説明

シンチレータプレートの製造方法

【課題】セパレータを用いる場合と比較して、製造コストの低減及び製造時間の短縮を図ることができるとともに、検出感度の低下を抑制することが可能な、シンチレータプレートの製造方法を得る。
【解決手段】隣接画素間の境界にセパレータを挿入するのではなく、シンチレータプレート20の画素間の境界Qに沿ってレーザ光を照射し、境界上のシンチレータプレートを除去する又は変質させる。シンチレータプレート20が画素毎に物理的に分離される前にレーザ光の照射を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータプレートの製造方法に関し、特に、間接変換方式のX線センサを備える物品検査装置に用いられるシンチレータプレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、X線CT装置の放射線検出器に用いられるシンチレータアレイが開示されている。当該シンチレータアレイは、放射線検出器の各画素に対応するシンチレータ素子と、隣接するシンチレータ素子間に形成されたセパレータとを有している。セパレータは、高反射率かつ低光透過率の材質(金属又は樹脂等)を用いて形成されており、これにより、隣接画素間の光クロストークが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−127899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されたシンチレータアレイによると、その製造工程において、各シンチレータ素子をセパレータ間に嵌め込む作業が必要となるため、その作業が煩雑であるとともに、製造コストの上昇や製造時間の長期化を招く。
【0005】
また、セパレータは金属又は樹脂等によって形成されているため、ある程度の板厚を有する。そのため、その板厚に起因してシンチレータアレイにおけるX線の受線面積が小さくなるため、X線の検出感度が低下する。
【0006】
本発明はかかる問題を解決するために成されたものであり、セパレータを用いる場合と比較して、製造コストの低減及び製造時間の短縮を図ることができるとともに、検出感度の低下を抑制することが可能な、シンチレータプレートの製造方法を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るシンチレータプレートの製造方法は、所定方向に物品を搬送しつつ当該物品に対して放射線を照射し、物品を透過した当該放射線を可視光に変換し、当該可視光を電気信号に変換し、当該電気信号に基づいて物品の検査を行う物品検査装置に用いられる、放射線を可視光に変換するためのシンチレータプレートを製造する方法であって、(A)放射線から可視光への変換作用を有する材質を含む変換膜を準備する工程と、(B)前記変換膜に対して、前記所定方向に略直交する方向に並んで規定される複数の画素間の境界に沿って、レーザ光を照射することにより、前記境界上の前記変換膜を除去する又は変質させる工程とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
第1の態様に係るシンチレータプレートの製造方法によれば、隣接画素間の境界にセパレータを形成するのではなく、複数の画素間の境界に沿って変換膜にレーザ光を照射することにより、境界上の変換膜を除去する又は変質させる。そして、レーザ光の照射によって変換膜が除去又は変質された部分によって、隣接画素間の光クロストークを抑制する。従って、各シンチレータ素子をセパレータ間に嵌め込む作業が不要となるため、セパレータを用いる場合と比較して、製造コストの低減及び製造時間の短縮を図ることが可能となる。また、レーザ加工を行うため、変換膜の除去領域又は変質領域の幅を狭くすることができ、放射線の受線面積の縮小を抑制できるため、セパレータを用いる場合と比較して、検出感度の低下を抑制することが可能となる。
【0009】
本発明の第2の態様に係るシンチレータプレートの製造方法は、第1の態様に係るシンチレータプレートの製造方法において特に、前記工程(B)においては、レーザ光の照射を複数回繰り返すことにより、前記境界上の前記変換膜を段階的に除去する又は変質させることを特徴とするものである。
【0010】
第2の態様に係るシンチレータプレートの製造方法によれば、レーザ光の照射を複数回繰り返すことにより、境界上の変換膜を段階的に除去する又は変質させる。これにより、出力パワーが比較的小さいレーザ光を用いて、変換膜の除去領域又は変質領域を精度良く形成することが可能となる。
【0011】
本発明の第3の態様に係るシンチレータプレートの製造方法は、第1又は第2の態様に係るシンチレータプレートの製造方法において特に、前記工程(B)においては、前記変換膜が画素毎に物理的に分離される前にレーザ光の照射を停止することを特徴とするものである。
【0012】
第3の態様に係るシンチレータプレートの製造方法によれば、変換膜が画素毎に物理的に分離される前にレーザ光の照射を停止する。従って、物理的に繋がった一体のシンチレータプレートを得ることができる。その結果、画素毎に分離された複数のシンチレータ素子をフォトダイオードアレイ上に並べる作業が不要となるため、製造コストの低減及び製造時間の短縮を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セパレータを用いる場合と比較して、製造コストの低減及び製造時間の短縮を図ることができるとともに、検出感度の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るX線検査装置の全体構成を模式的に示す正面図である。
【図2】図1に示したシールドボックスの内部構成を示す斜視図である。
【図3】Y軸方向から眺めたX線検出部の構造の一部を模式的に示す平面図である。
【図4】Z軸方向から眺めたX線検出部の構造の一部を模式的に示す上面図である。
【図5】溝の形成方法を示す上面図である。
【図6】本実施の形態に係るシンチレータプレートの製造方法を工程順に示す側面図である。
【図7】シンチレータプレートの構造の第1の変形例を示す上面図である。
【図8】シンチレータプレートの構造の第2の変形例を示す上面図である。
【図9】シンチレータプレートの構造の第3の変形例を示す上面図である。
【図10】シンチレータプレートの構造の第4の変形例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一又は相応する要素を示すものとする。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るX線検査装置1の全体構成を模式的に示す正面図である。図1に示すようにX線検査装置1は、上部筐体2、シールドボックス3、及び下部筐体4を備えている。上部筐体2には、タッチパネル機能付きのモニタ、つまり表示・入力部5が設けられている。
【0017】
シールドボックス3は、X線が外部に漏洩することを防止する機能を有する。シールドボックス3内には、X線照射部7とX線検出部8とが配設されている。X線照射部7は、検査対象物である食品等の物品12に対してX線を照射する。X線検出部8は、X線照射部7から照射されて物品12を透過したX線を検出する。物品12内に異物が混入していると、その異物の混入箇所において、X線検出部8が検出するX線の強度が極端に低下する。これにより、異物の大きさや混入箇所を特定することができる。
【0018】
また、シールドボックス3内には、ベルトコンベア6が配設されている。ベルトコンベア6は、物品12がX線照射部7とX線検出部8との間のX線照射領域100(図2参照)を通過するように、所定の搬送方向(図中に示したXYZ直交座標軸におけるY軸方向)に沿って物品12を搬送する。シールドボックス3には、ベルトコンベア6の上流端近傍に物品搬入口13が、下流端近傍に物品搬出口14が、それぞれ設けられている。
【0019】
下部筐体4内には、X線検査装置1の動作制御やデータ処理を行うためのコンピュータ9が配設されている。
【0020】
ベルトコンベア6の上流側には、物品12を上流の処理装置からX線検査装置1に搬入するためのベルトコンベア10が設けられている。ベルトコンベア6の下流側には、検査後の物品12をX線検査装置1から搬出するためのベルトコンベア11が設けられている。ベルトコンベア11には、X線検査装置1による検査の結果に基づいて良品と不良品とを振り分けるための任意の振分機構15が配設されている。
【0021】
図2は、図1に示したシールドボックス3の内部構成を示す斜視図である。ベルトコンベア6の上方には、X線照射部7としてのX線照射器(以下「X線照射器7」とも称す)が配設されている。ベルトコンベア6の下方には、X線検出部8が配設されている。図2においてX線照射領域100として示すように、X線照射器7は、X線検出部8に向かって、扇形状にX線を照射する。
【0022】
図3は、Y軸方向から眺めたX線検出部8の構造の一部を模式的に示す側面図である。また、図4は、Z軸方向から眺めたX線検出部8の構造の一部を模式的に示す上面図である。X線検出部8は間接変換方式のX線ラインセンサであり、半導体基板21と、半導体基板21の上面上に配置されたシンチレータプレート20とを有して構成されている。
【0023】
半導体基板21の上面内には、X軸方向(ほぼX軸方向を含む)に沿って並ぶ複数のフォトダイオード22が形成されている。フォトダイオード22は、各画素Pに対応して設けられている。シンチレータプレート20には、互いに隣接する複数の画素P間の境界Q上に、溝23が形成されている。
【0024】
シンチレータプレート20には、物品12を透過したX線が照射される。シンチレータプレート20は、照射されたX線を可視光に変換する。シンチレータプレート20によって生成された可視光は、フォトダイオード22によって電気信号に変換され、出力される。そして、各画素Pから出力された電気信号に基づいて、物品12内における異物の混入の有無が検査される。
【0025】
ここで、シンチレータプレート20には画素P間の境界Q上に溝23が形成されており、シンチレータプレート20の媒質と溝の媒質(空気)とでは屈折率が互いに異なる。そのため、ある画素から隣接画素に向かって進行する可視光の一部は、シンチレータプレート20と溝23との界面で反射されることにより、隣接画素内には到達しない。その結果、溝23が形成されていない場合と比較して、画素間の光クロストークを抑制することができる。
【0026】
図5は、溝23の形成方法を示す上面図である。上方からシンチレータプレート20の上面に向けてレーザ光Kを照射し、そのレーザ光Kを境界Qに沿って走査することにより、溝23を順に形成する。
【0027】
図6は、本実施の形態に係るシンチレータプレート20の製造方法を工程順に示す側面図である。まず図6の(A)に示すように、溝23が形成されていない膜状(又は板状)のシンチレータプレート20を準備する。次に図6の(B)に示すように、境界Qに沿ってレーザ光Kを走査することにより、各境界Q上に深さD1の溝23を形成する。次に図6の(C)に示すように、境界Qに沿ってレーザ光Kを再び走査する。これにより、深さD1の溝23が掘り下げられて、各境界Q上に深さD2の溝23が形成される。図6の(D)及び(E)についても同様に、境界Qに沿ってレーザ光Kを複数回走査することにより、溝23の深さをD3→D4と順に掘り下げる。最終的には図6の(F)に示すように、溝23がシンチレータプレート20を貫通するよりも前に、つまりシンチレータプレート20が画素毎に物理的に分離される前に、レーザ光Kの走査を停止する。これにより、境界Qに沿って深さD5の溝23が形成された一体のシンチレータプレート20を得ることができる。
【0028】
一例として、材質がGdS、膜厚が0.5mmのシンチレータプレート20を対象として、波長が532nm、出力パワーが2.8W、パルス周波数が20kHzの半導体レーザを用いて、走査速度を50mm/sec、走査回数を60回として走査を行うことにより、幅Wが20μmで深さD5が0.22mmの溝23を形成することができる。走査回数を増やすことにより、溝23をさらに掘り下げることが可能である。
【0029】
図7は、シンチレータプレート20の構造の第1の変形例を示す上面図である。ラインセンサの代わりに、物品の搬送方向(Y軸方向)に沿って複数の画素列が形成されたエリアセンサが用いられている場合であっても、X軸方向及びY軸方向の両方向に沿って延在する格子状の溝23を形成することにより、X軸方向及びY軸方向の両方向に関して、隣接画素間の光クロストークを抑制することができる。
【0030】
図8は、シンチレータプレート20の構造の第2の変形例を示す側面図である。レーザ光Kを用いた除去加工によって溝23を形成する代わりに、レーザ光Kの照射によってシンチレータプレート20の材質を変質させる(改質又はクラックの形成を含む)ことにより、変質領域30を形成してもよい。なお、レンズの調整によってレーザ光Kの焦点位置を制御することにより、シンチレータプレート20の表面のみならず、深部においてもその材質を変質させることができる。また、着色剤を添加すること等により光の反射率が高い変質領域30を形成することによって、隣接画素間の光クロストークを効果的に抑制することが可能となる。
【0031】
図9は、シンチレータプレート20の構造の第3の変形例を示す側面図である。図8に示した変質層30の代わりに、シンチレータプレート20の内部(つまり表面及び底面を除く深さ方向の非端部)のみに変質層31を形成してもよい。これにより、シンチレータプレート20の機械的強度を高めることができる。
【0032】
図10は、シンチレータプレート20の構造の第4の変形例を示す側面図である。図8に示した変質層30の代わりに、シンチレータプレート20の表面から底面まで貫通する変質層32を形成してもよい。これにより、隣接画素間の光クロストークの抑制効果を高めることができる。
【0033】
このように本実施の形態に係るシンチレータプレート20の製造方法によれば、隣接画素間の境界にセパレータを形成するのではなく、複数の画素P間の境界Qに沿ってレーザ光Kを照射することにより、境界Q上に溝23又は変質層30〜32を形成する。そして、形成された溝23又は変質層30〜32によって、隣接画素間の光クロストークを抑制する。従って、各シンチレータ素子をセパレータ間に嵌め込む作業が不要となるため、セパレータを用いる場合と比較して、製造コストの低減及び製造時間の短縮を図ることが可能となる。また、微細加工が可能なレーザ加工を用いるため、溝23又は変質層30〜32の幅Wを狭くすることができる。その結果、シンチレータプレート20におけるX線の受線面積の縮小を抑制できるため、セパレータを用いる場合と比較して、検出感度の低下を抑制することが可能となる。
【0034】
また、本実施の形態に係るシンチレータプレート20の製造方法によれば、レーザ光Kの照射を複数回繰り返すことにより、境界Q上のシンチレータプレート20の材質を段階的に除去する又は変質させる。これにより、出力パワーが比較的小さいレーザ光Kを用いることができ、その結果、溝23又は変質層30〜32を精度良く形成することが可能となる。
【0035】
また、本実施の形態に係るシンチレータプレート20の製造方法によれば、シンチレータプレート20が画素毎に物理的に分離される前にレーザ光Kの照射を停止する。従って、物理的に繋がった一体のシンチレータプレート20を得ることができる。その結果、画素毎に分離された複数のシンチレータ素子をフォトダイオードアレイ上に並べる作業が不要となるため、製造コストの低減及び製造時間の短縮を図ることが可能となる。
【0036】
なお、以上の説明では、物品の検査にX線を用いる例について述べたが、他の放射線(α線、β線等)を用いてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 X線検査装置
6 ベルトコンベア
7 X線照射部
8 X線検出部
12 物品
20 シンチレータプレート
21 半導体基板
22 フォトダイオード
23 溝
30〜32 変質領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に物品を搬送しつつ当該物品に対して放射線を照射し、物品を透過した当該放射線を可視光に変換し、当該可視光を電気信号に変換し、当該電気信号に基づいて物品の検査を行う物品検査装置に用いられる、放射線を可視光に変換するためのシンチレータプレートを製造する方法であって、
(A)放射線から可視光への変換作用を有する材質を含む変換膜を準備する工程と、
(B)前記変換膜に対して、前記所定方向に略直交する方向に並んで規定される複数の画素間の境界に沿って、レーザ光を照射することにより、前記境界上の前記変換膜を除去する又は変質させる工程と
を備える、シンチレータプレートの製造方法。
【請求項2】
前記工程(B)においては、レーザ光の照射を複数回繰り返すことにより、前記境界上の前記変換膜を段階的に除去する又は変質させる、請求項1に記載のシンチレータプレートの製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)においては、前記変換膜が画素毎に物理的に分離される前にレーザ光の照射を停止する、請求項1又は2に記載のシンチレータプレートの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−7575(P2011−7575A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150216(P2009−150216)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000147833)株式会社イシダ (859)
【Fターム(参考)】