シリコン単結晶の製造方法
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法と称する)により製造された絶縁酸化膜の耐電圧特性(以下、酸化膜耐圧と称する)に代表されるデバイス特性に優れたシリコン単結晶およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】CZシリコン単結晶は、結晶強度が高いなどの優れた特徴を有しているため、従来よりLSI用の材料として広く用いられている。ところが、シリコン単結晶の酸化膜耐圧は、製造方法の根本的な違いにより大きく異なることが知られており、CZシリコン単結晶の酸化膜耐圧はフローティングゾーン法により製造されたシリコン単結晶やCZシリコンウェーハ上にシリコン薄膜をエピタキシャル成長させたウェーハのそれに比べて著しく低い。しかしながら、近年のMOSデバイス集積度の増大にともない、ゲート酸化膜の信頼性向上が強く望まれるところとなり、酸化膜耐圧はその信頼性を決定する重要な材料特性の1つであるため、酸化膜耐圧特性の優れたCZシリコン単結晶の製造技術開発が重要視されていた。
【0003】酸化膜耐圧の優れたCZシリコン単結晶の製造方法としては、特開平2−267195号にCZ法により直径100mm以上のシリコン単結晶を製造する方法において、結晶成長速度を0.8mm/分以下とすることを特徴とする方法が開示されている。しかしながら、この方法では生産性が悪いため、実用的ではなかった。
【0004】また、特許1742752号では、引き上げられつつあるシリコン単結晶の1100℃から900℃への温度降下を3時間以上かけてゆっくり行う温度制御法を実施し、半導体デバイス工程での酸素析出物密度を減少させる方法が示されているが、後述するように、本発明者らは酸素析出物密度を低下させる徐冷温度と酸化膜耐圧特性を改善させる徐冷温度域は異なっており、酸素析出物密度を減少させる温度域を徐冷するとむしろ酸化膜耐圧特性が劣化することを見出した。
【0005】また、特開平5−70283号では、シリコン単結晶を製造する際に、成長するシリコン単結晶の1150℃以上になる温度領域がシリコン融液上方に280mm以上となるような引上げ方法、即ち1150℃以上に限定された温度領域が徐冷される引上げ方法が提案されている。また同出願人から、特開平5−9096号において、積層欠陥の発生を抑制するとともに酸化膜耐圧特性を向上させることを目的として、結晶の冷却速度を遅くするためのある限定された温度制御機構を用いて結晶製造速度を0.8mm/分から1.1mm/分に限定する方法が提案されている。このように従来の酸化膜耐圧の改善方法は、ある限定された温度域を徐冷する、あるいはある限定された温度制御機構を用いつつある限定された製造速度で結晶製造を行う方法しか存在していなかった。
【0006】また、文献/セミコンダクター サイエンス アンド テクノロジー(Semiconductor Science and Technology)、7巻、ページ406(1992年)では、結晶製造過程において酸素析出特性に関連する臨界温度の可変性が述べられているが、酸化膜耐圧特性などのデバイス特性に関しては一切述べていない。
【0007】したがって、徐冷温度領域を限定せず、かつ結晶製造速度を限定しない酸化膜耐圧の優れたCZシリコン単結晶を製造する方法が必要とされていたが、従来そのような方法は存在していなかった。また、結晶製造過程における融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配と、酸化膜耐圧に代表されるデバイス特性の関係を記述した特許文献および技術文献はこれまでに全く見られない。
【0008】絶縁酸化膜の耐電圧特性は、上層がアルミニウム、下層がドープされた多結晶シリコンからなる2層ゲート電極を有し、その電極面積が20mm2 で、絶縁酸化膜厚が25.0nmであるMOSダイオードを当該シリコン単結晶から切り出したシリコンウェーハ上全面に実装し、基板シリコンから多数キャリアが注入される極性の直流電圧を各MOSダイオードに印加して電圧ランピング法により評価される。酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2 の時の該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上の領域は、真性破壊領域あるいはCモード領域と呼ばれ、結晶中に酸化膜耐圧特性を劣化させる結晶欠陥(以下、耐圧劣化因子と称する)が存在しないことを示す領域である。該酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2 の時の該酸化膜にかかる平均電界が1.0MV/cmから8.0MV/cmの場合は、Bモード領域と呼ばれ、結晶中に耐圧劣化因子が存在することを示す領域である。従来のCZシリコン結晶は、Cモード領域で絶縁破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合が、1ウェーハにつき10から30%程度であり、Bモード領域で絶縁破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合も多い。したがって、Cモード領域で絶縁破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合が40%以上であり、Bモード領域で破壊するダイオードが少ない、あるいは、最小破壊電界値が高い(例えば、6.0MV/cm以下で破壊するダイオードが20%未満である)ようなCZシリコン単結晶が酸化膜耐圧特性の優れたCZシリコン結晶である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明は、徐冷温度領域を限定しない、酸化膜耐圧特性に代表されるデバイス特性に優れたCZシリコン結晶を製造する方法および酸化膜耐圧特性に代表されるデバイス特性に優れたCZシリコン結晶を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明においては、CZ法によりシリコン単結晶を製造する方法のうち、製造されつつある該シリコン単結晶をある結晶温度領域で徐冷する方法において、融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mmとし、徐冷温度領域での冷却速度が極小となる温度(以下、最徐冷温度)をT℃した場合、Tが1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gとなるように徐冷する(本発明方法(1))。さらに、酸化膜耐圧特性を向上させるために、T±100℃の温度領域での冷却速度を1.0℃/分以下にする(本発明方法(2))。
【0011】
【0012】
【作用】以下、図および表を用いながら本発明について説明する。
【0013】図1は、本発明の熱処理を施したシリコン単結晶の酸化膜耐圧を評価する際に、シリコンウェーハ上に実装したMOSダイオードの断面であり、シリコンウェーハ1の上に酸化けい素膜2が形成され、その上に上層がアルミニウム3、下層がドープされた結晶シリコン4からなる直径5mmの2層ゲート電極5が形成されている。
【0014】次に、本発明の熱処理を施したシリコン単結晶における酸化膜耐圧特性に関する評価手段を表1により説明する。表1は、酸化膜耐圧を測定するために作製されるMOSダイオードの製造工程を示す表である。
【0015】
【表1】
【0016】CZシリコンインゴットをスライスし、ラッピング、ポリッシングなど、通常のシリコンウェーハを工業的に製造するために必要な諸過程を経て得られたウェーハを洗浄し(1)、ゲート酸化を行って酸化けい素膜を形成し(2)、多結晶シリコン膜を堆積させ(3)、この多結晶シリコンにイオン注入してドープする(6)。酸化前洗浄(4)および多結晶シリコンの酸化(5)はイオン注入(6)の前処理である。ついで、アニール前洗浄(7)を行い、ドライブアニールして多結晶シリコン中のドーパントを固溶化し(8)、多結晶シリコン膜をエッチング除去し(9)、アルミニウムを蒸着しアルミニウム層を形成する(10)。つぎに、直径5mmの2層ゲート電極を実装するためにリソグラフィ(11)によりポジレジスト膜をコートして、パターニングした後、アルミニウム膜をエッチングし(12)、多結晶シリコン膜をエッチングして(13)、レジスト膜を除去する(14)。そして、水素アニールによりけい素/酸化けい素膜界面を安定化した後(15)、表面にレジスト膜を塗布してMOSダイオードを保護し(16)、プラズマエッチングにより裏面多結晶シリコン膜を除去する(17)。表面に保護用のレジスト膜を再塗布して(18)、裏面酸化膜をエッチングにより除去し(19)、p型の場合には金を、n型の場合には金・アンチモン合金を蒸着して裏面電極を形成する(20)。最後に、保護用レジスト膜を除去した後(21)、電圧ランピング法により酸化膜耐圧特性を評価する(22)。電圧ランピング法とは、図1において、基板シリコンから多数キャリアが注入される極性の直流電圧をアルミニウム層3と裏面電極との間に印加し、その電圧を時間に対してステップ状に増加させる方法である。本発明では、該電圧ランピング法の1ステップ当たりの電圧増加を電界換算で0.25MV/cm、保持時間を200ms/ステップとした。
【0017】本発明者らは、様々な酸化膜耐圧特性を有する結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配および製造中の冷却条件を詳細に調査した結果、凝固界面の温度勾配、冷却条件と耐圧劣化因子の形成の間に次のような関係があることを発見した。即ち、CZ法によるシリコン製造過程において、凝固界面付近で熱平衡濃度で存在していた真性点欠陥が凝固とともに結晶内に取り込まれ、結晶の冷却とともに過飽和状態となる。過飽和となった点欠陥は結晶表面への外方拡散および凝固界面への坂道拡散によってその濃度は低下するものの、結晶の冷却速度が速いため、点欠陥の過飽和度は増大する。冷却が進み、点欠陥の過飽和度がある臨界値を越えると、点欠陥同士が凝集体を形成しはじめる。その凝集体を核として酸素析出物が形成し、その酸素析出物が耐圧劣化因子となる。酸素析出物のサイズが酸化膜耐圧特性に強い影響を及ぼし、サイズが大きいほど酸化膜の絶縁破壊電界が低くなり、酸化膜耐圧特性は劣化する。逆に酸素析出物のサイズが小さい場合には、酸素析出物が高密度に存在していても酸化膜耐圧は劣化しない。一方、過飽和点欠陥は凝集を開始する直前の高温側で烈しく対消滅を起こし、濃度が低下する。この濃度の低下が点欠陥同士の凝集開始温度、即ち酸素析出物の形成開始温度を低下させ、酸素析出物の成長を抑制し、酸素析出物のサイズを低下させ、結果として酸化膜耐圧特性を向上させる。
【0018】これらの機構により、点欠陥が凝集を開始する温度以下での徐冷を受けた結晶では、点欠陥の凝集が進み、酸素析出物の密度は著しく低下するもののサイズは大きくなり、酸化膜耐圧特性は著しく劣化する。それに対し、点欠陥凝集開始温度の直前の高温側での徐冷を受けた結晶では点欠陥の対消滅が進み、酸素析出物サイズは小さくなり、酸化膜耐圧は向上する。
【0019】凝固界面の温度勾配が急峻な場合には、凝固界面付近での点欠陥の過飽和度の急激な増大により、結晶内に取り込まれた点欠陥の界面方面への坂道拡散が頻繁に生じて点欠陥濃度が著しく低下するため、温度勾配が穏やかな場合に比べて凝固界面から離れた位置での点欠陥の過飽和度の増大は、逆に緩やかになる。従って、凝固界面の温度勾配が急峻な場合には、点欠陥同士が凝集を開始する温度は低温側に移動する。即ち、酸素析出物の形成開始温度が低温側に移動する。点欠陥の対消滅が生じる温度(以下、酸化膜耐圧改善温度と称することもある)は酸素析出物の形成開始温度の移動に追従して移動する。従って、酸化膜耐圧改善温度は凝固界面の温度勾配に依存して可変であり、凝固界面の温度勾配の増加にともない低温側に移動する。本発明者らは、凝固界面の温度勾配をG℃/mmとし、最徐冷温度をT℃とした場合、Tが1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gである場合に酸化膜耐圧が改善することを発見した。さらに、T±100℃の温度領域での冷却速度を1.0℃/分以下にした場合に、酸化膜耐圧がより改善することが分かった。
【0020】
【実施例】以下に本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明がこれらの実施例の記載によって制限されるものでないことは言うまでもない。
【0021】実施例1本発明に用いられるシリコン単結晶製造装置は、通常CZ法によるシリコン単結晶製造に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、本実施例では図2に示すような製造装置を用いた。
【0022】このCZシリコン単結晶製造装置は、シリコン融液Mを収容する石英ルツボ26aとこれを保護する黒鉛ルツボ26bとから構成されたルツボ26と育成されたシリコン単結晶インゴットSを収容する結晶引上炉21である。ルツボ26の側面部には加熱ヒーター24と加熱ヒーター24からの熱が結晶引上炉外部に逃げるのを防止するため断熱部材23が取り囲むように設置されており、このルツボ26は図示されていない駆動装置と回転治具25によって接続され、この駆動装置によって所定の速度で回転されるとともに、ルツボ26内のシリコン融液の減少にともないシリコン融液面が低下するのを補うためにルツボ26を昇降させるようになっている。引上炉21内には、垂下された引上げワイア27が設置され、このワイア27の下端には種結晶28を保持するチャック29が設けられている。この引上げワイア27の上端側は、ワイヤ巻上機22に巻き取られて、シリコン単結晶インゴットを引き上げるようになった引上げ装置が設けられている。そして、引上炉21内には、引上炉21に形成されたガス導入口30からArガスが導入され、引上炉21内を流通してガス流出口31から排出される。このようにArガスを流通させるのは、シリコンの溶融にともなって引上炉21内に発生するSiOをシリコン融液内に混入させないようにするためである。温度制御装置40は引上炉21内で結晶を徐冷するために設置している。温度制御装置40の位置を上下方向に移動することにより徐冷温度域の変更が行なわれる。温度制御装置40としては、製造されるシリコン単結晶を取り囲むように設置された黒鉛などの断熱保温材や加熱ヒーター等が有効である。温度勾配制御装置50は引上炉21内で凝固界面の結晶軸方向の温度勾配を制御するために設置している。温度勾配制御装置50としては、製造されるシリコン単結晶を取り囲むように設置された黒鉛板や金属板などが冷却には有効で、また黒鉛板や金属板をガスや液体などを用いて強制冷却してもよい。一方、シリコン単結晶を取り囲むように設置された黒鉛などの断熱保温材や加熱ヒーター等が徐冷には有効である。
【0023】この装置を使用して、以下の条件で複数のシリコン単結晶を製造した。融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mm、最徐冷温度をT℃とした場合、図3に示すようにこれらの結晶はいずれも、1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gの関係にあり、かついずれの結晶もT±100℃の温度領域の冷却速度は常には1.0℃/分以下ではない。
【0024】この条件で育成された複数のシリコン単結晶インゴットの製造条件等を表2に示した。
【0025】
【表2】
【0026】このインゴットから切りだしたウェーハの酸化膜耐圧を測定し、図4に示した。これらのシリコンウェーハの酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2の時に該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上を示すMOSダイオードの個数の総数に占める割合(Cモード比率)はいずれも40%以上であり、同時に6.0MV/cm以下の電界で破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合は1ウェーハにつき20%未満であり、本発明の方法で製造されたシリコン単結晶インゴットから切り出されたウェーハは、良好な酸化膜耐圧特性を有していることを示している。
【0027】実施例2実施例1の装置を用いて、以下の条件で複数のシリコン単結晶を製造した。融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mm、最徐冷温度をT℃とした場合、図5に示すようにこれらの結晶はいずれも、1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gの関係にあり、かついずれの結晶もT±100℃の温度領域の冷却速度は常に1.0℃/分以下である。
【0028】この条件で育成された複数のシリコン単結晶インゴットの製造条件等を表3に示した。
【0029】
【表3】
【0030】このインゴットから切りだしたウェーハの酸化膜耐圧を測定し、図6に示した。これらのシリコンウェーハの酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2の時に該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上を示すMOSダイオードの個数の総数に占める割合(Cモード比率)はいずれも40%以上であり、同時に6.0MV/cm以下の電界で破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合は1ウェーハにつき20%未満であり、本発明の方法で製造されたシリコン単結晶インゴットから切り出されたウェーハは、良好な酸化膜耐圧特性を有していることを示している。
【0031】比較例1本比較例では、実施例1の装置を用いて、以下の条件で複数のシリコン単結晶を製造した。融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mm、最徐冷温度をT℃とした場合、図7に示すようにこれらの結晶はいずれも、1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gの条件を充たしておらず、かついずれの結晶もT±100℃の温度領域の冷却速度は常には1.0℃/分以下ではない。
【0032】この条件で育成された複数のシリコン単結晶インゴットの製造条件等を表4に示した。
【0033】
【表4】
【0034】このインゴットから切りだしたウェーハの酸化膜耐圧を測定し、図8に示した。これらのシリコンウェーハの酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2の時に該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上を示すMOSダイオードの個数の総数に占める割合(Cモード比率)はいずれも40%未満であり、同時に6.0MV/cm以下の電界で破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合は1ウェーハにつき20%以上であり、酸化膜耐圧特性が良好でないことを示している。
【0035】比較例2本比較例では、実施例1の装置を用いて、以下の条件で複数のシリコン単結晶を製造した。融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mm、最徐冷温度をT℃とした場合、図9に示すようにこれらの結晶はいずれも、1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gの条件を充たしておらず、かついずれの結晶もT±100℃の温度領域の冷却速度は常に1.0℃/分以下である。
【0036】この条件で育成された複数のシリコン単結晶インゴットの製造条件等を表5に示した。
【0037】
【表5】
【0038】このインゴットから切りだしたウェーハの酸化膜耐圧を測定し、図10に示した。これらのシリコンウェーハの酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2 の時に該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上を示すMOSダイオードの個数の総数に占める割合(Cモード比率)はいずれも40%未満であり、同時に6.0MV/cm以下の電界で破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合は1ウェーハにつき20%以上であり、酸化膜耐圧特性が良好でないことを示している。
【0039】
【発明の効果】本発明のシリコン単結晶あるいは本発明の製造方法によるシリコン単結晶は、酸化膜耐圧特性に代表されるデバイス特性に優れているため、MOSデバイス用ウェーハはもとより各種構造を有するデバイスに適する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来の方法でシリコン単結晶の絶縁酸化膜の耐電圧特性を評価するために実装したMOSダイオードの一部断面図である。
【図2】 本発明の実施例に用いたCZ法シリコン単結晶製造装置の概略図である。
【図3】 本発明の実施例1の複数の結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配G℃/mmと最徐冷温度T℃の関係を示す図である。
【図4】 本発明の実施例1の複数の結晶の酸化膜耐圧特性を示す図である。
【図5】 本発明の実施例2の複数の結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配G℃/mmと最徐冷温度T℃の関係を示す図である。
【図6】 本発明の実施例2の複数の結晶の酸化膜耐圧特性を示す図である。
【図7】 比較例1の複数の結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配G℃/mmと最徐冷温度T℃の関係を示す図である。
【図8】 比較例1の複数の結晶の酸化膜耐圧特性を示す図である。
【図9】 比較例2の複数の結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配G℃/mmと最徐冷温度T℃の関係を示す図である。
【図10】 比較例2の複数の結晶の酸化膜耐圧特性を示す図である。
【符号の説明】
1…シリコンウェーハ、 2…酸化けい素膜(絶縁酸化膜)、3…アルミニウム膜、 4…多結晶シリコン、5…2層ゲート電極、21…結晶引上炉(CZ法シリコン単結晶製造装置)、22…ワイア巻上機、 23…断熱部材、24…加熱ヒーター、 25…回転治具、26…ルツボ、26a…石英ルツボ、 26b…黒鉛ルツボ、27…引上げワイア、 28…種結晶、29…チャック、 30…ガス導入口、31…カス排出口、 40…温度制御装置(結晶徐冷装置)、50…温度勾配制御装置、M…シリコン融液、 S…シリコン単結晶インゴット。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法と称する)により製造された絶縁酸化膜の耐電圧特性(以下、酸化膜耐圧と称する)に代表されるデバイス特性に優れたシリコン単結晶およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】CZシリコン単結晶は、結晶強度が高いなどの優れた特徴を有しているため、従来よりLSI用の材料として広く用いられている。ところが、シリコン単結晶の酸化膜耐圧は、製造方法の根本的な違いにより大きく異なることが知られており、CZシリコン単結晶の酸化膜耐圧はフローティングゾーン法により製造されたシリコン単結晶やCZシリコンウェーハ上にシリコン薄膜をエピタキシャル成長させたウェーハのそれに比べて著しく低い。しかしながら、近年のMOSデバイス集積度の増大にともない、ゲート酸化膜の信頼性向上が強く望まれるところとなり、酸化膜耐圧はその信頼性を決定する重要な材料特性の1つであるため、酸化膜耐圧特性の優れたCZシリコン単結晶の製造技術開発が重要視されていた。
【0003】酸化膜耐圧の優れたCZシリコン単結晶の製造方法としては、特開平2−267195号にCZ法により直径100mm以上のシリコン単結晶を製造する方法において、結晶成長速度を0.8mm/分以下とすることを特徴とする方法が開示されている。しかしながら、この方法では生産性が悪いため、実用的ではなかった。
【0004】また、特許1742752号では、引き上げられつつあるシリコン単結晶の1100℃から900℃への温度降下を3時間以上かけてゆっくり行う温度制御法を実施し、半導体デバイス工程での酸素析出物密度を減少させる方法が示されているが、後述するように、本発明者らは酸素析出物密度を低下させる徐冷温度と酸化膜耐圧特性を改善させる徐冷温度域は異なっており、酸素析出物密度を減少させる温度域を徐冷するとむしろ酸化膜耐圧特性が劣化することを見出した。
【0005】また、特開平5−70283号では、シリコン単結晶を製造する際に、成長するシリコン単結晶の1150℃以上になる温度領域がシリコン融液上方に280mm以上となるような引上げ方法、即ち1150℃以上に限定された温度領域が徐冷される引上げ方法が提案されている。また同出願人から、特開平5−9096号において、積層欠陥の発生を抑制するとともに酸化膜耐圧特性を向上させることを目的として、結晶の冷却速度を遅くするためのある限定された温度制御機構を用いて結晶製造速度を0.8mm/分から1.1mm/分に限定する方法が提案されている。このように従来の酸化膜耐圧の改善方法は、ある限定された温度域を徐冷する、あるいはある限定された温度制御機構を用いつつある限定された製造速度で結晶製造を行う方法しか存在していなかった。
【0006】また、文献/セミコンダクター サイエンス アンド テクノロジー(Semiconductor Science and Technology)、7巻、ページ406(1992年)では、結晶製造過程において酸素析出特性に関連する臨界温度の可変性が述べられているが、酸化膜耐圧特性などのデバイス特性に関しては一切述べていない。
【0007】したがって、徐冷温度領域を限定せず、かつ結晶製造速度を限定しない酸化膜耐圧の優れたCZシリコン単結晶を製造する方法が必要とされていたが、従来そのような方法は存在していなかった。また、結晶製造過程における融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配と、酸化膜耐圧に代表されるデバイス特性の関係を記述した特許文献および技術文献はこれまでに全く見られない。
【0008】絶縁酸化膜の耐電圧特性は、上層がアルミニウム、下層がドープされた多結晶シリコンからなる2層ゲート電極を有し、その電極面積が20mm2 で、絶縁酸化膜厚が25.0nmであるMOSダイオードを当該シリコン単結晶から切り出したシリコンウェーハ上全面に実装し、基板シリコンから多数キャリアが注入される極性の直流電圧を各MOSダイオードに印加して電圧ランピング法により評価される。酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2 の時の該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上の領域は、真性破壊領域あるいはCモード領域と呼ばれ、結晶中に酸化膜耐圧特性を劣化させる結晶欠陥(以下、耐圧劣化因子と称する)が存在しないことを示す領域である。該酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2 の時の該酸化膜にかかる平均電界が1.0MV/cmから8.0MV/cmの場合は、Bモード領域と呼ばれ、結晶中に耐圧劣化因子が存在することを示す領域である。従来のCZシリコン結晶は、Cモード領域で絶縁破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合が、1ウェーハにつき10から30%程度であり、Bモード領域で絶縁破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合も多い。したがって、Cモード領域で絶縁破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合が40%以上であり、Bモード領域で破壊するダイオードが少ない、あるいは、最小破壊電界値が高い(例えば、6.0MV/cm以下で破壊するダイオードが20%未満である)ようなCZシリコン単結晶が酸化膜耐圧特性の優れたCZシリコン結晶である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明は、徐冷温度領域を限定しない、酸化膜耐圧特性に代表されるデバイス特性に優れたCZシリコン結晶を製造する方法および酸化膜耐圧特性に代表されるデバイス特性に優れたCZシリコン結晶を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明においては、CZ法によりシリコン単結晶を製造する方法のうち、製造されつつある該シリコン単結晶をある結晶温度領域で徐冷する方法において、融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mmとし、徐冷温度領域での冷却速度が極小となる温度(以下、最徐冷温度)をT℃した場合、Tが1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gとなるように徐冷する(本発明方法(1))。さらに、酸化膜耐圧特性を向上させるために、T±100℃の温度領域での冷却速度を1.0℃/分以下にする(本発明方法(2))。
【0011】
【0012】
【作用】以下、図および表を用いながら本発明について説明する。
【0013】図1は、本発明の熱処理を施したシリコン単結晶の酸化膜耐圧を評価する際に、シリコンウェーハ上に実装したMOSダイオードの断面であり、シリコンウェーハ1の上に酸化けい素膜2が形成され、その上に上層がアルミニウム3、下層がドープされた結晶シリコン4からなる直径5mmの2層ゲート電極5が形成されている。
【0014】次に、本発明の熱処理を施したシリコン単結晶における酸化膜耐圧特性に関する評価手段を表1により説明する。表1は、酸化膜耐圧を測定するために作製されるMOSダイオードの製造工程を示す表である。
【0015】
【表1】
【0016】CZシリコンインゴットをスライスし、ラッピング、ポリッシングなど、通常のシリコンウェーハを工業的に製造するために必要な諸過程を経て得られたウェーハを洗浄し(1)、ゲート酸化を行って酸化けい素膜を形成し(2)、多結晶シリコン膜を堆積させ(3)、この多結晶シリコンにイオン注入してドープする(6)。酸化前洗浄(4)および多結晶シリコンの酸化(5)はイオン注入(6)の前処理である。ついで、アニール前洗浄(7)を行い、ドライブアニールして多結晶シリコン中のドーパントを固溶化し(8)、多結晶シリコン膜をエッチング除去し(9)、アルミニウムを蒸着しアルミニウム層を形成する(10)。つぎに、直径5mmの2層ゲート電極を実装するためにリソグラフィ(11)によりポジレジスト膜をコートして、パターニングした後、アルミニウム膜をエッチングし(12)、多結晶シリコン膜をエッチングして(13)、レジスト膜を除去する(14)。そして、水素アニールによりけい素/酸化けい素膜界面を安定化した後(15)、表面にレジスト膜を塗布してMOSダイオードを保護し(16)、プラズマエッチングにより裏面多結晶シリコン膜を除去する(17)。表面に保護用のレジスト膜を再塗布して(18)、裏面酸化膜をエッチングにより除去し(19)、p型の場合には金を、n型の場合には金・アンチモン合金を蒸着して裏面電極を形成する(20)。最後に、保護用レジスト膜を除去した後(21)、電圧ランピング法により酸化膜耐圧特性を評価する(22)。電圧ランピング法とは、図1において、基板シリコンから多数キャリアが注入される極性の直流電圧をアルミニウム層3と裏面電極との間に印加し、その電圧を時間に対してステップ状に増加させる方法である。本発明では、該電圧ランピング法の1ステップ当たりの電圧増加を電界換算で0.25MV/cm、保持時間を200ms/ステップとした。
【0017】本発明者らは、様々な酸化膜耐圧特性を有する結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配および製造中の冷却条件を詳細に調査した結果、凝固界面の温度勾配、冷却条件と耐圧劣化因子の形成の間に次のような関係があることを発見した。即ち、CZ法によるシリコン製造過程において、凝固界面付近で熱平衡濃度で存在していた真性点欠陥が凝固とともに結晶内に取り込まれ、結晶の冷却とともに過飽和状態となる。過飽和となった点欠陥は結晶表面への外方拡散および凝固界面への坂道拡散によってその濃度は低下するものの、結晶の冷却速度が速いため、点欠陥の過飽和度は増大する。冷却が進み、点欠陥の過飽和度がある臨界値を越えると、点欠陥同士が凝集体を形成しはじめる。その凝集体を核として酸素析出物が形成し、その酸素析出物が耐圧劣化因子となる。酸素析出物のサイズが酸化膜耐圧特性に強い影響を及ぼし、サイズが大きいほど酸化膜の絶縁破壊電界が低くなり、酸化膜耐圧特性は劣化する。逆に酸素析出物のサイズが小さい場合には、酸素析出物が高密度に存在していても酸化膜耐圧は劣化しない。一方、過飽和点欠陥は凝集を開始する直前の高温側で烈しく対消滅を起こし、濃度が低下する。この濃度の低下が点欠陥同士の凝集開始温度、即ち酸素析出物の形成開始温度を低下させ、酸素析出物の成長を抑制し、酸素析出物のサイズを低下させ、結果として酸化膜耐圧特性を向上させる。
【0018】これらの機構により、点欠陥が凝集を開始する温度以下での徐冷を受けた結晶では、点欠陥の凝集が進み、酸素析出物の密度は著しく低下するもののサイズは大きくなり、酸化膜耐圧特性は著しく劣化する。それに対し、点欠陥凝集開始温度の直前の高温側での徐冷を受けた結晶では点欠陥の対消滅が進み、酸素析出物サイズは小さくなり、酸化膜耐圧は向上する。
【0019】凝固界面の温度勾配が急峻な場合には、凝固界面付近での点欠陥の過飽和度の急激な増大により、結晶内に取り込まれた点欠陥の界面方面への坂道拡散が頻繁に生じて点欠陥濃度が著しく低下するため、温度勾配が穏やかな場合に比べて凝固界面から離れた位置での点欠陥の過飽和度の増大は、逆に緩やかになる。従って、凝固界面の温度勾配が急峻な場合には、点欠陥同士が凝集を開始する温度は低温側に移動する。即ち、酸素析出物の形成開始温度が低温側に移動する。点欠陥の対消滅が生じる温度(以下、酸化膜耐圧改善温度と称することもある)は酸素析出物の形成開始温度の移動に追従して移動する。従って、酸化膜耐圧改善温度は凝固界面の温度勾配に依存して可変であり、凝固界面の温度勾配の増加にともない低温側に移動する。本発明者らは、凝固界面の温度勾配をG℃/mmとし、最徐冷温度をT℃とした場合、Tが1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gである場合に酸化膜耐圧が改善することを発見した。さらに、T±100℃の温度領域での冷却速度を1.0℃/分以下にした場合に、酸化膜耐圧がより改善することが分かった。
【0020】
【実施例】以下に本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明がこれらの実施例の記載によって制限されるものでないことは言うまでもない。
【0021】実施例1本発明に用いられるシリコン単結晶製造装置は、通常CZ法によるシリコン単結晶製造に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、本実施例では図2に示すような製造装置を用いた。
【0022】このCZシリコン単結晶製造装置は、シリコン融液Mを収容する石英ルツボ26aとこれを保護する黒鉛ルツボ26bとから構成されたルツボ26と育成されたシリコン単結晶インゴットSを収容する結晶引上炉21である。ルツボ26の側面部には加熱ヒーター24と加熱ヒーター24からの熱が結晶引上炉外部に逃げるのを防止するため断熱部材23が取り囲むように設置されており、このルツボ26は図示されていない駆動装置と回転治具25によって接続され、この駆動装置によって所定の速度で回転されるとともに、ルツボ26内のシリコン融液の減少にともないシリコン融液面が低下するのを補うためにルツボ26を昇降させるようになっている。引上炉21内には、垂下された引上げワイア27が設置され、このワイア27の下端には種結晶28を保持するチャック29が設けられている。この引上げワイア27の上端側は、ワイヤ巻上機22に巻き取られて、シリコン単結晶インゴットを引き上げるようになった引上げ装置が設けられている。そして、引上炉21内には、引上炉21に形成されたガス導入口30からArガスが導入され、引上炉21内を流通してガス流出口31から排出される。このようにArガスを流通させるのは、シリコンの溶融にともなって引上炉21内に発生するSiOをシリコン融液内に混入させないようにするためである。温度制御装置40は引上炉21内で結晶を徐冷するために設置している。温度制御装置40の位置を上下方向に移動することにより徐冷温度域の変更が行なわれる。温度制御装置40としては、製造されるシリコン単結晶を取り囲むように設置された黒鉛などの断熱保温材や加熱ヒーター等が有効である。温度勾配制御装置50は引上炉21内で凝固界面の結晶軸方向の温度勾配を制御するために設置している。温度勾配制御装置50としては、製造されるシリコン単結晶を取り囲むように設置された黒鉛板や金属板などが冷却には有効で、また黒鉛板や金属板をガスや液体などを用いて強制冷却してもよい。一方、シリコン単結晶を取り囲むように設置された黒鉛などの断熱保温材や加熱ヒーター等が徐冷には有効である。
【0023】この装置を使用して、以下の条件で複数のシリコン単結晶を製造した。融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mm、最徐冷温度をT℃とした場合、図3に示すようにこれらの結晶はいずれも、1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gの関係にあり、かついずれの結晶もT±100℃の温度領域の冷却速度は常には1.0℃/分以下ではない。
【0024】この条件で育成された複数のシリコン単結晶インゴットの製造条件等を表2に示した。
【0025】
【表2】
【0026】このインゴットから切りだしたウェーハの酸化膜耐圧を測定し、図4に示した。これらのシリコンウェーハの酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2の時に該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上を示すMOSダイオードの個数の総数に占める割合(Cモード比率)はいずれも40%以上であり、同時に6.0MV/cm以下の電界で破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合は1ウェーハにつき20%未満であり、本発明の方法で製造されたシリコン単結晶インゴットから切り出されたウェーハは、良好な酸化膜耐圧特性を有していることを示している。
【0027】実施例2実施例1の装置を用いて、以下の条件で複数のシリコン単結晶を製造した。融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mm、最徐冷温度をT℃とした場合、図5に示すようにこれらの結晶はいずれも、1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gの関係にあり、かついずれの結晶もT±100℃の温度領域の冷却速度は常に1.0℃/分以下である。
【0028】この条件で育成された複数のシリコン単結晶インゴットの製造条件等を表3に示した。
【0029】
【表3】
【0030】このインゴットから切りだしたウェーハの酸化膜耐圧を測定し、図6に示した。これらのシリコンウェーハの酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2の時に該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上を示すMOSダイオードの個数の総数に占める割合(Cモード比率)はいずれも40%以上であり、同時に6.0MV/cm以下の電界で破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合は1ウェーハにつき20%未満であり、本発明の方法で製造されたシリコン単結晶インゴットから切り出されたウェーハは、良好な酸化膜耐圧特性を有していることを示している。
【0031】比較例1本比較例では、実施例1の装置を用いて、以下の条件で複数のシリコン単結晶を製造した。融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mm、最徐冷温度をT℃とした場合、図7に示すようにこれらの結晶はいずれも、1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gの条件を充たしておらず、かついずれの結晶もT±100℃の温度領域の冷却速度は常には1.0℃/分以下ではない。
【0032】この条件で育成された複数のシリコン単結晶インゴットの製造条件等を表4に示した。
【0033】
【表4】
【0034】このインゴットから切りだしたウェーハの酸化膜耐圧を測定し、図8に示した。これらのシリコンウェーハの酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2の時に該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上を示すMOSダイオードの個数の総数に占める割合(Cモード比率)はいずれも40%未満であり、同時に6.0MV/cm以下の電界で破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合は1ウェーハにつき20%以上であり、酸化膜耐圧特性が良好でないことを示している。
【0035】比較例2本比較例では、実施例1の装置を用いて、以下の条件で複数のシリコン単結晶を製造した。融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mm、最徐冷温度をT℃とした場合、図9に示すようにこれらの結晶はいずれも、1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gの条件を充たしておらず、かついずれの結晶もT±100℃の温度領域の冷却速度は常に1.0℃/分以下である。
【0036】この条件で育成された複数のシリコン単結晶インゴットの製造条件等を表5に示した。
【0037】
【表5】
【0038】このインゴットから切りだしたウェーハの酸化膜耐圧を測定し、図10に示した。これらのシリコンウェーハの酸化膜を通して流れる電流密度が1μA/cm2 の時に該酸化膜にかかる平均電界が8.0MV/cm以上を示すMOSダイオードの個数の総数に占める割合(Cモード比率)はいずれも40%未満であり、同時に6.0MV/cm以下の電界で破壊するMOSダイオードの個数の総数に対する割合は1ウェーハにつき20%以上であり、酸化膜耐圧特性が良好でないことを示している。
【0039】
【発明の効果】本発明のシリコン単結晶あるいは本発明の製造方法によるシリコン単結晶は、酸化膜耐圧特性に代表されるデバイス特性に優れているため、MOSデバイス用ウェーハはもとより各種構造を有するデバイスに適する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来の方法でシリコン単結晶の絶縁酸化膜の耐電圧特性を評価するために実装したMOSダイオードの一部断面図である。
【図2】 本発明の実施例に用いたCZ法シリコン単結晶製造装置の概略図である。
【図3】 本発明の実施例1の複数の結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配G℃/mmと最徐冷温度T℃の関係を示す図である。
【図4】 本発明の実施例1の複数の結晶の酸化膜耐圧特性を示す図である。
【図5】 本発明の実施例2の複数の結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配G℃/mmと最徐冷温度T℃の関係を示す図である。
【図6】 本発明の実施例2の複数の結晶の酸化膜耐圧特性を示す図である。
【図7】 比較例1の複数の結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配G℃/mmと最徐冷温度T℃の関係を示す図である。
【図8】 比較例1の複数の結晶の酸化膜耐圧特性を示す図である。
【図9】 比較例2の複数の結晶の融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配G℃/mmと最徐冷温度T℃の関係を示す図である。
【図10】 比較例2の複数の結晶の酸化膜耐圧特性を示す図である。
【符号の説明】
1…シリコンウェーハ、 2…酸化けい素膜(絶縁酸化膜)、3…アルミニウム膜、 4…多結晶シリコン、5…2層ゲート電極、21…結晶引上炉(CZ法シリコン単結晶製造装置)、22…ワイア巻上機、 23…断熱部材、24…加熱ヒーター、 25…回転治具、26…ルツボ、26a…石英ルツボ、 26b…黒鉛ルツボ、27…引上げワイア、 28…種結晶、29…チャック、 30…ガス導入口、31…カス排出口、 40…温度制御装置(結晶徐冷装置)、50…温度勾配制御装置、M…シリコン融液、 S…シリコン単結晶インゴット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するに際して、製造されつつある該シリコン単結晶をある結晶温度領域で徐冷する方法において、融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mmとし、徐冷温度領域での冷却速度が極小となる温度をT℃とした場合、Gの変更にともなってTが以下の関係式1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gを充たすように徐冷温度領域を変更することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】 請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法において、徐冷温度領域での冷却速度が極小となる温度をT℃とした場合、T±100℃の温度領域での冷却速度が1.0℃/分以下であることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項1】 チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するに際して、製造されつつある該シリコン単結晶をある結晶温度領域で徐冷する方法において、融液と結晶の凝固界面の結晶軸方向の温度勾配をG℃/mmとし、徐冷温度領域での冷却速度が極小となる温度をT℃とした場合、Gの変更にともなってTが以下の関係式1025−54.5×G<T<1375−54.5×Gを充たすように徐冷温度領域を変更することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】 請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法において、徐冷温度領域での冷却速度が極小となる温度をT℃とした場合、T±100℃の温度領域での冷却速度が1.0℃/分以下であることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【特許番号】特許第3366766号(P3366766)
【登録日】平成14年11月1日(2002.11.1)
【発行日】平成15年1月14日(2003.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−10065
【出願日】平成7年1月25日(1995.1.25)
【公開番号】特開平8−208377
【公開日】平成8年8月13日(1996.8.13)
【審査請求日】平成11年9月10日(1999.9.10)
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000111096)ワッカー・エヌエスシーイー株式会社 (23)
【参考文献】
【文献】特開 平6−340490(JP,A)
【文献】特開 平2−267195(JP,A)
【文献】特開 平8−12493(JP,A)
【文献】特開 平7−223893(JP,A)
【文献】特開 平5−70283(JP,A)
【文献】特開 平5−9096(JP,A)
【登録日】平成14年11月1日(2002.11.1)
【発行日】平成15年1月14日(2003.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成7年1月25日(1995.1.25)
【公開番号】特開平8−208377
【公開日】平成8年8月13日(1996.8.13)
【審査請求日】平成11年9月10日(1999.9.10)
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000111096)ワッカー・エヌエスシーイー株式会社 (23)
【参考文献】
【文献】特開 平6−340490(JP,A)
【文献】特開 平2−267195(JP,A)
【文献】特開 平8−12493(JP,A)
【文献】特開 平7−223893(JP,A)
【文献】特開 平5−70283(JP,A)
【文献】特開 平5−9096(JP,A)
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