説明

シリンダ保護カバー

【課題】ピストンロッドの伸長時に外気が吸い込まれるシリンダ保護カバーにおいて、ピストンロッドに付着する粉塵等の異物がシリンダチューブ内に侵入するのを防止する。
【解決手段】可撓性シート14は、外径が同じで、内径がピストンロッド22の外径より大きい大孔径シート14Lと、ピストンロッド22の外径より小さい小孔径シート14Sとから構成され、内周側,外周側の縫い合わせ部を交互に繰り返すことによって、蛇腹構造となったカバー部本体11が構成されて、谷折れ部となる内周側の縫い合わせ部17Vから小孔径シート14Sが内側に張り出してワイピング部18が形成されており、このワイピング部18はピストンロッド22の伸縮に応じて、カバー部本体11が伸縮する際に、ピストンロッド22の外面に対して摺動して、異物の除去が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式作業機械等に設けられる油圧シリンダや、各種の機械に装着される空気圧シリンダ等からなるシリンダに装着されて、シリンダチューブからピストンロッドを導出させた部位を保護するためのシリンダ保護カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧式作業機械として、例えば油圧ショベルは、土砂の掘削等の作業を行う作業手段を備えており、この作業手段の作動は油圧シリンダにより行われる。油圧シリンダはシリンダチューブからピストンロッドを導出させて設けたものである。この油圧シリンダは、そのシリンダチューブのボトム側端部と、ピストンロッドの先端部とのいずれか一方を可動側部材に取り付け、他方を固定側に取り付けるようにして装着されることになる。シリンダチューブ内はピストンロッドに連結したピストンによりロッド室とボトム室とに区画形成されており、これらロッド室またはボトム室に圧油を供給することによって、ピストンロッドを伸縮させることによって、それに連結した可動側部材が駆動される。
【0003】
油圧ショベルは野外で稼動して土砂の掘削等の作業を行うものであり、この作業を実行する作業手段を駆動する油圧シリンダには塵埃、例えば粉塵その他の異物が付着し、また岩石等の飛来物やコンクリート等の構築物、その他の物体と衝突する可能性がある。油圧シリンダのピストンロッドに塵埃等が付着したままで伸縮すると、微小な粒子がシリンダチューブ内に入り込むおそれがあり、またピストンロッドへの衝突物により表面が損傷する可能性もある。特に、ピストンロッドの表面が僅かでも損傷すると、油圧ショベルの作動時にピストンロッドが摺動するシリンダチューブのシール部材を損傷させることになり、さらにシリンダチューブ内の作動油を汚損し、また損傷部分から錆が発生する等といった不都合がある。
【0004】
以上のことから、油圧シリンダに保護カバーを装着することによって、ピストンロッドを保護する構成としたものが、例えば特許文献1に開示されている。この公知の保護カバーは、複数枚の可撓性シートを、その前後に位置するものうちの一方の可撓性シートに対しては内周側を、他方に対しては外周側を、それぞれ交互に当接させて順次固着させることにより伸縮可能な蛇腹構造となったカバー部本体を有する構成としたものである。そして、このカバー部本体の両端には固定部が形成されており、一端側の固定部はピストンロッドの先端に固定され、他端側の固定部はシリンダチューブに固定される構成としている。
【特許文献1】特開2006−161980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の保護カバーを用いれば、ピストンロッドに塵埃等の異物が付着したり、岩石等の固形物が直接衝突したりすることがなくなり、シリンダを有効に保護できるという利点がある。しかしながら、前述した特許文献1の保護カバーにあっても、なお問題点がない訳ではない。
【0006】
而して、ピストンロッドの伸縮に応じて保護カバーのカバー部本体の容積が変化する。ピストンロッドがシリンダチューブ内に進入する際には、カバー部本体の内容積が縮小することになって、カバー部本体の内部の空気が排出される。一方、ピストンロッドがシリンダチューブから伸長する際には、カバー部本体の内容積が拡大して負圧になり、外部からカバー部本体の内部に外気が吸い込まれることになる。ここで、例えば石灰岩の掘削・運搬等の作業を行う等のように、微粉状乃至微粒状の塵埃、即ち粉塵が多量に浮遊している雰囲気中で作業を行う際には、ピストンロッドが伸長する毎に、大量の浮遊粉塵等が空気流に搬送されて、カバー部本体の内部に吸引されることになる。その結果、カバー部本体の内部において、ピストンロッドの表面に多量の粉塵が付着することになる。しかも、ピストンロッドの動きによって、このピストンロッドの表面における付着物が片寄せられて、集中することになる。
【0007】
シリンダチューブには、そのピストンロッドの導出部にシール部材が設けられており、ピストンロッドへの付着物はこのシール部材によりシリンダチューブ内に入り込まないようにしているが、付着物が多量になると、シール部材だけでは完全には除去できない。その結果、ピストンロッドに付着した塵埃等がシリンダチューブの内部に侵入するおそれがある。シリンダチューブの内部には作動油が流入し、また流出する。粉塵等の異物がシリンダチューブに入り込むと、作動油が汚損されることになり、作動油は閉鎖回路を構成する油圧回路内を流通することから、作動油全体が汚損されることになる。また、シール部材が早期に劣化、損傷するという問題点もある。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ピストンロッドの伸長時に外気が吸い込まれるシリンダ保護カバーにおいて、外気と共に吸い込まて、ピストンロッドに付着した粉塵等の異物がシリンダチューブ内に侵入するのを防止する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明は、シリンダを構成するシリンダチューブから導出させたピストンロッドの外周部を覆うシリンダ保護カバーであって、複数枚の円環状の可撓性シートからなり、相隣接する可撓性シートを、内周側と、外周側とを交互に固着することにより伸縮可能な蛇腹構造となったカバー部本体を構成し、前記カバー部本体は、その一端が前記ピストンロッドの先端部に固定されるロッド側固定部で、他端は前記シリンダチューブに固定されるシリンダ側固定部となし、前記カバー部本体を構成する前記各可撓性シートの谷折れ部からピストンロッドの外周面に摺接するようにワイピング部を少なくとも1箇所配置する構成としたことをその特徴とするものである。
【0010】
蛇腹構造となったカバー部本体には山折れ部側と谷折れ部側とがある。ワイピング部は谷折れ部側から延在させたものであり、ピストンロッドの伸縮動作時に、ワイピング部がこのピストンロッドの外面に摺接する。ワイピング部は可撓性シートと一体的に設けることができ、また可撓性シートとは別部材で構成して、この可撓性シートに固着するようにしても良い。
【0011】
ここで、大孔径シートの内径はピストンロッドの外径より大きいものとする。一方、小孔径シートについては、ピストンロッドの伸縮時において、小孔径シートの内縁部がこのピストンロッドの外面に摺接してワイピング動作が行われれば良く、この小孔径シートの内径は、必ずしもピストンロッドの外径より小さくしなければならない訳ではない。例えば、蛇腹構造となったカバー部本体を構成したときに、このカバー部本体が曲げ方向に柔軟性を有するものであれば、小孔径シートの内径をピストンロッドの外径より僅かに大きくしてもピストンロッドの伸縮時に、この小孔径シートの内周縁部がピストンロッドの外面と摺接して、ワイピング機能を発揮することになる。ただし、高いワイピング機能を発揮させるには、小孔径シートの内径をピストンロッドの外径より小さいものとするのが望ましい。そして、この場合には、小孔径シートの内端側から固定部までの部位に放射状の切り込みを複数個所入れることによって、小孔径シートの内端部はカールした状態でピストンロッドの外面と摺接するように構成することによって、ワイピング部に皺や折れ曲がり等が発生することはない。
【0012】
ワイピング部は、前述したように、可撓性シートと一体に形成することもできるが、可撓性シートと別部材で形成することもできる。例えば、小孔径シートにワイピング部を取り付けることができる。また、可撓性シートに孔径の差を設けず、全てピストンロッドの外径より大きくし、前後の可撓性シートにおける谷折れ部を固着する際に、間に内径がピストンロッドより小さいワイピング部を介在させる構成としても良い。このように、可撓性シートとは別部材でワイピング部を形成すると、ワイピング部は所望の特性を持った部材で構成することができる。例えば、軟性部材から構成し、多孔質で、油の吸収能力を発揮するものを用いれば、ピストンロッドの外面に付着する作動油を吸着して、この作動油を含む軟性部材でピストンロッドの外面に付着する塵埃等を拭き取るようにワイピングすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように構成することによって、ピストンロッドが伸縮する度にこのピストンロッドの表面をワイピングするので、ピストンロッドの表面に付着物を有効に除去でき、少なくとも粉塵等の異物がシリンダチューブ内に侵入するのを防止できて、シリンダチューブ内の作動油が汚損されるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1に本発明のシリンダ保護カバーを油圧シリンダに装着した油圧式作業機械の一例としての油圧ショベルの概略を示す。なお、本発明のシリンダ保護カバーが装着されるシリンダはこれに限定されるものではなく、各種の油圧シリンダや空気圧シリンダ等に装着することができる。
【0015】
而して、図1において、1は油圧ショベルの下部走行体、2は上部旋回体であり、上部旋回体2には、作業手段3が装着されている。この作業手段3はブーム4,アーム5及びフロントアタッチメントとしてのバケット6から構成されるものであり、この作業手段3を作動させることによって、土砂の掘削等の作業が行われる。ブーム4を俯仰動作させるために、ブーム用油圧シリンダ7が上部旋回体2のフレームとブーム4との間に設けられており、アーム5を駆動するためのアーム用油圧シリンダ8がブーム4とアーム5との間に設けられている。さらに、アーム5とバケット6のリンク機構6aとの間に設けられるのがバケット用油圧シリンダ9である。シリンダ保護カバー10はこれら各油圧シリンダ7〜9のいずれか若しくは全てに装着されることになる。
【0016】
図2に油圧シリンダの一例を示す。同図において、20は油圧シリンダを示し、この油圧シリンダ20は、例えば前述したブーム用油圧シリンダ7,アーム用油圧シリンダ8及びバケット用油圧シリンダ9のいずれかとして構成される。油圧シリンダ20は、シリンダチューブ21を備えており、このシリンダチューブ21には、その一端側からピストンロッド22が導出されている。シリンダチューブ21は、一側にはピストンロッド22のロッド導出部21aが設けられ、このロッド導出部21aとは反対側の端部には、取付部23が連結して設けられており、またピストンロッド22の先端にも取付部24が設けられている。さらに、シリンダチューブ21におけるピストンロッド22のロッド導出部21aには、シール部材25が介装されており、これによってシリンダチューブ21の内部が密閉状態に保たれている。そして、これら両取付部23,24が支持部側と可動部側とに固定されることになり、例えばバケット用油圧シリンダ9の場合には、支持部側としてはアーム5で、可動部側としてはバケット6に設けたリンク機構6aとなる。
【0017】
図3乃至図7にシリンダ保護カバー10の構成を示す。シリンダ保護カバー10はカバー部本体11の両端にそれぞれ固定部12,13を設けたものから構成される。カバー部本体11はピストンロッド22の全長を覆うものであり、一方の固定部12はピストンロッド22の先端における取付部23に着脱可能に固定され、他方の固定部13はシリンダチューブ21側に着脱可能に固定される。そして、このシリンダ保護カバー10のカバー部本体11は、油圧シリンダ20の作動に応じて伸縮する蛇腹構造のものであり、油圧シリンダ20が図3に示した最縮小状態から図4に示した最伸長状態に至るまで、ピストンロッド22の全周を覆っている。
【0018】
カバー部本体11は、図5に示した円環状に形成した可撓性シート14を1単位として、この可撓性シート14を所定枚数重ね合わせて縫製手段で順次連結することにより構成される。可撓性シート14は布製のものを用いることができ、特に繊維強化熱可塑性樹脂シート等が好適に用いられる。縫製は、好ましくはナイロン糸等のように、高強度で耐候性に優れたものが用いられる。
【0019】
ここで、可撓性シート14は、図5(a)に示したサイズの可撓性シート14Lと、同図(b)に示したサイズの可撓性シート14Sとから構成される。可撓性シート14Lと可撓性シート14Sとでは、外径が同じで、内径は可撓性シート14Sの方が可撓性シート14Lより小さいものである。従って、以下においては、可撓性シート14Lを大孔径シート14Lとし、可撓性シート14Sを小孔径シート14Sとする。大孔径シート14Lも小孔径シート14Sも外径寸法は同じであるが、内径寸法が異なっている。ここで、図5(c)にピストンロッド22の外径を示す。ピストンロッド22の外径をDとしたときに、大孔径シート14Lの内径D1はピストンロッド22の外径Dより大きく、小孔径シート14Sの内径D2はピストンロッド22の外径Dより小さい。
【0020】
大孔径シート14Lであれ、小孔径シート14Sであれ、可撓性シート14は閉鎖ループ状とはなっておらず、半径方向に向けた切れ目15が1箇所形成されている。そして、この切れ目15の部位は面ファスナ16により連結されている。大孔径シート14Lと小孔径シート14Sとは、その外周側と内周側とで円形に縫い合わせることにより連結されており、1枚の可撓性シートは、その配設方向の一方側に配置されている可撓性シートとは外周側の縫い合わせ部17Pで、他方側に配置されている可撓性シートとは内周側の縫い合わせ部17Vとなっており、内周側,外周側の縫い合わせ部を交互に繰り返すことによって、蛇腹構造となったカバー部本体11が構成されている。従って、外周側の縫い合わせ部17Pが山折れ部となり、内周側の縫い合わせ部17Vが谷折れ部となる。ここで、大孔径シート14Lと小孔径シート14Sとは交互に設けられており、従って各谷折れ部から内側に1枚のシートが突出する状態となっている。
【0021】
小孔径シート14Sの大孔径シート14Lから内側に突出する内周縁部は、油圧シリンダ20が作動して、ピストンロッド22が伸縮する際に、その外面と摺接するワイピング部18となっている。そして、このワイピング部18には、小孔径シート14Sの内縁部から縫い合わせ部17Vの位置まで切り込み19が所定の角度間隔毎に形成されている。ここで、小孔径シート14Sの内周縁部は、カバー部本体11が最伸長したときにも、ピストンロッド22の外面に当接するような突出長を持たせるようにすることができる。また、大孔径シート14Lと小孔径シート14Sとが交互に設けられていることから、少なくともピストンロッド22の伸長ストロークにおけるある程度の長さ、例えば半分以上の長さとなるまで摺接するように構成するのが望ましい。なお、切り込み19は半径方向に向けて直線的な切り込みとしているが、内周縁部側に向けてV字状に拡開するように切り込むこともできる。
【0022】
以上のように構成されるシリンダ保護カバー10は油圧シリンダ20に着脱可能に取り付けられる。円筒形状となったカバー部本体11及びその両端に連結した固定部12,13の長手方向に貫通する切れ目15が形成されており、この切れ目15を押し広げることによって、ピストンロッド22にその軸線と直交する方向から被せることができる。切れ目15を挟んで止着部材としての面ファスナ16を掛け渡すようにして着脱可能に固着されているので、この面ファスナ16で切れ目15を掛け渡すことによって円筒形状が保たれる。また、カバー部本体11の両端に連結して設けた固定部12,13は、それぞれピストンロッド22の先端に設けた取付部23と、シリンダチューブ21とに連結される。そして、絞め付けバンド等のように、着脱可能な止着部材を用いて固定される。
【0023】
このように、シリンダ保護カバー10を装着することによって、油圧シリンダ20の作動時におけるピストンロッド22の保護が図られる。即ち、ピストンロッド22は、図6に示したように、シリンダチューブ21内に最も引き込まれた最縮小状態から、図7に示したように、ピストンロッド22の最突出状態に至るまでの全ストロークにおいて、常にシリンダ保護カバー10に覆われて、外部に露出することはない。従って、土砂の掘削等の作業を行っている間に、岩石や構築物等と衝突しても、シリンダ保護カバー10に衝突するが、ピストンロッド22に対して直接衝突しないので、このピストンロッド22の外面が損傷するおそれはない。また、粉塵等が多量に浮遊し、飛散する雰囲気下に置かれたとしても、ピストンロッド22に塵埃等の付着が防止される。
【0024】
ただし、シリンダ保護カバー10の内部は密閉されている訳ではない。特に、カバー部本体11には面ファスナ16で連結されている切れ目15が形成されているので、少なくともこの切れ目15からカバー部本体11の内外で空気の流通が行われる。従って、粉塵等の塵埃が発生している雰囲気下で油圧シリンダ20を駆動すると、特にピストンロッド22の伸長時には、カバー部本体11の内部が負圧になり、カバー部本体11の内部には外気から吸引されるが、このときに多量の塵埃等が吸引される空気流に搬送されて、カバー部本体11内に侵入することになる。その結果、外部から取り込まれた塵埃はピストンロッド22の外面に付着する。
【0025】
シリンダチューブ21におけるピストンロッド22の導出部にはシール部材25が設けられており、通常はこのシール部材25によって塵埃等の付着物がシリンダチューブ21の内部に入り込むのを抑制される。ただし、ピストンロッド22の表面にあまりに多量の塵埃等が付着している状態で、ピストンロッド22が伸縮すると、付着物はロッド導出部21aと取付部24との間の部位に片寄せられて滞留してしまう。この状態でピストンロッド22が作動すると、ピストンロッド22とシール部材25との間に付着物が噛み込むようになり、シール機能が低下することになり、またシリンダチューブ21の内部に付着物が侵入して作動油の汚損が生じるおそれがある。
【0026】
しかしながら、ピストンロッド22にはカバー部本体11を構成する小孔径シート14Sに形成したワイピング部18が当接しており、ピストンロッド22の伸縮に応じて、カバー部本体11が伸縮することになって、ワイピング部18がピストンロッド22の表面に沿って擦動することによりワイピングが行われる。その結果、ピストンロッド22に付着物が剥離されて除去されることになる。しかも、ピストンロッド22の表面がワイピング部18と当接していることによって、軸線方向に多数に区分された状態となり、ピストンロッド22への付着物が所定の位置に極度に集中したり、滞留したりすることがなくなる。
【0027】
これによって、シール部材25に対する負担が軽減されて、シール部材25としての機能が遺憾なく発揮され、またシリンダチューブ21の内部に塵埃等が侵入するのを確実に防止できる。従って、シリンダチューブ21の内部における作動油が汚損されるのを防止することができる。
【0028】
ところで、小孔径シート14Sはピストンロッド22の外径より小さい内径となっているので、この小孔径シート14Sは、特にピストンロッド22の縮小時においては、その径差分に相当する分だけ押圧されることになる。このときに、押圧力によりしわや折れ曲がり等を発生させないようにするために、内向きに張り出したワイピング部18を、図7に示したように、予め一方向にカールするように癖付けしておくことができる。小孔径シート14Sの内側には切り込み19が形成されているので、このカール部分は円滑に癖付けすることができる。
【0029】
ワイピング部18をカールさせておくにしても、カバー部本体11の内周側が嵩張ることになる。この小孔径14Sの張り出し部分は、固定部12,13間であって、大孔径シート14Lの内縁部と、ピストンロッド22との間の空間に収容されることになる。ここで、カバー部本体11を構成する可撓性シート14は大孔径シート14Lと小孔径シート14Sとが交互に設けられているので、小孔径シート14Sの張り出し部分をコンパクトに収容できる。ただし、小孔径シート14Sを内向きに大きく突出させると、縮小時における張り出し部分の収容スペースが確保されないことがある。このような場合には、小孔径シート14Sの構成枚数を削減すれば良い。そして、大孔径シート14Lの2枚置き、3枚置きというように、小孔径シート14Sを軸線方向に向けて規則的に配列する。
【0030】
ここで、カバー部本体11において、大孔径シート14Lと小孔径シート14Sと配設数の比率に格別制限はないが、ワイピング部18を設けた小孔径シート14Sの数をあまり多くすると、ピストンロッド22が縮小して、カバー部本体11が畳み込まれたときに、ワイピング部18をコンパクトに収納できないことになる。即ち、小孔径シート14Sの内周側のワイピング部18はカールした状態になっているので、ピストンロッド22の縮小時に、この部位が嵩高になる。従って、小孔径シート14Sの数は可撓性シート14全体の半分乃至それ以下とするのが望ましく、前述したように、大孔径シート14Lと小孔径シート14Sとを交互に配置設けるようにすると、良好なワイピング機能を発揮し、かつピストンロッド22の縮小時に内端部分の嵩張りを防止できる。
【0031】
前述した実施の形態では、ワイピング部は可撓性シートと一体構成のものとしたが、図8に示したように構成することもできる。同図に示されているのは、可撓性シート30は異なる内径のものを使用せず、同じ大きさとする。そして、可撓性シート30とは別個の部材でワイピング部31を形成して、前後の可撓性シート30,30の谷折れ部分を構成する縫い合わせ部32Vによって、前後の可撓性シート30と共にワイピング部31を縫い込むようにする。
【0032】
ワイピング部31は、例えばスポンジ等多孔質軟性部材で形成することもできる。そして、このワイピング部31はピストンロッド22の伸縮時に、このピストンロッド22の外周面に対して摺動するが、ピストンロッド22の伸長ストローク時にこのピストンロッド22の表面に付着している作動油を吸収することになるので、ワイピング機能をより強力に発揮することになり、ピストンロッド22に付着している塵埃等の除去機能が向上する。また、多孔質軟性部材から構成したワイピング部を小孔径シート14Sに固着するように構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のシリンダ保護カバーを油圧シリンダに装着した油圧式作業機械の一例としての油圧ショベルの外観図である。
【図2】油圧シリンダの構成説明図である。
【図3】シリンダ保護カバーを装着した油圧シリンダの最縮小状態の外観図である。
【図4】シリンダ保護カバーを装着した油圧シリンダの最伸長状態の外観図である。
【図5】カバー部本体を構成する可撓性シートと、ピストンロッドとを示す正面図である。
【図6】シリンダ保護カバーを油圧シリンダに装着し、最縮小状態としたときの要部断面図である。
【図7】シリンダ保護カバーを油圧シリンダに装着し、最伸長状態としたときの要部断面図である。
【図8】シリンダ保護カバーの他の実施の形態を示す可撓性シートの谷折れ部分の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 シリンダ保護カバー 11 カバー部本体
12,13 固定部 14,30 可撓性シート
14L 大孔径シート 14S 小孔径シート
17P,17V,32V 縫い合わせ部 18,31 ワイピング部
19 切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダを構成するシリンダチューブから導出させたピストンロッドの外周部を覆うシリンダ保護カバーにおいて、
複数枚の円環状の可撓性シートからなり、相隣接する可撓性シートを、内周側と、外周側とを交互に固着することにより伸縮可能な蛇腹構造となったカバー部本体を構成し、
前記カバー部本体は、その一端が前記ピストンロッドの先端部に固定されるロッド側固定部で、他端は前記シリンダチューブに固定されるシリンダ側固定部となし、
前記カバー部本体を構成する前記各可撓性シートの谷折れ部からピストンロッドの外周面に摺接するようにワイピング部を少なくとも1箇所配置する構成としたことを特徴とするシリンダ保護カバー。
【請求項2】
前記各可撓性シートの内径は、前記ピストンロッドの外径より大きい複数枚の大孔径シートと、前記大孔径シートの内径より小さく、大孔径シート間に配設した少なくとも1枚の小孔径シートとから構成したことを特徴とする請求項1記載のシリンダ保護カバー。
【請求項3】
前記小孔径シートの内径は前記ピストンロッドの外径より小さいものとなし、この小孔径シートの内端側から前記固着部までに半径方向の切り込みを複数個所入れる構成としたことを特徴とする請求項2記載のシリンダ保護カバー。
【請求項4】
前記ワイピング部は、前記ピストンロッドの外面に付着する油分を吸着可能なワイピング部を設ける構成としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載のシリンダ保護カバー。
【請求項5】
前記ワイピング部は多孔質軟性部材から構成され、前記相隣接する可撓性シート間に挟み込んで縫製により固定する構成としたことを特徴とする請求項4記載のシリンダ保護カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−96294(P2010−96294A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268481(P2008−268481)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】