説明

シリンダーの洗浄方法、およびシリンダーの洗浄装置

【課題】付着物をより確実に除去することが可能なシリンダーの洗浄方法を提供すること。
【解決手段】表面に電子写真感光体用の堆積膜を形成することが可能なシリンダーを洗浄する方法であって、シリンダー101の長軸の周りでシリンダー101を回転させながら、洗浄液を、シリンダー101の長軸方向の全長hに等しい長さのスリット形状の噴射位置から長軸と垂直にかつシリンダー101の表面の接線方向に向けて噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
表面に電子写真感光体用の堆積膜を形成することが可能なシリンダーを洗浄する方法および装置に関し、特に、シリンダーの表面に付着した付着物を除去するために洗浄液を噴射するシリンダーの洗浄方法、およびシリンダーの洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやアルミニウム合金からなり、表面にアモルファスシリコン系の電子写真感光体用の堆積膜を気相成長法にて形成することが可能なシリンダーは、通常、該電子写真感光体用の堆積膜が形成される前に切削加工される。切削加工が実施されると、シリンダーの表面には、切削加工時に使用された切削油や切削加工時で発生した金属粉が付着する。
【0003】
切削油や金属粉が付着したシリンダーの表面に電子写真感光体用の堆積膜が形成されると、画像欠陥が生じる。そこで、電子写真感光体用の堆積膜が形成される前には、一般的に、シリンダーを洗浄する処理が行われる。具体的には、シリンダーの表面に付着した付着物(切削油および金属粉)を除去する処理が行われる。付着物を除去する方法が、特許文献1および特許文献2に提案されている。
【0004】
特許文献1には、シリンダーの表面(外周面)の接線方向に向けて洗浄液をスプレー状に噴射するノズルを用いて付着物を除去する方法が開示されている。特許文献1に開示された方法では、シリンダーが回転し、かつノズルがシリンダーの長軸方向に移動しながら洗浄液を噴射することで、シリンダーの表面全体が洗浄される。
【0005】
特許文献2には、スリット形状のノズルからシリンダーの表面(外面)および裏面(内面)へ洗浄液をフィルム状にして連続的に噴射して付着物を除去する方法が開示されている。特許文献2に開示された方法でも、特許文献1に開示された方法と同様に、シリンダーが回転し、ノズルがシリンダーの長軸方向に移動しながら洗浄液を噴射することで、シリンダーの表面全体が洗浄される。
【特許文献1】特開平1−130159号公報
【特許文献2】特開平7−20643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された方法のように洗浄液をスプレー状に噴射するノズルを用いる場合、図5(a)および図5(b)に示すように、ノズル502がシリンダー501の表面へ噴射した洗浄液は、鉛直方向および水平方向に広がりを持つ。すると、図6に示すように、水撃力がスプレー幅の両端で弱くなり不均一となる。そのため、シリンダー501の表面において、付着物が水撃力の弱い箇所で除去されない、あるいは付着物が水撃力の弱い方向へ掃き寄せられる可能性がある。これにより、洗浄液を噴射しても付着物がシリンダーの表面に数多く残される場合が想定される。
【0007】
また、特許文献1および特許文献2にそれぞれ開示された方法のようにノズルがシリンダーの長軸方向に移動しながら洗浄液を噴射する場合、ノズルの移動方向と反対方向に付着物が掃き寄せられる可能性がある。これにより洗浄液を噴射しても付着物がシリンダーの表面に数多く残される場合が想定される。
【0008】
付着物が数多く残された状態でシリンダーの表面に電子写真感光体用の堆積膜が形成されると、画像欠陥の多い電子写真となってしまう。近年、画像欠陥に対する市場の要求レベルは日々高まっており、この要求レベルに応えるために、付着物をより確実に除去できるシリンダーの洗浄方法が求められている。
【0009】
本発明は、付着物をより確実に除去することが可能なシリンダーの洗浄方法、およびシリンダーの洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明によるシリンダーの洗浄方法は、
表面に電子写真感光体用の堆積膜を形成することが可能なシリンダーを洗浄する方法であって、
前記シリンダーの長軸の周りで前記シリンダーを回転させながら、洗浄液を、前記シリンダーの長軸方向の全長に等しい長さのスリット形状の噴射位置から前記長軸と垂直にかつ前記シリンダーの前記表面の接線方向に向けて噴射する。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明によるシリンダーの洗浄装置は、
表面に電子写真感光体用の堆積膜を形成することが可能なシリンダーを洗浄する装置であって、
前記シリンダーの長軸の周りで前記シリンダーを回転させる回転部と、
前記回転部が前記シリンダーを回転させるときに、洗浄液を、前記シリンダーの長軸方向の全長に等しい長さのスリット形状の噴射口から前記長軸と垂直にかつ前記シリンダーの表面の接線方向に向けて噴射するノズルと、
を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリンダーの表面に付着した付着物がより確実に除去されることとなる。これにより、画像欠陥の少ない電子写真感光体用の堆積膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の洗浄装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の洗浄装置の一実施形態の構成を示す図である。
【0015】
本実施形態の洗浄装置は、図1(a)に示すように、シリンダー101を洗浄する装置であり、ノズル102と、回転部103と、洗浄液供給管104と、洗浄液供給ポンプ105と、を有する。本実施形態の洗浄装置では、洗浄液供給ポンプ105より洗浄液供給管104を介して導入された洗浄液を、ノズル102がシリンダー101の表面へ噴射する。
【0016】
まず、ノズル102について説明する。
【0017】
ノズル102は、洗浄液を噴射する際、図1(a)、(b)に示すように、シリンダー101の長軸方向の全長に等しい長さのスリット形状をした噴射口(噴射位置)からシリンダー101の長軸と垂直にかつシリンダー101の表面の接線方向に向けて噴射する。シリンダー101の表面の接線方向に向けて洗浄液を噴射するとは、図1(c)に示すように、端部108が洗浄部106の接線方向であるということを示す。
【0018】
図1(c)において、端部108は、洗浄液の噴射幅106の両端のうちシリンダー101側の端部を示す。また、洗浄部106は、シリンダー101の表面のうち、洗浄液の噴射を受ける位置を示す。また、距離dは、ノズル102と洗浄部106との距離を示す。
【0019】
本実施形態では、距離dは、洗浄液の水撃力が洗浄部106において不均一にならないこと、およびシリンダー101の回転に伴い回転軸が偏位したときにシリンダー101がノズル102に接触しないことを要件として定めればよい。具体的には、距離dの範囲は、10mm以上300mm以下であることが望ましい。
【0020】
なお、本実施形態では、ノズル102には、位置検出手段(不図示)で検出された回転部103およびノズル102の位置をそれぞれ示す信号が入力される。ノズル102は、入力された信号に基づいて、距離dが上述した範囲内になるように移動可能とされ、更に洗浄液の噴射方向が上述した方向に向くように調整可能とされている。
【0021】
図2は、ノズル102の形状の例を示す図である。
【0022】
ノズル102は、洗浄液を噴射する噴射口が図2(a)または図2(b)に示すようなスリット形状をしている。図2(a)、図2(b)にそれぞれ示すノズル201およびノズル202の噴射口の全長Hは、図1(a)に示すシリンダー101の長軸方向の全長hに等しい。
【0023】
噴射口の幅Wは、付着物を除去するのに十分な水撃力で洗浄液を噴射できること、および洗浄液の水撃力が均一になることを要件として定めればよい。具体的には、噴射口の幅Wの範囲は、0.5mm以上10mm以下であることが望ましい。
【0024】
噴射口の深さLは、洗浄液の噴射時の広がりを抑えること、および水撃力の鉛直方向の成分が不均一にならないことを要件として定めればよい。具体的には、噴射口の深さLの範囲は、3mm以上70mm以下であることが望ましい。深さLをこの範囲内にすることによって、水撃力が均一化された洗浄液の噴射が可能となる。
【0025】
なお、本発明では、ノズル102の噴射口の形状は、特にスリット形状に限定されず、洗浄液の広がりを抑え、かつ均一な水撃力で洗浄液を噴射できる形状であればよい。
【0026】
次に、回転部103について説明する。
【0027】
回転部103は、シリンダー101の長軸の周りでシリンダー101を回転させる。このとき、シリンダー101は、長軸が鉛直方向になるように支持された状態となっている。回転部103回転方向は、付着物を確実に除去するために、洗浄部106において洗浄液の噴射方向と対向する向きであることが望ましい。
【0028】
回転速度は、洗浄液で吹き飛ばされた付着物がシリンダー101の表面に再付着しないこと、および付着物を十分除去できることを要件として定めればよい。具体的には、回転速度の範囲は、80mm/秒以上570mm/秒以下であることが望ましい。
【0029】
本発明では、図3に示すように、回転部303がシリンダー301を回転させるとき、シリンダー301は長軸が水平になるように支持された状態となっていてもよい。なお、シリンダー301は、シリンダー101と同様な構成であり、ノズル302はノズル102と同様な構成である。図3に示す形態で洗浄液を噴射すると、図1に示す形態で洗浄液を噴射するときよりも、除去された付着物の再付着および洗浄液の飛び散りを抑えることが可能となる。
【0030】
次に、洗浄液供給管104および洗浄液供給ポンプ105について説明する。
【0031】
洗浄液供給管104は、洗浄液供給ポンプ105から送り出された洗浄液を分流させて複数の箇所からノズル102に導入する構造となっている。このような構造とすることによって、ノズル102から水撃力が均一化された洗浄液が噴射されることとなる。
【0032】
洗浄液供給ポンプ105は、所定の圧力で洗浄液を洗浄液供給管104へ送り出す。所定の圧力は、噴射圧力(ノズル102から噴射される洗浄液の圧力)が0.3MPa以上5Mpa以下の範囲内であり、かつ洗浄液の流量が1リットル/分以上200リットル/分以下の範囲内となるように調節されることが望ましい。上述した洗浄液の圧力の範囲は、シリンダーの表面を傷つけることなく、付着物を十分除去できる範囲に基づいて定められる。また、上述した洗浄液の流量の範囲は、経済性を考慮して付着物を十分除去できる範囲に基づいて定められる。
【0033】
本発明では、洗浄液供給ポンプ105ポンプで汲み上げた洗浄水を高圧空気と混合した後、空気の圧力でノズル102から洗浄液を噴射させることとしてもよい。ただし、この場合にも、洗浄液は、上述した条件で噴射されることとする。
【0034】
次に、洗浄液について説明する。
【0035】
洗浄液は、純水あるいは二酸化炭素を溶解した純水が望ましい。純水に関しては、水質が非常に重要であり、半導体グレードの純水、特に超LSIグレードの超純水が望ましい。具体的には、水温25℃の抵抗率について、下限値が1MΩ・cm以上で、上限値が理論抵抗値(18.25MΩ・cm)以下であればよい。生産性を考慮すると上限値は17MΩ・cm以下であることが望ましい。好ましい範囲は、下限値が3MΩ・cm以上で、上限値が15MΩ・cm以下である。最適な範囲は、下限値が5MΩ・cm以上で、上限値が13MΩ・cm以下である。
【0036】
二酸化炭素を溶解した純水の場合、溶解する二酸化炭素の量は、導電率では2μS/cm以上40μS/cm以下であればよい。好ましい範囲は、4μS/cm以上30μS/cm以下である。より好ましい範囲は、6μS/cm以上25μS/cm以下である。なお、導電率の数値は、導電率計で測定し、温度補正により25℃に換算した値を用いている。
【0037】
また、二酸化炭素を水に溶解する方法は、バブリングによる方法、隔膜を用いる方法が好ましい。
【0038】
本発明では、洗浄液は、超音波を照射した状態で噴射されることが付着物を除去する上で有効である。超音波照射された洗浄液を噴射するには、例えば、ノズル102の側面からノズル102内部の洗浄液に超音波照射を行う構成を追加すればよい。なお、超音波の周波数は、シリンダー101の表面が損傷しないこと、および比較的大きな付着物を除去できることを要件として定めればよい。具体的には、超音波の周波数の範囲は、100Hz以上10MHz以下であることが望ましい。
【0039】
次に、本実施形態の洗浄装置が実行する洗浄工程の前後に行われる工程について説明する。
【0040】
図4は、本実施形態の洗浄装置が実施する洗浄工程の前後に行われる工程を説明する
ための図である。
【0041】
洗浄対象であるシリンダー401は、まず、切削工程が終了すると投入用部材407に配置される。次に、シリンダー401は、搬送レール410に従って移動するチャッキング機構409によって脱脂洗浄槽405内へ移動させられる。脱脂洗浄槽405では、脱脂工程が実行される。ここで、脱脂工程について詳しく説明する。
【0042】
脱脂洗浄槽405には、界面活性剤水溶液410が貯められている。シリンダー401を界面活性剤水溶液410に浸漬させることによって、シリンダー401の表面に付着した油脂が除去される。
【0043】
界面活性剤水溶液410で溶解される界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、またはそれらを混合したもののいずれかであればよい。本発明では、界面活性剤水溶液410で溶解される界面活性剤は、特に、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩等の陰イオン性界面活性剤、または脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤であることが望ましい。
【0044】
界面活性剤の濃度は、シリンダー401の表面に付着した油脂を十分除去できること、および界面活性剤水溶液410の液跡であるシミで電子写真感光体用の堆積膜が剥がれないこと要件として定めればよい。具体的には、界面活性剤の濃度の範囲は、0.1%以上20%以下であればよい。好ましい範囲は1%以上10%以下である。最適な範囲は2%以上8%以下である。
【0045】
界面活性剤水溶液410の界面活性剤のpH(水素イオン指数)は、シリンダー401の表面に付着した油脂を十分除去できること、および界面活性剤水溶液410の液跡であるシミで電子写真感光体用の堆積膜が剥がれないこと要件として定めればよい。具体的には、界面活性剤のpHの範囲は、8以上12.5以下であればよい。好ましい範囲は、9以上12以下である。最適な範囲は10以上11.5以下である。
【0046】
また、界面活性剤を溶解する水の水質は、特に制限されるものではないが、半導体グレードの純水、特に超LSIグレードの超純水が望ましい。
【0047】
また、界面活性剤水溶液410の水温は、シリンダー401の表面に付着した油脂を十分除去できること、および界面活性剤水溶液410の液跡であるシミで電子写真感光体用の堆積膜が剥がれないこと要件として定めればよい。具体的には、界面活性剤水溶液410の水温の範囲は、10℃以上60℃以下であることが望ましい。好ましい範囲は15℃以上50℃以下である。最適な範囲は20℃以上40℃以下である。
【0048】
脱脂工程が終了すると、シリンダー401は、チャッキング機構409によってすすぎ槽405へ移動させられる。すすぎ槽405では、シリンダー401の洗浄工程が実行される。なお、上述したノズル102および回転部103と同様な構成であるノズル402および回転軸403は、すすぎ槽405の内部に配置されている。
【0049】
洗浄工程が終了すると、シリンダー401は、チャッキング機構409によって乾燥槽406に移動させられる。乾燥槽406では、乾燥工程が実行される。ここで、乾燥工程について詳しく説明する。
【0050】
乾燥槽406には、温純水412が貯められている。シリンダー401を温純水412に浸漬させて所定の時間をかけて引き上げることによって、シリンダー401が乾燥させられる。
【0051】
温純水412は、二酸化炭素を溶解した温純水を用いることが好ましい。また、温純水412の水温の範囲は、30℃以上90℃以下であればよい。好ましい範囲は35℃以上80℃以下である。最適な範囲は40℃以上70℃以下である。
【0052】
乾燥工程が終了すると、シリンダー401は、チャッキング機構409によって取り出し用部材408の上に配置される。
【0053】
以下に、本発明の4つの実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
本実施例について、図4を参照しながら説明する。
【0055】
本実施例では、シリンダー401は、アルミニウムの純度が99.95%であり、長軸方向の全長hが381mmである。
【0056】
まず、100本のシリンダー401について切削工程が実施される。ここで本実施例の切削工程の内容について詳しく説明する。
【0057】
シリンダー401は、精密切削用のエアダンパー付旋盤(PNEUMO PRECLUSION INC.製)(不図示)の回転フランジに真空チャックされる。旋盤にはダイヤモンドバイト(商品名:ミラクルバイト、東京ダイヤモンド製)が取り付けられる。その後、ノズルが切削油を噴霧するとともに、真空ノズルが金属粉(切り粉)を吸引している状態で、シリンダー401の外径が84mmになるまで鏡面切削が実施される。ノズルおよび真空ノズルは、旋盤に付設されている。切削条件は、周速が1000m/分であり、送り速度が0.01mm/回転である。
【0058】
切削加工が終了したシリンダー401は、投入用部材407の上に配置される。その後、シリンダー401がチャッキング機構401によって脱脂洗浄槽404に移動させられて、脱脂工程が実施される。本実施例では、シリンダー401は、脱脂洗浄槽404において界面活性剤水溶液411に2分間浸漬される。
【0059】
脱脂工程が終了すると、シリンダー401はチャッキング機構401によってすすぎ槽405に移動させられて洗浄工程が実施される。ここで、本実施例の洗浄工程について詳しく説明する。
【0060】
シリンダー401が回転部403に配置されると、ノズル402は、自身とシリンダー401との距離dが50mmとなるように移動する。その後、ノズル402は、噴射口の向きをシリンダー401の表面の接線方向に調整する。
【0061】
なお、本実施例では、ノズル402には、噴射口が図2(a)に示すスリット形状のものを用いる。また、噴射口の寸法については、深さLが15mm、幅Wが2mm、全長Hが381mmとする。
【0062】
ノズル402の噴射口の向き調整が終了すると、洗浄液がノズル402に導入される。本実施例では、図1(a)に示すように、ノズル402には、洗浄液が、洗浄液供給ポンプ105から洗浄液供給管104を介して8箇所から導入される。
【0063】
シリンダー401に洗浄液が導入されると、回転部403がシリンダー401を周速150mm/秒で回転させるとともに、ノズル402が洗浄液を噴射圧力2MPaで30秒間噴射する。本実施例では、回転部403は、シリンダー401の回転方向が、洗浄部413において洗浄液の噴射方向と対向するように回転させる。また、本実施例では、二酸化炭素を溶解させた純水を洗浄液として使用する。本実施例の洗浄条件は、表1に示されている。
【0064】
【表1】

【0065】
洗浄工程が終了すると、シリンダー401はチャッキング機構401によって乾燥槽406に移動させられて乾燥工程が実施される。ここで、本実施例の乾燥工程について詳しく説明する。
【0066】
シリンダー401は、乾燥槽406において、二酸化炭素を溶解させた50℃の温純水412に20秒間浸漬される。その後、シリンダー401は、60秒かけて引き上げられることで乾燥状態となる。乾燥工程が終了すると、シリンダー401は、チャッキング機構401によって取り出し用部材408の上に移動させられる。
【0067】
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同様に100本のシリンダー401について、切削工程、脱脂工程、洗浄工程、および乾燥工程をそれぞれ実施する。本実施例では、洗浄工程以外の工程については、実施例1と同様であるため説明を省略する。本実施例の洗浄工程について説明する。
【0068】
本実施例では、すすぎ槽405において、シリンダー401は、長軸が鉛直方向から垂直方向に90°回転させられ、図3に示すような状態で支持されて洗浄される。
【0069】
本実施例では、ノズル402は、実施例1と同様に噴射口が図2(a)に示すスリット形状のものを用いる。また、噴射口の寸法については、実施例1と同様に深さLが15mm、幅Wが2mm、全長Hが381mmとする。また、本実施例では、シリンダー401の回転方向は、実施例1と同様に洗浄部413において洗浄液の噴射方向と対向する向きとする。本実施例の洗浄条件も、表1に示されている。
【0070】
(実施例3)
本実施例では、実施例1と同様に100本のシリンダー401について、切削工程、脱脂工程、洗浄工程、および乾燥工程をそれぞれ実施する。本実施例では、洗浄工程以外の工程については、実施例1と同様であるため説明を省略する。本実施例の洗浄工程について説明する。
【0071】
本実施例では、すすぎ槽405において、シリンダー401は、実施例1と同様に長軸が鉛直方向となる状態で支持されて洗浄される。ノズル402には、噴射口が図2(b)に示すスリット形状のものを用いる。また、噴射口の寸法については、深さLが30mm、幅Wが3mm、全長Hが381mmとする。また、本実施例では、シリンダー401の回転方向は、実施例1と同様に洗浄部413において洗浄液の噴射方向と対向する向きとする。本実施例の洗浄条件も、表1に示されている。
【0072】
(実施例4)
本実施例では、実施例1と同様に100本のシリンダー401について、切削工程、脱脂工程、洗浄工程、および乾燥工程をそれぞれ実施する。本実施例では、洗浄工程以外の工程については、実施例1と同様であるため説明を省略する。本実施例の洗浄工程について説明する。
【0073】
本実施例では、すすぎ槽405において、シリンダー401は、実施例2と同様に長軸が鉛直方向から垂直方向に90°回転させられ、図3に示すような状態で支持されて洗浄される。
【0074】
本実施例では、ノズル402には、実施例1と同様に噴射口が図2(a)に示すスリット形状のものを用いる。また、噴射口の寸法については、実施例1と同様に深さLが15mm、幅Wが2mm、全長Hが381mmとした。本実施例では、シリンダー401の回転方向は、洗浄部413において洗浄液の噴射方向と同じ向きとする。本実施例の洗浄条件も、表1に示されている。
【0075】
(比較例)
比較例では、実施例1と同様に100本のシリンダー401について、切削工程、脱脂工程、洗浄工程、および乾燥工程をそれぞれ実施する。比較例では、洗浄工程以外の工程については、実施例1と同様であるため説明を省略する。比較例の洗浄工程について説明する。
【0076】
比較例では、図5(a)に示すような洗浄液をスプレー状にして噴射するノズル502を用いる。
【0077】
比較例では、シリンダー401が回転部403に配置されると、ノズル502は、自身とシリンダー401との距離dが40mmとなるように移動する。その後、ノズル502は、噴射口の向きをシリンダー401の表面の接線方向に調整する。
【0078】
続いて、回転部403がシリンダー401を周速300mm/秒で回転させるとともに、ノズル502がシリンダー401の上端から15mm/秒の移動速度で下降しながら洗浄液を噴射圧力2MPaで30°の広がりで噴射する。シリンダー401の回転方向は、実施例1と同様に洗浄部413において洗浄液の噴射方向と対向する向きとする。比較例の洗浄条件も表1に示されている。
【0079】
実施例1〜実施例4、および比較例で洗浄したシリンダー合計1000本について、付着物の検査を以下の方法で行った。
【0080】
(1)顕微鏡による付着物(金属粉、有機物)検査
乾燥工程が終了したシリンダーの表面を、光学顕微鏡(製品名STM‐UM、オリンパス社製)を用いて自動で全面スキャンし、5μm以上の金属粉、有機物からなる付着物の数を数えた。
【0081】
(2)顕微鏡による付着物(油脂)検査
乾燥工程が終了したシリンダーを墨汁に浸漬させて取り出した後、表面を目視および光学顕微鏡(製品名STM‐UM、オリンパス社製)を用いて自動で全面スキャンし、墨汁付着の無い箇所、すなわち油脂が残っている箇所の数を数えた。
【0082】
上記2つの検査について、以下のような評価を行った。
【0083】
比較例で得られた値を基準として、30%以上の良化はAA、10%以上30%未満の良化はA、10%未満の良化はB、悪化はCとして検査ごとに表2に示した。
【0084】
【表2】

【0085】
(3)総合判定
上記2つの検査結果について、AAランクが3点、Aランクが2点、Bランクが1点、Cランクが0点とした。そして、以下に定めるように、合計した得点に応じて総合判定を決定し、表2に示した。
AA…6点以上のもの(非常に優れている)
A…4点以上5点以下のもの(優れている)
B…2点以上3点以下のもの(良好)
C…1点以下のもの(実用上問題なし)
表2では、実施例1または実施例3に記載したシリンダーの洗浄方法が、比較例に記載したシリンダーの洗浄方法よりも、付着物の数が少ないことが示されている。これは、シリンダーの長軸の全長に等しい長さのスリット形状の噴射口から洗浄液を噴射することで、洗浄液の水撃力が均一になり、ノズルを移動させることなくシリンダーを洗浄できるからである。これにより、シリンダーの表面を洗浄する際に付着物が掃き寄せられることがなくなる。
【0086】
上記の通り、シリンダーの表面は付着物がより確実に除去された状態となるため、画像欠陥の少ない電子写真感光体用の堆積膜を形成することが可能となる。
【0087】
また、表2では、実施例2に記載したシリンダーの洗浄方法が、実施例1に記載したシリンダーの洗浄方法よりも付着物の数が少ないことが示されている。これにより、シリンダーの長軸を鉛直ではなく水平にした方が、より確実に付着物を除去できるようになる。
【0088】
また、表2では、実施例2に記載したシリンダーの洗浄方法が、実施例4に記載したシリンダーの洗浄方法よりも付着物の数が少ないことが示されている。これにより、シリンダーの回転方向は、洗浄液の噴射を受ける位置において洗浄液の噴射方向と同じ向きではなく対向する向きにした方が、より確実に付着物が除去されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の洗浄装置の一実施形態の構成を示す図である。(a)は本実施形態の洗浄装置がシリンダーを洗浄する形態を示す側面図である。(b)は、本実施形態の洗浄装置がシリンダーを洗浄する形態を示す上面図である。(c)は(b)に示す上面図においてシリンダーの洗浄箇所を拡大した拡大図である。
【図2】本発明の洗浄装置を構成するノズルの形状の例を示す図である。(a)はノズルの形状の一例を示す図である。(b)はノズルの形状の他の一例を示す図である。
【図3】シリンダーの長軸が水平になるようにシリンダーが支持された状態を示す図である。
【図4】本実施形態の洗浄装置が実施する洗浄工程の前後に行われる工程を説明するための図である。
【図5】洗浄液をスプレー状に噴射するノズルを用いてシリンダーを洗浄する形態の一例を示す図である。(a)は洗浄液をスプレー状に噴射するノズルでシリンダーを洗浄する形態を示す側面図である。(b)は、洗浄液をスプレー状に噴射するノズルでシリンダーを洗浄する形態を示す上面図である。
【図6】図5に示す形態でシリンダーを洗浄した場合の水撃力の特性の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
101、301、401、501 シリンダー
102、201、202、302、402、502 ノズル
103、303、403 回転部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に電子写真感光体用の堆積膜を形成することが可能なシリンダーを洗浄する方法であって、
前記シリンダーの長軸の周りで前記シリンダーを回転させながら、洗浄液を、前記シリンダーの長軸方向の全長に等しい長さのスリット形状の噴射位置から前記長軸と垂直にかつ前記シリンダーの前記表面の接線方向に向けて噴射する、シリンダーの洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダーの洗浄方法において、
前記シリンダーの回転方向が、前記シリンダーの前記洗浄液の噴射を受ける位置において前記洗浄液の噴射方向と対向するように定められている、シリンダーの洗浄方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシリンダーの洗浄方法において、
前記シリンダーの前記長軸が水平になるように前記シリンダーを支持した状態で前記シリンダーを回転させる、シリンダーの洗浄方法。
【請求項4】
表面に電子写真感光体用の堆積膜を形成することが可能なシリンダーを洗浄する装置であって、
前記シリンダーの長軸の周りで前記シリンダーを回転させる回転部と、
前記回転部が前記シリンダーを回転させるときに、洗浄液を、前記シリンダーの長軸方向の全長に等しい長さのスリット形状の噴射口から前記長軸と垂直にかつ前記シリンダーの表面の接線方向に向けて噴射するノズルと、
を有する、シリンダーの洗浄装置。
【請求項5】
請求項4に記載のシリンダーの洗浄装置において、
前記回転部は、前記シリンダーの回転方向が、前記シリンダーの前記洗浄液を受ける位置において前記洗浄液の噴射方向と対向するように前記シリンダーを回転させる、シリンダーの洗浄装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のシリンダーの洗浄装置において、
前記回転部は、前記シリンダーの前記長軸が水平になるように前記シリンダーを支持した状態で前記シリンダーを回転させる、シリンダーの洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−164696(P2010−164696A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5734(P2009−5734)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】