説明

シートの固定装置

【課題】固定装置を小型化し、かつ左右の部品の共有化を図る。
【解決手段】ストライカとキャッチ手段とにより構成され、キャッチ手段は、ベースプレート6と、ベースプレート6との間に収容空間を形成する蓋体7と、ベースプレート6と蓋体7とに形成された進入凹部6a,7aと、保持凹部8aを有すると共にラッチ軸11を介して設けられたラッチ8と、ロック軸12を介して設けられラッチ8がロック解除位置へ回動するのを拘束するロックプレート9と、進入凹部6aに装着されたバンパーラバー10とを備え、ロック時における保持凹部8aの側面8eを基準線に対して傾斜させ、バンパーラバー10には略二等辺三角形部分10eを設け、進入凹部6aの幅寸法は捕捉可能寸法より大きくし、保持凹部8aの底面8fの位置を進入凹部6aの側面6cより内側に設定し、側面6c・底面8f間の偏心位置にストライカの捕捉可能寸法を設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートの固定装置に関し、車体に固定されたストライカがシートに埋設されたキャッチ手段の進入凹部に入り込んで、シートが車体に固定されるときの衝撃を緩和するバンパーラバーの形状を改良したものである。
【背景技術】
【0002】
車の内部に設けられるシートは、車内の使用の用途に応じて、座ることが可能な状態にしたり、あるいは折り畳んで車内のスペースを確保したりする場合がある。このため、シートクッションあるいはシートバックを車体に着脱自在に固定するシートの固定装置が用いられる。
【0003】
従来のシートの固定装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。このシートの固定装置は、ストライカがストライカ進入溝へ侵入する際の溝幅方向での進入位置のばらつきを吸収するため、インナープレート11,アウタープレート12のストライカ進入溝11a,12aの幅寸法を大きくし、フック13におけるストライカ保持溝13dの側面(図中の下の面)と第1ダンパ21の図中の下面との間にストライカ25を挟むことにより、ロック時のストライカ25のガタツキを防止している。また、ストライカ25をストライカ進入溝11a,12aの奥へ押し込む方向に大きな荷重が作用した場合に、フック13の上部のばね掛け部13fが当接して衝撃を緩和するための第2ダンパ22が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−063850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載のシートの固定装置は、ストライカ25がストライカ保持溝13dの開口部側である図2中の左端に位置するときに、フック13の回動軸13Xからストライカ25までの距離が最大となり、フック13に生じる回動軸13Xを中心とする回転モーメントが最大になることから、ストライカ25が左端を占めるときのフック13に生じる応力を基準としてフック13の強度を設定しており、そのためにフック13の厚さ寸法が大きくなり、シートの固定装置が大形化する。
【0006】
また、ロック時には、ストライカ25がフック13を押し、該フック13がストライカ25と共に回動し、フック13はロック位置まで回動し、フック13がロック部材14と係合する。このとき、第1ダンパ21がストライカ25によって圧縮されるため、第1ダンパ21の圧縮による復元力がストライカ25に作用し、シートを押し込む押し込み力に対する抵抗力として感じられる。しかし、ストライカ25を介してフック13をロック位置まで回動させるため、ストライカ保持溝13dとストライカ25との間の隙間(ストライカ保持溝13dの幅寸法とストライカ25の外径寸法との差)の分だけ余分にストライカ25をストライカ進入溝11a,12aの奥まで押し込まなければならず、フック13の回動軸13Xからストライカ25とフック13との接点までの距離が長いほど、ストライカ25をストライカ進入溝11a,12aの奥まで深く押し込む必要がある。そのため、ストライカ進入溝11a,12aの幅方向でのストライカ25の占める位置によって押し込み力が異なり、押し込み力が安定しないという問題が生じる。
【0007】
更に、フック13のオーバーストロークを止めるための第2ダンパ22を設けたので、部品点数が多くなる。
【0008】
そこで本発明は、上記の課題を解決したシートの固定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車体に固定したストライカと、シートに設けられ前記ストライカをキャッチするキャッチ手段とにより構成され、
該キャッチ手段は、ベースプレートと、該ベースプレートとの間に収容空間を形成する蓋体と、前記ベースプレートと前記蓋体との双方の略中間位置に外周部から内部へ向って形成され前記ストライカが進入離脱する進入凹部と、前記収容空間にラッチ軸を介して回動自在に設けられロック位置とロック解除位置とを占めるラッチと、該ラッチに設けられ前記進入凹部に入り込んだ前記ストライカが進入離脱する保持凹部と、前記収容空間にロック軸を介して回動自在に設けられ前記ラッチがロック位置からロック解除位置へ回動するのを拘束する拘束位置と許容する許容位置とを占めるロックプレートと、前記ベースプレートの前記進入凹部の底面に装着され前記ストライカが前記進入凹部に進入する際の衝撃を緩和するバンパーラバーとを備え、前記ラッチ軸と前記ロック軸とが前記進入凹部を挟んで対称な位置に配置されたシートの固定装置において、
ロック時に、前記進入凹部からの前記ストライカの離脱を阻止する前記保持凹部の側面の開口部側が、側面の反開口部側よりも前記進入凹部の底面側に位置するように、前記保持凹部の側面を前記ラッチ軸の軸心と前記ロック軸の軸心とを通る基準線に対して傾斜させ、
前記バンパーラバーにおける前記進入凹部の開口部側には、前記進入凹部の中心線上に頂点を有する略二等辺三角形部分を形成し、前記進入凹部の幅寸法は前記ストライカの捕捉可能中心線距離と前記ストライカの外径寸法とを加算した捕捉可能寸法よりも大きく設定し、前記保持凹部の底面位置を前記進入凹部の一方の側面よりも前記進入凹部の中心線寄りに設定することにより、前記進入凹部の他方の側面と前記保持凹部の底面との間の偏心した位置に前記ストライカの捕捉可能寸法を設定したことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、ロック時における保持凹部の側面の開口部側が反開口部側よりも進入凹部の底面側に位置するように保持凹部の側面が傾斜しているので、ストライカを進入凹部から離脱させる方向の荷重が作用すると、ストライカは保持凹部の側面に沿って保持凹部の底面側へ移動し、ストライカはラッチ軸へ接近する。このため、ラッチをロック解除方向へ回転させる回転モーメントの腕の長さが小さくなり、ロック解除方向へ回転させられるラッチの回転モーメントが小さくなる。また、ストライカの捕捉可能寸法の中心線を進入凹部の中心線に対して保持凹部の開口部側へ少しだけ偏心させたことにより、進入凹部の中心線と略二等辺三角形部分の中心線とを一致させてバンパーラバーを配置したときに、バンパーラバーの略二等辺三角形部分の2つの斜面のうちのロック時における保持凹部の側面と同じ方向へ傾斜する保持凹部の開口部側の斜面が、ストライカの捕捉可能寸法の範囲の多くを占め、ロック時にはストライカによりバンパーラバーが圧縮変形して該バンパーラバーにはストライカを進入凹部から押し出す方向の復帰力を生じるが、該復帰力の変動が小さくなる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のシートの固定装置において、
前記バンパーラバーの前記略二等辺三角形部分の斜辺の傾斜角度を、前記進入凹部からの前記ストライカの離脱を阻止する前記保持凹部の側面の傾斜角度よりも大きい値に設定したことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、ロック時にストライカがラッチをロック位置まで回動させる際に、ストライカによりバンパーラバーが圧縮変形して該バンパーラバーに復帰力が生じるが、該復帰力を進入凹部の幅方向での位置に拘わらず略一定となるようにすることができる。即ち、ラッチがロック位置へ回動するまでの間のストライカの移動量は、ラッチ軸からストライカまでの距離が大きいほど大きくなるが、バンパーラバーの略二等辺三角形部分の斜辺の傾斜角度を、保持凹部の側面の傾斜角度よりも大きい値に設定することにより、ストライカにより圧縮変形させられるバンパーラバーの変形量はラッチ軸からの距離が大きいほど小さくすることができ、進入凹部の幅方向でのストライカの位置に拘わらず、ラッチをロック位置まで回動させる際のストライカの押し込み力を略一定にすることができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のシートの固定装置において、
前記ラッチにおける前記保持凹部の部分に、樹脂コーティングを施し、前記ラッチが前記ストライカに押されて回動してオーバーストロークした際には前記ラッチの前記樹脂コーティングした部分が前記ロックプレートに当接して前記ラッチの回動が規制されることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、ラッチがロック位置よりも更に回動してオーバーストロークした際には、ラッチに形成した樹脂コーティングの部分がロックプレートに当接してラッチの回転が停止するので、金属どうしの衝突が防止され、シートに負荷が作用した際の衝突音が緩和される。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシートの固定装置において、
前記ベースプレート・蓋体および前記バンパーラバーが前記進入凹部の中心線に対して対称な形状に形成され、かつ前記ラッチおよび前記ロックプレートが軸方向に対称な形状に形成されていることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、車両用シートの左右位置に固定装置を設けており、左右対称な形状の固定装置を左右位置に夫々設ける場合でも、左右の固定装置の部品として、ベースプレート,蓋体,バンパーラバー,ラッチ,ロックプレートを共用することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係るシートの固定装置によれば、ロック時に保持凹部の側面の開口部側が反開口部側よりも進入凹部の底面側に位置するように保持凹部の側面が傾斜しているので、キャッチ手段をストライカから引き離す方向の荷重が作用すると、ストライカは保持凹部の底面側へ移動し、ストライカとラッチ軸との距離が小さくなり、ロック解除方向へラッチを回転させようとする回転モーメントの腕の長さが小さくなる。従って、ストライカが保持凹部の底面側にある状態でラッチの強度を設計することができ、ラッチの軸方向厚さを小さくしてシートの固定装置を小形化できる。また、進入凹部の中心線と略二等辺三角形部分の中心線とを一致させたので、シートの左右に設けるキャッチ手段の部品の共用化を図ることができる。
【0018】
請求項2に係るシートの固定装置によれば、ロック時にストライカがラッチをロック位置へ回動させる際に、ストライカによりバンパーラバーが圧縮変形させられる変形量はラッチ軸からの距離が大きいほど小さくなるので、ラッチをロック位置まで回動させるために必要なストライカの押し込み力、即ちキャッチ手段を押圧することによりストライカを相対的に進入凹部に押し込む押し込み力は、進入凹部の幅方向でのストライカの位置に拘わらず略一定になる。
【0019】
請求項3に係るシートの固定装置によれば、ラッチがストライカに押圧されてオーバーストローク側へ回動した際のストッパとしてロックプレートをそのまま用い、該ロックプレートに当接するラッチの一部を樹脂コーティングしたので、ストッパとして部品を新たに追加する必要がない。
【0020】
請求項4に係るシートの固定装置によれば、シートの左右に配置される夫々の固定装置における左右対称な形状の部品を全て共用できるので、部品点数が少なくて済み、安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】進入凹部とバンパーラバーとラッチとの関係を示す説明図(実施の形態)
【図2】ストライカが進入凹部の幅方向であってラッチ軸からの距離が異なる位置を占める状態を示す説明図(実施の形態)
【図3】バンパーラバーに係り、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は右側面図(実施の形態)。
【図4】ベースプレートにバンパーラバーを装着する際の説明図(実施の形態)。
【図5】ベースプレートにバンパーラバーとラッチ軸およびロック軸を組み付けた状態に係り、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は要部の拡大断面図(実施の形態)。
【図6】シートの固定装置の分解斜視図(実施の形態)。
【図7】シートの固定装置のロック時の作用説明図(実施の形態)。
【図8】シートの固定装置のロック解除時の作用説明図(実施の形態)。
【図9】シートの固定装置のストライカ解放時の作用説明図(実施の形態)。
【図10】シートの固定装置を備えたシートの構成図(実施の形態)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明によるシートの固定装置の実施の形態を説明する。
(構成)
図10に示すようにシートクッション1aに対してシートバック1bが回動自在に設けられ、リヤシート1を構成している。前記シートクッション1aは床面である車体2aに図示しないボルトを介して結合される一方、前記シートバック1bは立設面である車体2bに着脱自在に取り付けられている。
【0023】
シートバック1bを車体2bに着脱自在に取り付けるため、シートの固定装置3が設けられている。該シートの固定装置3は、ストライカ4とキャッチ手段5とにより構成されている。ストライカ4は棒状部材をU字形に屈曲形成してその両端を車体2bに固定したものである。一方、キャッチ手段5はシートバック1bの背面に埋め込んで設けられており、前記ストライカ4をキャッチしたりあるいは開放したりすることができる。
【0024】
前記キャッチ手段5の構成を図6に基づいて説明する。キャッチ手段5は、ベースプレート6と、蓋体7と、ラッチ8と、ロックプレート9と、バンパーラバー10等により構成されている。
【0025】
前記ベースプレート6は、略台形の形状を有し、該台形の形状の下面の略中間位置の外周部から内部へ向って前記ストライカ4が進入離脱する進入凹部6aが形成されている。また、キャッチ手段5をシートバック1bに固定するための一対の取付孔6bが形成されている。前記蓋体7は、前記ベースプレート6との間に前記ラッチ等を収容するための収容空間を形成するものであり、前記進入凹部6aと対応する位置に進入凹部7aが形成され、前記取付孔6bと対応する位置に取付孔7bが形成されている。
【0026】
前記ラッチ8は、前記ベースプレート6の前記進入凹部6aに対して右側の前記収容空間に配置されたラッチ軸11を軸孔8dに挿通させることにより回動自在に設けられている。該ラッチ8には前記進入凹部6aに入り込んだ前記ストライカ4を進入離脱させる保持凹部8aが形成されており、バネ掛け部8cの部分は、ラッチ軸11を中心としてラッチ8が回動することにより、図7のロック位置(R0)と図9のロック解除位置(R1)とを占めることができる。ロック位置(R0)はラッチ8の一部が前記進入凹部7aの開口部側を塞ぐ状態の回動位置であり、ロック解除位置(R1)は前記進入凹部7aの開口部側が開放されている状態の回動位置である。一方、前記ロックプレート9は、前記ベースプレート6の前記進入凹部6aに対して左側の前記収容空間に配置されたロック軸12を軸孔9dに挿通させることにより回動自在に設けられている。ロックプレート9には、図7に示すようにラッチ8の係合部8bと係合してラッチ8がロック位置(R0)からロック解除位置(R1)へ反時計方向回動するのを規制するロック部9bが形成されている。該ロックプレート9における後述する孔9cの部分は、ロック軸12を中心として回動するロックプレート9の回動により、前記ラッチ8が回動付勢されて図7のロック位置(R0)から図9のロック解除位置(R1)へ回動するのを拘束する拘束位置(K0)と許容する図8,図9の許容位置(K1)とを占めることができる。
【0027】
そして、図7に示すように前記ラッチ8をロック位置(R0)からロック解除位置(R1)へ向って反時計方向へ回動付勢し、かつロックプレート9を許容位置(K1)から拘束位置(K0)へ向って時計方向へ回動付勢するための付勢手段としてばね13が設けられている。前記ロックプレート9には、前記ロックプレート9を前記ばね13の付勢に抗してロック解除操作して拘束位置(K0)から許容位置(K1)へ向って反時計方向へ回動させるために操作部9aが形成されており、図7に示すように該操作部9aの孔9cには、解除ロッド14の一端部に突出形成された軸部14aが挿通されている。そして、該軸部14aに前記ばね13の一端が掛けられ、前記ばね13の他端は前記ラッチ8のばね掛け部8cに掛けられている。
【0028】
前記ベースプレート6の前記進入凹部6aの底面の位置には、前記ストライカ4が前記進入凹部6a,7aに進入する際の衝撃を緩和するバンパーラバー10が装着されている。図3(a)に示すように、該バンパーラバー10は略直方体の両側の下部を切り欠いた形状であり、両側には前記ベースプレート6の前記進入凹部6aの縁部6cが入り込む嵌合溝10aが、双方の嵌合溝10aの底どうしが略平行な状態に形成されている。前記バンパーラバー10における前記進入凹部6aの底面と対向する側である図3(a)の上部の中央部には凹部10bが形成され、該凹部10bには前記ベースプレート6に形成したラバー受け部6dが嵌め込まれている。該ラバー受け部6dは、図5に示すように前記ベースプレート6に前記進入凹部6aを形成する際に、切り込みを入れた部分を前記ベースプレート6と直角な方向の内側へ立ち上げて形成したものである。
【0029】
図7に示すように、ロック時に、前記進入凹部6a,7aからのストライカ4の離脱を阻止する前記保持凹部8aの側面8eの開口部側が、側面8eの反開口部側よりも前記進入凹部6aの底面側に位置するように、前記保持凹部8aの側面8eが前記ラッチ軸11の軸心と前記ロック軸12の軸心とを通る基準線15に対してαだけ傾斜している。
【0030】
図3に示すように、バンパーラバー10における進入凹部6aの開口部側には、進入凹部6aの中心線上に頂点を有する略二等辺三角形部分10eが形成されている。この略二等辺三角形部分10eの頂点は、左右の斜面10cが滑らかに繋がるように、半径寸法rの円弧に形成されている。
【0031】
バンパーラバー10が設けられる進入凹部6aの幅寸法Aは、以下のようにして設定されている。図1は進入凹部6aとバンパーラバー10とラッチ8における保持凹部8aの底面8fとの関係を示す説明図である。図1の上部に引き出し線を設けて示すストライカ4の捕捉が可能な捕捉可能寸法Dの範囲である仮想線の位置が、本来必要とされる進入凹部の側面の位置であり、この捕捉可能寸法Dの範囲を示す仮想線の位置よりも寸法Eだけ外側の位置に、進入凹部6aの側面6c,6cが設定され、進入凹部6aの幅寸法がAとなっている。ここで、捕捉可能寸法Dは、ストライカ4を捕捉する際にストライカ4が進入凹部6aに進入する際のストライカ4の軸心位置のずれとして設計上必要とされる距離としての捕捉可能距離Bと、ストライカ4の外径寸法Cとを加算することにより、D=B+Cとして得られる。
【0032】
次に、保持凹部8aの底面8fの位置を、右方の仮想線で示す本来の側面の位置よりも寸法Eだけ進入凹部6aの中心線寄りに設定すると、図1の下部に引き出し線を設けて新たな捕捉可能寸法Dを示すように、結果として底面8fの位置が捕捉可能寸法Dの右端となって、仮想線で示す捕捉可能寸法Dの範囲の全体が寸法Eだけ左へ移動したことになるので、捕捉可能寸法Dの中心線も進入凹部6aの中心線よりも左方へ寸法Eだけ移動したものとして設定される。
【0033】
ここで、進入凹部6aを有するベースプレート6とバンパーラバー10をシートの左右の固定装置の部品として共有化できるようにするには、ベースプレート6の進入凹部6aをベースプレート6に対して左右対称にする必要がある。それゆえに、捕捉可能寸法Dの左端である側面6cの位置は仮想線の位置から左方へ寸法Eだけ移動させて設定したのであるから、右端も仮想線の位置から右方へ寸法Eだけ移動させ、側面6cが設定されている。これにより、進入凹部6aの幅寸法Aは、A=D+2Eとなる。つまり、進入凹部6aの左方の側面6cと右方の保持凹部8aの底面8fとの間のストライカ4の捕捉可能寸法Dの部分は、進入凹部6aの幅寸法Aに対して左方へ片寄せした位置に設定されていることになる。
【0034】
そして、バンパーラバー10の略二等辺三角形部分10eの斜辺10cの傾斜角度が、進入凹部6aからのストライカ4の離脱を阻止する保持凹部8aの側面8eの傾斜角度αよりも大きい値に設定されている。即ち、図7に示すように、ラッチ軸11の軸心とロック軸12の軸心とを通る基準線15に対する保持凹部8aの側面8eの傾斜角度はαであり、バンパーラバー10の略二等辺三角形部分10eの斜辺10cの傾斜角度をβとすると、α<βに設定されている。
【0035】
本発明では、ストライカ4が進入凹部6aに進入してラッチ8をロック位置(R0)へ回動させる際に、ストライカ4により圧縮されたバンパーラバー10の復帰力が、ストライカ4が進入凹部6aの幅方向のどの位置に存在していても、略同じ値になるように設定されている。即ち、ばね13の付勢力によりラッチ8にはロック解除方向へ回動させる回転力が常に作用しており、そのためにストライカ4がばね13の付勢力に抗して相対的にラッチ8をロック位置(R0)まで回動させることになるが、ストライカ4は保持凹部8a内に隙間を有して係合する(ストライカ4の外径寸法よりも保持凹部8aの内径寸法の方が僅かに大きい)ため、この隙間の分だけストライカ4を進入凹部6aの奥まで押し込まなければ、ラッチ8をロック位置(R0)まで回動させることができないことになる。ここで、ストライカ4がラッチ8を押圧する位置がラッチ軸11から離れるほど、ストライカ4を進入凹部6aの奥へ向って多く押し込む必要があり、押し込み量が多い分だけバンパーラバー10が大きく変形することになり、該バンパーラバー10の復帰力が大きくなる。保持凹部8aの開口部側に近い位置でストライカ4がラッチ8をロック位置まで押圧すると、進入凹部6aへの押し込み量は増えるが、本発明では前記のようにα<βの関係を保持することにより、バンパーラバー10の圧縮変形される量を少なくし、バンパーラバー10の復帰力が小さくなるように設定している。即ち、ストライカ4が進入凹部6aの幅方向のどの位置に存在していても、ラッチ8をロック位置の方向へ回動させる際のストライカ4の押し込み力の値が略同じになるように、αの値に対するβの値が設定されている。なお、本実施の形態では、例えばα=10度に設定したときには、β=23度に設定したところ、ストライカ4が進入凹部6aの幅方向のどの位置に存在していても、ロック時のストライカ4の押し込み力の値が略同じになった。このβの値は、保持凹部8aの形状やラッチ軸11と保持凹部8aとの位置関係、あるいはαの値やバンパーラバー10の材質等によって決まる。
【0036】
図6に示すように、ラッチ8における保持凹部8aの部分に、樹脂コーティング8gが施され、ラッチ8がオーバーストロークした際には樹脂コーティング8gの施されたラッチ8における保持凹部8aの側面8e側の先端部8hがロックプレート9に当接して停止するようになっている。
【0037】
また、ベースプレート6・蓋体7およびバンパーラバー10が進入凹部6a,7aの中心線に対して対称な形状に形成され、かつラッチ8およびロックプレート9が軸方向に対称な形状に形成されている。
【0038】
このほか、図4に示すように前記進入凹部6aの底面近傍の両側に凹部6eが形成される一方、前記バンパーラバー10の左右の前記嵌合溝10aの底面には、前記バンパーラバー10を前記進入凹部6aの底面に固定するための凸部10dが夫々形成されている。
(作用)
次に、シートの固定装置の作用を説明する。
【0039】
図7に示すようにラッチ8がロック位置(R0)を占め、ロックプレート9が拘束位置(K0)を占めてロックプレート9のロック部9bとラッチ8の係合部8bとが係合する状態では、ばね13の付勢力によりラッチ8を矢印で示すようにロック解除位置(R1)へ向って付勢する一方、ロックプレート9を矢印で示すように拘束位置(K0)へ向って付勢するので、ラッチ8の保持凹部8aの側面8eとバンパーラバー10の下面との間にストライカ4が挟まれ、該ストライカ4が進入凹部6a,7aの内部で拘束される。次に、解除ロッド14を図7中の左方へ操作すると、操作部9aがばね13の付勢力に抗して左方へ移動し、ロックプレート9が拘束位置(K0)から反時計方向へ回動して許容位置(K1)を占め、図8に示すようにロックプレート9のロック部9bとラッチ8の係合部8bとの係合が外れ、その後にばね13の付勢力によりラッチ8は図9に示すようにロック解除位置(R1)まで反時計方向へ回動し、ストライカ4が保持凹部8aおよび進入凹部6a,7aから排出される。つまり、ストライカ4がキャッチ手段5から開放される。
【0040】
この発明によれば、ロック時における保持凹部8aの側面8eの開口部側が反開口部側(底面8f側)よりも進入凹部6aの底面側に位置するように保持凹部8aの側面8eが傾斜しているので、ストライカ4を進入凹部6aから離脱させる方向の荷重が作用すると、ストライカ4は保持凹部8aの側面8eに沿って保持凹部8aの底面8f側へ移動し、ストライカ4はラッチ軸11へ接近する。このため、ラッチ8をロック解除方向へ回転させる回転モーメントの腕の長さが小さくなり、ロック解除方向へ回転させられるラッチ8の回転モーメントが小さくなる。また、ストライカ4の捕捉可能寸法Dの中心線を進入凹部6aの中心線に対して保持凹部8aの開口部側へ少しだけ偏心させたことにより、進入凹部6aの中心線と略二等辺三角形部分10eの中心線とを一致させてバンパーラバー10を配置したときに、バンパーラバー10の略二等辺三角形部分10eの2つの斜面10cのうちのロック時における保持凹部8aの側面8eと同じ方向へ傾斜する保持凹部8aの開口部側の斜面10cが、ストライカ4の捕捉可能寸法Dの範囲の多くを占め、ロック時にはストライカ4によりバンパーラバー10が圧縮変形して該バンパーラバー10にはストライカ4を進入凹部6aから押し出す方向の復帰力を生じるが、該復帰力の変動が小さくなる。
【0041】
即ち、ロック時における保持凹部8aの側面8eの傾斜方向とは傾斜方向が反対になっている保持凹部8aの反開口部側の斜面10cの部分にストライカ4が位置する場合は、該ストライカ4によりバンパーラバー10が圧縮変形して生じるストライカ4を進入凹部6aから押し出す方向の復帰力は、ストライカ4が略二等辺三角形部分10eの頂点に位置する場合よりも小さくなるが、ストライカ4が略二等辺三角形部分10eの頂点近傍に位置する場合は復帰力に大差がなく、従ってストライカ4が頂点近傍から反開口部側の斜面10cへ向って移動しないように、ストライカ4の捕捉可能寸法Dの中心線を進入凹部6aの中心線に対して、保持凹部8aの開口部側へ少しずらしたことにより、バンパーラバー10が圧縮変形して生じるストライカ4を押し出す方向の復帰力の変動が小さくなる。
【0042】
このシートの固定装置によれば、ロック時に保持凹部8aの側面8eの開口部側が反開口部側よりも進入凹部6aの底面側に位置するように保持凹部8aの側面が傾斜しているので、キャッチ手段5をストライカ4から引き離す方向の荷重が作用すると、ストライカ4は保持凹部8aの底面8f側へ移動し、ストライカ4とラッチ軸11との距離が小さくなり、ロック解除方向へラッチ8を回転させようとする回転モーメントの腕の長さが小さくなる。従って、ストライカ4が保持凹部8aの底面8f側にある状態でラッチ8の強度を設計することができ、ラッチ8の軸方向厚さを小さくしてシートの固定装置を小形化できる。また、進入凹部6aの中心線と略二等辺三角形部分10eの中心線とを一致させたので、シートの左右に設けるキャッチ手段5の部品の共用化を図ることができる。
【0043】
この発明によれば、ロック時にストライカ4がラッチ8をロック位置まで回動させる際に、ストライカ4によりバンパーラバー10が圧縮変形して該バンパーラバー10に復帰力が生じるが、該復帰力を進入凹部6aの幅方向での位置に拘わらず略一定となるようにすることができる。即ち、ラッチ8がロック位置へ回動するまでの間のストライカ4の移動量は、ラッチ軸11からストライカ4までの距離が大きいほど大きくなるが、バンパーラバー10の略二等辺三角形部分10eの斜辺10cの傾斜角度を、保持凹部8aの側面8eの傾斜角度よりも大きい値に設定することにより、ストライカ4により圧縮変形させられるバンパーラバー10の変形量はラッチ軸11からの距離が大きいほど小さくすることができ、進入凹部6aの幅方向でのストライカ4の位置に拘わらず、ラッチ8をロック位置まで回動させる際のストライカ4の押し込み力を略一定にすることができる。
【0044】
この発明によれば、ラッチ8がロック位置よりも更に回動してオーバーストロークした際には、ラッチ8に形成した樹脂コーティング8gの部分であって保持凹部8aの側面8e側の先端部8hがロックプレート9に当接してラッチ8の回転が停止するので、金属どうしの衝突が防止され、シートに負荷が作用した際の衝突音が緩和される。
【0045】
このシートの固定装置によれば、ラッチ8がストライカ4に押圧されてオーバーストローク側へ回動した際のストッパとしてロックプレート9をそのまま用い、該ロックプレート9に当接するラッチ8の一部を樹脂コーティングしたので、ストッパとして部品を新たに追加する必要がない。
【0046】
この発明によれば、車両用シートの左右位置に固定装置を設けており、左右対称な形状の固定装置を左右位置に夫々設ける場合でも、左右の固定装置の部品として、ベースプレート6,蓋体7,バンパーラバー10,ラッチ8,ロックプレート9を共用することが可能である。
【0047】
このシートの固定装置によれば、シートの左右に配置される夫々の固定装置における左右対称な形状の部品を全て共用できるので、部品点数が少なくて済み、安価に製造できる。
【符号の説明】
【0048】
3…シートの固定装置
4…ストライカ
5…キャッチ手段
6…ベースプレート
6a,7a…進入凹部
6c…進入凹部の側面
7…蓋体
8…ラッチ
8a…保持凹部
8e…保持凹部の側面
8f…保持凹部の底面
8g…樹脂コーティング
8h…先端部
9…ロックプレート
10…バンパーラバー
10c…斜辺
10e…略二等辺三角形部分
11…ラッチ軸
12…ロック軸
15…基準線
α…略二等辺三角形部分の斜辺の傾斜角度
β…保持凹部の側面の傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定したストライカと、シートに設けられ前記ストライカをキャッチするキャッチ手段とにより構成され、
該キャッチ手段は、ベースプレートと、該ベースプレートとの間に収容空間を形成する蓋体と、前記ベースプレートと前記蓋体との双方の略中間位置に外周部から内部へ向って形成され前記ストライカが進入離脱する進入凹部と、前記収容空間にラッチ軸を介して回動自在に設けられロック位置とロック解除位置とを占めるラッチと、該ラッチに設けられ前記進入凹部に入り込んだ前記ストライカが進入離脱する保持凹部と、前記収容空間にロック軸を介して回動自在に設けられ前記ラッチがロック位置からロック解除位置へ回動するのを拘束する拘束位置と許容する許容位置とを占めるロックプレートと、前記ベースプレートの前記進入凹部の底面に装着され前記ストライカが前記進入凹部に進入する際の衝撃を緩和するバンパーラバーとを備え、前記ラッチ軸と前記ロック軸とが前記進入凹部を挟んで対称な位置に配置されたシートの固定装置において、
ロック時に、前記進入凹部からの前記ストライカの離脱を阻止する前記保持凹部の側面の開口部側が、側面の反開口部側よりも前記進入凹部の底面側に位置するように、前記保持凹部の側面を前記ラッチ軸の軸心と前記ロック軸の軸心とを通る基準線に対して傾斜させ、
前記バンパーラバーにおける前記進入凹部の開口部側には、前記進入凹部の中心線上に頂点を有する略二等辺三角形部分を形成し、前記進入凹部の幅寸法は前記ストライカの捕捉可能中心線距離と前記ストライカの外径寸法とを加算した捕捉可能寸法よりも大きく設定し、前記保持凹部の底面位置を前記進入凹部の一方の側面よりも前記進入凹部の中心線寄りに設定することにより、前記進入凹部の他方の側面と前記保持凹部の底面との間の偏心した位置に前記ストライカの捕捉可能寸法を設定したことを特徴とするシートの固定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシートの固定装置において、
前記バンパーラバーの前記略二等辺三角形部分の斜辺の傾斜角度を、前記進入凹部からの前記ストライカの離脱を阻止する前記保持凹部の側面の傾斜角度よりも大きい値に設定したことを特徴とするシートの固定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシートの固定装置において、
前記ラッチにおける前記保持凹部の部分に、樹脂コーティングを施し、前記ラッチが前記ストライカに押されて回動してオーバーストロークした際には前記ラッチの前記樹脂コーティングした部分が前記ロックプレートに当接して前記ラッチの回動が規制されることを特徴とするシートの固定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシートの固定装置において、
前記ベースプレート・蓋体および前記バンパーラバーが前記進入凹部の中心線に対して対称な形状に形成され、かつ前記ラッチおよび前記ロックプレートが軸方向に対称な形状に形成されていることを特徴とするシートの固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−211460(P2012−211460A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77271(P2011−77271)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000237307)富士機工株式会社 (392)
【Fターム(参考)】