説明

シリルエーテルの製造方法及びアルコールへのシリル保護基の導入方法

【課題】工業的により有利なシリルエーテルの製造方法を提供すること。
【解決手段】式(1)


(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、置換されていてもよいアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ同一又は相異なって、水素原子又は置換されていてもよいアルキル基を表す。Yはフッ化物イオンを除く1価のアニオンを表す。また、0<x≦1である。)
で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に、アルコールとヒドロシラン化合物とを反応させることを特徴とするシリルエーテルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリルエーテルの製造方法及びアルコールへのシリル保護基の導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールへのシリル保護基の導入反応は、医農薬原体、電子材料をはじめとする各種化学製品の合成に欠かせない反応であり、該反応の生成物であるシリルエーテルは、それら各種化学製品の合成中間体として重要な化合物である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
シリルエーテルの製造方法としては、非プロトン性極性溶媒中、有機塩基の存在下でアルコールとクロロシラン化合物とを反応させる方法(例えば、非特許文献1参照。)が一般的であるが、クロロシラン化合物は、多くの場合、対応するヒドロシラン化合物を原料に合成されるので、ヒドロシラン化合物を用いて効率よくシリルエーテルを製造できれば、工業的に有利である。
【0004】
そこで、ヒドロシラン化合物を用いたシリルエーテルの製造方法が種々開発されている。例えば、遷移金属錯体触媒存在下にアルコールとヒドロシラン化合物とを反応させる方法(例えば、非特許文献2参照。)、四級アンモニウムハライドの存在下にアルコールとヒドロシラン化合物とを反応させる方法(例えば、特許文献2参照。)等が知られている。しかしながら、これらの方法は、いずれも、高価な触媒が必要であったり、回収の容易でない高価な溶媒を用いることが好ましかったりする等、必ずしも工業的に満足できるものとはいえなかった。
【0005】
【特許文献1】特表2002−531546号公報
【特許文献2】特開平7−82276号公報
【非特許文献1】J. Amer. Chem. Soc., 94, 2549 (1972)
【非特許文献2】Bull. Chem. Soc. Jpn., 62, 2111 (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者は、工業的により有利なシリルエーテルの製造方法を開発すべく、鋭意検討したところ、アルコールとヒドロシラン化合物との反応を、フッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に実施すれば、シリルエーテルが収率よく生成することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、式(1)

(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、置換されていてもよいアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ同一又は相異なって、水素原子又は置換されていてもよいアルキル基を表す。Yはフッ化物イオンを除く1価のアニオンを表す。また、0<x≦1である。)
で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に、アルコールとヒドロシラン化合物とを反応させることを特徴とするシリルエーテルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高価な触媒や高価な溶媒を用いることなく、シリルエーテルを収率よく製造することができるため、工業的に有利である。また、本発明に用いるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩は、それ自体がイオン性液体の性質も有しているため回収・再利用が容易であり、さらに、上記式(1)においてxを適宜選択することにより融点を室温以下にすることもできるため幅広い温度条件で反応を実施可能である等、工業的な取り扱いや環境の面においても有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、上記式(1)で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩(以下、イミダゾリウム塩(1)と略記する。)について説明する。
【0010】
式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、置換されていてもよいアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ同一又は相異なって、水素原子又は置換されていてもよいアルキル基を表す。
【0011】
ここでアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−デシル基、シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。かかるアルキル基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜20の置換されていてもよいアルコキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基などの炭素数6〜20の置換されていてもよいアリール基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等の炭素数6〜20の置換されていてもよいアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアラルキルオキシ基;フッ素原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数2〜20の置換されていてもよいアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基、4−メチルベンジルカルボニル基、4−メトキシベンジルカルボニル基等の炭素数8〜20の置換されていてもよいアラルキルカルボニル基;等で置換されていてもよい。かかる置換基で置換されたアルキル基の具体例としては、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基、ベンジル基、4−フルオロベンジル基、4−メチルベンジル基、フェノキシメチル基、2−オキソプロピル基、2−オキソブチル基、フェナシル基等が挙げられる。
【0012】
はフッ化物イオンを除く1価のアニオンを表し、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;テトラフルオロホウ酸アニオン等のホウ酸イオン類;ヘキサフルオロリン酸アニオン等のリン酸イオン類;ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン等のアンチモン酸イオン類;トリフルオロメタンスルホン酸アニオン等のスルホン酸イオン類;ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン等のアミドイオン類;等が挙げられる。
【0013】
xは、イミダゾリウム塩(1)に含まれる全アニオンに対するフッ化物イオンの比率を表し、0<x≦1の範囲で任意に選択できる。xが0に近くなれば、反応の効率が低下するため、0.4<x≦1程度の範囲が好ましい。
【0014】
かかるイミダゾリウム塩(1)としては、x=1の場合はフッ化物イオンと、例えば1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3,4,5−ペンタメチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジエチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−(n−プロピル)イミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−(n−ブチル)イミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−(n−ブチル)イミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−(n−ペンチル)イミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−(n−ヘキシル)イミダゾリウムカチオン、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジメチル−2−(n−プロピル)イミダゾリウムカチオン、1,3−ジメチル−2−(n−ブチル)イミダゾリウムカチオン、1−ドデシル−2−メチル−3−ドデシルイミダゾリウムカチオン、1−エトシキシメチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−トリフルオロメチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−(n−ドデシル)−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムカチオン等のアルキル置換イミダゾリウムカチオンとからなる、アルキル置換イミダゾリウム塩が挙げられ、0<x<1の場合は、例えば上記フッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩のフッ化物イオンの一部が、それぞれ塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン等で置き換えられた混合アルキル置換イミダゾリウム塩の単独又は混合物が挙げられる。
【0015】
これらは、例えば水や極性溶媒等の反応に不活性な化合物と錯体を形成していてもよい。
【0016】
かかるイミダゾリウム塩(1)は、例えばフッ化銀やフッ化カリウム等のフッ化物と上記式(1)においてx=0であるアルキル置換イミダゾリウム塩との塩交換反応などの方法によって製造することができる。また、上記式(1)においてx=0であるアルキル置換イミダゾリウム塩とx=1であるアルキル置換イミダゾリウムフルオライドとを混合することにより調製してもよい。
【0017】
次に、イミダゾリウム塩(1)の存在下における、アルコールとヒドロシラン化合物とを反応させることによるシリルエーテルの製造方法、並びにアルコールへのシリル保護基の導入方法について説明する。
【0018】
アルコールとしては、分子内にヒドロキシ基を1個以上有する有機化合物であれば特に限定されず、例えば、式(2)

(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基を表す。)
で示されるアルコールが挙げられる。
【0019】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−デシル基、シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。かかるアルキル基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;エテニル基、1−プロペニル基等のアルケニル基;プロピニル基等のアルキニル基;ホルミル基;カルボキシ基;アミノ基;等の置換基で置換されていてもよい。かかる置換基で置換されたアルキル基の具体例としては、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、3−オキソブチル基、メトキシエチル基、メトキシカルボニルメチル基、ベンジル基、アリル基、2−プロピニル基、アミノメチル基、1−カルボキシブチル基等が挙げられる。
【0020】
アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、2−メチル−1−ヘキサノール、3−メチル−1−ヘキサノール、4−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3−エチル−1−ヘキサノール、4−エチル−1−ヘキサノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、5−オキソ−1−ヘキサノール、6−アミノ−1−ヘキサノール、ヒドロキシカプロン酸、ベンジルアルコール、2−フルオロベンジルアルコール、3−フルオロベンジルアルコール、4−フルオロベンジルアルコール、2−ブチン−1−オール、2−クロロベンジルアルコール、4−クロロベンジルアルコール、4−ブロモベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、アリルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,2−ジヒドロキシ−1−フェニルエタン、3,4−カレンジオール、ゲラニオール、リナロール、3,3−ジメチル−2−(1,2−ジヒドロキシ−2−メチルプロピル)シクロプロパンカルボン酸メチル、3,3−ジメチル−2−(1,2−ジヒドロキシ−2−メチルプロピル)シクロプロパンカルボン酸エチル等が挙げられる。
【0021】
ヒドロシラン化合物としては、分子内にモノヒドロシリル基またはジヒドロシリル基を1以上有する有機化合物であれば、特に限定されない。モノヒドロシリル基を1つ有するモノヒドロシラン化合物が好ましい。かかるモノヒドロシラン化合物としては、例えば、式(3)

(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を表す。)
で示されるヒドロシラン化合物が挙げられる。
【0022】
7、R8及びR9で示されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−デシル基、シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、かかるアルキル基は、例えばフェニル基、ナフチル基等のアリール基で置換されていてもよく、かかる置換基で置換されたアルキル基としては、例えばベンジル基等が挙げられる。フェニル基上に置換していてもよい置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;等が挙げられ、かかる置換基で置換されたフェニル基としては、例えばp−クロロフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メチルフェニル基等が挙げられる。
【0023】
ヒドロシラン化合物としては、例えばトリメチルシラン、トリエチルシラン、トリプロピルシラン、トリイソプロピルシラン、トリオクチルシラン、tert−ブチルジメチルシラン、トリベンジルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルジエチルシラン、フェニルジプロピルシラン、フェニルジオクチルシラン、p−クロロフェニルジメチルシラン、o−フルオロフェニルジメチルシラン、p−メトキシフェニルジメチルシラン、m−メチルフェニルジメチルシラン、メチルジフェニルシラン、エチルジフェニルシラン、プロピルジフェニルシラン、トリフェニルシラン、トリ(p−クロロフェニル)シラン、トリ(p−フルオロフェニル)シラン、ジメチルシラン、ジエチルシラン、ジイソプロピルシラン等が挙げられる。
【0024】
ヒドロシラン化合物の使用量は特に限定されず、通常は、アルコールの反応を所望するヒドロキシ基1モルに対して、ヒドロシラン化合物の反応を所望するSi−H結合基準で1モル以上存在する量を用いれば、本発明の目的を達成できる。例えば、分子内にモノヒドロシリル基を1つ有するモノヒドロシラン化合物の場合、アルコールの反応を所望するヒドロキシ基1モルに対して、通常1モル以上用いればよい。また、分子内にジヒドロシリル基を1つ有するジヒドロシラン化合物の場合、アルコールの反応を所望するヒドロキシ基1モルに対して、通常0.5モル以上用いればよい。好ましいヒドロシラン化合物の使用量の範囲は、反応を所望する上記の各官能基基準で、アルコールに対して1〜5モル倍である。
【0025】
本反応は、有機溶媒の存在下に実施することもできるし、溶媒を用いることなく実施することもできる。
【0026】
溶媒を用いて実施する場合の有機溶媒としては、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含イオウ溶媒;等が挙げられる。
【0027】
溶媒を用いる場合、その使用量は特に制限されないが、容積効率等を考慮すると、アルコールに対して、通常100重量倍以下である。反応温度は、通常−20〜200℃、好ましくは0〜150℃の範囲である。
【0028】
イミダゾリウム塩(1)の使用量は、アルコールのヒドロキシ基に対して、フッ化物イオン基準で、通常0.01〜0.2モル倍の範囲である。
【0029】
反応試剤の混合順は、反応温度以下で混合する場合は、特に制限されない。反応温度条件下で混合する場合は、必要に応じて溶媒とアルコールとイミダゾリウム塩(1)との混合物に、ヒドロシラン化合物を加えていくことが好ましい。
【0030】
本反応は、常圧条件下で実施してもよいし、加圧条件下で実施してもよい。また、反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0031】
反応終了後、晶析処理や蒸留処理等を行ったり、必要に応じて水及び/又は水に不溶の有機溶媒を加え、抽出処理し、得られる有機層を濃縮処理したりすることにより、シリルエーテルを得ることができる。得られたシリルエーテルは、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィー等の手段によりさらに精製してもよい。
【0032】
ここで、水に不溶の有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;等が挙げられる。
【0033】
本反応により得られるシリルエーテルは、通常、アルコールの少なくとも1つの酸素原子と、ヒドロシラン化合物の少なくとも1つのケイ素原子とが結合した構造を有する化合物であり、例えば、アルコールとして式(2)で示されるアルコールを用い、ヒドロシラン化合物として式(3)で示されるヒドロシラン化合物を用いた場合は、得られるシリルエーテルは、式(4)

(式中、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ前記と同一の意味を表す。)
で示されるシリルエーテルである。
【0034】
シリルエーテルとしては、例えばベンジルオキシトリエチルシラン、メトキシトリプロピルシラン、アリルオキシトリメチルシラン、アリルオキシトリイソプロピルシラン、イソプロポキシトリオクチルシラン、メトキシtert−ブチルジメチルシラン、エトキシトリベンジルシラン、オクチルオキシトリイソプロピルシラン、(2−ブチニルオキシ)トリエチルシラン、シクロヘキシルオキシトリエチルシラン、エトキシジメチルフェニルシラン、ベンジルオキシジエチルフェニルシラン、アリルオキシジプロピルフェニルシラン、エトキシジオクチルフェニルシラン、(4−クロロフェニル)ジメチル(ベンジルオキシ)シラン、(2−フルオロフェニル)ジエチルイソプロポキシシラン、(p−メトキシフェニル)ジメチルメトキシシラン、(m−メチルフェニル)ジメチル(ベンジルオキシ)シラン、メチルジフェニル(ベンジルオキシ)シラン、(シクロヘキシルオキシ)エチルジフェニルシラン、(メトキシ)プロピルジフェニルシラン、(シクロヘキシルオキシ)トリフェニルシラン、(オクチルオキシ)トリ(p−クロロフェニル)シラン、3,3,10,10−テトラエチル−4,9−ジオキサ−3,10−ジシラドデカン、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジベンジルオキシジエチルシラン、ジメトキシジイソプロピルシラン等が挙げられる。
【0035】
反応後、イミダゾリウム塩(1)は、反応液からろ過処理、分液処理等により回収することができる。回収されたイミダゾリウム塩は、そのままリサイクル使用することもできるし、あるいは必要に応じて、例えばフッ化銀やフッ化カリウム等を用いてイオン交換し、Yの一部または全部をフッ化物イオンとすることにより、イミダゾリウム塩(1)としてリサイクル使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0037】
[実験例1](x=1のイミダゾリウム塩(1)の製造例)
3角フラスコに、1−メチル−3−(n−ブチル)イミダゾリウムクロライド22gと水200gを仕込み、溶解させた。別の3角フラスコに、フッ化銀(I)16.1gと水120gを仕込み、溶解させた後、2つの水溶液を25℃で混合し、同温度で30分攪拌を続けた。反応後に析出した結晶を濾過し、結晶を水洗した。得られた濾液と洗液を合一して濃縮し、無色オイル24.5gを得た。このオイルは、室温で放置すると結晶化した。元素分析の結果、得られた結晶は1−メチル−3−n−ブチルイミダゾリウムフルオライドの2水和物と同定された。
収率:100%。
【0038】
[実験例2](0<x<1のイミダゾリウム塩(1)の製造例)
3角フラスコに、1−メチル−3−(n−ブチル)イミダゾリウムクロライド5.0gと水50gを仕込み、溶解させた。別の3角フラスコに、フッ化銀(I)1.72gと水30gを仕込み、溶解させた後、2つの水溶液を25℃で混合し、同温度で30分攪拌を続けた。反応後に析出した結晶を濾過し、結晶を水洗した。得られた濾液と洗液を合一して濃縮し、無色オイル5.8gを得た。このオイルは、0℃で液体であった。元素分析の結果、得られたオイルはフッ化物イオン47.5モル%、塩化物イオン52.5モル%の混合アニオンと1−メチル−3−n−ブチルイミダゾリウムカチオンとからなる塩の2水和物と同定された。
収率:100%。
【0039】
[実施例1]
還流冷却管を付した50mLフラスコに、ベンジルアルコール220mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)40mgとトリエチルシラン348mgを仕込み、60℃で1時間攪拌した。室温まで冷却後、n−ヘキサン5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。その上層を、ガスクロマトグラフィー内部標準法にて分析し、(ベンジルオキシ)トリエチルシランの収率を算出した。
収率:99%(ベンジルアルコール基準)。
【0040】
[実施例2]
実施例1において、ベンジルアルコール220mgの代わりに2−ブチン−1−オール210mgを用いる以外は実施例1と同様に実施して、(2−ブチニルオキシ)トリエチルシランの収率を算出した。(2−ブチニルオキシ)トリエチルシランの生成は、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて確認した。M184
収率:98%(2−ブチン−1−オール基準)。
【0041】
[実施例3]
還流冷却管を付した50mLフラスコに、ベンジルアルコール220mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)40mgとトリイソプロピルシラン475mgを仕込み、90℃で2時間攪拌した。室温まで冷却後、n−ヘキサン5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。その上層を、ガスクロマトグラフィー内部標準法にて分析し、(ベンジルオキシ)トリイソプロピルシランの収率を算出した。
収率:98%(ベンジルアルコール基準)。
【0042】
[実施例4]
実施例3において、ベンジルアルコール220mgの代わりに1−オクタノール210mgを用いる以外は実施例3と同様に実施して、(オクチルオキシ)トリイソプロピルシランの収率を算出した。
収率:98%(1−オクタノール基準)。
【0043】
[実施例5]
実施例3において、ベンジルアルコール220mgの代わりに2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール208mgを用い、反応時間を1時間にする以外は実施例3と同様に実施して、[2−(2−アミノエチルアミノ)エトキシ]トリイソプロピルシランの収率を算出した。[2−(2−アミノエチルアミノ)エトキシ]トリイソプロピルシランの生成は、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて確認した。M=261
収率:98%(2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール基準)。
【0044】
[実施例6]
還流冷却管を付した50mLフラスコに、1−オクチルアルコール260mg、アセトフェノン240mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)40mgとトリエチルシラン350mgを仕込み、80℃で1時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル5gと水3gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。その上層を、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析し、(オクチルオキシ)トリエチルシランの収率を算出した。
収率:99%(1−オクチルアルコール基準)。
アセトフェノンが還元された1−フェネチルアルコール及びそのトリエチルシリル保護体は検出されなかった。
【0045】
[実施例7]
実施例1と同様に操作を行い、(ベンジルオキシ)トリエチルシランの収率を算出した。収率:97%(ベンジルアルコール基準)。
ここで2層に分離した分析後の上層は、デカンテーションにて分取し、フラスコに下層を残した。該フラスコ中に、ベンジルアルコール220mgとトリエチルシラン348mgを仕込み、60℃で1時間攪拌した。室温まで冷却後、n−ヘキサン5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。その上層を、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析し、(ベンジルオキシ)トリエチルシランの収率を算出した。
収率:98%(ベンジルアルコール基準)。
【0046】
[実施例8]
還流冷却管を付した50mLフラスコに、エタノール230mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)100mgとジエチルシラン265mgを仕込み、60℃で1時間攪拌した。室温まで冷却後、n−ヘキサン5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。その上層を、ガスクロマトグラフィー内部標準法にて分析し、ジエトキシジエチルシランの収率を算出した。
収率:48%(エタノール基準)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、置換されていてもよいアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ同一又は相異なって、水素原子又は置換されていてもよいアルキル基を表す。Yはフッ化物イオンを除く1価のアニオンを表す。また、0<x≦1である。)
で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に、アルコールとヒドロシラン化合物とを反応させることを特徴とするシリルエーテルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の式(1)において、Yで示される1価のアニオンがハロゲン化物イオン類、ホウ酸イオン類、リン酸イオン類、アンチモン酸イオン類、スルホン酸イオン類、炭酸イオン類、カルボン酸イオン類、アミドイオン類又は硝酸イオンである請求項1に記載のシリルエーテルの製造方法。
【請求項3】
アルコールが、式(2)

(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基を表す。)
で示されるアルコールであり、
ヒドロシラン化合物が、式(3)

(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を表す。)
で示されるヒドロシラン化合物であり、
シリルエーテルが、式(4)

(式中、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ前記と同一の意味を表す。)
で示されるシリルエーテルである請求項1に記載のシリルエーテルの製造方法。
【請求項4】
式(1)で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の使用量が、アルコールのヒドロキシ基に対して、フッ化物イオン基準で0.01〜0.2モル倍の範囲である請求項3に記載のシリルエーテルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法において、シリルエーテルの製造後に式(1)で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩を回収し、該フッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩をリサイクル使用する方法。
【請求項6】
式(1)で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に、アルコールとヒドロシラン化合物とを反応させることを特徴とするアルコールへのシリル保護基の導入方法。

【公開番号】特開2007−99756(P2007−99756A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204266(P2006−204266)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】