説明

シリコーン被覆金属酸化物超微粒子

【課題】 粒子直径が1〜100nmと小さくそれを配合した樹脂製品が透明性を有し、かつ、光触媒活性が抑制された、金属酸化物超微粒子を提供することである。
【解決手段】本発明のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子は、数平均粒子径が1〜100nmの金属酸化物超微粒子100重量部と、加水分解基ORを有するシラン化合物1〜1000重量部と、を反応させてその表面が有機シラン化合物で被覆されてなるシラン被覆金属酸化物超微粒子を形成した後、前記シラン被覆金属酸化物超微粒子に、その存在下、Si−H結合を有するシリコーン化合物1〜10000重量部を、反応させて得られる、シリコーン被覆金属酸化物超微粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン被覆金属酸化物超微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径100nm以下の無機超微粒子(以下、粒子径100nm以下を超微粒子と称する)、特に半導体超微粒子は、その表面積の大きさや量子特性を利用して、触媒、紫外線遮蔽材料、蛍光材料、発光材料、塗料、磁性材料など多くの用途への展開が検討されている。たとえば、酸化チタンは、3.0〜3.2eV(電子ボルト)のバンドギャップがあり、光触媒活性を有するため、セルフクリーニング・抗菌・防曇分野、空気浄化、水質浄化などへの応用開発が進んでいるが、さらに光触媒活性を高めるために、超微粒子化の検討が進んでいる。
【0003】
ところがこのような無機超微粒子は表面活性が高いため凝集しやすく、安定した分散形態で製造することが困難であり、また原料から分離精製することが困難であった。これに対して、金属酸化物微粒子の凝集を防止したり、光触媒活性をコントロールしたりする方法として、種々の化合物で表面修飾する技術が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、表面修飾剤としてケイ素基含有化合物、特にシランカップリング剤を使用することが記載されており、具体的には、酸化亜鉛微粒子100重量部をジメチルシリコーン20重量部で処理している。
【0005】
特許文献2には、低分子のシランカップリング剤で酸化亜鉛微粒子の表面修飾を行う方法が記載されている。該文献では、酸化亜鉛微粒子として、顕微鏡写真およびBET比表面積データから計算した数平均粒子径が100nm以上のものを用いており、粒子径が大きいため、例えば、樹脂中に混合した場合に透明性が必要とされる分野への応用には不向きである。また、酸化亜鉛微粒子を100%としたときに、使用しているシランカップリング剤の量が1重量%と少ないため、例えば、Si/Znは0.01未満となり、表面修飾としては不十分と考えられ、酸化亜鉛微粒子の凝集防止や光触媒活性のコントロールは期待できない。
【0006】
特許文献3には、ボールミルなどのミキサー中で、酸化亜鉛などの金属酸化物と、アルコキシル基またはヒドロキシル基、及び有機官能基を有するシランカップリング剤などのカップリング剤と、を反応させることで表面修飾しながら、さらに、透明熱可塑性樹脂に分散させる、熱可塑性樹脂組成物の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−128837号公報
【特許文献2】特開平8−59890号公報
【特許文献3】特開2006−77075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1〜3は、主に熱可塑性樹脂に金属酸化物超微粒子を分散することを目的とした技術であって、溶剤に溶解可能で、光触媒活性を抑制させる方法は、未だ知られていない。例えば、上記特許文献3では、溶剤に分散させることができたとしても、その状態を安定的に維持することは困難で、粒子同士が凝集してしまうという問題を抱えていると考えられる。
【0008】
このような現状を鑑みなされた本発明の課題は、100nm以下の粒子径の金属酸化物超微粒子に対して、その触媒活性等の化学的、また、その紫外線吸収能等の物理的、特性を効果的に制御しつつ、かつ、超微粒子同士の凝集を防ぐための表面修飾をしたシリコーン被覆金属酸化物超微粒子を提供することである。
【0009】
また、本発明の課題は、例えば、溶剤に対する分散性が高く、また、コーティング材料の基材として適した、シリコーン被覆金属酸化物超微粒子含有液状樹脂材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するための手段として、以下に示す組成物を発明した。
【0011】
すなわち本発明は、数平均粒子径が1〜100nmの金属酸化物超微粒子100重量部と、下記一般式1で表される加水分解基ORを有するシラン化合物1〜1000重量部と、を反応させてその表面が有機シラン化合物で被覆されてなるシラン被覆金属酸化物超微粒子を形成した後、前記シラン被覆金属酸化物超微粒子に、その存在下、下記一般式2で表されるSi−H結合を有するシリコーン化合物1〜10000重量部を、反応させて得られる、シリコーン被覆金属酸化物超微粒子に関する。
【0012】
【化3】

【0013】
(但し、aは、0〜3の整数である。ORは、水酸基、又は、加水分解により水酸基となる官能基である。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基である。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基のいずれであってもよく、また、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、水酸基、エーテル基、エステル基、などの一般的な官能基が含まれていてもかまわない。)
【0014】
【化4】

【0015】
(但し、nは1〜8、mは0〜8の整数である。R2、R3、R4は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基である。)
前記金属酸化物超微粒子は、酸化亜鉛を主成分とすることが好ましい。
【0016】
前記Si−H結合を有するシリコーン化合物は、テトラヒドロテトラメチルシクロテトラシロキサンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリマー被覆金属酸化物超微粒子は、金属酸化物微粒子表面に強固に化学結合した有機シラン化合物をクッション層として、Si−H結合を有するシロキサン化合物を重縮合することにより得られるSi−O−Si結合、及びSi−H結合を有する高分子により被覆されているので、金属酸化物超微粒子の特性を効果的に制御しつつ、超微粒子同士の凝集を防ぐことができ、さらに、溶媒中に均一、かつ、高分散することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(シリコーン被覆金属酸化物超微粒子)
本発明のポリマー被覆金属酸化物超微粒子は、数平均粒子径が1〜100nmの金属酸化物超微粒子100重量部と、下記一般式1で表される加水分解基ORを有するシラン化合物1〜1000重量部と、を反応させてその表面が有機シラン化合物で被覆されてなるシラン被覆金属酸化物超微粒子を形成した後、
前記シラン被覆金属酸化物超微粒子に、その存在下、下記一般式2で表されるSi−H結合を有するシリコーン化合物1〜10000重量部を、反応させて得られる、シリコーン被覆金属酸化物超微粒子である。
【0019】
【化5】

【0020】
(但し、aは、0〜3の整数である。ORは、水酸基、又は、加水分解により水酸基となる官能基である。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基である。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基のいずれであってもよく、また、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、水酸基、エーテル基、エステル基、などの一般的な官能基が含まれていてもかまわない。
【0021】
【化6】

【0022】
(但し、nは1〜8、mは0〜8の整数である。R2、R3、R4は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基である。
【0023】
本発明のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子は、前記Si−H結合を有するシリコーン化合物を用いて、非極性溶媒中で、前記シラン被覆金属酸化物超微粒子表面を更に表面修飾してなることを1つの特徴としており、前記Si−H結合を有するシリコーン化合物同士が重縮合・架橋することによりSi−O−Si結合を有する高分子で被覆されてなり、また、金属酸化物超微粒子の金属元素Meとシリコン元素SiとのMe−O―Si結合からなる酸化物合金が表面に形成されることで、超微粒子の化学的・物理的特性を効果的に制御しつつ、かつ、超微粒子同士の凝集を防ぐことが可能な本発明のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子が得られるものと推察される。
【0024】
本発明において、予め前記加水分解基ORを有するシラン化合物、所謂シランカップリング剤で金属酸化物超微粒子を表面修飾しシラン被覆金属酸化物超微粒子としている理由は、このカップリング残基と前記Si−H結合を有するシリコーン化合物とが反応することで上記同様にSi−O−Si結合が生じ、それにより強固な被覆層が形成されることが期待できることがその1つの理由である。
【0025】
しかしそれだけでなく、極性が高く、表面が活性な金属酸化物超微粒子に予めカップリング剤で表面保護することにより、非極性溶媒中で凝集することなく高分散可能な性質を与えることで、例えば酸化亜鉛超微粒子であればそれを含む樹脂組成物に透明性を付与可能な100nm以下の金属酸化物超微粒子に対して、均一、かつ、再現性良くSi−O−Si結合、及びSi−H結合を有する高分子被覆を形成できるからである。
【0026】
また、上記の如く金属酸化物超微粒子を非極性溶媒に分散可能なシラン被覆金属酸化物超微粒子に変性することで、これと、同じく一般に非極性溶媒に良く溶ける本発明に係るSi−H結合を有するシリコーン化合物とを、同じ非極性溶媒であるトルエン・ヘキサン等に同時に存在させること、また、本発明に係るSi−H結合を有するシリコーン化合物の反応触媒である例えばトルエンスルホン酸等の酸が存在しても、金属酸化物超微粒子そのものがこの酸と反応して溶解する怖れが無いこと、さらに、本発明に係る加水分解基ORを有するシラン化合物による処理をする前の金属酸化物超微粒子は一般に極性溶媒であるメタノール中で安定に分散しているため、このような極性溶媒は一般に、活性水素例えば、OH基があるため、本発明に係るSi−H結合を有するシリコーン化合物と反応してこれを消費してしまうが、非極性溶媒中での反応に転換できるため、その怖れが無いこと、等の副次的な効果もある。
【0027】
このような本発明のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子は、必須構成として、核となる金属酸化物超微粒子、及びシリコーン被覆の2層からなるものと考えられるが、上述したようにシリコーン被覆における安定性を向上ささるために、金属酸化物超微粒子、シラン被覆、及びシリコーン被覆の3層からなるものと好ましくは考えられる。つまり、金属酸化物超微粒子から、シラン被覆金属酸化物超微粒子をへて、シリコーン被覆されたものが本発明のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子と考えられる。
【0028】
(金属酸化物超微粒子)
前記金属酸化物超微粒子は、酸化亜鉛を主成分とすることが、その紫外線吸収能、蛍光発光能、光触媒活性などの特性を、樹脂材料に生かせるので、好ましく、またその分散状態での数平均粒径は、量子サイズ効果を発現させて、その特性を制御する観点から、1nm以上100nm以下の範囲とすることを要し、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは、10nm未満である。
【0029】
また、後述する方法で、無機超微粒子コロイド溶液を調製し、また、それを安定に維持する観点、及び、本発明のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子を配合して濁りの少ない、透明性の高い樹脂製品を得る観点からは、光散乱が殆ど無くなる20nm以下がより好ましい。
【0030】
なお、ここで数平均粒径とは、透過型電子顕微鏡にて撮影された写真を用いて、少なくとも100個以上の粒子の粒子径を定規により測定して算出した数平均粒子径をいう。但し、電子顕微鏡で撮影された粒子の写真が円形でない場合には、粒子の占める面積を算出した後、同面積を有する円形に置き換えた際の円直径を用いて計算する。
【0031】
酸化亜鉛以外の少量成分、ドープ成分、又は不純物として、任意の元素の単体・化合物を含んでいてもかまわない。
【0032】
(金属酸化物超微粒子の調整)
本発明で用いられる金属酸化物超微粒子は、気相法、液相法、など一般的に用いられる超微粒子の製造方法を用いて、半導体の前駆体から合成して製造されるのが一般的であるが、これらの方法に限定されるものではなく、公知の任意の方法を用いる事ができる。以下に製造方法を例示する。
【0033】
超微粒子の製造方法としては、原料水溶液を非極性有機溶媒の逆ミセル中に存在させ、結晶成長させる方法(逆ミセル法)、熱分解性の原料を高温の液体有機溶媒中で結晶成長させる方法(ホットソープ法)、原料の錯体を酸塩基反応により水酸化物錯体に変換し続いて水酸化物錯体同士で脱水することにより結晶を成長させる方法(ゾル生成法)などにより製造可能であり、これらの方法を用いれば得られる超微粒子の粒子径制御が容易であることなどから好ましく用いられる。
【0034】
これらの方法の中でも最も好ましいのが、以下に述べる方法であり、20nm以下の粒子径の無機超微粒子コロイド溶液を容易に調製することができる。例えば、酸化亜鉛超微粒子の場合には、具体的には、別々に、互いに当量の、即ちストイキオメトリックな、完全に溶解した、酢酸亜鉛のメタノール溶液、及び、水酸化カリウムのメタノール溶液を調整し、例えば25℃、または、それ以上の温度で、両用液を強く攪拌しながらすばやく混合することで、透明清澄な酸化亜鉛コロイドメタノール溶液を調製する方法である。ここで、無機超微粒子コロイド溶液とは、溶媒中に無機超微粒子が安定的に分散されてなる透明な液体を指すこととする。
【0035】
(シラン被覆金属酸化物超微粒子)
前記シラン被覆金属酸化物超微粒子は、その表面が有機シラン化合物で被覆されてなり、金属酸化物超微粒子100重量部と、加水分解基ORを有するシラン化合物1〜1000重量部とを反応させて得られるものである。
【0036】
金属酸化物超微粒子とシラン化合物の反応にあたっては、定法を用いることができる。反応させる際の条件は、溶媒中であってもよく、無溶媒であってもよいが、無機超微粒子コロイド溶液に前記加水分解基ORを有するシラン化合物であるシランカップリング剤を導入して反応させることが、金属酸化物超微粒子の高分散状態を維持したままで反応可能であることから好ましい。温度に関しても、特に制限はないが、室温〜300℃であることが好ましく、40℃〜200℃であることがさらに好ましい。圧力に関しても、特に制限はないが、常圧〜50MPaであることが好ましく、特に、オートクレーブを用いて0.1〜3.0MPaの高圧下、60〜180℃で実施することが好ましく、シランカップリング剤による金属酸化物超微粒子の被覆率が高くなり、極性が非極性に変化して、非極性溶媒である例えばヘキサンにも溶解するシラン被覆金属酸化物超微粒子に変化するようになる等、上述した理由で、その後の反応の制御性が向上するので、好ましい。
【0037】
使用する溶媒に関しても、特に限定されないが、反応が効率よく進行する点で金属酸化物超微粒子とシラン化合物の両方を分散あるいは溶解させることができる溶媒が好ましく、入手性および安全性の点でアルコールがより好ましく、炭素数3以下の脂肪族アルコールがさらに好ましい。
【0038】
本発明では、金属酸化物超微粒子とシラン化合物との重量比に関しては、金属酸化物超微粒子100重量部に対して、シラン化合物1〜1000重量部を反応させて、シラン被覆金属酸化物超微粒子を形成することを要するが、コストと効果の両立の観点から金属酸化物超微粒子100重量部に対して、好ましくはシラン化合物15〜650重量部、特に好ましくはシラン化合物30〜350重量部とすることである。
【0039】
モル比では、上述した重量比で既に記載ずみであるが、例えば、金属酸化物超微粒子1モルに対して、シラン化合物0.01〜10モルが典型的なモル比となり、好ましくは、シラン化合物0.02〜5モルを反応させることである。ちなみに金属酸化物微粒子の数平均粒子径が5nmの場合、理論的に必要とされる表面修飾剤の量は金属酸化物1モルに対して0.21モル(トリアルコキシシランの場合)であり、数平均粒子径3nmの場合は0.36モル(トリアルコキシシランの場合)と計算することができる。
【0040】
(シラン化合物)
前記加水分解基ORを有するシラン化合物は、一般式1で表され、例えば、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(TSMA)、ドデシルトリメトキシシラン(DTMS)、デシルジメトキシメチルシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルジメトキシメチルシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができるが、生成物の極性の観点から、ドデシルトリメトキシシラン(DTMS)が好ましい。
【0041】
【化7】

【0042】
(但し、aは、0〜3の整数である。ORは、水酸基、又は、加水分解により水酸基となる官能基である。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基である。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基のいずれであってもよく、また、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、水酸基、エーテル基、エステル基、などの一般的な官能基が含まれていてもかまわない。)
一般式1中、aは1、2、または3であり、好ましくは、1または2である。
【0043】
シラン化合物のORは、加水分解性基であれば、特に限定されない。ORは、例えば、酸化亜鉛超微粒子の水酸基と反応しZn−O−Si結合を形成する。一般に、金属酸化物の表面は表面が水酸基で覆われていると考えられ、この表面の水酸基と、前記シラン化合物の加水分解性シリル基と、が反応して、金属原子−酸素原子−シリコン原子の強固な結合が形成されことによって、金属酸化物はシラン化合物で表面被覆される。
【0044】
(Si−H結合を有するシリコーン化合物)
前記Si−H結合を有するシリコーン化合物は、一般式2で表され、例えば、テトラヒドロテトラメチルシクロテトラシロキサン等のような環状化合物、メチルハイドロジェンポリシロキサン等のような直鎖状化合物を挙げることができるが、反応性、純度、後処理などの観点から、テトラヒドロテトラメチルシクロテトラシロキサンが好ましい。
【0045】
【化8】

【0046】
(但し、nは1〜8、mは0〜8の整数である。R2、R3、R4は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基である。)
本発明のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子中の、金属酸化物超微粒子と前記Si−H結合を有するシリコーン化合物との比率としては、樹脂組成物中の有機無機複合粒子の分散性を確保し、また、金属酸化物超微粒子の特性を発現させるために、金属酸化物超微粒子100重量部あたり、シリコーン化合物1重量部以上10000部以下の範囲であることを要し、30重量部以上3000重量部以下がより好ましく、100重量部以上1000重量部以下がさらに好ましい。
【0047】
(シリコーン化合物の被覆方法)
本発明において、シラン被覆金属酸化物超微粒子に、前記Si−H結合を有するシリコーン化合物を被覆させて、本発明のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子を得るための重合の方法は、特に限定されず、一般的に知られている方法を採用すればよいが、好ましくは、反応器に、上記シラン被覆金属酸化物超微粒子、上記Si−H結合を有するシリコーン化合物、好ましくは非極性溶媒、及び好ましくは酸触媒を入れ、必要に応じて加熱し、撹拌することで反応させる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
【0049】
(測定の説明)
UVスペクトル(紫外可視吸収スペクトル)は、日本分光(株)製、JASCO、V−560を用いて測定した。
【0050】
IRスペクトル(赤外スペクトル)は、島津製作所製、IR−Prestige21を用いて測定した。
【0051】
固形分濃度は、溶液の約1gを計量して金属性シャーレに入れ、熱風オーブン中で、150℃1時間乾燥させ残存した固形分の重量を計量し、以下の数式1で算出した。
【0052】
【数1】

【0053】
灰分は、サンプル10〜20mgをアルミナセルに仕込んで、アルミナ粉をリファレンスとして、示差熱・熱重同時分析装置DTG−50(島津製作所)を使用して、加熱速度20℃/分、ホールド温度800℃、ホールド時間10分にて、また、雰囲気ガスとして空気を、流量50mL/分で流しながら、200℃の時点から、測定終了までの減量を測定し、以下の数式2によって算出した。
【0054】
【数2】

【0055】
また、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)を用いて、サンプル中のZn、Si含量を測定した。
【0056】
(メチレンブルーテスト)
まず、メチレンブルー色素(0.7mg、Waldeck GmbH製)、及びDMF(100mL、和光純薬製)から、約2×10−5Mの濃度のメチレンブルー溶液を調製した。
【0057】
次に、このメチレンブルー溶液に、以下に詳述する実施例1と、比較例1、及び比較例2で製造した微粒子を所定量投入したサンプル溶液、並びに、このメチレンブルー溶液そのものであるブランク溶液、につき所定時間、所定強度の紫外線を照射した後、それらの溶液の一部を取り、UVスペクトル計測器にて、665nmの吸収度を測定した。その測定結果より、メチレンブルーの消費率を、以下の式により算出した。
【0058】
【数3】

【0059】
この消費率について、サンプル溶液と、ブランク溶液と、を比較して、以下の基準により、光触媒活性の評価を行った。
○(良好):20分照射後、ブランクとの差が10(数字は仮)ポイント未満
△(中間):20分照射後、ブランクとの差が10〜30(数字は仮)ポイント
×(不良):20分照射後、ブランクとの差が30(数字は仮)ポイント以上
具体的には、サンプル溶液は、9mLのガラス製サンプル管に、実施例1と、比較例1、及び比較例2で製造した微粒子2mg、及びメチレンブルー溶液6mLを投入し調製した。ブランク溶液は、9mLのサンプル管に、メチレンブルー溶液6mLのみを投入したものである。
【0060】
これらのサンプル溶液、及びブランク溶液に、これらの溶液をマグネティックスターラーでよく攪拌しながら、紫外線を照射した。照射した紫外線の光源は、紫外線ランプであるSLUV−6(アズワン(株)製、波長365nm、照射エネルギーのカタログ値1.3mW/cm2)であり、各溶液を前記光源のランプのフィルターから5cmの距離に固定し、5分間、及び20分間紫外線を照射した。
【0061】
(製造例1)0.2M 酸化亜鉛超微粒子メタノール溶液の調製
水酸化カリウム(85%、ナカライテスク(株)製)11.2gを、メタノール(和光純薬製)250mLに室温にて溶解させて、水酸化カリウム溶液を調製した。これとは別に、別の容器で、酢酸亜鉛2水和物(ナカライテスク(株)製)21.95g(0.1mol)を、メタノール(和光純薬製)250mLに室温にて溶解させ、酢酸亜鉛溶液を調整した。
【0062】
次に、前記酢酸亜鉛溶液を、前記水酸化カリウム溶液の入った反応器にすばやく投入し、室温にてよく攪拌した。3時間攪拌の後、溶液を一部取り、メタノールで希釈して、UVスペクトルとPLスペクトルを測定し、酸化亜鉛の超微粒子が生成していることを確認した。このようにして、酢酸亜鉛超微粒子のメタノール溶液(0.2M、500mL、酸化亜鉛として0.1mol)を調整した。
【0063】
(比較例1)シラン修飾酸化亜鉛超微粒子を調製
2000mLの三口フラスコの反応器に、製造例1で調製した酢酸亜鉛超微粒子のメタノール溶液(0.2M、1000mL、酸化亜鉛として0.2mol)を入れた。シランカップリング剤である、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(以下、TSMAと略す。)1.9mL、即ち8mmol、及びドデシルトリメトキシシラン(以下、DTMSと略す。信越化学工業(株)製、KBM−3103C)2.3mL、即ち8mmolを、前記酢酸亜鉛超微粒子のメタノール溶液が入った反応器に注ぎ、60℃で3時間反応させた。放冷の後、遠心分離(6000rpm、5min)で溶媒を分離し、室温の減圧乾燥機で1終夜乾燥させることにより、シラン修飾酸化亜鉛超微粒子を調製した。
【0064】
(比較例2)シラン修飾酸化亜鉛超微粒子の固体の調製
300mLのオートクレーブ型の耐圧反応器に、製造例1で調製した酢酸亜鉛超微粒子のメタノール溶液(0.2M、200mL、酸化亜鉛として0.04mol)を入れた。これに、DTMS3.8mL、即ち0.0132molを加えた。
【0065】
次に、反応器を密封し、120℃で2時間反応させた。反応終了後、冷却し、反応器の底に沈殿した、シラン修飾酸化亜鉛超微粒子の白色固体を得た。
【0066】
続いて、取り出した白色固体に、ヘキサン(和光純薬製、40mL)を加え、ヘキサン溶液とした。この溶液を、純水(15mL)で2回洗浄し、残存している副生成物である酢酸カリウムを除去した。エバポレーターで、溶液からヘキサンを除去し、さらに、真空オーブンで真空乾燥することで、シラン修飾酸化亜鉛超微粒子溶液の透明固体を得た。灰分は68.0%であった。また、ICP−MSによる含量分析では、Znは46.1wt%、Siは6.3wt%であった。
【0067】
(実施例1)Si−H化合物修飾酸化亜鉛超微粒子の固体の調製
まず、500mLの三口フラスコの反応器に、前記比較例2で製造したシラン修飾酸化亜鉛超微粒子1.0g、トルエン50mLを加えて、攪拌しながら内部を窒素バブリングすることで溶存酸素を除いた。この反応器を加熱したオイルバスに投入し、溶液を攪拌することで、内部温度が60℃になるように調節した。そこにテトラメチルシクロテトラシロキサン(KF9902、信越化学工業(株)製、0.30mL)を投入し、撹拌を継続した。
【0068】
次にそこに、予めパラトルエンスルホン酸0.010g(和光純薬製)をアセトニトリル0.5g(和光純薬製)に溶かして調整しておいたパラトルエンスルホン酸のアセトニトリル溶液を投入し、この時刻を反応開始時刻とした。随時、発生した水素ガスをトラップし、反応の進行度合いを確認した。反応の開始から3時間後、新たに水素ガスが発生しなくなったことを確認し、反応器をオイルバスから取り出し、空気冷却することで、反応を終了させた。
【0069】
得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、残存している酸を除いた。さらに、メタノール(15mL)で洗浄し、残存している未反応のテトラメチルシクロテトラシロキサンを除いた。エバポレーターで、得られた溶液から溶媒と残存揮発物を除去した。得られた透明の液状ポリマーを真空乾燥し、0.9gのZnO超微粒子含有ポリマーを得た。灰分は66.6%であった。
【0070】
このサンプルについて、IRスペクトルを測定したところ、Si−Hに由来するピークが2169cm−1に、CH3−Si(H)Oに由来するピークが1260cm−1にショルダーとして観測されたことから、得られたサンプルにはSi−H結合が存在すると考えた。
【0071】
実施例1のサンプル、比較例2のサンプル、比較例1のサンプルについて、同時にメチレンブルーテストを実施した。表1にテストの結果をまとめる。表1から、実施例1において、サンプルの光触媒活性がきわめて抑制されていることが判る。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例1から、Si−Hを有するシリコーンによる処理で、光触媒活性が満足に抑制されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均粒子径が1〜100nmの金属酸化物超微粒子100重量部と、下記一般式1で表される加水分解基ORを有するシラン化合物1〜1000重量部と、を反応させてその表面が有機シラン化合物で被覆されてなるシラン被覆金属酸化物超微粒子を形成した後、
該シラン被覆金属酸化物超微粒子に、その存在下、下記一般式2で表されるSi−H結合を有するシリコーン化合物1〜10000重量部を、反応させて得られる、シリコーン被覆金属酸化物超微粒子。
【化1】


(但し、aは、0〜3の整数である。ORは、水酸基、又は、加水分解により水酸基となる官能基である。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基である。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基のいずれであってもよく、また、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、水酸基、エーテル基、エステル基、などの一般的な官能基が含まれていてもかまわない。)
【化2】


(但し、nは1〜8、mは0〜8の整数である。R2、R3、R4は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基である。)
【請求項2】
前記金属酸化物超微粒子が、酸化亜鉛を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子。
【請求項3】
前記Si−H結合を有するシリコーン化合物が、テトラヒドロテトラメチルシクロテトラシロキサンであることを特徴とする、請求項1、又は2に記載のシリコーン被覆金属酸化物超微粒子。

【公開番号】特開2009−149454(P2009−149454A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326647(P2007−326647)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】