説明

シリンダヘッドガスケットの製造方法

【解決手段】 図3(a)では、板状のガスケット素材15に、燃焼室孔2よりも小径の貫通孔15aを穿設し、図3(b)では、ヘミング加工により該貫通孔の周縁部15bを半径方向外方に折り返して、その折返し部15cを上記燃焼室孔よりも内周側に位置させながら上記周縁部をガスケット素材に重合させ、図3(c)では、重合されたガスケット素材と周縁部とを押圧部材16で押圧した状態からレーザ溶接手段17を用いて溶接し、図3(d)では、上記折返し部を上記燃焼室孔の位置で除去している。そして上記工程により第1ガスケット基板11とシムリング14とが得られるようになっている。
【効果】 シリンダブロック等に圧痕が生じず、また製造コストの低いシリンダヘッドガスケットを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダヘッドガスケットの製造方法に関し、詳しくはガスケット基板及びシムリングを備えたシリンダヘッドガスケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのシリンダヘッドとシリンダブロックとの間にはシリンダヘッドガスケットが挟持され、このシリンダヘッドガスケットにはシリンダボアの位置に合わせて燃焼室孔が形成されている。
このようなシリンダヘッドガスケットとして、燃焼室孔の設けられた基板と、上記燃焼室孔の周囲に設けられて上記基板に固定されたシムリングとを備えたものが知られており、当該シムリングによりシリンダボアからの排気洩れ等を防止したものが知られている。(特許文献1)
この特許文献1のシリンダヘッドガスケットを製造するには、最初に基板とシムリングとを重合させ、その状態で基板とシムリングとを相互に溶接し、最後に基板とシムリングとを燃焼室孔の位置に合わせて切断するようになっている。
また他の構成を有するシリンダヘッドガスケットとして、上中下の3枚の基板を備え、このうち中間に位置する中間板に、燃焼室孔の位置に合わせて折り曲げ部を形成したものが知られている。(特許文献2:特に図11の構成)
この特許文献2のシリンダヘッドガスケットによれば、上記折り曲げ部によってシリンダボアからの排気洩れ等を防止するようになっており、上記折り曲げ部は従来公知のヘミング加工等で製造することが可能となっている。
【特許文献1】特開平4−296256号公報
【特許文献2】特開平8−291863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1によるシリンダヘッドガスケットの製造方法の場合、基板とは別にシムリングを製造する必要があるが、このシムリングはリング状を有しているため、歩留まりが悪いという問題がある。
また、基板とシムリングとを溶接する際には、これら基板とシムリングとを位置決めしなければならず、位置決め工程や位置決め用の治具等を別途用意しなければならないといった問題が生じていた。
一方、特許文献2に記載されている上記中間板を製造する際には、ヘミング加工を行うだけであるので、特許文献1のような溶接や位置決めを行う必要はないが、上記折り曲げ部には強いばね力が存在しているので、当該折り曲げ部の位置に面圧が集中してしまい、シリンダブロックやシリンダヘッドに圧痕が発生してしまう場合があった。
このような問題に鑑み、本発明は上記圧痕の発生するおそれのない、ガスケット基板およびシムリングを備えたシリンダヘッドガスケットを、従来に比べて安価に得ることの可能なシリンダヘッドガスケットの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明によるシリンダヘッドガスケットの製造方法は、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟持され、シリンダボアの位置に燃焼室孔の形成されたガスケット基板と、上記燃焼室孔を囲繞して上記ガスケット基板に固着されたシムリングとを備えるシリンダヘッドガスケットの製造方法であって、
板状のガスケット素材に、上記燃焼室孔よりも小径の貫通孔を穿設し、該貫通孔の周縁部を半径方向外方に折り返して、その折返し部を上記燃焼室孔よりも内周側に位置させながら上記周縁部をガスケット素材に重合させ、次にガスケット素材とこれに重合された周縁部とを相互に固着したら、上記折返し部を上記燃焼室孔の位置で除去して上記周縁部をシムリングとすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
上記製造方法によって得られるシリンダヘッドガスケットには、上記特許文献2のようなシリンダボア周辺に折り曲げ部が存在しないので、シリンダヘッドやシリンダブロックに圧痕が発生するおそれは無い。
しかも1枚のガスケット素材からガスケット基板とシムリングとを得ることができるので、シムリングを別途製造する必要が無く、しかも溶接のために位置決めを行う必要が無いので、上記構成のシリンダヘッドガスケットを従来よりも安価に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図示実施例について説明すると、図1はシリンダヘッドガスケット1を示し、図示しないシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟持されてそれらの間をシールするようになっている。
図1に示すように、シリンダヘッドガスケット1にはシリンダブロックのシリンダボアに合わせて形成された複数の燃焼室孔2と、図示しない締結ボルトを挿通するための複数のボルト孔3と、潤滑油を流通させる油孔4および冷却水を流通させるための水孔5とがそれぞれ穿設されている。
また、図2は図1におけるII−II断面を示しており、シリンダヘッドガスケット1は3枚の金属製の第1〜第3ガスケット基板11〜13を備え、また中央に位置する第1ガスケット基板11とその上方に位置する第2ガスケット基板12との間には、上記燃焼室孔2を囲繞するシムリング14が設けられている。
第1ガスケット基板11は平坦なガスケット素材に対して上記燃焼室孔2やボルト孔3を穿設したものであり、第1ガスケット基板11は上記第2ガスケット基板12及び下方に設けられた第3ガスケット基板13によって挟持されている。
上記第2ガスケット基板12と、第3ガスケット基板13の表面には、それぞれゴムや樹脂等からなるコーティングが施され、また各基板には燃焼室孔2を無端状に囲繞するとともに、第1ガスケット基板11に向けて突出するフルビード12A,13Aが形成されている。
上記シムリング14は第1ガスケット基板11と同一の素材であり、燃焼室孔2の周囲を略一定の幅で囲繞するとともに、フルビード12A,13Aよりも燃焼室孔2側に配置されて、第1ガスケット基板11の上面に溶接によって固着されている。
ここで、第1ガスケット基板11にシムリング14を溶接するのは、シムリング14がシリンダボアに対してずれないようにするのと、第2、第3ガスケット基板12、13がゴムや樹脂等からなるコーティングによって覆われており、溶接できないからとなっている。
【0007】
このような構成を有するシリンダヘッドガスケット1によれば、上記フルビード12A,13Aとシムリング14とによって、シリンダボアからの排気洩れ等を良好に防止することができる。
また上記シムリング14を設けることで、シリンダヘッドガスケット1をシリンダブロックとシリンダヘッドとによって挟持したときに、上記フルビード12A,13Aに作用する圧力を分散させることができ、シリンダヘッドガスケット1の耐久性を向上させることができる。
【0008】
次に、上記シリンダヘッドガスケット1の製造方法について説明する。ここで、上記第2、第3ガスケット基板12、13の製造方法は従来公知の製造方法と何ら変わりないので説明を省略し、上記第1ガスケット基板11およびシムリング14の製造方法について説明する。
図3(a)〜(d)は上記第1ガスケット基板11およびシムリング14の製造方法を示したものであり、上記図1のII−II断面の位置についての製造過程を示している。また、図中の2点鎖線は上記燃焼室孔2の位置を示している。
最初に、図3(a)は第1ガスケット基板11およびシムリング14となるガスケット素材15を示しており、上記燃焼室孔2となる位置に、燃焼室孔2よりも小径の貫通孔15aを穿設する工程を示している。
上記貫通孔15aの中心は燃焼室孔2の中心と一致するように設けられ、その径は上記シムリング14の幅と下記折返し部15cの範囲によって定められている。またこの貫通孔15aと同時に上記ボルト孔3、油孔4、水孔5も穿設することができる。
【0009】
図3(b)に示す工程は、従来公知のヘミング加工により、上記貫通孔15aの周縁部15bを半径方向外方に折り返す工程となっている。
具体的には、最初に上記貫通孔15aから所定幅の周縁部15bを上方に押し上げ、その後当該周縁部15bを上記燃焼室孔2よりも外周側に突出するように折り返してから、周縁部15bとその下方に位置するガスケット素材15とを重合させるようになっている。
このとき、上記ヘミング加工によって形成される折返し部15cが、上記燃焼室孔2よりも内周側に位置するようにし、しかも燃焼室孔2よりも外周側では上記周縁部15bとガスケット素材15とがともに平坦となるようにしている。
ここで、燃焼室孔2の位置から周縁部15bの端部までの距離は、シムリング14の幅と同一となるように設定され、燃焼室孔2の位置から折返し部15cまでの距離は、折返し部15cの曲率を有する部分が燃焼室孔2よりも外周側に位置しないように設定される。
【0010】
図3(c)に示す工程は、上記周縁部15bとガスケット素材15とを相互に溶接する工程であり、本実施例では溶接に従来公知のレーザ溶接を採用している。
本実施例では、上記ヘミング加工を行っただけでは周縁部15bとガスケット素材15とが密着していない場合があるため、押圧部材16を用いて上方から周縁部15bをガスケット素材15に押さえつけるようになっている。
このように周縁部15bを押圧部材16で押さえつけた状態から、燃焼室孔2よりも外周となる位置を、従来公知のレーザ溶接手段17を用いて無端状に溶接する。
このとき溶接を断続的にすることも可能であり、また上記レーザ溶接手段17以外にも、その他の溶接方法を用いることも可能である。例えば抵抗溶接手段を使用する場合は、電極によって周縁部15bをガスケット素材15に押圧しながら溶接することができるので、上記押圧部材16が不要となる。
【0011】
最後に、図3(d)に示す工程は、上記折返し部15cを燃焼室孔2の位置で除去する工程を示している。
上記折返し部15cは剪断によって除去され、折返し部15cの除去により、燃焼室孔2の外周側に位置していたガスケット素材15は第1ガスケット基板11に、上記周縁部15bはシムリング14となり、上記1枚のガスケット素材15から第1ガスケット基板11とシムリング14とが得られるようになっている。
【0012】
このようにして製造された第1ガスケット基板11とシムリング14とを上記シリンダヘッドガスケット1に用いることで、以下の効果を得ることができる。
最初に、図3(d)の工程で上記折返し部15cを除去しているため、シリンダブロックとシリンダヘッドによってシリンダヘッドガスケット1を挟持する際に、当該折返し部15cによってシリンダブロックやシリンダヘッドに圧痕が生じることはない。
また、上記1枚のガスケット素材15から第1ガスケット基板11とシムリング14とを得ることができるので、従来のように第1ガスケット基板11とシムリング14とを別々に準備する必要が無くなり、材料コストを低減することができる。
特に、上記シムリング14は燃焼室孔2を囲繞する幅の狭いリング形状を有しているので、これを第1ガスケット基板11と別体に製造するのは歩留まりの点からみて非常に高コストとなっていた。
また、周縁部15bとガスケット素材15とを溶接してから上記折返し部15cを除去するので、特許文献1のようにシムリングと基板とを位置決めする必要が無く、位置決め用の治具やそのための工程が不要となり、製造時間の短縮によっても製造コストを低減することができる。
【0013】
なお、本実施例では第2、第3ガスケット基板12、13に樹脂のコーティングが施されているため、第2、第3ガスケット基板12、13にシムリング14を溶接することはできなかったが、コーティングが不要な場合には、第2ガスケット基板12若しくは第3ガスケット基板13のいずれかを第1ガスケット基板11とし、当該第1ガスケット基板11に上記製造方法を適用することができる。
またこのとき上記シムリング14を第1ガスケット基板11の下面に溶接するようにしてもよく、この場合、上記製造方法ではヘミング加工の方向を下方側とするだけでよい。
このように、本発明は上記実施例のような3枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケット1の製造方法に限られるものではなく、ガスケット基板とシムリング14とが相互に溶接された構成を有するシリンダヘッドガスケット1であれば適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例におけるシリンダヘッドガスケットを示す平面図。
【図2】図1におけるII―II部を示す断面図。
【図3】第1ガスケット基板の製造方法を示す図であって、上記図2と同一の部分についての製造方法を示した概略工程図。
【符号の説明】
【0015】
1 シリンダヘッドガスケット 2 燃焼室孔
11〜13 第1〜第3ガスケット基板 14 シムリング
15 ガスケット素材 15a 貫通孔
15b 周縁部 15c 折返し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟持され、シリンダボアの位置に燃焼室孔の形成されたガスケット基板と、上記燃焼室孔を囲繞して上記ガスケット基板に固着されたシムリングとを備えるシリンダヘッドガスケットの製造方法であって、
板状のガスケット素材に、上記燃焼室孔よりも小径の貫通孔を穿設し、該貫通孔の周縁部を半径方向外方に折り返して、その折返し部を上記燃焼室孔よりも内周側に位置させながら上記周縁部をガスケット素材に重合させ、次にガスケット素材とこれに重合された周縁部とを相互に固着したら、上記折返し部を上記燃焼室孔の位置で除去して上記周縁部をシムリングとすることを特徴とするシリンダヘッドガスケットの製造方法。
【請求項2】
上記シリンダヘッドガスケットは少なくとも相互に重合された第1ガスケット基板と第2ガスケット基板とを備えており、上記第1ガスケット基板の第2ガスケット基板側に上記シムリングが設けられ、また第2ガスケット基板に燃焼室孔を囲繞し、かつ第1ガスケット基板に向けて突出するボアビードが形成され、上記シムリングはこのボアビードよりも燃焼室孔側に位置するように配置されることを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドガスケットの製造方法。
【請求項3】
上記第1ガスケット基板には第2ガスケット基板の反対側に第3ガスケット基板が重合されており、この第3ガスケット基板に燃焼室孔を囲繞し、かつ第1ガスケット基板に向けて突出するボアビードが形成され、上記シムリングはこのボアビードよりも燃焼室孔側に位置するように配置されることを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッドガスケットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−83910(P2006−83910A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267821(P2004−267821)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】