説明

シリルエチニル基を有するトリフェニレン化合物及びその製造方法

【課題】 新規なトリフェニレン化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(III)で表される化合物に下記一般式(IV)で表される化合物を反応させることにより一般式(I)で表される化合物を製造する。
【化1】




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリルエチニル基を有する新規なトリフェニレン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素を含む置換基を有するトリフェニレン化合物が知られている(特許文献1〜3参照)。特許文献1および2では、ケイ素を含む側鎖が酸素原子を介してトリフェニレン骨格に結合した化合物が開示されている。また、特許文献3ではケイ素を含む側鎖が直接ケイ素を介してトリフェニレン骨格に結合した化合物が開示されている。しかしながら、シリルエチニル基を有するトリフェニレン化合物については知られていなかった。
【特許文献1】特開2003−252818号公報
【特許文献2】特開平11−255781号公報
【特許文献3】特開2003−252880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は新規なトリフェニレン化合物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、2,3,6,7,10,11-ヘキサブロモトリフェニレンとトリアルキルシリルアセチレンを反応させることによって2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンなどを製造することに成功した。さらに、当該化合物を包含する下記一般式(I)で表される新規トリフェニレン化合物(以下、本発明の化合物と呼ぶことがある)が同様の手法によって得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表される化合物を提供する。
【化1】

【0006】
一般式(I)においては、R〜Rが全て一般式(II)で表される置換基であることが好ましい。また、一般式(II)においてはR、R、Rがアルキル基であることが好ましく、イソプロピル基またはメチル基であることがより好ましい。
【0007】
本発明はまた、下記一般式(III)で表される化合物に下記一般式(IV)で表される化合物を反応させることを特徴とする上記一般式(I)の化合物の製造方法を提供する。
【化2】

【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物は耐熱性、耐光性が高く安定であり、また、有機溶媒に可溶であるため加工性が高い。本発明の化合物は蛍光やリン光を発する性質を有するため、有機エレクトロルミネッセンス素子などの光学材料として有用である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本方法を詳しく説明する。
【0010】
本発明の化合物は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【化3】


ここで、R〜Rはそれぞれ独立にHまたは下記一般式(II)の置換基であって、R〜Rのうちの少なくとも1個は一般式(II)の置換基である。好ましくはR〜Rのうちの3〜6個が一般式(II)で表される置換基であり,より好ましくはR〜Rの6個全てが一般式(II)で表される置換基である。
一般式(II)で表される置換基は、R〜Rにおいて互いに異なるものであってもよいが、同じものであることが好ましい。
【化4】

【0011】
一般式(II)において、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基であり、より好ましくはそれぞれ独立に炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は飽和でも不飽和でもよく、枝分かれしていてもよい。また、不飽和脂肪族炭化水素基の場合、2重結合は複数あってもよい。脂肪族炭化水素基の種類は特に制限されず、メチル基、エチル基など下記に示すような置換基が挙げられるが、イソプロピル基またはメチル基が特に好ましい。芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、置換されたフェニル基など下記に示すようなものが挙げられる。なお、R、R、Rは互いに同じ置換基であってもよいし、異なるものであってもよい。
一般式(I)の化合物として、特に好ましくは、2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレン、2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンなどが挙げられる。
【0012】
以下に、R、R、Rの例を挙げるが、R、R、Rはこれらに限定されない。
【0013】
(アルキル基の例)
−CH
−CHCH
−CHCHCH
−CHCHCHCH
−CHCHCHCHCH
−CHCHCHCHCHCH
−CHCHCHCHCHCHCH
−CHCHCHCHCHCHCHCH
−CHCHCHCHCHCHCHCHCH
−CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH
(上記アルキル基は下記の例のように枝分かれしていてもよい。)
【化5】

【0014】
(不飽和炭化水素基の例)
−C≡C−R(RはH、炭素数1〜8の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基が好ましい。)
−CH=CR(RはH、炭素数1〜8の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基が好ましい。Rの種類が異なる場合、シス、トランスは問わない。)
−CH−CH=CR(RはH、炭素数1〜7の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基が好ましい。Rの種類が異なる場合、シス、トランスは問わない。)
【0015】
(芳香族炭化水素基の例)
−Ph
−Np(ナフチル基)
−Anth(アントリル基)
−Ph−R(Rは炭素数1〜18の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。−Rの数は1個でも複数個でもよく、1個の場合オルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。複数個の場合、2,4,6位置換体が好ましい。)
−Ph−OR(Rは炭素数1〜18の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。−ORの数は1個でも複数個でもよく、1個の場合オルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。複数個の場合、2,4,6位置換体が好ましい。)
−Ph−NO(−NOの数は1個でも複数個でもよく、1個の場合オルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。複数個の場合、2,4,6位置換体が好ましい。)
−Ph−CN(−CNの数は1個でも複数個でもよく、1個の場合オルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。複数個の場合、2,4,6位置換体が好ましい。)
−Ph−NH(−NHの数は1個でも複数個でもよく、1個の場合オルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。複数個の場合、2,4,6位置換体が好ましい。)
−Ph−SiR(Rは炭素数1〜18の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。−SiRの数は1個でも複数個でもよく、1個の場合オルト、メタ、パラのいずれの位
置であってもよい。複数個の場合、2,4,6位置換体が好ましい。)
−Ph−OSiR(Rは炭素数1〜18の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。−OSiRの数は1個でも複数個でもよく、1個の場合オルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。複数個の場合、2,4,6位置換体が好ましい。)
−Ph−Ph(−Phの数は1個でも複数個でもよく、1個の場合オルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。複数個の場合、2,4,6位置換体が好ましい。)
【0016】
本発明の化合物の製造方法は、該化合物が得られる限り特に制限されないが、例えば、一般式(III)の化合物と一般式(IV)の化合物を反応させることにより製造することができる。
【化6】

【0017】
一般式(III)において、X〜Xはそれぞれ独立に水素原子、臭素原子またはヨウ素原子であって、X〜Xのうち少なくとも1個が臭素原子かヨウ素原子のいずれかである。X〜Xの全てが臭素原子であることが特に好ましい。なお、(III)の化合物は、例えば、実施例に示すようにトリフェニレンを臭素化またはヨウ素化することによって得ることができる。
一般式(IV)において、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は飽和でも不飽和でもよく、枝分かれしていてもよい。また、不飽和脂肪族炭化水素基の場合、2重結合は複数あってもよい。脂肪族炭化水素基としては特に制限されず、エチル基、イソプロピル基またはメチル基など上述したようなものが挙げられるが、イソプロピル基またはメチル基が特に好ましい。芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、置換されたフェニル基など上述したようなものが挙げられる。なお、R、R、Rは互いに同じ置換基であってもよいし、異なるものであってもよい。IVの化合物は、例えば、実施例に示すようなGrignard反応によって得ることができる。
【0018】
IIIとIVの反応は通常のハロゲン置換反応にしたがって行うことができる。該反応は触媒を用いて行うことが好ましい。触媒の種類は該反応を促進できるものであれば特に制限されないが、(PPh3)2PdCl2/CuI、(PPh3)4Pd/CuI、(PPh3)2PdCl2/CuAc2、などが挙げられる。反応に用いる溶媒は、IIIとIVがそれぞれ溶解して反応できるものであれば特に制限されないが、例えば、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジンなどを挙げることができ、これらとベンゼンやトルエンを混合して用いてもよい。
上記反応によって得られた化合物は、カラムクロマトグラフィーなどの通常の単離操作によって回収することができる。化合物の構造はX線結晶構造解析やNMRなどによって確認
することができる。
実施例に示すように本発明の化合物は、蛍光やリン光を発する。したがって、有機エレクトロルミネッセンス素子などの光学材料に応用することができる。有機エレクトロルミネッセンス素子は、例えば、特開2004-107441号公報に記載されているように、本発明の化合物を基板上に蒸着して発光層を作製し、これを電極等と組合わせることによって作製することができる。
[実施例]
【0019】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
1. 2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレン(2,3,6,7,10,11-Hexakis(trimethylsilyletynyl)triphenylene;一般式(V))の合成
下記に示すような手順で、2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンを合成した。
【化7】

【0021】
1.1. トリフェニレン(Triphenylene)の合成
以下の反応式にしたがって、トリフェニレンを合成した。
【化8】


(仕込量)
2-Bromofluorobenzene(東京化成、99%) 10.12 g / 5.73 x 10-2 mol
Mg(和光、削り状、99.5%) 1.54 g / 6.30 x 10-2 mol
THF(ベンゾフェノンケチル処理) 85+15 mL
(操作および結果)
滴下ロートおよびジムロート、スピナーを備えた 200 mL 三口フラスコをフレームアウト、アルゴン置換した。フラスコに Mg を収め、180 °Cにて 2 時間活性化した。フラスコに THF 85 mL、滴下ロートに 2-Bromofluorobenzene および THF 15 mL を収め、20 分
かけて滴下した(滴下直後から発熱)。滴下終了後、THF 還流温度にて 6 時間還流した。飽和 NH4Cl 水溶液(100 mL x 3)にて洗浄後、Benzene(50 mL x 2)で水相を抽出、有機相をあわせて無水 MgSO4 にて乾燥させた。溶媒除去後、昇華、再結晶にて精製し、目的物を無色透明針状結晶として、収量 789 mg、収率 18% で得た。
【0022】
1.2. 2,3,6,7,10,11-ヘキサブロモトリフェニレン(2,3,6,7,10,11-Hexabromotriphenylene)の合成
以下の反応式にしたがって、2,3,6,7,10,11-ヘキサブロモトリフェニレンを合成した。
【化9】


(仕込量)
Triphenylene(合成品) 2.00 g / 8.51 x 10-3 mol
Br2(和光) 4.0 mL
Fe(粉末状) 0.484 g / 3.29 x 10-3mol
PhNO2(関東、単蒸留) 80 mL
(操作および結果)
滴下ロートおよびジムロート、スピナーを備えた 200 mL 三口フラスコをフレームアウト、Ar 置換した。フラスコに Triphenylene および Fe 粉、PhNO2を収めた。滴下ロートに Br2 を収め 15 分かけて滴下した。滴下終了後、室温にて 10 時間撹拌した後、200 °C にて 2 時間撹拌した。冷却後、反応混合物中に Et2O を入れ、不溶分をろ別し、o-Dichlorobenzene 800 mL にて再結晶を行い、目的物を白色粉末として、収量 5.18 g、収率 87% で得た。
【0023】
1.3. トリメチルシリルアセチレン(Trimethylsilylacetylene)の合成
以下の反応式にしたがってトリメチルシリルアセチレンを合成した。
【化10】



(仕込量)
アセチレン(ボンベ、カンサン)
EtMgBr(調整品、1.5 M in THF) 400 mL / 600 mmol
Me3SiBr(チッソ、99%) 85.54 g / 553 mmol
THF(ベンゾフェノンケチル処理) 200 mL
(操作および結果)
滴下ロートおよびジムロート、スピナーを備えた 2000 mL 四口フラスコをフレームアウト、Ar 置換した。フラスコに THF 200 mL 収めた。氷浴にてアセチレンガスを 1.5 時間バブリングした後、滴下ロートからあらかじめ別途調製しておいた EtMgBr を 1 時間 50 分かけて滴下した。滴下終了後、バブリングをしたまま 30 分撹拌し、バブリングをやめて 40 分撹拌した。バスをドライアイス−メタノール浴に換え、滴下ロートから Me3
SiBr を 40 分かけて滴下した。ドライアイス−メタノール浴のまま 30 分撹拌後、室温に戻し一晩撹拌した。再び氷浴にし、飽和塩化アンモニウム水溶液 200 mL を入れ、反応を終了させた。分液操作にて有機相を集め、無水 MgSO4 で乾燥させた。常圧蒸留、次いで精流塔を用いて分取をし、目的化合物を無色透明液体として、トリメチルシリルアセチレンを得た。
【0024】
1.4. ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(Dichlorobis(triphenylphosphine)palladium(II))の調製
以下の反応式に従って、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)を合成した。
【化11】


(仕込量)
PdCl2(キシダ、99%) 0.957 g / 5.34 x 10-3 mol
PPh3(関東、99%) 3.00 g / 1.14 x 10-2 mol
conc. HCl aq.(キシダ、35%) 0.2 mL
EtOH(単蒸留) 50 mL
H2O(イオン交換水) 100 mL
(操作および結果)
200 mL の三口フラスコにイオン交換水および濃塩酸、PdCl2を収め、撹拌しつつ、キャヌラーを用いて PPh3 の EtOH 溶液にゆっくりと滴下した(その間オイルバスで 60 °C に加温しながら)。滴下終了後 60 °C のまま 3 時間撹拌した。不溶物(目的物)を濾別し、沸騰水 100 mL、熱 EtOH 100 mL、熱 Et2O 100 mL の順で洗浄した。得られた固体を CHCl3 に溶解し、不溶分を熱濾過後、ヘキサンを加えて目的物を析出させた。得られた (PPh3)2PdCl2は五塩化リンを用いて 100 °C で加熱し真空乾燥した(黄色結晶、収量
2.74 g、収率 73%)。
【0025】
1.5. 2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの合成
以下の反応式にしたがって2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンを合成した。
【化12】


(仕込量)
2,3,6,7,10,11-hexabromotriphenylene 205 mg / 2.92 x 10-4mol
trimethylsilylacetylene 1.68 g / 1.71 x 10-2 mol
(PPh3)2PdCl2 245 mg / 3.49 x 10-4 molCuI(和光) 66 mg / 3.47 x 10-4 mol
i-Pr2NH(東京化成、CaH2より蒸留) 200 mL
(操作および結果)
滴下ロートおよびジムロート、スピナーを備えた 300 mL 三口フラスコをフレームアウト、N2 置換した。フラスコに2,3,6,7,10,11-ヘキサブロモトリフェニレンおよび(PPh3)2PdCl2、CuI、i-Pr2NH を収めた。滴下ロートから 30 分かけて Me3SiC≡CH を滴下した(溶液はすぐに黄色→褐色)。その後、還流下で 3 時間撹拌した。ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去後、フラッシュカラム(ワコーゲル C-60, benzene)で不溶分を除去し、ウエットカラム(一回目;ワコーゲル C-60, hexane / Et2O = 9 / 1、二回目;ワコーゲル C-60, hexane / CH2Cl2= 8 / 2)にて分取を行い、黄色結晶として2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンを収量 210 mg、収率 90% で得た。
【0026】
2. 2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの解析
2.1. X 線結晶構造解析
同定は各種スペクトルにて行い、最終的に X 線結晶構造解析にて構造を決定した。
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンのスペクトルデータは以下のとおりであった。
MS(質量分析) (EI, 70 eV) m/z(%) 804 (M+, 83), 789 (3), 731 (3), 716(7), 701 (8), 73 (100)
IR(赤外吸収スペクトル) (KBr) cm-1 2959, 2899, 2162, 1483, 1404, 1248, 1190, 1146, 997, 864, 845, 760, 650
1H NMR (核磁気共鳴スペクトル)(500 MHz, CDCl3) δ 0.34 (s, 54H), 8.63 (s, 6H) ppm
13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 0.06, 99.88, 103.03, 124.91, 127.91, 128.51 ppm
29Si NMR (99 MHz, CDCl3) δ -17.2 ppm
融点 300 °C (decomposition and polymerization)
【0027】
ジクロロメタン、ヘキサン、エタノール混合溶媒から再結晶し、2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの黄色透明結晶を得た。図1〜4に
X 線結晶構造解析の結果を示す。トリフェニレン環はほぼ平面構造を有していたが、トリメチルシリルエチニル基は、若干、環平面からずれていた。結合距離、結合角のまとめを図5,6に示す。芳香環は置換基が結合している間の結合距離が、他より長くなっていた。炭素-炭素三重結合は通常値(1.2 Å)よりわずかに短い(av. 1.181 Å)。また、一カ所のトリメチルシリル基の炭素にディスオーダーが見られた。パッキングをみると、それぞれの分子は矢筈型に積層していた。平行に位置する分子の層間の最近接距離は sp 炭素間の 4.5 Å である。対角に位置するケイ素原子間距離は約16Åである。
【0028】
2.2. 2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの性質など
2.2.1. 物理的性質
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンは明確な融点を示さず、約 300 °C まで加熱したところで、結晶がオレンジ色に変化し、なお加熱し続けると約 400 °C で褐色に変化する(融点測定器にて観測)。このことから結晶内で重合が起こっていることが考えられ、後の熱重量分析により、確かに重合が起こっていることがわかった。
溶解性に関しては、母体のトリフェニレンと比較すると向上していると考えられる。一般的な有機溶媒(hexane、benzene、toluene、acetone、Et2O、THF、CH2Cl2、CHCl3)に可溶、EtOH、MeOHに難溶である。
結晶状態において空気中に放置しても、透明度等に変化はない。
【0029】
2.2.2. 紫外-可視吸収スペクトル
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンおよびトリフェニレンの紫外−可視吸収スペクトルを hexane 中、室温で測定した結果を図7に示す。それぞれの吸収帯の吸収極大とモル吸光係数(ε)の値をまとめたものを表1に示す。いずれのピークに関しても、2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの方が約 40〜50 nm 長波長シフトしていることがわかる。また、モル吸光係数の値も増大している。
【0030】
【表1】

【0031】
2.2.3. 発光(蛍光、リン光)スペクトル
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンおよびトリフェニレンの蛍光スペクトルを 3-methylpentane(3-MP)中、脱気封管、室温、励起波長
296 nm で測定した結果を図8 に示す。蛍光極大は 415、428、439 nm であり、トリフェニレンの対応する蛍光極大よりも約 60 nm 長波長シフトし、強度も強くなっている。トリフェニレン(Φf = 0.09)を元にして算出した蛍光の量子収率はΦf= 0.16 である。
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンおよびトリフェニレンの 3-MP 中、脱気封管、励起波長 296 nm、77K における発光スペクトル測定の結果を図9に示す。発光極大はそれぞれ約 60 nm の長波長シフトを観測した。
【実施例2】
【0032】
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンの合成とスペクトル解析
まず、以下の反応によってトリイソプロピルシリルアセチレンを合成した。
【化13】

【0033】
これを2,3,6,7,-10,11-ヘキサブロモトリフェニレンと反応させることによって、2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレン(一般式(VI))を合成した。反応は2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンと同様にして行った。収率は55%であった。
【化14】

【0034】
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンの紫外−可視吸収スペクトルをhexane 中、室温で測定した。結果を、トリフェニレン及び2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンのデータとともに図10に示す。
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンについても、トリフェニレンと比較して長波長シフトが見られた。
【0035】
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンのの蛍光スペクトルを 3-methylpentane(3-MP)中、脱気封管、室温、励起波長 296 nm で測定した。結果を、トリフェニレン及び2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンのデータとともに図11に示す。
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンについても、トリフェニレンの対応する蛍光極大よりも約 60 nm 長波長シフトし、強度も強くなっていることがわかった。
【0036】
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンの発光(蛍光・リン光)スペクトルを 3-MP 中、脱気封管、励起波長 296 nm、77K で測定した。結果を、トリフェニレン及び2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンのデータとともに図12に示す。
2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンについても、長波長シフトが見られた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの X 線結晶構造解析の結果を示すORTEP図(上から見た図)。
【図2】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの X 線結晶構造解析の結果を示すORTEP図(横から見た図)。
【図3】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの X 線結晶構造解析の結果を示すORTEP図(a軸方向から見た図)。
【図4】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの X 線結晶構造解析の結果を示すORTEP図(b軸方向から見た図)。
【図5】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの結合距離を示す図。
【図6】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンの結合角を示す図。
【図7】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンのおよびトリフェニレンの紫外−可視吸収スペクトルを示す図。
【図8】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンおよびトリフェニレンの蛍光スペクトルを示す図。
【図9】2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレンおよびトリフェニレンの 3-MP 中、脱気封管、励起波長 296 nm、77K における発光スペクトルを示す図。
【図10】各トリフェニレン化合物の紫外−可視吸収スペクトルを示す図。1は2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレン、2は2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンを示す。
【図11】各トリフェニレン化合物の蛍光スペクトルを示す図。1は2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレン、2は2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンを示す。
【図12】各トリフェニレン化合物の 3-MP 中、脱気封管、励起波長 296 nm、77K における発光スペクトルを示す図。1は2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリメチルシリルエチニル)トリフェニレン、2は2,3,6,7,10,11−ヘキサキス(トリイソプロピルシリルエチニル)トリフェニレンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物
【化1】

【請求項2】
〜Rが全て一般式(II)で表される置換基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
,R及びRがアルキル基である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
,R及びRがイソプロピル基またはメチル基である請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
下記一般式(III)で表される化合物に下記一般式(IV)で表される化合物を反応させることを特徴とする一般式(I)で表される化合物の製造方法。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−104124(P2006−104124A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292415(P2004−292415)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】