説明

シリコン系薄膜光電変換装置の製造方法

【課題】 基板上に表面凹凸構造の制御された透明電極を形成することができ、製造されるシリコン系薄膜光電変換装置の効率を改善できる方法を提供する。
【解決手段】 基板(1)上に、透明電極(2)と、一導電型層(111)、実質的に真性半導体の多結晶シリコン系光電変換層(112)および逆導電型層(113)を含む多結晶シリコン系薄膜光電変換ユニット(11)と、光反射性金属電極(122)を含む裏面電極(12)とを順次形成したシリコン系薄膜光電変換装置を製造するにあたり、下地温度が200℃以下の条件でMOCVD法により、平均膜厚が0.3〜3μm、表面凹凸の平均高低差が50〜500nmであるZnOからなる透明電極(2)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法に関し、特に製造されるシリコン系薄膜光電変換装置の特性を改善できる方法に関する。なお、本願明細書において、「結晶質」および「微結晶」の用語は、部分的に非晶質を含む場合をも意味するものとする。
【0002】
【従来の技術】近年、たとえば多結晶シリコンや微結晶シリコンのような結晶質シリコンを含む薄膜を利用した光電変換装置の開発が精力的に行なわれている。これらの光電変換装置の開発では、安価な基板上に低温プロセスで良質の結晶質シリコン薄膜を形成することによる低コスト化と高性能化の両立が目的となっている。こうした光電変換装置は、太陽電池、光センサなど、さまざまな用途への応用が期待されている。
【0003】光電変換装置の一例として、基板上に、透明電極と、一導電型層、結晶質シリコン系光電変換層および逆導電型層を含む光電変換ユニットと、光反射性金属電極を含む裏面電極とを順次形成した構造を有するものが知られている。この光電変換装置では、光電変換層が薄いと光吸収係数が小さい長波長領域の光が十分に吸収されないため、光電変換量は本質的に光電変換層の膜厚によって制約を受ける。そこで、光電変換層を含む光電変換ユニットに入射した光をより有効に利用するために、光入射側の透明電極に表面凹凸(表面テクスチャ)構造を設けて光を光電変換ユニット内へ散乱させ、さらに金属電極で反射した光を乱反射させる工夫がなされている。
【0004】従来、シリコン系薄膜光電変換装置には、ガラス基板上に表面凹凸を有する透明電極が形成されたもの(例えば旭硝子社製のU−type SnO2膜など)が広く用いられている。しかし、このようなガラス基板は透明電極を形成するために400℃以上の高温プロセスを要するなどの理由によりコストが高い。
【0005】また、表面テクスチャ構造をなす透明電極を具備した光電変換装置は、たとえば特公平6−12840号公報、特開平7−283432号公報などに開示されており、効率が向上することが記載されている。しかし、これらの光電変換装置では、透明電極が激しい表面凹凸構造、具体的には凹凸の高低差が大きく凹凸のピッチが小さい表面凹凸構造を有し、凹凸形状により得られる光閉込め効果が十分でないことがわかってきた。
【0006】さらに、ガラス基板上の透明電極として、MOCVD法により形成されたZnO膜を用いる非晶質シリコン系薄膜光電変換装置が知られている。しかし、ZnO膜の表面凹凸構造を制御できたとしても、非晶質シリコンは赤外光に感度を持たないので、やはり光閉込め効果の点で不十分である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、基板上に表面凹凸構造の制御された透明電極を形成することができ、製造されるシリコン系薄膜光電変換装置の効率を改善できる方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、基板上の透明電極を形成する際に、下地温度が200℃以下の条件でMOCVD法を用いれば、表面凹凸構造の制御された透明電極を形成することができることを見出した。
【0009】すなわち、本発明のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法は、基板上に、透明電極と、一導電型層、実質的に真性半導体の多結晶シリコン系光電変換層および逆導電型層を含む多結晶シリコン系薄膜光電変換ユニットと、光反射性金属電極を含む裏面電極とを順次形成したシリコン系薄膜光電変換装置を製造するにあたり、前記透明電極を、下地温度が200℃以下の条件でMOCVD法により形成することを特徴とする。
【0010】本発明において、前記透明電極は、平均膜厚が0.3〜3μm、表面凹凸の平均高低差が50〜500nmであるZnOからなることが好ましい。
【0011】本発明において、シリコン系薄膜光電変換ユニットとしては、結晶質シリコン系光電変換層を含むp−i−n接合を形成することが好ましい。また、シリコン系薄膜光電変換ユニットは、一導電型層、結晶質シリコン系光電変換層および逆導電型層を含む光電変換ユニットに加えて、一導電型層、非晶質シリコン系光電変換層および逆導電型層を含む光電変換ユニットが積層されたタンデム型であってもよい。
【0012】本発明のように、下地温度が200℃以下の条件でMOCVD法を用いて透明電極を形成すれば、その表面凹凸形状を容易に制御でき、このような透明電極上に赤外光に感度を有する多結晶シリコン系薄膜光電変換ユニットを形成したときに光閉じ込めに適した表面凹凸構造を得ることができる。したがって、製造される多結晶シリコン系薄膜光電変換装置の効率を改善できる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明をより詳細に説明する。
【0014】図1に示す断面図を参照して、本発明に係るシリコン系薄膜光電変換装置の一例を説明する。このシリコン系薄膜光電変換装置は、基板1上に、透明電極2と、一導電型層111、結晶質シリコン系光電変換層112および逆導電型層113を含む光電変換ユニット11と、透明導電性酸化膜121および光反射性金属電極122を含む裏面電極12とを順次積層した構造を有する。この光電変換装置に対しては、光電変換されるべき光hνは基板1側から入射される。
【0015】基板1としては、有機フィルム、セラミックス、または低融点の安価なガラスなどの透明基板を用いることができる。
【0016】基板1上に配置される透明電極2の材料は、500〜1200nmの波長の光に対して80%以上の高い透過率を有することが好ましく、ITO、SnO2およびZnOから選択される1以上の層を含む透明導電性酸化膜が用いられる。
【0017】本発明においては、下地温度が200℃以下の条件でMOCVD法により形成することにより、平均膜厚が0.3〜3μm、表面凹凸の平均高低差が50〜500nmであるZnOからなる透明電極を形成することが好ましい。
【0018】MOCVD法によりZnOを成膜するには、下地温度を200℃以下に設定し、たとえば原料ガスとしてジエチルジンクZn(C252、酸化剤としてH2O、ドーパントガスとしてジボランなどを供給し、5〜100Torrの減圧下で反応させる。下地温度は100〜150℃に設定することがより好ましい。200℃以下の下地温度条件においてMOCVD法により平均膜厚が0.3〜3μmのZnOからなる透明電極を形成すると、その表面凹凸構造を容易に制御でき、表面凹凸の平均高低差を50〜500nmの範囲にすることができる。
【0019】透明電極2上にシリコン系光電変換ユニット11が形成される。この光電変換ユニット11に含まれるすべての半導体層は、下地温度を400℃以下に設定してプラズマCVD法によって堆積される。プラズマCVD法としては、一般によく知られている平行平板型のRFプラズマCVDを用いてもよいし、周波数150MHz以下のRF帯からVHF帯までの高周波電源を利用するプラズマCVD法を用いてもよい。
【0020】光電変換ユニット11には一導電型層111、結晶質シリコン系光電変換層112および逆導電型層113が含まれる。一導電型層111はp型層でもn型層でもよく、これに対応して逆導電型層113はn型層またはp型層になる。ただし、光電変換装置では通常は光の入射側にp型層が配置されるので、図1の構造では一般的に一導電型層111はp型層、逆導電型層113はn型層である。
【0021】一導電型層111は、たとえば導電型決定不純物原子としてボロンをドープしたp型シリコン系薄膜からなる。ただし、不純物原子は特に限定されず、p型層の場合にはアルミニウムなどでもよい。また、一導電型層111の半導体材料としては、多結晶シリコンもしくは部分的に非晶質を含む微結晶シリコンまたはシリコンカーバイドやシリコンゲルマニウムなどの合金材料を用いることができる。なお、必要に応じて、堆積された一導電型層111にパルスレーザ光を照射(レーザーアニール)することにより、結晶化分率やキャリア濃度を制御することもできる。
【0022】一導電型層111上に結晶質シリコン系光電変換層112が堆積される。この結晶質シリコン系光電変換層112としては、体積結晶化分率が80%以上である、ノンドープ(真正半導体)の多結晶シリコン膜もしくは微結晶シリコン膜または微量の不純物を含む弱p型もしくは弱n型で光電変換機能を十分に備えたシリコン系薄膜材料を用いることができる。この光電変換層112を構成する半導体材料についても、上記の材料に限定されず、シリコンカーバイドやシリコンゲルマニウムなどの合金材料を用いることができる。光電変換層112の厚さは、必要かつ十分な光電変換が可能なように、一般的に0.5〜20μmの範囲に形成される。この結晶質シリコン系光電変換層112は400℃以下の低温で形成されるので、結晶粒界や粒内における欠陥を終端させて不活性化させる水素原子を多く含む。具体的には、光電変換層112の水素含有量は1〜30原子%の範囲内にある。さらに、結晶質シリコン系薄膜光電変換層112に含まれる結晶粒の多くは下地層から上方に柱状に延びて成長しており、その膜面に平行に(110)の優先結晶配向面を有する。そして、X線回折における(220)回折ピークに対する(111)回折ピークの強度比は0.2以下である。
【0023】結晶質シリコン系光電変換層112上には逆導電型層113が形成される。この逆導電型層113は、たとえば導電型決定不純物原子としてリンがドープされたn型シリコン系薄膜からなる。ただし、不純物原子は特に限定されず、n型層では窒素などでもよい。また、逆導電型層113の半導体材料としては、多結晶シリコンもしくは部分的に非晶質を含む微結晶シリコンまたはシリコンカーバイドやシリコンゲルマニウムなどの合金材料を用いることができる。
【0024】ここで、透明電極2の表面が実質的に平坦である場合でも、その上に堆積される光電変換ユニット11の表面は微細な凹凸を含む表面テクスチャ構造を示す。また、透明電極2の表面が凹凸を含む表面テクスチャ構造を有する場合、光電変換ユニット11の表面は、透明電極2の表面に比べて、テクスチャ構造における凹凸のピッチが小さくなる。これは、光電変換ユニット11を構成する結晶質シリコン系光電変換層112の堆積時に結晶配向に基づいてテクスチャ構造が生じることによる。このため光電変換ユニット11の表面は広範囲の波長領域の光を反射させるのに適した微細な表面凹凸テクスチャ構造となり、光電変換装置における光閉じ込め効果も大きくなる。
【0025】光電変換ユニット11上には透明導電性酸化膜121と光反射性金属電極122とを含む裏面電極12が形成される。透明導電性酸化膜121は、必要に応じて形成されるが、光電変換ユニット11と光反射性金属電極122との付着性を高め、光反射性金属電極122の反射効率を高め、光電変換ユニット11を化学変化から防止する機能を有する。
【0026】透明導電性酸化膜121は、ITO、SnO2、ZnOなどから選択される少なくとも1種で形成することが好ましく、ZnOを主成分とする膜が特に好ましい。光電変換ユニット11に隣接する透明導電性酸化膜121の平均結晶粒径は100nm以上であることが好ましい。この条件を満たすためには、下地温度を100〜450℃に設定して透明導電性酸化膜121を形成することが望ましい。なお、ZnOを主成分とする透明導電性酸化膜121の膜厚は50nm〜1μmであることが好ましく、比抵抗は1.5×10-3Ωcm以下であることが好ましい。
【0027】光反射性金属電極122は真空蒸着またはスパッタなどの方法によって形成することができる。光反射性金属電極122は、Ag、Au、Al、CuおよびPtから選択される1種、またはこれらを含む合金で形成することが好ましい。たとえば、光反射性の高いAgを100〜330℃、より好ましくは200〜300℃の温度で真空蒸着によって形成することが好ましい。
【0028】次に、図2に示す断面図を参照して、本発明に係るタンデム型シリコン系薄膜光電変換装置を説明する。このタンデム型シリコン系薄膜光電変換装置は、基板1上に、透明電極2と、微結晶または非晶質シリコン系の一導電型層211、実質的に真正半導体である非晶質シリコン系光電変換層212および微結晶または非晶質シリコン系の逆導電型層213を含む前方光電変換ユニット21と、図1の光電変換ユニット11に対応する一導電型層221、結晶質シリコン系光電変換層222および逆導電型層223を含む後方光電変換ユニット22と、透明導電性酸化膜231および光反射性金属電極232を含む裏面電極23とを順次積層した構造を有する。前方光電変換ユニット21および後方光電変換ユニット22を構成する各層は、いずれもプラズマCVD法により形成される。
【0029】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。
【0030】(実施例1)以下のようにして図1に示すシリコン系薄膜光電変換装置を作製した。まずガラス基板1上にZnOからなる透明電極2を形成した。この透明電極2は、MOCVD法により、下地温度を150℃に設定し、原料ガスであるジエチルジンクZn(C252と酸化剤であるH2Oの流量比を2:3にするとともにドーパントガスとして1%のジボランを供給し、反応室内圧力5TorrでZnOを成膜することにより形成した。この条件で成膜されたZnOからなる透明電極2の厚さは1.5μmであり、その表面の凹凸の平均高低差は180nmであった。
【0031】次に、プラズマCVD法により、厚さ10nmのボロンドープの一導電型層(p型層)111、厚さ3μmのノンドープの多結晶シリコン系光電変換層(i型層)112、および厚さ15nmのリンドープの逆導電型層(n型層)113を成膜してp−i−n接合の多結晶シリコン系光電変換ユニット11を形成した。
【0032】次いで、それぞれスパッタ法により、ZnOからなる厚さ100nmの透明導電性酸化膜121、およびAgからなる厚さ300nmの光反射性金属電極122を成膜して、裏面電極12を形成した。
【0033】得られたシリコン系薄膜光電変換装置に、AM1.5の光を100mW/cm2の光量で入射して出力特性を測定したところ、光電変換効率は7.8%、短絡電流密度は25.3mA/cm2であった。
【0034】(実施例2)以下のようにして図2に示すタンデム型シリコン系薄膜光電変換装置を作製した。まずガラス基板1上に、実施例1と同一の条件で、ZnOからなる透明電極2を形成した。次に、プラズマCVD法により、ボロンドープの一導電型層(p型層)211、ノンドープの非晶質シリコン系光電変換層(i型層)212、およびリンドープの逆導電型層(n型層)213を成膜してp−i−n接合の非晶質シリコン系の前方光電変換ユニット21を形成した。また、実施例1と同様にして、プラズマCVD法により、ボロンドープの一導電型層(p型層)221、ノンドープの多結晶シリコン系光電変換層(i型層)222、およびリンドープの逆導電型層(n型層)223を成膜してp−i−n接合の多結晶シリコン系の後方光電変換ユニット22を形成した。
【0035】次いで、それぞれスパッタ法により、ZnOからなる厚さ100nmの透明導電性酸化膜231、およびAgからなる厚さ300nmの光反射性金属電極232を成膜して、裏面電極23を形成した。
【0036】得られたタンデム型シリコン系薄膜光電変換装置に、AM1.5の光を100mW/cm2の光量で入射して出力特性を測定したところ、光電変換効率は13.3%であった。
【0037】
【発明の効果】以上詳述したように本発明の方法を用いれば、基板上に表面凹凸構造の制御された透明電極を形成することができ、製造されるシリコン系薄膜光電変換装置の効率を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るシリコン系薄膜光電変換装置の一例を示す断面図。
【図2】本発明に係るタンデム型シリコン系薄膜光電変換装置の一例を示す断面図。
【符号の説明】
1…基板
2…透明電極
11…光電変換ユニット
111…一導電型層、112…結晶質シリコン系光電変換層、113…逆導電型層
12…裏面電極
121…透明導電性酸化膜、122…光反射性金属電極
21…前方光電変換ユニット
211…一導電型層、212…非晶質シリコン系光電変換層、213…逆導電型層
22…後方光電変換ユニット
221…一導電型層、222…結晶質シリコン系光電変換層、223…逆導電型層
23…裏面電極
231…透明導電性酸化膜、232…光反射性金属電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に、透明電極と、一導電型層、実質的に真性半導体の多結晶シリコン系光電変換層および逆導電型層を含む多結晶シリコン系薄膜光電変換ユニットと、光反射性金属電極を含む裏面電極とを順次形成したシリコン系薄膜光電変換装置を製造するにあたり、前記透明電極を、下地温度が200℃以下の条件でMOCVD法により形成することを特徴とするシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。
【請求項2】 前記透明電極は、平均膜厚が0.3〜3μm、表面凹凸の平均高低差が50〜500nmであるZnOからなることを特徴とする請求項1記載のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。
【請求項3】 前記一導電型層、結晶質シリコン系光電変換層および逆導電型層を含む光電変換ユニットに加えて、一導電型層、非晶質シリコン系光電変換層および逆導電型層を含む光電変換ユニットが積層されたタンデム型であることを特徴とする請求項1または2記載のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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