説明

シートベルトリトラクタの制御装置

【課題】本発明は、モータを使用して、例えば衝突が予測された緊急時やそれ以外の通常時に、ベルトの巻き取りや引き出しを行うシートベルトリトラクタの制御装置において、緊急時の通電性能と通常時のノイズ性能を両立しながら、体格の小型化を実現できるシートベルトリトラクタの制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】シートベルトリトラクタの制御装置500は、シートベルトリトラクタ用モータ200と、MOSFET402,404,406,408を有するHブリッジ回路401とを備え、Hブリッジ回路401を複数の駆動モードで制御することで、モータ200の駆動を制御し、ベルトの巻き取りや引き出しを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシートベルトリトラクタの制御装置に関し、特に、PWM制御にて駆動制御されるモータ駆動回路を用いたシートベルトリトラクタの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両安全システムとして、車両に搭載された衝突センサが他の車両や障害物との衝突を回避できないと判断した場合にシートベルトの巻き取りを行うプリクラッシュセーフティシステムが知られている。
【0003】
また、近年、シートベルトリトラクタにモータが取り付けられ、例えば、シートベルトが装着または脱着された場合に当該モータを回転させ、シートベルトの弛み除去等を行うことで、シートベルトを装着する乗員の快適性向上が図られている。他の車両や障害物との距離が近くなり、車両に搭載された衝突センサで衝突が予測された緊急時に、このようなモータを使用することで、衝突前に乗員を車両シートに拘束でき、衝突時の乗員の衝撃を低減することができる。
【0004】
このように、衝突が予測された緊急時においては、シートベルトを瞬時に巻き取るために、シートベルトリトラクタ用モータに大電流を通電させる必要がある。その一方で、緊急時以外の日常的な動作においては、ラジオ等のアクセサリを含めた他の機器に対するノイズを抑制するために、通電される電流値を抑制する必要がある。
【0005】
特許文献1には、このような緊急時の通電性能と通常時のノイズ性能を両立させるためのシートベルト制御装置が開示されている。このシートベルト制御装置は、モータ駆動回路の電源ラインにノイズフィルタが有る場合と無い場合の2系統のラインを設けると共に、緊急時と通常時とでこれらを切り替える手段を備えることで、ノイズフィルタを小型化して、シートベルト制御装置の体格の小型化が図られている。
【0006】
図11は、このような従来のシートベルトリトラクタの制御装置の全体構成図を示したものであり、このシートベルトリトラクタの制御装置500'は、モータ200'とモータ駆動回路300'から大略構成されている。また、モータ駆動回路300'は、車両バッテリ(不図示)から給電される電力を伝える電源部400'、車両GNDとの接続を担うGND部410'、ノイズ抑制用のノイズフィルタ回路を構成するコイル412'とコンデンサ414'、大電流時にコイル412'を介さずに通電可能とするHブリッジ回路用電源ラインのノイズフィルタ切り替え用回路部品416'、およびHブリッジ回路401'から構成されている。さらに、Hブリッジ回路401'は、第1のMOSFET402'、第2のMOSFET404'、第3のMOSFET406'、第4のMOSFET408'から構成されている。ここで、MOSFET402',404',406',408'のゲート端子(図中、Gと表記)は、それぞれCPU301'の出力端子と接続されており、CPU301'の出力信号に応じて各MOSFETがオンもしくはオフすることで、Hブリッジ回路401'に接続されたモータ200'の駆動が制御されるようになっている。ここで、CPU301'は、MOSFET402',404',406',408'を駆動可能とする出力端子を有するものであるが、プリドライバー回路などの別部品で駆動能力を補完してもよい。
【0007】
図12は、従来のシートベルトリトラクタにおけるモータ電流制御のフィードバック系ブロック図を示したものであり、例えば、ノイズフィルタ切り替え用回路部品416'等の緊急時と通常時との切り替え手段によって、Hブリッジ回路401'に予め設定された駆動モードが適用された場合のフィードバック系ブロック図を示したのである。はじめに制御装置500'(図11参照)に備えられた駆動モード決定手段501'で、予め緊急時や通常時等の特定の駆動モードを決定し、その後、その緊急時や通常時等の駆動モードにしたがって目標電流決定手段502'で目標電流を決定する。例えば、緊急時の駆動モードが決定された場合には目標電流は20Aとし、通常時のベルト格納時の駆動モードが決定された場合には目標電流を10Aと設定することができる。次いで、現在の電流値を電流検知手段503'から読み込み、目標電流値との差(以下「電流偏差」という。)をCPU301'に実装されたプログラムのコントローラ504'に入力する。コントローラ504'では、前記電流偏差に基づいて、PID制御などの方式を用いてPWM制御のDuty比を算出し、モータ駆動回路300'に指令信号を出力する。そして、その指令信号に基づいて、モータ駆動回路300'のHブリッジ回路401'が制御されて、モータ200'が駆動される。このような制御装置500'では、緊急時と通常時との切り替え手段を用いて、Hブリッジ回路401'の電源ラインのノイズフィルタを切り替えることで、Hブリッジ回路401'の駆動モードを制御することができる。なお、仮に、緊急時と通常時との切り替え手段が無い場合には、緊急時や通常時等に関わらず、モータ駆動回路300'のHブリッジ回路の駆動モードが予め固定されており、例えば後述するベルト巻き取り時の駆動モードが実行されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−6998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されているシートベルト制御装置においては、Hブリッジ回路用電源ラインのノイズフィルタ切り替え用回路部品等が必要となり、また、当該回路部品は緊急動作時の大電流を通電する能力を備える必要があることから、シートベルト制御装置の小型化が阻害されるという問題がある。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、緊急時の通電性能と通常時のノイズ性能を両立しながら、体格の小型化を実現できるシートベルトリトラクタの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記する課題を解決するために、本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置は、シートベルトリトラクタ用モータと、MOSFETを有するHブリッジ回路とを備えるシートベルトリトラクタの制御装置であって、前記制御装置は、前記Hブリッジ回路を複数の駆動モードで制御することで、前記モータの駆動を制御する。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から理解できるように、本発明のシートベルトリトラクタの制御装置によれば、緊急時の通電性能と通常時のノイズ性能を両立でき、かつ、ノイズフィルタやHブリッジ回路用電源ラインのノイズフィルタ切り替え用回路部品が不要で、その体格の小型化を実現できる。
【0013】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置の一実施形態が適用される車両安全システムの基本構成図。
【図2】本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置の一実施形態が適用されるシートベルトリトラクタを用いた乗員の拘束状態を示した図。
【図3】図2で示す機電一体型リトラクタの分解斜視図。
【図4】本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置の一実施形態の全体構成図。
【図5】図4で示す制御装置を構成するHブリッジ回路の駆動モードを説明する図であり、(A)は緊急時のベルト巻き取り動作の駆動モード1を示した図、(B)は通常時のベルト巻き取り動作の駆動モード2を示した図、(C)はベルト引き出し動作の駆動モード3を示した図。
【図6】図5で示すHブリッジ回路が有するMOSFETの実施形態を示した図であり、(A)はMOSFETのゲート部にゲート抵抗が挿入された形態を示した図、(B)はMOSFETのゲート部にフェライトビーズが挿入された形態を示した図、(C)はMOSFETのゲート部とソース部との間にコンデンサが追加された形態を示した図。
【図7】ベルト巻き取り時のMOSFETターンオン及びターンオフ波形を示した図であり、(A)は駆動モード1のMOSFETターンオン波形を示した図、(B)は駆動モード1のMOSFETターンオフ波形を示した図、(C)は駆動モード2のMOSFETターンオン波形を示した図、(D)は駆動モード2のMOSFETターンオフ波形を示した図。
【図8】本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置の一実施形態が適用された場合の、シートベルトリトラクタにおけるモータ電流制御のフィードバック系ブロック図。
【図9】ベルト巻き取り動作の駆動モードを決定するフロー図。
【図10】モータ電流と発熱量およびノイズレベルとの関係を示した図であり、(A)は駆動モード1のみを適用した場合のモータ電流と発熱量およびノイズレベルとの関係を示した図、(B)は駆動モード1と駆動モード2を適用した場合のモータ電流と発熱量およびノイズレベルとの関係を示した図。
【図11】従来のシートベルトリトラクタの制御装置の全体構成図。
【図12】従来のシートベルトリトラクタにおけるモータ電流制御のフィードバック系ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置が適用された車両安全システムの基本構成図を示したものである。図示する車両安全システム1000の車両110には、障害物との距離に応じた信号を出力する障害物センサ102が、車両前方部に取り付けられている。障害物センサ102の出力信号は、障害物センサ102と電気的に接続された衝突判断コントローラ106に伝達される。また、車両の速度に応じた信号を出力する車輪速度センサ104の信号も、車輪速度センサ104と電気的に接続された衝突判断コントローラ106に伝達される。衝突判断コントローラ106は、障害物センサ102と車輪速度センサ104の信号に基づき、車両110が障害物と衝突するか否かを判断する。例えば、障害物センサ102の出力信号から得られた障害物との距離が所定の値より小さく、かつ、車輪速度センサ104の出力信号から得られた車両速度が所定の値より大きい場合には、衝突判断コントローラ106は車両110が障害物と衝突すると判断し、車両110が障害物と衝突する前に、ブレーキアシスト装置108と機電一体型リトラクタ100に指令信号を出力する。
【0017】
ブレーキアシスト装置108と機電一体型リトラクタ100は、衝突判断コントローラ106と電気的に接続されており、衝突判断コントローラ106の指令信号に基づき、それぞれが予め設定された動作を実行する。
【0018】
図2は、本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置が適用されるシートベルトリトラクタを用いた乗員の拘束状態を示したものである。ここで、機電一体型リトラクタ100にはモータ200が付設されており、モータ200が回転駆動することによってシートベルト201の巻き取りが可能となっている。例えば、乗員Aが車両110を運転している状態において、乗員Aが車両110に対して相対的に前方方向に微小ではあるが移動し、乗員Aとシート111との間に空隙が生じているような状況下で、車両110が障害物と衝突した場合、乗員Aはシート111に拘束されていない状態であるために、その衝突によってシート111に強く打ちつけられてしまう。しかしながら、上記する車両安全システム1000によれば、車両110が障害物と衝突する前にリトラクタ100に付設されたモータ200を駆動させてシートベルト201を巻き取ることで、乗員Aとシート111との間隙をなくすことが可能となる。したがって、車両110と障害物が衝突する時点において、すでに乗員Aがシート111に拘束された状態であるため、衝突による乗員Aへの衝撃を緩和することができる。
【0019】
また、車輪速度センサ104の出力が所定の変化量を超えた場合、つまり車両110が急発進あるいは急停止した場合には、シートベルト201の巻き取り動作を瞬間的に繰り返すことで乗員Aへ警告を促すこともできる。
【0020】
また、同様に、車輪速度センサ104の出力が所定の値を超えた場合、つまり車両110が所定の走行速度を超えた場合にも、シートベルト201の巻き取り動作を瞬間的に繰り返すことで乗員Aへ警告を促すこともできる。
【0021】
図3は、リトラクタの一種である機電一体型リトラクタ100の分解斜視図を示したものである。図示する機電一体型リトラクタ100は、シートベルト201を巻きとるためのスプール202と、スプール202に回転力を伝達するモータ動力伝達機構部211が収納されたギアボックス210と、ギアボックス210内のギアに勘合して、電気的エネルギーを回転力に変換するモータ200と、このモータ200に接続されたモータ端子203,204を介して、モータ200へ電力を供給するための回路基板310から大略構成されている。また、回路基板310には、計算処理をつかさどるCentral Processing Unit(CPU)301や、車両に搭載された他の制御装置との通信や車両バッテリから電力供給を受けるためのコネクタ302、CPU301の指令に基づきモータ200への電力供給を切り替えるモータ駆動回路300等が実装されている。なお、モータ駆動回路300には、例えば、DCモータ駆動用のHブリッジ回路やブラシレスモータ駆動用の3相駆動回路などが使用される。また、回路基板310上に実装されたCPU301にはFlashROMなどの不揮発性メモリが内包されており、この不揮発性メモリには、CPU301にて実行されるプログラムが保存されている。
【0022】
図4は、図3で示すモータ駆動回路300とモータ200からなるシートベルトリトラクタの制御装置500の全体構成図を示したものである。モータ駆動回路300は、車両バッテリ(不図示)から給電される電力を伝える電源部400、車両GNDとの接続を担うGND部410、およびHブリッジ回路401から大略構成されており、Hブリッジ回路401は、第1のMOSFET402、第2のMOSFET404、第3のMOSFET406、第4のMOSFET408から構成されている。なお、MOSFET402,404,406,408のゲート端子(図中、Gと表記)は、それぞれCPU301の出力端子と接続されており、CPU301の出力信号に応じて各MOSFETがオンもしくはオフすることで、Hブリッジ回路401に接続されたモータ200の駆動が制御されるようになっている。
【0023】
図11で示す従来のシートベルトリトラクタの制御装置500'に対して、図4で示すシートベルトリトラクタの制御装置500は、Hブリッジ回路401を構成する第1のMOSFET402および第2のMOSFET404のゲート端子(ゲート部)GとCPU301の出力端子との間に、それぞれゲート抵抗412,414が接続されていることが異なっている。これにより、第1のMOSFET402と第2のMOSFET404のスイッチング速度(オン状態からオフ状態に切り替わる速度、あるいは、オフ状態からオン状態に切り替わる速度)が、第3のMOSFET406と第4のMOSFET408と比較して相対的に遅くなり、スイッチング時に発生するスイッチングノイズが抑制される。この実施形態によれば、Hブリッジ回路401の駆動モードを適宜切り替えて、第1のMOSFET402や第2のMOSFET404をスイッチングすることで、第3のMOSFET406や第4のMOSFET408をスイッチングする場合と比較して、より一層ノイズの発生を抑制することができる。
【0024】
図5は、モータ200駆動のための図4で示すHブリッジ回路401の駆動モードについて説明したものである。なお、ベルト巻取り時は、モータ200への通電方向を図中において左から右方向とし、ベルトリリース(引き出し)時は、その通電方向を右から左方向とする。
【0025】
図5(A)は、例えば他の車両や障害物との衝突が予測された場合のような、緊急時におけるベルト巻き取り時の駆動モード(駆動モード1)を示したものである。このような駆動モード1では、例えばシートベルトベルトを瞬時に巻き取るために、通常時と比較してモータに大きな電流を通電させる必要がある。そこで、モータ駆動中、第1のMOSFET402は常時オンとし、第2のMOSFET404は常時オフとして、第4のMOSFET408を駆動Duty比に応じて高速にスイッチングさせる。なお、この場合の駆動Duty比は0%〜100%であり、スイッチング速度は5kHz〜20kHzの範囲で設定される。
【0026】
例えば、スイッチング速度10kHzで、電源部400とGND部410に発生する電力の90%の電力をモータに供給する場合、Duty比は90%となり、第4のMOSFET408は、オン時間が90μsec、オフ時間が10μsecの動作を繰り返すこととなる。また、第4のMOSFET408がオフしている期間においても、モータ200固有のインダクタンス成分によって、モータ200には回生電流が通電される。そこで、第3のMOSFET406を第4のMOSFET408とは逆相でオンし、回生電流による第3のMOSFET406での発熱を抑制することが知られている。すなわち、第3のMOSFET406は、オン時間が10μsec、オフ時間が90μsecの動作を繰り返すこととなる。なお、第3のMOSFET406と第4のMOSFET408が同時にオンすることが無いように、各MOSFETのオン時間とオフ時間を調整し、デッドタイムを設けることもできる。
【0027】
ここで、図示するゲート駆動信号403,405,407,409はCPU301(図4参照)の出力信号であり、ゲート駆動信号403は第1のMOSFET402を駆動する信号、ゲート駆動信号405は第2のMOSFET404を駆動する信号、ゲート駆動信号407は第3のMOSFET406を駆動する信号、ゲート駆動信号409は第4のMOSFET408を駆動する信号である。既述するように、モータ駆動中、ゲート駆動信号403は常時オン、ゲート駆動信号405は常時オフ、ゲート駆動信号407は、オン時間が10μsec、オフ時間が90μsecの逆相PWM信号、ゲート駆動信号409は、オン時間が90μsec、オフ時間が10μsecの正相PWM信号を意味している。
【0028】
図5(B)は、例えば緊急時以外の通常時におけるベルト巻き取り時の駆動モード(駆動モード2)を示したものである。このような駆動モード2では、緊急時と比較して相対的に小さい電流を通電しており、ノイズレベルの抑制が図られている。そこで、モータ駆動中、第4のMOSFET408を常時オンとし、第3のMOSFET406を常時オフとして、第1のMOSFET402を駆動Duty比に応じて高速にスイッチングさせる。この場合の駆動Duty比は0%〜100%であり、スイッチング速度は5kHz〜20kHzの範囲で設定される。
【0029】
例えば、スイッチング速度10kHzで、電源部400とGND部410に発生する電力の90%の電力をモータに供給する場合、Duty比は90%となり、第1のMOSFET402は、オン時間が90μsec、オフ時間が10μsecの動作を繰り返すこととなる。また、第1のMOSFET402がオフしている期間においても、モータ200固有のインダクタンス成分によって、モータ200には回生電流が通電される。そこで、第2のMOSFET404を第1のMOSFET402とは逆相でオンし、回生電流による第2のMOSFET404での発熱を抑制することが知られている。すなわち、第2のMOSFET404は、オン時間が10μsec、オフ時間が90μsecの動作を繰り返すこととなる。なお、第1のMOSFET402と第2のMOSFET404が同時にオンすることが無いように、各MOSFETのオン時間、オフ時間を調整し、デッドタイムを設けることもできる。
【0030】
ここで、図示するゲート駆動信号413,415,417,419はCPU301(図4参照)の出力信号であり、ゲート駆動信号413は第1のMOSFET402を駆動する信号、ゲート駆動信号415は第2のMOSFET404を駆動する信号、ゲート駆動信号417は第3のMOSFET406を駆動する信号、ゲート駆動信号419は第4のMOSFET408を駆動する信号である。既述するように、モータ駆動中、ゲート駆動信号413は、オン時間が90μsec、オフ時間が10μsecの正相PWM信号、ゲート駆動信号415は、オン時間が10μsec、オフ時間が90μsecの逆相PWM信号、ゲート駆動信号417は常時オフ、ゲート駆動信号419は常時オンを意味している。
【0031】
図5(C)は、ベルトリリース(引き出し)時の駆動モード(駆動モード3)を示したものである。ベルトリリース時はモータ200への通電方向を図中において右から左方向とし、モータ駆動中、第3のMOSFET406を常時オンとし、第4のMOSFET408を常時オフとして、第2のMOSFET404を駆動Duty比に応じて高速にスイッチングさせる。この場合の駆動Duty比は0%〜100%であり、スイッチング速度は5kHz〜20kHzの範囲で設定される。なお、駆動モード3では、一般に、緊急時と比較して相対的に小さい電流がモータ200に通電されているものである。
【0032】
例えば、スイッチング速度10kHzで、電源部400とGND部410に発生する電力の90%の電力をモータに供給する場合、Duty比は90%となり、第2のMOSFET404は、オン時間が90μsec、オフ時間が10μsecの動作を繰り返すこととなる。また、第2のMOSFET404がオフしている期間においても、モータ200固有のインダクタンス成分によって、モータ200には回生電流が通電される。そこで、第1のMOSFET402を第2のMOSFET404とは逆相でオンし、回生電流による第1のMOSFET402での発熱を抑制することが知られている。すなわち、第1のMOSFET402は、オン時間が10μsec、オフ時間が90μsecの動作を繰り返すこととなる。なお、第1のMOSFET402と第2のMOSFET404が同時にオンすることが無いように、各MOSFETのオン時間、オフ時間を調整し、デッドタイムを設けることもできる。
【0033】
ここで、図示するゲート駆動信号423,425,427,429はCPU301(図4参照)の出力信号であり、ゲート駆動信号423は第1のMOSFET402を駆動する信号、ゲート駆動信号425は第2のMOSFET404を駆動する信号、ゲート駆動信号427は第3のMOSFET406を駆動する信号、ゲート駆動信号429は第4のMOSFET408を駆動する信号である。既述するように、モータ駆動中、ゲート駆動信号423は、オン時間が10μsec、オフ時間が90μsecの逆相PWM信号、ゲート駆動信号425は、オン時間が90μsec、オフ時間が10μsecの正相PWM信号、ゲート駆動信号427は常時オン、ゲート駆動信号429は常時オフを意味している。
【0034】
従来の制御装置においては、緊急時や通常時等の異なるベルト巻き取り状態に関わらず、例えば予め設定された緊急時のベルト巻き取り時の駆動モード(駆動モード1)を適用してベルトの巻き取りを行っていた。そのため、スイッチングされるMOSFETは常に固定されており、通常時においては、大きなノイズが発生する要因となっていた。
【0035】
それに対して、本実施形態の制御装置においては、緊急時や通常時等の異なるベルト巻き取り状態において、それぞれ異なるベルト巻き取り時の駆動モードを適用してベルトの巻き取りを行う。すなわち、緊急時においては駆動モード1を適用し、緊急時以外の通常時においては駆動モード2を適用することができる。そのため、スイッチングされるMOSFETが巻き取り状態に応じて可変となり、緊急時の通電性能を維持しながら、通常時のノイズ性能を向上させることができる。
【0036】
図6は、Hブリッジ回路401が有する第1のMOSFET402の実施形態を示したものであり、かつ、第1のMOSFET402のスイッチング速度を調整するための手段を示したものである。なお、同様の手段を第2のMOSFET404にも適用することができる。
【0037】
図6(A)は、図4で示す実施形態と同様に、MOSFET402のゲート部Gにゲート抵抗412を挿入した形態を示したものである。これにより、ゲート電流を制限することが可能となり、ゲート電圧の立ち上がり及び立下り速度を遅延させて、MOSFET402のスイッチング速度を遅延させることができる。
【0038】
図6(B)は、図6(A)で示すゲート抵抗412に代えて、MOSFET402のゲート部Gにフェライトビーズ412Aを挿入した形態を示したものである。これにより、ゲート電圧における高周波成分のインピーダンスを大きく取ることが可能となり、ゲート電圧の立ち上がり及び立下り速度を遅延させて、MOSFET402のスイッチング速度を遅延させることができる。
【0039】
図6(C)は、MOSFET402のゲート部Gとソース部Sとの間にコンデンサ412Bを追加した形態を示したものである。これにより、見かけ上のゲート容量が大きくなり、ゲート電圧の立ち上がり及び立下り速度を遅延させて、MOSFET402のスイッチング速度を遅延させることができる。
【0040】
なお、図4〜6においては、第1のMOSFET402と第2のMOSFET404のみにゲート抵抗等を適用しているが、第1のMOSFET402と第2のMOSFET404に接続されるゲート抵抗と異なる抵抗値を備えたゲート抵抗等を、第3のMOSFET406や第4のMOSFET408に接続することもできる。また、第1のMOSFET402や第2のMOSFET404のゲート部とソース部との間に追加されるコンデンサと容量の異なるコンデンサを、第3のMOSFET406や第4のMOSFET408のゲート部とソース部との間に追加することができる。
【0041】
図7は、ベルト巻き取り時のMOSFETターンオン及びターンオフ波形を示したものであり、図7(A)は、例えば緊急時のベルト巻き取り時である駆動モード1のMOSFETターンオン波形、図7(B)は、そのMOSFETターンオフ波形、図7(C)は、例えば通常時のベルト巻き取り時である駆動モード2のMOSFETターンオン波形、図7(D)は、そのMOSFETターンオフ波形を示したものである。なお、図7(A)及び図7(C)では、ゲート電圧(VGS)が10%電圧から90%電圧まで到達する時間をターンオン時間(Ton)とし、図7(B)及び図7(D)では、ドレイン電圧(VDS)が10%電圧から90%電圧まで到達する時間をターンオフ時間(Toff)としている。
【0042】
図7(A)と図7(C)を比較すると、駆動モード2の方がターンオン時間(Ton)が長く設定されている。これにより、駆動モード2ではより緩やかにMOSFETがオンし、スイッチング時に発生するノイズをより一層低減することができる。同様に、図7(B)と図7(D)を比較すると、駆動モード2の方がターンオフ時間(Toff)が長く設定されている。これにより、駆動モード2ではより緩やかにMOSFETがオフし、スイッチング時に発生するノイズをより一層低減することができる。このように、通常時のベルト巻き取り時の駆動モード2におけるスイッチングノイズが、緊急時のベルト巻き取り時の駆動モード1におけるスイッチングノイズよりも低減され、通常時のノイズ性能が向上していることが理解できる。
【0043】
図8は、本発明に係るシートベルトリトラクタの制御装置の一実施形態が適用された場合の、シートベルトリトラクタにおけるモータ電流制御のフィードバック系ブロック図を示したものである。図12で示す従来のシートベルトリトラクタにおけるモータ電流制御のフィードバック系ブロック図に対して、図8で示すフィードバック系ブロック図は、主として、緊急時や通常時、あるいはベルトの巻き取りや引き出しに応じてHブリッジ回路の駆動モードを選定する駆動モード選定手段505が追加されていることが異なっている。
【0044】
図示するように、はじめに制御装置500(図4参照)に備えられた駆動モード決定手段501で緊急時や通常時等の駆動モードを予め決定しておき、駆動モード選定手段505で、緊急時や通常時、あるいはベルトの巻き取りや引き出しに応じてHブリッジ回路の駆動モードを選定する。ここで、選定される駆動モードは、例えば、緊急時のベルト巻き取りにおいては図5(A)で示す駆動モード1が選定され、緊急時以外のベルト格納時においては図5(B)で示す駆動モード2が選定され、ベルトリリース時においては図5(C)で示す駆動モード3が選定される。そして、その選定された駆動モードに応じて目標電流決定手段502で目標電流を決定する。次いで、現在の電流値を電流検知手段503から読み込み、電流偏差をCPU301に実装されたプログラムのコントローラ504に入力する。コントローラ504では、電流偏差に基づいて、PID制御などの方式を用いてPWM制御のDuty比を算出し、モータ駆動回路300に指令信号を出力する。そして、その指令信号に基づいて、モータ駆動回路300のHブリッジ回路401が制御されて、モータ200が駆動される。この実施形態によれば、駆動モードに応じてスイッチング周波数を切り替え、Hブリッジ回路401の各MOSFETの駆動を制御することが可能となる。
【0045】
図9は、図8における駆動モード選定手段505で駆動モードを選定するフロー図を示したものである。駆動モード選定手段505では、駆動モードが緊急時か否かを判定し(S50)、駆動モードが緊急時である場合には、図5(A)で示す駆動モード1を選定する(S51)。また、動作モードが緊急時以外である場合には、図5(B)で示す駆動モード2を選定する(S52)。また、駆動モード選定手段505では、緊急時か否かを判定する前に、シートベルトの巻き取りか、あるいは引き出しかを判定することもできる。
【0046】
図10は、モータ電流と発熱量およびノイズレベルとの関係を示したものであり、図10(A)は、駆動モードの切り替えを実施せず、例えば図5(A)で示す駆動モード1のみを適用した場合のモータ電流とノイズレベルおよび発熱量の関係を示したものである。また、図10(B)は、駆動モードの切り替えを行い、異なる駆動モード1,2を適用した場合のモータ電流とノイズレベルおよび発熱量の関係を示したものである。同図横軸はモータ電流、縦軸はノイズレベルと発熱量を示している。なお、ここで、発熱とはPWM制御におけるスイッチングを繰り返すMOSFETの発熱を意味している。
【0047】
図10(A)に示すように、単一の駆動モード1のみを適用する場合には、モータ電流の増加にしたがってノイズレベルおよび発熱量も略線形的に増加する。なお、低電流域においては、ノイズフィルタであるコイルがその機能を発揮するため、ノイズレベルが抑制されている。それに対して、図10(B)では、低電流域において駆動モード2が選択され、スイッチング速度が遅くなることで発熱量が増加するものの、図10(A)のノイズレベルに対してスイッチング時に発生するノイズレベルが低下している。したがって、低電流領域、すなわち通常時には効果的にノイズの発生が抑制される。その一方で、高電流域においては図10(A)で示す駆動モードと同様の駆動モード1が選定され、モータ電流に対して同様のノイズレベルおよび発熱量が示されている。しかしながら、高電流域、すなわち障害物等との衝突が予測され、瞬時にシートベルトを巻き取る必要があるような緊急時には、そのような大きなノイズの発生を許容することができ、高い通電性能を維持することができる。
【0048】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0049】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0050】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 機電一体型リトラクタ
102 障害物センサ
104 車輪速度センサ
106 衝突判断コントローラ
108 ブレーキアシスト装置
110 車両
111 シート
200 モータ
201 シートベルト
202 スプール
210 ギアボックス
211 モータ動力伝達機構部
300 モータ駆動回路
301 Central Processing Unit(CPU)
302 コネクタ
310 回路基板
400 電源部
401 Hブリッジ回路
402,404,406,408 MOSFET
410 GND部
412,414 ゲート抵抗
412A フェライトビーズ
412B コンデンサ
500 シートベルトリトラクタの制御装置
501 駆動モード決定手段
502 目標電流決定手段
503 電流検知手段
504 コントローラ
505 駆動モード選定手段
1000 車両安全システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトリトラクタ用モータと、MOSFETを有するHブリッジ回路とを備えるシートベルトリトラクタの制御装置であって、
前記制御装置は、前記Hブリッジ回路を複数の駆動モードで制御することで、前記モータの駆動を制御することを特徴とするシートベルトリトラクタの制御装置。
【請求項2】
前記駆動モードは、シートベルトの巻き取り動作の駆動モードと引き出し動作の駆動モードとから構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトリトラクタの制御装置。
【請求項3】
前記駆動モードは、緊急時の駆動モードとそれ以外の場合の駆動モードとから構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトリトラクタの制御装置。
【請求項4】
前記Hブリッジ回路は、複数のMOSFETを有しており、
少なくとも2つの前記MOSFETのゲート部にゲート抵抗が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシートベルトリトラクタの制御装置。
【請求項5】
前記Hブリッジ回路は、複数のMOSFETを有しており、
少なくとも2つの前記MOSFETのゲート部にフェライトビーズが設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシートベルトリトラクタの制御装置。
【請求項6】
前記Hブリッジ回路は、複数のMOSFETを有しており、
少なくとも2つの前記MOSFETのゲート部とソース部との間にコンデンサが設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシートベルトリトラクタの制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−144069(P2012−144069A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1876(P2011−1876)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】