説明

シワ伸ばし装置用ロール

【課題】
熱可塑性樹脂フィルムのシワ延ばし装置において、ロールへの摩耗粉やオリゴマーの付着を低減するロールを提供する。
【解決手段】
ロール表面層がフッ素含有ポリマー微細粒子を含有する金属で被覆されていることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムのシワ伸ばし装置用ロール

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムのシワ伸ばし装置用ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工工程において、搬送中のフィルムのシワを伸ばす装置として、表面にらせん溝を設けたロールで、回転により中央部から両端部に拡幅力を持たせる溝付ロールや、ロールに湾曲を持たせ、その湾曲形状に基づいて拡幅力を持たせるエキスパンダロールや、軸を傾けた一対のニップロールで挟持し該ニップロールの回転に伴い拡幅力を与えるクロスガイダや、フィルムの両端部で回転可能な一対のニップディスクで挟持しフィルムに拡幅力を与えるニップディスク等が知られている。
【0003】
らせん溝付ロールおよびエキスパンダロールにおいては、フィルムとロールの間に生じる摩擦力でフィルムに拡幅力を及ぼすようになっているため、ロール表面は通常ゴム等の高い摩擦係数を持つ材料から構成されている。しかしゴム等は、フィルムとの摩擦によって容易に削り取られ、それによって生じたゴム粉等がフィルム表面に損傷を与えることがある。またフィルムが樹脂製である場合には、フィルムに静電気が帯電し、フィルムに埃が付着しやすくなる。
【0004】
クロスガイダにおいては、フィルムとの接触部が、一対のニップロールによるフィルム幅方向両側のニップ点のみとなり、拡幅力が小さいため拡幅がフィルム中央まで及びにくいという問題がある。また、フィルムの拡幅力をニップロールのニップ力で調整する必要があるので、フィルムの厚みに応じてニップロールの微妙な調整が必要となり、その調整に手間がかかるという問題もある。特に、薄物のフィルムにあっては調整が困難である。さらに、両面からフィルムをニップするので、フィルム通しの際に邪魔になるという問題もある。
【0005】
一方、ニップディスクにおいても、上記クロスガイダと同様の問題がある上、フィルムとディスクとの摩擦により摩耗粉が生じ、それがフィルムに付着するという問題がある。また、ディスクはフィルムの面に対しほぼ並行な面内で回転するので、ディスクとフィルムとの接触部内において、ディスクからフィルムに及ぼす力の方向が順次円弧状に変化し、フィルムの走行に不要な外乱を与えるという問題もある。
【0006】
上記の如き問題に対し、図1に示すような吸引口を介しての流体吸引によりフィルムのシワを伸ばす装置が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0007】
特許文献1の装置は、図2に示すように、フィルムの両側にフィルムの搬送方向に対して相互に開く方向に配置されたフィルムガイドと、フィルムガイドを包囲する吸引口と、吸引口を介して空気を吸引する手段を備えたものであり、フィルムガイド手段を構成する複数のロールがフィルムの搬送方向に対し相互に開く方向に一定角度θを傾斜させて配列されている。
【0008】
さらに、特許文献1を改良した特許文献2の装置として、図3に示すように、フィルムの両側近傍に、該フィルムに接する移動自在の接触面をそれぞれ設け、かつ、該フィルムの搬送方向に配列された複数のフィルムガイド手段と、前記フィルムの両側近傍に、前記フィルムの搬送方向に互に延びるとともに、前記フィルムガイド手段を支持し、かつ包囲することにより、前記フィルムの一面に対向して開口した開口部を有する吸引口と、該吸引口に接続され、該吸引口を通しての流体吸引により前記フィルムをフィルムガイド手段のフィルムへの接触面方向に吸引する手段を備えたものから成るシワ伸ばし装置がある。
このような装置においては、摩耗粉や埃等が生じたとしても、吸引口を通して常時流体と共に吸引されているので、フィルムへの付着は防止されるとされてきた。
【特許文献1】特開平3−130461号公報
【特許文献2】特開平4−223135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、熱可塑性樹脂フィルム自身の摩耗粉や搬送フィルムに存在するオリゴマーが図1に示すようなフィルムガイド手段のロールに付着し、付着物が堆積して突起状になることによって、搬送フィルムに穴があき、穴あき箇所を起点として搬送フィルムが破れる問題が顕在化してきた。吸引口を通してフィルムの幅方向両側部分におけるフィルム面近傍の流体が吸引され、該フィルム面がフィルムガイド手段のロール面に吸着される(押圧接触する)ため、突起物があるとフィルムに穴があくと考えられる。
【0010】
本発明の課題は、このような事情に鑑み、ロールへの摩耗粉やオリゴマーの付着が少なく、安定的に熱可塑性樹脂フィルムのシワを伸ばす装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するために、本発明の熱可塑性樹脂フィルムのシワ伸ばし装置は、フィルムガイド手段を構成する複数のロールがフィルムの搬送方向に対し相互に開く方向に一定角度を傾斜させて配列されてあり、シワ伸ばし装置用ロールの表面層にフッ素含有ポリマー微細粒子が含有された金属で被覆されていることを特徴とするものからなる。
【発明の効果】
【0012】
ロールへの摩耗粉やオリゴマーの付着が少なく、安定的に熱可塑性樹脂フィルムのシワを伸ばす装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明におけるフィルムガイド手段を構成する複数のロールとは、回転可能な円筒状のロールである。回転のための駆動方式はとくに問わず、積極駆動、従動駆動のいずれであってもよい。
【0014】
本発明のシワ伸ばし装置用ロールの表面は、フッ素含有ポリマー微細粒子が含有された金属層からなる。
【0015】
フッ素含有ポリマー微細粒子としては、とくに限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー等を用いることができる。
【0016】
金属層としては特に限定されないが、ハードクロム層、ニッケル層、鉄層等が好ましく用いられる。またそれらの合金、やリン等を含んだものであってもよい。
ロール表面層が金属層であることにより、表面の経時的な削れ劣化が防止される。また、金属層内にフッ素含有ポリマー微細粒子が含有されることによって、熱可塑性樹脂フィルムの搬送時の摩耗粉や搬送フィルム中に存在するオリゴマーがロールに付着することが防止される。これは、ロール表面層においてフッ素粒子が露出していることで、ロール表面に汚れが付着しにくくなるためである。
【0017】
この金属層の厚さは2μm以上、好ましくは5μm以上が望ましい。2μm未満であると金属層がフィルムで削れ易いため、好ましくない。
上記微細粒子の平均粒子径が50〜1000nmの範囲にあれば、本発明の効果をより効果的に発揮することが可能である。好ましくは100〜600nmの範囲で、平均粒子径が50nm未満であると、ロール表面層におけるフッ素粒子の露出面積の割合が小さくなる。平均粒子径が1000nmより大きいと、フッ素含有ポリマー微細粒子が金属層より脱落しやすくなるために好ましくない。
【0018】
金属層におけるフッ素含有ポリマー微細粒子の含有量は、1〜40重量%の範囲であることが好ましい。金属層におけるフッ素含有ポリマー微細粒子の含有量を1〜40重量%とすることで、本発明の効果をより効果的に発揮することが可能となるからである。より好ましくは3〜20重量%の範囲である。添加量が1重量%未満であると、ロール表面層におけるフッ素粒子の露出面積の割合が小さくなることがある。また添加量が40重量%より大きいと、フッ素含有ポリマー微細粒子が金属層より脱落しやすくなることがある。
また本発明のシワ伸ばし装置用ロールについては、金属層の表面粗度Ry値が0.3〜2μmの範囲であることが好ましい。金属層の表面粗度Ry値を0.3〜2μmの範囲とすることで、本発明の効果をより効果的に発揮することが可能となる。より好ましくは0.5〜1μmの範囲である。Ry値が0.3μm未満の場合、シワ伸ばし装置用ロール表面が超鏡面となり、フィルムがロール表面上を滑りにくくなることがある。またRy値が2μmより大きい場合、ロール表面の荒れに摩耗粉やオリゴマーが付着しやすくなることがある。
【0019】
本発明のシワ伸ばし装置用ロールは、ロールの付着物によって穴あきが生じ易い厚み0.5〜3μmの熱可塑性樹脂フィルムのシワを伸ばす装置として、好ましく用いることができる。
【0020】
薄いフィルムほど穴あきが生じ易いため、フッ素含有ポリマー微細粒子による非汚染性の効果がより顕著に得られる。厚さ0.5μmより薄いフィルムの場合、本シワ伸ばし装置による搬送そのものが難しくなり、厚さ3μmより厚いフィルムの場合、本発明のシワ伸ばし装置用ロールの使用の有無に関わらずフィルムの穴あきが発生しにくくなる。よって本発明においては、0.5μmから3μmの厚さのフィルムが好ましく用いられる。
本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PPT)、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、および共重合成分として、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分や、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分などを共重合したポリエステルなどの公知のポリエステル樹脂、その他、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などを用いることができる。
【0021】
特に、本発明においては、ポリエステル樹脂を用いた場合にその効果が高い。中でも、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)のように結晶性が低く、フィルム中からオリゴマーが発生する樹脂に好ましい。特にポリエチレンテレフタレート(PET)は、安価であるため、非常に多岐にわたる用途で用いられ、応用範囲・適用効果が大きい。また、これらの樹脂は、ホモ樹脂であってもよく、共重合またはブレンドであってもよい。
【0022】
さらに、これらの樹脂の中に、各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤などが添加されていてもよい。
次に本発明に係るロールの製造方法について説明する。本発明のロールは、円筒状芯の表層に、所定のフッ素含有ポリマー微細粒子を所定量含有させた金属メッキ浴中に円筒状ロールを浸し、金属メッキを施すことにより作成することができる。但し、本発明のシワ伸ばし装置用ロールの製造方法は本方法に限らない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
(1)粒子の平均粒子径
粒径分析装置(HORIBA製LA−700)で測定した。
(2)表面粗度Ry値
触針式表面粗度計によりロール表面のりょう線方向の表面粗度を測定した。
触針半径は2μm、カットオフ値は0.8mm、評価長さは4mmとし、Ry値はJIS−B0601に準じて求めた。ロール全体にわたって均等に5箇所測定し、その平均値をRy値とした。
(3)金属層厚み
金属メッキ前のロール径とメッキ後表面仕上げ後のロール径の差から求めた。
(4)フィルム厚み
フィルムの幅(W、単位m)、長さ(L、単位m)、密度(ρ、単位kg/m)、重量(G、単位kg)から重量法厚みを次の式から算出することにより求める。
重量法厚み=G/(W×L×ρ)
(5)フィルムの穴あき数
シワ伸ばし装置用ロールの使用開始から300時間運転後に、厚さ1.4μmの平滑なポリエチレンテレフタレートフィルムを搬送し、10mにおけるフィルムの穴あき数を測定して求めた。
【0024】
測定は、フィルムを10m/minで搬送しながら、金属製の搬送ロールから10mm離れた位置の導線に200Vの電圧かけることで、穴あき箇所で電流変動させて、電流変動した回数をフィルムの穴あき数として求めた。
シワ伸ばし装置用ロールとして使用可能なレベルは、フィルムの穴あき数が10m当たり10個以下であり、好ましくは5個以下、さらに好ましくは穴あき無きことである。
(実施例1)
鉄製ロール状芯の表面に金属メッキ手法により平均粒子径200nmのポリテトラフルオロエチレン樹脂を10重量%含有する厚さ10μmのニッケル金属層を設け、更に300℃、1hの熱処理を施し、ロールを作成した。表面研磨によって、ロール表面層の表面粗度Ry値を0.9μmとした。本ロールをフィルムのシワ伸ばし装置用ロールとして用い、幅2.3m、厚さ1.4μmの平滑なポリエチレンテレフタレートフィルムを速度170m/分で300時間搬送した後、フィルムの穴あき数を測定した。結果を表1に示す。
(実施例2〜6、比較例1〜4)
ロ−ルの条件や搬送するフィルムの厚みを変える以外は実施例1と同様にして、300時間搬送した後、フィルムの穴あき数を測定した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、ロールへの摩耗粉やオリゴマーの付着が少なく、安定に熱可塑性樹脂フィルムのシワを伸ばす装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】特許文献1や2で用いられるフィルムのシワ伸ばし装置の概略図である。
【図2】特許文献1のフィルムのシワ伸ばし装置の概略図である。
【図3】特許文献2のフィルムのシワ伸ばし装置の概略図である。
【符号の説明】
【0028】
A:吸引口
B:フィルムガイド手段
C:ロール
D:シワ伸ばし装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムのシワ伸ばし装置用ロールであって、ロールの表面層が、フッ素含有ポリマー微細粒子を含有する金属層であることを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルムのシワ伸ばし装置用ロール。
【請求項2】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みが0.5〜3μmであることを特徴とする、請求項1に記載のシワ伸ばし装置用ロール。
【請求項3】
金属層の表面粗度Ryが0.3〜2μmであることを特徴とする、請求項1に記載のシワ伸ばし装置用ロール。
【請求項4】
金属層におけるフッ素含有ポリマー微細粒子の含有量が1〜40重量%であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のシワ伸ばし装置用ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−162713(P2008−162713A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351128(P2006−351128)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】