説明

シリンダヘッドガスケット

【課題】シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔の内周面とシリンダブロックの上面との間に凝縮水が溜まるのを防止して、シリンダブロックの上面が腐食するのを防止することができ、シリンダブロックとシリンダヘッドとのシール性能が悪化するのを防止することができるシリンダヘッドガスケットを提供すること。
【解決手段】シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する第2のガスケット基板41の燃焼室孔を構成する内周面41bを、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔を構成する内周面41cよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出させる。また、第2のガスケット基板41の内周面42bを、シリンダブロック12の上部に形成された面取り部44の傾斜面内の上方に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッドガスケットに関し、特に、内燃機関を構成するシリンダブロックとシリンダヘッドの間に介装されたシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に設けられた内燃機関であるエンジン10においては、図12、図13に示すように、シリンダボア1aを構成するシリンダブロック1とシリンダヘッド2との間にシリンダヘッドガスケット3を介在させて、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との間のシールを維持するようにしている。
【0003】
このシリンダヘッドガスケット3としては、シリンダヘッド2側に位置する第1のガスケット基板4と、シリンダブロック1側に位置する第2のガスケット基板5と、第1のガスケット基板4および第2のガスケット基板5の間に介在されたインナー基板6とを備えた3層構造のシリンダヘッドガスケット3が知られている。
【0004】
このシリンダヘッドガスケット3は、第1のガスケット基板4および第2のガスケット基板5に、シリンダヘッドガスケット3の所要箇所において、シリンダボア1aを取り囲むようにして開口された燃焼室孔3aを囲繞する環状段部4a、5aを設けることによって、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との間での開きに対する追従性を高めることにより、エンジンの高性能化に伴って燃焼圧を高く設定することができるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、近時では、大気汚染や原油事情の変動等に伴い、ガソリン燃料に加えて代替燃料としてのアルコールを同時に使用可能なシステムが実用化されている(例えば、特許文献2参照)。
このシステムを搭載した車両(Flexible Fuel Vehicle)では、ガソリン燃料のみならず、ガソリンとアルコールとの混合燃料、またはアルコール100%で走行することができる(以下、このエンジンをアルコールエンジンともいう)。
【0006】
このようなアルコールエンジンにあっても、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との間にシリンダヘッドガスケット3を介装して、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との間のシールを維持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−247631号公報
【特許文献2】特開2010−14070号公報
【特許文献3】特開平10−47487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のシリンダヘッドガスケット3を、例えば、アルコールエンジンに装着した場合には、以下のような問題が発生するおそれがある。
例えば、搭載する車両のボンネットを低くするために、あるいは、FR(フロントエンジン・フロントドライブ)車両の場合には、プロペラシャフトの配置を良好に行うため等の関係上から、図14に示すように、シリンダブロック1の上面を水平面Eに対して後方に傾斜させることがある。
【0009】
シリンダブロック1の上面を水平面に対して後方に傾斜させると、図13に示すように、シリンダボア1aを取り囲むそれぞれ燃焼室孔3aにおいて、シリンダブロック1の傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔3aの内周面とシリンダヘッド2の上面に段差7が生じてしまう。
【0010】
一方、アルコールエンジンにおいては、アルコール、例えばメタノールの燃焼により水やギ酸等の酸性物質が多く発生することが知られている。このため、エンジン停止後に水やギ酸等の酸性物質が冷却されることにより、凝縮水8が段差7に溜まり易くなり、段差7に位置するシリンダブロック1の上面が腐食し易くなってしまった。このため、シリンダヘッドガスケット3によるシール性能が低下してしまい、結果的に燃焼圧が低下する等してエンジン10の性能が低下してしまうおそれがあった。
【0011】
ここで、シリンダブロックの上面とシリンダヘッドガスケットとの間に凝縮水を溜める隙間を設け、この隙間内に高温の燃焼ガスを導入することで凝縮水を蒸発させることにより、シリンダブロックの上面の腐食を防止するものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
ところが、この特許文献3に記載されたものは、隙間に溜まった凝縮水が十分に蒸発されないままにエンジンが停止された場合に、凝縮水によってシリンダブロックの上面が腐食されてしまい、シリンダヘッドガスケットによるシール性能の悪化を招いてしまうおそれがある。
【0013】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔の内周面とシリンダブロックの上面との間に凝縮水が溜まるのを防止して、シリンダブロックの上面が腐食するのを防止することができ、シリンダブロックとシリンダヘッドとのシール性能が悪化するのを防止することができるシリンダヘッドガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るシリンダヘッドガスケットは、上記目的を達成するため、(1)複数のシリンダボアを有し、上面が水平面に対して傾斜するようにして設置されたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの上面に載置されたシリンダヘッドとの間に挟持され、前記シリンダボアに対向する位置に前記シリンダボアを取り囲むようにして燃焼室孔が形成されたシリンダヘッドガスケットであって、前記複数のシリンダボアを取り囲むそれぞれの前記燃焼室孔は、前記シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する前記燃焼室孔の内周面が、前記シリンダブロックの傾斜方向上方側に位置する前記燃焼室孔の内周面よりも前記シリンダボアの中心軸側に突出するものから構成されている。
【0015】
このシリンダヘッドガスケットは、複数のシリンダボアを取り囲むそれぞれの燃焼室孔において、シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔の内周面が、シリンダブロックの傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔の内周面よりもシリンダボアの中心軸側に突出しているので、シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔の内周面とシリンダブロックの上面とによって段差が形成されるのを防止することができる。
【0016】
このため、上面が水平面に対して傾斜するようにして設置されたシリンダブロックを有し、アルコール燃料により駆動される内燃機関にシリンダヘッドガスケットを適用した場合に、水や酸性物質が冷却されることによって発生する凝縮水がシリンダブロックの傾斜方向下方側の上面に溜まるのを防止することができ、シリンダブロックの上面が腐食してしまうのを防止することができる。
【0017】
このため、シリンダヘッドガスケットによるシール性が悪化してしまうのを防止することができる。この結果、内燃機関の燃焼圧が低下すること等を防止して内燃機関の性能が悪化してしまうのを防止することができる。
【0018】
上記(1)に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、(2)前記シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する前記燃焼室孔の内周面が、前記シリンダブロックの上端内周面から前記シリンダボアの中心軸に向かって下方に傾斜する面取り部の傾斜面内の上方に位置するものから構成されている。
【0019】
このシリンダヘッドガスケットは、シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔の内周面が、シリンダボアの上端内周面からシリンダボアの中心軸に向かって下方に傾斜する面取り部の傾斜面内の上方に位置するので、シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔の内周面とシリンダブロックの上面とによって段差が形成されるのを防止することができる。
【0020】
また、シリンダボアの上部に形成された面取り部に凝縮水が付着した場合に、この凝縮水を面取り部の傾斜面に沿ってシリンダボア内に滴下させることができるため、凝縮水がシリンダブロックの傾斜方向下方側の上面に溜まるのをより一層防止することができ、シリンダブロックの上面が腐食してしまうのをより一層防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔の内周面とシリンダブロックの上面との間に凝縮水が溜まるのを防止して、シリンダブロックの上面が腐食するのを防止することができ、シリンダブロックとシリンダヘッドとのシール性能が悪化するのを防止することができるシリンダヘッドガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第1の実施の形態を示す図であり、エンジンおよび燃料供給機構の概略構成図である。
【図2】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第1の実施の形態を示す図であり、エンジンおよびトランスアクスルの外観図である。
【図3】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第1の実施の形態を示す図であり、シリンダヘッド、シリンダヘッドガスケットおよびシリンダブロックの分解斜視図である。
【図4】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第1の実施の形態を示す図であり、シリンダヘッドガスケットの上面図である。
【図5】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第1の実施の形態を示す図であり、図3のA−A方向から見たエンジンの要部断面図である。
【図6】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第1の実施の形態を示す図であり、他の形状のシリンダヘッドガスケットを備えたエンジンの要部断面図を示し、図3のA−A方向から見たエンジンの要部断面図に相当する。
【図7】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第2の実施の形態を示す図であり、エンジンの外観図である。
【図8】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第2の実施の形態を示す図であり、シリンダヘッド、シリンダヘッドガスケットおよびシリンダブロックの分解斜視図である。
【図9】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第2の実施の形態を示す図であり、シリンダヘッドガスケットの上面図である。
【図10】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第2の実施の形態を示す図であり、図8のB−B方向から見たエンジンの要部断面図である。
【図11】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第2の実施の形態を示す図であり、他の形状のシリンダヘッドガスケットを備えたエンジンの要部断面図を示し、図8のA−A方向から見たエンジンの要部断面図に相当する。
【図12】従来のシリンダヘッドガスケットを備えたエンジンの分解斜視図である。
【図13】図12のC−C方向から見たエンジンの要部断面図である。
【図14】従来のシリンダヘッドガスケットを備えたエンジンおよびトランスアクスルの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るシリンダヘッドガスケットの実施の形態について、図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図1〜図6は、本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第1の実施の形態を示す図であり、アルコール燃料で走行を行うFFV(Flexible Fuel Vehicle)車両に適用した例を示している。
【0024】
まず、構成を説明する。
図1において、内燃機関としてのエンジン11は、吸入空気と燃料との混合気を燃焼させるものであり、シリンダブロック12と、シリンダブロック12の上部に設けられたシリンダヘッド13とを含んで構成されている。
【0025】
なお、本実施の形態では、シリンダヘッドガスケットをFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両のエンジン11に適用したものである。
【0026】
シリンダブロック12の内部に画成された複数のシリンダボア14(図示1つ)内にはピストン15が収納されており、シリンダボア14は、車両の前後方向に配列されている。また、ピストン15は、ピストン15の上面、シリンダボア14およびシリンダヘッド13の下面によって画成される燃焼室16に供給される混合気の燃焼により、上下に往復運動するようになっている。
【0027】
ピストン15の下端にはピストン15の往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト17が設けられている。また、シリンダヘッド13にはシリンダボア14毎に吸気ポート13aが設けられており、この吸気ポート13aには吸気管18が接続されている。この吸気ポート13aには吸気管18と燃焼室16とを連通および遮断する吸気弁19が設けられている。
【0028】
また、シリンダヘッド13にはシリンダボア14毎に排気ポート13bが設けられており、この排気ポート13bには排気管20が接続されている。この排気ポート13bには排気管20と燃焼室16とを連通および遮断する排気弁21が設けられている。
【0029】
また、吸気管18には燃料供給機構22が接続されており、燃料供給機構22は、主燃料タンク23と、吸気管18毎に設けられた燃料噴射弁24に燃料を分配するデリバリパイプ25と、このデリバリパイプ25に設けられて吸気管18に燃料を噴射する燃料噴射弁24と、主燃料タンク23とデリバリパイプ25とを接続する主燃料供給管26とを備えて構成されている。
【0030】
主燃料タンク23には、ガソリンにアルコール(エタノール)を混ぜた燃料、若しくは、アルコールのみからなる燃料(以下、これらをアルコール燃料とも記載する)が用いられる。
【0031】
この主燃料タンク23に貯留された燃料は、電動燃料ポンプ27によって主燃料供給管26から燃料噴射弁24に送られるようになっており、燃料噴射弁24から燃焼室16に向かって噴射される。
【0032】
図2において、エンジン11のシリンダブロック12には、シリンダヘッドガスケット31を介してシリンダヘッド13が取付けられており、シリンダヘッド13の上方にはヘッドカバー32が取付けられているとともに、シリンダブロック12の下方にはオイルパン33が取付けられている。
【0033】
また、シリンダブロック12の後方にはトランスアクスル34が設けられている。なお、本実施の形態のエンジン11は、例えば、エンジン11を搭載する車両のボンネットを低くするために、あるいは、トランスアクスル34に接続された図示しないプロペラシャフトの位置関係に応じて、シリンダブロック12の上面を水平面Eに対して後方(車両の後側)に傾斜させるようにしている。具体的には、エンジン11は、シリンダボア14の中心軸Oが鉛直軸Lに対して後方に傾斜している。
【0034】
図3に示すように、シリンダブロック12は、シリンダボア壁35と、このシリンダボア壁35の周囲に設けられた外壁36とを含んで構成されており、シリンダボア壁35には4つの真円のシリンダボア14が形成されている。
【0035】
また、シリンダボア壁35と外周面と外壁36の内周面によって囲まれる空間にはシリンダボア14を取り囲むようにしてウォータジャケット38が形成されており、このウォータジャケット38は、シリンダボア14と同一面で開口している。
【0036】
また、シリンダブロック12の下部にはクランクケース部39が設けられており、クランクケース部39の下方には図2に示すようにオイルパン33が設けられている(図1、図3でオイルパン33を省略)。
【0037】
一方、図3、図4に示すように、シリンダヘッドガスケット31は、シリンダヘッド13側に設けられた第1のガスケット基板40とシリンダブロック12側に設けられた第2のガスケット基板41と、第1のガスケット基板40と第2のガスケット基板41との間に介装されるインナーシム42とが積層されることによって構成されている。
【0038】
このシリンダヘッドガスケット31には、シリンダボア14を取り囲むようにしてシリンダボア14および燃焼室16に連通する燃焼室孔43が形成されており、図5に示すように、インナーシム42の半径方向両端部には折り曲げ部42a、42bが形成されている。
また、第1のガスケット基板40および第2のガスケット基板41には、インナーシム42側に突出する環状突出部40a、41aが形成されており、この環状突出部40a、41aは、シリンダボア14を取り囲むようにしてシリンダボア14の半径方向外方に設けられている。
【0039】
このため、シリンダヘッドガスケット31がシリンダブロック12とシリンダヘッド13との間に介装されたときに、第1のガスケット基板40の環状突出部40aと第2のガスケット基板41の環状突出部41aとが撓むことにより、ウォータジャケット38からの冷却水がシリンダボア14に漏出すること等を防止することができる。
これに加えて、シリンダブロック12とシリンダヘッド13との間での開きに対する追従性を高めることができ、エンジン11の高性能化に伴って燃焼圧を高く設定することができる。
【0040】
また、図5に示すように、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔43の内周面43aは、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔43の内周面43bよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出している。
【0041】
特に、本実施の形態では、シリンダヘッドガスケット31の最下層の第2のガスケット基板41において、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔43を構成する内周面41bが、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔43を構成する内周面41cよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出している。
【0042】
このため、本実施の形態の第2のガスケット基板41は、図4に示すように、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する内周面41bが直線形状となっているのに対して、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する内周面41cが湾曲形状となっている。なお、図4において、内周面41cは、第2のガスケット基板41の内周面41cを指しているものであり、内周面41cは、第2のガスケット基板41の上方に位置するインナーシム42の内周面および第1のガスケット基板40の内周面に対して中心軸O方向において同一面上に位置している。
【0043】
また、図4に示すように、第2のガスケット基板41の内周面41bにおいて、シリンダボア14の中心軸Oに最も突出している突出端面41dからシリンダボア14の中心軸Oまでの距離は、シリンダボア14の半径よりも大きくなっており、第2のガスケット基板41の内周面41bがピストン15に衝突することはない。
【0044】
また、シリンダボア14の上部には面取り部44が形成されており、この面取り部44は、シリンダボア14の上端内周面からシリンダボア14の中心軸Oに向かって下方に傾斜している。
【0045】
本実施の形態の第2のガスケット基板41の内周面41bは、面取り部44の傾斜面内の上方に位置しており、シリンダボア14の上面と第2のガスケット基板41の内周面41bとによって従来のような段差が形成されていない。なお、特許請求の範囲で言うシリンダブロックの上面とは、シリンダボア壁35の上面のことを指す。
【0046】
次に、作用を説明する。
アルコール燃料で駆動されるエンジン11においては、アルコール、例えばメタノールの燃焼により水やギ酸等の酸性物質が多く発生し、エンジン11の停止後に水やギ酸等の酸性物質が冷却されることにより、凝縮水が発生する。
【0047】
特に、シリンダブロック12の上面を水平面Eに対して後方に傾斜させるように構成されるエンジン11にあっては、シリンダブロック12の傾斜方向下方のシリンダボア14の上面に凝縮水が溜まるおそれがある。
【0048】
本実施の形態では、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する第2のガスケット基板41の燃焼室孔43を構成する内周面41bを、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔43を構成する内周面41cよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出させたので、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する第2のガスケット基板41の内周面41bとシリンダボア14の上面とによって段差が形成されるのを防止することができる。
【0049】
このため、上面が水平面Eに対して傾斜するようにして設置されたシリンダブロック12を有し、アルコール燃料により駆動されるエンジン11にシリンダヘッドガスケット31を適用した場合に、水や酸性物質が冷却されることによって発生する凝縮水がシリンダボア壁35の傾斜方向下方側の上面に溜まるのを防止することができ、シリンダボア壁35の上面が腐食してしまうのを防止することができる。
【0050】
このため、シリンダヘッドガスケット31によるシール性が悪化してしまうのを防止することができる。この結果、エンジン11の燃焼圧が低下すること等を防止してエンジン11の性能が悪化してしまうのを防止することができる。
【0051】
また、本実施の形態では、シリンダボア14の上部に、シリンダボア14の上端内周面からシリンダボア14の中心軸Oに向かって下方に傾斜する面取り部44が形成され、第2のガスケット基板41の内周面41bを面取り部44の傾斜面内の上方に位置させたので、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する第2のガスケット基板41の内周面41bとシリンダボア14の上面とによって段差が形成されるのを確実に防止することができる。
【0052】
また、シリンダボア14の上部に形成された面取り部44に凝縮水が付着した場合に、この凝縮水を面取り部44の傾斜面に沿ってシリンダボア14内に滴下させることができる。このため、凝縮水がシリンダボア壁35の傾斜方向下方側の上面に溜まるのをより一層防止することができ、シリンダボア壁35の上面が腐食してしまうのをより一層防止することができる。
【0053】
なお、本実施の形態では、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔43を構成する第2のガスケット基板41の内周面41bが、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔43を構成する内周面41cよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出しているが、これに限定されるものではない。
【0054】
例えば、図6に示すように、第1のガスケット基板40、第2のガスケット基板41およびインナーシム42において、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔43を構成するそれぞれの内周面40b、41b、42cがシリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔43を構成するそれぞれの内周面40c、41c、42dよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出するようにしてもよい。
【0055】
(第2の実施の形態)
図7〜図11は、本発明に係るシリンダヘッドガスケットの第2の実施の形態を示す図である。
【0056】
なお、本実施の形態では、シリンダヘッドガスケットをFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両に適用したものであり、本実施の形態のエンジン11は、第1の実施の形態のエンジン11のシリンダボア14が車両の前後方向と直交する車両の幅方向に配列されている点と、シリンダヘッドガスケットの構成が第1の実施の形態と異なる。したがって、シリンダヘッドガスケット以外のエンジン11の構成は、第1の実施の形態と同一の番号を付して説明を行う。
【0057】
また、図7に示すように、本実施の形態のエンジン11は、エンジン11を搭載する車両のボンネットを低くするために、シリンダブロック12の上面を水平面Eに対して後方(車両の後側)に傾斜させるようにしている。具体的には、エンジン11は、シリンダボア14の中心軸Oが鉛直軸Lに対して後方に傾斜している。
【0058】
図8〜図10に示すシリンダヘッドガスケット51は、シリンダヘッド13側に設けられた第1のガスケット基板52とシリンダブロック12側に設けられた第2のガスケット基板53と、第1のガスケット基板52と第2のガスケット基板53との間に介装されるインナーシム54とが積層されることによって構成されている。
【0059】
このシリンダヘッドガスケット51には、シリンダボア14を取り囲むようにしてシリンダボア14および燃焼室16に連通する燃焼室孔55が形成されており、図10に示すように、インナーシム54の半径方向両端部には折り曲げ部54a、54bが形成されている。
また、第1のガスケット基板52および第2のガスケット基板53には、インナーシム54側に突出する環状突出部52a、53aが形成されており、この環状突出部52a、53aは、シリンダボア14を取り囲むようにしてシリンダボア14の半径方向外方に設けられている。
【0060】
このため、シリンダヘッドガスケット51がシリンダブロック12とシリンダヘッド13との間に介装されたときに、第1のガスケット基板52の環状突出部52aと第2のガスケット基板53の環状突出部53aとが撓むことにより、ウォータジャケット38からの冷却水がシリンダボア14に漏出すること等を防止している。
これに加えて、シリンダブロック12とシリンダヘッド13との間での開きに対する追従性を高めることができ、エンジン11の高性能化に伴って燃焼圧を高く設定することができる。
【0061】
また、図10に示すように、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔55の内周面55aは、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔55の内周面55bよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出している。
【0062】
本実施の形態では、シリンダヘッドガスケット31の最下層の第2のガスケット基板53において、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔55を構成する内周面53bが、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔55を構成する内周面53cよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出している。
【0063】
このため、本実施の形態の第2のガスケット基板53は、図9に示すように、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する内周面53bが直線形状となっているのに対して、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する内周面53cが湾曲形状となっている。
なお、図9において、内周面53cは、第2のガスケット基板53の内周面53cを指しているものであり、内周面53cは、第2のガスケット基板53の上方に位置するインナーシム54の内周面および第1のガスケット基板52の内周面に対して中心軸O方向において同一面上に位置している。
【0064】
また、図9に示すように、第2のガスケット基板53の内周面53bにおいてシリンダボア14の中心軸Oに最も突出している突出端面53dからシリンダボア14の中心軸Oまでの距離は、シリンダボア14の半径よりも大きくなっており、第2のガスケット基板53の内周面53bがピストン15に衝突することはない。
【0065】
また、シリンダボア14の上端内周面には面取り部44が形成されており、この面取り部44は、シリンダボア14の上端内周面からシリンダボア14の中心軸Oに向かって下方に傾斜している。
【0066】
本実施の形態の第2のガスケット基板53の内周面53bは、面取り部44の傾斜面内の上方に位置しており、シリンダボア14の上面と第2のガスケット基板53の内周面53bとによって従来のような段差が形成されていない。
【0067】
以上のように、本実施の形態のシリンダヘッドガスケット51は、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する第2のガスケット基板53の燃焼室孔55を構成する内周面53bを、シリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔55を構成する内周面53cよりもシリンダボア14の中心軸側に突出させたので、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する第2のガスケット基板53の内周面53bとシリンダボア14の上面とによって段差が形成されるのを防止することができる。
【0068】
このため、上面が水平面Eに対して傾斜するようにして設置されたシリンダブロック12を有し、アルコール燃料により駆動されるエンジン11にシリンダヘッドガスケット51を適用した場合に、水や酸性物質が冷却されることによって発生する凝縮水がシリンダボア壁35の傾斜方向下方側の上面に溜まるのを防止することができ、シリンダボア壁35の上面が腐食してしまうのを防止することができる。
【0069】
このため、シリンダヘッドガスケット51によるシール性が悪化してしまうのを防止することができる。この結果、エンジン11の燃焼圧が低下すること等を防止してエンジン11の性能が悪化してしまうのを防止することができる。
【0070】
また、本実施の形態では、シリンダボア14が、シリンダボア14の上端内周面からシリンダボア14の中心軸Oに向かって下方に傾斜する面取り部44を有し、第2のガスケット基板53の内周面53bを面取り部44の傾斜面内の上方に位置させたので、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する第2のガスケット基板53の内周面53bとシリンダボア14の上面とによって段差が形成されるのを確実に防止することができる。
【0071】
また、面取り部44に凝縮水が付着した場合に、この凝縮水を面取り部44の傾斜面に沿ってシリンダボア14内に滴下させることができるため、凝縮水がシリンダボア壁35の傾斜方向下方側の上面に溜まるのをより一層防止することができ、シリンダボア壁35の上面が腐食してしまうのをより一層防止することができる。
【0072】
なお、本実施の形態にあっても、図11に示すように、第1のガスケット基板52、第2のガスケット基板53およびインナーシム54において、シリンダブロック12の傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔55を構成するそれぞれの内周面52b、53b、54cがシリンダブロック12の傾斜方向上方側に位置する燃焼室孔43を構成するそれぞれの内周面52c、53c、54dよりもシリンダボア14の中心軸O側に突出するようにしてもよい。
また、上記各実施の形態では、シリンダヘッドガスケット31、51を三層構造から構成しているが、単層以上のシリンダヘッドガスケットであれば、何でもよい。
また、上記各実施の形態では、直列4気筒エンジンにシリンダヘッドガスケット31、51を適用しているが、直列3気筒エンジン、直列5気筒以上のエンジン、あるいは、V型エンジンに適用してもよい。
V型エンジンに適用する場合には、V型エンジンのシリンダブロックを構成する右バンクおよび左バンクの傾斜方向下方側に位置するシリンダヘッドガスケットの燃焼室孔の内周面が、傾斜方向上方側に位置するシリンダヘッドガスケットの燃焼室孔の内周面よりもシリンダボアの中心軸側に突出するようにすればよい。
【0073】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0074】
以上のように、本発明に係るシリンダヘッドガスケットは、シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する燃焼室孔の内周面とシリンダブロックの上面との間に凝縮水が溜まるのを防止して、シリンダブロックの上面が腐食するのを防止することができ、シリンダブロックとシリンダヘッドとのシール性能が悪化するのを防止することができるという効果を有し、内燃機関を構成するシリンダブロックとシリンダヘッドの間に介装されたシリンダヘッドガスケット等として有用である。
【符号の説明】
【0075】
12 シリンダブロック
13 シリンダヘッド
14 シリンダボア
31、51 シリンダヘッドガスケット
41b、41c、52b、52c 内周面
43、55 燃焼室孔
44 面取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダボアを有し、上面が水平面に対して傾斜するようにして設置されたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの上面に載置されたシリンダヘッドとの間に挟持され、前記シリンダボアに対向する位置に前記シリンダボアを取り囲むようにして燃焼室孔が形成されたシリンダヘッドガスケットであって、
前記複数のシリンダボアを取り囲むそれぞれの前記燃焼室孔は、前記シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する前記燃焼室孔の内周面が、前記シリンダブロックの傾斜方向上方側に位置する前記燃焼室孔の内周面よりも前記シリンダボアの中心軸側に突出することを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
前記シリンダブロックの傾斜方向下方側に位置する前記燃焼室孔の内周面が、前記シリンダボアの上端内周面から前記シリンダボアの中心軸に向かって下方に傾斜する面取り部の傾斜面内の上方に位置することを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−241945(P2011−241945A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116432(P2010−116432)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】