説明

シリコン単結晶の引上げ方法により引上げられたインゴットから得られたシリコン単結晶ウェーハ

【課題】鞍型形状のコイルを用いて印加する水平方向の磁場における、横磁場成分と縦磁場成分の割合を制御することで、引上げる単結晶の局所的な酸素濃度のばらつきを抑制し得る、シリコン単結晶の引上げ方法により引上げられたインゴットから切り出され、外周研削及び面取り加工が施されたシリコン単結晶ウェーハを提供する。
【解決手段】前記シリコン単結晶インゴットの直径が450mm以上であり、かつ面取り加工後のシリコン単結晶ウェーハの直径のうち、外周から10%の領域を除いて、前記ウェーハの酸素濃度のばらつき(面内酸素濃度差/面内酸素濃度平均値)が5%以下であるシリコン単結晶ウェーハである。450mm又は675mmの大口径のウェーハに用いられる。
【選択図】図

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大口径のシリコン単結晶の引上げ方法に関し、詳しくは、石英ルツボ内の原料融液に磁場を印加しつつ、前記融液から単結晶を引上げる磁場印加CZ法(Magnetic field applied Czochralski Method;以下、MCZ法という。)により、大口径のシリコン単結晶を引上げる方法により得られたシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製造する単結晶の大口径化に伴い、この単結晶の引上げに使用する石英ルツボサイズも大型化し、石英ルツボ内の融液の体積が増大してきている。この増大した体積の融液の熱対流をいかに制御するかということが課題となっている。
【0003】
その方策の一つとして、ルツボ内の原料融液に磁場を印加するMCZ法が知られている。MCZ法は、原料融液に磁場を印加することにより、磁力線に直交する方向の融液対流を抑制するものである。MCZ法における磁場の印加方法には種々の種類があるが、酸素濃度の制御や単結晶化率の向上のため、水平方向に磁場を印加するHMCZ法(Horizontal Magnetic field applied CZ法)の実用化が進んでいる。
【0004】
しかし、HMCZ法により、原料融液に水平磁場を印加した場合、酸素濃度を低下させることは可能であるが、酸素濃度のミクロなばらつきが生じるという不具合があった。この不具合を解消するために従来様々な検討が行われてきた。
【0005】
例えば、結晶引上げ開始時の電磁石のコイル中心軸の垂直方向の位置を、ルツボ内融液下面の垂直方向の位置を含む適宜値に制御する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1では、ルツボ内の結晶成長界面近傍の融液に印加される磁場の強度を弱めて融液対流の自由度を高めるとともに、ルツボの底部近傍の融液では、これに印加される磁場の強度を強めてその対流を抑制するように構成したので、ミクロな酸素濃度のばらつきが小さい単結晶を引上げることができる。更に、酸素が主に融液に溶解するルツボ底部においては融液の対流が有効に抑制されるため、酸素濃度が低く、かつ欠陥の少ない大直径の単結晶を安定して製造することができる上、融液がルツボを浸食し難くなるので、ルツボの寿命を延ばすことができ、引上げ単結晶量当たりに要するルツボ個数を減少させることができる。
【0006】
また、電磁石のコイル中心軸がルツボ内融液における深さ方向の中心部又は、これにより下方を通るように、これら電磁石とルツボとの上下方向の相対位置を設定すること、融液深さ方向の磁場強度が平均値の0.8〜1.2の範囲内に制御すること、電磁石のコイル径が単結晶引上げ開始時のルツボ内融液深さの3倍以上とすることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
また、単結晶の引上げ量増加にあわせて、融液の液面位置がほぼ一定となるようにルツボを上昇させるとともに、磁場印加装置を該ルツボに追従上昇させる製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この特許文献3では、磁場を常に対流抑制等に関する最適位置に保持することができ、ひいては酸素濃度が低く均質な単結晶が得やすくなる。
【0008】
また、ルツボ軸上のルツボ内の原料融液表面の磁場強度を、ルツボ軸上のルツボ底面の磁場強度の0.8〜0.95倍に制御するか、ルツボ軸を中心に左右に対向配置された電磁石のコイル面に開き角度をつけ、その開き角度を0〜30度の範囲内に制御するシリコン単結晶の製造方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。この特許文献4によれば、成長単結晶の成長方向の局所的な酸素濃度の均一性が高いシリコン単結晶を高生産性、高歩留まりで育成できる。更に、ルツボ内の原料融液表面のルツボ内壁における磁束ベクトルの傾きを14〜20度の範囲内に制御するか、左右の電磁石コイルの間隔Bとルツボ内径Aとの比、A/Bを0.3〜0.6の範囲内とするか、電磁石コイルの直径Rと引上げ開始時のルツボ内融液深さDとの比、D/Rが0.5以下とすることで、その効果を高めることができる。
【0009】
また、鞍型形状のコイルを用いて原料融液に水平磁場を印加しつつ、単結晶中の酸素濃度を制御するために、コイルの上下方向位置を変更する単結晶成長方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。この特許文献5によれば、ルツボ回転数を操作せずとも酸素濃度を制御でき、これによりルツボ回転数を低位に抑制できる。
【0010】
更に、原料融液の融液面からルツボの底部に向かう全域において、磁場強度を単調に漸増、又は漸減するように磁場を印加可能とされ、印加される磁場の最強強度の0.6倍〜0.9倍の範囲に設定されるシリコン単結晶引上げ装置が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。この特許文献6によれば、引上げたシリコン単結晶インゴットの酸素濃度はインゴットの成長方向の長さ全域にわたって一定の割合で減少し、不安定な領域が生じることがなく、よって、不純物濃度が不均一に分布することを抑制でき、酸素濃度及びドーパント濃度が微小な範囲でばらつくことを防止し、ドーパント濃度のばらつきによる抵抗率のばらつきを防止し、デバイス工程においてデバイス特性及び収率を良好に保つことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9―188590号公報(請求項1、段落[0035]、第1図)
【特許文献2】特開平8−333919号公報(請求項1,3,5、第1図)
【特許文献3】国際公開第02/10485号パンフレット(第3頁第20行〜24行目、第4頁第10行〜14行目)
【特許文献4】特開2000−119095号公報(請求項1〜6、段落[0005]、第1図)
【特許文献5】特開2004−189559号公報(請求項1、段落[0018])
【特許文献6】特開2007−210865号公報(請求項2,3、段落[0014])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、結晶径を300mmウェーハ用、450mmウェーハ用と大口径化するに伴って、様々な問題が生じてきた。具体的には、上記大口径のシリコン単結晶を引上げるためには引上げ炉自体を大きくしなければならない。そうすると、従来水平磁場の印加にはヘルムホルツ型の磁場印加装置が使用されていたが、このヘルムホルツ型の磁場印加装置も大型化しなければならない。しかしながら、従来の小口径単結晶の引上げでの水平磁場印加に用いられてきたヘルムホルツ型の磁場印加装置でさえ、装置自体が大きく、また磁場の漏れも大きいため、大口径化に伴い、1台当たり、より大きな設置面積が必要となり、また、磁場漏れによる生産コストの上昇も懸念される。特に、450mmウェーハ用単結晶の引上げでは、非常に大きな設置面積となるため、ヘルムホルツ型の採用が難しい状況となっている。
【0013】
そこで、水平磁場を印加するに当たって、ヘルムホルツ型に比べて小さい起磁力で同じ強度の磁界を発生でき、また、コイルを小型化できるため小さな設置面積で済む、鞍型形状のコイルを用いた磁場印加装置を採用することが考えられるが、ヘルムホルツ型で大きなコイルを用いた場合と同程度の平行な水平磁場を得ることは難しい問題があった。具体的には、磁場中心から離れるにつれて磁場強度の変化が大きくなり、縦磁場成分の割合が大きくなる傾向があった。
【0014】
このように、原料融液内で、縦磁場成分の割合が大きい領域や小さい領域が生じると、融液対流の抑制効果が石英ルツボ内で不均一になって、酸素濃度の変動に繋がり易くなると推察される。更に、単結晶の引上げとともに原料融液量が変化するため、対流制御は極めて難しくなると考えられる。
【0015】
本発明の目的は、鞍型形状のコイルを用いて印加する水平方向の磁場における、横磁場成分と縦磁場成分の割合を制御することで、引上げる単結晶の局所的な酸素濃度のばらつきを抑制し得る、シリコン単結晶の引上げ方法により引上げられたインゴットから切り出され、外周研削及び面取り加工が施された450mm又は675mmの大口径ウェーハに用いられるシリコン単結晶ウェーハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に係る発明は、石英ルツボを挟んで対向配置され、チャンバの外径に沿って湾曲した一対の鞍型形状のコイルにより、前記石英ルツボに貯留されたシリコン原料融液に水平方向に磁場を印加しつつ、前記原料融液からシリコン単結晶インゴットを引上げる方法により引上げられた前記シリコン単結晶インゴットを外周研削し、スライスし、面取り加工して得られたシリコン単結晶ウェーハであって、前記シリコン単結晶インゴットの直径が450mm以上であり、かつ前記面取り加工後のシリコン単結晶ウェーハの直径のうち、外周から10%の領域を除いて、前記シリコン単結晶ウェーハの酸素濃度ばらつき(面内酸素濃度差/面内酸素濃度平均値)が5%以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、前記シリコン単結晶インゴットの直径が、458mm以上683mm以下であるシリコン単結晶ウェーハである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシリコン単結晶ウェーハは、鞍型形状のコイルを用いて印加する水平方向の磁場における、横磁場成分と縦磁場成分の割合を制御することで、引上げる単結晶の局所的な酸素濃度のばらつきを抑制し得るシリコン単結晶の引上げ方法を用いて、この方法により引上げられたシリコン単結晶インゴットを外周研削し、スライスし、面取り加工して得られる。このシリコン単結晶ウェーハは、面取り加工後のシリコン単結晶ウェーハの直径のうち、外周から10%の領域を除いて、シリコン単結晶ウェーハの酸素濃度ばらつき(面内酸素濃度差/面内酸素濃度平均値)を5%以下とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】鞍型形状のコイルを用いて水平方向に磁場を印加したシリコン単結晶の引上げ装置の概略図である。
【図2】その装置に用いられた一対の鞍型形状の励磁コイルを示す斜視図である。
【図3】特定位置における印加する磁場の縦磁場成分BZと横磁場成分BYとの関係を説明する図である。
【図4】実施例1で引上げたシリコン単結晶インゴットの直胴長305mmの位置で切り出したシリコン単結晶ウェーハにおける[Oi]面内分布を示す図である。
【図5】比較例1で引上げたシリコン単結晶インゴットの直胴長300mmの位置で切り出したシリコン単結晶ウェーハにおける[Oi]面内分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
本発明者らは、大口径のシリコン単結晶の引上げにおいて、鞍型形状のコイルを使用する場合に、局所的な酸素濃度のばらつきを抑制し、高品質なシリコン単結晶を得るためには、印加する水平方向の磁場における、横磁場成分と縦磁場成分の割合を制御する必要があることを見出し、本発明を完成した。
【0022】
即ち、本発明は、石英ルツボを挟んで対向配置され、チャンバの外径に沿って湾曲した一対の鞍型形状のコイルにより、石英ルツボに貯留された原料融液に水平方向に磁場を印加しつつ、原料融液から単結晶を引上げるシリコン単結晶の引上げ方法により引上げられたインゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハである。
この引上げ方法の特徴ある構成は、石英ルツボ内壁面での半径をR、引上げる単結晶の半径をr、磁場中心位置(X,Y,Z)を(0,0,0)とするとき、印加する磁場の縦磁場成分BZと横磁場成分BYとの関係が、(0,±R,−R)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦1.1、(0,±R/2,−R/2)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦0.25、かつ(0,±r,−r)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦0.25をそれぞれ満たすところにある。上記範囲をそれぞれ満たすように制御された状態でシリコン単結晶を引上げるとき、原料融液内では、引上げる単結晶の局所的な酸素濃度のばらつきに影響を与える程度の縦磁場成分の割合が大きい領域や小さい領域を生じることがなく、原料融液の対流が均一に近い状態となるため、結果として、引上げた単結晶の局所的な酸素濃度のばらつきが抑制され、酸素濃度の面内分布は安定する。
【0023】
なお、本発明の引上げ方法でいうZ軸は引上げ方向を、Y軸はZ軸と垂直をなし、かつ、水平方向の磁場印加方向を、X軸はY軸及びZ軸とそれぞれ垂直をなす方向をいう。
【0024】
図1に上記方法を実施する磁場印加式シリコン単結晶の引上げ装置10を示す。この装置10のチャンバ11内には、原料融液12を貯留する石英ルツボ13が設けられ、この石英ルツボ13の外周面は図示しない黒鉛サセプタにより被覆される。石英ルツボ13の下面は上記黒鉛サセプタを介して支軸14の上端に固定され、この支軸14の下部は図示しないるつぼ駆動手段に接続される。るつぼ駆動手段は図示しないが石英ルツボ13を回転させる第1回転用モータと、石英ルツボ13を昇降させる昇降用モータとを有し、これらのモータにより石英ルツボ13が所定の方向に回転し得るとともに、上下方向に移動可能となっている。
【0025】
石英ルツボ13の外周面は石英ルツボ13から所定の間隔をあけてヒータ16により包囲され、このヒータ16は保温筒15により包囲される。ヒータ16は石英ルツボ13に投入された高純度のシリコン多結晶体を加熱・溶解して原料融液12にする。
【0026】
またチャンバ11の上端には図示しないが円筒状のケーシングが接続される。このケーシングには図示しない回転引上げ手段が設けられる。回転引上げ手段はケーシングの上端部に水平状態で旋回可能に設けられた引上げヘッド(図示せず)と、このヘッドを回転させる第2回転用モータ(図示せず)と、ヘッドから石英ルツボ13の回転中心に向かって垂下されたワイヤケーブル17と、上記ヘッド内に設けられワイヤーブル17を巻取り又は繰出す引上げ用モータ(図示せず)とを有する。ワイヤケーブル17の下端には原料融液12に浸してシリコン単結晶19を引上げるための種結晶18が取付けられる。
【0027】
この引上げ装置10には、チャンバ11を挟むように一対の鞍型形状の励磁コイル21,21が設けられる。一対の鞍型形状の励磁コイル21,21は互いに同形同大であり、一方の励磁コイル21を代表してその一般的な形状を説明すると、図2に示すように、励磁コイル21は、チャンバ11の外面に沿って水平方向に延びる半円状の上半円環状部21aと、その上環状部と所定の間隔を開けて下方に位置しチャンバ11の外面に沿って水平方向に延びる半円状の下半円環状部21bと、鉛直方向に延びて上半円環状部21aと下半円環状部21bの各端部を相互に連結する一対の直線状部21c,21dとを備える。一対の励磁コイル21,21はパワーリード線22により直列に接続され、図示しない電源より各励磁コイル21,21に通電されると、図1に示すように両コイル21,21の中心を結ぶ水平方向に磁束を発生するように構成される。この一対の励磁コイル21,21は、上下動可能にチャンバ11の外部に配置される。
【0028】
次にこのシリコン単結晶の引上げ装置を用いた上記引上げ方法を説明する。
【0029】
図1に示すように、石英ルツボ13に高純度のシリコン多結晶体及びドーパント不純物を投入し、ヒータ16によりこの高純度のシリコン多結晶体を加熱、溶解して原料融液12にする。そして、シリコン単結晶19の引上げ開始時の原料融液12の液面位置と、励磁コイル21,21の鉛直方向の中心、即ち、磁場中心位置とが、磁場中心位置を融液表面位置に対して上にr×0.5から下にr×1.5の範囲となるように、一対の励磁コイル21,21の鉛直方向の位置が定められる。
【0030】
次いで、図示しない電源より各励磁コイル21,21に通電して、図1に示すように両コイル21,21を結ぶ水平方向に磁束を発生させる。
【0031】
ここで、鞍型形状の励磁コイル21,21により生じる磁場は、励磁コイル21,21の鉛直方向の中心に生じる実線で示す磁場については、横磁場成分のみから構成されるが、その実線で示す磁場から上下に離れた所に生じる一点鎖線で示す磁場では、結晶中心軸(コイル21,21の中間)以外において、磁場中心から離れると縦磁場成分が増大する。引上げる単結晶インゴットが大口径化されるほど石英ルツボの大きさも大きくなるため、この傾向は顕著となる。
【0032】
そのため、本実施の形態では、図3に示すように、特定位置における印加する磁場の縦磁場成分BZと横磁場成分BYとの関係が、以下の式をそれぞれ満たすように制御し、この状態でシリコン単結晶インゴットを引上げる。
【0033】
具体的には、石英ルツボ内壁面での半径をR、引上げる単結晶の半径をr、磁場中心位置(X,Y,Z)を(0,0,0)とするとき、印加する磁場の縦磁場成分BZと横磁場成分BYとの関係が、(0,±R,−R)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦1.1、(0,±R/2,−R/2)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦0.25、かつ(0,±r,−r)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦0.25をそれぞれ満たすように制御するものである。
【0034】
このうち、(0,±R,−R)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦1.0、(0,±R/2,−R/2)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦0.2、かつ(0,±r,−r)の位置において|縦磁場成分BZ/横磁場成分BY|≦0.2をそれぞれ満たすように制御することが特に好ましい。
【0035】
これにより、原料融液12内では、引上げる単結晶の局所的な酸素濃度のばらつきに影響を与える程度の縦磁場成分の割合が大きい領域や小さい領域を生じることがなく、原料融液の対流が均一に近い状態となる。結果として、引上げた単結晶の局所的な酸素濃度のばらつきが抑制され、酸素濃度の面内分布は安定する。
【0036】
なお、上記制御は、励磁コイル21の大きさや形状などによって調節することができる。
【0037】
続いて、上記のように印加する水平方向の磁場を制御した状態で、るつぼ駆動手段により支軸14を介して石英ルツボ13を、所定の速度で反時計方向に回転させる。このルツボ回転の速度は例えばシリコン単結晶インゴット19の所望の酸素濃度など結晶品質によって異なる。そして回転引上げ手段の図示しない引上げ用モータによりワイヤケーブル17を繰出して種結晶18を降下させ、種結晶18の先端部を原料融液12に接触させる。その後種結晶18を徐々に引上げることにより種絞り部を形成し、その種結晶18の下方にシリコン単結晶インゴット19を育成させる。シリコン単結晶インゴット19を引上げる際に、種結晶18が所定の速度で時計方向に回転するようワイヤケーブル17を回転させる。
【0038】
上記方法において、引上げるシリコン単結晶インゴットの直径は450mm以上、好ましくは458mm以上683mm以下である。即ち、大口径の450mm用ウェーハ、675mm用ウェーハに使用することができる大きさである。ここで、シリコン単結晶インゴットの大きさがウェーハとして使用する大きさよりも若干大きめとなっているのは、インゴットから製品として出荷されるウェーハとするまでに、外周研削や面取りなどの機械加工が施されて、その直径が小さくなることを考慮しているためである。
【0039】
例えば、直径450mm用ウェーハの単結晶を引上げる場合には、石英ルツボ13を例えば0.1〜1回転/分の速度で反時計方向に回転させ、ワイヤケーブル17を5〜6回転/分の速度で時計方向に回転させることが好ましい。
【0040】
このようにして引上げられたシリコン単結晶インゴットは、局所的な酸素濃度のばらつきが抑制されたものとなる。
【0041】
そして、本発明のシリコン単結晶ウェーハは、上記方法により引上げられたシリコン単結晶インゴットを外周研削し、スライスし、面取り加工して得られたシリコン単結晶ウェーハである。この局所的な酸素濃度のばらつきが抑制されたインゴットから切り出されたウェーハは、面取り加工後のシリコン単結晶ウェーハの直径のうち、外周から10%の領域を除いて、シリコン単結晶ウェーハの酸素濃度ばらつき(面内酸素濃度差/面内酸素濃度平均値)を5%以下とすることができる。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
図1に示すような、450mmウェーハ用のシリコン単結晶の引上げ装置10のチャンバ11を挟むように一対の鞍型励磁コイル21,21を配置した。即ち、チャンバ11内に設けられた石英ルツボ13は、石英ルツボの直胴部の厚さを含めた石英ルツボの外径が36インチ(約900mm)であった。石英ルツボ内壁面での半径をRはおよそ450mm、引上げるシリコン単結晶インゴットの半径rはおよそ230mmである。
【0043】
この励磁コイル21,21の鉛直方向の位置は、原料融液12の液面位置と一致するように配置した。また、引上げ開始時において、図3に示すように、(0,±R,−R)の位置、即ち、(0,±450,−450)において│縦磁場成分BZ/横磁場成分BY│=0.9、(0,±R/2,−R/2)の位置、即ち、(0,±225,−225)において│縦磁場成分BZ/横磁場成分BY│=0.2、(0,±r,−r)の位置、即ち、(0,±230,−230)において│縦磁場成分BZ/横磁場成分BY│=0.2となるようにした。
【0044】
このような水平方向磁場印加式単結晶引上げ装置にて直胴部の直径が458mmのシリコン単結晶棒19を、回転速度が5〜6回/分であって引上げ速度が0.4〜0.5mm/分で引上げた。
【0045】
また、引上げたシリコン単結晶インゴットを外周研削し、直胴長305mmの位置でスライスし、面取り加工して得られたシリコン単結晶ウェーハにおける[Oi]面内分布を図4に示す。
【0046】
<比較例1>
図1に示すような、450mmウェーハ用のシリコン単結晶の引上げ装置10のチャンバ11を挟むように一対の鞍型励磁コイル21,21を配置した。即ち、チャンバ11内に設けられた石英ルツボ13は、石英ルツボの直胴部の厚さを含めた石英ルツボの外径が36インチ(約900mm)であった。石英ルツボ内壁面での半径をRはおよそ450mm、引上げるシリコン単結晶インゴットの半径rはおよそ230mmである。
【0047】
この励磁コイル21,21の鉛直方向の位置は、原料融液12の液面位置と一致するように配置した。また、引上げ開始時において、図3に示すように、(0,±R,−R)の位置、即ち、(0,±450,−450)において│縦磁場成分BZ/横磁場成分BY│=1.5、(0,±R/2,−R/2)の位置、即ち、(0,±225,−225)において│縦磁場成分BZ/横磁場成分BY│=0.26、(0,±r,−r)の位置、即ち、(0,±230,−230)において│縦磁場成分BZ/横磁場成分BY│=0.26であった。
【0048】
そして、実施例1と同様に、水平方向磁場印加式単結晶引上げ装置にて直胴部の直径が458mmのシリコン単結晶棒19を、回転速度が5〜6回/分であって引上げ速度が0.4〜0.5mm/分で引上げた。
【0049】
引上げたシリコン単結晶インゴットを外周研削し、直胴長300mmの位置でスライスし、面取り加工して得られたシリコン単結晶ウェーハにおける[Oi]面内分布を図5に示す。
【0050】
<比較評価>
図4から明らかなように、実施例1で引上げたインゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハでは、結晶中心から外周近傍にかけて酸素濃度がほぼ一定に推移しており、本発明で規定した範囲を満たすように制御して引上げたシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハは、デバイス製造に必要な領域において、良好な[Oi]面内分布が得られることが確認された。[Oi]測定には、FT−IRを用い、ビームサイズは4mmφとした。
【0051】
なお、このシリコン単結晶ウェーハの外周から10%の領域を除いた領域(図4中の「r×90%」で示した領域)における、面内酸素濃度差は0.20atoms/ccであり、また面内酸素濃度平均値は12.8atoms/ccであった。これらの値から酸素濃度ばらつき(面内酸素濃度差/面内酸素濃度平均値)を求めたところ、酸素濃度ばらつきは、5%以下であった。
【0052】
一方、図5に示すように、比較例1で引上げたインゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハの酸素濃度は、結晶中心から外周にかけて大きく変動していることが確認され、特に工夫を施さずに、単に鞍型形状のコイルを採用しただけでは、大口径のシリコン単結晶インゴットを引上げる場合に、酸素濃度のばらつきの問題を解消することができていないことが判った。
【符号の説明】
【0053】
10 引上げ装置
11 チャンバ
12 原料融液
13 石英ルツボ
14 支軸
15 保温筒
16 ヒータ
17 ワイヤケーブル
18 種結晶
19 シリコン単結晶
21 鞍型形状の励磁コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ルツボを挟んで対向配置され、チャンバの外径に沿って湾曲した一対の鞍型形状のコイルにより、前記石英ルツボに貯留されたシリコン原料融液に水平方向に磁場を印加しつつ、前記原料融液からシリコン単結晶インゴットを引上げる方法により引上げられた前記シリコン単結晶インゴットを外周研削し、スライスし、面取り加工して得られたシリコン単結晶ウェーハであって、
前記シリコン単結晶インゴットの直径が450mm以上であり、かつ前記面取り加工後のシリコン単結晶ウェーハの直径のうち、外周から10%の領域を除いて、前記シリコン単結晶ウェーハの酸素濃度ばらつき(面内酸素濃度差/面内酸素濃度平均値)が5%以下である
ことを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ。
【請求項2】
前記シリコン単結晶インゴットの直径は、458mm以上683mm以下である請求項1記載のシリコン単結晶ウェーハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−206936(P2012−206936A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138465(P2012−138465)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【分割の表示】特願2008−152663(P2008−152663)の分割
【原出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】