シースプロテインを含有するタンパク質、及びそれを導くポリペプチド断片あるいはペプチド断片、並びにシースプロテインを含有する会合体を含む成分
この研究の目的はin vivo でセメント質あるいは骨形成促進活性を誘導するエナメルタンパクのなかから、歯根膜再生因子を同定することにある。歯根膜再生因子の1つであるセメント質再生はイヌの下顎骨の歯根部位に作成した頬側裂開型人工骨欠損を用いて調べた。セメント質再生能は新生幼若エナメル質から分離した少量のアメロゲニンを伴うシースプロテインの会合体に存在した。シースプロテインは単一になるまで精製し、ヒト歯根膜(HPDL)細胞を用いてアルカリホスファターゼ(ALP)活性の誘導活性を調べた。17kDaシースプロテインはHPDL細胞のALP活性を誘導した。シースプロテインのアミノ酸配列から合成したペプチドにもALP誘導活性があった。17kDaシースプロテインは細胞分化活性を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して歯根膜組織再生に関し、特に歯周病や歯槽膿漏に関連した病気の治療に関する。本発明は、セメント質再生促進活性を持ち、また歯根膜再生と細胞分化に関わる17kDaのシースプロテインとそれを導くペプチドを提供する。また、エナメル基質タンパク質の分離方法や、本発明の成分を使用した種々の治療方法も開示する。
なお、本願では、タンパク質のアミノ酸配列をSEQ ID ナンバーで表している。
【0002】
本発明は、生体から分離、もしくは合成、あるいはリコンビナントしたシースプロテイン、ポリペプチド、ペプチドからなるセメント質再生促進タンパクセグメントを提供する。本発明の一実施形態として、シースプロテインはブタのシースプロテインである。他の実施形態としては、ヒト、マウス、ラット、ウシ、羊、サル、そしてすべての哺乳類のシースプロテインが含まれる。
【0003】
本願明細書において、成分や方法そのものについて様々な文脈で使用されている「タンパク質」という用語は、タンパク性セグメントを意味し、それは約150個以上の連続したアミノ酸からなり、遺伝子によりコードされたアミノ酸が70%以上含まれるものを言う。本願明細書において、成分や方法そのものについて様々な文脈で使用されている「ポリペプチド」という用語は、約50個以上の連続したアミノ酸からなるタンパク性セグメントを意味し、「ペプチド」という用語は、約3〜50個までの連続したアミノ酸からなるタンパク性セグメントを意味する。このように、シグナリング、あるいは調節や構造的性質、機能を持つ様々な長さのシースプロテインタンパク性セグメントが本願明細書に示されている。
【0004】
本願明細書において、成分や方法そのものについて様々な文脈で使用されている「シースプロテイン」あるいは「シースリン」という用語には、シースプロテインあるいはシースリン配列の天然型、多形型および突然変異体が含まれる。天然型のアミノ酸配列とは、最初に確立された配列として定義される。多形型配列とは、シースプロテインあるいはシースリンタンパク、ポリペプチド、ペプチド、ドメインの機能や発現に影響しない天然型に自然に起こる変形と定義される。突然変異体の配列とは、自然に起きたあるいは人工的に作成された天然型配列の変化したものと定義され、それらはシースプロテインあるいはシースリンタンパク、ポリペプチド、ペプチド、ドメインの機能および/または発現に影響するものである。本発明は、このように、シースプロテインあるいはシースリンタンパク、ポリペプチド、ペプチドあるいはそれらのいかなる融合したタンパク、ポリペプチド、ペプチドを種々の形でエンコードするDNA断片ベクター、遺伝子、コーディング配列部位の提供をも含む。
【0005】
本願明細書において、成分や方法そのものについて様々な文脈で使用されている「セメント質再生促進タンパク」とは、シースプロテイン配列のセメント質再生促進活性をもつアミノ酸配列を含むタンパク、ポリペプチド、ペプチドを含むと定義される。天然型のアミノ酸配列は、最初に確立された配列として定義され、多形型配列は、シースプロテインあるいはポリペプチド、ペプチド、ドメインの機能や発現に影響しない天然型に自然に起こる変形と定義される。突然変異体の配列とは、自然に起きたあるいは人工的に作成された天然型配列の変化したものと定義され、それらはシースプロテインあるいはポリペプチド、ペプチド、あるいはドメインの機能および/発現に影響するものである。本発明は、このように、シースプロテインあるいはポリペプチド、ペプチドあるいはそれらのいかなる融合したタンパク、ポリペプチド、ペプチドを種々の形でエンコードするDNA断片ベクター、遺伝子、コーディング配列部位の提供をも含む。
【背景技術】
【0006】
シースリン(非特許文献1)は、シースプロテイン(非特許文献2)の親タンパクである。シースプロテインは、免疫組織化学で蜂の巣状に検出される幼若エナメル質のエナメルシース(鞘)に凝縮してくるのにちなんで付けられた名前である。このシースプロテインは、最初13〜17kDaの非アメロゲニンタンパクとしてブタ新生エナメル質に発見された(非特許文献3)。シースリンは、早い発育段階で17kDaのシースプロテイン、25kDaの酸性タンパク、Ca結合タンパクの3つのペプチドに分解される(非特許文献4)。
【0007】
本発明の成分を使った種々の治療方法は、歯周病ならびに歯槽膿漏に対する歯根膜再生、セメント質再生、歯槽骨再生ばかりでなく、抜歯した歯の再植や人工的歯のインプラントなどの応用を含む。
【0008】
エナメル基質タンパク(エナメル基質由来物:EMD)は、歯根膜再生剤の1つとして歯槽膿漏の歯根膜を修復するのに使われる。エナメル基質タンパク質が歯根膜再生活性を持つことはよく知られている(非特許文献5,6)。しかしながら、患者の希望を満足させる最終的歯根膜再生は必ずしも完成されていない。加えて、現在、薬剤を調整する前に加熱しているが、ブタの幼若エナメル質基質からの抽出物が臨床治療のための薬剤として使われているので、E型や未同定のウイルスの感染の危険性がある。EMDの臨床的安全性が報告されている(非特許文献7)が、他には、同じ患者にEMDを繰り返し使用した時の抗原性の危険は必ずしも否定されていない。現在の最も大きな問題は、エナメル質基質タンパクは多成分系であるので、歯根膜再生促進因子についてほとんど情報がないことである。
【0009】
〔エナメル質基質タンパク質〕
エナメル質基質には、3つのエナメル質基質タンパク質と2つのプロテアーゼ酵素が存在する。これらのタンパク質とプロテアーゼのcDNAとそれらから由来するアミノ酸配列はすでに発表されている。加えて、2つの成長因子がブタの基質形成期エナメル質に見つかっている。
【0010】
構造タンパク質(EMD)には、アメロゲニン (非特許文献8,9,10)、エナメリン(非特許文献11,12,13)、シースリン(アメロブラスチン/アメリン)(非特許文献1,14,15)がある。発育期のエナメル質基質には、エナメル質基質セリンプロテアーゼ(EMSP)(非特許文献16,17,18,19)とメタロプロテアーゼ(エナメリシン)(非特許文献20,21)がクローンされ、性質が調べられた。ブタエナメル質基質には、骨誘導因子(BMP)とトランスフォーミング成長因子(TGF−β)の骨形成成長因子の存在が確認されている(非特許文献22)。
【0011】
それゆえ、いくつかの成長段階における幼若エナメル質基質には多量のアメロゲニン、エナメリン、シースリンの由来物が含まれる。もしあるタンパクをエナメル質基質タンパク画分から精製しようとすると、多量のアメロゲニン遺伝子産物とそれらの由来物のお陰とそれらの会合する性質のために、その精製が妨げられる。
【0012】
〔アメロゲニン〕
アメロゲニンは発育中のエナメル質基質に多量に存在し、溶液中では会合する性質を持っている。それらアメロゲニンは中性pH、室温下では不溶性で(凝集し沈殿物を形成する)、低温下では可逆的にその相を変え溶ける。タンパク化学的分析では、未分解の見かけ上25kDaの分子量を持つアメロゲニン(非特許文献23,24)がブタのアメロゲニン遺伝子産物としては最も多く、そのほかにアメロゲニンmRNAのスプライシングによって生ずる27、18、6.5kDaアメロゲニン(非特許文献25,26,27)がある。
【0013】
新生エナメル質において、ブタの25kDaアメロゲニンはエナメリシンの働きによってC末端親水性ドメインが切断されて20kDaアメロゲニンに変換される。そして発育が進んだ基質形成期エナメル質では、20kDaアメロゲニンは他のプロテアーゼであるEMSP(KLK4)により2つの断片、6kDaと13kDaアメロゲニンに分解される。13kDa アメロゲニンは中性溶液に可溶で、基質形成期エナメル質形成中の結晶成長のためのスペースを提供する。
【0014】
〔シースリン〕
シースリンは65kDaの分子量を持ち、ブタ新生幼若エナメル質中に最初に発見された13〜17kDa非アメロゲニンタンパクにつけられた名前のシースプロテイン(非特許文献3,24)の親タンパク質である。ブタシースリンは、エナメル芽細胞から分泌されると直ちにN末端から由来する17kDa シースプロテイン、C末端から由来する19kDaCa結合性タンパク質(非特許文献4,28,29)、分子の中央から由来する25kDa酸性タンパク質の3つのセグメントに分解される。 シースプロテインは将来プリズムシースになるところに凝縮され(非特許文献2,24)、発育の進んだ基質形成期中で15kDa、13kDaシースプロテインに低分子化していく。
【0015】
〔エナメリン〕
エナメリンは155kDaの親タンパク質で、これから142、89、56、45、34、32、25kDaの分子量の分解産物が生ずる(非特許文献12,13)。新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分に主に89kDaエナメリンが存在する。基質形成期の発育が進んだ段階で中性可溶性画分中に存在する32kDaエナメリンに分解される。この32kDaエナメリンはフルオロハイドロキシアパタイト(非特許文献30)とCaイオン(非特許文献29)に親和性がある。
【0016】
〔成長因子〕
エナメルタンパク以外にエナメル抽出物中に強力なシグナリング分子が存在することが知られてきた。最近、骨誘導因子(BMP)様活性がノギンの作用でST2細胞(マウス骨髄ストローマルセルライン)を使ってブタエナメル抽出物に存在することが推論され(非特許文献31)、また、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)様活性が口腔の上皮細胞と線維芽細胞を使って証明された(非特許文献32)。エナメル質基質タンパク中のTGF-β様活性はHPDL細胞のALP活性を上昇させ、それらの細胞分化を促進し、最終的に石灰化を誘導した(非特許文献33)。エナメル抽出物中のこれらの成長因子の存在と歯根膜再生における骨形成あるいはセメント質形成の誘導との関係は不明である。
【0017】
サルに施した頬側裂開型骨欠損の歯根膜の再生がブタエナメル質基質タンパクの適用で起こることが示された(非特許文献5,6)。エナメル質基質タンパクがセメント質形成に関わるというアイデアは幾つかの動物でエナメル質の表面に歯冠無細胞セメント質が形成されるという事実に基づいている(非特許文献5)。サルの切歯歯根に人工的な欠損を作成してブタエナメル質基質を適用したところ、象牙質に強く接着した無細胞セメント質の形成が誘導された。これはエナメル質基質タンパクが同じタイプのセメント質の再生を誘導するポテンシャルを持つことを示唆する(非特許文献5,6)。エナメル質基質由来物はヒト歯根膜細胞の増殖と分化を促進し(非特許文献34)、骨形成を促進する(非特許文献35)。これらはエナメルタンパクが骨形成やセメント質形成を誘導するような生理活性があることを示している。
【0018】
これらの結果から、エナメルタンパク:商業的には登録商標「EMDOGAINTM」として市販されているエナメル質基質由来物(EMD)が、歯槽膿漏の歯根膜再生に臨床的に使われている(非特許文献36,37)。この新しい治療方法は、歯周病の治療の効果として、その時まで得られなかった価値のある結果をもたらした。しかしながら、エナメルタンパクが歯槽膿漏の治療に使われる時、歯根膜再生は必ずしも期待される結果のレベルに達していない。これはエナメルタンパクを歯周病治療に使用するためには多大の改良の余地があることを表している。
【非特許文献1】J Dent Res 1997a; 76: 648-657
【非特許文献2】Biomedical Research 1995; 16: 131-140
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【非特許文献6】J Clin Periodontol 1997; 24: 669-677
【非特許文献7】J Clin Periodontol 1997; 24: 697-704
【非特許文献8】Jpn J oral Biol 1983; 25(Suppl.) 29
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【非特許文献10】Adv Dent Res 1987; 1: 293-297
【非特許文献11】Calcif Tissue Int 1993; 53: 257-261
【非特許文献12】Adv Dent Res 1996; 10: 111-118
【非特許文献13】J Dent Res 1997b; 76: 1720-172
【非特許文献14】J Bone Miner Res 1996; 11: 883-891
【非特許文献15】J Biol Chem 1996; 271: 4431-4435
【非特許文献16】Tsurumi U Dent J 1977; 3: 15-17
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【非特許文献18】Adv Dent Res 1996; 10(2): 170-172
【非特許文献19】J Dent Res 1998; 77: 377-386
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【非特許文献22】J Dent Res 2005; 84: 510-514
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【非特許文献25】Calcif Tissue Int 1994; 54: 69-75
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【非特許文献40】J Periodont Res 2006; in press
【非特許文献41】Eur J Oral Sci 2006; in press
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【非特許文献52】J Dent Res 2003; 82: 982-986
【非特許文献53】J Dent Res 2002; 81: 103-108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
解決すべき問題はエナメルタンパクに存在する真の生理活性を明らかにすることである。EMDを発見した研究者はその生理活性はエナメル質基質の主な成分であるアメロゲニンによると期待している。しかしながら、このアイデアはアメロゲニン欠損マウス(非特許文献38)で歯根膜が存在する事実より否定される。実際にアメロゲニン、アメロゲニン由来物を硫安分画(非特許文献39)であるいはゲルろ過(非特許文献40,41)で分離したものにはイヌの頬側裂開型骨欠損を使用した組織学的な研究でセメント質再生活性は認められなかった。
【0020】
他に骨誘導活性(BMP(非特許文献31)様活性、TGF-β(非特許文献32)様活性)のような生理活性を調べるアプローチがある。エナメル質基質タンパクにあるTGF-β様活性は人歯根膜細胞(HPDL)のアルカリホスファターセ(ALP)活性を上昇させ、それらの細胞分化を促進し、最終的に石灰化を起こさせる(非特許文献33,42)。ブタエナメルタンパク中のBMPとTGF-βの存在はルシフェラーゼレポーター分析によって確認された(非特許文献43)しかしながら、これらの骨誘導因子が、歯根膜の再生する間において、骨形成やセメント質形成の誘導、あるいはその両者と石灰化に関わっているかもしれないが、in vivoでの、これらの骨誘導因子の歯根膜再生における機能は不明である。
【0021】
EMDが歯根膜再生活性を持つことは疑いがない。しかしながら、EMDからその活性を分離することは、EMD自身が、多量で会合する性質を持つアメロゲニンやその由来物を含むマルチコンポーネント(multi components)からなるため、かなり困難である。セメント質再生促進因子を分離するのに、アメロゲニンの会合の妨害を避けるために、新生基質形成期エナメル質を使用するのが有利である。なぜなら、それには他のstageの進んだ幼若エナメル質に比べて、アメロゲニン分解産物が最も少ないからである。アメロゲニンの会合を抑制している0.05M炭酸緩衝液(pH 10.8)が分離のために採用されている。幼若エナメル質の全タンパク質の95%以上をこの緩衝液中でホモジナイズすることで簡単に可溶化できる(非特許文献44)。
【0022】
歯根膜再生活性の破壊を避けるための方策が採られた。発育中のエナメル基質は少なくとも4つのプロテアーゼ活性が存在する。それらはエナメリシン(MMP-20)(非特許文献20,21)とゼラチナーゼの2つのメタロプロテアーゼとEMSP1(KLK4)(非特許文献16,45,19)を含む2つのセリンプロテアーゼである。エナメル基質セリンプロテアーゼとエナメリシンはクローンされ、特徴が調べられ、移行期ばかりでなく、基質形成期中でもアメロゲニン、非アメロゲニンタンパクの分解に関わっている(非特許文献46,18,44)。基質形成期エナメル質に発見されるEMSPとその前駆体は中性リン酸緩衝液でのみ抽出される。EMSP前駆体はメタロプロテアーゼで活性化される(非特許文献18)ために、中性可溶性画分の抽出は歯根膜再生活性の分解を避けるために必要である。アルカリ可溶性画分に見られるMMP-20の働きはメタロプロテアーゼの阻害剤であるEDTAをアルカリ可溶性画分の抽出後に加えることで直ちに阻害される。
【0023】
完全な歯根膜再生では、歯の形成時の根発育をなぞるように最初にコラーゲン線維束が埋め込まれたセメント質再生(CR)が起こり、次に歯根膜再生と歯槽骨再生が起こることで完結する。だから、セメント質再生は歯根膜再生過程で最も重要であると考えられる。しかしながら、セメント質形成での特異的なマーカーが存在しないので、イヌの頬側裂開型骨欠損を使った組織学的な分析が、分画したエナメルタンパクのセメント質再生活性を調べるために採用された。分離あるいは生成過程で得られる個々のタンパク画分はイヌの下顎骨小臼歯部位の歯根に沿って形成された実験的骨欠損に生成する8週後の再生したセメント質に由って一つ一つ評価された。
【0024】
エナメルタンパクが発育段階の違いによって分離され、それらのCR活性を調べると、CR活性は発育が進行した基質形成期エナメル質よりの新生基質形成期エナメル質に発見された。新生基質形成期エナメル質で、CR活性はアルカリ可溶性画分に存在し、中性可溶性画分には存在しなかった。アルカリ可溶性画分はセファデックスG-100ゲルろ過で4つの画分に分離されたとき、CR活性はエナメリンと少量のアメロゲニンと共にシースプロテインの会合体を含む最初に溶出してくるピーク(フラクション1)に存在した。アメロゲニンやその由来物を含む他のピークにはCR活性はなかった。
【0025】
フラクション1からエナメリン画分とアメロゲニンとシースプロテインを含む会合体画分を分離した時、CR活性は会合体画分に存在した。アメロゲニンにはCR活性がないので、CR活性はシースプロテインに存在すると結論された。それで、シースプロテインは変成剤の存在下で生成され、13kDa、15kDa,17kDaシースプロテインがそれぞれ単一になるまで生成された。CR活性は17kDaシースプロテインにのみ存在した。17kDaシースプロテインはC末端側ペプチドが切断されて15kDaシースプロテインに変換し、さらにN末端側ペプチドが切断されることで13kDa シースプロテインが生成する。それゆえ、CR活性は17kDaシースプロテインのC末端側のアミノ酸配列に存在することがわかった。
【0026】
CR活性が17kDaシースプロテインのC末端側ペプチドに存在することがわかったので、CR活性をもつ特異的な配列を調べるために、細胞培養システムを使って生成したエナメルタンパクやそれらのペプチドを添加してヒト歯根膜(HPDL)細胞のアルカリホスファターゼ促進活性を検出することで調べた。細胞培養システムはCR促進活性の検出にリンクする簡便な方法である。なぜなら、HPDL細胞の細胞分化を表すALP活性の増加は、ALP欠損マウスにおいて光学顕微鏡レベルでの形態的な評価(非特許文献47)から推定される無細胞セメント質形成に重要な機能を演じているからである。一般的にHPDL細胞の細胞培養システムにおけるALP活性の評価は骨形成かセメント質形成の誘導に寄与している。しかしながら、17kDaシースプロテインに存在するCR活性はイヌの下顎骨小臼歯武士根に作成された実験的骨欠損で決定された。だから、細胞培養システムでのHPDL細胞のALP活性の増加は17kDaシースプロテインやペプチドのCR促進活性の評価に強く繋がっている。1α-25ジヒドロキシビタミンDの添加によって誘導された HPDL細胞のALP活性はTGF-βで増加しBMPの添加で減少することが、細胞培養におけるHPDL細胞について特徴付けられる。
【0027】
精製したブタの3つのシースプロテインは、細胞培養システムを使って、それらのHPDL細胞のALP促進活性を調べた。ALP誘導活性は17kDaシースプロテインに存在し、13kDaと15kDaシースプロテインにはほとんど活性が見られなかった。これはHPDL細胞の細胞分化活性は17kDaシースプロテインのC末端側ペプチドに存在することを示している。それで、ブタあるいはヒトのシースプロテインのアミノ酸配列を元にペプチドを合成し、それらの細胞培養システムでのALP促進活性を調べた。ヒトの合成ペプチドでSEQ ID NO: 1とSEQ ID NO: 2が用量依存性にHPDL細胞のALP促進活性を増加させた。これらのペプチドの活性はTGF-β1阻害剤で阻害されなかったTGF-β1受容体はこれらのペプチドの受容体とは異なることがわかった。
【0028】
当業者に評価されるように、本発明は、SEQ ID NO: 1からSEQ ID NO:34までの演繹されたアミノ酸配列を伴うタンパク配列とも関連する。
それらは、好ましくは5%かそれ以上の同一性、より好ましくは10%かそれ以上の同一性、より好ましくは15%かそれ以上の同一性、より好ましくは20%かそれ以上の同一性、より好ましくは25%かそれ以上の同一性、より好ましくは30%かそれ以上の同一性、より好ましくは35%かそれ以上の同一性、より好ましくは40%かそれ以上の同一性、より好ましくは50%かそれ以上の同一性、より好ましくは55%かそれ以上の同一性、より好ましくは60%かそれ以上の同一性、より好ましくは65%かそれ以上の同一性、より好ましくは70%かそれ以上の同一性、より好ましくは75%かそれ以上の同一性、より好ましくは80%かそれ以上の同一性、より好ましくは85%かそれ以上の同一性、より好ましくは90%かそれ以上の同一性、より好ましくは95%かそれ以上の同一性、より好ましくは96%かそれ以上の同一性、より好ましくは97%かそれ以上の同一性、より好ましくは98%かそれ以上の同一性、より好ましくは99%かそれ以上の同一性がある。
【0029】
さらに、本発明は、SEQ ID NO: 1からSEQ ID NO:34までに規定される基本的なアミノ酸配列から成り立つタンパク質を提供する。あるタンパク質は基本的に一つのアミノ酸配列からなりたっており、そのような一つのアミノ酸配列は、幾つかの追加アミノ酸残基、たとえば、1〜約100の追加残基、典型的には、最終のタンパク質の中に存在する1〜約20の追加残基のみを伴って存在している。
【0030】
さらに、本発明は、SEQ ID NO: 1からSEQ ID NO:34までに表されるアミノ酸配列を含むタンパク質を提供する。あるタンパク質は一つのアミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列は、少なくともタンパク質の最終アミノ酸配列の一部である。そのような方法においては、タンパク質は、ペプチドのみであるか、あるいは追加のアミノ酸分子を持ち得る;この追加のアミノ酸分子(連続してエンコードしている配列)とは、自然にペプチドと関連しているもの、あるいはヘテロなアミノ酸残基/ペプチド配列のようなものである。そのようなタンパク質は、幾つかの追加アミノ酸残基を持ち得るし、あるいは数百またはそれ以上の追加アミノ酸を含み得る。
【0031】
2つのアミノ酸配列の同一性の(一致)割合を決定するためには、配列が最適な比較目的のために並べられる(例えば、ギャップ(gaps)は最適な並べ方のために、最初か次のアミノ酸配列の1つか両方かに引き合わせられ、非同一の配列は比較目的のために無視することができる)。好ましい実施態様においては、参考とする配列の長さの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、あるいはそれ以上が比較の目的で並べられる。そして、対応するアミノ酸部位でのアミノ酸残基が比較されることになる。一つ目の配列におけるある位置が、二つ目の配列において一致する位置と同じアミノ酸残基で占められているとき、分子はその部位において同一である(ここでのアミノ酸の“同一(identity)”という語はアミノ酸の“ホモロジー(homology)”と同等の意味として使用している)。2つの配列間の同一性(一致)の割合は、2つの配列の最適な並べ方を導くのに必要とされるギャップの数やそれぞれのギャップの長さを考慮し、配列により共有される同一部位の数の関数で表される。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の実施態様は、以下の番号付きパラグラフを参照し記載される。
(1)分離・精製したシースプロテインを含有するタンパク質であって、前記シースプロテインは、構造エナメルタンパクの一つであるシースリン(アメロブラスチンまたはアメリン)からプロテアーゼの働きで精製した由来物の1つであり、かつ前記シースリンのアミノ末端側に由来するものであることを特徴とするタンパク質。
(2)シースプロテインが、哺乳動物から分離・精製したものであることを特徴とする前記(1)に記載のタンパク質。
(3)哺乳動物シースプロテインが、ブタから分離・精製したものであることを特徴とする前記(2)に記載のタンパク質。
(4)哺乳動物シースプロテインが、ヒトから分離・精製したものであることを特徴とする前記(2)に記載のタンパク質。
(5)分離・精製したシースプロテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO:11からなる群から選ばれるものであることを特徴とする前記(1)に記載のタンパク質。
(6)前記(5)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(7)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(6)に記載の方法。
(8)SEQ ID NO:11のタンパク質をヒトに応用することにより効果を上げる方法。
(9)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(8)に記載の方法。
(10)SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の約3連続アミノ酸と同じ配列を有する少なくとも3つの連続アミノ酸の配列部位を含むもの、または、
SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれるポリペプチド断片を合成する長さが3〜1000個程度のアミノ酸を含むもの、
であることを特徴とするポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(11)断片が、SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の少なくとも3連続アミノ酸からなる配列を含むことを特徴とする前記(10)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(12)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつSEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を合成することを特徴とする前記(10)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(13)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつリコンビナントタンパク発現システムによりSEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を生合成することを特徴とする前記(10)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(14)前記(10)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(15)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(14)に記載の方法。
(16)SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれる配列中の約3連続アミノ酸と同じ配列を有する少なくとも3つの連続アミノ酸の配列部位を含むもの、または、
SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれるポリペプチド断片を合成する長さが3〜1000個程度のアミノ酸を含むもの、
であることを特徴とするポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(17)断片が、SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれる配列中の少なくとも3連続アミノ酸からなる配列を含むことを特徴とする前記(16)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(18)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつSEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を合成することを特徴とする前記(16)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(19)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつリコンビナントタンパク発現システムによりSEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を生合成することを特徴とする前記(16)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(20)前記(16)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(21)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(20)に記載の方法。
(22)SEQ ID NO: 9中の約3連続アミノ酸と同じ配列を有する少なくとも3つの連続アミノ酸の配列部位を含むもの、または、
SEQ ID NO: 9のポリペプチド断片を合成する長さが3〜1000個程度のアミノ酸を含むもの、
であることを特徴とするポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(23)断片が、SEQ ID NO: 9から少なくとも3つの連続するアミノ酸の配列部位を含むことを特徴とする前記(22)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(24)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつSEQ ID NO: 9から連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を合成することを特徴とする前記(22)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(25)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつリコンビナントタンパク発現システムによりSEQ ID NO: 9の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を生合成することを特徴とする前記(22)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(26)前記(22)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(27)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(26)に記載の方法。
(28)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 26、SEQ ID NO: 27、SEQ ID NO: 28、SEQ ID NO: 29、SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 32からなる群から選ばれる配列部位を含むものとして特徴付けられるポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(29)前記(28)のポリペプチド断片をヒトに応用することにより効果をあげる方法。
(30)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(28)に記載の方法。
【0033】
(31)シースプロテインを含む分離した会合体を含む成分。
(32)分離した会合体が、アルカリ溶液中のシースプロテインとアメロゲニンとで形成されることを特徴とする前記(31)に記載の成分。
(33)分離した会合体が、哺乳動物の基質形成期エナメル質の表面から約30μmに相当する表層のエナメル質である新生エナメル質に存在することを特徴とする前記(31)に記載の成分。
(34)分離した会合体は、表層のエナメル質である新生エナメル質から調整したものであることを特徴とする前記(31)に記載の成分。
(35)分離した会合体は、アルカリ溶液中でのゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ、硫安分画からなる群から選ばれる1つの方法で分離されることを特徴とする前記(31)に記載の成分。
(36)前記(31)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(37)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(36)に記載の方法。
(38)シースプロテインを含む分離したエナメルタンパク質を含む成分。
(39)分離したエナメルタンパク質が、哺乳動物の基質形成期エナメル質の表面から約30μmに相当する表層のエナメル質である新生エナメル質から調整したものであることを特徴とする前記(38)に記載の成分。
(40)分離したエナメルタンパク質が、表層のエナメル質である新生エナメル質から中性可溶性画分を抽出した後にアルカリ溶液で抽出されるものであることを特徴とする前記(38)に記載の成分。
(41)前記(38)に記載の成分を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(42)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(41)に記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は、特定の(具体的に記載した)ポリペプチドやペプチドに限定されないし、ここでの多種の修飾や変異は当業者にとって明らかであろう。ここで使われている専門用語は具体的な実施例を説明するためだけのものであり、限定を意図しているのではないと理解される。
また、図面については、本願明細書の一部であり、本発明の特定の態様をより証明するために含まれている。本発明は、これらの図面を一つ以上参照することにより、ここで提示される具体的な実施態様の詳細な説明と組合せることで、よりよく理解されるであろう。
〔ブタエナメルタンパク中のセメント質再生(CR)促進因子の同定〕
セメント質形成に特異的なマーカーがないので、CR促進因子の同定のために、犬に施した頬側裂開型骨欠損に種々の精製段階のエナメルタンパクを適用して、組織学的な方法で分析した。CR促進活性はビーグル犬に施した一壁性の骨欠損における8週後の組織学的分析で評価した。CR促進活性を持つタンパクが決定された後には、細胞培養法で精製したエナメルタンパクあるいはそれらのペプチドを適用することで、HPDL細胞のALP活性を検出して、タンパクの生理活性をもつ配列を調べた。なぜなら、ALP活性はHPDL細胞の細胞分化活性をあらわし、無細胞セメント質の形成に重要な働きをしている。それはALP欠損マウスの光学顕微鏡による形態的な評価から推論されている(非特許文献47)。細胞培養システムはエナメルタンパクの細胞分化活性の決定につながる便利な方法である。しかしながら、HPDL細胞の細胞分化がセメント質形成かあるいは骨形成に関わるかどうかは今のところ不明である。だから、CR促進因子が最初に決定されれば、HPDL細胞の細胞分化活性の検出がCR促進活性を示すタンパク質中の生理活性配列を決定するのに有用である。
【0035】
〔ビーグル犬に施された一壁性骨欠損における8週後の組織学的分析によるセメント質再生の決定〕
幾つかのエナメルタンパク試料を適用してCR活性を検出するために約2歳のオスのビーグル犬 (体重約15kg)が使われた。それらは正常な歯列を持ち、歯周組織は健全であった。頬側石灰型骨欠損の外科的手術は、ケタミン塩酸(9.8mg/kg:Sankyo Co. LTD, Tokyo, Japan)とXylazine HCl(0.7mg・kg:Bayer Co. LTD, Tokyo, Japan)の混合物を筋肉内に注射して前麻酔した後、100%の酸素に1.5-2.0%ハロタン(Takeda Yakuhin Co. LTD, Osaka, Japan)を加えて気管内チューブ(endotracheal tube)により送管した麻酔下でHammerstrom(1997)の変法を用いて行った。
【0036】
下顎第一小臼歯から第一大臼歯にかけて歯肉剥離技術を施した後、対側性の(contralateral)頬側歯肉粘膜フラップを行った。第二小臼歯の近心根を覆う頬側歯槽骨を除去した後、むき出しになったこの部位の歯根膜セメント質は完全に歯科用バーを使って除いた。欠損の先端には組織学的分析時に欠損の先端部位を確認できるようにノッチを施した。歯冠辺縁と欠損の先端までの距離は約5mmと一定にした。むき出しにした象牙質表面は19%EDTA溶液に浸した綿球で2分間処理し、十分に無菌食塩水で洗った。それから各々100μlの無菌蒸留水に50μgのエナメルタンパク試料を溶かしたものをむき出しになっている根の全頬側表面に塗った。最後に、粘膜骨膜弁(mucoperiosteal flaps)を術前のそれらのレベルに戻して縫合した。蒸留水はネガティブコントロールとして、登録商標「EMDOGAINTM (BIORA AB, Malmo, Sweden)」はポジティブコントロールとした。
【0037】
8週後、イヌはペントバルビタールナトリウムで麻酔状態で屠殺した。頭部を4%パラホルムアルデヒトと1%グルタールアルデヒトを含む0.1Mカコジレート緩衝液で還流固定した。歯、骨、組織を含む組織片を調整後、0.06Mクエン酸ナトリウムと0.1Mクエン酸を含む10%ギ酸で脱灰した。試料はアルコールで定法どおり脱水しパラフィンで包埋した。連続切片(厚さ5μm)を作成しヘマトキシリン/エオジンで染色し鏡検した。
【0038】
〔象牙質表面に形成されたセメント質再生の評価〕
分画したあるいは精製したエナメルタンパクとEMDを適用して得られた再生セメント質の長さと厚さを組織学的な結果のコンピューター処理により計測した。再生セメント質の長さは、新生歯槽骨の先端までと同じように、欠損の先端から新生セメント質までの直線距離である。セメント質の厚さは辺縁と先端とその間を側定した。これらのデータは統計処理を行った。
【0039】
CR促進因子を、露出した歯根象牙質の表面に適用する時、CR活性を持たないアメロゲニンはCRを促進するタンパクやペプチドのキャリアとしては有用かもしれない。なぜならアメロゲニンは低温の蒸留水に溶けるが、生体のイオン強度ではお互いに会合し、37℃で沈殿するからである(非特許文献48)。CR促進タンパクあるいはペプチドは哺乳類の幼若エナメル質から精製したCR促進因子ばかりでなく、CR活性を持つ合成ペプチドやリコンビナントタンパクあるいはペプチドを含む。
【0040】
〔新生基質形成期エナメル質の調整〕
全てのステップは何も記載がなければ氷水中か4度で行った。屠殺場から氷中で運んできた生後6ヶ月くらいの新鮮下顎骨から、切歯永久歯歯胚が取り出された。
【0041】
非特許文献49に記載の方法により基質形成期の表層の幼若エナメル質を調整するために、歯冠形成の発育時期の永久歯歯胚をえらんだ。歯髄を含む周囲の軟組織を除いた後、歯は冷生理的食塩水でリンスし、軽くキムワイプ(wipers S-200)で余分な水分をふき取った。切歯の唇側面のチーズ様硬さで半透明な基質形成期は、明らかにその硬さもチョークのようで色も白い成熟期と異なる。エナメル芽細胞直下で基質形成期のエナメル質の最表層を切歯歯胚の唇側面の基質形成期エナメル質から調整するとき、薄いひげそり用のかみそりを表面に対して垂直に立てて表面に沿って平衡に擦過した。このような動作で得られたうす膜は基質形成期の表面から30μmに相当した(非特許文献46)。この基質形成期表層のエナメル質はエナメル芽細胞直下の約30μmの厚さに一致したので、これは新生基質形成期エナメル質と名づけられた。さらに調整して得られたうす膜は30μm―60μmの厚さに相当したので表層―深層エナメル質として集めた。この2番目の層にはCR活性が含まれていたので、試料として集めた。
【0042】
深層の試料は約60μmの厚さの表層を取った後の基質形成期のエナメル質から削り取った。しかしながらこの試料にはほとんどセメント質再生活性がなかったので、活性の分離には使わなかった。調整した試料は−80度に保存した。これらの試料は、タンパク質は基質形成期エナメル質の表面に多く表面からエナメル象牙境にかけて減少していくという生化学的、組織学的事実に基づいて調整した。新生幼若エナメル質の水、ミネラル、タンパク質は湿重量あたり42%、24%、34%であった。
【0043】
〔エナメルタンパクの輪郭(アウトライン)とエナメルタンパクの同定〕
分画したエナメルタンパクを、1%SDSを含む15%ポリアクリルアミド平板ゲルを使ったLaemmliの方法によるアクリルアミドゲル電気泳動し、クーマーシーブリリアントブルーR250 染色して調べた。エナメルタンパクの同定はアメロゲニン、エナメリン、シースプロテインのポリクロナール抗体(非特許文献24)でウェスタンブロット法で行った。泳動後、ゲルはGVHP膜にトランスブロットした。膜は非特許文献50に記載の方法に従ってアビジン−ビオチン複合体を使ったABCキットを使いプロトコル(Vector Laboratoreis, USA)に従って免疫染色した。
【0044】
〔CR活性を持つブタエナメルタンパク質の抽出〕
<中性とアルカリ可溶性画分の抽出>
集めた試料は一緒にして氷水中で湿重量の20倍容量の緩衝液を加えた。資料中のタンパク質はポリトロンホモジナイザーを用いて約6000回転のスピードでトータルとして60秒間ホモジナイズして抽出した。ホノジナイズ中、試料が加熱しないように3から4回のインターバルで行った。同じ緩衝液での抽出は3回繰り返された。中性可溶性画分とアルカリ可溶性画分はそれぞれ0.05M Sorensen 緩衝液(pH7.4)と0.05M 炭酸‐重炭酸緩衝液(pH10.8)中でホモジナイズして連続的に抽出した(非特許文献3)。総タンパク質量の95%以上がこれらの連続抽出で基質形成期エナメル質から抽出された。総タンパク質の約16%が中性緩衝液で可溶化され、80%がアルカリ緩衝液で可溶化された。
【0045】
新生幼若エナメル質から分離されたこれらの中性とアルカリ可溶性画分のCR活性をイヌの頬側裂開型骨欠損を用いて調べたところ、CR活性はアルカリ可溶性画分のみに存在した。アルカリ緩衝液で抽出した後の残りは結晶である。それには量的に少ないが、結晶結合性タンパクが結合している。結晶結合性タンパク質は0.5M sakusannka EDTAを用いて脱灰することにより得ることが出来る。結晶結合性タンパク質は新生基質形成期エナメル質のアルカリ画分からセファデックスG-100ゲルろ過によって得られるフラクション1によく似ている(非特許文献3)。だから結晶結合性タンパク質はCR活性を持つことが予想される。
【0046】
中性可溶性画分は量的に少ないので、その抽出は省くことが出来る。しかしながら、中性可溶性画分はEMSP1(KLK4)の前駆体と少量のEMSP1 を含んでいる。ほとんどのメタロプロテアーゼはアルカリ可溶性画分に抽出される。全可溶性画分を中性可溶性画分の抽出過程を省いて、直接、アルカリ緩衝液で抽出を行うことは、メタロプロテアーゼのアクションで活性化される可能性のあるEMSP1の前駆体が含まれることになる。これはCR促進タンパクがその分離あるいは生成過程で分解される可能性を示している。
【0047】
ホモジナイズによる抽出の変わりに、コールドルームで数種類のプロテアーゼとアルカリホスファターゼの阻害剤(5mM benzamidine HCl、2mM 1,10-phenanthroline, 1mM levamisole) の入った中性とアルカリ溶液中で一晩中緩やかに撹拌することで抽出できる。
【0048】
表層、表層‐深層、深層のエナメル質試料の各々の総タンパク質は0.5M 酢酸、あるいは0.5M EDTA 溶液で脱灰するか、4Mグアニジンあるいは6-8M尿素の変性剤を含む緩衝液で可溶化できる。変性剤を使う方法はCR活性を分離・精製するのに得策ではない。なぜなら、抽出に多量の薬剤が含まれるからである。最も大きな問題は、エナメルタンパクが、分子量が近似であり、また会合しやすい性質のアメロゲニンとその由来物からなりたっていることである。
【0049】
〔CR活性を含む画分の分離〕
新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分は0.05M炭酸ー重炭酸緩衝液(pH10.8)で平衡化してあるセファデックスG-100(Pharmacia Biotech, Uppasala, Sweden) のカラム(2.6x100cm)で4つ(1-4)のフラクションにゲルろ過された。炭酸緩衝液の採用はアルカリ性の条件がアメロゲニンの会合が抑制するためである。最初に溶出するピーク(フラクション1)には、主に70-89kDaエナメリン, 13-17kDaシースプロテインと少量の20-15kDa アメロゲニンが含まれていた。主たる二番目のピークには20-25kDaアメロゲニンが含まれていた。他のピークにはアメロゲニン由来物が含まれていた。
【0050】
EMDとフラクション1の適用後、セメント質再生に対する8週後の組織学的分析は象牙質表面のセメント質再生を評価した。両方の試料ともノッチから辺縁までのセメント質を再生した。骨欠損先端から真セメント質までの距離はフラクション1、EMD、コントロールでそれぞれ6.25±0.40mm、6.15±0.43mm、4.17±0.79mmであった。フラクション1、EMDとコントロールでは優位な違いはあったが、フラクション1とEMDでは差がなかった。骨欠損の先端からの骨の高さはフラクション1、EMD、コントロールでそれぞれ1.69±0.45mm、1.41±0.54mm、1.09±0.46mmであった。優位差はフラクション1とコントロールの間に認められた。セメント質の厚さは各々の試料の3点(先端、中央、辺縁)で計測した。セメント質の平均厚さはフラクション1、EMD、コントロールでそれぞれ27.88±8.85mm、14.77±4.81mm、8.37±2.48mmであった。全てのグループで統計的に優位差があった。
【0051】
フラクション1は象牙質によく接着している厚い無細胞のセメント質の形成を誘導した。多数のコラーゲン線維束が再生したセメント質を起点にして正常の歯根膜のように配列していた。ポジティブコントロールのEMDのCR活性(セメント質の厚さ) は明らかにフラクション1よりも弱かった。ネガティブコントロールの水の場合はほとんどCR活性がなかった。
【0052】
アメロゲニンとその由来物を含む他の画分はCR活性を示さなかった。これはアメロゲニンとその由来物にはCR活性がないことを示している。
【0053】
セファデックスG-100ゲルろ過以外に新生幼若エナメル質から多量のアメロゲニンを除去する方法に硫安分画がある(非特許文献39)。ほとんどのアメロゲニンは氷水中の0.05M 炭酸―重炭酸緩衝液(pH10.8)の条件で硫安の6.5%飽和で沈殿してくる。上清は次のステップの精製に使うためにYM-1の限外ろ過膜を使用して濃縮する。シースプロテインの会合体を基質形成期エナメル質から、硫安分画で分画できるのなら、この方法は大量の試料が扱えるのでCR促進のための実際の薬の生成に有用であろう。
【0054】
エナメルタンパクから大量のアメロゲニンを除去する他の方法で、アメロゲニンは中性溶液中で高い温度にすると沈殿する性質を利用する方法がある。
【0055】
エナメルタンパクを低温で酸性かアルカリ性溶液で可溶化して、この溶液を、アルカリ性溶液か酸性溶液を加えることで中和し37度に過熱すればアメロゲニンの沈殿が起こる(非特許文献48)。
【0056】
〔CR活性を示す会合体の分離〕
表層の試料から抽出したアルカリ可溶性画分のセファデックスG-100ゲルろ過で最初に溶出するピーク(フラクション1)は70-89kDaエナメリンと少量の20-25kDaアメロゲニンを含む13-17kDaシースプロテインからなる会合体を含む。一般に分子量の大きなタンパク質はゲルろ過で早い位置に溶出してくる。だから、フラクション1に含まれる13-17kDa シースプロテインは少量の20-25kDaアメロゲニンと共に会合体を形成しているといえる。なぜなら、4本のTSKgel G-3000PWカラムを使って室温で炭酸緩衝液中でさらに精製したところ、ほとんどの13、15、17kDaシースプロテインははじめに溶出し次に70-89kDaエナメリン、最後にアメロゲニンが溶出してきたからである。これらの小さい分子量のシースプロテインはアルカリ条件でも少量のアメロゲニンと会合体を形成して、ゲルろ過カラムを通り抜けていると思われる。
【0057】
セファデックスG-100ゲルろ過で分離された生理活性を持つフラクション1は70-89kDaエナメリンと少量の20-25kDaアメロゲニンを含む13-17kDaシースプロテインからなる会合体を含む。このステップで得られた画分のCR活性を組織学的分析で調べるとシースプロテインからなる会合体にはCR活性はあるが、エナメリンにはなかった。
【0058】
フラクション1からの会合体の分離は、6M尿素を含む0.05M トリス 緩衝液(pH7.4)で平衡化した登録商標「EXPRESS-IONTM」EXCHANGER Q (Whatman, Whatman International Ltd, Springfield Mill, England)のDEAEイオン交換HPLC カラム(9x100mm)によっても可能である。タンパク質は食塩の直線的濃度勾配(0-1.2M)により溶出した。会合体はこのカラムでは吸着しないで素通りするが、エナメリンは高濃度の食塩で溶出する。だから、少量の20-25kDaアメロゲニンを含む13-17kDaシースプロテインからなる会合体は中性pHの DEAEイオン交換クロマトグラフィで70-89kDaエナメリンから分離することが出来る。
【0059】
〔13、15、17kDaシースプロテインの精製〕
シースプロテインを含む画分は4Mグアニジン塩酸(pH7.4)を含む0.05Mトリス緩衝液(pH7.4)で平衡化したCellulofine GCL-2000(Chisso Ltd, Makuhari, Japan)のカラム(2.5x95cm)か4本のTSKgel G3000PW(TOSOH, Tokyo, Japan)のカラム(7.5mm I.D. x 60cm)を使ったリサイクルゲルろ過で分離した。
【0060】
4本のTSKgel G3000PWのカラム(7.5mm I.D. x 60cm)を使った12回のリサイクルによるゲルろ過はTSKgel G3000PWの28 mのカラムを使ったゲルろ過と同じである。
【0061】
〔17kDaシースプロテインのアミノ酸配列〕
精製した各々のシースプロテインのアミノ酸配列分析は、これらシースプロテインが親タンパクであるシースリン(非特許文献1)から由来することを示した。アミノ酸配列分析はSHIMAZDU プロテインシーケンサーPPSQ-23A(Shimadzu Co., Kyoto, Japan)で行った。
【0062】
ブタ17kDaシースプロテインアミノ酸配列はSEQ ID NO:10である。
【0063】
ヒトシースリン(アメロブラスチン)配列から類推したヒトシースプロテインの配列はSEQ ID NO:11である。
【0064】
〔分離した17、15、13kDaシースプロテインのキャラクタリゼーション〕
分離した17、15、13kDaシースプロテインのキャラクタリゼーションから17と15kDaシースプロテインは各々170残基と130残基のアミノ酸を含むシースリンのN末端側分解産物であった。13kDaシースプロテインはM32からQ130までの99残基のアミノ酸からなっている。
【0065】
だから、15kDaシースプロテインは17kDaシースプロテインのC末端側40残基が切断されたものである。13kDaシースプロテインは15kDaシースプロテインのN末端側31残基のアミノ酸が切断されたものである。
【0066】
〔エナメルタンパクのCR促進タンパクの同定〕
精製した17kDaと15kDaシースプロテインを8週でのセメント質再生の組織学的分析(非特許文献40)で試験すると、再生されたセメント質の厚さは17kDaと15kDaを適用した時、それぞれ31.77±3.78μm、8.13±2.06μmであった。したがって、17kDaシースプロテインは厚い無細胞セメント質を誘導したが、15kDaシースプロテインはほとんどCR活性がなかった。
【0067】
エビデンスは17kDaシースプロテインがCR促進タンパクであり、CR活性は15kDaシースプロテインに存在しないC末端側ペプチドに存在することを示している。CR促進活性を示すブタの生理活性配列はSEQ ID NO: 12である。類推されるヒトの生理活性配列はSEQ ID NO: 13である。
【0068】
それで、最も短い生理活性配列を決定するためにHPDL細胞のALP誘導活性を検出する方法で調べた。
【0069】
〔細胞培養システムでHPDL細胞のALP誘導活性の検出による細胞分化活性をもつ配列の同定〕
<HPDL細胞の細胞培養とALP活性の検出>
ヒト歯根膜(HPDL)細胞は、矯正治療の目的で抜去された健康な小臼歯から非特許文献51に記載の方法で得られた。細胞は4〜6代、α-MEM 培地で継代培養してprimary cell line を確立した。細胞はイーグル培地をαモディフィケーションした10%の子牛血清(FBS, Ashi Technoglass, Chiba, Japan)と1% antibiotics(100U/ml of Penicillin-G and 100μg/ml Streptomycin sulfate; Gibco BRL, Grand Island, N.Y., USA)を含む培地(α-MEM; Life Technologies, Grand Island, N.Y., USA)中で、5%炭酸ガスを含み湿潤にした条件で37℃で培養した。マウス骨髄細胞由来骨芽細胞様細胞であるST2細胞(Riken Cell Bank, Tsukuba, Japan)は同じ条件で培養した。
【0070】
HPDL細胞は、96穴プレートにおいて1つのウエルに約5x105の細胞になるようにまき、24時間培養した。その後、10nM 1α-25-dihydroxy-Vitamin D3 (CALBIOCHEM, La Jolla, Calif.)と50μg/ml(終濃度)になるように分画したエナメルタンパクあるいは合成ペプチドを超純水に溶かして加えた。さらに96時間後、細胞はPBSで洗い、ALP活性を37℃で5mM MgCl2を含み、基質として10mM p-nitorophenylphosphate(substrate)を含む 100mM 2-amino-2-methyl-1,3-propandiol-HCl緩衝液 (pH 10.0)中で 10分間インキュベーションして測定した。反応は0.2M NaOHを加えてとめ、405nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。コントロールにはリコンビナント成長因子(BMP-2 500ng/ml; TECHNE Co., Minneapolis, USA、TGFβ-1 50ng/ml; R&D Systems, Inc., Minneapolis, USA)を含めていた。
【0071】
HPDL細胞とST2細胞の培養システムでこれらの細胞のALP活性の発現に1α-25-dihydroxy-Vitamin D3は重要な役割を果たしている。1α-25-dihydroxy-Vitamin D3の刺激で上昇したHPDL細胞のALP活性はTGF-β1でさらに活性が上昇するが、BMP-2では減少する。またTGF-β1を加えた長期間の培養でHPDL細胞は石灰化することが示されている(非特許文献33)。反対にST2の細胞のALP活性はBMP-2で上昇するが、TGF-β1で抑制される。もしHPDL細胞のALP活性がBMP-2で亢進するならば、それは細胞の細胞分化が骨様の細胞に向かっていることを示している。
【0072】
〔石灰化活性〕
HPDL細胞を24穴プレートに1x105 /wellの細胞数でまいた。24時間インキュベート後、50μMアスコルビン酸、10mMβ-グリセロリン酸、10nM 1α-25-dihydroxy-Vitamin D3(differentiation medium)と1μg/mlの試料を含む成長培地に置換した。培地は72時間ごとに交換した。細胞は30日間培養した後、培地は捨てた。
【0073】
細胞部分は100%メタノールで固定し10分間アリザリンレッドSで染色、超純水で洗った後石灰化活性を調べるために写真撮影した。染色液は1%アリザリンレッドS(sidium alizarin sulfonate)(Sigima)を超純水に溶かして、0.1Nアンモニア水でpH6.4にあわせて調整した。
【0074】
カルシウム量の測定のために細胞部分を0.5M塩酸で溶かした。得られた溶液はCalcium C-test kit(Wako Pure Chemical Industries Ltd, Osaka、Japan)を使って調べた。活性は570nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。
【0075】
〔HPDL細胞あるいはST2細胞の細胞培養による精製したシースプロテインあるいは合成ペプチドのALP誘導活性〕
HPDL細胞は96穴プレートに1つのウエルに約5x105の細胞になるようにまき、24時間培養した。その後、10nM 1α-25-dihydroxy-Vitamin D3と50μg/ml(終濃度)の精製したシースプロテインか又は合成ペプチドの試料を含む成長培地に置換した。96時間培養後、ALP活性はp-nitorophenylphosphateを基質として測定した。ポジティブコントロールとしてリコンビナントBMP-2あるいはTGF-β1のそれぞれ500ng/ml、50ng/mlを使用した。
【0076】
各々の生成したシースプロテインが細胞培養システムでHPDL細胞とST2細胞のALP活性を上昇させるかどうかを、調べた。HPDL細胞のALP活性は17kDaシースプロテインで促進されるが,15kDa,13kDaシースプロテインでは促進されなかった。シースプロテインは、BMP-2の添加で促進されたST2細胞のALP活性を促進しなかった。これらの事実は、C末端側ペプチドが切断されて17kDaシースプロテインから15kDaシースプロテインが生ずることから、細胞分化活性が15kDaシースプロテイン中には含まれない(存在し得ない)17kDaシースプロテインのC末端側ペプチドに存在することを示している。細胞培養システムで示された細胞分化活性はイヌの頬側裂開型骨欠損によるin vivoのシステムで決定されたCR促進活性と強くリンクしていることが示唆された。
【0077】
たまに、HPDL細胞の培養において、15kDaシースプロテインの適用によってALP誘導活性が13kDaシースプロテインよりも高い時があった。これは活性の程度が低いけれども、17kDaシースプロテインのN末端側ペプチドにもHPDL細胞の細胞分化活性があるかもしれないことを示唆している。
【0078】
25kDaアメロゲニンとその由来物(6kDa、13kDa、20kDa)幼若エナメル質基質から精製し細胞培養システムでそれらのHPDL細胞のALP誘導活性を調べた時、TGF-β1様の活性があった。20kDaアメロゲニンはブタのアメロゲニン遺伝子産物で最も多い25kDaアメロゲニンのC末端側親水性ペプチドが切断されて生成した。この分解は基質形成期エナメル質表層でMMP-20の働きで起こる。20kDaアメロゲニンは発育の進んだ基質形成期エナメル質中でEMSP1の働きで2つの断片6kDaと13kDaアメロゲニン分解される。6kDaアメロゲニンは20kDaアメロゲニンのN末端側から由来し、13kDaアメロゲニンは20kDaアメロゲニンのC末端側から由来する。これらのアメロゲニンとその由来物のうち、6kDaアメロゲニンが最も大きいHPDL細胞のALP誘導活性を示した。さらに、6kDaアメロゲニンの配列を元に合成した合成ペプチドのうち、N末端側のペプチドSEQ ID NO: 6にALP誘導活性があった。これはシースプロテインと同じようにアメロゲニンにもHPDL細胞の細胞分化活性があることを示唆している。しかしながら、アメロゲニンにはイヌの頬側裂開型骨欠損の実験でCR促進活性がないので、これらは歯根膜再生中に骨形成の誘導に関わっているのかもしれない。
【0079】
ブタ6kDaアメロゲニンのアミノ酸配列はSEQ ID NO:14である。以下の合成ペプチドA-1、A-2、A-3、A-1-1、A-1-2、A-1-3は、それぞれSEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8である。
【0080】
6kDaアメロゲニンのアミノ酸配列を元にして合成したペプチドについて、細胞培養システムでそれらのHPDL細胞のALP誘導活性を調べた。N末端側のペプチド(A-1)が最も強い生理活性を示したので、A-1の配列を元にもっと短いペプチドを合成し、それらの生理活性を調べた。その結果A-1-1とA-1-2が培養システムでHPDL細胞のALP誘導活性を促進した。A-1-1ペプチドは高濃度(1μg/ml)でA-1-2ペプチドは低濃度(10nm/ml)で生理活性を促進した。
【0081】
現在、細胞培養システムにおけるALP誘導活性の増加によって示されるHPDL細胞の細胞分化活性がセメント質形成か骨形成を誘導しているのかは不明である。1α-25-dihydroxy-Vitamin D3の刺激で骨芽細胞は破骨細胞を誘導するRANKL(ODF)を発現することはよく知られている。一方で、セメント芽細胞はセメント吸収に関わらない。それで、RANKLの発現を、特異的抗体を使うかRT-PCRでそのmRNAを検出するかでしらべれば、HPDL細胞の細胞分化がセメント質形成か骨形成に関わるかを決定するのに有効であろう。
【0082】
〔合成ペプチド〕
ブタ17kDaシースプロテインのC末端側配列を元に6つのペプチドが合成された。
【0083】
それらの配列は各々SEQ ID NO: 18(N-1)、SEQ ID NO: 19(N-2)、SEQ ID NO: 20(N-3)、SEQ ID NO: 21(C-1)、SEQ ID NO: 22(C-2)、SEQ ID NO: 23(C-3)である。
【0084】
合成ペプチドの生理活性は細胞培養システムでHPDL細胞かST2細胞で調べた。17kDaシースプロテインのC末端側にあって15や13kDaシースプロテインにないC-1ペプチドの50μg/mlを適用した時、それはHPDL細胞のALP活性を促進した。他のペプチドのあるものはHPDL細胞のALP活性をBMP-2と同じように抑制した。しかし、ST2細胞のALP活性を促進するペプチドはなかった。
【0085】
この実験で、失敗はHPDL細胞のALP促進活性の検出に17kDaシースプロテインの約10倍量の濃度の合成ペプチドが使われたことである。合成ペプチドの平均分子量は1.6kDaで、17kDaシースプロテインはアミノ酸組成から類推すると約18kDaである。これはC-1ペプチドの生理活性高濃度(50μg/ml)の適用によるHPDL細胞の細胞分化活性はそんなに強くないことを示すと考えられる。
【0086】
いくつかのケースでは、17kDaシースプロテインのN末端側配列を元にHPDL細胞培養システムで合成されたペプチドの適用(application)は、その活性は少ないけれども、ALP促進活性を上昇させた。これは17kDaシースプロテインのN末端側ペプチドにはHPDL細胞のCR活性に繋がる細胞分化活性を持っていることを表している。
【0087】
〔ヒトシースプロテインのC末端側を基にしたヒト合成ペプチド〕
ヒトのエクストラC末端ペプチドは、ブタのエクストラC末端ペプチドが40残基のアミノ酸からなるのと異なり、66残基のアミノ酸を持っている。それで、66個のアミノ酸からなる配列から5つのペプチドを合成した。
【0088】
それらの配列はSEQ ID NO: 3(H-1)、SEQ ID NO: 1(H-2)、SEQ ID NO: 2(H-3)、SEQ ID NO: 4(H-4)、SEQ ID NO: 5(H-5)である。
【0089】
合成ペプチドの生理活性はHPDL細胞とST2細胞の細胞培養システムで調べた。H-2とH-3ペプチドの約1ng/mlを適用した時、それらは用量依存的にHPDL細胞のALP活性を促進した。他のペプチドもH-2とH-3に比べるとそれらの活性は弱いもののHPDL細胞のALP活性を促進した。ST2細胞のALP活性については、どのペプチドも促進しなかった。
【0090】
TGF-β1の場合、10ng/mlぐらいがHPDL細胞の細胞培養システムでALP誘導活性を増加させるための最適な濃度である。合成ペプチドの平均分子量は1.5kDaなので、HPDL細胞のALP誘導活性を増加させるための最適な濃度は0.6nM/literである。TGF-β1の分子量は25kDaなので、その濃度は0.4nM/literである。これらのペプチドの活性は成長因子のTGF-β1とほぼ同じ濃度である。
【0091】
TGF-β1受容体の阻害剤(SB431542)をHPDL細胞培養システムに添加した時、TGF-β1のALP誘導活性は明らかに阻害される。しかしながら、合成ペプチドの適用によって増加するALP誘導活性はSB431542の添加で阻害されなかった。これは合成ペプチドの細胞分化活性はTGF-β1受容体とは異なる他の受容体を解して誘導されることを示唆している。
【0092】
合成ペプチドの使用はE型や未同定のウイルス感染あるいは繰り返し同じ患者にCR促進タンパクを適用したためにおこる免疫学的障害の危険性を除去できる。CR活性を持つ生理的合成ペプチドは歯周病の治療に応用するのは効果があるだろう。ヒトシースプロテインから合成されるペプチドの使用はイスラム系患者の治療に利用できる。
20匹のブタ下顎骨から調整した歯冠形成期の永久歯切歯の唇側面から、基質形成期エナメル質の表層、表層‐深層、深層の試料を得た。一回の試料調整で得られた平均湿重量を下記に示す。試料の調整はお互いの混入がないように注意しながら切歯の幼若エナメル質から連続的に行った。だから、調整時の試料のロスは考慮すべきである。
【0093】
〔表1〕
湿重量 タンパク質量
表層エナメル質試料 0.064 g 0.022 g
(0.044g-0.085g)
表層‐深層エナメル質試料 0.153 g 0.041 g
(0.145g-0.159 g)
深層エナメル質試料 2.290g 0.498 g
(2.209g-2.449 g)
総基質形成期エナメル質 2.507g 0.561 g
・基質形成期エナメル質の総湿重量あたりの「表層エナメル質試料」+「表層‐深層エナメル質試料」の湿重量は、8.65% (7.0%-10.2%)である。
・各々の試料の「タンパク質量」は、後述の表2の値から計算した。
・基質形成期エナメル質の総タンパク質量あたりの「表層エナメル質試料」+「表層‐深層エナメル質試料」のタンパク質量は、11.2% (9.1%-13.2%)である。
【0094】
「表層エナメル質試料」+「表層‐深層エナメル質試料」のタンパク質量の意味は、17kDaシースプロテインが「表層」ばかりではなく「表層‐深層」の試料にも含まれているからである。
【0095】
セファデックスG-100によって分離されたフラクション1に含まれるシースプロテインの会合体は以前の結果(非特許文献3)から「表層」と「表層‐深層」との合計試料の約14.4% と計算された。
【0096】
だから、セファデックスG-100によって分離されたフラクション1と結晶結合性タンパク質(無視してもいいくらいに少ない)を含めたシースプロテインの会合体を含むタンパク画分は基質形成期エナメル質の総タンパク量の11.2x0.151=1.69% (1.3%-1.99%)となる。
【0097】
実際の抽出実験では、2gの表層の試料から45mgのフラクション1が得られた。理論的には99mgのフラクション1が得られるはずである。この場合、表層‐深層の試料に含まれる画分を考慮しなければ、基質形成期エナメル質の総タンパク量に対するフラクション1の量は0.26% (理論的には0.57%) と計算される。
【0098】
45mgのフラクション1から12.7mgの会合体画分が得られた。これは会合体画分量は基質形成期エナメル質の総タンパク量の0.07%(理論的には0.17%)となる。
【0099】
17kDaシースプロテインの量は基質形成期エナメル質の総タンパク量の約0.023% (理論的には0.056%)と計算された。なぜなら、ゲルろ過やイオン交換クロマトグラフィで得られた会合体のSDSアクリルアミドゲル電気泳動パターンのデンシトメトリック分析で、17kDaシースプロテインは約33%含まれていたからである。この値は全てのタンパク質がCBB染色で同じ染色性を持っているという仮定で計算している。
【0100】
〔現在、ビーグル犬の一壁性骨欠損における8週後の組織学的分析ではフラクション1が最も強いCR促進活性を示す〕
ブタの基質形成期のエナメル質表層のアルカリ可溶性抽出物からセファデックスG-100ゲルろ過で分離されたフラクション1を頬側裂開型骨欠損における歯周組織欠損モデルに適用した時、完全な再生が象牙質表面に誘導された。フラクション1はノッチから辺縁までの象牙質によく結合した厚い無細胞性セメント質の形成を誘導した。正常な歯根膜にみられるように配列した豊富なコラーゲン線維束が、再生したセメント質から生じていた。これらの結果は再生されたセメント質の長さや厚さを、組織学的結果からコンピューターモニターで計測し、統計学的に分析した事実に基づいている。
【0101】
登録商標「EMDOGAINTM」に比べてフラクション1の強いCR活性は、登録商標「EMDOGAINTM」に含まれる活性成分が濃縮されたからである。かなりの量のアメロゲニンがフラクション1を調整中に除かれ、生理活性を持つ17kDaシースプロテインが濃縮されている。しかしながら、17kDaシースプロテインは欠損の先端部位近くでは厚い無細胞性セメント質を誘導するが、辺縁近くではCRはほとんど再生されなかった。また上皮細胞が増殖していた場合もあった。これらの結果はフラクション1の結果とは違っていた。アメロゲニンのないことがセメント質再生の領域の減少の原因かもしれない。また、それは17kDaシースプロテインのCR活性のキャリアとして働くのかもしれない。
【0102】
EMDを溶かすため、プロピレングリコールアルジネートは実際の臨床応用のためのキャリアとして使われている。CR促進タンパクあるいはペプチドがむき出しの象牙質表面に添加される時、細胞分化活性を持つがCR活性を持たないアメロゲニンがキャリアとして有用であるだろう。なぜなら冷たい蒸留水に溶けるアメロゲニンは生体のイオン強度における37度下ではお互いが会合して不溶化(非特許文献48)して象牙質表面に接着するからである。
【0103】
CR活性を示すリコンビナントシースプロテインあるいは生理活性ペプチドはヒト象牙芽細胞から調整したヒトシースリン(アメロブラスチン)cDNA(非特許文献52)を元にして作成することが出来る。ヒト象牙芽細胞は、非特許文献53に記載の方法で矯正治療のために抜去された健康な小臼歯から得られた。新鮮抜去歯は長軸方向に“骨のみ”で割り、ピンセットで歯髄を取り去ると象牙前質の表面に残存している象牙芽細胞をはがした。象牙芽細胞にはアメロゲニン、エナメリン、シースリン、MMP-20、KLK4 が発現しているので、総RNAをStratagene Total RNA Miniprep Kit とそのプロトコル(Stratagene, La Jolla, Calif, USA)を使って調整した。
【0104】
〔表2〕
基質形成期エナメル質表層、表層‐深層、深層の試料の化学組成 (湿重量 %)
水 ミネラル 総タン 中性可溶性 アルカリ可溶性
パク量 画分 画分
表層 42 24 34 5.4 29
(0-30μm)
表層‐深層 35 38 27 5.1 21
(30-60μm)
深層 34 47 19 5.1 13
(60-300μm)
【0105】
〔表3〕
基質形成期エナメル質表層、表層‐深層、深層 の中性、アルカリ性、酸性可溶性画分のタンパク量 (乾燥重量 %)
総 中性可溶性 アルカリ可溶 酸性可溶性
タンパク量 画分 性画分 画分
表層 59.3 9.5(16) 47(80) 3.6(4)
表層‐深層 40.8 7.8(19) 31(77) 4.0(4)
深層 28.8 7.8(27) 20(68) 4.5(5)
【0106】
〔表4〕
ブタ 17kDaシースプロテインアミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 10≫
Sequence Size 170
Sequence Position 1-170
疎水性 94(55.29)
中性 46(27.06)
親水性 30(17.65)
その他 0(0.00)
[疎水性残基]
Gly(G) 12 (7.06%)
Ala(A) 6 (3.53%)
Val(V) 10 (5.88%)
Lcu(L) 16 (9.41%)
Ile(I) 3 (1.76%)
Met(M) 6 (3.53%)
Phe(F) 8 (4.71%)
Trp(W) 2 (1.18%)
Pro(P) 31 (18.24%)
[中性残基]
Ser(S) 15 (8.82%)
Thr(T) 5 (2.94%)
Asn(N) 3 (1.76%)
Gln(Q) 23 (13.53%)
Cys(C) 0 (0.00%)
[親水性残基]
Asp(D) 3 (1.76%)
Glu(E) 8 (4.71%)
Lys(K) 4 (2.35%)
His(H) 5 (2.94%)
Arg(R) 6 (3.53%)
Tyr(Y) 4 (2.35%)
[その他の残基]
Asx(B) 0 (0.00%)
Glx(Z) 0 (0.00%)
Xaa(X) 0 (0.00%)
平均分子量 = 18885.15
モノアイソトピック分子量 = 18873.5067
【0107】
〔表5〕
ヒトシースリン(アメロブラスチン)配列から推定されるヒトシースプロテインのアミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 11≫
Sequence Size 196
Sequence Position 1-196
疎水性 109(55.61)
中性 50(25.51)
親水性 37(18.88)
その他 0(0.00)
[疎水性残基]
Gly(G) 15 (7.65%)
Ala(A) 11 (5.61%)
Val(V) 5 (2.55%)
Lcu(L) 26 (13.27%)
Ile(I) 3 (1.53%)
Met(M) 5 (2.55%)
Phe(F) 9 (4.59%)
Trp(W) 2 (1.02%)
Pro(P) 33 (16.84%)
[中性残基]
Ser(S) 18 (9.18%)
Thr(T) 8 (4.08%)
Asn(N) 3 (1.53%)
Gln(Q) 21 (10.71%)
Cys(C) 0 (0.00%)
[親水性残基]
Asp(D) 7 (3.57%)
Glu(E) 8 (4.08%)
Lys(K) 6 (3.06%)
His(H) 6 (3.06%)
Arg(R) 6 (3.06%)
Tyr(Y) 4 (2.04%)
[その他]
Asx(B) 0 (0.00%)
Glx(Z) 0 (0.00%)
Xaa(X) 0 (0.00%)
平均分子量 = 21419.96
モノアイソトピック分子量 = 21406.8663
【0108】
〔表6〕
CR促進活性を示すブタ生理活性アミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 12≫
Sequence Size 40
Sequence Position 1-40
疎水性 24(60.00)
中性 7(17.50)
親水性 9(22.50)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 4347.81
モノアイソトピック分子量 = 4345.1035
【0109】
〔表7〕
CR促進活性を示すヒト生理活性アミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 13≫
Sequence Size 66
Sequence Position 1-66
疎水性 41(62.12)
中性 12(18.18)
親水性 13(19.70)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 6935.60
モノアイソトピック分子量 = 6931.4326
【0110】
〔表8〕
CR促進活性の可能性のあるブタ17kDaシースプロテインのN末端側のアミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 24≫
Sequence Size 31
Sequence Position 1-31
疎水性 19(61.29)
中性 9(29.03)
親水性 3(9.68)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 3222.67
モノアイソトピック分子量 = 3220.7022
【0111】
〔表9〕
CR促進活性の可能性のあるヒト17kDaシースプロテインのN末端側のアミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 25≫
Sequence Size 31
Sequence Position 1-31
疎水性 17(54.84)
中性 11(35.48)
親水性 3(9.68)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 3391.88
モノアイソトピック分子量 = 3389.7220
【0112】
ブタ17kDaシースプロテインのN末端側とC末端側のアミノ酸配列を元に合成した6つのペプチド
N-1: SEQ ID NO: 18
N-2: SEQ ID NO: 19
N-3: SEQ ID NO: 20
C-1: SEQ ID NO: 21
C-2: SEQ ID NO: 22
C-3: SEQ ID NO: 23
〔表10〕
≪N-1: SEQ ID NO:18≫
Sequence Size 13
Sequence Position 1-13
疎水性 10(76.92)
中性 2(15.38)
親水性 1(7.69)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 1322.49
モノアイソトピック分子量 = 1321.7143
〔表11〕
≪N-2: SEQ ID NO:19≫
Sequence Size 13
Sequence Position 1-13
疎水性 7(53.85)
中性 4(30.77)
親水性 2(15.38)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 1361.57
モノアイソトピック分子量 = 1360.7019
〔表12〕
≪N-3: SEQ ID NO:20≫
Sequence Size 13
Sequence Position 1-13
疎水性 6(46.15)
中性 5(38.46)
親水性 2(15.38)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 1446.64
モノアイソトピック分子量 = 1445.7294
〔表13〕
≪C-1: SEQ ID NO:21≫
Sequence Size 170
Sequence Position 132-146
平均分子量 = 1626.82
モノアイソトピック分子量 = 1625.8084
〔表14〕
≪C-2: SEQ ID NO:22≫
Sequence Size 170
Sequence Position 144-158
平均分子量 = 1599.72
モノアイソトピック分子量 = 1598.7827
〔表15〕
≪C-3: SEQ ID NO:23≫
Sequence Size 170
Sequence Position 156-170
平均分子量 = 1706.88
モノアイソトピック分子量 = 1705.7770
【0113】
ヒトC末端側エクストラペプチド(66 amino acids)のアミノ酸配列を元に合成
したペプチド
H-1: SEQ ID NO:3
H-2: SEQ ID NO: 1
H-3: SEQ ID NO:2
H-4: SEQ ID NO:4
H-5: SEQ ID NO:5
〔表16〕
≪H-1: SEQ ID NO:3≫
Sequence Size 196
Sequence Position 131-144
平均分子量 = 1494.64
モノアイソトピック分子量 = 1493.7725
〔表17〕
≪H-2: SEQ ID NO:1≫
Sequence Size 196
Sequence Position 144-157
平均分子量 = 1525.68
モノアイソトピック分子量 = 1524.7824
〔表18〕
≪H-3: SEQ ID NO:2≫
Sequence Size 196
Sequence Position 157-170
平均分子量 = 1478.62
モノアイソトピック分子量 = 1477.6546
〔表19〕
≪H-4: SEQ ID NO:4≫
Sequence Size 196
Sequence Position 170-183
平均分子量 = 1486.61
モノアイソトピック分子量 = 1485.7138
〔表20〕
≪H-5: SEQ ID NO:5≫
Sequence Size 196
Sequence Position 183-196
平均分子量 = 1550.72
モノアイソトピック分子量 = 1549.7889
【実施例】
【0114】
例1
〔材料と方法〕
全ての動物実験は鶴見大学動物取り扱いプログラムの承認のもとに行われた。
【0115】
〔CR促進活性の検出〕
エナメルタンパクのCR促進活性はイヌの下顎骨の歯根部位に施された頬側裂開型骨欠損を使用した8週後の組織学的な研究で、抽出や精製の各段階で調べた(図1)。
【0116】
〔エナメルタンパクの抽出〕
ブタ基質形成期のエナメル質から表層の試料(新生エナメル質)と深層の試料を調整した。これらの試料から、中性可溶性、アルカリ可溶性画分を別々に緩衝液中で短時間でホモジナイズしながら抽出した。CR促進活性は基質形成期表層のアルカリ可溶性画分に存在した。そこでCR促進活性セファデックスG-100カラムによるゲルろ過とDEAEイオン交換クロマトグラフィで分離し、最終的には4Mグアニジン溶液中でのセルロファインGCL-2000のカラムによるゲルろ過のリサイクル方法で部分精製物を得た。
【0117】
〔結果〕
表層のエナメル質試料は基質形成期エナメル質の表面から約30μmの厚さに相当する(図2)。この試料の水、ミネラル、タンパク質の化学組成はそれぞれ42%、24%、34%であった(表21)。表層のエナメル質試料の中性可溶性とアルカリ可溶性の全タンパク質の割合はそれぞれ16%、80%であった(表22)。
【0118】
〔表21〕
水 ミネラル 総タン 中性可溶性 アルカリ可溶性
パク量 画分 画分
表層 42 24 34 5.4 29
(0-30μm)
表層‐深層 35 38 27 5.1 21
(30-60μm)
深層 34 47 19 5.1 13
(60-300μm)
【0119】
〔表22〕
エナメル質試料中の中性、アルカリ性、酸性可溶性画分のタンパク質の回収率(Dry weight %)
試料 総タンパク 中性 アルカリ 酸性
画分 画分 画分
表層 59.3 9.5(16) 47(80) 3.6(4)
表層‐深層 40.8 7.8(19) 31(77) 4.0(4)
深層 28.8 7.8(27) 20(68) 4.5(5)
カッコ内は総タンパクあたりのタンパク量
【0120】
CR活性はイヌの頬側裂開型骨欠損の組織学的分析で深層の基質形成期エナメル質の試料よりも表層の試料(新生幼若エナメル質)に存在した。この新生幼若エナメル質の試料ではCR活性は中性可溶性画分ではなくてアルカリ可溶性画分に存在した。
【0121】
新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分はセファデックスG-100のゲルろ過で4つの画分に分画された(図3)。CR活性は最初に溶出してくるピーク(フラクション1)に存在し、他のアメロゲニンとその由来物のみが含まれる画分には存在しなかった。
【0122】
EMDとフラクション1を適用したセメント質再生は8週後の組織学的分析で両方とも辺縁からノッチまでセメント質が再生されていた(図4)。各々の試料の再生されたセメント質の厚さは先端、中央、辺縁の3箇所で測定した。フラクション1、EMD、コントロール(蒸留水)のセメント質 の厚さの平均はそれぞれ、27.88±8.85μm、14.77±4.81μm、8.37±2.48μmであり、これらは統計的に有意差が認められた(図5)。
【0123】
フラクション1は象牙質に硬く接着した厚い無細胞セメント質の形成を誘導していた。多数のコラーゲン線維束が再生されたセメント質から正常の組織のように配列していた(図4B)。ポジティブコントロールのEMDのCR活性(セメント質の厚さ)は、明らかにフラクション1よりも弱かった(図4A)。ネガティブコントロールとして使用された水の適用例では、ほとんどCR活性がなかった。
【0124】
セファデックスG-100で分画したフラクション1を除く他のフラクションはアメロゲニンとその由来物を含む(フラクション2)がそれらにはCR活性はなかった(図6b)。
【0125】
SDS電気泳動の結果、フラクション1は少量の20-25kDaアメロゲニンを伴い、70-89kDaエナメリンと13-17kDaシースプロテインを含んでいた。これらのシースプロテインは高分子タンパクの溶出位置に溶出しているので会合していることがわかった。
【0126】
この会合体はイオン交換クロマトグラフィでフラクション1から分離できた。CR活性を調べたところ、低分子シースプロテインに活性があってエナメリンにはなかった。
【0127】
セルロファインGCL-2000のカラムでゲルろ過リサイクル法で部分的に精製した17kDaと15kDaシースプロテインのCR活性を調べた。17kDaシースプロテインは、小臼歯歯根部位に作成した骨欠損の象牙質表面に、範囲が狭いがセメント質の再生を誘導した。再生されたセメント質は厚いセメント質であった。セメント質の厚さは17kDaと15kDaでそれぞれ31.77±3.78μm,8.13±2.06μmであった。15kDaシースプロテインはほとんどCR活性を示さなかった。精製した17kDaと15kDaのアミノ酸配列はシースリンのN末端側の170と130残基に相当することがわかった(図9)。これは17kDaシースプロテインに存在するCR活性は15kDaシースプロテインには存在しないC末端側ペプチドに存在することがわかった。
【0128】
〔考察〕
以前に発表された明らかなCR活性を示すEMDの適用に比べて、新生基質形成期エナメル質のアルカリ可溶性画分からセファデックスG-100 のゲルろ過分画で得られたフラクション1中に再現性よく、より強いCR活性があることが判明した。フラクション1はエナメリンと少量のアメロゲニンを含んで会合体を形成しているシースプロテインからなっている。CR活性は組織学的検討で17kDaシースプロテインに存在し、アメロゲニンやエナメリンにはその活性はなかった。
【0129】
しかしながら、さらに精製した17kDaシースプロテインでは、再生したセメント質が厚いものの、その再生はより狭い面積で起こった。この結果は、EMDのためにプロピレングリコールアルジネートを使用している(非特許文献6)のと異なり、試料を水で溶かしているためと考えられた。さらにこれはアメロゲニンが不足しているためと考えられた。なぜならアメロゲニンはCR促進因子のキャリアとして作用すると考えられたからである。
【0130】
部分的に精製した17kDaと15kDaシースプロテインのCR活性を調べた時、17kDaシースプロテインにはCR促進活性があったが、15kDaシースプロテインにはほとんどその活性がなかった。アミノ酸配列の違いから15kDaシースプロテインは17kDaシースプロテインのC末端側ペプチドが切断されて生ずる。これは15kDaシースプロテインになくて17kDaシースプロテインに存在するCR活性がC末端側ペプチドにあることを示している。CR促進ペプチドはSEQ ID NO:12である。
【0131】
例2
〔材料と方法〕
人の細胞の使用について鶴見大学倫理委員会で示されているプロトコール(NO.103)に従って全ての患者からインフォームドコンセントを得ている。
【0132】
〔シースプロテインの精製〕
新生基質形成期エナメル質に存在するシースプロテインにCR促進活性があったので、これらを単一になるまで精製した。シースプロテインの会合体は表層のエナメル質試料のアルカリ可溶性画分からセファデックスG-100スーパーファインのカラムによるゲルろ過で分離した。さらに炭酸緩衝液(pH10.8)で4本のTSKgel G-3000PW (TOSOH, Tokyo, Japan; 7.5mmI.D.x 60cm)のカラムをつかってHPLCで分離した。最初に溶出するピークの会合体にあるシースプロテインは
同じカラムシステムを使って4M グアニジン溶液(pH7.4)中でリサイクルすることによって単一になるまで精製した。
【0133】
17kDaシースプロテインのN末端側とC末端側のアミノ酸配列から6つのペプチドを合成した。
【0134】
これらの精製したシースプロテインと17kDaシースプロテインの配列を元に合成したペプチドの細胞分化能を、HPDL細胞を細胞培養してそれらのALP誘導活性を測定することで調べた。
【0135】
〔結果〕
<シースプロテインの精製とキャラクタリゼイション>
シースプロテインは 4M グアニジン緩衝液中で4本のTSKgel G-3000PW のカラムをつかったゲルろ過のリサイクルシステムで精製した(図10)。分離した17、15、13kDa シースプロテインを調べてみると、17と15kDaはシースリンのN末端側で切断された生成物で、それぞれ170と130のアミノ酸を含んでいた。13kDaシースプロテインはシースリンのM32からQ130までの99個のアミノ酸を含んでいた(図11)。
【0136】
17kDaシースプロテインのN末端側とC末端側の配列を元に6つのペプチドが合成されそれらのALP誘導活性をHPDL細胞を使って調べた。それらの配列はSEQ ID NO:18(N-1)、SEQ ID NO: 19(N-2)、SEQ ID NO: 20(N-3)、SEQ ID NO:21(C-1)、SEQ ID NO: 22(C-2)、SEQ ID NO:23(C-3)である。
【0137】
培養で会合体から生成したシースプロテインはHPDLとST2細胞を使ってALP誘導活性を調べた。HPDL細胞のALP活性は17kDaシースプロテインの添加で増幅したが、15kDaと13kDaシースプロテインでは増幅しなかった(図12上)。BMP-2はST2細胞のALP活性を増幅させるが、シースプロテインはST2細胞のALP活性を増幅させなかった(図12下)。合成ペプチドについて同じように生理活性を細胞培養システムで調べた。17kDaシースプロテインのC末端側に相当するC-1ペプチドは15、13kDaシースプロテインには存在しないのであるが、このペプチドはHPDL細胞のALP活性を増幅させた。他のペプチドのあるものはBMP-2のようにHPDL細胞のALP活性を減少させた。ST2細胞においてはどのペプチドもALP活性を増幅させることはなかった(図12下)。
【0138】
〔考察〕
ブタエナメルタンパク中のCR促進タンパクは犬に施された実験的骨欠損の系で17kDaシースプロテインあることがわかった。17kDaシースプロテインに存在するCR活性は15kDaシースプロテインには存在しないC末端側ペプチドにあることがわかった。
【0139】
細胞培養システムで17kDaシースプロテインはHPDL細胞のALP活性を上昇させた。ALP活性は石灰化に関わる細胞や無細胞セメント質形成の前駆体から細胞分化の指標であると認識されている(非特許文献47)。
【0140】
17kDaシースプロテインのアミノ酸配列をもとに合成されたペプチドはHPDL細胞のALP活性を上昇させた。これは17kDaシースプロテインそれ自身がHPDL細胞の細胞分化を促進することを表している。17kDaシースプロテインのC末端部位は明らかにこの画分の真の生理的な活性要素であるように思われる。このペプチドの細胞分化活性はイヌの歯根に施された骨欠損におけるCR活性と関連している。
【0141】
例3
〔材料と方法〕
人のシースプロテインのC末端側ペプチドはブタの40残基の余分なC末端側ペプチドと異なって66個のアミノ酸を持っているが、それの配列を元にしてペプチドを合成した。
【0142】
それらの配列はSEQ ID NO: 3(H-1)、SEQ ID NO:1(H-2)、SEQ ID NO:2(H-3)、SEQ ID NO: 4(H-4)、SEQ ID NO:5(H-5)である。HPDL細胞の細胞分化活性をもつ最も短いペプチドを調べるために SEQ ID NO:26(H-2-1)、SEQ ID NO:27(H-3-1)、SEQ ID NO: 28(H-2-2)、SEQ ID NO:29(H-3-2)、SEQ ID NO:30(H-2-3)、SEQ ID NO: 31(H-3-3)、SEQ ID NO:32(H-2-4)が合成された。
【0143】
これらの合成ペプチドの生理活性は細胞培養でALP誘導活性を調べることで、ST2細胞とHPDL細胞の細胞分化活性を検査した。これらのペプチドを細胞培養システムに添加する時は、それらの濃度は1 ng/mlぐらいを採用した。TGF-β1の場合はその濃度を10ng/mlとした。
【0144】
〔石灰化活性〕
HPDL細胞は24穴プレートに1x105個の濃度で細胞をまいた。24時間インキュベートした後、培地を、50μMアスコルビン酸、10mMβ-グリセロリン酸、10nM 1α,25-ジヒドロキシビタミンD(細胞分化培地(differentiation medium))、及び1μg/mlの試料を含む成長メディウムに交換した。メディウムは72時間ごとに交換し、細胞は30日間培養した。石灰化活性はカルシウム量とアリザリンレッド染色で検出した。
【0145】
〔結果〕
H-2とH-3ペプチドの約1ng/mlの適用は用量に依存してHPDL細胞のALP活性を増強させた(図13)。これらのペプチドの適用はHPDL細胞の30日間のin vitroの細胞培養においてTGF-β1の場合に比べてその程度は低かったけれども、石灰化の誘導を促進した。他のペプチドもHPDL細胞のALP活性を促進したが、それらはH-2とH-3に比べてその作用が弱かった。ST2細胞についてはどのペプチドもALP活性を増強させなかった。H-2とH-3の配列を元にして合成した全てのペプチドはHPDL細胞のALP活性を増強させた。LPG配列がHPDL細胞のALP活性を増強させる最も短い生理的なペプチドであることが確認された。
【0146】
TGF-β1の阻害剤であるSB431542をHPDL細胞の培養システムに添加すると、TGF-β1の活性は明らかに阻害される。しかしながら、合成ペプチドの適用によって増加するALP誘導活性はSB431542の添加で阻害されなかった(図14)。これは合成ペプチドの細胞分化活性はTGF-β1受容体とは別の受容体を経て誘導されることを示唆している。
【0147】
〔考察〕
TGF-β1の細胞培養におけるHPDL細胞のALP活性を増加させる適正な濃度は約10ng/mlである。TGF-β1の分子量は約25kDaであるのでその濃度は0.4nM/literである。合成ペプチドの分子量は1.5kDaであるので、HPDL細胞のALP活性を増加させるのに適切な濃度は0.6nM/literであった。細胞培養におけるこれらの濃度から、これらのペプチドの活性がTGF-β1成長因子と同じようなレベルの濃度にあることになる。
【0148】
TGF-β1受容体の阻害剤であるSB431542をHPDL細胞の培養時に加えると、TGF-β1のALP誘導活性は明らかに阻害される。しかしながら、合成ペプチドの適用によるHPDL細胞のALP活性の増加はSB431542によって阻害されない。これは合成ペプチドの細胞分化活性がTGF-β1受容体とは別の経路で発現すること表している。
【0149】
ヒトシースプロテインのC末端側から由来するペプチドのいくつかは、石灰化を起こすHPDL細胞の細胞分化を促進し、それがCR促進活性に結びついている。最も短い生理活性ペプチドはアミノ酸のトリプレットのLPGであった。
【0150】
ブタのエナメル質基質タンパクはすでに歯周病や歯槽膿漏の臨床的治療に登録商標「EMDOGAINTM」として使われている。現在、この薬はEタイプのウイルスの感染を避けるためにあらかじめ加熱している。この処理は薬の中に存在するプロテアーゼ活性を減弱させ、結果的にCR促進活性をプロテクトしている。
【0151】
例1に示すように、フラクション1の調整の間に、多量のアメロゲニンが、登録商標「EMDOGAINTM」に含まれる有効成分の濃縮をもたらす。登録商標「EMDOGAINTM」からの多量のアメロゲニンの除去は現在の薬の改良となる。
【0152】
エナメルタンパクからアメロゲニンを除去するにはアルカリ溶液でゲルろ過する、硫安分画、室温以上の温度で中性にすることによる不溶化などの方法がある。だから、エナメルタンパクからアメロゲニンを除去する方法はこの発明に含まれる。
【0153】
CR促進タンパクは17kDaシースプロテインであることを発見したけれども、新生基質形成期エナメル質のアルカリ可溶性画分からセファデックスG-100のカラムで分離されるフラクション1 はもっともCR促進活性が強い。
【0154】
例3からアミノ酸トリプレットのLPGは歯周病や歯槽膿漏で破壊された歯根膜の再生に有用であろう。歯周病の治療のための薬はSEQ ID NO:32、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7(アメロゲニンのN末端側ペプチド)を含むペプチドと1α,25-ジヒドロキシビタミンDとから構成されるだろう。これらのペプチドは合成されるかあるいはリコンビナントのものとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】ビーグル犬の下顎骨中の頬側裂開型モデルの手術中の写真である。アスタリスクは骨欠損を示す。
【図2】25kDaアメロゲニンのC末端側特異的抗体で免疫染色したブタ切歯の基質形成期エナメル質の唇側面の光学顕微鏡写真。エナメル質表面の右側半分(境界を矢印で示してある)を、基質形成期エナメル質表層として削り取ったものである。
【図3】セファデックスG-100ゲルろ過で分離した新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分の「タンパク分布」と「得られた画分のSDS-PAGE像」である。 Aは、新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分、 1は、フラクション1(13-17kDaシースプロテインと70-89kDaエナメリンを含む)、 2は、フラクション2(主に20-25kDaアメロゲニンを含む)、 3は、フラクション3(アメロゲニン由来物を含む)、 4は、フラクション4(アメロゲニン由来物を含む)を示す。
【図4】頬側裂開型骨欠損を利用して作成された実験的欠損部位に、登録商標「EMDOGAINTM」(A)とフラクション1(B)とをそれぞれ塗布し、8週後の再生されたセメント質を示す光学顕微鏡写真。 aは、辺縁付近である上位部位、bは、中央、cは、欠損の先端部位を同定するために作成したノッチ付近である底、の写真である。
【図5】フラクション1、EMD、水(コントロール)によって再生されたセメント質の厚さを示す写真。各グループ間には統計学的な優位差(*:p<0.001)があった。
【図6】イヌの下顎骨の小臼歯歯根に作成した頬側裂開型骨欠損上にEMD(a)とフラクション2(b)を適用して8週後に再生されたセメント質を示す写真。
【図7】Aは、フラクション1をさらに6M尿素中で、登録商標「EXPRESS-IONTM」EXCHANGER Qカラムを使用したDEAEイオン交換HPLCで分画したタンパク質分布である。シースプロテインは少量のアメロゲニンを伴って吸着することなしに溶出している。 Bは、4Mグアニジン溶液(pH7.4)中でCellulofine GCL-2000カラムを使用したゲルろ過リサイクル法で分離したシースプロテイン画分のタンパク分布を示す。矢印はリサイクル時の接続点を表す。矢頭はフラクションコレクターに接続した時点をあらわす。 SDS電気泳動パターンは、17kDaシースプロテインと15kDaシースプロテインが分離していることを示している。
【図8】イヌの下顎骨の小臼歯歯根に作成した頬側裂開型骨欠損上にTGF-β1(TGF-β)、17kDaシースプロテイン(17kDa)、15kDaシースプロテイン(15kDa)を塗布して8週後の再生されたセメント質を示す写真。
【図9】Aは、17kDaシースプロテインのアミノ酸配列を示す。Bは、17kDaと15kDaシースプロテインの関係を示す。
【図10】フラクション1をさらに4本のTSKgelG3000PWカラムを使ったゲルろ過HPLCによって分離したときのタンパク質分布である。 フラクション1のタンパク質は炭酸緩衝液で分画した(A)。次に、最初に溶出してくる画分をグアニジン緩衝液で分画した(B)。リサイクリングクロマトグラフィシステムで精製した17kDa(lane1)、15kDa(lane 2)、13kDa(lane3)シースプロテインは単一である(C)。
【図11】Aは、17kDaシースプロテインのアミノ酸配列を示す。Bは、17kDaシースプロテインと他のシースプロテインとの関係を示す。 合成ペプチドN-1、N-2、N-3、C-1、C-2、C-3の部位がマークされている。*1は13kDaシースプロテインのN末端部位を、*2は15kDaと13kDaシースプロテインのC末端部位を、矢印は切断部位を、それぞれ表す。
【図12】HPDL細胞(上)とST2細胞(下)のALP活性を示す。 精製したシースプロテインと合成ペプチドは終濃度50μg/ml加えた。TGF-β1とBMP-2はそれぞれ50ng/ml、500ng/ml加えた。データは3回分の平均である。 「ag.」はaggregate、「17kDa」は17kDaシースプロテイン、「15kDa」は15kDaシースプロテイン、「13kDa」は13kDaシースプロテイン、「N-1」「N-2」「N-3」「C-1」「C-2」「C-3」はシースプロテイン合成ペプチド、「BMP」は骨誘導因子-2、「TGF-β」はトランスフォーミング成長因子‐β1、をそれぞれ表す。
【図13】ヒト合成ペプチドのHPDL細胞のALP活性を表し、「H-1」はSEQ ID NO: 3、「H-2」はSEQ ID NO: 1、「H-3」はSEQ ID NO: 2、「H-4」はSEQ ID NO: 4、「H-5」はSEQ ID NO: 5である。
【図14】ヒト合成ペプチドのTGF-β1阻害剤(SB431542)を加えた時のHPDL細胞のALP活性を示す。 「1」はSEQ ID NO: 3、「2」はSEQ ID NO: 1、「3」はSEQ ID NO: 2、「4」はSEQ ID NO: 4、「5」はSEQ ID NO: 5、「A」はSEQ ID NO: 6、「B」はSEQ ID NO: 7、「C」はSEQ ID NO: 8を表す。A、B、Cはブタ6kDaアメロゲニンのN末端側アミノ酸配列であるSEQ ID NO: 9を基にして合成したものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して歯根膜組織再生に関し、特に歯周病や歯槽膿漏に関連した病気の治療に関する。本発明は、セメント質再生促進活性を持ち、また歯根膜再生と細胞分化に関わる17kDaのシースプロテインとそれを導くペプチドを提供する。また、エナメル基質タンパク質の分離方法や、本発明の成分を使用した種々の治療方法も開示する。
なお、本願では、タンパク質のアミノ酸配列をSEQ ID ナンバーで表している。
【0002】
本発明は、生体から分離、もしくは合成、あるいはリコンビナントしたシースプロテイン、ポリペプチド、ペプチドからなるセメント質再生促進タンパクセグメントを提供する。本発明の一実施形態として、シースプロテインはブタのシースプロテインである。他の実施形態としては、ヒト、マウス、ラット、ウシ、羊、サル、そしてすべての哺乳類のシースプロテインが含まれる。
【0003】
本願明細書において、成分や方法そのものについて様々な文脈で使用されている「タンパク質」という用語は、タンパク性セグメントを意味し、それは約150個以上の連続したアミノ酸からなり、遺伝子によりコードされたアミノ酸が70%以上含まれるものを言う。本願明細書において、成分や方法そのものについて様々な文脈で使用されている「ポリペプチド」という用語は、約50個以上の連続したアミノ酸からなるタンパク性セグメントを意味し、「ペプチド」という用語は、約3〜50個までの連続したアミノ酸からなるタンパク性セグメントを意味する。このように、シグナリング、あるいは調節や構造的性質、機能を持つ様々な長さのシースプロテインタンパク性セグメントが本願明細書に示されている。
【0004】
本願明細書において、成分や方法そのものについて様々な文脈で使用されている「シースプロテイン」あるいは「シースリン」という用語には、シースプロテインあるいはシースリン配列の天然型、多形型および突然変異体が含まれる。天然型のアミノ酸配列とは、最初に確立された配列として定義される。多形型配列とは、シースプロテインあるいはシースリンタンパク、ポリペプチド、ペプチド、ドメインの機能や発現に影響しない天然型に自然に起こる変形と定義される。突然変異体の配列とは、自然に起きたあるいは人工的に作成された天然型配列の変化したものと定義され、それらはシースプロテインあるいはシースリンタンパク、ポリペプチド、ペプチド、ドメインの機能および/または発現に影響するものである。本発明は、このように、シースプロテインあるいはシースリンタンパク、ポリペプチド、ペプチドあるいはそれらのいかなる融合したタンパク、ポリペプチド、ペプチドを種々の形でエンコードするDNA断片ベクター、遺伝子、コーディング配列部位の提供をも含む。
【0005】
本願明細書において、成分や方法そのものについて様々な文脈で使用されている「セメント質再生促進タンパク」とは、シースプロテイン配列のセメント質再生促進活性をもつアミノ酸配列を含むタンパク、ポリペプチド、ペプチドを含むと定義される。天然型のアミノ酸配列は、最初に確立された配列として定義され、多形型配列は、シースプロテインあるいはポリペプチド、ペプチド、ドメインの機能や発現に影響しない天然型に自然に起こる変形と定義される。突然変異体の配列とは、自然に起きたあるいは人工的に作成された天然型配列の変化したものと定義され、それらはシースプロテインあるいはポリペプチド、ペプチド、あるいはドメインの機能および/発現に影響するものである。本発明は、このように、シースプロテインあるいはポリペプチド、ペプチドあるいはそれらのいかなる融合したタンパク、ポリペプチド、ペプチドを種々の形でエンコードするDNA断片ベクター、遺伝子、コーディング配列部位の提供をも含む。
【背景技術】
【0006】
シースリン(非特許文献1)は、シースプロテイン(非特許文献2)の親タンパクである。シースプロテインは、免疫組織化学で蜂の巣状に検出される幼若エナメル質のエナメルシース(鞘)に凝縮してくるのにちなんで付けられた名前である。このシースプロテインは、最初13〜17kDaの非アメロゲニンタンパクとしてブタ新生エナメル質に発見された(非特許文献3)。シースリンは、早い発育段階で17kDaのシースプロテイン、25kDaの酸性タンパク、Ca結合タンパクの3つのペプチドに分解される(非特許文献4)。
【0007】
本発明の成分を使った種々の治療方法は、歯周病ならびに歯槽膿漏に対する歯根膜再生、セメント質再生、歯槽骨再生ばかりでなく、抜歯した歯の再植や人工的歯のインプラントなどの応用を含む。
【0008】
エナメル基質タンパク(エナメル基質由来物:EMD)は、歯根膜再生剤の1つとして歯槽膿漏の歯根膜を修復するのに使われる。エナメル基質タンパク質が歯根膜再生活性を持つことはよく知られている(非特許文献5,6)。しかしながら、患者の希望を満足させる最終的歯根膜再生は必ずしも完成されていない。加えて、現在、薬剤を調整する前に加熱しているが、ブタの幼若エナメル質基質からの抽出物が臨床治療のための薬剤として使われているので、E型や未同定のウイルスの感染の危険性がある。EMDの臨床的安全性が報告されている(非特許文献7)が、他には、同じ患者にEMDを繰り返し使用した時の抗原性の危険は必ずしも否定されていない。現在の最も大きな問題は、エナメル質基質タンパクは多成分系であるので、歯根膜再生促進因子についてほとんど情報がないことである。
【0009】
〔エナメル質基質タンパク質〕
エナメル質基質には、3つのエナメル質基質タンパク質と2つのプロテアーゼ酵素が存在する。これらのタンパク質とプロテアーゼのcDNAとそれらから由来するアミノ酸配列はすでに発表されている。加えて、2つの成長因子がブタの基質形成期エナメル質に見つかっている。
【0010】
構造タンパク質(EMD)には、アメロゲニン (非特許文献8,9,10)、エナメリン(非特許文献11,12,13)、シースリン(アメロブラスチン/アメリン)(非特許文献1,14,15)がある。発育期のエナメル質基質には、エナメル質基質セリンプロテアーゼ(EMSP)(非特許文献16,17,18,19)とメタロプロテアーゼ(エナメリシン)(非特許文献20,21)がクローンされ、性質が調べられた。ブタエナメル質基質には、骨誘導因子(BMP)とトランスフォーミング成長因子(TGF−β)の骨形成成長因子の存在が確認されている(非特許文献22)。
【0011】
それゆえ、いくつかの成長段階における幼若エナメル質基質には多量のアメロゲニン、エナメリン、シースリンの由来物が含まれる。もしあるタンパクをエナメル質基質タンパク画分から精製しようとすると、多量のアメロゲニン遺伝子産物とそれらの由来物のお陰とそれらの会合する性質のために、その精製が妨げられる。
【0012】
〔アメロゲニン〕
アメロゲニンは発育中のエナメル質基質に多量に存在し、溶液中では会合する性質を持っている。それらアメロゲニンは中性pH、室温下では不溶性で(凝集し沈殿物を形成する)、低温下では可逆的にその相を変え溶ける。タンパク化学的分析では、未分解の見かけ上25kDaの分子量を持つアメロゲニン(非特許文献23,24)がブタのアメロゲニン遺伝子産物としては最も多く、そのほかにアメロゲニンmRNAのスプライシングによって生ずる27、18、6.5kDaアメロゲニン(非特許文献25,26,27)がある。
【0013】
新生エナメル質において、ブタの25kDaアメロゲニンはエナメリシンの働きによってC末端親水性ドメインが切断されて20kDaアメロゲニンに変換される。そして発育が進んだ基質形成期エナメル質では、20kDaアメロゲニンは他のプロテアーゼであるEMSP(KLK4)により2つの断片、6kDaと13kDaアメロゲニンに分解される。13kDa アメロゲニンは中性溶液に可溶で、基質形成期エナメル質形成中の結晶成長のためのスペースを提供する。
【0014】
〔シースリン〕
シースリンは65kDaの分子量を持ち、ブタ新生幼若エナメル質中に最初に発見された13〜17kDa非アメロゲニンタンパクにつけられた名前のシースプロテイン(非特許文献3,24)の親タンパク質である。ブタシースリンは、エナメル芽細胞から分泌されると直ちにN末端から由来する17kDa シースプロテイン、C末端から由来する19kDaCa結合性タンパク質(非特許文献4,28,29)、分子の中央から由来する25kDa酸性タンパク質の3つのセグメントに分解される。 シースプロテインは将来プリズムシースになるところに凝縮され(非特許文献2,24)、発育の進んだ基質形成期中で15kDa、13kDaシースプロテインに低分子化していく。
【0015】
〔エナメリン〕
エナメリンは155kDaの親タンパク質で、これから142、89、56、45、34、32、25kDaの分子量の分解産物が生ずる(非特許文献12,13)。新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分に主に89kDaエナメリンが存在する。基質形成期の発育が進んだ段階で中性可溶性画分中に存在する32kDaエナメリンに分解される。この32kDaエナメリンはフルオロハイドロキシアパタイト(非特許文献30)とCaイオン(非特許文献29)に親和性がある。
【0016】
〔成長因子〕
エナメルタンパク以外にエナメル抽出物中に強力なシグナリング分子が存在することが知られてきた。最近、骨誘導因子(BMP)様活性がノギンの作用でST2細胞(マウス骨髄ストローマルセルライン)を使ってブタエナメル抽出物に存在することが推論され(非特許文献31)、また、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)様活性が口腔の上皮細胞と線維芽細胞を使って証明された(非特許文献32)。エナメル質基質タンパク中のTGF-β様活性はHPDL細胞のALP活性を上昇させ、それらの細胞分化を促進し、最終的に石灰化を誘導した(非特許文献33)。エナメル抽出物中のこれらの成長因子の存在と歯根膜再生における骨形成あるいはセメント質形成の誘導との関係は不明である。
【0017】
サルに施した頬側裂開型骨欠損の歯根膜の再生がブタエナメル質基質タンパクの適用で起こることが示された(非特許文献5,6)。エナメル質基質タンパクがセメント質形成に関わるというアイデアは幾つかの動物でエナメル質の表面に歯冠無細胞セメント質が形成されるという事実に基づいている(非特許文献5)。サルの切歯歯根に人工的な欠損を作成してブタエナメル質基質を適用したところ、象牙質に強く接着した無細胞セメント質の形成が誘導された。これはエナメル質基質タンパクが同じタイプのセメント質の再生を誘導するポテンシャルを持つことを示唆する(非特許文献5,6)。エナメル質基質由来物はヒト歯根膜細胞の増殖と分化を促進し(非特許文献34)、骨形成を促進する(非特許文献35)。これらはエナメルタンパクが骨形成やセメント質形成を誘導するような生理活性があることを示している。
【0018】
これらの結果から、エナメルタンパク:商業的には登録商標「EMDOGAINTM」として市販されているエナメル質基質由来物(EMD)が、歯槽膿漏の歯根膜再生に臨床的に使われている(非特許文献36,37)。この新しい治療方法は、歯周病の治療の効果として、その時まで得られなかった価値のある結果をもたらした。しかしながら、エナメルタンパクが歯槽膿漏の治療に使われる時、歯根膜再生は必ずしも期待される結果のレベルに達していない。これはエナメルタンパクを歯周病治療に使用するためには多大の改良の余地があることを表している。
【非特許文献1】J Dent Res 1997a; 76: 648-657
【非特許文献2】Biomedical Research 1995; 16: 131-140
【非特許文献3】Calcif Tissue Int 1987a; 40: 286-293
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【非特許文献5】J Clin Periodontol 1997; 24: 658-668
【非特許文献6】J Clin Periodontol 1997; 24: 669-677
【非特許文献7】J Clin Periodontol 1997; 24: 697-704
【非特許文献8】Jpn J oral Biol 1983; 25(Suppl.) 29
【非特許文献9】Biochem Biophys Res Commun 1985; 129: 812-818
【非特許文献10】Adv Dent Res 1987; 1: 293-297
【非特許文献11】Calcif Tissue Int 1993; 53: 257-261
【非特許文献12】Adv Dent Res 1996; 10: 111-118
【非特許文献13】J Dent Res 1997b; 76: 1720-172
【非特許文献14】J Bone Miner Res 1996; 11: 883-891
【非特許文献15】J Biol Chem 1996; 271: 4431-4435
【非特許文献16】Tsurumi U Dent J 1977; 3: 15-17
【非特許文献17】Tsurumi Univ Dent J 1984; 10: 443-452
【非特許文献18】Adv Dent Res 1996; 10(2): 170-172
【非特許文献19】J Dent Res 1998; 77: 377-386
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【非特許文献21】J Dent Res 1998; 77: 1580-1588
【非特許文献22】J Dent Res 2005; 84: 510-514
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【非特許文献24】Histochemistry 1991; 96: 129-138
【非特許文献25】Calcif Tissue Int 1994; 54: 69-75
【非特許文献26】J Dent Res 1996; 75: 1735-174
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【非特許文献28】Histochem Cell Biol 1997; 107: 485-494
【非特許文献29】Archives of Oral Biology 2001; 46: 1005-1014
【非特許文献30】Calcif Tissue Int 1990; 46: 205-215
【非特許文献31】J Dent Res 2002; 81: 387-391
【非特許文献32】J Periodontal Res 2001; 36: 367-376
【非特許文献33】J Jpn Soc Periodontol 2003; 45: 384-393
【非特許文献34】J Clin Periodontol 1997; 24: 685-692
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【非特許文献38】J Biol Chem 2001; 276: 31871-31875
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【非特許文献40】J Periodont Res 2006; in press
【非特許文献41】Eur J Oral Sci 2006; in press
【非特許文献42】J Periodont Res 2004; 39: 249-256
【非特許文献43】J Dent Res 2005; 84: 510-514
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【非特許文献48】Quitessence Publishing Co.Inc., Tokyo, 1983; 125-141
【非特許文献49】Arch Oral Biol 1974; 19: 381-386
【非特許文献50】Am J Clin Pathol 1981; 75: 734-738
【非特許文献51】J Dent Res 1988; 67: 66-70
【非特許文献52】J Dent Res 2003; 82: 982-986
【非特許文献53】J Dent Res 2002; 81: 103-108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
解決すべき問題はエナメルタンパクに存在する真の生理活性を明らかにすることである。EMDを発見した研究者はその生理活性はエナメル質基質の主な成分であるアメロゲニンによると期待している。しかしながら、このアイデアはアメロゲニン欠損マウス(非特許文献38)で歯根膜が存在する事実より否定される。実際にアメロゲニン、アメロゲニン由来物を硫安分画(非特許文献39)であるいはゲルろ過(非特許文献40,41)で分離したものにはイヌの頬側裂開型骨欠損を使用した組織学的な研究でセメント質再生活性は認められなかった。
【0020】
他に骨誘導活性(BMP(非特許文献31)様活性、TGF-β(非特許文献32)様活性)のような生理活性を調べるアプローチがある。エナメル質基質タンパクにあるTGF-β様活性は人歯根膜細胞(HPDL)のアルカリホスファターセ(ALP)活性を上昇させ、それらの細胞分化を促進し、最終的に石灰化を起こさせる(非特許文献33,42)。ブタエナメルタンパク中のBMPとTGF-βの存在はルシフェラーゼレポーター分析によって確認された(非特許文献43)しかしながら、これらの骨誘導因子が、歯根膜の再生する間において、骨形成やセメント質形成の誘導、あるいはその両者と石灰化に関わっているかもしれないが、in vivoでの、これらの骨誘導因子の歯根膜再生における機能は不明である。
【0021】
EMDが歯根膜再生活性を持つことは疑いがない。しかしながら、EMDからその活性を分離することは、EMD自身が、多量で会合する性質を持つアメロゲニンやその由来物を含むマルチコンポーネント(multi components)からなるため、かなり困難である。セメント質再生促進因子を分離するのに、アメロゲニンの会合の妨害を避けるために、新生基質形成期エナメル質を使用するのが有利である。なぜなら、それには他のstageの進んだ幼若エナメル質に比べて、アメロゲニン分解産物が最も少ないからである。アメロゲニンの会合を抑制している0.05M炭酸緩衝液(pH 10.8)が分離のために採用されている。幼若エナメル質の全タンパク質の95%以上をこの緩衝液中でホモジナイズすることで簡単に可溶化できる(非特許文献44)。
【0022】
歯根膜再生活性の破壊を避けるための方策が採られた。発育中のエナメル基質は少なくとも4つのプロテアーゼ活性が存在する。それらはエナメリシン(MMP-20)(非特許文献20,21)とゼラチナーゼの2つのメタロプロテアーゼとEMSP1(KLK4)(非特許文献16,45,19)を含む2つのセリンプロテアーゼである。エナメル基質セリンプロテアーゼとエナメリシンはクローンされ、特徴が調べられ、移行期ばかりでなく、基質形成期中でもアメロゲニン、非アメロゲニンタンパクの分解に関わっている(非特許文献46,18,44)。基質形成期エナメル質に発見されるEMSPとその前駆体は中性リン酸緩衝液でのみ抽出される。EMSP前駆体はメタロプロテアーゼで活性化される(非特許文献18)ために、中性可溶性画分の抽出は歯根膜再生活性の分解を避けるために必要である。アルカリ可溶性画分に見られるMMP-20の働きはメタロプロテアーゼの阻害剤であるEDTAをアルカリ可溶性画分の抽出後に加えることで直ちに阻害される。
【0023】
完全な歯根膜再生では、歯の形成時の根発育をなぞるように最初にコラーゲン線維束が埋め込まれたセメント質再生(CR)が起こり、次に歯根膜再生と歯槽骨再生が起こることで完結する。だから、セメント質再生は歯根膜再生過程で最も重要であると考えられる。しかしながら、セメント質形成での特異的なマーカーが存在しないので、イヌの頬側裂開型骨欠損を使った組織学的な分析が、分画したエナメルタンパクのセメント質再生活性を調べるために採用された。分離あるいは生成過程で得られる個々のタンパク画分はイヌの下顎骨小臼歯部位の歯根に沿って形成された実験的骨欠損に生成する8週後の再生したセメント質に由って一つ一つ評価された。
【0024】
エナメルタンパクが発育段階の違いによって分離され、それらのCR活性を調べると、CR活性は発育が進行した基質形成期エナメル質よりの新生基質形成期エナメル質に発見された。新生基質形成期エナメル質で、CR活性はアルカリ可溶性画分に存在し、中性可溶性画分には存在しなかった。アルカリ可溶性画分はセファデックスG-100ゲルろ過で4つの画分に分離されたとき、CR活性はエナメリンと少量のアメロゲニンと共にシースプロテインの会合体を含む最初に溶出してくるピーク(フラクション1)に存在した。アメロゲニンやその由来物を含む他のピークにはCR活性はなかった。
【0025】
フラクション1からエナメリン画分とアメロゲニンとシースプロテインを含む会合体画分を分離した時、CR活性は会合体画分に存在した。アメロゲニンにはCR活性がないので、CR活性はシースプロテインに存在すると結論された。それで、シースプロテインは変成剤の存在下で生成され、13kDa、15kDa,17kDaシースプロテインがそれぞれ単一になるまで生成された。CR活性は17kDaシースプロテインにのみ存在した。17kDaシースプロテインはC末端側ペプチドが切断されて15kDaシースプロテインに変換し、さらにN末端側ペプチドが切断されることで13kDa シースプロテインが生成する。それゆえ、CR活性は17kDaシースプロテインのC末端側のアミノ酸配列に存在することがわかった。
【0026】
CR活性が17kDaシースプロテインのC末端側ペプチドに存在することがわかったので、CR活性をもつ特異的な配列を調べるために、細胞培養システムを使って生成したエナメルタンパクやそれらのペプチドを添加してヒト歯根膜(HPDL)細胞のアルカリホスファターゼ促進活性を検出することで調べた。細胞培養システムはCR促進活性の検出にリンクする簡便な方法である。なぜなら、HPDL細胞の細胞分化を表すALP活性の増加は、ALP欠損マウスにおいて光学顕微鏡レベルでの形態的な評価(非特許文献47)から推定される無細胞セメント質形成に重要な機能を演じているからである。一般的にHPDL細胞の細胞培養システムにおけるALP活性の評価は骨形成かセメント質形成の誘導に寄与している。しかしながら、17kDaシースプロテインに存在するCR活性はイヌの下顎骨小臼歯武士根に作成された実験的骨欠損で決定された。だから、細胞培養システムでのHPDL細胞のALP活性の増加は17kDaシースプロテインやペプチドのCR促進活性の評価に強く繋がっている。1α-25ジヒドロキシビタミンDの添加によって誘導された HPDL細胞のALP活性はTGF-βで増加しBMPの添加で減少することが、細胞培養におけるHPDL細胞について特徴付けられる。
【0027】
精製したブタの3つのシースプロテインは、細胞培養システムを使って、それらのHPDL細胞のALP促進活性を調べた。ALP誘導活性は17kDaシースプロテインに存在し、13kDaと15kDaシースプロテインにはほとんど活性が見られなかった。これはHPDL細胞の細胞分化活性は17kDaシースプロテインのC末端側ペプチドに存在することを示している。それで、ブタあるいはヒトのシースプロテインのアミノ酸配列を元にペプチドを合成し、それらの細胞培養システムでのALP促進活性を調べた。ヒトの合成ペプチドでSEQ ID NO: 1とSEQ ID NO: 2が用量依存性にHPDL細胞のALP促進活性を増加させた。これらのペプチドの活性はTGF-β1阻害剤で阻害されなかったTGF-β1受容体はこれらのペプチドの受容体とは異なることがわかった。
【0028】
当業者に評価されるように、本発明は、SEQ ID NO: 1からSEQ ID NO:34までの演繹されたアミノ酸配列を伴うタンパク配列とも関連する。
それらは、好ましくは5%かそれ以上の同一性、より好ましくは10%かそれ以上の同一性、より好ましくは15%かそれ以上の同一性、より好ましくは20%かそれ以上の同一性、より好ましくは25%かそれ以上の同一性、より好ましくは30%かそれ以上の同一性、より好ましくは35%かそれ以上の同一性、より好ましくは40%かそれ以上の同一性、より好ましくは50%かそれ以上の同一性、より好ましくは55%かそれ以上の同一性、より好ましくは60%かそれ以上の同一性、より好ましくは65%かそれ以上の同一性、より好ましくは70%かそれ以上の同一性、より好ましくは75%かそれ以上の同一性、より好ましくは80%かそれ以上の同一性、より好ましくは85%かそれ以上の同一性、より好ましくは90%かそれ以上の同一性、より好ましくは95%かそれ以上の同一性、より好ましくは96%かそれ以上の同一性、より好ましくは97%かそれ以上の同一性、より好ましくは98%かそれ以上の同一性、より好ましくは99%かそれ以上の同一性がある。
【0029】
さらに、本発明は、SEQ ID NO: 1からSEQ ID NO:34までに規定される基本的なアミノ酸配列から成り立つタンパク質を提供する。あるタンパク質は基本的に一つのアミノ酸配列からなりたっており、そのような一つのアミノ酸配列は、幾つかの追加アミノ酸残基、たとえば、1〜約100の追加残基、典型的には、最終のタンパク質の中に存在する1〜約20の追加残基のみを伴って存在している。
【0030】
さらに、本発明は、SEQ ID NO: 1からSEQ ID NO:34までに表されるアミノ酸配列を含むタンパク質を提供する。あるタンパク質は一つのアミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列は、少なくともタンパク質の最終アミノ酸配列の一部である。そのような方法においては、タンパク質は、ペプチドのみであるか、あるいは追加のアミノ酸分子を持ち得る;この追加のアミノ酸分子(連続してエンコードしている配列)とは、自然にペプチドと関連しているもの、あるいはヘテロなアミノ酸残基/ペプチド配列のようなものである。そのようなタンパク質は、幾つかの追加アミノ酸残基を持ち得るし、あるいは数百またはそれ以上の追加アミノ酸を含み得る。
【0031】
2つのアミノ酸配列の同一性の(一致)割合を決定するためには、配列が最適な比較目的のために並べられる(例えば、ギャップ(gaps)は最適な並べ方のために、最初か次のアミノ酸配列の1つか両方かに引き合わせられ、非同一の配列は比較目的のために無視することができる)。好ましい実施態様においては、参考とする配列の長さの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、あるいはそれ以上が比較の目的で並べられる。そして、対応するアミノ酸部位でのアミノ酸残基が比較されることになる。一つ目の配列におけるある位置が、二つ目の配列において一致する位置と同じアミノ酸残基で占められているとき、分子はその部位において同一である(ここでのアミノ酸の“同一(identity)”という語はアミノ酸の“ホモロジー(homology)”と同等の意味として使用している)。2つの配列間の同一性(一致)の割合は、2つの配列の最適な並べ方を導くのに必要とされるギャップの数やそれぞれのギャップの長さを考慮し、配列により共有される同一部位の数の関数で表される。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の実施態様は、以下の番号付きパラグラフを参照し記載される。
(1)分離・精製したシースプロテインを含有するタンパク質であって、前記シースプロテインは、構造エナメルタンパクの一つであるシースリン(アメロブラスチンまたはアメリン)からプロテアーゼの働きで精製した由来物の1つであり、かつ前記シースリンのアミノ末端側に由来するものであることを特徴とするタンパク質。
(2)シースプロテインが、哺乳動物から分離・精製したものであることを特徴とする前記(1)に記載のタンパク質。
(3)哺乳動物シースプロテインが、ブタから分離・精製したものであることを特徴とする前記(2)に記載のタンパク質。
(4)哺乳動物シースプロテインが、ヒトから分離・精製したものであることを特徴とする前記(2)に記載のタンパク質。
(5)分離・精製したシースプロテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO:11からなる群から選ばれるものであることを特徴とする前記(1)に記載のタンパク質。
(6)前記(5)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(7)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(6)に記載の方法。
(8)SEQ ID NO:11のタンパク質をヒトに応用することにより効果を上げる方法。
(9)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(8)に記載の方法。
(10)SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の約3連続アミノ酸と同じ配列を有する少なくとも3つの連続アミノ酸の配列部位を含むもの、または、
SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれるポリペプチド断片を合成する長さが3〜1000個程度のアミノ酸を含むもの、
であることを特徴とするポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(11)断片が、SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の少なくとも3連続アミノ酸からなる配列を含むことを特徴とする前記(10)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(12)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつSEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を合成することを特徴とする前記(10)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(13)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつリコンビナントタンパク発現システムによりSEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を生合成することを特徴とする前記(10)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(14)前記(10)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(15)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(14)に記載の方法。
(16)SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれる配列中の約3連続アミノ酸と同じ配列を有する少なくとも3つの連続アミノ酸の配列部位を含むもの、または、
SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれるポリペプチド断片を合成する長さが3〜1000個程度のアミノ酸を含むもの、
であることを特徴とするポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(17)断片が、SEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれる配列中の少なくとも3連続アミノ酸からなる配列を含むことを特徴とする前記(16)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(18)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつSEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を合成することを特徴とする前記(16)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(19)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつリコンビナントタンパク発現システムによりSEQ ID NO: 24、SEQ ID NO:25からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を生合成することを特徴とする前記(16)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(20)前記(16)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(21)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(20)に記載の方法。
(22)SEQ ID NO: 9中の約3連続アミノ酸と同じ配列を有する少なくとも3つの連続アミノ酸の配列部位を含むもの、または、
SEQ ID NO: 9のポリペプチド断片を合成する長さが3〜1000個程度のアミノ酸を含むもの、
であることを特徴とするポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(23)断片が、SEQ ID NO: 9から少なくとも3つの連続するアミノ酸の配列部位を含むことを特徴とする前記(22)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(24)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつSEQ ID NO: 9から連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を合成することを特徴とする前記(22)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(25)断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつリコンビナントタンパク発現システムによりSEQ ID NO: 9の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を生合成することを特徴とする前記(22)に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(26)前記(22)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(27)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(26)に記載の方法。
(28)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 26、SEQ ID NO: 27、SEQ ID NO: 28、SEQ ID NO: 29、SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 32からなる群から選ばれる配列部位を含むものとして特徴付けられるポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
(29)前記(28)のポリペプチド断片をヒトに応用することにより効果をあげる方法。
(30)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(28)に記載の方法。
【0033】
(31)シースプロテインを含む分離した会合体を含む成分。
(32)分離した会合体が、アルカリ溶液中のシースプロテインとアメロゲニンとで形成されることを特徴とする前記(31)に記載の成分。
(33)分離した会合体が、哺乳動物の基質形成期エナメル質の表面から約30μmに相当する表層のエナメル質である新生エナメル質に存在することを特徴とする前記(31)に記載の成分。
(34)分離した会合体は、表層のエナメル質である新生エナメル質から調整したものであることを特徴とする前記(31)に記載の成分。
(35)分離した会合体は、アルカリ溶液中でのゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ、硫安分画からなる群から選ばれる1つの方法で分離されることを特徴とする前記(31)に記載の成分。
(36)前記(31)に記載のタンパク質を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(37)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(36)に記載の方法。
(38)シースプロテインを含む分離したエナメルタンパク質を含む成分。
(39)分離したエナメルタンパク質が、哺乳動物の基質形成期エナメル質の表面から約30μmに相当する表層のエナメル質である新生エナメル質から調整したものであることを特徴とする前記(38)に記載の成分。
(40)分離したエナメルタンパク質が、表層のエナメル質である新生エナメル質から中性可溶性画分を抽出した後にアルカリ溶液で抽出されるものであることを特徴とする前記(38)に記載の成分。
(41)前記(38)に記載の成分を哺乳動物に応用することにより効果をあげる方法。
(42)哺乳動物がヒトであることを特徴とする前記(41)に記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は、特定の(具体的に記載した)ポリペプチドやペプチドに限定されないし、ここでの多種の修飾や変異は当業者にとって明らかであろう。ここで使われている専門用語は具体的な実施例を説明するためだけのものであり、限定を意図しているのではないと理解される。
また、図面については、本願明細書の一部であり、本発明の特定の態様をより証明するために含まれている。本発明は、これらの図面を一つ以上参照することにより、ここで提示される具体的な実施態様の詳細な説明と組合せることで、よりよく理解されるであろう。
〔ブタエナメルタンパク中のセメント質再生(CR)促進因子の同定〕
セメント質形成に特異的なマーカーがないので、CR促進因子の同定のために、犬に施した頬側裂開型骨欠損に種々の精製段階のエナメルタンパクを適用して、組織学的な方法で分析した。CR促進活性はビーグル犬に施した一壁性の骨欠損における8週後の組織学的分析で評価した。CR促進活性を持つタンパクが決定された後には、細胞培養法で精製したエナメルタンパクあるいはそれらのペプチドを適用することで、HPDL細胞のALP活性を検出して、タンパクの生理活性をもつ配列を調べた。なぜなら、ALP活性はHPDL細胞の細胞分化活性をあらわし、無細胞セメント質の形成に重要な働きをしている。それはALP欠損マウスの光学顕微鏡による形態的な評価から推論されている(非特許文献47)。細胞培養システムはエナメルタンパクの細胞分化活性の決定につながる便利な方法である。しかしながら、HPDL細胞の細胞分化がセメント質形成かあるいは骨形成に関わるかどうかは今のところ不明である。だから、CR促進因子が最初に決定されれば、HPDL細胞の細胞分化活性の検出がCR促進活性を示すタンパク質中の生理活性配列を決定するのに有用である。
【0035】
〔ビーグル犬に施された一壁性骨欠損における8週後の組織学的分析によるセメント質再生の決定〕
幾つかのエナメルタンパク試料を適用してCR活性を検出するために約2歳のオスのビーグル犬 (体重約15kg)が使われた。それらは正常な歯列を持ち、歯周組織は健全であった。頬側石灰型骨欠損の外科的手術は、ケタミン塩酸(9.8mg/kg:Sankyo Co. LTD, Tokyo, Japan)とXylazine HCl(0.7mg・kg:Bayer Co. LTD, Tokyo, Japan)の混合物を筋肉内に注射して前麻酔した後、100%の酸素に1.5-2.0%ハロタン(Takeda Yakuhin Co. LTD, Osaka, Japan)を加えて気管内チューブ(endotracheal tube)により送管した麻酔下でHammerstrom(1997)の変法を用いて行った。
【0036】
下顎第一小臼歯から第一大臼歯にかけて歯肉剥離技術を施した後、対側性の(contralateral)頬側歯肉粘膜フラップを行った。第二小臼歯の近心根を覆う頬側歯槽骨を除去した後、むき出しになったこの部位の歯根膜セメント質は完全に歯科用バーを使って除いた。欠損の先端には組織学的分析時に欠損の先端部位を確認できるようにノッチを施した。歯冠辺縁と欠損の先端までの距離は約5mmと一定にした。むき出しにした象牙質表面は19%EDTA溶液に浸した綿球で2分間処理し、十分に無菌食塩水で洗った。それから各々100μlの無菌蒸留水に50μgのエナメルタンパク試料を溶かしたものをむき出しになっている根の全頬側表面に塗った。最後に、粘膜骨膜弁(mucoperiosteal flaps)を術前のそれらのレベルに戻して縫合した。蒸留水はネガティブコントロールとして、登録商標「EMDOGAINTM (BIORA AB, Malmo, Sweden)」はポジティブコントロールとした。
【0037】
8週後、イヌはペントバルビタールナトリウムで麻酔状態で屠殺した。頭部を4%パラホルムアルデヒトと1%グルタールアルデヒトを含む0.1Mカコジレート緩衝液で還流固定した。歯、骨、組織を含む組織片を調整後、0.06Mクエン酸ナトリウムと0.1Mクエン酸を含む10%ギ酸で脱灰した。試料はアルコールで定法どおり脱水しパラフィンで包埋した。連続切片(厚さ5μm)を作成しヘマトキシリン/エオジンで染色し鏡検した。
【0038】
〔象牙質表面に形成されたセメント質再生の評価〕
分画したあるいは精製したエナメルタンパクとEMDを適用して得られた再生セメント質の長さと厚さを組織学的な結果のコンピューター処理により計測した。再生セメント質の長さは、新生歯槽骨の先端までと同じように、欠損の先端から新生セメント質までの直線距離である。セメント質の厚さは辺縁と先端とその間を側定した。これらのデータは統計処理を行った。
【0039】
CR促進因子を、露出した歯根象牙質の表面に適用する時、CR活性を持たないアメロゲニンはCRを促進するタンパクやペプチドのキャリアとしては有用かもしれない。なぜならアメロゲニンは低温の蒸留水に溶けるが、生体のイオン強度ではお互いに会合し、37℃で沈殿するからである(非特許文献48)。CR促進タンパクあるいはペプチドは哺乳類の幼若エナメル質から精製したCR促進因子ばかりでなく、CR活性を持つ合成ペプチドやリコンビナントタンパクあるいはペプチドを含む。
【0040】
〔新生基質形成期エナメル質の調整〕
全てのステップは何も記載がなければ氷水中か4度で行った。屠殺場から氷中で運んできた生後6ヶ月くらいの新鮮下顎骨から、切歯永久歯歯胚が取り出された。
【0041】
非特許文献49に記載の方法により基質形成期の表層の幼若エナメル質を調整するために、歯冠形成の発育時期の永久歯歯胚をえらんだ。歯髄を含む周囲の軟組織を除いた後、歯は冷生理的食塩水でリンスし、軽くキムワイプ(wipers S-200)で余分な水分をふき取った。切歯の唇側面のチーズ様硬さで半透明な基質形成期は、明らかにその硬さもチョークのようで色も白い成熟期と異なる。エナメル芽細胞直下で基質形成期のエナメル質の最表層を切歯歯胚の唇側面の基質形成期エナメル質から調整するとき、薄いひげそり用のかみそりを表面に対して垂直に立てて表面に沿って平衡に擦過した。このような動作で得られたうす膜は基質形成期の表面から30μmに相当した(非特許文献46)。この基質形成期表層のエナメル質はエナメル芽細胞直下の約30μmの厚さに一致したので、これは新生基質形成期エナメル質と名づけられた。さらに調整して得られたうす膜は30μm―60μmの厚さに相当したので表層―深層エナメル質として集めた。この2番目の層にはCR活性が含まれていたので、試料として集めた。
【0042】
深層の試料は約60μmの厚さの表層を取った後の基質形成期のエナメル質から削り取った。しかしながらこの試料にはほとんどセメント質再生活性がなかったので、活性の分離には使わなかった。調整した試料は−80度に保存した。これらの試料は、タンパク質は基質形成期エナメル質の表面に多く表面からエナメル象牙境にかけて減少していくという生化学的、組織学的事実に基づいて調整した。新生幼若エナメル質の水、ミネラル、タンパク質は湿重量あたり42%、24%、34%であった。
【0043】
〔エナメルタンパクの輪郭(アウトライン)とエナメルタンパクの同定〕
分画したエナメルタンパクを、1%SDSを含む15%ポリアクリルアミド平板ゲルを使ったLaemmliの方法によるアクリルアミドゲル電気泳動し、クーマーシーブリリアントブルーR250 染色して調べた。エナメルタンパクの同定はアメロゲニン、エナメリン、シースプロテインのポリクロナール抗体(非特許文献24)でウェスタンブロット法で行った。泳動後、ゲルはGVHP膜にトランスブロットした。膜は非特許文献50に記載の方法に従ってアビジン−ビオチン複合体を使ったABCキットを使いプロトコル(Vector Laboratoreis, USA)に従って免疫染色した。
【0044】
〔CR活性を持つブタエナメルタンパク質の抽出〕
<中性とアルカリ可溶性画分の抽出>
集めた試料は一緒にして氷水中で湿重量の20倍容量の緩衝液を加えた。資料中のタンパク質はポリトロンホモジナイザーを用いて約6000回転のスピードでトータルとして60秒間ホモジナイズして抽出した。ホノジナイズ中、試料が加熱しないように3から4回のインターバルで行った。同じ緩衝液での抽出は3回繰り返された。中性可溶性画分とアルカリ可溶性画分はそれぞれ0.05M Sorensen 緩衝液(pH7.4)と0.05M 炭酸‐重炭酸緩衝液(pH10.8)中でホモジナイズして連続的に抽出した(非特許文献3)。総タンパク質量の95%以上がこれらの連続抽出で基質形成期エナメル質から抽出された。総タンパク質の約16%が中性緩衝液で可溶化され、80%がアルカリ緩衝液で可溶化された。
【0045】
新生幼若エナメル質から分離されたこれらの中性とアルカリ可溶性画分のCR活性をイヌの頬側裂開型骨欠損を用いて調べたところ、CR活性はアルカリ可溶性画分のみに存在した。アルカリ緩衝液で抽出した後の残りは結晶である。それには量的に少ないが、結晶結合性タンパクが結合している。結晶結合性タンパク質は0.5M sakusannka EDTAを用いて脱灰することにより得ることが出来る。結晶結合性タンパク質は新生基質形成期エナメル質のアルカリ画分からセファデックスG-100ゲルろ過によって得られるフラクション1によく似ている(非特許文献3)。だから結晶結合性タンパク質はCR活性を持つことが予想される。
【0046】
中性可溶性画分は量的に少ないので、その抽出は省くことが出来る。しかしながら、中性可溶性画分はEMSP1(KLK4)の前駆体と少量のEMSP1 を含んでいる。ほとんどのメタロプロテアーゼはアルカリ可溶性画分に抽出される。全可溶性画分を中性可溶性画分の抽出過程を省いて、直接、アルカリ緩衝液で抽出を行うことは、メタロプロテアーゼのアクションで活性化される可能性のあるEMSP1の前駆体が含まれることになる。これはCR促進タンパクがその分離あるいは生成過程で分解される可能性を示している。
【0047】
ホモジナイズによる抽出の変わりに、コールドルームで数種類のプロテアーゼとアルカリホスファターゼの阻害剤(5mM benzamidine HCl、2mM 1,10-phenanthroline, 1mM levamisole) の入った中性とアルカリ溶液中で一晩中緩やかに撹拌することで抽出できる。
【0048】
表層、表層‐深層、深層のエナメル質試料の各々の総タンパク質は0.5M 酢酸、あるいは0.5M EDTA 溶液で脱灰するか、4Mグアニジンあるいは6-8M尿素の変性剤を含む緩衝液で可溶化できる。変性剤を使う方法はCR活性を分離・精製するのに得策ではない。なぜなら、抽出に多量の薬剤が含まれるからである。最も大きな問題は、エナメルタンパクが、分子量が近似であり、また会合しやすい性質のアメロゲニンとその由来物からなりたっていることである。
【0049】
〔CR活性を含む画分の分離〕
新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分は0.05M炭酸ー重炭酸緩衝液(pH10.8)で平衡化してあるセファデックスG-100(Pharmacia Biotech, Uppasala, Sweden) のカラム(2.6x100cm)で4つ(1-4)のフラクションにゲルろ過された。炭酸緩衝液の採用はアルカリ性の条件がアメロゲニンの会合が抑制するためである。最初に溶出するピーク(フラクション1)には、主に70-89kDaエナメリン, 13-17kDaシースプロテインと少量の20-15kDa アメロゲニンが含まれていた。主たる二番目のピークには20-25kDaアメロゲニンが含まれていた。他のピークにはアメロゲニン由来物が含まれていた。
【0050】
EMDとフラクション1の適用後、セメント質再生に対する8週後の組織学的分析は象牙質表面のセメント質再生を評価した。両方の試料ともノッチから辺縁までのセメント質を再生した。骨欠損先端から真セメント質までの距離はフラクション1、EMD、コントロールでそれぞれ6.25±0.40mm、6.15±0.43mm、4.17±0.79mmであった。フラクション1、EMDとコントロールでは優位な違いはあったが、フラクション1とEMDでは差がなかった。骨欠損の先端からの骨の高さはフラクション1、EMD、コントロールでそれぞれ1.69±0.45mm、1.41±0.54mm、1.09±0.46mmであった。優位差はフラクション1とコントロールの間に認められた。セメント質の厚さは各々の試料の3点(先端、中央、辺縁)で計測した。セメント質の平均厚さはフラクション1、EMD、コントロールでそれぞれ27.88±8.85mm、14.77±4.81mm、8.37±2.48mmであった。全てのグループで統計的に優位差があった。
【0051】
フラクション1は象牙質によく接着している厚い無細胞のセメント質の形成を誘導した。多数のコラーゲン線維束が再生したセメント質を起点にして正常の歯根膜のように配列していた。ポジティブコントロールのEMDのCR活性(セメント質の厚さ) は明らかにフラクション1よりも弱かった。ネガティブコントロールの水の場合はほとんどCR活性がなかった。
【0052】
アメロゲニンとその由来物を含む他の画分はCR活性を示さなかった。これはアメロゲニンとその由来物にはCR活性がないことを示している。
【0053】
セファデックスG-100ゲルろ過以外に新生幼若エナメル質から多量のアメロゲニンを除去する方法に硫安分画がある(非特許文献39)。ほとんどのアメロゲニンは氷水中の0.05M 炭酸―重炭酸緩衝液(pH10.8)の条件で硫安の6.5%飽和で沈殿してくる。上清は次のステップの精製に使うためにYM-1の限外ろ過膜を使用して濃縮する。シースプロテインの会合体を基質形成期エナメル質から、硫安分画で分画できるのなら、この方法は大量の試料が扱えるのでCR促進のための実際の薬の生成に有用であろう。
【0054】
エナメルタンパクから大量のアメロゲニンを除去する他の方法で、アメロゲニンは中性溶液中で高い温度にすると沈殿する性質を利用する方法がある。
【0055】
エナメルタンパクを低温で酸性かアルカリ性溶液で可溶化して、この溶液を、アルカリ性溶液か酸性溶液を加えることで中和し37度に過熱すればアメロゲニンの沈殿が起こる(非特許文献48)。
【0056】
〔CR活性を示す会合体の分離〕
表層の試料から抽出したアルカリ可溶性画分のセファデックスG-100ゲルろ過で最初に溶出するピーク(フラクション1)は70-89kDaエナメリンと少量の20-25kDaアメロゲニンを含む13-17kDaシースプロテインからなる会合体を含む。一般に分子量の大きなタンパク質はゲルろ過で早い位置に溶出してくる。だから、フラクション1に含まれる13-17kDa シースプロテインは少量の20-25kDaアメロゲニンと共に会合体を形成しているといえる。なぜなら、4本のTSKgel G-3000PWカラムを使って室温で炭酸緩衝液中でさらに精製したところ、ほとんどの13、15、17kDaシースプロテインははじめに溶出し次に70-89kDaエナメリン、最後にアメロゲニンが溶出してきたからである。これらの小さい分子量のシースプロテインはアルカリ条件でも少量のアメロゲニンと会合体を形成して、ゲルろ過カラムを通り抜けていると思われる。
【0057】
セファデックスG-100ゲルろ過で分離された生理活性を持つフラクション1は70-89kDaエナメリンと少量の20-25kDaアメロゲニンを含む13-17kDaシースプロテインからなる会合体を含む。このステップで得られた画分のCR活性を組織学的分析で調べるとシースプロテインからなる会合体にはCR活性はあるが、エナメリンにはなかった。
【0058】
フラクション1からの会合体の分離は、6M尿素を含む0.05M トリス 緩衝液(pH7.4)で平衡化した登録商標「EXPRESS-IONTM」EXCHANGER Q (Whatman, Whatman International Ltd, Springfield Mill, England)のDEAEイオン交換HPLC カラム(9x100mm)によっても可能である。タンパク質は食塩の直線的濃度勾配(0-1.2M)により溶出した。会合体はこのカラムでは吸着しないで素通りするが、エナメリンは高濃度の食塩で溶出する。だから、少量の20-25kDaアメロゲニンを含む13-17kDaシースプロテインからなる会合体は中性pHの DEAEイオン交換クロマトグラフィで70-89kDaエナメリンから分離することが出来る。
【0059】
〔13、15、17kDaシースプロテインの精製〕
シースプロテインを含む画分は4Mグアニジン塩酸(pH7.4)を含む0.05Mトリス緩衝液(pH7.4)で平衡化したCellulofine GCL-2000(Chisso Ltd, Makuhari, Japan)のカラム(2.5x95cm)か4本のTSKgel G3000PW(TOSOH, Tokyo, Japan)のカラム(7.5mm I.D. x 60cm)を使ったリサイクルゲルろ過で分離した。
【0060】
4本のTSKgel G3000PWのカラム(7.5mm I.D. x 60cm)を使った12回のリサイクルによるゲルろ過はTSKgel G3000PWの28 mのカラムを使ったゲルろ過と同じである。
【0061】
〔17kDaシースプロテインのアミノ酸配列〕
精製した各々のシースプロテインのアミノ酸配列分析は、これらシースプロテインが親タンパクであるシースリン(非特許文献1)から由来することを示した。アミノ酸配列分析はSHIMAZDU プロテインシーケンサーPPSQ-23A(Shimadzu Co., Kyoto, Japan)で行った。
【0062】
ブタ17kDaシースプロテインアミノ酸配列はSEQ ID NO:10である。
【0063】
ヒトシースリン(アメロブラスチン)配列から類推したヒトシースプロテインの配列はSEQ ID NO:11である。
【0064】
〔分離した17、15、13kDaシースプロテインのキャラクタリゼーション〕
分離した17、15、13kDaシースプロテインのキャラクタリゼーションから17と15kDaシースプロテインは各々170残基と130残基のアミノ酸を含むシースリンのN末端側分解産物であった。13kDaシースプロテインはM32からQ130までの99残基のアミノ酸からなっている。
【0065】
だから、15kDaシースプロテインは17kDaシースプロテインのC末端側40残基が切断されたものである。13kDaシースプロテインは15kDaシースプロテインのN末端側31残基のアミノ酸が切断されたものである。
【0066】
〔エナメルタンパクのCR促進タンパクの同定〕
精製した17kDaと15kDaシースプロテインを8週でのセメント質再生の組織学的分析(非特許文献40)で試験すると、再生されたセメント質の厚さは17kDaと15kDaを適用した時、それぞれ31.77±3.78μm、8.13±2.06μmであった。したがって、17kDaシースプロテインは厚い無細胞セメント質を誘導したが、15kDaシースプロテインはほとんどCR活性がなかった。
【0067】
エビデンスは17kDaシースプロテインがCR促進タンパクであり、CR活性は15kDaシースプロテインに存在しないC末端側ペプチドに存在することを示している。CR促進活性を示すブタの生理活性配列はSEQ ID NO: 12である。類推されるヒトの生理活性配列はSEQ ID NO: 13である。
【0068】
それで、最も短い生理活性配列を決定するためにHPDL細胞のALP誘導活性を検出する方法で調べた。
【0069】
〔細胞培養システムでHPDL細胞のALP誘導活性の検出による細胞分化活性をもつ配列の同定〕
<HPDL細胞の細胞培養とALP活性の検出>
ヒト歯根膜(HPDL)細胞は、矯正治療の目的で抜去された健康な小臼歯から非特許文献51に記載の方法で得られた。細胞は4〜6代、α-MEM 培地で継代培養してprimary cell line を確立した。細胞はイーグル培地をαモディフィケーションした10%の子牛血清(FBS, Ashi Technoglass, Chiba, Japan)と1% antibiotics(100U/ml of Penicillin-G and 100μg/ml Streptomycin sulfate; Gibco BRL, Grand Island, N.Y., USA)を含む培地(α-MEM; Life Technologies, Grand Island, N.Y., USA)中で、5%炭酸ガスを含み湿潤にした条件で37℃で培養した。マウス骨髄細胞由来骨芽細胞様細胞であるST2細胞(Riken Cell Bank, Tsukuba, Japan)は同じ条件で培養した。
【0070】
HPDL細胞は、96穴プレートにおいて1つのウエルに約5x105の細胞になるようにまき、24時間培養した。その後、10nM 1α-25-dihydroxy-Vitamin D3 (CALBIOCHEM, La Jolla, Calif.)と50μg/ml(終濃度)になるように分画したエナメルタンパクあるいは合成ペプチドを超純水に溶かして加えた。さらに96時間後、細胞はPBSで洗い、ALP活性を37℃で5mM MgCl2を含み、基質として10mM p-nitorophenylphosphate(substrate)を含む 100mM 2-amino-2-methyl-1,3-propandiol-HCl緩衝液 (pH 10.0)中で 10分間インキュベーションして測定した。反応は0.2M NaOHを加えてとめ、405nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。コントロールにはリコンビナント成長因子(BMP-2 500ng/ml; TECHNE Co., Minneapolis, USA、TGFβ-1 50ng/ml; R&D Systems, Inc., Minneapolis, USA)を含めていた。
【0071】
HPDL細胞とST2細胞の培養システムでこれらの細胞のALP活性の発現に1α-25-dihydroxy-Vitamin D3は重要な役割を果たしている。1α-25-dihydroxy-Vitamin D3の刺激で上昇したHPDL細胞のALP活性はTGF-β1でさらに活性が上昇するが、BMP-2では減少する。またTGF-β1を加えた長期間の培養でHPDL細胞は石灰化することが示されている(非特許文献33)。反対にST2の細胞のALP活性はBMP-2で上昇するが、TGF-β1で抑制される。もしHPDL細胞のALP活性がBMP-2で亢進するならば、それは細胞の細胞分化が骨様の細胞に向かっていることを示している。
【0072】
〔石灰化活性〕
HPDL細胞を24穴プレートに1x105 /wellの細胞数でまいた。24時間インキュベート後、50μMアスコルビン酸、10mMβ-グリセロリン酸、10nM 1α-25-dihydroxy-Vitamin D3(differentiation medium)と1μg/mlの試料を含む成長培地に置換した。培地は72時間ごとに交換した。細胞は30日間培養した後、培地は捨てた。
【0073】
細胞部分は100%メタノールで固定し10分間アリザリンレッドSで染色、超純水で洗った後石灰化活性を調べるために写真撮影した。染色液は1%アリザリンレッドS(sidium alizarin sulfonate)(Sigima)を超純水に溶かして、0.1Nアンモニア水でpH6.4にあわせて調整した。
【0074】
カルシウム量の測定のために細胞部分を0.5M塩酸で溶かした。得られた溶液はCalcium C-test kit(Wako Pure Chemical Industries Ltd, Osaka、Japan)を使って調べた。活性は570nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。
【0075】
〔HPDL細胞あるいはST2細胞の細胞培養による精製したシースプロテインあるいは合成ペプチドのALP誘導活性〕
HPDL細胞は96穴プレートに1つのウエルに約5x105の細胞になるようにまき、24時間培養した。その後、10nM 1α-25-dihydroxy-Vitamin D3と50μg/ml(終濃度)の精製したシースプロテインか又は合成ペプチドの試料を含む成長培地に置換した。96時間培養後、ALP活性はp-nitorophenylphosphateを基質として測定した。ポジティブコントロールとしてリコンビナントBMP-2あるいはTGF-β1のそれぞれ500ng/ml、50ng/mlを使用した。
【0076】
各々の生成したシースプロテインが細胞培養システムでHPDL細胞とST2細胞のALP活性を上昇させるかどうかを、調べた。HPDL細胞のALP活性は17kDaシースプロテインで促進されるが,15kDa,13kDaシースプロテインでは促進されなかった。シースプロテインは、BMP-2の添加で促進されたST2細胞のALP活性を促進しなかった。これらの事実は、C末端側ペプチドが切断されて17kDaシースプロテインから15kDaシースプロテインが生ずることから、細胞分化活性が15kDaシースプロテイン中には含まれない(存在し得ない)17kDaシースプロテインのC末端側ペプチドに存在することを示している。細胞培養システムで示された細胞分化活性はイヌの頬側裂開型骨欠損によるin vivoのシステムで決定されたCR促進活性と強くリンクしていることが示唆された。
【0077】
たまに、HPDL細胞の培養において、15kDaシースプロテインの適用によってALP誘導活性が13kDaシースプロテインよりも高い時があった。これは活性の程度が低いけれども、17kDaシースプロテインのN末端側ペプチドにもHPDL細胞の細胞分化活性があるかもしれないことを示唆している。
【0078】
25kDaアメロゲニンとその由来物(6kDa、13kDa、20kDa)幼若エナメル質基質から精製し細胞培養システムでそれらのHPDL細胞のALP誘導活性を調べた時、TGF-β1様の活性があった。20kDaアメロゲニンはブタのアメロゲニン遺伝子産物で最も多い25kDaアメロゲニンのC末端側親水性ペプチドが切断されて生成した。この分解は基質形成期エナメル質表層でMMP-20の働きで起こる。20kDaアメロゲニンは発育の進んだ基質形成期エナメル質中でEMSP1の働きで2つの断片6kDaと13kDaアメロゲニン分解される。6kDaアメロゲニンは20kDaアメロゲニンのN末端側から由来し、13kDaアメロゲニンは20kDaアメロゲニンのC末端側から由来する。これらのアメロゲニンとその由来物のうち、6kDaアメロゲニンが最も大きいHPDL細胞のALP誘導活性を示した。さらに、6kDaアメロゲニンの配列を元に合成した合成ペプチドのうち、N末端側のペプチドSEQ ID NO: 6にALP誘導活性があった。これはシースプロテインと同じようにアメロゲニンにもHPDL細胞の細胞分化活性があることを示唆している。しかしながら、アメロゲニンにはイヌの頬側裂開型骨欠損の実験でCR促進活性がないので、これらは歯根膜再生中に骨形成の誘導に関わっているのかもしれない。
【0079】
ブタ6kDaアメロゲニンのアミノ酸配列はSEQ ID NO:14である。以下の合成ペプチドA-1、A-2、A-3、A-1-1、A-1-2、A-1-3は、それぞれSEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8である。
【0080】
6kDaアメロゲニンのアミノ酸配列を元にして合成したペプチドについて、細胞培養システムでそれらのHPDL細胞のALP誘導活性を調べた。N末端側のペプチド(A-1)が最も強い生理活性を示したので、A-1の配列を元にもっと短いペプチドを合成し、それらの生理活性を調べた。その結果A-1-1とA-1-2が培養システムでHPDL細胞のALP誘導活性を促進した。A-1-1ペプチドは高濃度(1μg/ml)でA-1-2ペプチドは低濃度(10nm/ml)で生理活性を促進した。
【0081】
現在、細胞培養システムにおけるALP誘導活性の増加によって示されるHPDL細胞の細胞分化活性がセメント質形成か骨形成を誘導しているのかは不明である。1α-25-dihydroxy-Vitamin D3の刺激で骨芽細胞は破骨細胞を誘導するRANKL(ODF)を発現することはよく知られている。一方で、セメント芽細胞はセメント吸収に関わらない。それで、RANKLの発現を、特異的抗体を使うかRT-PCRでそのmRNAを検出するかでしらべれば、HPDL細胞の細胞分化がセメント質形成か骨形成に関わるかを決定するのに有効であろう。
【0082】
〔合成ペプチド〕
ブタ17kDaシースプロテインのC末端側配列を元に6つのペプチドが合成された。
【0083】
それらの配列は各々SEQ ID NO: 18(N-1)、SEQ ID NO: 19(N-2)、SEQ ID NO: 20(N-3)、SEQ ID NO: 21(C-1)、SEQ ID NO: 22(C-2)、SEQ ID NO: 23(C-3)である。
【0084】
合成ペプチドの生理活性は細胞培養システムでHPDL細胞かST2細胞で調べた。17kDaシースプロテインのC末端側にあって15や13kDaシースプロテインにないC-1ペプチドの50μg/mlを適用した時、それはHPDL細胞のALP活性を促進した。他のペプチドのあるものはHPDL細胞のALP活性をBMP-2と同じように抑制した。しかし、ST2細胞のALP活性を促進するペプチドはなかった。
【0085】
この実験で、失敗はHPDL細胞のALP促進活性の検出に17kDaシースプロテインの約10倍量の濃度の合成ペプチドが使われたことである。合成ペプチドの平均分子量は1.6kDaで、17kDaシースプロテインはアミノ酸組成から類推すると約18kDaである。これはC-1ペプチドの生理活性高濃度(50μg/ml)の適用によるHPDL細胞の細胞分化活性はそんなに強くないことを示すと考えられる。
【0086】
いくつかのケースでは、17kDaシースプロテインのN末端側配列を元にHPDL細胞培養システムで合成されたペプチドの適用(application)は、その活性は少ないけれども、ALP促進活性を上昇させた。これは17kDaシースプロテインのN末端側ペプチドにはHPDL細胞のCR活性に繋がる細胞分化活性を持っていることを表している。
【0087】
〔ヒトシースプロテインのC末端側を基にしたヒト合成ペプチド〕
ヒトのエクストラC末端ペプチドは、ブタのエクストラC末端ペプチドが40残基のアミノ酸からなるのと異なり、66残基のアミノ酸を持っている。それで、66個のアミノ酸からなる配列から5つのペプチドを合成した。
【0088】
それらの配列はSEQ ID NO: 3(H-1)、SEQ ID NO: 1(H-2)、SEQ ID NO: 2(H-3)、SEQ ID NO: 4(H-4)、SEQ ID NO: 5(H-5)である。
【0089】
合成ペプチドの生理活性はHPDL細胞とST2細胞の細胞培養システムで調べた。H-2とH-3ペプチドの約1ng/mlを適用した時、それらは用量依存的にHPDL細胞のALP活性を促進した。他のペプチドもH-2とH-3に比べるとそれらの活性は弱いもののHPDL細胞のALP活性を促進した。ST2細胞のALP活性については、どのペプチドも促進しなかった。
【0090】
TGF-β1の場合、10ng/mlぐらいがHPDL細胞の細胞培養システムでALP誘導活性を増加させるための最適な濃度である。合成ペプチドの平均分子量は1.5kDaなので、HPDL細胞のALP誘導活性を増加させるための最適な濃度は0.6nM/literである。TGF-β1の分子量は25kDaなので、その濃度は0.4nM/literである。これらのペプチドの活性は成長因子のTGF-β1とほぼ同じ濃度である。
【0091】
TGF-β1受容体の阻害剤(SB431542)をHPDL細胞培養システムに添加した時、TGF-β1のALP誘導活性は明らかに阻害される。しかしながら、合成ペプチドの適用によって増加するALP誘導活性はSB431542の添加で阻害されなかった。これは合成ペプチドの細胞分化活性はTGF-β1受容体とは異なる他の受容体を解して誘導されることを示唆している。
【0092】
合成ペプチドの使用はE型や未同定のウイルス感染あるいは繰り返し同じ患者にCR促進タンパクを適用したためにおこる免疫学的障害の危険性を除去できる。CR活性を持つ生理的合成ペプチドは歯周病の治療に応用するのは効果があるだろう。ヒトシースプロテインから合成されるペプチドの使用はイスラム系患者の治療に利用できる。
20匹のブタ下顎骨から調整した歯冠形成期の永久歯切歯の唇側面から、基質形成期エナメル質の表層、表層‐深層、深層の試料を得た。一回の試料調整で得られた平均湿重量を下記に示す。試料の調整はお互いの混入がないように注意しながら切歯の幼若エナメル質から連続的に行った。だから、調整時の試料のロスは考慮すべきである。
【0093】
〔表1〕
湿重量 タンパク質量
表層エナメル質試料 0.064 g 0.022 g
(0.044g-0.085g)
表層‐深層エナメル質試料 0.153 g 0.041 g
(0.145g-0.159 g)
深層エナメル質試料 2.290g 0.498 g
(2.209g-2.449 g)
総基質形成期エナメル質 2.507g 0.561 g
・基質形成期エナメル質の総湿重量あたりの「表層エナメル質試料」+「表層‐深層エナメル質試料」の湿重量は、8.65% (7.0%-10.2%)である。
・各々の試料の「タンパク質量」は、後述の表2の値から計算した。
・基質形成期エナメル質の総タンパク質量あたりの「表層エナメル質試料」+「表層‐深層エナメル質試料」のタンパク質量は、11.2% (9.1%-13.2%)である。
【0094】
「表層エナメル質試料」+「表層‐深層エナメル質試料」のタンパク質量の意味は、17kDaシースプロテインが「表層」ばかりではなく「表層‐深層」の試料にも含まれているからである。
【0095】
セファデックスG-100によって分離されたフラクション1に含まれるシースプロテインの会合体は以前の結果(非特許文献3)から「表層」と「表層‐深層」との合計試料の約14.4% と計算された。
【0096】
だから、セファデックスG-100によって分離されたフラクション1と結晶結合性タンパク質(無視してもいいくらいに少ない)を含めたシースプロテインの会合体を含むタンパク画分は基質形成期エナメル質の総タンパク量の11.2x0.151=1.69% (1.3%-1.99%)となる。
【0097】
実際の抽出実験では、2gの表層の試料から45mgのフラクション1が得られた。理論的には99mgのフラクション1が得られるはずである。この場合、表層‐深層の試料に含まれる画分を考慮しなければ、基質形成期エナメル質の総タンパク量に対するフラクション1の量は0.26% (理論的には0.57%) と計算される。
【0098】
45mgのフラクション1から12.7mgの会合体画分が得られた。これは会合体画分量は基質形成期エナメル質の総タンパク量の0.07%(理論的には0.17%)となる。
【0099】
17kDaシースプロテインの量は基質形成期エナメル質の総タンパク量の約0.023% (理論的には0.056%)と計算された。なぜなら、ゲルろ過やイオン交換クロマトグラフィで得られた会合体のSDSアクリルアミドゲル電気泳動パターンのデンシトメトリック分析で、17kDaシースプロテインは約33%含まれていたからである。この値は全てのタンパク質がCBB染色で同じ染色性を持っているという仮定で計算している。
【0100】
〔現在、ビーグル犬の一壁性骨欠損における8週後の組織学的分析ではフラクション1が最も強いCR促進活性を示す〕
ブタの基質形成期のエナメル質表層のアルカリ可溶性抽出物からセファデックスG-100ゲルろ過で分離されたフラクション1を頬側裂開型骨欠損における歯周組織欠損モデルに適用した時、完全な再生が象牙質表面に誘導された。フラクション1はノッチから辺縁までの象牙質によく結合した厚い無細胞性セメント質の形成を誘導した。正常な歯根膜にみられるように配列した豊富なコラーゲン線維束が、再生したセメント質から生じていた。これらの結果は再生されたセメント質の長さや厚さを、組織学的結果からコンピューターモニターで計測し、統計学的に分析した事実に基づいている。
【0101】
登録商標「EMDOGAINTM」に比べてフラクション1の強いCR活性は、登録商標「EMDOGAINTM」に含まれる活性成分が濃縮されたからである。かなりの量のアメロゲニンがフラクション1を調整中に除かれ、生理活性を持つ17kDaシースプロテインが濃縮されている。しかしながら、17kDaシースプロテインは欠損の先端部位近くでは厚い無細胞性セメント質を誘導するが、辺縁近くではCRはほとんど再生されなかった。また上皮細胞が増殖していた場合もあった。これらの結果はフラクション1の結果とは違っていた。アメロゲニンのないことがセメント質再生の領域の減少の原因かもしれない。また、それは17kDaシースプロテインのCR活性のキャリアとして働くのかもしれない。
【0102】
EMDを溶かすため、プロピレングリコールアルジネートは実際の臨床応用のためのキャリアとして使われている。CR促進タンパクあるいはペプチドがむき出しの象牙質表面に添加される時、細胞分化活性を持つがCR活性を持たないアメロゲニンがキャリアとして有用であるだろう。なぜなら冷たい蒸留水に溶けるアメロゲニンは生体のイオン強度における37度下ではお互いが会合して不溶化(非特許文献48)して象牙質表面に接着するからである。
【0103】
CR活性を示すリコンビナントシースプロテインあるいは生理活性ペプチドはヒト象牙芽細胞から調整したヒトシースリン(アメロブラスチン)cDNA(非特許文献52)を元にして作成することが出来る。ヒト象牙芽細胞は、非特許文献53に記載の方法で矯正治療のために抜去された健康な小臼歯から得られた。新鮮抜去歯は長軸方向に“骨のみ”で割り、ピンセットで歯髄を取り去ると象牙前質の表面に残存している象牙芽細胞をはがした。象牙芽細胞にはアメロゲニン、エナメリン、シースリン、MMP-20、KLK4 が発現しているので、総RNAをStratagene Total RNA Miniprep Kit とそのプロトコル(Stratagene, La Jolla, Calif, USA)を使って調整した。
【0104】
〔表2〕
基質形成期エナメル質表層、表層‐深層、深層の試料の化学組成 (湿重量 %)
水 ミネラル 総タン 中性可溶性 アルカリ可溶性
パク量 画分 画分
表層 42 24 34 5.4 29
(0-30μm)
表層‐深層 35 38 27 5.1 21
(30-60μm)
深層 34 47 19 5.1 13
(60-300μm)
【0105】
〔表3〕
基質形成期エナメル質表層、表層‐深層、深層 の中性、アルカリ性、酸性可溶性画分のタンパク量 (乾燥重量 %)
総 中性可溶性 アルカリ可溶 酸性可溶性
タンパク量 画分 性画分 画分
表層 59.3 9.5(16) 47(80) 3.6(4)
表層‐深層 40.8 7.8(19) 31(77) 4.0(4)
深層 28.8 7.8(27) 20(68) 4.5(5)
【0106】
〔表4〕
ブタ 17kDaシースプロテインアミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 10≫
Sequence Size 170
Sequence Position 1-170
疎水性 94(55.29)
中性 46(27.06)
親水性 30(17.65)
その他 0(0.00)
[疎水性残基]
Gly(G) 12 (7.06%)
Ala(A) 6 (3.53%)
Val(V) 10 (5.88%)
Lcu(L) 16 (9.41%)
Ile(I) 3 (1.76%)
Met(M) 6 (3.53%)
Phe(F) 8 (4.71%)
Trp(W) 2 (1.18%)
Pro(P) 31 (18.24%)
[中性残基]
Ser(S) 15 (8.82%)
Thr(T) 5 (2.94%)
Asn(N) 3 (1.76%)
Gln(Q) 23 (13.53%)
Cys(C) 0 (0.00%)
[親水性残基]
Asp(D) 3 (1.76%)
Glu(E) 8 (4.71%)
Lys(K) 4 (2.35%)
His(H) 5 (2.94%)
Arg(R) 6 (3.53%)
Tyr(Y) 4 (2.35%)
[その他の残基]
Asx(B) 0 (0.00%)
Glx(Z) 0 (0.00%)
Xaa(X) 0 (0.00%)
平均分子量 = 18885.15
モノアイソトピック分子量 = 18873.5067
【0107】
〔表5〕
ヒトシースリン(アメロブラスチン)配列から推定されるヒトシースプロテインのアミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 11≫
Sequence Size 196
Sequence Position 1-196
疎水性 109(55.61)
中性 50(25.51)
親水性 37(18.88)
その他 0(0.00)
[疎水性残基]
Gly(G) 15 (7.65%)
Ala(A) 11 (5.61%)
Val(V) 5 (2.55%)
Lcu(L) 26 (13.27%)
Ile(I) 3 (1.53%)
Met(M) 5 (2.55%)
Phe(F) 9 (4.59%)
Trp(W) 2 (1.02%)
Pro(P) 33 (16.84%)
[中性残基]
Ser(S) 18 (9.18%)
Thr(T) 8 (4.08%)
Asn(N) 3 (1.53%)
Gln(Q) 21 (10.71%)
Cys(C) 0 (0.00%)
[親水性残基]
Asp(D) 7 (3.57%)
Glu(E) 8 (4.08%)
Lys(K) 6 (3.06%)
His(H) 6 (3.06%)
Arg(R) 6 (3.06%)
Tyr(Y) 4 (2.04%)
[その他]
Asx(B) 0 (0.00%)
Glx(Z) 0 (0.00%)
Xaa(X) 0 (0.00%)
平均分子量 = 21419.96
モノアイソトピック分子量 = 21406.8663
【0108】
〔表6〕
CR促進活性を示すブタ生理活性アミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 12≫
Sequence Size 40
Sequence Position 1-40
疎水性 24(60.00)
中性 7(17.50)
親水性 9(22.50)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 4347.81
モノアイソトピック分子量 = 4345.1035
【0109】
〔表7〕
CR促進活性を示すヒト生理活性アミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 13≫
Sequence Size 66
Sequence Position 1-66
疎水性 41(62.12)
中性 12(18.18)
親水性 13(19.70)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 6935.60
モノアイソトピック分子量 = 6931.4326
【0110】
〔表8〕
CR促進活性の可能性のあるブタ17kDaシースプロテインのN末端側のアミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 24≫
Sequence Size 31
Sequence Position 1-31
疎水性 19(61.29)
中性 9(29.03)
親水性 3(9.68)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 3222.67
モノアイソトピック分子量 = 3220.7022
【0111】
〔表9〕
CR促進活性の可能性のあるヒト17kDaシースプロテインのN末端側のアミノ酸配列
≪SEQ ID NO: 25≫
Sequence Size 31
Sequence Position 1-31
疎水性 17(54.84)
中性 11(35.48)
親水性 3(9.68)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 3391.88
モノアイソトピック分子量 = 3389.7220
【0112】
ブタ17kDaシースプロテインのN末端側とC末端側のアミノ酸配列を元に合成した6つのペプチド
N-1: SEQ ID NO: 18
N-2: SEQ ID NO: 19
N-3: SEQ ID NO: 20
C-1: SEQ ID NO: 21
C-2: SEQ ID NO: 22
C-3: SEQ ID NO: 23
〔表10〕
≪N-1: SEQ ID NO:18≫
Sequence Size 13
Sequence Position 1-13
疎水性 10(76.92)
中性 2(15.38)
親水性 1(7.69)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 1322.49
モノアイソトピック分子量 = 1321.7143
〔表11〕
≪N-2: SEQ ID NO:19≫
Sequence Size 13
Sequence Position 1-13
疎水性 7(53.85)
中性 4(30.77)
親水性 2(15.38)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 1361.57
モノアイソトピック分子量 = 1360.7019
〔表12〕
≪N-3: SEQ ID NO:20≫
Sequence Size 13
Sequence Position 1-13
疎水性 6(46.15)
中性 5(38.46)
親水性 2(15.38)
その他 0(0.00)
平均分子量 = 1446.64
モノアイソトピック分子量 = 1445.7294
〔表13〕
≪C-1: SEQ ID NO:21≫
Sequence Size 170
Sequence Position 132-146
平均分子量 = 1626.82
モノアイソトピック分子量 = 1625.8084
〔表14〕
≪C-2: SEQ ID NO:22≫
Sequence Size 170
Sequence Position 144-158
平均分子量 = 1599.72
モノアイソトピック分子量 = 1598.7827
〔表15〕
≪C-3: SEQ ID NO:23≫
Sequence Size 170
Sequence Position 156-170
平均分子量 = 1706.88
モノアイソトピック分子量 = 1705.7770
【0113】
ヒトC末端側エクストラペプチド(66 amino acids)のアミノ酸配列を元に合成
したペプチド
H-1: SEQ ID NO:3
H-2: SEQ ID NO: 1
H-3: SEQ ID NO:2
H-4: SEQ ID NO:4
H-5: SEQ ID NO:5
〔表16〕
≪H-1: SEQ ID NO:3≫
Sequence Size 196
Sequence Position 131-144
平均分子量 = 1494.64
モノアイソトピック分子量 = 1493.7725
〔表17〕
≪H-2: SEQ ID NO:1≫
Sequence Size 196
Sequence Position 144-157
平均分子量 = 1525.68
モノアイソトピック分子量 = 1524.7824
〔表18〕
≪H-3: SEQ ID NO:2≫
Sequence Size 196
Sequence Position 157-170
平均分子量 = 1478.62
モノアイソトピック分子量 = 1477.6546
〔表19〕
≪H-4: SEQ ID NO:4≫
Sequence Size 196
Sequence Position 170-183
平均分子量 = 1486.61
モノアイソトピック分子量 = 1485.7138
〔表20〕
≪H-5: SEQ ID NO:5≫
Sequence Size 196
Sequence Position 183-196
平均分子量 = 1550.72
モノアイソトピック分子量 = 1549.7889
【実施例】
【0114】
例1
〔材料と方法〕
全ての動物実験は鶴見大学動物取り扱いプログラムの承認のもとに行われた。
【0115】
〔CR促進活性の検出〕
エナメルタンパクのCR促進活性はイヌの下顎骨の歯根部位に施された頬側裂開型骨欠損を使用した8週後の組織学的な研究で、抽出や精製の各段階で調べた(図1)。
【0116】
〔エナメルタンパクの抽出〕
ブタ基質形成期のエナメル質から表層の試料(新生エナメル質)と深層の試料を調整した。これらの試料から、中性可溶性、アルカリ可溶性画分を別々に緩衝液中で短時間でホモジナイズしながら抽出した。CR促進活性は基質形成期表層のアルカリ可溶性画分に存在した。そこでCR促進活性セファデックスG-100カラムによるゲルろ過とDEAEイオン交換クロマトグラフィで分離し、最終的には4Mグアニジン溶液中でのセルロファインGCL-2000のカラムによるゲルろ過のリサイクル方法で部分精製物を得た。
【0117】
〔結果〕
表層のエナメル質試料は基質形成期エナメル質の表面から約30μmの厚さに相当する(図2)。この試料の水、ミネラル、タンパク質の化学組成はそれぞれ42%、24%、34%であった(表21)。表層のエナメル質試料の中性可溶性とアルカリ可溶性の全タンパク質の割合はそれぞれ16%、80%であった(表22)。
【0118】
〔表21〕
水 ミネラル 総タン 中性可溶性 アルカリ可溶性
パク量 画分 画分
表層 42 24 34 5.4 29
(0-30μm)
表層‐深層 35 38 27 5.1 21
(30-60μm)
深層 34 47 19 5.1 13
(60-300μm)
【0119】
〔表22〕
エナメル質試料中の中性、アルカリ性、酸性可溶性画分のタンパク質の回収率(Dry weight %)
試料 総タンパク 中性 アルカリ 酸性
画分 画分 画分
表層 59.3 9.5(16) 47(80) 3.6(4)
表層‐深層 40.8 7.8(19) 31(77) 4.0(4)
深層 28.8 7.8(27) 20(68) 4.5(5)
カッコ内は総タンパクあたりのタンパク量
【0120】
CR活性はイヌの頬側裂開型骨欠損の組織学的分析で深層の基質形成期エナメル質の試料よりも表層の試料(新生幼若エナメル質)に存在した。この新生幼若エナメル質の試料ではCR活性は中性可溶性画分ではなくてアルカリ可溶性画分に存在した。
【0121】
新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分はセファデックスG-100のゲルろ過で4つの画分に分画された(図3)。CR活性は最初に溶出してくるピーク(フラクション1)に存在し、他のアメロゲニンとその由来物のみが含まれる画分には存在しなかった。
【0122】
EMDとフラクション1を適用したセメント質再生は8週後の組織学的分析で両方とも辺縁からノッチまでセメント質が再生されていた(図4)。各々の試料の再生されたセメント質の厚さは先端、中央、辺縁の3箇所で測定した。フラクション1、EMD、コントロール(蒸留水)のセメント質 の厚さの平均はそれぞれ、27.88±8.85μm、14.77±4.81μm、8.37±2.48μmであり、これらは統計的に有意差が認められた(図5)。
【0123】
フラクション1は象牙質に硬く接着した厚い無細胞セメント質の形成を誘導していた。多数のコラーゲン線維束が再生されたセメント質から正常の組織のように配列していた(図4B)。ポジティブコントロールのEMDのCR活性(セメント質の厚さ)は、明らかにフラクション1よりも弱かった(図4A)。ネガティブコントロールとして使用された水の適用例では、ほとんどCR活性がなかった。
【0124】
セファデックスG-100で分画したフラクション1を除く他のフラクションはアメロゲニンとその由来物を含む(フラクション2)がそれらにはCR活性はなかった(図6b)。
【0125】
SDS電気泳動の結果、フラクション1は少量の20-25kDaアメロゲニンを伴い、70-89kDaエナメリンと13-17kDaシースプロテインを含んでいた。これらのシースプロテインは高分子タンパクの溶出位置に溶出しているので会合していることがわかった。
【0126】
この会合体はイオン交換クロマトグラフィでフラクション1から分離できた。CR活性を調べたところ、低分子シースプロテインに活性があってエナメリンにはなかった。
【0127】
セルロファインGCL-2000のカラムでゲルろ過リサイクル法で部分的に精製した17kDaと15kDaシースプロテインのCR活性を調べた。17kDaシースプロテインは、小臼歯歯根部位に作成した骨欠損の象牙質表面に、範囲が狭いがセメント質の再生を誘導した。再生されたセメント質は厚いセメント質であった。セメント質の厚さは17kDaと15kDaでそれぞれ31.77±3.78μm,8.13±2.06μmであった。15kDaシースプロテインはほとんどCR活性を示さなかった。精製した17kDaと15kDaのアミノ酸配列はシースリンのN末端側の170と130残基に相当することがわかった(図9)。これは17kDaシースプロテインに存在するCR活性は15kDaシースプロテインには存在しないC末端側ペプチドに存在することがわかった。
【0128】
〔考察〕
以前に発表された明らかなCR活性を示すEMDの適用に比べて、新生基質形成期エナメル質のアルカリ可溶性画分からセファデックスG-100 のゲルろ過分画で得られたフラクション1中に再現性よく、より強いCR活性があることが判明した。フラクション1はエナメリンと少量のアメロゲニンを含んで会合体を形成しているシースプロテインからなっている。CR活性は組織学的検討で17kDaシースプロテインに存在し、アメロゲニンやエナメリンにはその活性はなかった。
【0129】
しかしながら、さらに精製した17kDaシースプロテインでは、再生したセメント質が厚いものの、その再生はより狭い面積で起こった。この結果は、EMDのためにプロピレングリコールアルジネートを使用している(非特許文献6)のと異なり、試料を水で溶かしているためと考えられた。さらにこれはアメロゲニンが不足しているためと考えられた。なぜならアメロゲニンはCR促進因子のキャリアとして作用すると考えられたからである。
【0130】
部分的に精製した17kDaと15kDaシースプロテインのCR活性を調べた時、17kDaシースプロテインにはCR促進活性があったが、15kDaシースプロテインにはほとんどその活性がなかった。アミノ酸配列の違いから15kDaシースプロテインは17kDaシースプロテインのC末端側ペプチドが切断されて生ずる。これは15kDaシースプロテインになくて17kDaシースプロテインに存在するCR活性がC末端側ペプチドにあることを示している。CR促進ペプチドはSEQ ID NO:12である。
【0131】
例2
〔材料と方法〕
人の細胞の使用について鶴見大学倫理委員会で示されているプロトコール(NO.103)に従って全ての患者からインフォームドコンセントを得ている。
【0132】
〔シースプロテインの精製〕
新生基質形成期エナメル質に存在するシースプロテインにCR促進活性があったので、これらを単一になるまで精製した。シースプロテインの会合体は表層のエナメル質試料のアルカリ可溶性画分からセファデックスG-100スーパーファインのカラムによるゲルろ過で分離した。さらに炭酸緩衝液(pH10.8)で4本のTSKgel G-3000PW (TOSOH, Tokyo, Japan; 7.5mmI.D.x 60cm)のカラムをつかってHPLCで分離した。最初に溶出するピークの会合体にあるシースプロテインは
同じカラムシステムを使って4M グアニジン溶液(pH7.4)中でリサイクルすることによって単一になるまで精製した。
【0133】
17kDaシースプロテインのN末端側とC末端側のアミノ酸配列から6つのペプチドを合成した。
【0134】
これらの精製したシースプロテインと17kDaシースプロテインの配列を元に合成したペプチドの細胞分化能を、HPDL細胞を細胞培養してそれらのALP誘導活性を測定することで調べた。
【0135】
〔結果〕
<シースプロテインの精製とキャラクタリゼイション>
シースプロテインは 4M グアニジン緩衝液中で4本のTSKgel G-3000PW のカラムをつかったゲルろ過のリサイクルシステムで精製した(図10)。分離した17、15、13kDa シースプロテインを調べてみると、17と15kDaはシースリンのN末端側で切断された生成物で、それぞれ170と130のアミノ酸を含んでいた。13kDaシースプロテインはシースリンのM32からQ130までの99個のアミノ酸を含んでいた(図11)。
【0136】
17kDaシースプロテインのN末端側とC末端側の配列を元に6つのペプチドが合成されそれらのALP誘導活性をHPDL細胞を使って調べた。それらの配列はSEQ ID NO:18(N-1)、SEQ ID NO: 19(N-2)、SEQ ID NO: 20(N-3)、SEQ ID NO:21(C-1)、SEQ ID NO: 22(C-2)、SEQ ID NO:23(C-3)である。
【0137】
培養で会合体から生成したシースプロテインはHPDLとST2細胞を使ってALP誘導活性を調べた。HPDL細胞のALP活性は17kDaシースプロテインの添加で増幅したが、15kDaと13kDaシースプロテインでは増幅しなかった(図12上)。BMP-2はST2細胞のALP活性を増幅させるが、シースプロテインはST2細胞のALP活性を増幅させなかった(図12下)。合成ペプチドについて同じように生理活性を細胞培養システムで調べた。17kDaシースプロテインのC末端側に相当するC-1ペプチドは15、13kDaシースプロテインには存在しないのであるが、このペプチドはHPDL細胞のALP活性を増幅させた。他のペプチドのあるものはBMP-2のようにHPDL細胞のALP活性を減少させた。ST2細胞においてはどのペプチドもALP活性を増幅させることはなかった(図12下)。
【0138】
〔考察〕
ブタエナメルタンパク中のCR促進タンパクは犬に施された実験的骨欠損の系で17kDaシースプロテインあることがわかった。17kDaシースプロテインに存在するCR活性は15kDaシースプロテインには存在しないC末端側ペプチドにあることがわかった。
【0139】
細胞培養システムで17kDaシースプロテインはHPDL細胞のALP活性を上昇させた。ALP活性は石灰化に関わる細胞や無細胞セメント質形成の前駆体から細胞分化の指標であると認識されている(非特許文献47)。
【0140】
17kDaシースプロテインのアミノ酸配列をもとに合成されたペプチドはHPDL細胞のALP活性を上昇させた。これは17kDaシースプロテインそれ自身がHPDL細胞の細胞分化を促進することを表している。17kDaシースプロテインのC末端部位は明らかにこの画分の真の生理的な活性要素であるように思われる。このペプチドの細胞分化活性はイヌの歯根に施された骨欠損におけるCR活性と関連している。
【0141】
例3
〔材料と方法〕
人のシースプロテインのC末端側ペプチドはブタの40残基の余分なC末端側ペプチドと異なって66個のアミノ酸を持っているが、それの配列を元にしてペプチドを合成した。
【0142】
それらの配列はSEQ ID NO: 3(H-1)、SEQ ID NO:1(H-2)、SEQ ID NO:2(H-3)、SEQ ID NO: 4(H-4)、SEQ ID NO:5(H-5)である。HPDL細胞の細胞分化活性をもつ最も短いペプチドを調べるために SEQ ID NO:26(H-2-1)、SEQ ID NO:27(H-3-1)、SEQ ID NO: 28(H-2-2)、SEQ ID NO:29(H-3-2)、SEQ ID NO:30(H-2-3)、SEQ ID NO: 31(H-3-3)、SEQ ID NO:32(H-2-4)が合成された。
【0143】
これらの合成ペプチドの生理活性は細胞培養でALP誘導活性を調べることで、ST2細胞とHPDL細胞の細胞分化活性を検査した。これらのペプチドを細胞培養システムに添加する時は、それらの濃度は1 ng/mlぐらいを採用した。TGF-β1の場合はその濃度を10ng/mlとした。
【0144】
〔石灰化活性〕
HPDL細胞は24穴プレートに1x105個の濃度で細胞をまいた。24時間インキュベートした後、培地を、50μMアスコルビン酸、10mMβ-グリセロリン酸、10nM 1α,25-ジヒドロキシビタミンD(細胞分化培地(differentiation medium))、及び1μg/mlの試料を含む成長メディウムに交換した。メディウムは72時間ごとに交換し、細胞は30日間培養した。石灰化活性はカルシウム量とアリザリンレッド染色で検出した。
【0145】
〔結果〕
H-2とH-3ペプチドの約1ng/mlの適用は用量に依存してHPDL細胞のALP活性を増強させた(図13)。これらのペプチドの適用はHPDL細胞の30日間のin vitroの細胞培養においてTGF-β1の場合に比べてその程度は低かったけれども、石灰化の誘導を促進した。他のペプチドもHPDL細胞のALP活性を促進したが、それらはH-2とH-3に比べてその作用が弱かった。ST2細胞についてはどのペプチドもALP活性を増強させなかった。H-2とH-3の配列を元にして合成した全てのペプチドはHPDL細胞のALP活性を増強させた。LPG配列がHPDL細胞のALP活性を増強させる最も短い生理的なペプチドであることが確認された。
【0146】
TGF-β1の阻害剤であるSB431542をHPDL細胞の培養システムに添加すると、TGF-β1の活性は明らかに阻害される。しかしながら、合成ペプチドの適用によって増加するALP誘導活性はSB431542の添加で阻害されなかった(図14)。これは合成ペプチドの細胞分化活性はTGF-β1受容体とは別の受容体を経て誘導されることを示唆している。
【0147】
〔考察〕
TGF-β1の細胞培養におけるHPDL細胞のALP活性を増加させる適正な濃度は約10ng/mlである。TGF-β1の分子量は約25kDaであるのでその濃度は0.4nM/literである。合成ペプチドの分子量は1.5kDaであるので、HPDL細胞のALP活性を増加させるのに適切な濃度は0.6nM/literであった。細胞培養におけるこれらの濃度から、これらのペプチドの活性がTGF-β1成長因子と同じようなレベルの濃度にあることになる。
【0148】
TGF-β1受容体の阻害剤であるSB431542をHPDL細胞の培養時に加えると、TGF-β1のALP誘導活性は明らかに阻害される。しかしながら、合成ペプチドの適用によるHPDL細胞のALP活性の増加はSB431542によって阻害されない。これは合成ペプチドの細胞分化活性がTGF-β1受容体とは別の経路で発現すること表している。
【0149】
ヒトシースプロテインのC末端側から由来するペプチドのいくつかは、石灰化を起こすHPDL細胞の細胞分化を促進し、それがCR促進活性に結びついている。最も短い生理活性ペプチドはアミノ酸のトリプレットのLPGであった。
【0150】
ブタのエナメル質基質タンパクはすでに歯周病や歯槽膿漏の臨床的治療に登録商標「EMDOGAINTM」として使われている。現在、この薬はEタイプのウイルスの感染を避けるためにあらかじめ加熱している。この処理は薬の中に存在するプロテアーゼ活性を減弱させ、結果的にCR促進活性をプロテクトしている。
【0151】
例1に示すように、フラクション1の調整の間に、多量のアメロゲニンが、登録商標「EMDOGAINTM」に含まれる有効成分の濃縮をもたらす。登録商標「EMDOGAINTM」からの多量のアメロゲニンの除去は現在の薬の改良となる。
【0152】
エナメルタンパクからアメロゲニンを除去するにはアルカリ溶液でゲルろ過する、硫安分画、室温以上の温度で中性にすることによる不溶化などの方法がある。だから、エナメルタンパクからアメロゲニンを除去する方法はこの発明に含まれる。
【0153】
CR促進タンパクは17kDaシースプロテインであることを発見したけれども、新生基質形成期エナメル質のアルカリ可溶性画分からセファデックスG-100のカラムで分離されるフラクション1 はもっともCR促進活性が強い。
【0154】
例3からアミノ酸トリプレットのLPGは歯周病や歯槽膿漏で破壊された歯根膜の再生に有用であろう。歯周病の治療のための薬はSEQ ID NO:32、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7(アメロゲニンのN末端側ペプチド)を含むペプチドと1α,25-ジヒドロキシビタミンDとから構成されるだろう。これらのペプチドは合成されるかあるいはリコンビナントのものとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】ビーグル犬の下顎骨中の頬側裂開型モデルの手術中の写真である。アスタリスクは骨欠損を示す。
【図2】25kDaアメロゲニンのC末端側特異的抗体で免疫染色したブタ切歯の基質形成期エナメル質の唇側面の光学顕微鏡写真。エナメル質表面の右側半分(境界を矢印で示してある)を、基質形成期エナメル質表層として削り取ったものである。
【図3】セファデックスG-100ゲルろ過で分離した新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分の「タンパク分布」と「得られた画分のSDS-PAGE像」である。 Aは、新生幼若エナメル質のアルカリ可溶性画分、 1は、フラクション1(13-17kDaシースプロテインと70-89kDaエナメリンを含む)、 2は、フラクション2(主に20-25kDaアメロゲニンを含む)、 3は、フラクション3(アメロゲニン由来物を含む)、 4は、フラクション4(アメロゲニン由来物を含む)を示す。
【図4】頬側裂開型骨欠損を利用して作成された実験的欠損部位に、登録商標「EMDOGAINTM」(A)とフラクション1(B)とをそれぞれ塗布し、8週後の再生されたセメント質を示す光学顕微鏡写真。 aは、辺縁付近である上位部位、bは、中央、cは、欠損の先端部位を同定するために作成したノッチ付近である底、の写真である。
【図5】フラクション1、EMD、水(コントロール)によって再生されたセメント質の厚さを示す写真。各グループ間には統計学的な優位差(*:p<0.001)があった。
【図6】イヌの下顎骨の小臼歯歯根に作成した頬側裂開型骨欠損上にEMD(a)とフラクション2(b)を適用して8週後に再生されたセメント質を示す写真。
【図7】Aは、フラクション1をさらに6M尿素中で、登録商標「EXPRESS-IONTM」EXCHANGER Qカラムを使用したDEAEイオン交換HPLCで分画したタンパク質分布である。シースプロテインは少量のアメロゲニンを伴って吸着することなしに溶出している。 Bは、4Mグアニジン溶液(pH7.4)中でCellulofine GCL-2000カラムを使用したゲルろ過リサイクル法で分離したシースプロテイン画分のタンパク分布を示す。矢印はリサイクル時の接続点を表す。矢頭はフラクションコレクターに接続した時点をあらわす。 SDS電気泳動パターンは、17kDaシースプロテインと15kDaシースプロテインが分離していることを示している。
【図8】イヌの下顎骨の小臼歯歯根に作成した頬側裂開型骨欠損上にTGF-β1(TGF-β)、17kDaシースプロテイン(17kDa)、15kDaシースプロテイン(15kDa)を塗布して8週後の再生されたセメント質を示す写真。
【図9】Aは、17kDaシースプロテインのアミノ酸配列を示す。Bは、17kDaと15kDaシースプロテインの関係を示す。
【図10】フラクション1をさらに4本のTSKgelG3000PWカラムを使ったゲルろ過HPLCによって分離したときのタンパク質分布である。 フラクション1のタンパク質は炭酸緩衝液で分画した(A)。次に、最初に溶出してくる画分をグアニジン緩衝液で分画した(B)。リサイクリングクロマトグラフィシステムで精製した17kDa(lane1)、15kDa(lane 2)、13kDa(lane3)シースプロテインは単一である(C)。
【図11】Aは、17kDaシースプロテインのアミノ酸配列を示す。Bは、17kDaシースプロテインと他のシースプロテインとの関係を示す。 合成ペプチドN-1、N-2、N-3、C-1、C-2、C-3の部位がマークされている。*1は13kDaシースプロテインのN末端部位を、*2は15kDaと13kDaシースプロテインのC末端部位を、矢印は切断部位を、それぞれ表す。
【図12】HPDL細胞(上)とST2細胞(下)のALP活性を示す。 精製したシースプロテインと合成ペプチドは終濃度50μg/ml加えた。TGF-β1とBMP-2はそれぞれ50ng/ml、500ng/ml加えた。データは3回分の平均である。 「ag.」はaggregate、「17kDa」は17kDaシースプロテイン、「15kDa」は15kDaシースプロテイン、「13kDa」は13kDaシースプロテイン、「N-1」「N-2」「N-3」「C-1」「C-2」「C-3」はシースプロテイン合成ペプチド、「BMP」は骨誘導因子-2、「TGF-β」はトランスフォーミング成長因子‐β1、をそれぞれ表す。
【図13】ヒト合成ペプチドのHPDL細胞のALP活性を表し、「H-1」はSEQ ID NO: 3、「H-2」はSEQ ID NO: 1、「H-3」はSEQ ID NO: 2、「H-4」はSEQ ID NO: 4、「H-5」はSEQ ID NO: 5である。
【図14】ヒト合成ペプチドのTGF-β1阻害剤(SB431542)を加えた時のHPDL細胞のALP活性を示す。 「1」はSEQ ID NO: 3、「2」はSEQ ID NO: 1、「3」はSEQ ID NO: 2、「4」はSEQ ID NO: 4、「5」はSEQ ID NO: 5、「A」はSEQ ID NO: 6、「B」はSEQ ID NO: 7、「C」はSEQ ID NO: 8を表す。A、B、Cはブタ6kDaアメロゲニンのN末端側アミノ酸配列であるSEQ ID NO: 9を基にして合成したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離・精製したシースプロテインを含有するタンパク質であって、前記シースプロテインは、構造エナメルタンパクの一つであるシースリンからプロテアーゼの働きで精製した由来物の1つであり、かつ前記シースリンのアミノ末端側に由来するものであることを特徴とするタンパク質。
【請求項2】
シースプロテインが、哺乳動物から分離・精製したものであることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
哺乳動物シースプロテインが、ブタから分離・精製したものであることを特徴とする請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
哺乳動物シースプロテインが、ヒトから分離・精製したものであることを特徴とする請求項2に記載のタンパク質。
【請求項5】
分離・精製したシースプロテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO:11からなる群から選ばれるものであることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項6】
SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の約3連続アミノ酸と同じ配列を有する少なくとも3つの連続アミノ酸の配列部位を含むもの、または、
SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれるポリペプチド断片を合成する長さが3〜1000個程度のアミノ酸を含むもの、
であることを特徴とするポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
【請求項7】
断片が、SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の少なくとも3連続アミノ酸からなる配列を含むことを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
【請求項8】
断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつSEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を合成することを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
【請求項9】
断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつリコンビナントタンパク発現システムによりSEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を生合成することを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
【請求項10】
シースプロテインを含む分離した会合体を含む成分。
【請求項11】
分離した会合体が、アルカリ溶液中のシースプロテインとアメロゲニンとで形成されることを特徴とする請求項10に記載の成分。
【請求項12】
分離した会合体が、哺乳動物の基質形成期エナメル質の表面から約30μmに相当する表層のエナメル質である新生エナメル質に存在することを特徴とする請求項10に記載の成分。
【請求項13】
分離した会合体は、表層のエナメル質である新生エナメル質から調整したものであることを特徴とする請求項10に記載の成分。
【請求項14】
分離した会合体は、アルカリ溶液中でのゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ、硫安分画からなる群から選ばれる1つの方法で分離されることを特徴とする請求項10に記載の成分。
【請求項1】
分離・精製したシースプロテインを含有するタンパク質であって、前記シースプロテインは、構造エナメルタンパクの一つであるシースリンからプロテアーゼの働きで精製した由来物の1つであり、かつ前記シースリンのアミノ末端側に由来するものであることを特徴とするタンパク質。
【請求項2】
シースプロテインが、哺乳動物から分離・精製したものであることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
哺乳動物シースプロテインが、ブタから分離・精製したものであることを特徴とする請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
哺乳動物シースプロテインが、ヒトから分離・精製したものであることを特徴とする請求項2に記載のタンパク質。
【請求項5】
分離・精製したシースプロテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO:11からなる群から選ばれるものであることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項6】
SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の約3連続アミノ酸と同じ配列を有する少なくとも3つの連続アミノ酸の配列部位を含むもの、または、
SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれるポリペプチド断片を合成する長さが3〜1000個程度のアミノ酸を含むもの、
であることを特徴とするポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
【請求項7】
断片が、SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の少なくとも3連続アミノ酸からなる配列を含むことを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
【請求項8】
断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつSEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を合成することを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
【請求項9】
断片が、長さが3〜1000個程度のアミノ酸であり、かつリコンビナントタンパク発現システムによりSEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13からなる群から選ばれる配列中の連続アミノ酸の配列部位を含む人工的配列のアミノ酸断片を生合成することを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド断片あるいはペプチド断片。
【請求項10】
シースプロテインを含む分離した会合体を含む成分。
【請求項11】
分離した会合体が、アルカリ溶液中のシースプロテインとアメロゲニンとで形成されることを特徴とする請求項10に記載の成分。
【請求項12】
分離した会合体が、哺乳動物の基質形成期エナメル質の表面から約30μmに相当する表層のエナメル質である新生エナメル質に存在することを特徴とする請求項10に記載の成分。
【請求項13】
分離した会合体は、表層のエナメル質である新生エナメル質から調整したものであることを特徴とする請求項10に記載の成分。
【請求項14】
分離した会合体は、アルカリ溶液中でのゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ、硫安分画からなる群から選ばれる1つの方法で分離されることを特徴とする請求項10に記載の成分。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2008−534674(P2008−534674A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504872(P2008−504872)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001785
【国際公開番号】WO2006/126096
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(502362600)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001785
【国際公開番号】WO2006/126096
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(502362600)
【Fターム(参考)】
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