説明

シロアリ防除剤

【課題】シロアリの防除性能に優れ、しかも、人畜や環境に対する安全性がより高いシロアリ防除剤を提供すること。
【解決手段】シロアリ防除剤の有効成分として、ポナステロンA、マキステロンA、およびイノコステロンからなる群より選ばれる少なくとも1種のエクジステロイドを用いる。このエクジステロイドには、例えば、マキ属やイノコズチ属に属する植物の抽出体が用いられる。また、上記シロアリ防除剤は、木材の表面または内部に散布または注入するための木材保存剤として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロアリ防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シロアリ防除剤としては、例えば、ホキシム、クロルピリホスなどの有機リン系化合物、プロポキサー、バッサなどのカルバメート系化合物、アレスリン、パーメスリンなどのピレスロイド系化合物などの、殺虫性の強い化学合成薬剤が知られている。
上記の化合物は、そのほとんどが、比較的毒性の低い化合物である。しかし、例えば、有機リン系化合物やカルバメート系化合物のなかには、人畜に対してコリンエステラーゼ活性阻害作用を有するものがあり、また、ピレスロイド系化合物には、魚毒性の高いものが多い。それゆえ、上記の化合物については、人畜や環境に対する安全性が十分であるとは言い難く、自然の生態系を破壊するおそれがある。
【0003】
一方、天然物由来のシロアリ防除剤も知られている。例えば、キハダ(Phellodendron amurense Rupr., P. molle Nakai)に含まれるオバクノンや、オウレン(Coptis japonica Makino)の根およびキハダの樹皮などに含まれるベルベリンは、シロアリに対する防除効果が認められている。
また、特許文献1には、安全性の高いシロアリ防除剤として、ニームの有機溶媒または含水溶媒による抽出物を有効成分として含有する防除剤が開示されており、さらに、特許文献2には、モリンガ属、マラー属などの植物から抽出または滲出された成分を害虫防除剤として用いることが開示されている。
【特許文献1】特開平3−41011号公報
【特許文献2】特開平6−329514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、近年、上記特許文献に記載された成分以外の、天然物に由来する成分について、人畜や環境に対する安全性が十分であり、かつ上記特許文献に記載の防除剤と同等またはそれ以上の作用効果を有するシロアリ防除剤を提供することが要望されている。
そこで、本発明の目的は、シロアリの防除性能に優れ、しかも、人畜や環境に対する安全性がより高いシロアリ防除剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため、新規なシロアリ防除剤の有効成分について、鋭意検討したところ、一部の植物体や、昆虫の幼虫・さなぎなどに含まれている特定のエクジステロイドがシロアリ防除剤として有用であり、これら特定のエクジステロイドを有効成分として用いることにより、上記の課題を解決できるとの知見を見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) ポナステロンA、マキステロンA、およびイノコステロンからなる群より選ばれるいずれかのエクジステロイドを有効成分とすることを特徴とする、シロアリ防除剤、
(2) 木材の表面または内部に散布または注入するための木材保存剤であることを特徴とする、前記(1)に記載のシロアリ防除剤、
(3) 土壌の表面または内部に散布または注入するための木材保存剤であることを特徴とする、前記(1)に記載のシロアリ防除剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一部の植物体や、昆虫の幼虫・さなぎなどに含まれるエクジステロイドを有効成分としていることから、人畜や環境に対する安全性が高いシロアリ防除剤を提供することができる。
また、本発明のシロアリ防除剤は、シロアリ防除剤が使用されてからシロアリが死亡するまでの間のシロアリの活動を著しく低下させて、食害の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のシロアリ防除剤は、ポナステロンA、マキステロンA、およびイノコステロンからなる群より選ばれる少なくとも1種のエクジステロイドを有効成分として含有している。
ポナステロンA(ponasterone A)は、エクジステロイド(ecdysteroid)の一種であって、例えば、マキ属(ポドカルプス(Podocarpus))のポドカルプス・ナカイイ(Podocarpus nakaii、和名:トガリバマキ)などの植物体から抽出することができる。また、ポナステロンAは、例えば、完全変態する昆虫(具体的には、チョウ、ハチ、ハエなど)の幼虫・さなぎの前胸部にある腺(前胸腺)や、甲殻類(具体的には、エビ、ザリガニ、カニなど)のY器官などから抽出することができる。
【0009】
マキステロンA(makisterone A)は、エクジステロイドの一種であって、例えば、マキ属のポドカルプス・マクロフィルス(Podocarpus macrophyllus、和名:イヌマキ)などの植物体から抽出することができる。また、マキステロンAは、昆虫の幼虫・さなぎの前胸腺や、甲殻類のY器官などから抽出することができる。昆虫や甲殻類としては、上記と同じものが挙げられる。
【0010】
イノコステロンは、エクジステロイドの一種であって、例えば、イノコズチ属(アキランテス(Achyranthes))のアキランテス・ファウリエイ(Achyranthes fauriei、和名:ヒナタイノコズチ)、アキランテス・ビデンタータ(Achyranthes bidentata、中国産)などの植物体から抽出することができる。また、イノコステロンは、昆虫の幼虫・さなぎの前胸腺や、甲殻類のY器官などから抽出することができる。昆虫や甲殻類としては、上記と同じものが挙げられる。
【0011】
上記シロアリ防除剤は、ポナステロンA、マキステロンA、およびイノコステロンからなる群より選ばれるエクジステロイドを、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記の群に含まれるエクジステロイドは、上記の属に属する植物から、公知、慣用の方法により、抽出し、または滲出させることにより得られる。
【0012】
すなわち、上記エクジステロイドを抽出または滲出により採取するには、一般的に、まず、上記の属に属する植物の全体を細断し、または、上記の属に属する植物の種子、葉、茎、花、根などの部分を細断して、乾燥または粉砕する。次いで、有効成分を、適当な溶媒により抽出させ、または圧搾などにより滲出させ、必要に応じ、濃縮、精製などの処理をすればよい。
【0013】
また、上記エクジステロイドを滲出により採取するための他の方法としては、例えば、植物体の一部に傷をつけて、滲出物を採取する方法や、植物体またはその一部を、必要に応じて熱水処理などを施した後、圧搾して、滲出物を採取する方法が挙げられる。
上記エクジステロイドは、例えば、エキスとして市販されているものであってもよい。
上記エクジステロイドの抽出または滲出処理に用いられる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、アルコール類(例えば、メタノール、エタノールなど)、エーテル類(例えば、エチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、ケトン類(例えば、アセトンなど)、その他各種の有機溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
溶媒の使用量は、上記エクジステロイドの抽出または滲出操作が妨げられたり、抽出効率や滲出効率が損なわれたりすることのない範囲で設定される。具体的には特に限定されないが、溶媒の使用量は、例えば、上記植物100重量部に対し、50〜10000重量部、好ましくは、70〜5000重量部、より好ましくは、100〜2000重量部である。
【0015】
また、抽出または滲出処理の温度は、特に限定されないが、例えば、0〜150℃、好ましくは、室温(25℃程度)〜120℃である。抽出または滲出時間は、抽出または滲出処理の温度に合わせて適宜設定すればよい。例えば、抽出または滲出処理の温度が40℃前後であるときは、2〜4日放置して、抽出または滲出させてもよい。抽出または滲出処理を加熱還流下に行うには、3〜20時間、好ましくは、5〜10時間程度である。
【0016】
植物からエクジステロイドを抽出または滲出により採取するには、例えば、植物の全体を細断乾燥し、植物1重量部に対して5重量部のエタノールを加え約8時間還流抽出する。抽出後、ろ過し、エバポレータにより濃縮することによりエクジステロイドを含有したエキスを得る。
上記の群に含まれるエクジステロイドは、上記エクジステロイド単体であってもよく、それを含有する抽出エキスであってもよい。
【0017】
上記の方法により採取されたエクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスは、例えば、液状、例えば、粉末状、粒状などの固体状、例えば、ペーストなどの半固形状などの形態で得られる。
上記シロアリ防除剤は、公知の方法により、適宜製剤化されていてもよい。
製剤形態としては、例えば、溶液剤、水和剤、懸濁剤、分散剤、乳剤、油剤、ローションなどの液剤、例えば、粉末状または粒状の担体の表面に付着、担持させた粉剤、粒剤などの固形剤、例えば、マイクロカプセル剤、例えば、ペースト剤、クリームなどの半固形剤、例えば、噴霧剤、エアゾール剤などが挙げられる。
【0018】
例えば、上記シロアリ防除剤を液剤(溶液剤、水和剤、懸濁剤、分散剤、乳剤、油剤、ローションなど)として調製するには、例えば、上記エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスを、後述する含有割合となるように、溶媒中に配合し、必要により、液剤の形態に合わせて、分散安定剤、乳化剤などを配合し、さらに必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、防かび剤、比重調節剤などの公知の添加剤を適宜配合すればよい。
【0019】
液剤の調製に用いられる溶媒としては、上記エクジステロイドを溶解、または分散し得るものであればよい。それゆえ、特に限定されないが、シロアリ防除剤を溶液剤、懸濁剤、分散剤、乳剤などに調製する場合の溶媒には、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール類、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール類、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、例えば、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。これら溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
また、シロアリ防除剤を乳剤、油剤、ローションなどに調製する場合の溶媒には、例えば、アジピン酸ジアルキルエステル(具体的に、例えば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソオクチル、アジピン酸ジノニル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジドデシル、アジピン酸ジテトラデシル、アジピン酸ジヘキサデシル、アジピン酸ジオクタデシル、アジピン酸デシルイソオクチルなど。)、酢酸アルキルエステル(具体的に、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルなど。)などのカルボン酸アルキルエステル類、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのアルキレングリコール系エステル類、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、例えば、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、例えば、ヘキサノール、オクタノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコールなどのアルコール類、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール類、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどの含窒素化合物類、例えば、アルキルシクロパラフィン類などの石油系溶媒、なたね油などの油類などが挙げられる。これら溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
懸濁剤、分散剤、乳剤などの調製に用いられる分散安定剤、乳化剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤などの、従来公知の界面活性剤が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、商品名:レオドールTW−O120V、花王(株))、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(例えば、商品名:ナロアクティーCL100、三洋化成(株))、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル(例えば、商品名:ニューカルゲンCP80、ニューカルゲンCP120、竹本油脂(株)製)、脂肪族多価アルコールエステル、脂肪族多価アルコールポリオキシエチレン、ショ糖脂肪酸エステル、酸化エチレンと酸化プロピレンとのブロック共重合体などが挙げられる。
【0022】
カチオン界面活性剤としては、主として四級アンモニウム塩が挙げられ、具体的には、例えば、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアルキル(C8〜C18)トリメチルアンモニウムハライド類、例えば、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルドデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのジアルキル(C8〜C18)ジメチルアンモニウムハライド類などが挙げられる。また、油脂に由来する混合アルキル基を有する混合物、例えば、アルキル(C8〜C18)トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル(C8〜C18)ジメチルアンモニウム塩、アルキル(C8〜C18)ジメチルベンジルアンモニウム塩(例えば、商品名:サニゾールC、花王(株))なども挙げられる。
【0023】
アニオン界面活性剤としては、例えば、金属石鹸類、硫酸アルキルナトリウムなどの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルナフタレンスルホン酸塩、2−スルホコハク酸ジアルキルナトリウムなどの2−スルホコハク酸ジアルキル塩、ポリカルボン酸型界面活性剤、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カリウムなどが挙げられる。
【0024】
上記例示の界面活性剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の配合割合は、特に限定されないが、例えば、上記エクジステロイド100重量部に対して、500重量部以下、好ましくは、50〜200重量部である。
増粘剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、キサンタンガムなどが挙げられる。
【0025】
増粘剤の配合割合は、特に限定されないが、例えば、上記エクジステロイド100重量部に対して、500重量部以下、好ましくは、50〜200重量部である。
凍結防止剤、防腐剤、防かび剤、比重調節剤などは、特に限定されず、それぞれの用途に用いられている公知の添加剤が挙げられる。
上記シロアリ防除剤を固形剤(粉剤、粒剤など)として調製するには、例えば、上記エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスを、後述する含有割合となるように、粉状または粒状の担体と攪拌混合する。または、上記エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスを、後述する含有割合となるように、溶媒中に配合し、さらに必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、比重調節剤などの公知の添加剤を適宜配合して、懸濁液を調製後、得られた懸濁液を乾燥する。また、上記懸濁液をスプレードライによって粉剤化、粒剤化してもよい。
【0026】
粉末または粒状の担体としては、例えば、樹脂微粒子(例えば、ガンツ化成(株)製の合成樹脂微粒子「ガンツパール」シリーズなど。)、微粉末シリカ、パーライト(黒曜石や真珠岩を高温で熱処理して生成する白色粒状の発泡体)、ゼオライト、珪藻土、クレー、タルク、酸性白土、活性炭、炭酸カルシウム、木粉、粉末セルロース、デンプン、糖類などが挙げられる。
【0027】
また、上記シロアリ防除剤をマイクロカプセル剤として調製するには、上記エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスを、例えば、界面重合法、in situ重合法(界面反応法)、コアセルベーション法、液中乾燥法、融解分散冷却法、液中硬化皮膜法、コーティング法(気中懸濁法)、スプレードライ法、静電合体法、真空蒸着法などの方法により、マイクロカプセル化すればよい(例えば、特開昭61−249904号公報、特公平6−92282号公報、特公平6−92283号公報、特開平10−114608号公報、特開2000−247821号公報参照)。
【0028】
こうして得られたマイクロカプセルを含む分散液に、必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、比重調節剤などの公知の添加剤を適宜配合することにより、マイクロカプセルを含有する液剤またはペーストとしてのシロアリ防除剤を得ることができる。また、マイクロカプセルを含む分散剤を乾燥させることにより、マイクロカプセルからなる粉剤または粒剤としてのシロアリ防除剤を得ることができる。
【0029】
上記シロアリ防除剤を半固形剤(ペースト剤、クリームなど)として調製するには、上記エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスを、後述する含有割合となるように、ペーストやクリームを形成するための賦形剤中に配合し、さらに必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、比重調節剤などの公知の添加剤を適宜配合すればよい。
上記シロアリ防除剤を噴霧剤として調製するには、上記エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスを、後述する含有割合となるように、溶媒中に配合し、さらに必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、比重調節剤などの公知の添加剤を適宜配合して、噴霧器、スプレー容器などの容器に収容すればよい。
【0030】
上記シロアリ防除剤をエアゾール剤として調製するには、上記エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスと、さらに必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、比重調節剤などの公知の添加剤とを、溶媒中に配合し、噴射剤とともに、エアゾール容器に収容すればよい。
固形剤、マイクロカプセル剤、エアゾール剤などの調製に用いられる溶媒としては、例えば、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、その他各種の溶媒が挙げられる。これら溶媒の具体例は、上記したのと同様の溶媒が挙げられる。
【0031】
分散安定剤、乳化剤、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、防かび剤、比重調節剤などは、特に限定されず、それぞれの用途に用いられている公知の添加剤が挙げられる。
また、上記シロアリ防除剤を担持剤として調製するには、上記のエクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスと、粉末または粒状の担体と、さらに必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、比重調節剤などの公知の添加剤とを、上記エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスが後述する含有割合となるように配合し、これら配合成分を、攪拌、混合すればよい。
【0032】
上記シロアリ防除剤において、エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスの含有量は、特に限定されないが、シロアリ防除剤全体の0.1重量%以上、好ましくは、0.1〜100重量%、より好ましくは、0.5〜5重量%である。
上記シロアリ防除剤には、エクジステロイドまたはそれを含有する抽出エキスとともに、他のシロアリ防除成分が配合されていてもよい。
【0033】
他のシロアリ防除成分としては、これに限定されないが、例えば、ネオニコチノイド系化合物、ピレスロイド系化合物、有機塩素系化合物、有機リン系化合物、カルバメート系化合物、ピロール系化合物、フェニルピラゾ−ル系化合物、オキサジアジン系化合物、セミカルバゾン系化合物、植物またはその処理物もしくはその誘導体などが挙げられる。なかでも、好ましくは、ネオニコチノイド系化合物が挙げられる。
【0034】
ネオニコチノイド系化合物としては、具体的には、例えば、(E)−1−(2−クロロチアゾール−5−イルメチル)−3−メチル−2−ニトログアニジン(一般名:クロチアニジン)、N−アセチル−N−(2−クロロチアゾール−5−イル)メチル−N’−メチル−N”−ニトログアニジン、N−(2−クロロチアゾール−5−イル)メチル−N−メトキシカルボニル−N’−メチル−N”−ニトログアニジン、1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−N−ニトロイミダゾリン−2−イリデンアミン(一般名:イミダクロプリド)、3−(2−クロロ−チアゾール−5−イルメチル)−5−[1,3,5]オキサジアジナン−4−イルインデン−N−ニトロアミン(一般名:チアメトキサム)、(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(テトラヒドロ−3−フリルメチル)グアニジン(一般名:ジノテフラン)などが挙げられる。これらネオニコチノイド系化合物は、単独で使用してもよく、また2種類以上併用してもよい。
【0035】
有機塩素系化合物、有機リン系化合物、カルバメート系化合物、ピロール系化合物、フェニルピラゾ−ル系化合物、オキサダイアジン系化合物、およびセミカルバゾン系化合物としては、シロアリ防除剤として公知の各種化合物が挙げられる。
植物またはその処理物あるいはその誘導体としては、例えば、特開2002−307406号公報、特開2003−252708号公報、特開2005−74776号公報に記載されたものが挙げられる。
【0036】
上記シロアリ防除剤は、シロアリの駆除およびシロアリによる被害(食害など)の予防などの用途に広く使用できる。
シロアリを防除する部位としては、これに限定されないが、例えば、土壌(地盤面など)、例えば、木材、例えば、建物(建築物;すなわち、家屋、倉庫、門扉、塀およびこれらの付属設備など。)における基礎構造部、上部構造部および地下構造部、例えば、建物の付属設備としての地下埋設物、例えば、シロアリの生息・発生域などが挙げられる。
【0037】
具体的には、例えば、土壌用の処理剤として、または、一般工業用や土木工業用に用いられる各種木材用の処理剤として好適に使用できる。
液剤、固形剤、マイクロカプセル剤、半固形剤、噴霧剤、エアゾール剤または担持剤として製剤化されたシロアリ防除剤の使用方法は、特に限定されるものではないが、例えば、公知の散布方法によって、例えば、処理対象である木材などに散布すればよい。
【0038】
より具体的には、例えば、有効成分としての上記エクジステロイドが0.05〜20重量%の割合で含有され、液剤として調製されたシロアリ防除剤の場合、動力噴霧器または手動噴霧器を用いて、木材の表面に対して50〜500g/m2で散布すればよい。
有効成分としての、上記エクジステロイドが0.05〜20重量%の割合で含有された固形剤、マイクロカプセル剤、半固形剤、噴霧剤、エアゾール剤または担持剤を、木材の表面に散布する場合も、上記した分量で散布すればよい。
【0039】
シロアリ防除剤を土壌に散布する場合には、散布状況と製剤形態により異なるが、全面散布の場合は、約0.5〜5L/m2で、帯状散布の場合は、約3〜10L/m2で散布すれば良い。
上記シロアリ防除剤による防除対象は、シロアリ(等翅)目に属する昆虫であること以外は特に限定されないが、具体的には、例えば、イエシロアリ(Coptotermes formosanus)、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)などのミゾガシラシロアリ科に属するもの、アメリカカンザイシロアリ、ダイコクシロアリなどのレイビシロアリ科に属するものなどが挙げられる。
【0040】
なお、シロアリに対する防除(シロアリの駆除およびシロアリによる被害の予防)とは、殺蟻(殺シロアリ)のみならず、忌避、摂食阻害をも含めた意味に用いている。
上記のシロアリ防除剤は、有効成分が、天然物由来の特定のエクジステロイドであることから、人畜や環境に対する安全性が高い。しかも、従来の天然物由来のシロアリ防除剤に比べて、優れたシロアリの防除作用を発揮することができる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。
シロアリ防除剤の調製
実施例1
ポナステロンA(ALEXIS BIOCHEMICALS社(米国)製の試薬)をアセトンで希釈し、その濃度を1mg/mL(1000ppm)となるように調整して、液剤のシロアリ防除剤(1)を得た。
【0042】
実施例2
マキステロンA(ALEXIS BIOCHEMICALS社(米国)製の試薬)をアセトンで希釈し、その濃度を1mg/mL(1000ppm)となるように調整して、液剤のシロアリ防除剤(2)を得た。
実施例3
ヒナタイノコヅチの根を乾燥後粉砕し、粉砕物50gにメタノール250mLを加え、8時間還流した。還流後、ろ過により固形分を除去し、エバポレータで濃縮乾固して、ヒナタイノコヅチのエキスを抽出した。
【0043】
次に、得られたヒナタイノコヅチ抽出エキスに蒸留水300mLを添加し、n−ヘキサン、クロロホルム、およびn−ブタノール各300mLを用い、この順で、混合抽出した。
さらに、n−ブタノールによる抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。精製時の溶媒は、まず、クロロホルムを用い、次いで、クロロホルム−メタノール混合溶媒を用いた。また、クロロホルム−メタノール混合溶媒の混合比は、まず、9:1とし、溶出液の組成変化を薄層クロマトグラフィーで追跡しながら、順次、メタノールの混合割合を大きくした。こうして、精製されたイノコステロンを得た。
【0044】
得られたイノコステロンをアセトンで希釈し、その濃度を1mg/mL(1000ppm)となるように調整して、液剤のシロアリ防除剤(3)を得た。
シロアリ防除試験
実施例1のシロアリ防除剤(1)を、直径約12mmのろ紙(2種、JIS P 3801-1995)に対して40μL滴下し、風乾後、ろ紙の重量(WB)を測定した。
【0045】
次に、含水率12%のケイ砂5号が50g充填されたガラス瓶に、イエシロアリ50頭と、上記シロアリ防除剤(1)が染み込んだろ紙とを投入して、シロアリ防除試験を開始した。その際、イエシロアリが外部に抜け出さないように、ガラス瓶の開口部を蓋(通気孔を有するもの)で閉じた。
シロアリ防除試験の開始(上記ガラス瓶内へのイエシロアリと上記ろ紙との投入)から21日経過後に、ガラス瓶内のイエシロアリの挙動を観察し、死亡したシロアリ割合(死虫率)を計測した。
【0046】
また、シロアリ防除試験終了後のろ紙の重量WA(g)を測定し、試験開始前のろ紙の重量WB(g)とから、下記式により、ろ紙の食害率を測定した。
食害率(%)=(WB−WA)/WB×100
また、シロアリ防除剤(1)に代えて、実施例2のシロアリ防除剤(2)、および実施例3のシロアリ防除剤(3)についても、上記と同様にして、シロアリ防除試験をした。
【0047】
また、対照として、シロアリ防除剤が染み込んだろ紙に代えて、シロアリ防除剤を染み込ませていないろ紙(直径12mm、2種、JIS P 3801-1995)を用いたこと以外は、上記と同様にして、シロアリ防除試験をした。
上記シロアリ防除試験の結果を表1に示す。なお、死虫率および食害率の評価基準は、下記のとおりである。
【0048】
・死虫率
I:100%のシロアリが死亡した。
II:66.6%(全体の3分の2)以上、100%未満のシロアリが死亡した。
III:33.3%(全体の3分の1)以上、66.6%(全体の3分の2)未満のシロアリが死亡した。
IV:2%(1頭)以上、33.3%(全体の3分の1)未満のシロアリが死亡した。
V:死虫率が2%未満であった(死亡が確認されたシロアリが0頭であった)。
【0049】
・食害率
A:シロアリに食害されたろ紙の面積は、20%未満であった。
B:シロアリに食害されたろ紙の面積は、20%以上、40%未満であった。
C:シロアリに食害されたろ紙の面積は、40%以上、60%未満であった。
D:シロアリに食害されたろ紙の面積は、60%以上、80%未満であった。
E:シロアリに食害されたろ紙の面積は、80%以上、100%未満であった。
F:シロアリに食害されたろ紙の面積は、100%であった。
【0050】
【表1】

【0051】
シロアリ防除剤の調製
実施例4
パフィアエキスパウダー(松浦薬業(株)製)10重量部と、アジピン酸ジイソノニル60重量部と、プロピレングリコール30重量部とを配合し、均一に混合して、油剤のシロアリ防除剤(4)を得た。
【0052】
実施例5
パフィアエキスパウダー(松浦薬業(株)製)30重量部と、アジピン酸ジイソノニル25重量部と、ナロアクティーCL100(高級アルコール系非イオン界面活性剤、三洋化成(株)の商品名)10.5重量部と、ジエチレングリコールモノメチルエーテル27重量部と、菜種白紋油((株)J−オイルミルズ製)7.5重量部とを配合し、均一に混合して、乳剤のシロアリ防除剤(5)を得た。
【0053】
木材防蟻試験
木材についての防蟻試験は、社団法人日本木材保存協会規格集に記載の「表面処理用木材防蟻剤の室内防蟻効力試験方法および性能基準(JWPS−TW−S.1)」に準じて、以下の手順を採用した。
(i) 予め乾燥させたアカマツの木片(底面の縦および横の長さがそれぞれ1cmで、高さが2cmのもの)の表面に、実施例4で得られたシロアリ防除剤(4)(油剤)を処理した。こうして薬剤処理がされた木片を、60℃で48時間乾燥後、木片の重量(W1)を測定した。
【0054】
(ii) 予め含水率がシロアリ活動の至適含水率である8%調節されたケイ砂を、プラスチック容器に充填し、ケイ砂の表面に、上記木片を設置した。
(iii) 次いで、ケイ砂上に、イエシロアリの職蟻150頭と、兵蟻15頭とを放虫して、木材防蟻試験を開始した。試験は、標本数nを2とした。
(iv) 放虫後、21日間に亘って、イエシロアリの行動や、死亡頭数を観察した。
【0055】
(v) 放虫から21日間経過後、上記木片を取り出し、60℃で48時間乾燥後、木片の重量(W2)を測定した。
次いで、上記木片の重量について、木材防蟻試験開始前の値W1(g)と、試験終了後の値W2(g)とから、下記式により、木片の重量減少率を算出した。
重量減少率(%)=(W1−W2)/W1×100
上記式による重量減少率が、3%未満であるときは、木材の食害が少なく、シロアリ防除剤に防蟻効力があったことを示している。
【0056】
また、シロアリ防除剤(4)(油剤)に代えて、実施例5で得られたシロアリ防除剤(5)(乳剤)を水で3倍に希釈した水希釈液を用いたこと以外は、上記と同様にして、木材防蟻試験をした。
また、対照として、薬剤処理を施していないアカマツの木片(底面の縦および横の長さがそれぞれ1cmで、高さが2cmのもの)を用い、かつ試験の標本数nを3としたこと以外は、上記と同様にして、木材防蟻試験をした。
【0057】
なお、上記対照での木片の重量減少率は、薬剤処理を施さずに、60℃で48時間乾燥した木片の重量をW1として、上記式により算出した。
上記木材防蟻試験の結果を表2に示す。なお、死虫率の評価基準は、上記シロアリ防除試験と同様である。重量減少率の評価基準は、下記のとおりである。
・重量減少率
A:3%未満
B:3%以上、10%未満
C:10%以上、30%未満
D:30%以上
【0058】
【表2】

【0059】
野外試験
鹿児島県下のイエシロアリ生育地内において、実施例5で得られたシロアリ防除剤を土壌に散布し、そのシロアリ防除効果についての野外試験を行った。
試験は、(社)日本木材保存協会の規格「土壌処理用防蟻剤等の防蟻効力試験方法および性能基準(JWPS−TS−S)」の記載の方法を参考とした。
【0060】
すなわち、まず、イエシロアリ生息地内に6点をマークし、そのうち、任意の3点を処理土壌区とし、残りの3点を無処理土壌区とした。各々の試験区は、1m以上の間隔をあけて設定した。また、各試験区において、土壌表面の植生や落葉を除外した。
次に、実施例5で得られた乳剤のシロアリ防除剤(5)を、3L/m2の割合で、上記処理土壌区にのみ散布した。その後、処理土壌区および無処理土壌区の中央部に、健全なマツ辺材(縦10cm、横10cm、厚さ1cm)を2枚重ねて置いて、放置した。
【0061】
上記処理土壌および無処理土壌の表面には、上記規格に準じて、塩化ビニール樹脂板からなる箱型容器を設置し、移動しないように杭で固定した。
その結果、試験開始から1年経過後には、無処理土壌区のマツ辺材に、食害の痕跡が観察された。
一方、処理土壌区のマツ辺材については、食害の痕跡が観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポナステロンA、マキステロンA、およびイノコステロンからなる群より選ばれる少なくとも1種のエクジステロイドを有効成分とすることを特徴とする、シロアリ防除剤。
【請求項2】
木材の表面または内部に散布または注入するための木材保存剤であることを特徴とする、請求項1に記載のシロアリ防除剤。
【請求項3】
土壌の表面または内部に散布または注入するための木材保存剤であることを特徴とする、請求項1に記載のシロアリ防除剤。

【公開番号】特開2008−195619(P2008−195619A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29638(P2007−29638)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】