説明

シリンダ型ダンパー装置

【課題】効率よくエネルギーを吸収することができるとともに、減衰材からロッドへ作用する回転力を低減させることができるシリンダ型ダンパー装置を提供する。
【解決手段】シリンダ型ダンパー装置1は、第1梁材(部材)10aと第2梁材(部材)10bとの間に介装されて、該梁材間の相対変位のエネルギーを吸収している。シリンダ型ダンパー装置1は、第1梁材10aに接続されたシリンダ本体(シリンダ)21と、該シリンダ本体21内に充填された減衰材4と、第2梁材10bに接続されるとともに前記シリンダ本体21内に挿通され減衰材4内を進退自在なロッドと、を備え、ロッド本体31は、外周面31cに螺旋状の突条33a,33bが形成されていて、該突条33a,33bは、ロッド本体31の延在方向の中間部31dから先端部(一方の端部)31a側および基端部31b(他方の端部)側において互いに逆方向へ回転している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震や風などによる構造物の振動を低減させるために構造物に設置されるシリンダ型ダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリンダ型ダンパー装置は、ビルや橋梁などの構造物の部材間に介装することにより、地震や風などによる構造物の振動を低減させ、構造物の安全性や居住性を向上させている。
このようなシリンダ型ダンパー装置としては、一方の部材に接続されたシリンダと、他方の部材に接続されてシリンダ内に進退自在に挿通されたロッドと、シリンダ内に充填された減衰材とを備えたものが知られている。
そして、このようなシリンダ型ダンパー装置は、地震や風などにより構造物が振動して部材同士が相対変位すると、シリンダおよびロッドが相対変位し、これにより減衰材が移動して変形することで振動のエネルギーを吸収するように構成されている。
【0003】
また、特許文献1に開示されたシリンダ型ダンパー装置は、図8(a)乃至(d)に示すように、シリンダ82に挿通されるロッド83が、ねじれ棒状で、外周面に螺旋状の突条83aが形成されている。ロッド83に螺旋状の突状83a形成されていることにより、減衰材84がロッド83に対して、突条83aに沿って螺旋を描くように斜め方向に相対的に移動可能となり、スムーズに移動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−283957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1によるシリンダ型ダンパー装置81では、減衰材84がロッド83の突条83aに沿って螺旋を描くように相対的に移動するため、ロッド83に回転力が作用して、ロッド83と部材との接続部に力がかかり、接続部に不具合が生じることがある。
【0006】
本発明は、上述する事情に鑑みてなされたもので、地震や風などによる構造物の振動のエネルギーを効率よく吸収することができるとともに、減衰材からロッドへ作用する回転力を低減させることができるシリンダ型ダンパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るシリンダ型ダンパー装置は、異なる2つの部材間に介装されて、該部材間の相対変位のエネルギーを吸収するシリンダ型ダンパー装置であって、一方の部材に接続されたシリンダと、該シリンダ内に充填された減衰材と、他方の部材に接続されるとともに前記シリンダ内に挿通され前記減衰材内を進退自在なロッドと、を備え、該ロッドの外周面には、該ロッドの延在方向の中間部から一方の端部側および他方の端部側において互いに逆方向へ回転する螺旋状の突条がそれぞれ形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、地震や風などによる振動により2つの部材が相対変位してシリンダとロッドとが相対変位すると、シリンダ内に充填された減衰材が塑性変形し、振動のエネルギーを吸収して、2つの部材の相対変位を抑制している。
そして、ロッドの外周面には、ロッドの延在方向の中間部から一方の端部側および他方の端部側において互いに逆方向へ回転する螺旋状の突条がそれぞれ形成されていることにより、減衰材は、ロッドの突条に沿って螺旋状にスムーズに移動できるとともに、ロッドの一方の端部側および他方の端部側において逆方向に回転するため、振動のエネルギーを効率よく吸収することができる。
また、減衰材は、ロッドの一方の端部側および他方の端部側において逆方向に回転するため、減衰材がロッドの外周面に沿って螺旋状に回転することによってロッドに作用する回転力は、ロッドの一方の端部側と他方の端部側で逆方向となり互いに打ち消されるため、ロッドに作用する回転力を低減させることができる。
【0009】
また、本発明に係るシリンダ型ダンパー装置では、前記シリンダは、前記ロッドを延在方向へ進退自在に支持する支持部を備えていることが好ましい。
このように構成されることにより、ロッドをシリンダ内の所望の位置に確実に設置することができる。
【0010】
また、本発明に係るシリンダ型ダンパー装置では、前記減衰材は、高純度の鉛(鉛含有率99.90%以上の鉛地金)であることが好ましい。
このように構成されることにより、高純度の鉛(ここでは鉛含有率99.90%以上の鉛地金を示す)は常温において再結晶可能で復元力を有するため、減衰材を交換する必要がなく、長期にわたって使用することができる。また、振動によるエネルギーを安定して吸収することができるとともに、微小振動のエネルギーも確実に吸収することができるため、精密な制動を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロッドの外周面には、ロッドの延在方向の中間部から一方の端部側および他方の端部側において互いに逆方向へ回転する螺旋状の突条がそれぞれ形成されていることにより、減衰材は、ロッドの突条に沿ってスムーズに移動できるとともに、ロッドの一方の端部側および他方の端部側において逆方向に回転するため、振動のエネルギーを効率よく吸収することができる。
また、減衰材は、ロッドの一方の端部側および他方の端部側において逆方向に回転するため、減衰材がロッドの外周面に沿って螺旋状に回転することによってロッドに作用する回転力が、ロッドの一方の端部側と他方の端部側とで逆方向となり互いに打ち消すことができるため、ロッドに作用する回転力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明の実施形態によるシリンダ型ダンパー装置の一例を示す図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は(a)のB−B線断面図、(d)は(a)のC−C線断面図である。
【図2】シリンダ型ダンパー装置の動作を説明する図である。
【図3】シリンダ型ダンパー装置の動作を説明する図である。
【図4】載荷装置を説明する図である。
【図5】載荷試験における変位と荷重との関係を示す図である。
【図6】載荷試験において繰り返し載荷したときの変位と荷重との関係を示す図である。
【図7】(a)は本発明の実施形態の変形例によるシリンダ型ダンパー装置の一例を示す図、(b)は(a)のD−D線断面図、(c)は(a)のE−E線断面図、(d)は(a)のF−F線断面図である。
【図8】(a)は従来のシリンダ型ダンパー装置の一例を示す図、(b)は(a)のG−G線断面図、(c)は(a)のH−H線断面図、(d)は(a)のI−I線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態によるシリンダ型ダンパー装置について、図1乃至図3に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態によるシリンダ型ダンパー装置1は、ビルや橋等の構造物において延在方向に隣り合う第1梁材(一方の部材)10aと第2梁材(他方の部材)10bとの間に介装されている。
シリンダ型ダンパー装置1は、第1梁材10aに接続されたシリンダ部2と、該シリンダ部2に進退自在に挿通可能に構成されるとともに第2梁材10bに接続されたロッド部3と、シリンダ部2内に充填された減衰材4とを備えている。
【0014】
シリンダ部2は、例えば金属製のパイプの一方の端部を塞ぐようにして有底筒状に形成されたシリンダ本体(シリンダ)21と、シリンダ本体21と第1梁材10aとを接続する接続部22と、を備えている。
シリンダ本体21は、一方の端部に底部21aが形成され、他方の端部にロッド部3のロッド本体(ロッド)31(後述する)が挿通される開口部21bが形成されている。
接続部22は、例えばクレビスなどで構成されていて、シリンダ本体21の底部21a側に取り付けられている。
【0015】
ロッド部3は、シリンダ本体21内に挿通される棒状のロッド本体31と、ロッド本体31と第2梁材10bとを接続する接続部32とを備えている。
ロッド本体31は、鋼材などで形成され、一方の端部31a側からシリンダ本体21内に挿通されていて、他方の端部31b側に接続部32が取り付けられている。ここで、一方の端部31aを先端部31aとし、他方の端部31bを基端部31bとして以下説明する。
【0016】
また、ロッド本体31は、外周面31cに、螺旋状の突条33が複数形成されている。そして、この突条33は、ロッド本体31の長さ方向の略中央に位置する中央部(中間部)31dから先端部31a側と基端部31b側とにおいて、螺旋の回転方向が互いに逆方向となっている。
本実施形態では、ロッド本体31は、外周面31cの中央部31dから先端部31aおよび基端部31b側へそれぞれ約400mmの範囲L1,L2に、これらの範囲L1,L2において90°回転する螺旋状の突条33が周方向に間隔をあけて4つずつ形成されている(図1(b)参照)。
【0017】
また、ロッド本体31の先端部31aおよび基端部31b側には、突条33が形成されておらず、断面形状が外径約50mmの略円形となっている。図1(b)にロッド本体31の先端部31a側の断面形状を示す。ロッド本体31の基端部31b側の断面形状は、先端部31a側の断面形状と略同じに形成されている。
そして、図1(b)乃至(d)に示すように、突条33が形成されている部分(範囲L1,L2)は、断面形状が50mm角の略正方形となっていて、この略正方形の4つの角部がそれぞれ突条33を構成している。
なお、ロッド本体31の寸法や形状はこれ以外としてもよく、突条33の数や形状もこれ以外としてもよい。
図1(a)に戻り、ロッド本体31の中央部31dから先端部31a側に形成された突条33を第1突条33aとし、基端部31b側に形成された突条33を第2突条33bとして以下説明する。
【0018】
接続部32は、例えばクレビスなどで構成されていて、ロッド本体31の基端部31b側に取り付けられている。
また、ロッド本体31と接続部32との間には、ロッド本体31と接続部32との間隔を調整し、ロッド部3全体の長さを調整するロッド長さ調整部34が設けられている。
【0019】
また、シリンダ本体21の内部には、挿通されたロッド本体31を支持する第1支持部23および第2支持部24が設けられている。
第1支持部23は、シリンダ本体21の底部21a側に設けられていて、ロッド本体31の先端部31aを支持している。また、第2支持部24は、シリンダ本体21の開口部21b側に設けられていて、ロッド本体31の基端部31b側を支持している。
【0020】
第1支持部23および第2支持部24は、外周面がシリンダ本体21の内周面と密着するように形成されている。そして、第1支持部23および第2支持部24には、ロッド本体31の外径よりもやや大きい内径の孔部23a,24aが形成されていて、この孔部23a,24aにロッド本体31が挿通されている。
また、第1支持部23および第2支持部24には、孔部23a,24aの内周面とロッド本体31の外周面31cとの隙間からシリンダ本体21内の減衰材4が外部に流出することを防止するシール材25が設けられている。
【0021】
減衰材4は、シリンダ本体21の内部で、シリンダ本体21の内周面と、ロッド本体31の外周面との間に充填されている。本実施形態では、減衰材4に流動性を有する鉛を用いている。
本実施形態では、この鉛に、JIS H 2105に示される3種(鉛含有率99.90%以上)以上の鉛地金を使用している。
このような純度の高い鉛を使用することにより、減衰材4が常温において再結晶可能で復元力を有するため、減衰材4を交換する必要がなく、長期にわたって使用することができる。
また、振動によるエネルギーを安定して吸収することができるとともに、微小振動のエネルギーも確実に吸収することができる。
【0022】
次に、地震などの振動により第1梁材10aと第2梁材10bとが相対変位したときの、本実施形態によるシリンダ型ダンパー装置1の動作について説明する。
図1(a)、図2および図3に示すように、第1梁材10a(図1(a)参照)と第2梁材10b(図1(a)参照)とが相対変位すると、シリンダ部2とロッド部3とが相対変位し減衰材4が移動する。
このとき、ロッド本体31の外周面31cに螺旋状の突条33a,33bが形成されていることにより、減衰材4が外周面31cに沿って螺旋状にスムーズに移動することができる。
【0023】
そして、減衰材4が移動して変形することにより振動のエネルギーが吸収され、振動が抑制される。
このとき、ロッド本体31の中央部31dから先端部31a側と、中央部31dから基端部31b側とでは、突条33a,33bの回転方向が逆であることにより、減衰材4が逆方向に回転するため、振動のエネルギーを効率よく吸収することができる。
【0024】
また、減衰材4からロッド本体31に作用する回転力は、ロッド本体31の中央部31dから先端部31a側と、中央部31dから基端部31b側とでは、逆方向となるため、互いに打ち消されることになる。
【0025】
次に、本実施形態によるシリンダ型ダンパー装置1の効果について説明する。
本実施形態によるシリンダ型ダンパー装置1によれば、減衰材4が効率よく移動して変形することにより、振動のエネルギーを効率よく吸収することができる効果を奏する。
また、減衰材4が移動することによりロッド本体31に作用する回転力の方向が、ロッド本体31の先端部31a側と基端部31b側で逆となり、これらの回転力は互いに打ち消されるため、ロッド本体31と第2梁材10bとの接続部32に回転力が作用することがないため、接続部32が変形することを防止することができる。
【0026】
ここで、本実施形態によるシリンダ型ダンパー装置1の載荷試験を行った。このシリンダ型ダンパー装置1の載荷試験について説明する。
図4に示すように、本載荷試験では、シリンダ型ダンパー装置1は、シリンダ部2の接続部22とロッド部3の接続部32間の長さが1650mmとしている。
また、載荷装置6では、最大±1000kNの動的荷重、また、最大±1150kNの静的荷重を載荷可能で、試験体の変位は最大±100mmとしている。また、この載荷装置6では、動的荷重における最大速度は6cm/sで、周波数範囲は、DC0.001〜30Hzとしている。
【0027】
載荷試験では、最大荷重を約±600kNとし、変位量と荷重との関係を測定した。図5に、この変位量と荷重との関係を示す。
図5によれば、載荷を開始して約−400kNまでの間に急激に変位量が増加し、その後は大きな履歴ループを描いているため、減衰材4による減衰力が大きいことがわかる。
【0028】
また、載荷試験では、最大変位を約±10mmから約±10mmずつ約±60mmまで変え、この最大変位ごとに繰り返し載荷を行い、変位量と荷重との関係を測定した。図6に、この変位量と荷重との関係を示す。
図6から、繰り返し載荷を行ったときに、各履歴ループが略同じ形状となっているため、減衰材4の復元力が高いことがわかる。
【0029】
以上、本発明によるシリンダ型ダンパー装置1の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、ロッド本体31の外周面31cには、中央部31dから先端部31aおよび基端部31b側へそれぞれ400mmの範囲L1,L2に、これらの範囲L1,L2において90°回転する螺旋状の突条33が形成されているが、図7に示すシリンダ型ダンパー装置71ように、ロッド本体72のこれらの範囲L1,L2において180°回転する螺旋状の突条73が形成されていてもよい。
【0030】
また、上述した実施形態では、シリンダ型ダンパー装置1は、建物や橋等の構造物において延在方向に隣り合う第1梁材10aと第2梁材10bとの間に介装されているが、延在方向に隣り合う梁材間に限らず、上下方向に架設された梁材間や、梁材と柱材の間、柱材間や、ブレース材と梁材または柱材との間など任意の部材間に設置されてもよい。
また、上述した実施形態では、減衰材4に鉛を使用しているが、鉛に限られることはなく、振動のエネルギーを吸収可能なほかの材料を使用してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1,71 シリンダ型ダンパー装置
2 シリンダ部
3 ロッド部
4 減衰材
10a 第1梁材(部材)
10b 第2梁材(部材)
21 シリンダ本体(シリンダ)
23 第1支持部(支持部)
24 第2支持部(支持部)
31,72 ロッド本体
31a 先端部
31b 基端部
31c 外周面
31d 中央部(中間部)
33,73 突条
33a 第1突条
33b 第2突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2つの部材間に介装されて、該部材間の相対変位のエネルギーを吸収するシリンダ型ダンパー装置であって、
一方の部材に接続されたシリンダと、
該シリンダ内に充填された減衰材と、
他方の部材に接続されるとともに前記シリンダ内に挿通され前記減衰材内を進退自在なロッドと、を備え、
該ロッドの外周面には、該ロッドの延在方向の中間部から一方の端部側および他方の端部側において互いに逆方向へ回転する螺旋状の突条がそれぞれ形成されていることを特徴とするシリンダ型ダンパー装置。
【請求項2】
前記シリンダは、前記ロッドを延在方向へ進退自在に支持する支持部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のシリンダ型ダンパー装置。
【請求項3】
前記減衰材は、高純度の鉛(鉛含有率99.90%以上の鉛地金)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリンダ型ダンパー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184836(P2012−184836A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50266(P2011−50266)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(592173124)株式会社東京鐵骨橋梁 (11)
【Fターム(参考)】