請求項1に記載のシリコンウエハの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−73768(P2006−73768A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255000(P2004−255000)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(593099137)
【Fターム(参考)】