説明

シリンダ装置

【課題】 実用性の高いシリンダ装置を提供する。
【解決手段】 ブレーキペダル150に加えられた操作力によってブレーキ液を加圧する操作力依存加圧状態と、その操作量に応じた操作反力を発生しつつ、外部高圧源装置118からの圧力に依存してブレーキ液を加圧する高圧源圧依存加圧状態とを選択的に実現する。入力ピストン408と中間ピストン406とが内部室R26を区画して相対移動可能に嵌め合わされ、中間ピストンと第1加圧ピストン402との間に外部高圧源装置からの圧力が入力される入力室R23が、中間ピストンの後端部に設けられた鍔部472の前方に環状室R24が、それぞれ形成され、入力ピストンと中間ピストンとの相対移動に対向する弾性力を付与する機構と、環状室とリザーバ122との連通状態,非連通状態を切換える機構と、内部室とリザーバとの連通状態,非連通状態を切換える機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に設けられたブレーキ装置に、ブレーキ液を加圧して供給するためのシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液圧ブレーキシステムにおいて、例えば、下記特許文献に記載されているようなシリンダ装置が採用されることがある。そのシリンダ装置は、外部高圧源から入力された圧力を利用してブレーキ液を加圧する機能を有しており、いわゆる液圧ブースト機能付きマスタシリンダと呼ばれる装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−24098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記シリンダ装置を、ハイブリッド車両に採用する場合、制動力として回生制動力を利用できるため、運転者が操作部材を操作しているにも関わらず、液圧制動力を発生させないようにする必要があり、その際、操作部材の操作感が良好であることが望まれる。また、電源システムの失陥等の場合、運転者の操作力によってブレーキ液を加圧する必要があるため、その際にも効率よくブレーキ液が加圧されることが望まれる。また、当該シリンダ装置が車両に配設することを考慮すれば、良好な搭載性、つまり、シリンダ装置がコンパクトであることが望まれる。このような観点からすれば、上記シリンダ装置には、改良の余地が多分に残されており、種々の改良を施すことによって、シリンダ装置の実用性を向上させることができるのである。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いシリンダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のシリンダ装置は、簡単に言えば、操作部材に加えられた操作力によってブレーキ液を加圧する操作力依存加圧状態と、操作部材の操作量に応じた操作反力を発生させつつ、高圧源からの圧力に依存してブレーキ液を加圧する高圧源圧依存加圧状態とを選択的に実現するシリンダ装置であって、入力ピストンと中間ピストンとが内部室を区画するようにして相対移動可能に嵌め合わされ、中間ピストンと加圧ピストンとの間に高圧源からの圧力が入力される入力室が、中間ピストンの後端部に設けられた鍔部の前方に環状室が、それぞれ形成され、入力ピストンと中間ピストンとの相対移動に対向する弾性力を付与する機構と、環状室とリザーバとの連通状態,非連通状態を切換える機構と、内部室とリザーバとの連通状態,非連通状態を切換える機構とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリンダ装置によれば、後に詳しく説明するように、入力ピストンと中間ピストンとが嵌め合わされた構造となっているため、入力ピストンと係合させる必要のある高圧シールが少なくでき、摩擦抵抗が操作部材の操作感に与える影響を小さくすることが可能である。また、操作部材が操作されていない状態において、加圧ピストンと中間ピストンとが当接する程に入力室の容積を小さくできるため、失陥時における操作部材の操作ストロークを充分に確保することが可能となる。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0009】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(6)項が請求項4に、(7)項が請求項5に、(8)項が請求項6に、(9)項と(10)項とをあわせたものが請求項7に、それぞれ相当する。
【0010】
(1)車輪に設けられたブレーキ装置を作動させるために、加圧されたブレーキ液をそのブレーキ装置に供給するシリンダ装置であって、
前端部が閉塞された筒状のハウジングと、
自身の前方においてブレーキ液を加圧する加圧室が区画されるようにして、前記ハウジング内に配設された加圧ピストンと、
本体部とその本体部の外周に形成された鍔部とを有し、前記本体部の前方において高圧源からの圧力が入力される入力室が区画されるとともに、前記鍔部の前方において自身の進退に伴って容積が変化する環状室が区画されるようにして、前記ハウジング内に配設された中間ピストンと、
その中間ピストンとの相対移動に伴って容積が変化する内部室が区画されるようにして、その中間ピストンの後端部に嵌め合わされ、自身の後端部において操作部材に連結される入力ピストンと、
前記内部室の容積が減少する向きの前記入力ピストンと前記中間ピストンとの相対移動に伴って、その相対移動に対抗する方向の弾性力を前記入力ピストンと前記中間ピストンとに付与する弾性力付与機構と、
前記環状室と前記リザーバとが連通する環状室連通状態と連通しない環状室非連通状態とを選択的に実現させる第1連通状態切換機構と、
前記内部室とリザーバとが連通する内部室連通状態と連通しない内部室非連通状態とを選択的に実現させる第2連通状態切換機構と
を備え、
前記環状室非連通状態かつ前記内部室連通状態において、前記内部室の容積変化を伴う前記入力ピストンと前記中間ピストンとの相対移動を許容しつつ前記中間ピストンの前進を禁止することで、前記弾性力付与機構の弾性力に依拠して前記操作部材の操作量に応じた操作反力を発生させるとともに、前記入力室に入力される前記高圧源からの圧力に応じた前記加圧室のブレーキ液の加圧を許容し、
前記環状室連通状態かつ前記内部室非連通状態において、前記内部室の容積変化を禁止して前記入力ピストンと前記中間ピストンとの相対移動を禁止しつつ、前記加圧ピストンに当接した状態での前記中間ピストンの前進を許容することで、前記操作部材に加えられた操作力による前記加圧室のブレーキ液の加圧を許容するように構成されたシリンダ装置。
【0011】
本項に記載の態様のシリンダ装置では、上記入力ピストンと上記中間ピストンとが相対移動可能に嵌め合わされており、それら2つのピストンの内部には、それら2つのピストンの相対移動に伴って容積が変化する液室(内部室)が区画形成されている。そして、中間ピストンに対して入力ピストンが前進するような相対移動が許容される際、上記弾性力付与機構によってその相対移動の抵抗となるような弾性力が発生させられる。一方、中間ピストンの前方には、加圧ピストンとによって、高圧源からの圧力が入力される液室(入力室)が形成されており、また、中間ピストンが上記鍔部においてハウジングと摺接することで、その鍔部の前方には、環状の液室(環状室)が区画形成されている。
【0012】
通常時において、上記第1連通状態切換機構によって上記環状室非連通状態を実現させれば、上記環状室は密閉され、中間ピストンの前進は禁止される。その状態において上記第2連通状態切換機構によって内部室連通状態を実現させれば、上記内部室は大気圧とされ、弾性力付与機構による弾性力が作用した状態での入力ピストンの中間ピストンに対する移動が許容される。この状態で、入力室に高圧源からの圧力を入力すれば、その圧力に依存して、加圧ピストンが、それの前方に区画形成された液室(加圧室)のブレーキ液を、入力室に入力された圧力に依存して加圧する状態となる。このとき、上記弾性力付与機構の弾性力は、操作部材の操作量に応じた操作反力を与えることになる。つまり、通常においては、入力ピストンの前進量、つまり、操作部材の操作量に応じた操作反力を操作部材に付与しつつ、操作部材の操作量とは関係なく、高圧源からの入力される圧力に応じた加圧力で加圧室のブレーキ液が加圧される状態(高圧源圧依存加圧状態)が実現される。
【0013】
ちなみに、高圧源圧依存加圧状態では、密閉された環状室内は、操作反力に応じた圧力に加圧された状態で、中間ピストンの前進を禁止する。その意味で、環状室は、反力室と呼ぶこともできる。また、上記弾性力付与機構は、中間ピストンに対する入力ピストンの前進が許容された状態おいて、操作部材に、それの操作量に応じた操作反力を与える機能を有することから、ストロークシミュレータを構成するものとなる。
【0014】
一方、液圧ブレーキシステムに電力が供給されないような失陥、すなわち、電気的失陥時等において、上記第1連通切換機構によって上記環状室連通状態を実現させれば、上記環状室は大気圧とされ、中間ピストンの前進が許容される。その状態において第2連通状態切換機構によって内部室非連通状態を実現させれば、上記内部室は密閉され、入力ピストンと中間ピストンとの相対移動が禁止されることで、入力ピストンと中間ピストンとが一体となった前進が許容される。この状態において、中間ピストンが加圧ピストンに当接することで、入力ピストンの推進力、つまり、操作部材に加えられた操作力が加圧ピストンに直接伝達されることになる。すなわち、電気的失陥時その操作力に依存して加圧室のブレーキ液が加圧される状態(操作力依存加圧状態)が実現されるのである。
【0015】
本項のシリンダ装置では、入力ピストンと中間ピストンとが嵌め合わされた構造とされている。そのため、上記各液室を区画するために入力ピストンと係合させる必要のある高圧シールは、中間ピストンと入力ピストンとの間と、入力ピストンの外周面と入力ピストンを摺動可能に保持するハウジングの部分との間とに、それぞれ、1つずつ配設すればよい。そのため、高圧源圧依存加圧状態において、入力ピストンの移動に対する摩擦抵抗が比較的小さく、摩擦抵抗が操作部材の操作感に与える影響、つまり、ブレーキ操作の操作感に与える影響を小さくすることが可能である。
【0016】
本項のシリンダ装置では、未動作状態、つまり、操作部材が操作されていない状態において、加圧ピストンと中間ピストンとが当接する程に入力室の容積を小さくできる。このことにより、失陥時において、操作部材が動き始めた直後から、操作部材に加えられる操作力によって、加圧室のブレーキ液を加圧することが可能となる。したがって、本項の態様のシリンダ装置によれば、失陥時において、操作部材の操作範囲、つまり、操作ストロークを充分に確保することが可能となる。
【0017】
(2)前記第2連通状態切換機構が、
前記内部室と前記リザーバとを連通するための内部室用連通路と、その内部室用連通路に設けられてその連通路を開閉する開閉弁とを含んで構成された(1)項に記載のシリンダ装置。
【0018】
本項の態様は、第2連通状態切換機構の構造に関して限定を加えた態様である。
【0019】
(3)前記中間ピストンが、
前後方向に互いに離間した位置において当該中間ピストンの本体部の外周面に嵌められた2つのシールを介して、前記ハウジングの内周面に摺接するようにされており、かつ、前記内部室と、前記2つのシールの間の位置において前記中間ピストンの本体部の外周面に形成されたピストン側ポートとを繋ぐ第1連通路を有し、
前記ハウジングが、
前記中間ピストンが前進していない状態においてその中間ピストンの前記2つのシールの間の部分と向かいあう位置において当該ハウジングの内周面に形成されたハウジング側ポートから、前記リザーバに繋がる第2連通路を有し、
前記第1連通路および前記第2連通路を含んで前記内部室用連通路が構成されるとともに、前記2つのシール,前記ピストン側ポートおよび前記ハウジング側ポートを含んで前記開閉弁が構成され、
前記第2連通状態切換機構が、
前記中間ピストンが前進していない状態において前記ピストン側ポートと前記ハウジング側ポートとが連通する状態となることによって、前記内部室連通状態が実現し、前記中間ピストンの前進によって、前記ハウジング側ポートが前記2つのシールよりも後方側の位置において前記中間ピストンの外周面と向かい合い、前記ピストン側ポートと前記ハウジング側ポートとが連通しない状態となることによって、前記内部室非連通状態が実現するように構成された(2)項に記載のシリンダ装置。
【0020】
本項の態様は、上記第2連通状態切換機構の構造を具体的に限定した態様である。本項の態様では、上記第1連通路,上記第2連通路,上記ピストン側ポートおよび上記ハウジング側ポートを含んで第2連通状態切換機構が構成されている。簡単に言えば、本項のシリンダ装置では、中間ピストンに嵌められた2つのシールの間に、上記内部室と連通するポートを設け、一方、中間ピストンが摺接するハウジングの内周面に、リザーバと連通するポートを設けて、未動作状態においてそれら2つのポートが向かいあうようにされ、中間ピストンが前進に伴って、2つのシールのうちの後方側に設けられたシールが、ハウジングに設けられたポートを通過した時点で、2つのポートの連通が断たれるように、第2連通状態切換機構が構成されている。
【0021】
本項のシリンダ装置によれば、2つのポート、2つのシールの配設位置を適正化することによって、未動作状態から中間ピストンが移動した直後に内部室非連通状態を実現させることができるため、前述したところの、失陥時において操作部材の操作ストロークを充分に確保するという機能を、充分に担保することができる。
【0022】
なお、2つのシールをハウジングの内周面に2つのシールを嵌め、それら2つシールの間にハウジング側のポートを設けるような構成の第2連通状態切換機構とすることができるが、そのような構成の機構の場合、中間ピストンが前進していく全過程において、内部室を密閉する必要があることから、中間ピストンの移動範囲の全域にわたって中間ピストン側のポートを密閉する密閉室が必要となる。それに対して、本項のシリンダ装置では、中間ピストンに2つのシールを嵌め、その間に中間ピストン側のポートを設けていることから、中間ピストンが、それの前進範囲のいずれの位置に位置している場合でも、ハウジングの内周面と2つのシールとによって区画される小さな空間によって、内部室を密閉することが可能である。したがって、本項の態様によれば、シリンダ装置の中間ピストンの移動方向における寸法を小さくすることができ、シリンダ装置のコンパクト化を図ることができる。
【0023】
(4)前記開閉弁が、電磁式開閉弁である(2)項に記載のシリンダ装置。
【0024】
(5)前記開閉弁が、
前記環状室内の作動液の圧力がパイロット圧として導入されて、そのパイロット圧が設定圧以上である場合に開弁し、そのパイロット圧がその設定圧を下回った場合に閉弁する機械式開閉弁である(2)項に記載のシリンダ装置。
【0025】
上記2つの項の態様における第2連通状態切換機構は、先の項における第2連通状態切換機構とは、構造において、特に開閉弁の構造において異なる。上記2つの項のうちの前者は、開閉弁が電磁式開閉弁とされた態様であり、電気的失陥時等に内部室非連通状態を実現させることを考慮すれば、その電磁式開閉弁は、常閉弁、つまり、非励磁状態で閉弁状態となり、励磁状態で開弁状態となる開閉弁であることが望ましい。また、後者では、内部室連通状態,非連通状態が、環状室内の圧力に依存して切換ることになる。上記環状室非連通状態では、環状室内の圧力が、操作部材の操作力に応じて上昇することになるが、上記環状室連通状態で環状室内が大気圧となるようにすれば、後者の態様は、環状室連通状態が実現されたことを条件として、内部室非連通状態を実現させる態様と考えることができる。
【0026】
なお、先の項の態様における第2連通状態切換機構によれば、中間ピストンがある程度前進することを条件として内部室非連通状態が実現させられることになるが、上記2つの項の態様によれば、中間ピストンが殆ど前進しない状態において内部室非連通状態を実現させるようにすることも可能である。例えば、電気的失陥等、高圧源からの圧力が不十分な状況となった場合に、操作部材の操作が開始された後、即座に、内部室非連通状態が実現されるようなシリンダ装置を構築することもできるのである。したがって、操作部材を殆ど操作していない状態で内部室非連通状態が実現され、操作力依存加圧状態が実現される。そのため、電気的失陥時であっても、ブレーキ操作を開始してもブレーキ装置が制動力を発生しない状態、すなわち、空踏みのような状態がブレーキ操作に殆どなく、運転者は違和感を感じることなくブレーキ操作をすることができる。
【0027】
さらに、上記2つの項の態様は、先の項の態様と組み合わせることが可能である。つまり、2種の第2連通状態切換機構を採用したシリンダ装置を構築することができるのである。具体的には、例えば、先の項の態様において、第2連通路若しくは第2連通路とリザーバとを繋ぐ連通路に上記電磁式開閉弁若しくは上記機械式開閉弁を配設し、その開閉弁によってその連通路を開閉するように構成すればよい。ちなみに、2つの第2連通状態切換機構を設ければ、それらの一方は他方のバックアップ的な役割を果たすことになり、フェールセーフの観点において優れたシリンダ装置が実現することになる。
【0028】
(6)前記第1連通状態切換機構が、前記環状室と前記リザーバとを連通するための環状室用連通路と、その環状室用連通路に設けられてその連通路を開閉する開閉弁とを含んで構成された(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0029】
(7)前記第1連通状態切換機構が、前記環状室とリザーバとを連通するための環状室用連通路と、その環状室用連通路に設けられて前記環状室の圧力が設定圧を超えた場合にその連通路を開閉するリリーフ弁とを含んで構成された(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0030】
上記2つの項に記載の態様は、第1連通状態切換機構の構成に関する限定を加えた態様である。前者における開閉弁は、例えば、常開の電磁式開閉弁、つまり、非励磁状態において開弁状態となり励磁状態において閉弁状態となる開閉弁とすることができる。そのような開閉弁とすることによって、液圧ブレーキシステムへの電力の供給の有無に応じて環状室連通状態と環状室非連通状態とが選択的に実現される。また、そのような電磁式開閉弁を採用した態様によれば、失陥時等において、操作部材の操作が開始段階から中間ピストンの移動が許容されることになり、その段階から操作力依存加圧状態を実現させることができる。それに対して、後者の態様によれば、失陥時において、操作部材にある程度以上の操作力が加わったときに、環状室連通状態が実現されることになる。一般的に、電磁式開閉弁に比較してリリーフ弁は安価であり、後者の態様によれば、比較的安価なシリンダ装置が実現されることになる。
【0031】
(8)当該シリンダ装置が、
前記内部室内に配設され、自身の弾性力を前記内部室の容積が増大する方向に前記入力ピストンと前記中間ピストンとに作用させるスプリングを備え、
そのスプリングを含んで前記弾性力付与機構が構成された(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0032】
本項に記載の態様は、弾性力付与機構の構造を具体的に限定した態様である。本項の態様では、当該機構の主体的構成要素であるスプリングが、入力ピストンと中間ピストンによって区画形成される内部室内に配設されている。したがって、本項の態様は、当該シリンダ装置内にストロークシミュレータが組み込まれた態様と考えることができる。しかも、上記内部室というデッドスペースに、ストロークシミュレータが組み込まれているため、本項の態様によれば、コンパクトなシリンダ装置が実現される。
【0033】
(9)当該シリンダ装置が、
それぞれが前記スプリングとして機能し、一方の一端部が前記入力ピストンと前記中間ピストンとの一方に支持され、かつ、他方の一端部が前記入力ピストンと前記中間ピストンとの他方に支持された状態で、前記内部室内において直列的に配設され、互いにばね定数の異なる2つのスプリングと、
それら2つのスプリングの一方の他端部と他方の他端部との間に挟まれて、それら2つのスプリングによって浮動支持されるとともに、それら2つのスプリングの弾性力を前記内部室の容積が増大する方向に前記入力ピストンと前記中間ピストンとに作用させるべくそれら2つのスプリングを連結する浮動座と
を備え、
それら2つのスプリングと浮動座とを含んで前記弾性力付与機構が構成された(8)項に記載のシリンダ装置。
【0034】
(10)前記入力ピストンと前記中間ピストンとが互いに近づくように相対移動する際、その相対移動の量が設定量を超えた場合に、前記入力ピストンと前記中間ピストンとの一方と前記浮動座と接近が禁止されることで、前記2つのスプリングの一方の弾性変形量が増加しないように構成された(9)項に記載のシリンダ装置。
【0035】
上記2つの項に記載の態様は、弾性力付与機構が2つのスプリングを有する態様である。後者の態様によれば、弾性力付与機構を、ブレーキ操作の初期の段階において2つのスプリングの両方の弾性変形を許容し、ある程度操作が進んだ段階からは2つのスプリングの一方の弾性変形を禁止するように構成することができる。操作量の変化に対する操作反力変化を、操作反力勾配と定義した場合において、初期の段階において操作反力勾配が小さく、ある程度操作が進んだ段階からは操作反力勾配が大きくなるといった操作反力特性のストロークシミュレータを実現させることが可能となる。また、2つのスプリングのばね定数差を任意に設定することによって、初期段階の操作反力勾配と操作がある程度進んだ段階の操作反力勾配との差を任意に異ならせることが可能である。操作がある程度進んだ段階で弾性変形が禁止される方のスプリングのばね定数を、他方のばね定数より小さくすれば、2つの段階での操作反力勾配の差をより大きくすることができる。
【0036】
(11)前記中間ピストンが、前記環状室の前方において当該中間ピストンの前記本体部の外周面に嵌められたシールを介して、前記ハウジングの内周面に摺接するようにされており、
前記ハウジングが、
前記中間ピストンが前進していない状態においてその中間ピストンの前記シールの前方の部分と向かい合う位置において当該ハウジングの内周面に設けられ、前記リザーバに連通する連通路が繋がるポートを有し、
そのポートが前記中間ピストンの前記シールの後方の部分と向かい合う位置に前記中間ピストンが前進することで、前記環状室がそのポートを介して前記リザーバと連通するように構成された(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0037】
本項の態様のシリンダ装置は、上記第1連通状態切換機構とは異なるもう1つ第1連通状態切換機構を有する装置と考えることができる。そのもう1つの第1連通状態切換機構は、中間ピストンが設定量前進したとき、つまり、中間ピストンが前進して、環状室の容積が設定容積以下となったときに、環状室とリザーバとを連通させる機能を有することから、容積依拠連通機構と観念することができる。
【0038】
本項の態様は、第1連通状態切換機構がリリーフ弁を含んで構成される先の態様のシリンダ装置において、好適である。リリーフ弁を含んで構成される第1連通状態切換機構は、環状室の圧力が設定圧を超えた場合に環状室連通状態を実現するものであることから、圧力依拠連通機構と観念できるものである。先に説明したように、環状室の圧力は操作反力依存しており、圧力依拠連通機構によってのみ、環状室連通状態が実現されるように構成すれば、環状室連通状態が実現されて操作力による加圧ピストンの加圧が許容された場合であっても、設定圧に応じた操作反力を受けた状態での操作が必要となる。このことは、失陥時において操作力が加圧ピストンの加圧以外に利用されるといったロスを生じさせる一因となる。本項の態様によれば、失陥時に、圧力依拠連通機構となる第1連通状態切換機構によって環状室連通状態が実現されて中間ピストンの移動が許容された際、その中間ピストンが設定距離前進することで、上記容積依拠連通機構によって、環状室連通状態が実現されることになる。その状態では、環状室は大気圧とされ、操作部材に加えられる操作力が、加圧ピストンの加圧に有効に利用される。
【0039】
なお、本項の態様は、先に説明した2つのシール,2つのポートを備えた態様において、それら2つのシールのうちの後方側に配置されたものが、本項の態様におけるシールとして機能し、2つのポートのうちのハウジングに設けられたものが、本項の態様におけるポートとして機能するようにして構成することが可能である。そのように構成すれば、上記容積依拠連通機構による環状室非連通状態から環状室連通状態への切り換えと、第2連通切換機構による内部室連通状態から内部室非連通状態への切り換えとが、略同時に行われる。
【0040】
(12)前記加圧ピストンを第1加圧ピストンとした場合において、自身の後方において自身とその第1加圧ピストンとの間に前記加圧室である第1加圧室を区画し、かつ、自身の前方において第2加圧室を区画するようにして、前記第1加圧ピストンの前方において
前記ハウジング内に配設された第2加圧ピストンを備えた(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0041】
本項の態様のシリンダ装置は、2つの加圧ピストン,2つの加圧室を有するシリンダ装置である。そのようなシリンダ装置は、加圧ピストンの加圧方向つまり入力ピストンの進退の方向において、比較的長いものとなる。したがって、シリンダ装置の内部にストロークシミュレータを配設したこと等によるコンパクト化のメリットは、加圧ピストン,加圧室をそれぞれ2つ備えたシリンダ装置にとって有効的に活かされることになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】請求可能発明の実施例のシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを表す模式図である。
【図2】請求可能発明の実施例のシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図3】シリンダ装置に連結される操作部材の操作量と、シリンダ装置から操作部材に付与される操作反力との関係を示すグラフである。
【図4】実施例の第1変形例となるシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図5】実施例の第2変形例となるシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図6】第2変形例のシリンダ装置に採用される機械式開閉弁を示す図である。
【図7】実施例の第3変形例となるシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0044】
≪車両の構成≫
図1に、第1実施例のシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電気モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行う発電機14も搭載されている。これらエンジン10、電気モータ12、発電機14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力を発電機14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、電気モータ12からの出力を駆動輪に伝達させることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として、機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、総称として使用するが、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付すこととする。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RL,および車輪18RRである。
【0045】
電気モータ12は、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、発電機14によって出力される交流の電力を、バッテリー26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、バッテリ26に蓄えられている直流の電力を、電気モータ12を駆動するための交流の電力に変換させることができる。発電機14は、電気モータ12と同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることがき、一方が、電気モータ12として、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、発電機14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0046】
また、電気モータ12は、車両の走行に伴う車輪18RL、18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL、18RRに連結される電気モータ12では、電力が発生させられるとともに、電気モータ12の回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、電気モータ12は、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキをエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御することで、制動されるのである。一方、発電機14は主にエンジン10の出力により発電をするが、インバータ24を介してバッテリ26から電力が供給されることで、電気モータとしても機能する。
【0047】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU40は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および電気モータ12の駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と電気モータ12の駆動は、メインECU40によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU40によって、エンジン10の出力と電気モータ12による出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU42、電気モータ12及び発電機14を制御するモータECU44に各制御についての指令が出力される。
【0048】
メインECU40には、バッテリ26を制御するバッテリECU46も接続されている。バッテリECU46は、バッテリ26の充電状態を監視しており、充電量が不足している場合には、メインECU40に対して充電要求指令を出力する。充電要求指令を受けたメインECU40は、バッテリ26を充電させるために、発電機14による発電の指令をモータECU44に出力する。
【0049】
また、メインECU40には、ブレーキを制御するブレーキECU48も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)が設けられており、ブレーキECU48は、その操作部材の操作量であるブレーキ操作量(以下、単に「操作量」という場合がある)と、その操作部材に加えられる運転者の力であるブレーキ操作力(以下、単に「操作力」という場合がある)との少なくとも一方に基づいて目標制動力を決定し、メインECU40に対してこの目標制動力を出力する。メインECU40は、モータECU44にこの目標制動力を出力し、モータECU44は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU40に出力する。メインECU40では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧ブレーキシステム100において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU40は、目標液圧制動力をブレーキECU48に出力し、ブレーキECU48は、液圧ブレーキシステム100が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0050】
≪液圧ブレーキシステムの構成≫
このように構成された本ハイブリッド車両に搭載される液圧ブレーキシステム100について、図2を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、「前方」は図2における左方、「後方」は図2における右方をそれぞれ表している。また、「前側」、「前端」、「前進」や、「後側」、「後端」、「後進」等も同様に表すものとされている。以下の説明において[ ]の文字は、センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。
【0051】
図2に、車両が備える液圧ブレーキシステム100を、模式的に示す。液圧ブレーキシステム100は、ブレーキ液を加圧するためのシリンダ装置110を有している。車両の運転者は、シリンダ装置110に連結された操作装置112を操作することでシリンダ装置110を作動させことができ、シリンダ装置110は、自身の作動によってブレーキ液を加圧する。その加圧されたブレーキ液は、シリンダ装置110に接続されるアンチロック装置114を介して、各車輪に設けられたブレーキ装置116に供給される。ブレーキ装置116は、加圧されたブレーキ液の圧力(以下、「出力圧」と呼ぶ)に依拠して、車輪18の回転を制止するための力、すなわち、液圧制動力を発生させる。
【0052】
液圧ブレーキシステム100は、ブレーキ液の圧力を高圧にするための外部高圧源装置118を有している。その外部高圧源装置118は、増減圧装置120を介して、シリンダ装置110に接続されている。増減圧装置120は、外部高圧源装置118によって高圧とされたブレーキ液の圧力を制御する装置であり、シリンダ装置110へ入力されるブレーキ液の圧力(以下、「入力圧」と呼ぶ)を増加および減少させる。シリンダ装置110は、その入力圧の増減によって作動可能に構成されている。また、液圧ブレーキシステム100は、ブレーキ液を大気圧下で貯留するリザーバ122を有している。リザーバ122は、シリンダ装置110、増減圧装置120、外部高圧源装置118の各々に接続されている。
【0053】
操作装置112は、操作部材としてのブレーキペダル150と、ブレーキペダル150に連結されるオペレーションロッド152とを含んで構成されている。ブレーキペダル150は、車体に回動可能に保持されている。オペレーションロッド120は、後端部においてブレーキペダル150に連結され、前端部においてシリンダ装置110に連結されている。また、操作装置112は、ブレーキペダル150の操作量を検出するための操作量センサ[SP]156と、操作力を検出するための操作力センサ[FP]158とを有している。操作量センサ156および操作力センサ158は、ブレーキECU48に接続されており、ブレーキECU48は、それらのセンサの検出値を基にして、目標制動力を決定する。
【0054】
ブレーキ装置116は、液通路200、202を介してシリンダ装置110に接続されている。それら液通路200、202は、シリンダ装置110によって出力圧に加圧されたブレーキ液をブレーキ装置116に供給するための液通路である。液通路202には出力圧センサ[Po]204が設けられている。詳しい説明は省略するが、各ブレーキ装置116は、ブレーキキャリパと、そのブレーキキャリパに取り付けられたホイールシリンダ(ブレーキシリンダ)およびブレーキパッドと、各車輪とともに回転するブレーキディスクとを含んで構成されている。液通路200、202は、アンチロック装置114を介して、各ブレーキ装置116のブレーキシリンダに接続されている。ちなみに、液通路200が、前輪側のブレーキ装置116FL,116FRに繋がるようにされており、また、液通路202が、後輪側のブレーキ装置116RL、116RRに繋がるようにされている。ブレーキシリンダは、シリンダ装置110によって加圧されたブレーキ液の出力圧に依拠して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける。その押し付けによって発生する摩擦によって、各ブレーキ装置116では、車輪の回転を制止する液圧制動力が発生し、車両は制動されるのである。
【0055】
アンチロック装置114は、一般的な装置であり、簡単に説明すれば、各車輪に対応する4対の開閉弁を有している。各対の開閉弁のうちの1つは増圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、開弁状態とされており、また、もう1つは減圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、閉弁状態とされている。車輪がロックした場合に、増圧用開閉弁が、シリンダ装置110からブレーキ装置116へのブレーキ液の流れを遮断するとともに、減圧用開閉弁が、ブレーキ装置116からリザーバへのブレーキ液の流れを許容して、車輪のロックを解除するように構成されている。
【0056】
外部高圧源装置118は、リザーバ122から増減圧装置120に至る液通路に設けられている。その外部高圧源装置118は、ブレーキ液の液圧を増加させる液圧ポンプ300と、増圧されたブレーキ液が溜められるアキュムレータ302とを含んで構成されている。ちなみに、液圧ポンプ300はモータ304によって駆動される。また、外部高圧源装置118は、高圧とされたブレーキ液の圧力を検出するための高圧源圧センサ[Pi]306を有している。ブレーキECU48は、高圧源圧センサ306の検出値を監視しており、その検出値に基づいて、液圧ポンプ300は制御駆動される。この制御駆動によって、外部高圧源装置118は、常時、設定された圧力以上のブレーキ液を増減圧装置120に供給する。
【0057】
増減圧装置120は、入力圧を増加させる電磁式の増圧リニア弁250と、入力圧を低減させる電磁式の減圧リニア弁252とを含んで構成されている。増圧リニア弁250は、外部高圧源装置118からシリンダ装置110に至る液通路の途中に設けられている。一方、減圧リニア弁252は、リザーバ122からシリンダ装置110に至る液通路の途中に設けられている。なお、増圧リニア弁250および減圧リニア弁252のシリンダ装置110に接続される各々の液通路は、1つの液通路とされて、シリンダ装置110に接続されている。また、その液通路には、入力圧を検出するための入力圧センサ[Pc]256が設けられている。ブレーキECU48は、入力圧センサ256の検出値に基づいて、増減圧装置120を制御する。
【0058】
上記増圧リニア弁250は、電流が供給されていない状態では、つまり、非励磁状態では、閉弁状態とされており、それに電流を供給することによって、つまり、励磁状態とすることで、その供給された電流に応じた開弁圧において開弁する。ちなみに、供給される電流が大きい程、開弁圧が高くなるように構成されている。一方、減圧リニア弁252は、電流が供給されていない状態では、開弁状態となり、通常時、つまり、当該システムへの電力の供給が可能である時には、設定された範囲における最大電流が供給されて閉弁状態とされ、供給される電流が減少させられることで、その電流に応じた開弁圧において開弁する。ちなみに、電流が小さくなるほど開弁圧が低くなるように構成されている。
【0059】
≪シリンダ装置の構成≫
図2に示すように、シリンダ装置110は、シリンダ装置110の筐体であるハウジング400と、ブレーキ装置116に供給するブレーキ液を加圧する第1加圧ピストン402および第2加圧ピストン404と、外部高圧源装置118から入力される圧力によって前進する中間ピストン406と、運転者の操作が操作装置112を通じて入力される入力ピストン408とを含んで構成されている。なお、図2は、シリンダ装置110が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。ちなみに、一般的なシリンダ装置がそうであるように、本シリンダ装置110も、内部にブレーキ液が収容されるいくつかの液室、それらの液室間,それらの液室と外部とを連通させるいくつかの連通路が形成されており、それらの液密を担保するため、構成部材間には、いくつかのシールが配設されている。それらのシールは一般的なものであり、明細書の記載の簡略化に配慮し、特に説明すべきものでない限り、それの説明は省略するものとする。
【0060】
ハウジング400は、主に、2つの部材から、具体的には、第1ハウジング部材410、第2ハウジング部材412から構成されている。第1ハウジング部材410は、前端部が閉塞された概して円筒状を有し、後端部の外周にフランジ420が形成されており、そのフランジ420において車体に固定される。第1ハウジング部材410は、内径が互いに異なる3つの部分、具体的には、前方側に位置して内径の最も小さい前方小径部422、後方側に位置して内径の最も大きい後方大径部424、それら前方小径部422と後方大径部424との中間に位置しそれらの内径の中間の内径を有する中間部426に区分けされている。
【0061】
第2ハウジング部材412は、前方側に位置して外径の大きい前方大径部430、後方側に位置して外径の小さい後方小径部432とを有する円筒形状をなしている。第2ハウジング部材412は、前方大径部430の前端部が第1ハウジング部材410の中間部426と後方大径部424との段差面に隙間を設けた状態で、その後方大径部424に嵌め込まれている。それら第1ハウジング部材410,第2ハウジング部材412は、第1ハウジング部材410の後端部の内周面に嵌め込まれたロック環434によって、互いに締結されている。
【0062】
第1加圧ピストン402および第2加圧ピストン404は、それぞれ、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材410の前方小径部422に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン402は、第2加圧ピストン404の後方に配設されている。第1加圧ピストン402と第2加圧ピストン404との間には、2つの後輪に設けられたブレーキ装置116RL,RRに供給されるブレーキ液を加圧するための第1加圧室R21が区画形成されており、また、第2加圧ピストン404の前方には、2つの前輪に設けられたブレーキ装置116FL,FRに供給されるブレーキ液を加圧するための第2加圧室R22が区画形成されている。なお、第1加圧ピストン402と第2加圧ピストン404とは、第1加圧ピストン402の後端部に立設された有頭ピン460と、第2加圧ピストン404の後端面に固設されたピン保持筒462とによって、離間距離が設定範囲内に制限されている。また、第1加圧室R21内,第2加圧室R22内には、それぞれ、圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)464、466が配設されており、それらスプリングによって、第1加圧ピストン402,第2加圧ピストン404はそれらが互いに離間する方向に付勢されるとともに、第2加圧ピストン404は後方に向かって付勢されている。
【0063】
中間ピストン406は、前端部が塞がれて後端部が開口された有底円筒形状をなす本体部470と、その本体部470の後端部に設けられた鍔部472とを有する形状とされている。中間ピストン406は、第1加圧ピストン402の後方に配設され、本体部470の前方の部分が第1ハウジング部材410の前方小径部422の内周面の後部側に、鍔部472が中間部426の内周面に、それぞれ、摺動可能に嵌め合わされている。
【0064】
中間ピストン406の前方において、第1加圧ピストン402の後端部との間には、外部高圧源装置118からのブレーキ液が供給される液室、つまり、高圧源装置118からの圧力が入力される液室(以下、「入力室」という場合がある)R23が区画形成されている。ちなみに、図2では、殆ど潰れた状態で示されている。また、ハウジング400の内部には、第2ハウジング部材412の内周面と中間ピストン406の本体部470の外周面との間に形成された空間が存在する。その空間が、中間ピストン406の鍔部472の前端面と、第1ハウジング部材410の前方小径部422と後方大径部424との段差面とによって区画されることで、環状の液室(以下、「環状室」という場合がある)R24が形成されている。また、鍔部472の後方には、第2ハウジング部材412の前端部との間に、中間ピストン406の前進に伴って容積が増大するとともに、入力室R23と同じ圧力とされる液室(以下、「後背室」という場合がある)R25が区画形成されている。
【0065】
入力ピストン408は、前端部が開口して後方の部分が塞がった円筒形状をなしている。入力ピストン408は、ハウジング400の後端側から、第2ハウジング部材412の内周面に摺接する状態でハウジング400内に挿し込まれるとともに、中間ピストン406に挿し込まれており、中間ピストン406と入力ピストン408とは相対移動可能とされている。詳しく言えば、中間ピストン406には、それの内周面の後端部に環状のシールホルダ474が固定的に付設されており、入力ピストン408は、そのシールホルダ474に保持されたシールを介して、中間ピストン406の内周面に摺接しつつ、中間ピストン406に対して進退可能とされている。このように構成された入力ピストン408および中間ピストン406の内部には、中間ピストン406と入力ピストン408との相対移動によって自身の容積が変化する液室(以下「内部室」という場合がある)R26が区画形成されている。ちなみに、入力ピストン408と中間ピストン406との相対移動の範囲は、入力ピストン408の前端部がシールホルダ474,中間ピストン406の内周面に設けられた段差面のそれぞれによって係止されることで制限されている。また、中間ピストン406の後退も、シールホルダ474が第2ハウジング部材412の前端面に当接することで制限されている。
【0066】
内部室R26には、中間ピストン406の内底面と入力ピストン408の内底面との間に、2つの圧縮コイルスプリングである第1反力スプリング480および第2反力スプリング482が配設されている。第1反力スプリング480は、第2反力スプリング482の後方に直列に配設されており、鍔付ロッド形状の浮動座484が、それらの反力スプリングに挟まれて浮動支持されている。第1反力スプリング480は、それの前端部が浮動座484の後方側のシート面に支持され、後端部が入力ピストン408の後端部に支持されている。第2反力スプリング482は、それの前端部が中間ピストン406の後端部に支持され、後端部が浮動座484の前方側のシート面に支持されている。このように配設された第1反力スプリング480および第2反力スプリング482は、入力ピストン408と中間ピストン406とを、それらが互いに離間する方向に、つまり、内部室R26の容積が拡大する方向に付勢している。シリンダ装置110は、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482によって構成される弾性力付与機構、つまり、それらのばね反力によって、入力ピストン408と中間ピストン406とが互いに接近する方向、つまり、内部室R26の容積が減少する向きの入力ピストン408と中間ピストン406との相対移動に対抗する弾性力を、入力ピストン408と中間ピストン406とに付与する機構を備えている。また、浮動座484の後端部には、緩衝ゴム486が嵌め込まれており、その緩衝ゴム486が入力ピストン408の後端面に当接することで、浮動座484と入力ピストン408の接近は、ある範囲に制限されている。
【0067】
入力ピストン408の後端部には、ブレーキペダル150に加えられた操作力を入力ピストン408に伝達すべく、また、ブレーキペダル150の操作量に応じて入力ピストン408を進退させるべく、オペレーションロッド152の前端部が連結されている。オペレーションロッド152には、円形の支持板492が付設されており、この支持板492とハウジング400との間にはブーツ494が渡されており、シリンダ装置110の後部の防塵が図られている。
【0068】
第1加圧室R21は、開口が出力ポートとなる連通孔500を介して、アンチロック装置114に繋がる液通路202と連通しており、第1加圧ピストン402に設けられた連通孔502および開口がドレインポートとなる連通孔504を介して、リザーバ122に、非連通となることが許容された状態で連通している。一方、第2加圧室R22は、開口が出力ポートとなる連通孔506を介して、アンチロック装置114に繋がる液通路200と連通しており、第2加圧ピストン404に設けられた連通孔508および開口がドレインポートとなる連通孔510を介して、リザーバ122に、非連通となることが許容された状態で連通している。
【0069】
第1加圧ピストン402は、第1ハウジング部材410の前方小径部422の内径よりある程度小さい外径とされており、それらの間にはある程度の流路面積を有する液通路512が形成されている。また、第1ハウジング部材410には、前方小径部422の内周から中間部426と後方大径部424との段差面に連通する液通路514が形成されている。入力室R23は、その液通路512、514、後背室R25および開口が連結ポートとなる連通孔516を介して、増減圧装置120に繋がれている。
【0070】
環状室R24は、開口が連結ポートとなる連通孔518によって、外部に連通可能となっている。その連通孔518は、外部連通路520によって、開口が連結ポートとなる連通孔522に連結されている。この連通孔522は、第1加圧ピストン402の外周面と第1ハウジング部材410の前方小径部422の内周面との間に形成された液通路を介して連通孔504と繋がっており、その連通路を介してリザーバ122に連通している。つまり、連通孔518、外部連通路520、連通孔522、連通孔504によって、環状室R24をリザーバ122に連通する環状室用連通路が形成されている。また、外部連通路520には、電磁式の開閉弁524が設けられており、この開閉弁524によって、環状室用連通路が開閉される。このような構造を有する本シリンダ装置110は、環状室用連通路および開閉弁524を含んで構成された機構、つまり、環状室R24とリザーバ122とが連通する環状室連通状態と連通しない環状室非連通状態とを選択的に実現する第1連通状態切換機構を備えているのである。なお、開閉弁524と連通孔518との間には、環状室R24のブレーキ液の圧力を検出するための圧力センサ[Pr]526が設けられている。
【0071】
中間ピストン406には、それの外周面に設けられた開口がピストン側ポートP1となる連通孔528が設けられている。連通孔528は内部室R26に繋がっており、連通孔528によって1つの連通路(以下、「第1連通路」という場合がある)が形成されている。また、中間ピストン802の外周面であって連通孔528の前後には、環状のシール530F、530Rが、比較的小さな間隔を置いて、それぞれ嵌め込まれている。また、第1ハウジング部材410の壁内に、連通路532が形成されており、この連通路532は、一端が連通孔522につながるとともに、他端が前方小径部422の後端部の内周面に開口している。この開口は、ハウジング側ポートP2とされている。連通路532は、連通孔522、連通孔504を介して、リザーバ122に繋げられており、これら連通路532、連通孔522、連通孔504によって1つの連通路(以下、「第2連通路」という場合がある)が形成されている。したがって、内部室R26は、これら第1連通路および第2連通路を含んで構成される内部室用連通路を介して、リザーバ122に連通可能となっている。
【0072】
なお、外部高圧源装置118から、増減圧装置120を介して高圧のブレーキ液が入力室R23および後背室R25に供給される場合であっても、中間ピストン406は前進・後退させられない。詳しく説明すると、入力室R23を区画する本体部470前端の受圧面積と、後背室R25を区画するの鍔部472の後端の受圧面積とが略等しくされており、入力室R23の圧力によって中間ピストン406を後退させる力と、後背室R25の圧力によって中間ピストン406を前進させる力とが均衡することによって、中間ピストン406が進退しないようになっている。
【0073】
≪シリンダ装置の作動≫
以下にシリンダ装置110の作動について説明するが、便宜上、通常時の作動を説明する前に、電気的失陥の場合、つまり、当該液圧ブレーキシステム100への電力供給が断たれた場合における作動を説明する。なお、失陥時には、増圧リニア弁250,減圧リニア弁252は、それぞれ、閉弁状態,開弁状態となっており、また、開閉弁524は開弁状態となっていることで、第1連通状態切換機構によって、環状室R24とリザーバ122とが連通する環状室連通状態が実現されている。
【0074】
失陥時において、運転者によってブレーキペダル150の踏込操作が開始されると、入力ピストン408は前進を開始する。踏込操作開始時には、未だ、中間ピストン406が前進されていない状態であり、ピストン側ポートP1とハウジング側ポートP2とは、シール部材530Fと530Rとの間において向かい合っている。つまり、ピストン側ポートP1とハウジング側ポートP2とは、互いに連通されており、内部室R26とリザーバ122とが連通される内部室連通状態が実現されている。この状態で、入力ピストン408は、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482を縮めつつ、中間ピストン406に対して前進し、その際、内部室R26の容積は、内部室R26のブレーキ液がリザーバ122へ流出されて減少する。
【0075】
入力ピストン408が前進をして間もなく、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482のばね反力によって中間ピストン406が前進させられる。中間ピストン406の前進によって、シール530Rがハウジング側ポートP2を通過すると、ピストン側ポートP1とハウジング側ポートP2との連通が断たれ、内部室非連通状態が実現される。したがって、内部室R26の容積変化が禁止され、入力ピストン408と中間ピストン406との相対移動が禁止されて、入力ピストン408と中間ピストン406とが一体となって前進させられる。このように内部室非連通状態が実現されることに鑑みれば、ピストン側ポートP1、ハウジング側ポートP2、シール部材530F、530Rは、内部室用連通路を開閉することができる開閉弁を構成していると考えることができる。また、本シリンダ装置110は、その開閉弁と内部室用連通路とを含んで構成され、開閉弁によって内部室用連通路を開閉することで、内部室R26とリザーバ122とが連通する内部室連通状態と連通しない内部室非連通状態とを選択的に実現する第2連通状態切換機構を備えているのである。
【0076】
中間ピストン406が前進することで、中間ピストン406は、第1加圧ピストン402に当接したままで第1加圧ピストン402を前進させる。また、内部室非連通状態が実現されているため、入力ピストン408と中間ピストン406とが一体とされており、ブレーキペダル150に加えられた操作力は、第1加圧ピストン402に直接伝達されることになる。したがって、運転者は、自身の力で、第1加圧ピストン402を押すことができるのである。それにより、第1加圧ピストン402は前進し、第1加圧室R21とリザーバ122の伝達が断たれ、第1加圧室R21のブレーキ液は、ブレーキペダル150に加えられた操作力によって加圧されるのである。ちなみに、第1加圧室R21の加圧に伴って、第2加圧ピストン404も前進し、第1加圧室R21と同様、第2加圧室R22とリザーバ122との連通が断たれ、第2加圧室R22内のブレーキ液も加圧されることになる。このようにして、ブレーキペダル150に加えられる操作力によって、第1加圧室R21,第2加圧室R22のブレーキ液が加圧される操作力依存加圧状態が実現され、ブレーキ装置116に、運転者の操作力に応じた液圧が入力されることになる。
【0077】
運転者がブレーキ操作を終了させると、つまり、操作力のブレーキペダル150への付与が解除されると、第1加圧ピストン402,第2加圧ピストン404、中間ピストン406は、リターンスプリング464、466によって、それぞれ、初期位置(図2に示す位置であり、中間ピストン406の後端が第2ハウジング部材412の前端部に当接する状態となる位置)に戻される。また、入力ピストン408は、オペレーションロッド152とともに、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482によって、初期位置(図2に示す位置であり、前端部が、シールホルダ474によって係止される位置)に戻される。
【0078】
次に、通常時の作動について説明する。通常時においては、開閉弁524は励磁されて閉弁状態とされるため、第1連通状態切換機構によって、環状室R24とリザーバ122とが連通しない環状室非連通状態が実現され、環状室R24が密閉されて中間ピストン406の前進が禁止されている。この状態で、ブレーキ操作が行われて入力ピストン408が前進されたとしても、中間ピストン406の前進が禁止されているため、第2連通状態切換機構によって、内部室R26とリザーバ122とが連通される内部室連通状態が維持される。通常時は、上述した失陥時の場合と異なり、入力ピストン408の中間ピストン406に対する前進は、許容される。入力ピストン408が前進する際、入力ピストン408には、弾性力付与機構、つまり、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482による弾性力が、抵抗力として作用する。その弾性力は、ブレーキペダル150の操作に対する操作反力として作用することになる。
【0079】
図3は、入力ピストン408の前進量、つまり、ブレーキぺダル150の操作量に対する操作反力の変化(以下、「操作反力勾配」という場合がある)を示すグラフである。言い換えれば、本シリンダ装置110の操作反力特性を示すグラフである。この図から解るように、ブレーキペダル150の操作量が増加するとそれにつれて操作反力は増加する。そして、設定量(以下、「反力勾配変化操作量」という場合がある)を超えてブレーキペダル150の操作量が増加すると、操作量の変化に対する操作反力の変化は大きくなる。すなわち、操作反力の増加勾配が大きくなるようにされているのである
【0080】
図3に示す特性を有する操作反力の変化は、ブレーキペダル150の操作量が反力勾配変化操作量を超えた場合に、つまり、入力ピストン408の前進量が設定量を超えた場合に、2つの反力スプリング480,482の一方である第1反力スプリング480による加圧力が増加しないようにされていることで、実現されている。本シリンダ装置110では、第1反力スプリング480のばね定数が第2反力スプリング482のばね定数より相当小さくされている。そのため、比較的操作量が小さい範囲では、操作量の変化に対する操作反力の変化は相当に小さくなっている。詳しく説明すると、比較的操作量の小さい範囲では、第1反力スプリング480,第2反力スプリング482はともに圧縮変形するようにされている。それに対して、操作量が反力勾配変化操作量を超えると、緩衝ゴム486が入力ピストン408の後端部に当接して、第1反力スプリング480が弾性変形しなくなり、第2反力スプリング482のみが弾性変形する。このような機構により、設定量を超えたブレーキペダル150の操作を行った場合に、操作反力の増加勾配が大きくなるのである。このような操作反力特性により、ブレーキペダル150の操作感は良好なものとされる。
【0081】
先に説明したように、本車両では、液圧ブレーキシステム100は、目標制動力のうちの回生制動力を超える分だけ液圧制動力を発生させればよい。極端に言えば、目標制動力を回生制動力で賄える限り、液圧ブレーキシステム100による液圧制動力を必要としない。本シリンダ装置110では、通常時において、発生させる液圧制動力に依存せずに、ブレーキペダル150の操作量に応じた操作反力が発生する構造とされている。極端に言えば、本シリンダ装置110は、第1加圧ピストン402,第2加圧ピストン404によるブレーキ液の加圧を行わない状態でのブレーキペダル150の操作を許容する機能を有している。つまり、本シリンダ装置110は、ハイブリッド車両に好適なストロークシミュレータを有しているのである。
【0082】
上記ブレーキ操作の途中で液圧制動力を発生させるべく、第1加圧ピストン402,第2加圧ピストン404によって第1加圧室R21,第2加圧室R22のブレーキ液を加圧する場合には、高圧源装置118によって発生させられた圧力を、入力室R23に入力すればよい。具体的には、回生制動力を超える分の液圧制動力が得られるように、増減圧装置120によって制御された圧力を入力室R23に入力させればよい。本車両において回生ブレーキで得られる最大の回生制動力を利用可能最大回生制動力と定義すれば、目標制動力がその利用可能最大回生制動力を超えた時点から液圧制動力を発生させると仮定した場合において、その液圧制動力の発生が開始される時点のブレーキペダルの操作量は、概して、図3における最大回生時液圧制動開始操作量となる。液圧ブレーキシステム100では、この最大回生時液圧制動開始操作量は、前述の反力勾配変化操作量よりもやや大きく設定されている。ちなみに、バッテリ26の充電量等の関係で、目標制動力が利用可能最大回生制動力を超えない場合であっても、液圧制動力が必要となる場合があるため、その場合には、最大回生時液圧制動開始操作量に至らぬ段階で、入力室R23に高圧源装置118からの圧力を入力させればよい。
【0083】
入力室R23に圧力が入力された場合、その圧力によって第1加圧ピストン402は、ブレーキペダル150に加えられた操作力に依存せずに、また、操作量に依存せずに前進して、第1加圧室R21のブレーキ液を加圧する。それに従って、第2加圧ピストン404によって第2加圧室R22のブレーキ液も加圧される。つまり、入力ピストン408の前進とは関係なく、高圧源からの圧力に依存して第1加圧室R21,第2加圧室R22におけるブレーキ液が加圧される高圧源圧依存加圧状態が実現される。このシリンダ装置110による制動力、すなわち、液圧制動力は、入力されたブレーキ液の圧力によって決まる。入力圧は、増減圧装置120によって制御され、必要な大きさの圧力が入力室R23に入力される。
【0084】
通常時においても、ブレーキペダル150の操作を終了させれば、減圧リニア弁252が開弁状態とされ、第1加圧ピストン402,第2加圧ピストン404は、リターンスプリング464,466によって、それぞれ、初期位置に戻され、また、入力ピストン408は、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482によって、初期位置に戻される。
【0085】
≪本シリンダ装置の特徴≫
本シリンダ装置110は、入力ピストン408と中間ピストン406とが嵌め合わされた構造となっているため、入力ピストン408と係合させる必要のある高圧シールが少なくなっている。具体的には、図2に示すシール540とシール542の2つだけが入力ピストン408と係合する高圧シールである。そのため、高圧源依存加圧状態において、入力ピストン408の移動に対する摩擦抵抗が比較的少なく、摩擦抵抗がブレーキペダル150の操作感に与える影響、つまり、ブレーキ操作の操作感にに与える影響が小さくされている。
【0086】
本シリンダ装置110では、ブレーキペダル150が操作されていない状態において、第1加圧ピストン402と中間ピストン406とが当接する程に入力室R23の容積が小さくされている、したがって、失陥時において、ブレーキペダル150の操作が開始された直後から、ブレーキペダル150に加えられる操作力によって、第1加圧室R21,第2加圧室R22のブレーキ液が加圧される。つまり、失陥時において、ブレーキペダル150の操作範囲、つまり、操作ストロークが充分に確保されているのである。
【0087】
また、本シリンダ装置110では、内部室非連通状態を実現させる機構として、上述の機構を採用している。つまり、中間ピストン406に2つのシール部材530F、530Rを嵌め、その間にピストン側ポートP1を設けるとともに、中間ピストン406の移動に伴って、ピストン側ポートP1とハウジング側ポートP2との連通が断たれるよう構成されている。このような構成によって、中間ピストン406が、それの前進範囲のいずれの位置に位置している場合でも、第1ハウジング部材410の内周面と2つのシール部材530F、530Rとによって区画される小さな空間によって、内部室R26が密閉される。したがって、シリンダ装置110の中間ピストン406の移動方向における寸法が小さくされており、コンパクト化が図られている。
【0088】
さらに、本シリンダ装置110では、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482が、入力ピストン408と中間ピストン406とによって区画形成される内部室R26内に配設されている。したがって、シリンダ装置110内にストロークシミュレータが組み込まれており、しかも、内部室R26というデッドスペースに、ストロークシミュレータが組み込まれているため、コンパクトなシリンダ装置が実現されている。
【0089】
≪変形例1≫
図4に、実施例のシリンダ装置110に代えて、変形例のシリンダ装置570を採用した液圧ブレーキシステム100を示す。シリンダ装置570では、実施例のシリンダ装置110における開閉弁524に代えて、リリーフ弁572が採用されており、また、圧力センサ526が削除されている。その他の構造は実施例と同じ構造とされている。以下の変形例の説明においては、説明の簡略化のため、本シリンダ装置570において、実施例のシリンダ装置110と異なる構成および作動についてのみ説明する。
【0090】
シリンダ装置570においては、第1連通状態切換機構は、リリーフ弁572および、環状室R24をリザーバ122に連通する環状室用連通路を含んで構成されている。ブレーキペダル150が操作されていない場合には、リリーフ弁572は閉弁されている。つまり、第1連通状態切換機構によって、環状室非連通状態が実現されており、環状室R24は密閉されている。運転者によってブレーキペダル150の踏込操作が開始されると、入力ピストン408は前進を開始し、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482のばね反力が増加する。これらのばね反力によって、中間ピストン406には前方への力が作用し、中間ピストン406の鍔部472によって、環状室R24におけるブレーキ液が加圧される。その加圧された環状室R24のブレーキ液の圧力がリリーフ弁572の開弁圧に達すると、リリーフ弁572が開弁し、環状室R24のブレーキ液がリザーバ122に流出するとともに、中間ピストン406が前進する。つまり、第1連通状態切換機構は、リリーフ弁572の設定圧に依拠して環状室連通状態が実現される圧力依拠連通機構と考えることができる。
【0091】
上記リリーフ弁572の開弁圧は、入力室R23への入力圧が大気圧となっている状態において、ブレーキペダル150の操作量が設定操作量となった場合における環状室R24の圧力に設定されている。その設定操作量は、図3における最大回生時液圧制動開始操作量を超えて設定されている。したがって、本シリンダ装置570では、失陥時に、その設定操作量を超えてブレーキペダル150が操作された場合に、リリーフ弁572が開弁して、操作力依拠加圧状態が実現される。ちなみに、電磁式開閉弁に比べて、リリーフ弁は安価であるため、本シリンダ装置570は、比較的安価なシリンダ装置となっている。
【0092】
リリーフ弁572の開弁によってのみ、環状室連通状態が実現されると仮定した場合、操作力によって中間ピストン406を前進させようとすると、環状室R24にリリーフ弁572の開弁圧に相当する残圧が存在するため、その残圧に応じた操作反力を受けた状態での操作が必要となる。このことは、失陥時において、操作力が、第1加圧ピストン402,第2加圧ピストン404による加圧以外に利用されるといったロスを生じさせる。そのことに鑑み、本シリンダ装置570では、中間ピストン406が設定量前進した場合に、つまり、環状室R24の容積が設定容積となった場合に、環状室連通状態を実現するための機構、すなわち、容積依拠連通機構が設けられている。
【0093】
上記容積依拠連通機構について具体的に説明すれば、以下のようである。中間ピストン406の前進によって、シール部材530Rがハウジング側ポートを通過すると、ピストン側ポートP1とハウジング側ポートP2との連通が断たれて内部室非連通状態が実現されるのと同時に、環状室R24は、ハウジング側ポートP2を有する連通路532、つまり、第2連通路に、中間ピストン406と第1ハウジング部材410との間に形成される隙間を介して連通される。言い換えれば、中間ピストン406が、ハウジング側ポートP2およびシール部材530Rの各々の位置によって設定される距離だけ前進し、環状室R24の容積がその距離に応じた設定容積より小さくなれば、環状室R24がリザーバ122に連通させられるのである。このように構成された容積依拠連通機構によって実現された環状室連通状態では、環状室R24は大気圧とされるため、環状室R24の圧力による操作反力は発生せず、以降の操作における操作力は、ロスの少ない状態で、第1加圧ピストン402,第2加圧ピストン404による加圧に利用されることになる。
【0094】
通常時においては、ブレーキペダル150の操作量が上記最大回生時液圧制動開始操作量を超えない段階で、入力室R23に、高圧源装置118からの圧力が入力される。そのため、環状室R24の圧力が上記設定開弁圧となっても、入力圧の上昇によってリリーフ弁572は開弁されない。したがって、環状室R24は密閉されたままであり、高圧源圧依存加圧状態において、シリンダ装置570は、実施例のシリンダ装置110と同様に作動することができる。
【0095】
本シリンダ装置570では、ブレーキペダル150にある程度以上の操作力が加わったときに、環状室連通状態が実現される。一般的に、電磁式開閉弁に比較してリリーフ弁は安価であり、本シリンダ装置570は、比較的安価なシリンダ装置とされている。
【0096】
≪変形例2≫
図5に、実施例のシリンダ装置110に代えて、変形例のシリンダ装置600を採用した液圧ブレーキシステム100を示す。以下の説明においては、説明の簡略化に配慮し、実施例のマスタシリンダ装置110と異なる構成および作動についてのみ説明し、実施例のマスタシリンダ装置110と同じ構成および作動については説明を省略する。
【0097】
シリンダ装置600では、実施例のシリンダ装置110の第1ハウジング部材410に代えて、第1ハウジング部材602が採用されている。第1ハウジング部材602は、連通路532を除いて、第1ハウジング部材410と同じ構造とされている。詳しく説明すると、第1ハウジング部材602には、連通路532に代えて、一端が連結ポートであって、他端が前方小径部422の後端部の内周面に開口する連通孔604が設けられている。つまり、連通孔604の他端の開口は、実施例のシリンダ装置110の連通路532の開口と同様に、ハウジング側ポートP2とされている。一方、連通孔604の連結ポートには、一端が連通孔522に接続される外部連通路606の他端が連結されている。つまり、連通孔604は、外部連通路606等を介してリザーバ122に連通しており、ハウジング側ポートP2からリザーバ122に繋がる第2連通路を構成している。したがって、内部室R26は、第1連通路である連通孔528、連通孔604、外部連通路606等を含んで構成される内部室用連通路を介して、リザーバ122に連通可能となっている。また、外部連通路606の途中には、その内部室用連通路を開閉することができる機械式の開閉弁610が設けられている。
【0098】
図6は、その開閉弁610の断面図である。開閉弁610は、筐体であるハウジング612と、そのハウジング612内部に配置された弁子部材614およびプランジャ616を含んで構成されている。ハウジング612は、両端が閉塞された円筒形状とされている。ハウジング612の内部には、内径の大きい大内径部618と内径の小さい小内径部620とが形成されており、それら内径部の境界には段差面622が形成されている。ハウジング612内には、概して円柱形状とされた仕切部材624が、段差面622に当接する状態で大内径部618に固定的に嵌入されている。なお、仕切部材624の中心部には、連通孔626が設けられている。また、仕切部材624の外周において段差面622に近い部分では、外径が小さくされており、ハウジング612の大内径部618と仕切部材624との間には、隙間628が形成されている。
【0099】
ハウジング612の大内径部618には、仕切部材624とによって液室R31が区画されている。その液室R31には、球形とされた弁子部材614と圧縮コイルスプリング630とが配置されており、弁子部材614はスプリング630の弾性反力によって連通孔626にそれを塞ぐようにして押し付けられている。なお、弁子部材614の直径は、連通孔626の直径より大きくされている。つまり、仕切部材624は弁座として機能し、弁子部材614が着座することで、連通孔626を塞ぐことができる。この状態で、開閉弁610は閉弁状態となる。ハウジング612の小内径部620には、概して円柱形状とされたプランジャ616が配置されている。プランジャ616は、一端が連通孔626の直径より小さな外径とされた先端部632とされており、他端が小内径部620の内径より若干小さな外径とされた基底部634とされている。したがって、プランジャ616は、基底部634が小内径部620に摺動可能な状態で、ハウジング612内部に嵌め込まれている。また、プランジャ616の前方には、小内径部620,仕切部材624,プランジャ616によって液室R32が区画されており、後方には、小内径部620,プランジャ616によって、後述するパイロット圧とされる作動液が導入されるパイロット圧室R33が区画されている。なお、パイロット圧室R33は図6では殆ど潰れた状態で示されている。また、前述の連通孔626によって、液室R32は液室R31に連通することが可能とされている。
【0100】
ハウジング612の大内径部618には、一端が液室R31に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔636が設けられている。また、大内径部618の段差面622の近くには、一端が隙間628に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔638が設けられている。また、仕切部材624には、隙間628と液室R32とを連通する連通孔640が設けられている。さらに、ハウジング612の小内径部620には、一端がパイロット圧室R33に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔642が設けられている。
【0101】
連通孔636、638の各連結ポートは、それぞれ外部連通路606に接続されている。つまり、連通孔636、液室R31、R32,連通孔640、隙間628、連通孔638は、外部連通路606の一部を構成している。また、連通孔642の連結ポートには、外部連通路520から分岐する連通路が繋げられており、パイロット圧室R33には、環状室R24のブレーキ液と同じ圧力のブレーキ液が供給される。したがって、プランジャ616は、環状室R24内の作動液の圧力に応じて、自身の先端部632が連通孔626を挿通して弁子部材614を押圧するように作動することができる。その弁子部材614を押圧する力が、スプリング630の弁子部材614を押す力以上になると、プランジャ616は弁子部材614を連通孔626から離間させることができる。この状態で開閉弁610は開弁状態となる。
【0102】
このように構成された内部室用連通路と開閉弁610とを含んで構成されるシリンダ装置600の作動について以下に説明する。電気的失陥時では、開閉弁524は開弁状態とさせられているため、環状室R24および外部連通路520のブレーキ液の圧力は、大気圧となっている。したがって、開閉弁610では、パイロット圧室R33のブレーキ液の圧力は大気圧となっている。そのため、プランジャ616が弁子部材614を押すことはない。また、液室R32の作動液には、内部室R26内の作動液の圧力が作用するが、開閉弁610はその圧力によって開弁しないように構成されている。詳しく言うと、液室R32内の作動液が弁子部材614に作用する部分の面積は相当に小さくされており、その作動液の圧力によって弁子部材614を仕切部材624から押し上げる力が、スプリング630によって弁子部材614を仕切部材624に押し付ける力より大きくなることがないように、開閉弁610は構成されている。したがって、電気的失陥時には、開閉弁610は閉弁状態に維持される。そのため、内部室R26はリザーバ122に連通することができず、内部室非連通状態が実現されている。つまり、本シリンダ装置600は、内部室用連通路と開閉弁610とを含んで構成される第2連通状態切換機構を有していると考えることができる。
【0103】
このように、シリンダ装置600では、電気的失陥時に、中間ピストン406の前進によって、シール530Rがハウジング側ポートP2を通過する以前に、つまり、中間ピストン406が前進していない状態において、開閉弁610によって内部室R26の容積変化が禁止されている。その結果、運転者によるブレーキペダル150の踏込操作の開始とともに、入力ピストン408と中間ピストン406とが一体となって前進させられ、運転者は、自身の力で、第1加圧ピストン402を押すことができる。そのため、電気的失陥時であっても、ブレーキ操作を開始してもブレーキ装置が制動力を発生しない状態、すなわち、空踏みのような状態がブレーキ操作に殆どなく、運転者は違和感を感じることなくブレーキ操作をすることができる。
【0104】
また、シール530Rがハウジング側ポートP2を通過すると、ピストン側ポートP1とハウジング側ポートP2との連通が断たれるため、実施例のシリンダ装置110と同様に、そのことによっても内部室非連通状態が実現される。このように、本シリンダ装置600は、内部室用連通路と開閉弁610とを含んで構成される上記の第2連通状態切換機構とともに、実施例のシリンダ装置110と同様の第2連通状態切換機構も有していると考えることができる。このように、2種の第2連通状態切換機構が設けられたシリンダ装置600は、それらの一方が他方のバックアップ的な役割を果たすことができるため、フェールセーフの観点において優れたシリンダ装置となっている。
【0105】
また、通常時においては、開閉弁524は励磁されて閉弁状態とされているため、第1連通状態切換機構によって、環状室R24とリザーバ122とが連通しない環状室非連通状態が実現される。つまり、環状室R24が密閉されており、中間ピストン406の前進が禁止されている。この状態でブレーキペダル150の踏込操作が開始されると、入力ピストン408は前進を開始し、第1反力スプリング480および第2反力スプリング482のばね反力が増加する。これらのばね反力によって、中間ピストン406には前方への力が作用し、中間ピストン406の鍔部472によって、環状室R24におけるブレーキ液が加圧される。したがって、パイロット圧室R33のブレーキ液の圧力も上昇するため、開閉弁610のプランジャ616は移動させられて、弁子部材614を押し上げる。つまり、開閉弁610は開弁されて、内部室R26はリザーバ122に連通する。したがって、通常時においては、開閉弁610を含んで構成される第2連通状態切換機構によっても内部室連通状態が実現され、入力ピストン408の中間ピストン406に対する前進が許容される。
【0106】
≪変形例3≫
図7に、実施例のシリンダ装置110に代えて、変形例のシリンダ装置700を採用した液圧ブレーキシステム100を示す。シリンダ装置700は、実施例の第2変形例のシリンダ装置600における機械式の開閉弁610に代えて、電磁式の開閉弁702を採用しており、他の構成は実施例の第2変形例のシリンダ装置600の構成と同じとされている。開閉弁702は、外部連通路606に配置されており、通常時に開弁状態となり、電気的失陥時に閉弁状態となるように、非励磁で閉弁状態となる常閉弁とされている。したがって、電気的失陥時においては、開閉弁702を含んで構成される第2連通状態切換機構によっても内部室非連通状態が実現され、入力ピストン408と中間ピストン406とが一体となって前進させられる。また、ブレーキ操作に拘らず内部室非連通状態が実現されているため、ブレーキペダル150の踏込操作の開始とともに操作力依存加圧状態が実現される。
【符号の説明】
【0107】
110:シリンダ装置 116:ブレーキ装置 118:外部高圧源装置 122:リザーバ 150:ブレーキペダル(操作部材) 400:ハウジング 402:第1加圧ピストン(加圧ピストン) 406:中間ピストン 408:入力ピストン 470:本体部 472:鍔部 480:第1反力スプリング(弾性力付与機構) 482:第2反力スプリング(弾性力付与機構) 484:浮動座 520:外部連通路 524:開閉弁 530F:シール部材(シール) 530R:シール部材(シール) R23:入力室 R24:環状室 R26:内部室 P1:ピストン側ポート P2:ハウジング側ポート 570:シリンダ装置 572:リリーフ弁 600:シリンダ装置 610:機械式開閉弁(第2連通状態切換機構) 700:シリンダ装置 702:電磁式開閉弁(第2連通状態切換機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられたブレーキ装置を作動させるために、加圧されたブレーキ液をそのブレーキ装置に供給するシリンダ装置であって、
前端部が閉塞された筒状のハウジングと、
自身の前方においてブレーキ液を加圧する加圧室が区画されるようにして、前記ハウジング内に配設された加圧ピストンと、
本体部とその本体部の外周に形成された鍔部とを有し、前記本体部の前方において高圧源からの圧力が入力される入力室が区画されるとともに、前記鍔部の前方において自身の進退に伴って容積が変化する環状室が区画されるようにして、前記ハウジング内に配設された中間ピストンと、
その中間ピストンとの相対移動に伴って容積が変化する内部室が区画されるようにして、その中間ピストンの後端部に嵌め合わされ、自身の後端部において操作部材に連結される入力ピストンと、
前記内部室の容積が減少する向きの前記入力ピストンと前記中間ピストンとの相対移動に伴って、その相対移動に対抗する方向の弾性力を前記入力ピストンと前記中間ピストンとに付与する弾性力付与機構と、
前記環状室とリザーバとが連通する環状室連通状態と連通しない環状室非連通状態とを選択的に実現させる第1連通状態切換機構と、
前記内部室と前記リザーバとが連通する内部室連通状態と連通しない内部室非連通状態とを選択的に実現させる第2連通状態切換機構と
を備え、
前記環状室非連通状態かつ前記内部室連通状態において、前記内部室の容積変化を伴う前記入力ピストンと前記中間ピストンとの相対移動を許容しつつ前記中間ピストンの前進を禁止することで、前記前記弾性力付与機構の弾性力に依拠して前記操作部材の操作量に応じた操作反力を発生させるとともに、前記入力室に入力される前記高圧源からの圧力に応じた前記加圧室のブレーキ液の加圧を許容し、
前記環状室連通状態かつ前記内部室非連通状態において、前記内部室の容積変化を禁止して前記入力ピストンと前記中間ピストンとの相対移動を禁止しつつ、前記加圧ピストンに当接した状態での前記中間ピストンの前進を許容することで、前記操作部材に加えられた操作力による前記加圧室のブレーキ液の加圧を許容するように構成されたシリンダ装置。
【請求項2】
前記第2連通状態切換機構が、
前記内部室と前記リザーバとを連通するための内部室用連通路と、その内部室用連通路に設けられてその連通路を開閉する開閉弁とを含んで構成された請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項3】
前記中間ピストンが、
前後方向に互いに離間した位置において当該中間ピストンの本体部の外周面に嵌められた2つのシールを介して、前記ハウジングの内周面に摺接するようにされており、かつ、前記内部室と、前記2つのシールの間の位置において前記中間ピストンの本体部の外周面に形成されたピストン側ポートとを繋ぐ第1連通路を有し、
前記ハウジングが、
前記中間ピストンが前進していない状態においてその中間ピストンの前記2つのシールの間の部分と向かいあう位置において当該ハウジングの内周面に形成されたハウジング側ポートから、前記リザーバに繋がる第2連通路を有し、
前記第1連通路および前記第2連通路を含んで前記内部室用連通路が構成されるとともに、前記2つのシール,前記ピストン側ポートおよび前記ハウジング側ポートを含んで前記開閉弁が構成され、
前記第2連通状態切換機構が、
前記中間ピストンが前進していない状態において前記ピストン側ポートと前記ハウジング側ポートとが連通する状態となることによって、前記内部室連通状態が実現し、前記中間ピストンの前進によって、前記ハウジング側ポートが前記2つのシールよりも後方側の位置において前記中間ピストンの外周面と向かい合い、前記ピストン側ポートと前記ハウジング側ポートとが連通しない状態となることによって、前記内部室非連通状態が実現するように構成された請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項4】
前記第1連通状態切換機構が、前記環状室と前記リザーバとを連通するための環状室用連通路と、その環状室用連通路に設けられてその連通路を開閉する開閉弁とを含んで構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【請求項5】
前記第1連通状態切換機構が、前記環状室とリザーバとを連通するための環状室用連通路と、その環状室用連通路に設けられて前記環状室の圧力が設定圧を超えた場合にその連通路を開閉するリリーフ弁とを含んで構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【請求項6】
当該シリンダ装置が、
前記内部室内に配設され、自身の弾性力を前記内部室の容積が増大する方向に前記入力ピストンと前記中間ピストンとに作用させるスプリングを備え、
そのスプリングを含んで前記弾性力付与機構が構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【請求項7】
当該シリンダ装置が、
それぞれが前記スプリングとして機能し、一方の一端部が前記入力ピストンと前記中間ピストンとの一方に支持され、かつ、他方の一端部が前記入力ピストンと前記中間ピストンとの他方に支持された状態で、前記内部室内において直列的に配設され、互いにばね定数の異なる2つのスプリングと、
それら2つのスプリングの一方の他端部と他方の他端部との間に挟まれて、それら2つのスプリングによって浮動支持されるとともに、それら2つのスプリングの弾性力を前記内部室の容積が増大する方向に前記入力ピストンと前記中間ピストンとに作用させるべくそれら2つのスプリングを連結する浮動座と
を備え、
それら2つのスプリングと浮動座とを含んで前記弾性力付与機構が構成され、
前記入力ピストンと前記中間ピストンとが互いに近づくように相対移動する際、その相対移動の量が設定量を超えた場合に、前記入力ピストンと前記中間ピストンとの一方と前記浮動座と接近が禁止されることで、前記2つのスプリングの一方の弾性変形量が増加しないように構成された請求項6に記載のシリンダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−68338(P2011−68338A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156435(P2010−156435)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】