説明

シリコン単結晶の製造方法

【課題】 シリコン単結晶を製造する際に転位の発生を抑制するシリコン単結晶の製造方法であって、石英るつぼ内表面に不純物層を形成することなく、またシリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮できるシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】 石英るつぼ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とする溶融工程と、前記シリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、前記シリコン融液に磁場を印加しながら前記種結晶を上方に引き上げることによりシリコン単結晶を育成する引き上げ工程とを有するMCZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、
少なくとも、前記溶融工程後、前記引き上げ工程前に、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程と、その後、磁場の印加を止めて放置する工程とを行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法にてシリコン単結晶を育成する方法に関し、特に、磁場を印加してシリコン単結晶を育成する際に転位の発生を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶の育成にはチョクラルスキー法と呼ばれる方法が広く採用されている。その中でも、石英るつぼ内のシリコン融液の対流を抑制するためシリコン融液に対して磁場を印加するMCZ法(磁場印加チョクラルスキー法)が知られている。MCZ法では、石英るつぼ内に多結晶シリコンを収容し、石英るつぼ内で多結晶シリコンをヒーターにより溶融する溶融工程と、シリコン融液の融液表面に種結晶を上から接触させ、コイルによりシリコン融液に磁場を印加しながら種結晶と石英るつぼを回転、上下移動させて種結晶を引き上げる引き上げ工程とを行うことによりシリコン単結晶を育成する。
【0003】
シリコン融液を収容するための石英るつぼは、アモルファス構造をとる非晶質SiO(石英ガラス)より構成されている。石英るつぼはシリコン融液と反応し、SiO/Si界面、すなわちシリコン融液と接する石英るつぼの内表面に結晶質SiOであるクリストバライト結晶層が形成される。シリコン単結晶引き上げ中にクリストバライト結晶層は剥離し、石英るつぼからシリコン融液中に遊離あるいは落下して引き上げ中のシリコン単結晶成長界面に到達することがある。その結果、引き上げ中のシリコン単結晶に入り込んでシリコン単結晶の有転位化の原因となる。
【0004】
そこで、シリコン単結晶引き上げ過程における石英るつぼの内表面のクリストバライトの剥離を防止して、シリコン単結晶の有転位化を回避するため、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1においては、内表面側にアルミニウム低濃度層を有する石英るつぼを用いて、シリコン融液に磁場を印加しながらシリコン単結晶の育成をする方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記の従来技術においては、石英るつぼにアルミニウム低濃度層(不純物層)を形成することによりシリコン単結晶中にこの不純物が含有されてしまうことが問題となる。シリコン単結晶中に不純物が含有されればデバイスへの影響が懸念されるので、石英るつぼ内表面に不純物層を形成することは好ましくない。特に、高純度化が望まれる次世代デバイスではより好ましくない解決手段である。
【0006】
また、特許文献2には、シリコン融液に磁場を断続的に印加しながら石英るつぼに収容されたシリコン融液を加熱することが記載されている。しかしながら、特許文献2には磁場を断続的に印加する具体的態様については一切記載がないため、磁場を断続的に印加する手段は不明である。さらに、シリコン融液に磁場を断続的に複数回印加するためにはコイルの励磁・消磁の作業を繰り返す必要があると考えられるが、煩わしいと同時に作業ミスの危険性が高まる。その上、コイルの励磁・消磁を繰り返すことでシリコン単結晶を製造していない無駄な時間が長時間化してしまう。例えば、特許文献2には「磁場を印加していない総時間は、例えば溶融100時間+引き上げ30時間の単結晶引き上げならば、8時間〜20時間ほどになる」とあるが、実際に結晶を引き上げていない無駄な時間は可能な限り短い方が好ましい。また、「前記磁場の強度を1000ガウスから2000ガウスとし、前記シリコン融液の原料を溶融させるために100時間以上加熱した後、前記単結晶の引き上げを行う」方法も開示されているが、多結晶シリコンを溶融するためだけに要する時間は、チャージ量にも依るが概ね10〜20時間程度である。即ち、特許文献2で記載される100時間以上の加熱というのは多結晶シリコンの溶融終了後に80〜90時間もの無駄な加熱を行うということであり、産業的に非効率であり現実的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−30816号公報
【特許文献2】特開2001−240494号公報
【特許文献3】特開平10−297994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、シリコン単結晶を製造する際に転位の発生を抑制するシリコン単結晶の製造方法であって、石英るつぼに不純物層を形成することなく、またシリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮できるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、
石英るつぼ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とする溶融工程と、前記シリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、前記シリコン融液に磁場を印加しながら前記種結晶を上方に引き上げることによりシリコン単結晶を育成する引き上げ工程とを有するMCZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、
少なくとも、前記溶融工程後、前記引き上げ工程前に、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程と、その後、磁場の印加を止めて放置する工程とを行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0010】
このように、前記溶融工程後、前記引き上げ工程前に、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程と、その後、磁場の印加を止めて放置する工程とを行うシリコン単結晶の製造方法であれば、シリコン融液に対し1回の磁場を印加した放置で石英るつぼ表面にクリストバライトを形成させ、続いて行われる1回のみの磁場の印加を止めた放置でクリストバライトを適度に(クリストバライトが剥離せず、かつ、石英るつぼ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態になるまでには溶解しない程度)溶解させることができるため、シリコン単結晶の有転位化を回避することができるシリコン単結晶の製造方法となる。さらに、磁場を印加する放置と磁場の印加を止めた放置はそれぞれ1回であるためシリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮でき、コイルの励磁・消磁の作業も煩雑ではなく、シリコン単結晶育成装置も通常使用されている単純なものを用いることができるシリコン単結晶の製造方法となる。
【0011】
また、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程において、印加する磁場強度を3000ガウス以上5000ガウス以下とすることが好ましい。
【0012】
このように、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程において、印加する磁場強度を3000ガウス以上5000ガウス以下とすれば、クリストバライトを形成させるための磁場を印加した放置時間を短縮でき、産業的に効率的である。
【0013】
さらに、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程において、放置する時間を1時間以上とすることが好ましい。
【0014】
このように、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程において、放置する時間を1時間以上とすれば、クリストバライトを形成するのに十分な時間となる。
【0015】
また、前記磁場の印加を止めて放置する工程において、放置する時間を1時間以上8時間未満とすることが好ましい。
【0016】
このように、前記磁場の印加を止めて放置する工程において、放置する時間を1時間以上8時間未満とするシリコン単結晶の製造方法であれば、シリコン単結晶の引き上げ工程中にクリストバライトを剥離させないように適度にクリストバライトを溶解し、かつ石英るつぼ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態になるまでにはクリストバライトを溶解しないため、前記引き上げ工程においてクリストバライトの剥離を防止でき、かつ再度のクリストバライトの核形成を防止でき、ひいてはシリコン単結晶の有転位化を回避することが出来るシリコン単結晶の製造方法となる。また、このように、前記磁場の印加を止めて放置する工程において、放置する時間を1時間以上8時間未満とするシリコン単結晶の製造方法であれば、シリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮できるシリコン単結晶の製造方法となる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、前記溶融工程後、前記引き上げ工程前に、前記シリコン融液に1回磁場を印加して放置する工程によりクリストバライトが形成され、その後、1回磁場の印加を止めて放置する工程によりクリストバライトが剥離しない程度にまでクリストバライトを溶解させることができるので、クリストバライトが剥離して成長中のシリコン単結晶を有転位化させることを抑制できるシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。さらに、磁場を印加する放置と磁場の印加を止めた放置はそれぞれ1回であるためシリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮でき、コイルの励磁・消磁の作業も煩雑ではなく、シリコン単結晶育成装置も単純なものを用いることができるシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述のように、石英るつぼに不純物層を形成することなく、またシリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮できるシリコン単結晶の製造方法の開発が望まれていた。
【0019】
通常、MCZ法では、石英ガラスで製造した石英るつぼ内に多結晶シリコンを収容し、石英るつぼ内で多結晶シリコンをヒーターにより溶融する溶融工程と、シリコン融液の融液表面に種結晶を上から接触させ、コイルによりシリコン融液に磁場を印加しながら種結晶と石英るつぼを回転、上下移動させて種結晶を引き上げる引き上げ工程とを行うことによりシリコン単結晶を育成する。しかしながら、前述のようにクリストバライトがシリコン融液中に剥離して育成中のシリコン単結晶の有転位化を招く問題があった。
【0020】
そこで本発明者は鋭意検討を重ね、結晶引き上げ前にシリコン融液を加熱する方法を工夫することで、結晶を引き上げていない準備時間を短くしつつ、シリコン単結晶の有転位化を回避する方法を見出した。
【0021】
すなわち、本発明者は、溶融工程後、引き上げ工程前にシリコン融液に磁場を印加することに着目し、(1)シリコン融液への磁場の印加は断続的に行う必要はなく、多結晶シリコンの溶融終了後に1回の磁場を印加した放置と1回の磁場の印加を止めた放置を行った後にMCZ法にてシリコン単結晶を引き上げれば良いことを見出し本発明を完成させた。さらに、本発明者は、好ましくは(2)磁場を印加した放置は3000ガウス以上5000ガウス以下で1時間以上行えば十分であること、また(3)磁場の印加を止めた放置は1時間以上8時間未満で十分であることを見出した。このような放置時間であれば、引き上げ工程までの準備時間は、コイルの励磁・消磁に要する2時間を加えても、顕著に短縮することができる。これにより、本発明のシリコン単結晶の製造方法であれば石英るつぼ内表面に不純物層を形成する必要はなく、シリコン単結晶中に不純物が含有されることによるデバイスへの影響を懸念しなくともよい。また、磁場を印加する放置と磁場の印加を止めた放置はそれぞれ1回であるためシリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮でき、コイルの励磁・消磁の作業も煩雑ではなく、シリコン単結晶育成装置も単純なものを用いることができるシリコン単結晶の製造方法となる。
【0022】
特許文献2や特許文献3に開示されているように、シリコン融液に磁場を印加した環境下では石英るつぼ表面にクリストバライトが形成され、磁場の印加を止めた環境下では形成したクリストバライトはシリコン融液に徐々に溶解される。本発明者が、多結晶シリコンの溶融工程終了後に、シリコン融液に4000ガウスの磁場を印加して1時間放置し、磁場の印加を止めて放置せずに、その後MCZ法にてシリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程をした後の石英るつぼの表面のクリストバライトを観察したところ、いわゆるブラウンリングの中心付近にクリストバライトの剥離した跡が観察された。一方、多結晶シリコンの溶融工程終了後に、シリコン融液に4000ガウスの磁場を印加して1時間放置し、次に磁場の印加を止めて5時間放置した後に、MCZ法にて結晶を引き上げる引き上げ工程をした後の石英るつぼの表面では、ブラウンリングは溶解しており観察されず、アモルファスシリカの海にまだらにクリストバライトが島状に形成されていた。さらに、磁場の印加を止めて放置をせずにMCZ法により育成されたシリコン単結晶と、印加を止めて放置をしてMCZ法により育成されたシリコン単結晶それぞれ10本について、有転位化が起こる回数を調べたところ、磁場の印加を止めて放置をしない場合では10本全てのシリコン単結晶で有転位化しているのに対し、印加を止めて放置をする場合では有転位化は認められなかった。
【0023】
即ち、シリコン融液に4000ガウスの磁場を印加して放置するのみでは、引き上げ工程時に磁場の印加により形成されたクリストバライトが剥離して、剥離したクリストバライトはシリコン融液中に溶け終わる前にシリコン単結晶成長時の固液界面に到達し、シリコン単結晶の有転位化を招いてしまうことが分かった。一方で、磁場の印加を止めて放置することによりクリストバライトを適度に溶解すると、シリコン単結晶育成中(引き上げ工程時)のクリストバライトの剥離を抑制でき、育成中のシリコン単結晶を有転位化させないことが分かった。また仮にクリストバライトを適度に溶解した状態で、石英るつぼからクリストバライトが剥離しても、適度に溶解されたクリストバライトは厚さが薄くなっているためシリコン融液中に溶解し、シリコン単結晶の固液界面まで到達せず、成長中のシリコン単結晶を有転位化させないことが分かった。
【0024】
また、多結晶シリコンの溶融工程終了後に、シリコン融液に4000ガウスの磁場を印加して1時間放置し、次に磁場を切って8時間放置した後にMCZ法にて結晶を引き上げた石英るつぼの表面では、再びブラウンリングが観察され、その中心付近にはクリストバライトの剥離した跡が観察された。これは1時間の磁場を印加した放置で形成されたクリストバライトが8時間の磁場の印加を止めた放置によりかなり溶解してしまい、石英るつぼ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態に戻ってしまったこと、そしてMCZ法の引き上げ工程の際に再度クリストバライトの核形成・成長及び剥離が起きたことを意味している。言い換えると、石英るつぼ表面にクリストバライトが残っているときには新たなクリストバライトの核形成は起こりにくいが、表面全面がアモルファスシリカの状態では核形成が起きうることを示唆している。即ち、磁場の印加を止めた放置を長時間(1時間の磁場を印加して放置した場合は8時間以上)行ってクリストバライトをほとんど溶解してしまうと、その後のMCZ法による結晶引き上げの際にシリコン単結晶が有転位化する可能性が高まってしまうということである。
【0025】
そこで本発明者は、上記知見に基づき、結晶引き上げ工程前の石英るつぼ表面状態がアモルファスシリカの海にまだらにクリストバライトが島状に形成されている状態であれば、育成中のシリコン単結晶の有転位化が抑制されるという考えに至った。そして、シリコン融液に対する磁場のオン・オフを断続的に行うことはシリコン単結晶を製造していない無駄な時間を長期化させるだけであるため必要ではなく、シリコン融液に対し1回の磁場を印加した放置で石英るつぼ表面にクリストバライトを形成させ、続いて行われる1回のみの磁場の印加を止めた放置でクリストバライトを適度に(クリストバライトが剥離せず、かつ、石英るつぼ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態になるまでには溶解しない)溶解させることができ、シリコン単結晶の有転位化を回避することができ、かつシリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮できることを見出した。以下詳細に説明していく。
【0026】
本発明は、
石英るつぼ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とする溶融工程と、前記シリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、前記シリコン融液に磁場を印加しながら前記種結晶を上方に引き上げることによりシリコン単結晶を育成する引き上げ工程とを有するMCZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、
少なくとも、前記溶融工程後、前記引き上げ工程前に、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程と、その後、磁場の印加を止めて放置する工程とを行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法である。
【0027】
[溶融工程]
前記溶融工程は石英るつぼ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とする工程である。
【0028】
[シリコン融液に磁場を印加して放置する工程]
前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程は、前記溶融工程後、前記引き上げ工程前に、1回シリコン融液に磁場を印加して放置する工程である。この工程により、石英るつぼはシリコン融液と反応し、石英るつぼとシリコン融液の界面にクリストバライトが形成される。この工程において、クリストバライトが形成されるようにシリコン融液に磁場を印加して放置し、続く前記磁場の印加を止めて放置する工程で、クリストバライトを適度に溶解することで、育成中のシリコン単結晶が有転位化することを防ぐことができる。
【0029】
前記シリコン融液に印加する磁場強度は3000ガウス以上5000ガウス以下であることが好ましい。前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程において、石英るつぼの内表面に1回クリストバライトを形成させる際に磁場強度が3000ガウス以上であれば放置時間を短縮でき、産業的に効率が良い。一方、5000ガウスも印加すれば十分である。また、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程において、磁場を印加して放置する時間は、1時間以上であることが好ましい。磁場を印加して放置する時間が1時間以上であれば、石英るつぼ表面にクリストバライトを形成させるのに十分な時間となり、また効率の観点からも十分に短い時間となる。さらに、石英るつぼ表面を1回クリストバライト化させるのに必要な磁場を印加した放置の時間を調査したところ、3000ガウス以上5000ガウス以下の磁場を印加すれば必要な時間は1時間で十分となる。また、磁場を印加した放置の最大時間を10時間とすることが好ましい。磁場を印加した放置時間が10時間以下であれば、石英るつぼ表面のクリストバライトの形成が進みすぎることがない。そのため、続く磁場の印加を止めて放置する工程において、石英るつぼ表面に形成されたクリストバライトを溶解させるための放置時間を短くすることができ、シリコン単結晶の高効率な生産が保たれるため好ましい。特に、磁場を印加した放置時間が1時間以上10時間以下の場合、続く磁場の印加を止めて放置する工程において放置する時間を1時間以上8時間未満とすることが好ましく、これによりシリコン単結晶を育成していない無駄な時間を短縮することができ、シリコン単結晶の高効率な生産を保つことができる。
【0030】
[磁場の印加を止めて放置する工程]
前記磁場の印加を止めて放置する工程は、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程の後、1回磁場の印加を止めて放置する工程である。この工程により、石英るつぼ表面に形成されたクリストバライトは適度に溶解する。この工程において、石英るつぼの内表面に形成されたクリストバライトが引き上げ工程中に剥離しないように磁場の印加を止めて放置し、前記引き上げ工程中に剥離しない程度にまで溶解することが好ましい。クリストバライトが剥離してシリコン単結晶成長時の固液界面に到達すれば有転位化を引き起こす可能性があるからである。また、この工程において石英るつぼ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態になるまでにはクリストバライトが溶解しないように磁場の印加を止めて放置することが好ましい。この工程において、石英るつぼ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態になるまでクリストバライトが溶解すれば、引き上げ工程中の磁場の印加により新たにクリストバライトの核形成が起こりやすくなり、クリストバライトが剥離し有転位化を引き起こす可能性があるからである。
【0031】
このような磁場の印加を止めて放置する時間は、1時間以上8時間未満であることが好ましい。磁場の印加を止めて放置する時間が1時間以上であればクリストバライトが剥離しない程度にまで十分に溶解することができ、また剥離したとしても剥離したクリストバライトは固液界面に到達する前にシリコン融液中に溶解するのに十分な薄さとなるため好ましい。また、磁場の印加を止めて放置する時間が8時間未満であれば、新たなクリストバライトの核形成が生じるようになるまで、クリストバライトが溶解し過ぎないため好ましい。よって、磁場の印加を止めて放置する時間が1時間以上8時間未満であれば、シリコン単結晶の引き上げ工程中にクリストバライトを剥離させないために適度にクリストバライトを溶解し、かつ石英るつぼ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態になるまでにはクリストバライトを溶解させない時間となるため好ましい。
【0032】
尚、放置温度を高温化すれば前記磁場を印加して放置する工程、前記磁場の印加を止めて放置する工程それぞれの放置時間を短くすることが可能である。放置温度を高温化することにより、放置時間を本発明の範囲内のより短時間側に設定することが出来る。高温化により石英るつぼが変形し、シリコン単結晶の製造に支障をきたす恐れがある場合は、引上機内の炉内構造などにより、放置する温度と時間は適宜調整すれば良い。これらの放置温度はヒーターパワーを調整することで可能であるし、また石英るつぼ表面の温度が重要であるので、るつぼ回転速度(CR)の調整によっても変えることができる。これらの放置温度は、シリコン単結晶を引き上げるために種結晶をシリコン融液に接触させるときの温度である種付け温度としたときは、磁場を印加して放置する時間は1時間以上が好ましく、磁場の印加を止めて放置する時間は1時間以上8時間未満であることが好ましい。このようにシリコン融液を種付け温度として放置すれば、放置後すぐに種結晶をシリコン融液に接触させて種付けし、シリコン単結晶の育成を開始することができる。
【0033】
[引き上げ工程]
前記引き上げ工程は、前記シリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、前記シリコン融液に磁場を印加しながら前記種結晶を上方に引き上げることによりシリコン単結晶を育成する工程である。この工程は引き上げるシリコン単結晶の仕様に応じて条件を設定し、一般に行われるシリコン単結晶の引き上げ法により行えばよい。
【0034】
以上の実施態様により、本発明は、シリコン単結晶を製造する際に転位の発生を抑制することができるシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮できるシリコン単結晶の製造方法となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[シリコン単結晶の製造方法]
原料の多結晶シリコン400kgを石英るつぼに収容し、磁場を印加せずに10時間かけて溶融しシリコン融液とした(溶融工程)。その後、表1の縦方向に記した時間でシリコン融液に4000ガウスの磁場を印加して放置を1回行い、次いで磁場の印加を止めて表1の横方向に記す時間で放置を1回行った。その後、再度シリコン融液に4000ガウスの磁場を印加し、直径300mmのシリコン単結晶を引き上げた(引き上げ工程)。実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0037】
表1中、磁場を印加して放置する時間が0時間、又は印加を止めて放置する時間が0時間であるものは、磁場を印加した放置又は磁場の印加を止めた放置を行っていない比較例であり、その他が実施例(網掛け部)である。それぞれ10本のシリコン単結晶をMCZ法で引き上げた時の有転位化の回数が表1中に示されている。尚、ここで言う有転位化の回数とは、10本のシリコン単結晶のうちで有転位化したシリコン単結晶の本数である。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示した結果より、比較例である磁場の印加を止めた放置が0時間の場合では、高い頻度で有転位化することが明らかとなり、同じく比較例の磁場を印加した放置が0時間の場合は必ず(10回)有転位化することが明らかとなった。一方で、本発明の実施例では有転位化回数が、比較例と比べ明らかに低いことが示された。特に、磁場を印加した放置が1時間以上で、磁場なし放置が1時間以上8時間未満である実施例の場合には有転位化の回数が2回以内に収まっており、本発明の効果が特に顕著に表れることが明らかとなった。
【0040】
これにより、溶融工程後、引き上げ工程前に、シリコン融液に1回磁場を印加して放置する工程と、その後、1回磁場の印加を止めて放置する工程とを有することで、シリコン単結晶を製造する際に転位の発生を抑制するシリコン単結晶の製造方法となることが明らかとなった。特に、表1に示されるように本発明の実施例の1回磁場を印加して放置する時間を1時間以上10時間以下とし、1回磁場の印加を止めて放置する時間を1時間以上8時間未満とした場合にはシリコン単結晶の有転位化が顕著に抑制されるのみならず、これら放置時間にコイルの励磁・消磁に要する時間(2時間)を合計しても4時間以上20時間未満となり、シリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮できることが示された。この4時間以上20時間未満という値は、例えば、前述特許文献2と比べても、シリコン単結晶を製造していない無駄な時間を顕著に短縮できたことを示している。また、磁場を印加した放置時間を15時間以上、又は磁場の印加を止めた放置時間を9時間以上としても、比較例と比べシリコン単結晶の有転位化を抑制できることが示され、特に、磁場を印加した放置時間の長さ(クリストバライトの形成の進み具合)に応じて磁場の印加を止めた放置時間を適宜調整することでシリコン単結晶の有転位化を十分抑制できることが示された。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英るつぼ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とする溶融工程と、前記シリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、前記シリコン融液に磁場を印加しながら前記種結晶を上方に引き上げることによりシリコン単結晶を育成する引き上げ工程とを有するMCZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、
少なくとも、前記溶融工程後、前記引き上げ工程前に、前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程と、その後、磁場の印加を止めて放置する工程とを行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程において、印加する磁場強度を3000ガウス以上5000ガウス以下とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン融液に磁場を印加して放置する工程において、放置する時間を1時間以上とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記磁場の印加を止めて放置する工程において、放置する時間を1時間以上8時間未満とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。



【公開番号】特開2012−82121(P2012−82121A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232064(P2010−232064)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】