説明

シリコーンエアーバッグの製造方法及び耐ブロッキング性向上方法

【課題】繊維等からなる基布に対する接着性、ゴム強度及び耐ブロッキング性に優れたゴムコーティング層を有するエアーバッグの簡便な製造方法及び耐ブロッキング性の向上方法を提供する。
【解決手段】基布の少なくとも一方の表面に、
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、分子中に他の官能基を含有しないオルガノポリシロキサン、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、分子中に他の官能基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)付加反応触媒、
(D)接着性向上剤
を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を塗布し、該組成物を常圧雰囲気下にて110℃以上300℃以下の過熱水蒸気を用いて熱気架橋することを特徴とするシリコーンエアーバッグの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維等からなる基布に対する接着性、ゴム強度、耐ブロッキング性等に優れた液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を硬化して得られるゴムコーティング層を有するシリコーンエアーバッグの製造方法に関するものであり、更に詳しくは、常圧熱気架橋の熱源として110〜300℃の過熱水蒸気を用いて液状シリコーンゴムコーティング剤組成物の架橋、成型を行うシリコーンエアーバッグの製造方法、及びこの方法により製造することからなるシリコーンエアーバッグの耐ブロッキング性を向上する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維等からなる基布の表面上にゴム被膜を形成することを目的としたシリコーンゴムコーティング布は、シリコーンゴム特有のベタツキ感が残るため、コーティング後のカッティング時や縫製時の作業性が著しく悪かった。その改善策として、付着性、滑り性等に富んだタルク等の粉体をゴム表面に打粉している。しかし、この方法は、コストが高い上に、粉塵により人体に悪影響を及ぼす危険性もある。また、粉体をゴムコーティング布の表面に付着させているだけであるので、粉体が取れやすく、安定して効力を発揮できない。
【0003】
これらの問題を解決するために、以下の組成物が提案されている。例えば、ゴムコーティング組成物に、平均粒径が0.5〜20μmの水酸化アルミニウム、マイカ、ジメチルシルセスキオキサン、カーボン、ポリアミド及びポリフッ化エチレンからなる群から選ばれる無機系化合物又は有機系化合物の粉体を添加してなるゴムコーティング布用コーティング組成物(特許第3379839号公報:特許文献1);ゴムコーティング組成物に、天然乾性油、変性天然乾性油、液体ジエン化合物又は不飽和脂肪酸エステル類から選択した乾性油化合物を添加してなる低粘着性のゴムコーティング布用コーティング組成物(特開2000−191915号公報:特許文献2);ゴムコーティング組成物に平均粒径が10〜300μmのアルミノシリケート中空粉体、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、カーボンバルーン、アルミナバルーン、プラスチックバルーン、シリコーンレジン中空粉体等の中空粉体、アルミナ粉体、ガラス粉体、プラスチック粉体等を添加してなるゴムコーティング膜表面の粘着性が少ないゴムコーティング布用コーティング組成物(特開2000−303022号公報:特許文献3);ゴムコーティング組成物にBET比表面積が平均150〜250m2/gであり、平均粒径が20μm以下である湿式シリカを添加してなる粘着性の低減されたゴムコーティング布用コーティング組成物(特開2001−59052号公報:特許文献4)等が提案されている。
しかし、いずれの組成物も硬化後の作業性は改善されたものの、繊維等からなる基布に対する接着性、ゴム強度等の諸特性を保持しながら、ベタツキ感のない、即ち耐ブロッキング性をも満足する硬化物となるものではなかった。
【0004】
そこで、耐ブロッキング性を向上させる手段として、上記液状シリコーンエアーバッグの架橋方法の検討を行った。スプレー、ディッピング、バーコート等によりエアーバッグ基布へコートを行い、50〜500℃の雰囲気に設定し、温風によるHAV成型(Hot Air Vulcanization)にて数秒〜30分程度保持させて架橋し、コート布を作製した。
しかしながら、温風による50〜300℃でのHAV成型では、架橋させたコート布が耐ブロッキング性に劣り、300℃を超える高温でのHAV成型では、耐ブロッキング性にはやや優れるものの十分でなく、逆にエアーバッグ基布が熱で縮んでしまったり、よじれてしまったりする現象が発生し、良好な耐ブロッキング性を有するエアーバッグを得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3379839号公報
【特許文献2】特開2000−191915号公報
【特許文献3】特開2000−303022号公報
【特許文献4】特開2001−59052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、繊維等からなる基布に対する接着性、ゴム強度及び耐ブロッキング性に優れたゴムコーティング層を有するエアーバッグの簡便な製造方法及び耐ブロッキング性の向上方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために、加熱方法に関して種々検討した結果、液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を架橋させる際に、過熱水蒸気を用いることにより、酸素による付加架橋阻害を排除し、短時間に架橋させることが可能であり、また前記方法により架橋されたシリコーンゴムは、耐熱性にも優れることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
過熱水蒸気による常圧熱気架橋は、圧熱風架橋(HAV架橋)に比べて表面架橋性が良好で、タック感がなく、比較的短時間の加熱で液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を架橋することが可能で、シリコーンの表面酸化劣化を考慮する必要がないものであり、上記過熱水蒸気により低酸素雰囲気にて架橋されたシリコーンエアーバッグは、成型物表面の酸化劣化が少ない、低タックで耐ブロッキング性が良好な表面状態を有する。
【0009】
従って、本発明は、下記に示すシリコーンエアーバッグの製造方法及び耐ブロッキング性向上方法を提供する。
〔請求項1〕
基布の少なくとも一方の表面に、
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、分子中に他の官能基を含有しないオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、分子中に他の官能基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して、組成物中のケイ素原子に結合した水素原子が1〜7モルとなる量、
(C)付加反応触媒: 有効量、及び
(D)接着性向上剤: 0.1〜10質量部
を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を塗布し、該液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を常圧雰囲気下にて110℃以上300℃以下の過熱水蒸気を用いて熱気架橋することを特徴とするシリコーンエアーバッグの製造方法。
〔請求項2〕
(D)接着性向上剤が、ケイ素原子に結合したアルケニル基;炭素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基;炭素原子を介してケイ素原子に結合したアクリロキシ基又はメタクリロキシ基;アルコキシ基;エステル構造、ウレタン構造及びエーテル構造を1〜2個有していてもよい、炭素原子を介してケイ素原子に結合したアルコキシシリル基;イソシアネート基;及びケイ素原子結合水素原子からなる群から選ばれる2種以上の官能基を有する、オルガノシラン及びケイ素原子数3〜100の直鎖状又は環状のシロキサンオリゴマーから選ばれる有機ケイ素化合物、トリアリルイソシアヌレートの(アルコキシ)シリル変性物、そのシロキサン誘導体から選ばれるものである請求項1記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
〔請求項3〕
(D)接着性向上剤が、エポキシ当量が100〜5,000g/molの非ケイ素系有機化合物、エポキシ当量が100〜5,000g/molの有機ケイ素化合物、エポキシ開環触媒、ケイ素原子結合アルケニル基及び/又はケイ素原子結合水素原子とケイ素原子結合アルコキシ基を1分子中にそれぞれ1個以上有する有機ケイ素化合物、炭素原子数12以上の有機チタン化合物、及び窒素原子を1分子中に1個以上含有する有機ケイ素化合物から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
〔請求項4〕
液状シリコーンゴムコーティング剤組成物が、有機溶剤を含まないものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
〔請求項5〕
シリコーンエアーバッグが、織りにより袋部を形成したものである請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
〔請求項6〕
熱気架橋が、ベルトコンベア式の過熱水蒸気炉を用いて行うものである請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
〔請求項7〕
請求項1〜6のいずれか1項記載の方法によりシリコーンエアーバッグを製造することからなるシリコーンエアーバッグの耐ブロッキング性を向上する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を常圧雰囲気下にて110℃以上300℃以下の過熱水蒸気を用いて熱気架橋することにより得られる硬化物は、繊維に対する接着性、ゴム強度及び耐ブロッキング性に優れるだけでなく、ゴム特有のベタツキ感が軽減され手触り感が良好であり、かつ縫製時の作業性にも優れている。また、該組成物は、塗工性にも優れており、更に溶剤に希釈しなくても使用することができるので環境にも優しい。この硬化物からなるゴムコーティング層を有するエアーバッグは、該ゴムコーティング層が剥がれにくいために、インフレーターガスの漏れが生じ難く、膨張時間の持続性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
<液状シリコーンゴムコーティング剤組成物>
本発明で使用される液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、以下の(A)〜(D)成分を含有してなるものである。
【0012】
−(A)オルガノポリシロキサン−
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、組成物の主剤(ベースポリマー)となる成分であり、平均で、1分子中に少なくとも2個(通常、2〜50個)、好ましくは2〜20個のケイ素原子に結合したアルケニル基(以下、「ケイ素原子結合アルケニル基」という)を含有すると共に、分子中に他の官能基を含有しないものである。
【0013】
前記ケイ素原子結合アルケニル基は、炭素原子数が、通常、2〜8、好ましくは2〜4のものである。その具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。
【0014】
このケイ素原子結合アルケニル基のオルガノポリシロキサン分子中における結合位置は、分子鎖末端であっても、分子鎖非末端(即ち、分子鎖側鎖)であっても、あるいはこれらの両方であってもよい。
【0015】
本成分のオルガノポリシロキサン分子中において、前記ケイ素原子結合アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基(以下、「ケイ素原子結合有機基」という)は、脂肪族不飽和結合を有しないものであれば特に限定されず、例えば、非置換又は置換の、炭素原子数が、通常、1〜12、好ましくは1〜10の、一価炭化水素基等が挙げられる。この非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部が塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0016】
本成分中、前記ケイ素原子結合アルケニル基の含有量は、本成分中の全ケイ素原子結合有機基に対して、好ましくは0.001〜10モル%、特に好ましくは0.01〜5モル%である。
【0017】
本成分のオルガノポリシロキサンの分子構造は、特に限定されず、例えば、直鎖状、一部分岐した直鎖状、環状、分岐鎖状等が挙げられるが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状ジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0018】
本成分の25℃における粘度は、硬化物の繊維に対する接着性、ゴム強度、耐ブロッキング性等の物理的特性や作業性がより優れたものとなるので、好ましくは100〜500,000mPa・s、特に好ましくは300〜100,000mPa・sである。なお、本発明において、粘度は回転粘度計等により測定した値である(以下、同じ)。
【0019】
本成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記平均組成式(1):
1a2bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、R1は脂肪族不飽和結合を有しない非置換又はハロゲン置換等の置換の一価炭化水素基であり、R2はアルケニル基であり、aは1.7〜2.1の数、bは0.00001〜0.1の数であり、但し、a+bは1.8〜2.2を満たす。)
で表されるものが挙げられる。
【0020】
上記平均組成式(1)中、R1で表される脂肪族不飽和結合を有しない非置換又はハロゲン置換等の置換の一価炭化水素基は、炭素原子数が、通常、1〜12、好ましくは1〜10のものである。その具体例としては、前記ケイ素原子結合アルケニル基以外のケイ素原子結合有機基として例示したものが挙げられ、全R1のうち90モル%以上、特には全てのR1がメチル基であることが好ましい。
【0021】
2で表されるアルケニル基は、炭素原子数が、通常、2〜8、好ましくは2〜4のものである。その具体例としては、前記ケイ素原子結合アルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0022】
aは1.9〜2.0の数であることが好ましく、bは0.0001〜0.05の数であることが好ましく、a+bは1.95〜2.05、特には1.98〜2.02を満たすことが好ましい。
【0023】
本成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、式:R13SiO1/2(式中、R1は上記の通りであり、以下、同じ)で表されるシロキサン単位と式:R122SiO1/2(式中、R2は上記の通りであり、以下、同じ)で表されるシロキサン単位と式:R12SiOで表されるシロキサン単位と少量の式:SiO2で表されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R13SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:R122SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:SiO2で表されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R122SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:R12SiOで表されるシロキサン単位と少量の式:SiO2で表されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R12SiOで表されるシロキサン単位と少量の式:R1SiO3/2で表されるシロキサン単位もしくは少量の式:R2SiO3/2で表されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、これらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物等が挙げられる。
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
−(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン−
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分との付加硬化反応において、架橋剤として作用し、更に硬化物に接着性を付与する成分である。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、平均で、1分子中に少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個、より好ましくは上限が500個、更に好ましくは上限が200個、特に好ましくは上限が100個のケイ素原子に結合した水素原子(以下、「ケイ素原子結合水素原子」(即ち、SiH基又はヒドロシリル基)という)を有すると共に、分子中に他の官能基を含有しないものであって、特に、分子中に脂肪族不飽和結合を有しないものである。
【0025】
本成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン分子中におけるケイ素原子結合水素原子の結合位置は、分子鎖末端であっても、分子鎖非末端であっても、あるいはこれらの両方であってもよい。
【0026】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサン分子中において、前記ケイ素原子結合水素原子以外のケイ素原子結合有機基は、特に限定されないが、脂肪族不飽和結合を有しないものであり、例えば、非置換又は置換の炭素原子数が、通常1〜10、好ましくは1〜6の一価炭化水素基等が挙げられる。その具体例としては、(A)成分の説明において、前記ケイ素原子結合アルケニル基以外のケイ素原子結合有機基として例示したものが挙げられる。
【0027】
本成分中、前記ケイ素原子結合水素原子の含有量は、本成分中の全ケイ素原子結合有機基と全ケイ素原子結合水素原子との合計に対して、好ましくは0.1〜60モル%、特に好ましくは1〜50モル%である。
【0028】
本成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、従来製造されているものを用いることができ、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造(樹脂状)等が挙げられ、直鎖状又は環状が好ましい。
【0029】
本成分の25℃における粘度は、硬化物の繊維に対する接着性、ゴム強度、耐ブロッキング性等の物理的特性や作業性がより優れたものとなるので、好ましくは0.1〜5,000mPa・s、より好ましくは0.5〜1,000mPa・s、特に好ましくは5〜500mPa・sの範囲を満たす、室温(25℃)で液状である範囲が望ましい。かかる粘度を満たす場合には、オルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子中のケイ素原子数(又は重合度)は、通常、2〜1,000個、好ましくは3〜300個、より好ましくは4〜150個である。
【0030】
本成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、下記平均組成式(2):
3cdSiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、R3は非置換又はハロゲン置換等の置換の一価炭化水素基であり、cは0.7〜2.1の数であり、dは0.001〜1.0の数であり、但し、c+dは0.8〜3.0を満たす。)
で表されるものが挙げられる。
【0031】
上記平均組成式(2)中、R3で表される非置換又はハロゲン置換等の置換の一価炭化水素基は、炭素原子数が、通常、1〜10、好ましくは1〜6のものである。この一価炭化水素基は、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を有しないものである。この非置換又は置換の一価炭化水素基の具体例としては、(A)成分の説明において、前記ケイ素原子結合アルケニル基以外のケイ素原子結合有機基として例示したものが挙げられる。
【0032】
cは1.0〜2.0の数であることが好ましく、dは0.01〜1.0の数であることが好ましく、c+dは1.0〜2.5を満たすことが好ましい。
【0033】
本成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、式:(CH32HSiO1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH33SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:SiO4/2で表されるシロキサン単位とからなる共重合体、式:(CH32HSiO1/2で表されるシロキサン単位と式:SiO4/2で表されるシロキサン単位とからなる共重合体や、これら例示化合物においてメチル基の一部又は全部を他のアルキル基やフェニル基で置換したもの、これらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物等が挙げられる。
【0034】
中でも、(1)脂肪族不飽和結合を有しない、分子鎖両末端が、式:R33SiO1/2(式中、R3は独立に上記の通りである。以下、同じ)で表されるシロキサン単位で封鎖され、主鎖が式:R3HSiO2/2で表されるシロキサン単位の繰り返しからなる、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(2)脂肪族不飽和結合を有しない、分子鎖両末端が独立に、式:R33SiO1/2で表されるシロキサン単位又は式:R32HSiO1/2で表されるシロキサン単位で封鎖され、主鎖が式:R32SiO2/2で表されるシロキサン単位と式:R3HSiO2/2で表されるシロキサン単位とのランダムな繰り返しからなる、ジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体とを併用したものが好ましい。具体的には、(1)分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサンと、(2)分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基又はジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体とを併用したものが好ましい。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
(B)成分の配合量は、以下の通りである。本発明の組成物は、(A)成分以外のケイ素原子結合アルケニル基を有する成分及び/又は(B)成分以外のケイ素原子結合水素原子を有する成分を含有することもできる。そこで、組成物中のケイ素原子結合アルケニル基の合計1モルに対して、組成物中のケイ素原子結合水素原子の合計が1〜7モルとなる量であることが必要であり、好ましくは2〜6モルとなる量であるが、特には、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が1〜7モル、とりわけ2〜6モルとなる量である。これは、該ケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して該ケイ素原子結合水素原子が1モル未満である場合には、コーティング膜の強度が十分に得られず、7モルを超える場合には、コーティング膜の耐熱性、強度が著しく劣るためである。
【0036】
なお、組成物中の全ケイ素原子結合アルケニル基に占める(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基の割合は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは99〜100モル%である。また、組成物中の全ケイ素原子結合水素原子に占める(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の割合は、通常、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは99〜100モル%である。
【0037】
−(C)付加反応触媒−
(C)成分の付加反応触媒は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基と(B)成分中のケイ素原子結合水素原子とのヒドロシリル化反応を、進行・促進させるための成分である。この付加反応触媒としては、特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属;塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属化合物等が挙げられ、好ましくは白金化合物である。
(C)成分の付加反応触媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
(C)成分の配合量は、触媒としての有効量であればよいが、通常、(A)成分と(B)成分との合計量に対して、白金族金属の質量換算で、0.1〜1,000ppmであり、好ましくは1〜500ppmであり、より好ましくは10〜100ppmである。この配合量を適切なものとすると、付加反応をより効果的に促進させることができる。
【0039】
−(D)接着性向上剤−
本発明に用いられる(D)接着性向上剤は、エアーバッグ用の合成繊維織物基材、不織布基材、熱可塑性樹脂のシート状基材又はフィルム状基材等に対する、硬化物(ゴムコーティング層)の接着性を向上させるための成分である。この接着性向上剤は、硬化物の自己接着性を向上させることができるものであれば特に限定されない。その具体例としては、(A)成分及び(B)成分以外の有機ケイ素化合物、非ケイ素系有機化合物、エポキシ開環触媒、有機チタン化合物等が挙げられ、中でも、1分子中に官能基を少なくとも1種有するものが好ましく、2種以上有するものがより好ましい。
【0040】
有機ケイ素化合物としては、例えば、ケイ素原子に結合したビニル基、アリル基等のアルケニル基;γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等の、アルキレン基等の炭素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基;γ−アクリロキシプロピル基、γ−メタクリロキシプロピル基等の、アルキレン基等の炭素原子を介してケイ素原子に結合したアクリロキシ基やメタクリロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;エステル構造、ウレタン構造あるいはエーテル構造を1〜2個有していてもよい、アルキレン基等の炭素原子を介してケイ素原子に結合したトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基等のアルコキシシリル基;イソシアネート基;及び(ケイ素原子結合)水素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種、好ましくは2種以上の官能基を有する、オルガノシラン及びケイ素原子数3〜100、好ましくは3〜50、より好ましくは5〜20の、直鎖状又は環状のシロキサンオリゴマーから選ばれる有機ケイ素化合物、トリアリルイソシアヌレートの(アルコキシ)シリル変性物、そのシロキサン誘導体(即ち、該トリアリルイソシアヌレートのアルコキシシリル変性物の加水分解物)等が挙げられ、中でも、官能基を1分子中に2種以上有するものが好ましい。但し、分子中に、上記例示の官能基のうち、ケイ素原子結合アルケニル基及び/又はケイ素原子結合水素原子のみを有するものであって、少なくとも一方を平均2個以上有するシロキサンオリゴマー(即ち、(A)成分又は(B)成分に該当するもの)を除く。
【0041】
このような有機ケイ素化合物の具体例としては、下記に示す化合物が挙げられる。
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

(上記式中、n=0〜100の整数である。)
【0044】
非ケイ素系有機化合物としては、例えば、1分子中に1個のアルケニル基と少なくとも1個のエステル基とを有する有機酸アリルエステル等が挙げられる。有機酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸等の不飽和カルボン酸;安息香酸、フタル酸、ピロメリト酸等の芳香族カルボン酸;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸等の飽和脂肪酸等が挙げられる。これらの有機酸を含む有機酸アリルエステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸等の不飽和カルボン酸等のアリルエステル;安息香酸アリルエステル、フタル酸ジアリルエステル、ピロメリト酸テトラアリルエステル等の芳香族カルボン酸アリルエステル;酢酸アリルエステル、プロピオン酸アリルエステル、酪酸アリルエステル、吉草酸アリルエステル、ラウリン酸アリルエステル等の飽和脂肪酸アリルエステル等が挙げられる。
【0045】
エポキシ開環触媒は、分子中にケイ素原子を有しないものであって、例えば、有機金属キレート、アミン系、アミド系、イミダゾール系、酸無水物系等のエポキシ開環触媒が挙げられる。
【0046】
有機チタン化合物は、分子中にケイ素原子を有しないものであって、例えば、テトラブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、チタニウムステアレート、テトラオクチルオキシチタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコレート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムエチルアセトネート、チタニウムラクトネート、これらの縮合反応生成物であるオリゴマー、ポリマー等が挙げられる。
【0047】
本成分の接着性向上剤が、前記官能基として分子中にエポキシ基を有する化合物である場合には、該化合物のエポキシ当量は、好ましくは100〜5,000g/mol、より好ましくは150〜3,000g/molである。エポキシ当量がかかる範囲を満たすと、組成物は粘度が良好なものとなり、硬化物はより優れた接着性を有するものとなる。
【0048】
本成分の接着性向上剤は、上記で例示した中でも、特に、エポキシ当量が100〜5,000g/molの非ケイ素系有機化合物、エポキシ当量が100〜5,000g/molの有機ケイ素化合物、エポキシ開環触媒、ケイ素原子結合アルケニル基及び/又はケイ素原子結合水素原子とケイ素原子結合アルコキシ基を1分子中にそれぞれ1個以上有する有機ケイ素化合物、炭素原子数12以上の有機チタン化合物、窒素原子を1分子中に1個以上含有する有機ケイ素化合物、あるいはこれらの組み合わせが好ましい。
(D)成分の接着性向上剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが必要であり、好ましくは0.5〜5質量部である。この配合量が0.1質量部未満である場合には、硬化物は十分な接着性を有しないことがあり、この配合量が10質量部を超える場合には、コスト的に高いものとなり、不経済である。
【0050】
−任意成分−
本発明の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物には、上記(A)〜(D)成分以外にも、必要に応じて、以下の成分を配合してもよい。これらの任意成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0051】
・反応制御剤
反応制御剤は、上記(C)成分の付加反応触媒に対して硬化反応の反応速度を調節する作用を有する化合物であれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。その具体例としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物;トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素原子を含有する化合物;硫黄原子を含有する化合物;アセチレンアルコール類等のアセチレン系化合物;ハイドロパーオキシ化合物;マレイン酸誘導体等が挙げられる。
【0052】
反応制御剤の配合量は、反応制御剤の有する硬化反応の反応速度を調節する作用の度合いがその化学構造により異なるため、使用する反応制御剤ごとの最適な量に調整することが好ましい。最適な量の反応制御剤を配合することにより、組成物は硬化性に優れたものとなる。
【0053】
・補強性シリカ
本発明の組成物には、更に補強性シリカ微粉末が添加されていることが望ましい。補強性シリカ微粉末は、機械的強度の優れたシリコーンゴムを得るために必要とされるものであるが、この目的のためには、BET法による比表面積が100m2/g以上であることが好ましく、より好ましくは200〜500m2/gである。比表面積が100m2/g未満であると補強性が十分でなく、ゴム強度が低下してしまう場合がある。
【0054】
補強性シリカ微粉末としては、煙霧質シリカ(乾式シリカ)、沈殿シリカ(湿式シリカ)、比表面積の高いゲル法シリカ(湿式シリカ)が例示され、特に煙霧質シリカ(BET比表面積が200〜350m2/g)、ゲル法シリカ(BET比表面積が260〜500m2/g)が好ましい。
【0055】
また、これらの表面を表面処理剤で疎水化処理してもよい。2種以上の表面処理剤を併用する場合には、2種以上を混合してシリカの表面疎水化処理を行ってもよいし、2種以上を分割し、その一部ずつを用いて逐次的に表面疎水化処理を行ってもよい。
これらのシリカは1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0056】
この補強性シリカ微粉末の添加量は、(A)成分100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、組成物の流動性を良好に保ち、更に硬化物のゴム強度、作業性、耐ブロッキング性をより優れたものとすることができるので、より好ましくは1〜10質量部である。この配合量が50質量部を超える場合には、組成物の流動性が低下し、硬化物の作業性が悪くなることがあり、この配合量が1質量部未満である場合には、シリコーンゴムの強度が低下し、耐ブロッキング性の改善が見られない場合がある。
【0057】
・充填剤
上記した補強性シリカ以外の充填剤としては、無機充填剤及び有機充填剤が挙げられ、例えば、結晶性シリカ、無機中空フィラー、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機充填剤;これらをオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面疎水化処理した無機充填剤;オルガノシルセスキオキサン微粉末、有機樹脂製中空フィラー、シリコーンゴムパウダー;シリコーンレジンパウダー等の有機充填剤などが挙げられる。但し、上記充填剤は、前記(D)成分以外のものである。
【0058】
・その他の成分
その他の成分として、例えば、分子鎖の一方の末端にケイ素原子結合アルケニル基又はケイ素原子結合水素原子を有し、他方の末端がトリアルキルシロキシ基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンや、分子鎖両末端がトリアルキルシロキシ基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン等の、1分子中に1個のケイ素原子結合水素原子又は1個のケイ素原子結合アルケニル基を有し、他の官能基を有しないオルガノポリシロキサン;ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基を有しない非反応性のオルガノポリシロキサン;クリープハードニング防止剤、可塑剤、チクソ性付与剤、顔料、染料、防カビ剤等や、硬化物のゴム強度を向上させるために、例えば、式:R33SiO1/2(式中、R3は前記と同じである)で表されるシロキサン単位及び式:SiO4/2で表されるシロキサン単位を含有する、アルケニル基含有あるいは非含有の、三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン等を配合することができる。
【0059】
更に、本発明の組成物は、有機溶剤を配合することなく好適に用いることができるものであるが、該組成物を各種基材にコーティングする際、コーティング装置等の条件により、トルエン、キシレン等の有機溶剤で該組成物を任意の濃度に希釈してもよい。
【0060】
−液状シリコーンゴムコーティング剤組成物−
本発明の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、上記(A)〜(D)成分、及び場合によっては任意成分を混合することにより調製することができる。こうして得られた組成物は、エアーバッグ用のコーティング剤として、特に袋織りタイプのエアーバッグ用のコーティング剤として有用である。
【0061】
本発明の組成物は、室温(25℃)で液状であり、かつ低粘度であることが好ましい。その粘度(25℃)は、好ましくは1,000〜300,000mPa・s、より好ましくは20,000〜90,000mPa・s、特に好ましくは30,000〜80,000mPa・sである。この粘度がかかる範囲を満たすと、エアーバッグの膨張状態が十分な時間持続するだけでなく、組成物のコーティング後に良好なコーティング層表面が得られる。
【0062】
<加熱方法>
本発明においては、上記液状シリコーンゴムコーティング剤組成物の加熱方法として、常圧過熱水蒸気による加熱によって硬化、発泡させることを特徴とする。
常圧過熱水蒸気(以下、過熱水蒸気と称する)とは、100℃で蒸発した飽和水蒸気を常圧のまま更に高温度に加熱した無色透明のH2Oガスのことである。従来、100℃以上の水蒸気といえば密閉容器中の高圧水蒸気のことを指すが、雰囲気温度を上げるためには圧力を高める必要があり、例えば、200℃の釜内温度を得るためには16kgf/cm2の圧力が必要であり、装置も大型なものが必要であった。これに対して、この過熱水蒸気は大気圧(常圧)で加熱対象物に熱を加えることが可能であり、加熱温度は任意に100〜800℃に加熱することが可能であり、装置も簡易的で、過熱水蒸気炉による、ベルトコンベアを備えた連続加熱やチューブ等の押出し連続加熱ラインをつくることができる。
【0063】
過熱水蒸気の熱伝達能力は高く、シリコーンゴムの連続加熱方法として広く用いられているHAV成型が温風による対流伝熱が主な加熱源であるのに対し、過熱水蒸気では対流伝熱の他に凝集水による凝集伝熱及び輻射伝熱能力(熱放射性気体)と3つの加熱原理で加熱が可能であるため熱効率に優れる。
【0064】
過熱水蒸気の発生機構は特に限定されるものではないが、通常、100℃の飽和水蒸気を発生させる機構と、更に100℃以上の温度へ加熱を行うスーパーヒーターとの組み合わせで過熱水蒸気を発生させる。スーパーヒーターとは、100℃の飽和水蒸気を更に温度を上げるヒーターのことであり、オイルバーナーやガスバーナーにて間接加熱する間接加熱法と電熱ヒーターや誘導加熱による抵抗発熱体に直接水蒸気を送り込んで加熱する電気加熱方式等のヒーター構造が代表例として挙げられる。
【0065】
このような過熱水蒸気による熱風架橋は、加熱雰囲気に気体酸素が存在しないため酸化による材料の劣化がない。また、液状シリコーンゴムコーティング剤組成物に含まれる白金触媒や接着助剤等の添加剤の酸化劣化等よる架橋阻害因子が排除されるため表面架橋性が良好な硬化物が得られる。また、加熱効率の高さより、同一温度ではHAV加熱に比べ短時間硬化が可能である。更に、エアーバッグ基布の熱劣化及び熱による縮みも低減され、希釈溶剤の揮発残渣等の可燃性ガスが発生した場合でも気体酸素が存在しないため加熱炉内の爆発等のおそれがない。
【0066】
過熱水蒸気による熱風架橋の条件は特に限定されないが、110〜300℃、好ましくは120〜200℃であり、数秒〜30分、特に10〜600秒の範囲が好ましい。110℃未満ではシリコーンゴムが十分に硬化しない等の不具合が発生する可能性があり、300℃を超える温度ではエアーバッグに使用される基布が熱劣化あるいは布が収縮してしまうおそれがある。更に、成型後に2次加硫する場合においては、80〜200℃で1〜30時間の範囲で過熱水蒸気法あるいは通常の(温風による)HAV法によって2次加硫してもよい。
【0067】
更に、加熱炉の構造として過熱水蒸気による加熱機構に加え、通常の(温風による)HAV成型にて使用されるように加熱炉にセラミックヒーターのようなヒーターを併用した加熱炉を用いてもよい。上記ヒーター併用の加熱炉も過熱水蒸気による熱風架橋同様の条件にて架橋することが可能である。
【0068】
また、過熱水蒸気炉は、バッチ式よりもベルトコンベア式が好ましい。バッチ式は架橋対象物を炉の中に入れるときに一時的に炉内酸素濃度が上昇してしまい、表面架橋性が悪化してしまうおそれがある。
【0069】
<エアーバッグ>
本発明の組成物の硬化物からなるゴムコーティング層を有するエアーバッグ、好ましくは袋織りタイプのエアーバッグとしては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。その具体例としては、ナイロン66、ナイロン6、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維基材;不織布基材;熱可塑性樹脂シート状又はフィルム状基材等の生地を基布とするエアーバッグ等が挙げられる。
【0070】
これらのエアーバッグに対して、本発明の組成物をコーティングする方法としては、特に限定されず、常法を採用することができる。ゴムコーティング層を形成するためにエアーバッグ(基布)表面に塗布する組成物の量は、乾燥状態で、通常10〜150g/m2であり、好ましくは15〜80g/m2であり、より好ましくは20〜60g/m2である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明について具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、「部」とは「質量部」を表し、粘度は25℃における回転粘度計による測定値である。また、実施例中で用いた接着性向上剤(i)〜(iii)は、下記化学式で表される構造を有するものである。
【0072】
・接着性向上剤(i)[エポキシ当量:238g/mol]
【化4】


・接着性向上剤(ii)
【化5】


・接着性向上剤(iii)
【化6】

【0073】
[実施例1]
粘度が1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン40部、粘度が5,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン40部、主鎖のジオルガノシロキサン単位中にビニルメチルシロキサン単位を5モル%とジメチルシロキサン単位を95モル%とを含有し、粘度が700mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体20部、トリメチルシリル基で表面疎水化処理された比表面積120m2/gの疎水性シリカ17部、粘度が50mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=1.45質量%)1.0部、粘度が25mPa・sの分子鎖両末端及び分子鎖非末端にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.54質量%)2.2部、1−エチニルシクロヘキサノール0.05部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を白金金属の質量換算で(A)成分と(B)成分との合計量に対して30ppm、接着性付与剤(i)1.5部、接着性付与剤(ii)0.5部、チタン酸オクチル0.5部、及び比表面積200m2/gであり、かつ平均粒径8μmの沈殿シリカ(東ソー・シリカ製、商品名:NIPSIL LP)10部を均一に混合することにより、組成物1を調製した。上記組成物1において、組成物中のケイ素原子結合ビニル基1モルに対する組成物中のケイ素原子結合水素原子(以下、「SiH/SiVi」という)は、3.9モルであった。
【0074】
上記組成物1を用い、下記の測定方法に従って、ベルトコンベア式過熱水蒸気炉にて架橋、成型して硬化物を調製し、該硬化物の一般物性、インフレーション、耐ブロッキング性の試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0075】
<測定方法>
1.ゴム物性の測定
液状シリコーン組成物を2mm厚の金属製型枠に流し込み、平坦となるまで放置後、150℃に加熱したベルトコンベア式過熱水蒸気炉に入れて10分間加熱硬化させ、シートを作製した。次に、成型シートの一般物性(硬度、引張強度、切断時伸び、引裂強さ(アングル))をJIS K6249に準じて測定した。
【0076】
2.インフレーション試験
調製した液状シリコーン組成物を塗工ムラなく均一になるようコーターを用いて、袋織りタイプのエアーバッグの基体にコーティングした。コート厚みは布平坦部分の膜厚が加熱硬化後に約60μmになるように調整した。その後、該未硬化エアーバッグを170℃に加熱したベルトコンベア式過熱水蒸気炉に入れ、1分間加熱することにより硬化させ、ゴムコーティング層を有する袋織りエアーバッグを作製した。このエアーバッグに、空気圧を690kN/m2として、空気を3秒間吹き込むことにより、該エアーバッグを瞬間的に膨らませ、その気密性を肉眼で観察した。ゴムコーティング層に剥がれが認められない場合を「良」と評価し「A」で示し、ゴムコーティング層に剥がれが認められた場合を「不良」と評価し「B」で示す。
【0077】
3.耐ブロッキング性試験
ゴムコーティング層の表面のベタツキ感を評価するための試験として行った。
一方の布面に乾燥状態での厚さが0.2mmの層となるように液状シリコーン組成物を塗布し、170℃に加熱したベルトコンベア式過熱水蒸気炉にて1分間加熱してシリコーン被膜形成布を得た。得られたシリコーン被膜形成布を幅100mm×長さ200mmに切断し、そのゴムコーティング面をガラス板に空気が入らないように密着させた。この被膜形成布が密着したガラス板を垂直に立て、該被膜形成布がガラス板から自然落下するまでの経過時間を計測し、以下の評価基準に従って評価した。前記の通りガラス板を垂直に立ててから、被膜形成布がガラス板から落下するまでの経過時間が、1秒未満であった場合を「良」と評価し「A」と示し、1秒以上3秒未満であった場合を「やや良」と評価し「B」と示し、3秒以上6秒未満であった場合を「可」と評価し「C」と示し、6秒以上10秒未満であった場合を「やや不良」と評価し「D」と示し、10秒以上であった場合を「不良」と評価し「E」と示す。
【0078】
[実施例2]
粘度が1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン100部、トリメチルシリル基で表面疎水化処理された比表面積170m2/gの疎水性シリカ33部、粘度が45mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=1.14質量%)2.7部、粘度が12mPa・sの分子鎖両末端及び分子鎖非末端にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.54質量%)8.3部、1−エチニルシクロヘキサノール0.06部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を白金金属の質量換算で(A)成分と(B)成分の合計量に対して15ppm、接着性付与剤(i)1.5部、接着性付与剤(ii)0.5部、及びチタン酸オクチル0.5部を混合することにより、組成物2を調製した。上記組成物2において、SiH/SiViは3.3モルであった。
この組成物2を実施例1と同様にベルトコンベア式過熱水蒸気炉にて架橋、成型し、ゴム物性、インフレーション、耐ブロッキング性の試験・測定を実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0079】
[実施例3]
組成物1をあらかじめ余熱しておいたバッチ式過熱水蒸気炉に入れ、加熱硬化させた以外は実施例1と同様の条件でゴムシート、エアーバッグ、被膜形成布を成型した。得られた成型物の一般物性、インフレーション、耐ブロッキング性の試験・測定を実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0080】
[実施例4]
組成物2をあらかじめ余熱しておいたバッチ式過熱水蒸気炉に入れ、加熱硬化させた以外は実施例1と同様の条件でゴムシート、エアーバッグ、被膜形成布を成型した。得られた成型物の一般物性、インフレーション、耐ブロッキング性の試験・測定を実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0081】
[比較例1]
組成物1をあらかじめ余熱しておいた通常の循環型常圧熱風乾燥機にてHAV加熱硬化させた以外は実施例1と同様の温度、及び時間条件でゴムシート、エアーバッグ、被膜形成布を成型した。得られた成型物の一般物性、インフレーション、耐ブロッキング性の試験・測定を実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0082】
[比較例2]
組成物2をあらかじめ余熱しておいた通常の循環型常圧熱風乾燥機にてHAV加熱硬化させた以外は実施例2と同様の温度、及び時間条件でゴムシート、エアーバッグ、被膜形成布を成型した。得られた成型物の一般物性、インフレーション、耐ブロッキング性の試験・測定を実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
<評価>
表1から明らかなように、本発明の要件を満たす過熱水蒸気架橋を実施した実施例1〜4では、得られた硬化物(ゴムコーティング層)及びエアーバッグは、測定した全ての特性が優れていた。一方、通常のHAV架橋を行った比較例1,2では、該硬化物及びエアーバッグは、引張強度、切断時伸び、引裂強さ、耐ブロッキング性の少なくとも一項目が劣っていたり、インフレーション試験の結果が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の少なくとも一方の表面に、
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、分子中に他の官能基を含有しないオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、分子中に他の官能基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して、組成物中のケイ素原子に結合した水素原子が1〜7モルとなる量、
(C)付加反応触媒: 有効量、及び
(D)接着性向上剤: 0.1〜10質量部
を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を塗布し、該液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を常圧雰囲気下にて110℃以上300℃以下の過熱水蒸気を用いて熱気架橋することを特徴とするシリコーンエアーバッグの製造方法。
【請求項2】
(D)接着性向上剤が、ケイ素原子に結合したアルケニル基;炭素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基;炭素原子を介してケイ素原子に結合したアクリロキシ基又はメタクリロキシ基;アルコキシ基;エステル構造、ウレタン構造及びエーテル構造を1〜2個有していてもよい、炭素原子を介してケイ素原子に結合したアルコキシシリル基;イソシアネート基;及びケイ素原子結合水素原子からなる群から選ばれる2種以上の官能基を有する、オルガノシラン及びケイ素原子数3〜100の直鎖状又は環状のシロキサンオリゴマーから選ばれる有機ケイ素化合物、トリアリルイソシアヌレートの(アルコキシ)シリル変性物、そのシロキサン誘導体から選ばれるものである請求項1記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
【請求項3】
(D)接着性向上剤が、エポキシ当量が100〜5,000g/molの非ケイ素系有機化合物、エポキシ当量が100〜5,000g/molの有機ケイ素化合物、エポキシ開環触媒、ケイ素原子結合アルケニル基及び/又はケイ素原子結合水素原子とケイ素原子結合アルコキシ基を1分子中にそれぞれ1個以上有する有機ケイ素化合物、炭素原子数12以上の有機チタン化合物、及び窒素原子を1分子中に1個以上含有する有機ケイ素化合物から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
【請求項4】
液状シリコーンゴムコーティング剤組成物が、有機溶剤を含まないものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
【請求項5】
シリコーンエアーバッグが、織りにより袋部を形成したものである請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
【請求項6】
熱気架橋が、ベルトコンベア式の過熱水蒸気炉を用いて行うものである請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーンエアーバッグの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の方法によりシリコーンエアーバッグを製造することからなるシリコーンエアーバッグの耐ブロッキング性を向上する方法。

【公開番号】特開2010−254107(P2010−254107A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105916(P2009−105916)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】