説明

シリコーンゴム組成物及び絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシート

【課題】良好な熱伝導性を有すると共に耐熱性及び耐久性に優れた、絶縁性のシートを得ることのできるシリコーンゴム組成物、及び、耐熱性に優れ、300℃以上という高温下で使用することができて耐久性にも優れる上、シートからの脱落粒子が電極端子同士を接続したとしてもそれらの電極端子間を電気的に短絡させることのない、絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシートを提供すること。
【解決手段】下記の(A)〜(E)成分を含有することを特徴とするシリコーンゴム組成物;
(A)平均重合度が200以上である、一分子中にアルケニル基を2個以上持つオルガノポリシロキサン:100質量部、(B)フラーレン類:0.001〜50質量部、(C)熱伝導性充填剤:50〜800質量部、(D)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上持つオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が、(A)成分中に存在するアルケニル基のモル数の0.1〜10.0倍となる量、及び、(E)白金族系付加反応触媒:(A)成分に対して白金族元素換算で0.1〜1000ppm。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性を有すると共に、被圧着物に均一に圧力をかける目的で使用される熱圧着用シリコーンゴムシートに関し、特にフラーレン類を含有し、液晶ディスプレイ等の電極の接続に用いる異方性導電膜用熱圧着シートや、フレキシブルプリント基板等を成形する際に使用する、耐熱性・耐久性に優れた絶縁性のシートを作製することのできるシリコーンゴム組成物、及び、該組成物を成形・硬化させてなる、絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性電気絶縁材料として、シリコーンゴムに酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、又は酸化亜鉛等の粉末を配合したシート(特許文献1)や、シリコーンゴムに窒化ホウ素を配合し、網目状の絶縁材で補強したシート(特許文献2)等が従来から知られており、既に、パワートランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、或はパワーMOSFET等の発熱性部品の放熱絶縁用に使用されている。しかしながら、このような材料を200℃以上の高温条件下で使用すると、熱伝導性付与剤中の不純物やpHの影響により、シリコーンゴムが劣化するという欠点がある。
【特許文献1】特開昭47−32400号公報
【特許文献2】実開昭54−184074号公報
【0003】
一方、プレス成形機を用いて積層板やフレキシブルプリント基板等を成形する際のシート、或いは、液晶ディスプレイの電極端子部と駆動回路が搭載されたフレキシブルプリント基板の接続に用いる異方性導電膜を、圧着機を用いて熱圧着する際の緩衝用シートとして上記した熱伝導性電気絶縁シートが用いられている。このような熱伝導性電気絶縁シートとしては、例えば、シリコーンゴムに窒化ホウ素を配合し、ガラスクロスで補強したシート(特許文献3)や、シリコーンゴムに窒化ホウ素と導電性物質を配合し、ガラスクロスで補強して帯電防止性を付与したシート(特許文献4)が開示されている。しかしながら、これらの場合には、何れも高温条件下でシリコーンゴムが劣化するという欠点があった。特に最近では、フレキシブルプリント基板の成形や異方性導電膜圧着工程における圧着サイクルを短縮して生産性を向上させる観点から成形温度が上昇してきたこともあり、耐熱性と熱伝導性がより改善された熱伝導性ゴムシートの開発が望まれるに至った。
【特許文献3】特開平5−198344号公報
【特許文献4】特開平6−36853号公報
【0004】
これに対し、水分を除いた揮発分が0.5質量%以下であるカーボンブラックを熱伝導性付与剤として20〜150質量部用いることにより、300℃以上の温度で使用可能な耐熱性と良好な熱伝導性を有する、耐熱熱伝導性シリコーンゴムシートが提案された(特許文献5)。しかしながら、カーボンブラックは耐熱性付与剤として効果はあるもののその性能が十分ではなく、繰り返し使用可能なシリコーンゴムシートの使用回数が十分ではなかった。また、カーボンブラック粉末は導電性であるため、シートからカーボンブラックを含む粒子が脱落した場合には、電極端子間を電気的に短絡する恐れがあった。
【特許文献5】特開平7−11010号公報
【0005】
同様に、水分を除いた揮発分が0.5質量%以下であり且つBET比表面積が100m/g以上であるカーボンブラックを、ベースポリマーであるオルガノポリシロキサン100質量部に対して10〜100質量部熱伝導性付与剤として用いることにより、300℃以上の温度で使用可能な耐熱性と良好な熱伝導性を有する耐熱熱伝導性シリコーンゴムシートが提案された(特許文献6)。しかしながら、この場合にも耐熱性が十分ではないために、繰り返し使用可能回数が十分でないだけでなく、相変わらず、シートからカーボンブラックを含む粒子が脱落した場合には、電極端子間を電気的に短絡する恐れがあるという欠点があった。
【特許文献6】特開2003−261769号公報
【0006】
一方、耐熱性向上の観点からフラーレンを使用する試みとして、硬化性樹脂と平均粒径が0.001μm以上30μm以下のフラーレン類とを含有する樹脂組成物(特許文献7)や、シリコーンオイルにフラーレンを0.001〜5質量%溶解または分散した耐熱性シリコーン組成物(特許文献8)が提案されている。しかしながら、これらのフラーレンを配合したシリコーン組成物を、熱圧着用シリコーンゴムシートとして利用することは全く示唆されていない。
【特許文献7】特開2004−182775号公報
【特許文献8】特開2005−206761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の第1の目的は、良好な熱伝導性を有すると共に耐熱性に優れ、300℃以上という高温下で使用することが出来るシートを得ることのできるシリコーンゴム組成物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、耐熱性に優れ、300℃以上という高温下で使用することができて耐久性にも優れる上、シートからの脱落粒子が電極端子同士を接続したとしてもそれらの電極端子間を電気的に短絡させることのない、絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシートを提供することにある。
本発明者は、上記の諸目的を達成するために、高熱伝導性、高耐熱耐久性、電気絶縁性のすべてを満足する熱圧着用シリコーンゴムシートについて鋭意検討した結果、ベースポリマーである所定のオルガノポリシロキサンに対して、一定量のフラーレン類と熱伝導性充填剤を配合した、付加硬化タイプのシリコーンゴム組成物が好適であること、及び、該組成物をシート状に成形・硬化することにより良好な結果を得ることが出来ることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち本発明は、下記(A)〜(E)成分を含有することを特徴とするシリコーンゴム組成物、及び、該組成物をシート状に成形・硬化させてなる、絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシートである。
(A)平均重合度が200以上である、一分子中にアルケニル基を2個以上持つオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)フラーレン類:0.001〜50質量部、
(C)熱伝導性充填剤:50〜800質量部、
(D)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上持つオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が、(A)成分中に存在するアルケニル基のモル数の0.1〜10.0倍となる量、及び、
(E)白金族系付加反応触媒:(A)成分に対して白金族元素換算で0.1〜1000ppm。
本発明においては、前記(B)成分であるフラーレン類が、炭素原子数60のC60と炭素原子数70のC70のフラーレンを、合計で50質量%以上含むことが好ましく、前記(C)成分である熱伝導性充填剤の体積抵抗率は1×10Ωm以上であることが好ましい。
また、本発明の絶縁性熱圧着用シリコーンゴムシートは、その体積抵抗率が1×10Ωm以上であることが好ましく、熱伝導率は0.5W/mK以上であること、そしてシートの厚さは0.05〜10mmの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコーン組成物は、耐熱性付与剤として電気絶縁性であるフラーレン類を含有しているので、それを成形・硬化させて得たシートは、高熱伝導性で高温での圧着耐久性に優れると共に、仮にシートからの脱落粒子が電極端子同士を接続しても、該電極端子間を電気的に短絡させることがない。従って本発明のシリコーンゴムシートは、プレス成形機で積層板、フレキシブルプリント(FPC)基板等を成形または加工する際に使用されるシートや、液晶パネル、あるいはPDPパネルなどの電極端子部と駆動用LSIの搭載されたFPC基板の電極端子部とを接続する際などに用いられる異方性導電膜(ACF)を、加熱圧着機を用いて熱圧着させる際のクッション用シートとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明について説明するが、先ず本発明で使用する平均粒径及び平均重合度の意味を明確にする。
「平均粒径」:熱伝導性充填剤の平均粒径は、光回折/散乱法によって粒度分布を測定し、その小粒径側から積算した質量積算値が50%になるときの粒径を言う。
「平均重合度」:オルガノポリシロキサン等について、骨格をなすシロキサン結合を構成するケイ素原子数の平均である、数平均重合度を意味する。
【0011】
次に、本発明の組成物を構成する必須成分(A)〜(E)ついて説明する。
−(A)成分−
本発明で使用する(A)成分である、平均重合度200以上で一分子中にアルケニル基を2個以上持つオルガノポリシロキサンは、例えば、次の平均組成式(1)で表される。
1SiO(4−n)/2・・・・(1)
但し、上式中のnは1.95〜2.4の正数、R1は置換または非置換の一価炭化水素基を表す。
【0012】
上記R1で表される置換又は非置換の一価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基或いはこれらの水素原子が部分的に、塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子で置換されたハロゲン化炭化水素基等が例示される。
【0013】
(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、主鎖がジメチルシロキサン単位からなるもの、このオルガノポリシロキサンの主鎖に、ビニル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基などを導入したもの、及び、分子鎖末端がトリオルガノシリル基で封鎖されたものが好ましい。上記したトリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、トリビニルシリル基などが例示される。なお、この(A)成分の平均重合度は200以上であるが、これは、重合度が200未満では硬化後の機械的強度が劣り、脆くなるからである。
【0014】
−(B)成分−
本発明において(B)成分として使用するフラーレン類は、シリコーンゴムシートの耐熱性を向上させるための充填剤である。尚、本発明で使用する「フラーレン類」には、フラーレンとフラーレン誘導体が包含される。
本発明における「フラーレン」は、直径約1nmの中空・球殻状の炭素のみからなる分子であり、特に限定されるものではないが、C60、C70、C74、C76、C78、及びC80などが例示される。
本発明においては、上記フラーレンのうち、1種または2種以上の混合物を使用することができるが、特に、C60とC70のフラーレンを合計50質量%以上含むフラーレンを使用することが望ましい。C60とC70のフラーレンは工業的に得られ易いだけではなく、シリコーンへの分散性も良好であるからである。
【0015】
フラーレンは、そのもの自体の耐熱性が良好である。また、電子受容性があるためにラジカル捕捉性能を有しており、シリコーンゴムが高温に加熱されたときの熱分解で生じるラジカルをトラップして分解反応を停止させることができるので、シリコーンゴムシートに耐熱性を付与することができるものと考えられる。
またフラーレンは電気絶縁性であるため、従来の耐熱性付与剤であるカーボンブラックを配合したときのように、シートから脱落した粒子が電極端子間に付着しても、電気的な短絡の問題を引き起こす心配がない。実際、フラーレンC60とC70の体積抵抗率は1×10〜1×1012Ωmであり絶縁性が高い。
また通常のカーボンブラックとは異なり、フラーレンの熱伝導率は小さい。例えばC60の熱伝導率は0.4W/mKであり、熱伝導性を高めるための充填剤としての効果はほとんどなく、逆に、高熱伝導率の熱伝導性充填剤を充填する場合には、配合物の熱伝導率を低下させる方向に働く。
【0016】
本発明に使用されるフラーレン誘導体は特に限定されるものではなく、フラーレンを構成する炭素原子が、有機基や水酸基、水素、酸素などで化学修飾されたフラーレンを意味する。このようなフラーレン誘導体としては、例えば、水酸化フラーレン、酸化フラーレン、水素化フラーレンなどが例示される。
この(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.001〜50質量部であり、特に0.01〜10質量部の範囲で使用することが好ましい。0.001質量部未満では耐熱性の向上が不十分となり、また50質量部を超えると均一に配合することが困難になる上、得られる組成物の成形加工性が極めて悪くなる。
【0017】
−(C)成分−
(C)成分である、熱伝導性充填剤は、シリコーンゴムシートに熱伝導性を付与するものである。
本発明で使用する熱伝導性充填剤は特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、鉄などの金属粉末、金属ケイ素粉末、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化亜鉛などの酸化物粉末、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物粉末、炭化ケイ素などが挙げられる。これらの中でも、本発明においては、体積抵抗率が1×10Ωm以上である絶縁性の熱伝導性充填剤を使用することが、シートから脱落した粒子による電極端子間の電気的な短絡を引き起こさないという観点から好ましい。具体的には、金属ケイ素粉末、酸化アルミニウム粉末、二酸化ケイ素粉末、酸化亜鉛粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末などを使用することが好ましい。
この(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して50〜800質量部であり、特に60〜400質量部の範囲で使用することが好ましい。50質量部未満では熱伝導性が不充分となり、また800質量部を超えると均一な配合が困難になる上、得られる組成物の成形加工性が極めて悪くなって、硬化後の機械的強度が低くなると共にゴムの柔軟性が低下する。
【0018】
−(D)成分−
(D)成分であるケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上持つオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記平均組成式(2)で表される、常温で液体のものが好ましい。
2bcSiO(4-b-c)/2 ・・・・(2)
但し、(2)式中のR2は、炭素原子数1〜10の非置換又は置換の一価炭化水素基である。bは0≦b≦3であることが好ましく、特に0.7≦b≦2.1であることが好ましい。cは0<c≦3であることが好ましく、特に0.001≦c≦1であることが好ましい。また、b+cは0<b+c≦3を満たすことが好ましく、特に0.8≦b+c≦3を満足する数であることが好ましい。
【0019】
上記R2で表される、置換または非置換の一価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基或いはこれらの水素原子が部分的に塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子で置換されたハロゲン化炭化水素基;等が例示される。
【0020】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれであっても良い。SiH基は分子鎖の末端に存在しても分子鎖途中に存在してもよく、この両方に存在していてもよい。また、分子量には特に限定はないが、25℃での粘度が1〜1,000csであることが好ましく、特に3〜500csの範囲であることが好ましい。
【0021】
上記のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、メチルハイドロジェン環状ポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C653SiO1/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が、(A)成分中に存在するアルケニル基のモル数の0.1〜10.0倍となる量であり、0.2〜5.0倍となる量であることが好ましい。
【0022】
−(E)成分−
本発明で使用する(E)成分の白金族系付加反応触媒は、白金族金属系の触媒であり、白金族金属を触媒金属として含有する単体、化合物、及びそれらの錯体などを用いることができる。具体的には、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテートなどの白金系触媒、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム系触媒、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等のロジウム系触媒などが挙げられる。
【0023】
(E)成分の白金族系付加反応触媒の配合量は、(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対して、白金族元素換算で0.1〜1000ppmの触媒量であるが、1〜500ppmであることが好ましい。0.1ppm未満であると組成物の硬化が十分に進行しない場合が多く、1,000ppmを超えるとコスト高になる。
【0024】
−その他の成分−
本発明においては、シリコーンゴム組成物に酸化セリウム粉末を必要に応じて適宜添加することにより、さらに耐熱性を向上させることができる。該酸化セリウムの添加量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、特に0.2〜2質量部の範囲で添加することが好ましい。添加量が5質量部を越えると返って耐熱性が低下する。尚、この酸化セリウム粉末は、BET比表面積が50m/g以上という比較的大きな比表面積を有するものであることが好ましい。
【0025】
本発明においては、シリコーンゴム組成物の硬化速度及び保存安定性を調節する付加反応制御剤として、例えば、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等の低分子量ビニル基含有オルガノポリシロキサン;トリアリルイソシアヌレート、アセチレンアルコール及びそのシロキサン変性物;エチニルシクロヘキサノールなどを添加してもよい。
【0026】
その他、必要に応じて、親水性シリカ、疎水性シリカ等の補強性シリカ充填剤、クレイ、炭酸カルシウム、けいそう土、二酸化チタン等の充填剤、低分子シロキサンエステル、シラノール等の無機充填剤の分散剤、難燃性を付与させる白金族金属系化合物、ゴムコンパウンドのグリーン強度を上げるテトラフルオロポリエチレン粒子、着色剤などを添加してもよい。
【0027】
−調製・加工−
本発明に用いるシリコーンゴム組成物の調製は、所要の成分を、ホモジナイザー、二本ロールミル、三本ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機を用いて混練りすれば良いが、まず初めに(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと(B)成分であるフラーレン類を十分に混練りした後に、(C)成分の熱伝導性充填剤、(D)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(E)成分の白金族系付加反応触媒を混練することが好ましい。(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと(B)成分であるフラーレン類を予め混練することによって、オルガノポリシロキサン分子中にフラーレン類が均一に分散し易くなり、オルガノポリシロキサン分子とフラーレン類の相互作用ポイントが増加するので、耐熱性がより向上するからである。
【0028】
フラーレン類はトルエンなどの溶媒中に少量溶解する性質があるため、添加する場合には、オルガノポリシロキサン中への分散を良くするために、フラーレン類をトルエンなどの溶媒中に溶解させて混練し、混練後に溶媒のみを揮発除去することも可能である。
【0029】
また、本発明のシリコーンゴムシートの成形方法としては、硬化剤までを配合したシリコーンゴム組成物を、カレンダー成型機或いは押出し機で所定の厚さに分出ししてから硬化させる方法、液状のシリコーンゴム組成物或いはトルエン等の溶剤に溶解して液状化したシリコーンゴム組成物を、フィルム上にコーティングしてから硬化させる方法等が挙げられる。
【0030】
このようにして成形、硬化させたシリコーンゴムシートの厚さは、0.05〜10mmであることが好ましく、特に0.1〜1mmの範囲であることが好ましい。厚さが0.05mm未満では、使用時に、被圧着体の外形に充分追従できないので圧力のかかり方が不均一となり易く、クッション材としての働きが不十分となる。また、10mmを超える厚さになると熱の伝わり方が悪くなる。
【0031】
[シリコーンゴムシート]
上記のようにして、成形・硬化させて得られる本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは、例えば、液晶パネルの透明電極のリード部とフレキシブルプリント基板の外部電極のリード部を、異方性導電膜で圧着する場合のクッションシートとして用いられる。この場合、コストの面から300℃以上の高温で、繰り返し同一の箇所を使用する場合が多いが、使用回数が増加するにつれてシートが劣化し、粒子が脱落することもある。このとき、シートに導電性の粒子が配合されているか、シート自体が導電性である場合には、電極端子間を電気的に短絡する恐れがある。このような短絡を防止するために、本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは電気絶縁性であることが好ましく、体積抵抗率は1×10Ωm以上であることが好ましい。
本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートの熱伝導率は、伝熱媒体として効率よく熱を伝えるという観点から、0.5W/mK以上であることが好ましい。
【0032】
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。尚、下記の例においては次の材料を使用した。
(A) 平均重合度が200以上である、一分子中にアルケニル基を2個以上持つオルガノポリシロキサン:
(a−1):ジメチルシロキサン単位99.85モル%、メチルビニルシロキサン単位0.15モル%からなる、平均重合度が8,000で、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたメチルビニルポリシロキサン
(a−2):ジメチルシロキサン単位99.5モル%、メチルビニルシロキサン単位0.5モル%からなる、平均重合度が8,000で、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたメチルビニルポリシロキサン
(B) フラーレン類:
(b−1):C6060%、C7025%、及びその他高次フラーレンの混合物(ナノムミックス:フロンティアカーボン株式会社製の商品名)
(C) 熱伝導性充填剤
(c−1):平均粒径が5μmの粒子表面に強制酸化処理をした、金属ケイ素の粉砕粉末:体積抵抗率の参考値は、以下の通りである。金属ケイ素:4×10Ωm、表面酸化層(二酸化ケイ素):1×1013Ωm
(c−2):平均粒径が4μmの結晶性二酸化ケイ素の粉砕粉末:体積抵抗率は1×1013Ωm
(c−3):平均粒径が4μmの酸化アルミニウムの粉砕粉末:体積抵抗率は1×1013Ωm
(D) ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上持つオルガノハイドロジェンポリシロキサン:
(d−1):下記式(3)で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン


(3)




(E) 白金族系付加反応触媒
(e−1):塩化白金酸のビニルシロキサン錯体(白金含有量1質量%)
(F) 付加反応制御剤
(f−1):エチニルシクロヘキサノール
(G) 充填剤
(g−1):疎水性フュームドシリカR972(日本アエロジル株式会社製の商品名)
(H) 耐熱性付与剤
(h−1):平均粒径が35nm、水以外の揮発分が0.10質量%で、BET比表面積は69m/gのアセチレンブラック
【実施例1】
【0033】
(A)成分として、(a−1)60質量部と(a−2)40質量部からなるベース100質量部、及び(B)成分として(b−1)10質量部を用い、これらを加圧ニーダーで配合した後、3本ロールに3回かけることにより、フラーレンが良好に分散したオルガノポリシロキサン組成物を得た。
次いで、(C)成分として(c−1)150質量部を加圧ニーダーで配合し、混練りして均一化した。得られたシリコーンゴム組成物100質量部に対して、(E)成分の(e−1)0.05質量部、付加反応の制御剤である(F)成分の(f−1)0.025質量部、及び(D)成分の(d−1)0.7質量部を順次添加し、二本ロールミルでよく混練りして硬化性シリコーンゴム組成物(I)を調製した。
得られたシリコーンゴム組成物を、カレンダー成形機を用いて厚さ0.25mmに分出ししてから、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に転写した。PETフィルムとの積層品の状態のまま、150℃の加熱炉の中を5分間通してシート状のシリコーンゴム組成物を硬化させた。次に、シート状組成物からPETフィルムを剥離し、乾燥機中において200℃で4時間熱処理し、厚さ0.25mmの熱圧着用シリコーンゴムシートを作製した。
【実施例2】
【0034】
実施例1で使用した(c−1)150質量部の代わりに(c−2)150質量部を使用したこと以外は、実施例1と全く同様にして、厚さ0.25mmの熱圧着用シリコーンゴムシートを作製した。
【実施例3】
【0035】
実施例1で使用した(c−1)150質量部の代わりに(c−3)300質量部を使用したこと以外は、実施例1と全く同様にして、厚さ0.25mmの熱圧着用シリコーンゴムシートを作製した。
【実施例4】
【0036】
実施例1の場合と同様に、(A)成分として、(a−1)60質量部と(a−2)40質量部からなるベース100質量部に、(B)成分として(b−1)2質量部を加圧ニーダーで配合した後、3本ロールに3回かけることにより、フラーレンが良好に分散したオルガノポリシロキサン組成物を得た。
次に、(G)成分の(g−1)30質量部を加えてニーダーにて均一混合した後、(C)成分の(c−1)150質量部を加圧ニーダーで配合し、混練りして均一化した。得られたシリコーンゴム組成物100質量部に対して(E)成分の(e−1)を0.05質量部、付加反応の制御剤である(F)成分(f−1)0.025質量部、及び(D)成分(d−1)0.7質量部を順次添加し、二本ロールミルでよく混練りして硬化性シリコーンゴム組成物(II)を調製した。
得られたシリコーンゴム組成物を用いて、実施例1の場合と同様に成形加工して、厚さ0.25mmの熱圧着用シリコーンゴムシートを作製した。
【実施例5】
【0037】
ホモジナイザーを用いて、フラーレン(b−1)を0.5質量%の濃度で溶解したトルエン溶液を調整した。この溶液中に(A)成分を、(a−1):(a−2)=6:4となる比率で加え、最終的に(a−1)60質量部、(a−2)40質量部、及び(b−1)0.5質量部となるように調整し、ホモジナイザーで均一に溶解した。
得られたトルエン溶液を120℃に加熱しながら減圧し、トルエンを完全に留去して、(A)成分のオルガノポリシロキサンと(B)成分のフラーレンが分子レベルで均一に分散した組成物を得た。
この組成物に、更に(g−1)30質量部を加えてニーダーにて均一混合した後、(c−1)150質量部を加圧ニーダーで配合し、混練りして均一化した。得られたシリコーンゴム組成物100質量部に対して(e−1)0.05質量部、付加反応の制御剤である(f−1)0.025質量部、及び(d−1)0.7質量部を順次添加し、二本ロールミルでよく混練りして硬化性シリコーンゴム組成物(III)を調製した。
得られたシリコーンゴム組成物を用い、実施例1の場合と同様に成形加工して厚さが0.25mmの熱圧着用シリコーンゴムシートを作製した。
【0038】
比較例1.
(B)成分であるフラーレン類を配合しないこと以外は、実施例4と全く同様にして、厚さが0.25mmの熱圧着用シリコーンゴムシートを作製した。
【0039】
比較例2.
(A)成分として、(a−1)60質量部と(a−2)40質量部からなるベース100質量部を使用し、これに、耐熱性付与剤として(h−1)のカーボンブラック40質量部を加圧ニーダーで配合し、混練りして均一化した。得られたシリコーンゴム組成物100質量部に対して(e−1)0.05質量部、付加反応の制御剤である(f−1)0.025質量部、及び(d−1)0.7質量部を順次添加し、二本ロールミルでよく混練りして硬化性シリコーンゴム組成物(IV)を調製した。
得られたシリコーンゴム組成物を用い、実施例1と全く同様にして、厚さが0.25mmの熱圧着用シリコーンゴムシートを作製した。
【0040】
[基本物性の評価]
体積抵抗率、引張り強さ及び切断時伸び:JIS K6249の規定に準拠して測定した。
熱伝導率:ASTM E 1530の規定に準拠して測定した。
[熱圧着耐久回数の評価]
図1に示すように、50本の銅電極1aが、ピッチ32μm(線幅16μm、間隔16μm)で設けられたFPC(フレキシブルプリント配線板)と、同じく50本のITO電極1bがピッチ32μm(線幅16μm、間隔16μm)で設けられたガラス板2bを、それぞれの銅電極1aおよびITO電極1bを設けた側の面が互いに向かい合うようにし、その間に厚さが22μmで幅1.2mmのACF(異方性導電膜)3を挟み、圧着機のバックアップツール4の上に設置した。次に、実施例1〜5、または比較例1、2で作製した熱圧着用シリコーンゴムシート5が、上記のFPC 2aの上面に当たるように載置し、シリコーンゴムシート5の上から、400℃に加熱した加圧ツール6により4MPaの押し圧力で20秒間押圧した。このようにしてFPC 2aとガラス板2b間でACF3を圧着した後、銅電極1aとITO電極1b間における電気的導通を評価した。
次に、シリコーンゴムシート5としてそのまま同じものを使用し、FPCとガラス板及びACFを新しいものにセットし直し、上記と同様にして圧着する操作を繰り返した。この操作の繰り返しを、銅電極1aとITO電極1b間に所望の電気的導通が得られなくなるまで行ない、それまでの圧着操作の回数により、シリコーンゴムシートの熱圧着耐久性を評価した結果を表1に示した。表1中の熱圧着耐久回数とは、シリコーンゴムシート5の劣化によりACFに均一な圧力を付与できなくなったため、同じ条件で処理を行った場合に、所望の電気的導通が得られなくなるまでの回数を意味する。


【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果から、本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは、耐熱性が良好であるため耐熱圧着耐久性が良好であるだけでなく、絶縁性であるため、電気的短絡の問題が生じないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは熱伝導性及び耐熱性に優れ、300℃以上という高温下における使用に対しても耐久性に優れ、しかも絶縁性であるので、液晶ディスプレイ等の電極の接続に用いる異方性導電膜用熱圧着シートや、フレキシブルプリント基板等を成形する際に使用する絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシートとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートを用いて、FPCとガラス板で挟んだACFを熱圧着する方法を説明する模式図。
【符号の説明】
【0045】
1a. 銅電極
1b. ITO電極
2a. フレキシブルプリント配線版
2b. ガラス板
3. 異方性導電膜
4. バックアップツール(支持台)
5. 熱圧着用シリコーンゴムシート
6. 加熱・加圧ツール
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(E)成分を含有することを特徴とするシリコーンゴム組成物;
(A)平均重合度が200以上である、一分子中にアルケニル基を2個以上持つオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)フラーレン類:0.001〜50質量部、
(C)熱伝導性充填剤:50〜800質量部、
(D)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上持つオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が、(A)成分中に存在するアルケニル基のモル数の0.1〜10.0倍となる量、及び、
(E)白金族系付加反応触媒:(A)成分に対して白金族元素換算で0.1〜1000ppm。
【請求項2】
前記(B)成分であるフラーレン類が、炭素原子数60のC60と炭素原子数70のC70のフラーレンを、合計で50質量%以上含む、請求項1に記載されたシリコーンゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたシリコーンゴム組成物をシート状に成形し、硬化させてなることを特徴とする絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項4】
前記(C)成分である熱伝導性充填剤の体積抵抗率が1×10Ωm以上であり、シートの体積抵抗率が1×10Ωm以上である、請求項3に記載された絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項5】
シートの熱伝導率が0.5W/mK以上である、請求項3又は4に記載された絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項6】
シートの厚さが0.05〜10mmの範囲である、請求項3〜5の何れかに記載された絶縁性の熱圧着用シリコーンゴムシート。

【公開番号】特開2010−100691(P2010−100691A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271645(P2008−271645)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】