説明

シリンダブロック及びシリンダブロックの製造方法

【課題】軸受け壁の角部に亀裂が発生することを防ぐことができるシリンダブロック及び該シリンダブロックの製造方法の提供。
【解決手段】内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面10が形成された軸受け壁3を備えたシリンダブロックにおいて、シリンダブロック1はダイカスト法により成形され、半円状支持面10に対して反対側の面である上面3aと、軸受け壁3の側面3bとはチル層を備える曲面3cを介して連続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクケースを一体的に備えたシリンダブロックをダイカスト法や重力鋳造で製造することは下記特許文献1に記載されているように公知である。
【0003】
特許文献1を図6乃至図8に基づいて説明する。図6は、クランクケース101を含むシリンダブロック102の斜視図であり、図7は図6のクランクケース101と鋳造型110とを模式的に示す縦断面図であり、図8は図7に示すクランクケース101の断面と直交する方向の縦断面におけるクランクケース101と中子(シリンダ側中子111及びクランク側中子112)とを模式的に示す断面図である。クランクケース101を含むシリンダブロック102は鋳造型110により重力鋳造により製造される。図8に示すように、シリンダ側中子111とクランク側中子112とは、クランク側中子112の抜き勾配130がクランク側Cの合面150からジャーナル軸受部120の軸受最深部121の近傍に向けて狭くなるように形成され、シリンダ側中子111の抜き勾配131が、クランク軸中子112との割面160であるジャーナル軸受部120の軸受最深部121近傍からシリンダ側Hに向けて広くなるように形成されている。従って、シリンダ側中子111とクランク側中子112とを合わせた状態では、割面160の部分の厚みが厚く、この割面160からシリンダ側Hの軸受最深部121と合面150に向けて厚みが薄くなる隔壁122が形成されるようになっている。そして、このクランクケース101によれば、ジャーナル軸受部120の間で回転するクランクウェブと隔壁122との距離を確保できるので、クランクウェブの撹拌抵抗を低減でき、エンジンの出力向上を図ることできると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−69749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジン作動時に発生する爆発力や熱応力は、クランク室の隔壁(軸受け壁)に伝わることになる。また、エンジン作動時にピストンが上下動すると、隔壁の間で生じた大きな圧力変化が隔壁に伝わることになる。そうすると、それらの爆発力、熱応力及び圧力変化が隔壁の角部(シリンダ側の角部)に集中し、隔壁の角部に亀裂が発生してしまう場合がある。しかし、特許文献1のような従来のクランクケースでは、クランク室の隔壁の角部に亀裂が発生してしまうことを充分に防ぐことができない虞があった。
【0006】
それゆえに本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされ、軸受け壁の角部に亀裂が発生することを防ぐことができるシリンダブロック及び該シリンダブロックの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、本発明に係るシリンダブロックは、内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面10が形成された軸受け壁3を備えたシリンダブロック1において、該シリンダブロック1はダイカスト法により成形され、該半円状支持面10に対して反対側の面である上面3aと、該軸受け壁3の側面3b、3bとがチル層を備える曲面3c、3cを介して連続していることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るシリンダブロックの製造方法は、内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面10が形成された軸受け壁3を備えたシリンダブロック1の製造方法において、該半円状支持面10に対して反対側の面である上面3aと、該軸受け壁3の側面3b、3bとの間の角部が曲面3c、3cとなるようにシリンダブロック1を成形するダイカスト工程と、該軸受け壁3の上面3aと側面3b、3bとがチル層を備える曲面3c、3cを介して連続するように該軸受け壁3を加工する機械加工処理工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリンダブロックによれば、クランク室の軸受け壁の角部に亀裂が発生することを防ぐことができる。また、本発明のシリンダブロックの製造方法によれば、クランク室の軸受け壁の角部に亀裂が発生することを防ぐことができるシリンダブロックを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態におけるシリンダブロックの要部正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB―B線断面図である。
【図4】軸受け壁とダイカスト金型を模式的に示す断面図である。
【図5】機械加工処理工程を行う前の状態における図1のB―B線断面図である。
【図6】従来技術におけるクランクケースを含むシリンダブロックの斜視図である。
【図7】図6のクランクケースと鋳造型とを模式的に示す縦断面図である。
【図8】図7に示すクランクケースの断面と直交する方向の縦断面におけるクランクケースと中子とを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態にかかるシリンダブロックについて図面を参酌しつつ説明する。本実施形態のシリンダブロックは、水平対向型エンジンのシリンダブロックである。図1に左右一対のシリンダブロックのうちの一方を、両シリンダブロックの合わせ面側から見た図として示している。このシリンダブロック1は、アルミニウム合金製であり、水平対向型四気筒エンジン用のものであるため、シリンダボア2が二つ形成されている。該シリンダブロック1は、図示しないクランクシャフトのジャーナル部を回転自在に支持するための軸受け壁3(軸受け部)を複数備えている。該軸受け壁3は、クランクシャフトの軸線方向を厚み方向とする板状であって、そのクランクシャフトの軸線方向に沿って間隔をあけて複数配置されている。尚、本実施形態においては軸受け壁3が合計五箇所に形成されているが、五箇所のうち四箇所の軸受け壁3はシリンダボア2に対向する位置に形成され、残る一箇所の軸受け壁3はシリンダボア2から離れた位置に形成されている。これらの軸受け壁3には、図2にも示しているように、クランクシャフトのジャーナル部を回転自在に支持するための半円状支持面10がそれぞれ形成されている。また、軸受け壁3の半円状支持面10の両側には、他方のシリンダブロックと重なり合う重ね合わせ面11が形成され、該重ね合わせ面11にはネジ孔12が形成されている。図2は、シリンダボア2に対向した位置に形成された軸受け壁3の一つを示している。図2に示しているように、シリンダボア2の壁面には鋳鉄製等のシリンダライナー13が鋳込まれている。
【0012】
図3に示すように、軸受け壁3は、シリンダボア2の側にクランクシャフトの軸線に対して略平行であり、半円状支持面10に対して反対側の面である上面3aを備えている。また、軸受け壁3は、上面3aに対して直交する方向(シリンダボア2の軸線方向)に延びる2つの側面3b、3bを備えている。そして、上面3aと2つの側面3b、3bとは、曲面3c、3cを介して連続している。軸受け壁3の上面3aと2つの側面3b、3bはダイカスト法による成形の後に切削加工等の機械加工処理を施すことで形成されているが、曲面3c、3cの箇所には機械加工処理は施されていない。従って、曲面3c、3cはダイカスト法による成形の際にダイカスト品の表面に微細化組織として形成されるチル層(凝固層)を備えている。軸受け壁3の上面3aと2つの側面3b、3bとはR3〜10の曲面3c、3cを角部として連続するようになっているので、エンジンの作動時に爆発力、熱応力及び圧力変化が曲面3c、3cの箇所に集中し、この箇所に亀裂が発生することを防止することができる。また、曲面3c、3cがダイカスト法で成形した際に形成されたチル層をそのまま備えており、強度に優れていることから、曲面3c、3cの箇所に亀裂が発生することが更に防止されている。
【0013】
次に、本実施形態のシリンダブロック1の製造方法について説明する。まず、ダイカスト法によりシリンダブロック1を成形するダイカスト工程を行う。図4に示すように、ダイカスト金型30は固定型31と可動型32を備えている。固定型31と可動型32によりキャビティを画成し、そのキャビティにアルミニウム合金溶湯等の金属溶湯をプランジャチップで充填することによりシリンダブロック1を成形する。ここで、シリンダブロック1の軸受け壁3は、クランクシャフト側Cからシリンダボア側Hに向かってその厚みを徐々に厚くするが、固定型31と可動型32の割面33を境としてシリンダボア側Hに向ってその厚みを徐々に薄くするように成形される。また、軸受け壁3がその厚みを徐々に薄くする部分は、可動型32の形状によってR3〜10の曲面3c、3cを備えるように成形される。
【0014】
ダイカスト工程で成形したシリンダブロック1をダイカスト金型30から取り出した後に、シリンダブロック1に切削加工等の機械加工処理を施す機械加工処理工程を行う。この機械加工処理工程では、図5において黒色で塗り潰して示す加工代部Sを軸受け壁3から除去することにより、軸受け壁3の上面3aと側面3bを形成する(図3参照)。そして、機械加工処理が行われずにダイカスト法で成形した際に形成されたチル層をそのまま備える曲面3c、3cを軸受け壁3の上面3aと側面3bとの間に介在させることにより、軸受け壁3の角部がR3〜10の曲面となるようにする。このようにして、本実施形態のシリンダブロック1を製造する。
【0015】
本実施形態では、水平対向型のシリンダブロックについて説明したが、直列レイアウトやV型等のような各タイプのシリンダブロックにおいても適用可能である。
【符号の説明】
【0016】
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 軸受け壁
3a 上面
3b 側面
3c 曲面
10 半円状支持面
11 重ね合わせ面
12 ネジ孔
13 シリンダライナー
30 ダイカスト金型
31 固定型
32 可動型
33 割面
C クランクシャフト側
H シリンダボア側
S 加工代部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面が形成された軸受け壁を備えたシリンダブロックにおいて、
該シリンダブロックはダイカスト法により成形され、
該半円状支持面に対して反対側の面である上面と、該軸受け壁の側面とはチル層を備える曲面を介して連続していることを特徴とするシリンダブロック。
【請求項2】
内燃機関のクランクシャフトを回転自在に支持するための半円状支持面が形成された軸受け壁を備えたシリンダブロックの製造方法において、
該半円状支持面に対して反対側の面である上面と、該軸受け壁の側面との間の角部が曲面となるようにシリンダブロックを成形するダイカスト工程と、
該軸受け壁の上面と側面とがチル層を備える曲面を介して連続するように該軸受け壁を加工する機械加工処理工程と、
を有することを特徴とするシリンダブロックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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