説明

シリンダブロックのスプール孔検査方法

【課題】シリンダブロックのスプール孔検査を自動化するに当って、ランド部のうち、方向切換弁としての性能に関係のない部位に凹部が存在している場合に、それを欠陥として認識するのを防止することにより、良否の判定精度が向上する。
【解決手段】検査用プローブ20を用いて、シリンダブロック1のスプール孔2の表面検査を行うに当たって、ランド部10と鋳溝部11との間に設けられるリセス加工部12の位置を基準位置とし、この基準位置から各ランド部10までの実測距離とに基づいて、ランド部10に検査領域RDを設定して、欠陥箇所が検査領域RD以外の非検査領域NDにある場合には、良品と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向切換弁を構成するシリンダブロックを鋳物で形成した後に、スプール孔の内面の加工精度を検査するためのシリンダブロックのスプール孔検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1乃至複数の方向切換弁からなるコントロールバルブは油圧駆動式の建設機械等に用いられるが、このコントロールバルブは、複数のスプール孔を有するシリンダブロックの各々にスプールを設けて、これらスプールをスプール孔に沿って摺動変位させることによって、流路の切り換えを行うように構成したものである。このために、スプール孔の内面は、鋳造品としてのシリンダブロックに高精度な切削加工を行うことにより、高精度な平滑面となし、凹凸が生じないように仕上げられていなければならない。スプール孔の仕上げを行った後のスプール孔内面に突起が存在することはないが、巣や欠肉等による凹部が存在している可能性がある。このようにスプール孔の内面に凹部が存在していると、その凹部が微小なものであっても、リークを生じる等、方向切換弁としての性能に影響を与えることになる。
【0003】
以上のことから、シリンダブロックを製造した後には、スプール孔の内面に欠陥があるか否かの検査が行われる。このスプール孔の内面における欠陥検査は、内視鏡を挿入して、モニタ画面にスプール孔内面の映像を映し出して、これを観察者が観察するという手法が採られていたが、人手による検査では見落としが生じる等、信頼性に不安がある。そこで、探傷プローブを用いてスプール孔内面の検査を行うように構成したものが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−281516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1においては、スプール孔の内面を加工するためにNC装置が用いられるが、このNC装置に装着した工具に代えて、探傷プローブをセットして、NC装置によりこの探傷プローブを駆動するようにしている。即ち、探傷プローブを回転させながら、軸線方向に変位させることによって、スプール孔の内面の全面が探傷プローブでスキャンされることになる。
【0006】
ところで、スプール孔は、全長にわたって均一面となっているのではなく、スプールが摺動するランド部と、流路が接続される鋳溝部とを有するものであり、これらランド部と鋳溝部とは交互に配置されている。そして、探傷が必要なのはランド部のみである。しかも、ランド部の全体にわたって高い面精度が要求されるのではなく、このランド部における所定の幅寸法分が精密に仕上げられておれば、鋳溝部への移行部近傍に多少の凹部が存在していても、方向切換弁としての性能に格別影響を与えるものではない。従って、特許文献1のように、探傷プローブを用いて欠陥検査を行い、良否の判定を自動的に行うようにすると、本来であれば、良品として分類分けできるものが、不良品の範疇に入れられることがあり、製品としての歩留まりが低下する可能性がある。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、シリンダブロックのスプール孔検査を自動化するに当って、ランド部のうち、方向切換弁としての性能に関係のない部位に凹部が存在している場合に、それを欠陥として認識するのを防止することにより、良否の判定精度の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明は、シリンダブロックを構成し、ランド部と鋳溝部とが交互に形成され、これらランド部と鋳溝部との間の移行部の一部に逃げ溝として機能するリセス加工部を有するスプール孔の内面を検査用プローブにより欠陥検査を行うシリンダブロックのスプール孔検査方法であって、複数形成されているリセス加工部の1つのエッジ部を基準位置として、各ランド部までの距離を測定して、前記基準位置からの各ランド部における高精度であることが必要な幅寸法分が検査を必要とする検査領域として設定し、前記検査用プローブを回転させながら軸線方向に変位させることによって、前記スプール孔の内面状態を検出し、この検出データから前記基準位置を割り出して、この基準位置から、前記検査領域と、検査をする必要のない非検査領域とに分けるようになし、前記各検査領域内に欠陥部が存在するか否かを判定することをその特徴とするものである。
【0009】
シリンダブロックは鋳造によりスプール孔が製造されるが、このスプール孔はさらにランド部が精密に仕上げ加工される。検査用プローブは、ランド部における凹部が存在するか否かのデータを取得するためのものであり、スプール孔の内面に検出光を出射して、その反射光を受光する、所謂光学センサを用いることができる。そして、検出光を反射させたときの散乱の有無を検出すれば、表面状態の検出を行うことができる。このように、反射光の散乱の有無を検出すると、平滑面か凹凸面かの検出を行うことができるものの、凹凸部については、それが凸部なのか、凹部なのかの点まで判定するには複雑な信号処理が必要となる。ランド部であることから、その内面は精密に研磨されており、凹部の存在はあり得るが、突起が存在することはない。従って、反射光の散乱に基づく検査を行えば、欠陥の有無を検出するという目的は十分達成することができる。ランド部以外、つまり鋳溝部は検査の対象とはしない。この鋳溝部は流路を構成するものであり、それに多少の突起が存在していても、方向切換弁としての機能に支障を来すものではない。
【0010】
シリンダブロックのスプール孔として形成される複数のランド部の全範囲にわたって、巣や欠肉等による凹部が全く存在することがなく、欠陥のない平滑面である必要はない。厳格な平滑度が要求されるのは、幅方向の両端を除いた所定の幅分であり、従ってこの領域を検査領域とする。そして、ランド部の端部や端部近傍の部位に多少の凹部が存在していても、不良品とは判定しない。要するに、スプール孔におけるランド部において、所定の幅分を検査領域とし、このそれ以外は非検査領域として、検査領域に欠陥がなければ、たとえ非検査領域に欠陥があっても、良品とする。
【0011】
このように、検査領域を限定するが、検査用プローブはスプール孔の全域をスキャンする。この欠陥の有無の判定は検査領域のみに限定する。このためには検査用プローブで取得した検査データについて、検査領域を設定するための基準位置が必要となる。シリンダブロックにおいては、その外形について厳格な寸法精度を有していない。従って、シリンダブロックの端部を検査開始の基準位置として設定することはできない。
【0012】
シリンダブロックのスプール孔は複数のランド部と複数の鋳溝部とから構成されるが、一部のランド部にはリセス加工が行われる。このリセス加工はスプールの逃げのための円環状の溝であり、このリセス加工の端部はランド部に対して軸線方向の位置が特定されている。前述したように、検査領域はランド部に形成される部位であり、しかもランド部と鋳溝部との境界部分で、リセス加工部が形成されている部位の境界線は直線状態になっており、リセス加工を行っていない部位の境界線は概略直線状となっているものの、円周方向において多少の乱れが生じている。従って、検査用プローブで取得した検査データからは、リセス加工部の位置は容易に特定できる。
【0013】
シリンダブロックの外形は多少の寸法誤差があるものの、スプール孔におけるランド部の軸線方向の相対位置については高い位置精度を有するものである。従って、予め実測により所定のリセス加工部からの各ランド部の位置を測定し、この測定結果から各ランド部における検査領域を設定することができる。これによって、設定された検査領域に巣や欠肉部等の凹部が存在するか否かの判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
シリンダブロックのスプール孔検査を自動化するに当って、ランド部のうち、方向切換弁としての性能に関係のない部位に凹部が存在している場合に、それを欠陥として認識するのを防止して、良否の判定精度の向上を図ることにある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】シリンダブロックの部分断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図1のB部拡大図である。
【図4】シリンダブロックのスプール孔検査方法を実行するための装置の概略構成図である。
【図5】検査用プローブを用いてシリンダブロックのスプール孔内面を走査したデータと、このデータに基づいて検査領域と非検査領域とに分けた状態を示す説明図である。
【図6】欠陥検査の手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1にシリンダブロックの部分断面を示す。シリンダブロック1には、一端側1aから他端側1bに向けて貫通するスプール孔2が穿設されている。シリンダブロック1には複数のスプール孔2が設けられており、このスプール孔2内には図示しないスプールが摺動可能に設けられている。スプール孔2には、複数のランド部10と、前後のランド部10,10間に設けられ、鋳型により形成した凹部からなる鋳溝部11とから構成されている。
【0017】
ランド部10はスプールが摺動し、その間に作動油が流通しないように、ほぼ密着状態となるようにするために、内面研磨加工が施されており、突起等が生じていない状態となっている。一方、鋳溝部11はシリンダブロック1における作動油が流れる流路を構成するものであり、その内面は鋳肌が露出しており、格別仕上げ加工が行われてはいない。また、ランド部10と鋳溝部11との間の境界部のうち、複数箇所において、リセス加工部12が形成されている。リセス加工部12は円環状の溝からなり、リセス加工部12を設ける前の段階では、図2に示したように、ランド部10と鋳溝部11との境界部M1のループは正確な直線状態ではないが、リセス加工部12を設けると、図3に示したように、リセス加工による溝の端部が境界部M2となり、境界線は正確な直線ループとなる。
【0018】
図4に示したように、スプール孔2の内面の表面状態を検査するために、検査用プローブ20が用いられる。検査用プローブ20は、発光部21aと受光部21bとを備えた光学センサ21を軸体22の先端に設けたものから構成され、軸体22はホルダ23に挿通されて、このホルダ23に沿って昇降及び軸回りに回転可能となっている。この検査用プローブ20の軸体22はスプール孔2の軸中心に沿って上下動するように制御される。そして、軸体22はスプール孔2に沿って昇降及び回転動作を行う間に、発光部21aから間欠的に検出光のパルスをスプール孔2の内面に出射して、このスプール孔2の内面から反射させて、この反射光を受光部21bに受光させるようにしている。そして、受光部21bで検出した反射信号は、制御装置としてのパーソナルコンピュータ24に取り込まれて、所定の信号処理が行われる。
【0019】
実際には、スプール孔2において、ランド部10の内面に凹凸があると、光が散乱することになり、受光部21bによる受光量が減少する。スプール孔2の形状は鋳造により形成されるが、ランド部10については、さらに内面研磨がなされるので、ランド部10の内面に突出部が存在することはない。従って、受光部21bにおける受光量が減少しているのが検出されると、欠陥、即ち巣なり欠肉部なりといった凹部の存在が確認されたことになる。
【0020】
パーソナルコンピュータ24では、具体的には、光学センサ21の受光部21bで取得した光の反射量に基づいてグレースケール画像化処理が行われる。その結果、図5(a)に示したようなパターンデータが得られる。この図5(a)は、スプール孔2を展開して示したものであり、従ってこのパターンデータの上下方向はスプール孔2の軸方向、左右方向はスプール孔2の円周方向に対応するものである。そして、この図5(a)に示したように、スプール孔2は、基本的にはランド部10と鋳溝部11とを交互に形成したものからなり、ランド部10は平滑な面であり、鋳溝部11は鋳肌が露出している。従って、ランド部10からの反射光量は所定の値となる一方、鋳溝部11からの反射光量はこの所定の反射光量とは異なる光量となり、実際は反射光量のレベルがランド部10より低くなる。従って、図5(a)のパターンデータのうち、網掛けを行った部位が鋳溝部11に対応する領域であり、また無地の部位はランド部10に対応する領域である。
【0021】
スプール孔2には、ランド部10と鋳溝部11とが交互に形成されているが、特定のランド部10と鋳溝部11との間には、さらにリセス加工部12が形成されており、リセス加工部12とランド部10との境界部にはエッジがあり、このエッジは正確に円形となる。このリセス加工部12の表面はランド部10と同様、平滑面となっているので、図5(a)における無地の部位となる。ただし、リセス加工部12とランド部10との境界部にはエッジがあり、このエッジは正確な円形となる。即ち、ランド部10の端部に前述したように、円周方向において、直線状ではない反射光量境界部が一部にでも存在する境界部M1と認識される形状変化があると、リセス加工が行われていない部位であり、円周方向の全周にわたって直線状の反射光量境界部となっている境界部M2と認識される形状変化があると、ランド部10と鋳溝部11との間にリセス加工部12があると認識される。
【0022】
ところで、ランド部10の内面に凹部があったとしても、シリンダブロック1としての品質に影響を与えない領域がある。即ち、各ランド部10はそれぞれ所定幅を有するものであるが、その幅方向寸法のうち、上下の両端近傍位置には、多少の凹部が存在していても、方向切換弁としての機能上に格別支障を来すものではない。そこで、図5(b)に示したように、ランド部10において検査領域RDと、非検査領域NDを設定し、検査領域RD内に凹部からなる欠陥部が存在するか否かの検査を行う。
【0023】
シリンダブロック1の寸法精度としては、シリンダブロック1の外形寸法にはある程度の製造誤差等が存在する。従って、ランド部10における検査領域RDを特定するに当って、シリンダブロック1の一端側1a若しくは他端側1bを検査領域RDの基準位置とすることはできない。しかしながら、各ランド部10及び鋳溝部11との相対位置関係については、極めて高精度に形成されている。そして、スプール孔2のうち、ランド部10からリセス加工部12への移行部にあっては、境界部M2が全周にわたって直線状となり、リセス加工部12が形成されず、ランド部10から鋳溝部11への移行部については、境界部M1となる。従って、境界部がM1の状態になっているか、M2の状態になっているかの検出は可能である。
【0024】
以上のことから、検査領域RDの位置を特定するために、前述したリセス加工部12の位置をスプール孔2の基準位置SLとして検出する。ここで、リセス加工部12は複数箇所設けられているが、シリンダブロック1の一端側1aから検査プローブ20の走査を開始するとしたときには、この一端側1aに最も近い位置のリセス加工部12を基準位置SLとして認識するように設定する。そして、この基準位置SLからの各ランド部10の位置は実測により求めることができる。従って、各リセス加工部12における各ランド部10の検査領域RDと、非検査領域NDとを設定することができる。
【0025】
欠陥検査は、例えば図6に示したフローチャート図に示した手順に従って行われる。即ち、シリンダブロック1を所定の位置にセットして、検査用プローブ20との間で相対位置決めを行うようにする。そして、検査用プローブ20をホルダ23に沿って下降させながら、回転させることによって、スプール孔2の内面を走査させて、このスプール孔2の内面全体に対する輝度信号が取得される(ステップ1)。
【0026】
取得した輝度信号を画像化する(ステップ2)ことによって、図5(a)に示したパターンデータが得られる。この図5(a)のパターンデータのうち、無地の部位は精密加工されたランド部10とリセス加工部12とであり、この部位における欠陥の有無を検出する(ステップ3)。欠陥がなければ、良品と判定される(ステップ4)。
【0027】
欠陥検出を行ったときに、ランド部10の内部に欠陥箇所があると判定されると、つまり図5(a)のパターンにおいて、無地であるべき領域内に凹部が存在していたと判定されると、この図5(a)のデータから基準位置SLと、スプール孔2に関する実測データとに基づいて検査領域RDに関するデータを読み出す(ステップ5)。そして、図5(b)に示したように、検査領域RDと非検査領域NDとに分けるように、基準データと実測データとを比較するように、パターンデータの修正を行う(ステップ6)。その後に、欠陥箇所が検査領域RD内であるか、非検査領域NDであるかの判定が行われる(ステップ7)。欠陥箇所があっても、それが非検査領域NDであると、ステップ4のように、良品と判定され、欠陥箇所が検査領域RD内であれば、当該のスプール孔2に欠陥があると判定される(ステップ8)。
【0028】
これによって、スプール孔2におけるランド部10の欠陥検査を行うに当たって、実用上で差支えない部位に欠陥がある場合には、良品と判定され、方向切換弁としての機能上で問題となるような検査領域RDに欠陥が生じている場合にのみ、シリンダブロック1に欠陥があると判定される。このために、良品であるにも拘わらず、不良品の範疇に入れられるおそれがなく、検査精度が著しく向上する。
【符号の説明】
【0029】
1 シリンダブロック 2 スプール孔
10 ランド部 11 鋳溝部
12 リセス加工部 20 検査用プローブ
21 光学センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックを構成し、ランド部と鋳溝部とが交互に形成され、これらランド部と鋳溝部との間の移行部の一部に逃げ溝として機能するリセス加工部を有するスプール孔の内面を検査用プローブにより欠陥検査を行うシリンダブロックのスプール孔検査方法であって、
複数形成されているリセス加工部の1つのエッジ部を基準位置として、各ランド部までの距離を測定して、
前記基準位置からの各ランド部における高精度であることが必要な幅寸法分が検査を必要とする検査領域として設定し、
前記検査用プローブを回転させながら軸線方向に変位させることによって、前記スプール孔の内面状態を検出し、
この検出データから前記基準位置を割り出して、この基準位置から、前記検査領域と、検査をする必要のない非検査領域とに分けるようになし、
前記各検査領域内に欠陥部が存在するか否かを判定する
ことを特徴とするシリンダブロックのスプール孔検査方法。
【請求項2】
前記検査用プローブは前記スプール孔の内面に検出光を出射して、その反射光の光量を検出する光学センサを用いるようにしたことを特徴とする請求項1記載のシリンダブロックのスプール孔検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−75281(P2011−75281A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223622(P2009−223622)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】