説明

シート及びその製造方法

【課題】被印刷物を吸着面に負圧吸着する際の被印刷物や吸着面の損傷を抑制する。
【解決手段】スクリーン印刷の被印刷物40を負圧吸着する吸着面22に配置されるシート30は、吸着面22に開口する負圧吸着孔21の位置に対応する位置に形成されたスリット状の切れ目31を備える。切れ目31は、負圧吸着孔21からの負圧の作用を受けて負圧方向に変形することにより負圧吸着孔21と被印刷物40との間を開通し、被印刷物40へ負圧吸着力を作用させ、且つ、負圧吸着孔21からの正圧の作用を受けて正圧方向に変形することにより負圧吸着孔21と被印刷物40との間を閉塞し、被印刷物40への負圧吸着力の作用を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクリーン印刷の被印刷物を負圧吸着する吸着面に配置されるシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷は、複数の微細孔から成る版下が形成されたスクリーンを被印刷物の表面に対面させた状態でスクリーンの一面にペーストを供給し、スクリーンの表面上を摺動するスキージによりペーストをスクリーンの表面に塗り拡げることにより、微細孔に滞留したペーストを被印刷物の表面にパターン印刷する方法である。例えば、太陽電池の電極配線を形成するための方法として、スクリーン印刷により導電性ペーストをシリコンウェハにパターン印刷する方法が知られている。このようなスクリーン印刷では、被印刷物が所望の位置からずれないように固定するための機構として、例えば、特許4696369号公報に開示されているように、被印刷物をテーブルに負圧吸着する機構が用いられている。テーブルの吸着面には、複数の負圧吸着孔が開口しており、負圧吸着孔から被印刷物へ負圧吸着力を作用させることにより、被印刷物をテーブルに吸着固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4696369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、被印刷物を負圧吸着する機構では、被印刷物がテーブルの吸着面に直接接触するため、被印刷物の昇降動作に伴う被印刷物とテーブルとの間の摩擦によりテーブルの吸着面の塗装又はメッキが断片的に剥離してしまう。また、被印刷物の色とテーブルの色とが類似している場合、アライメントカメラによる被印刷物の外観の検出の際にエラーを生じ易い。例えば、シリコンウェハの色と金属製テーブルの色は酷似しているため、アライメントカメラによる誤検出を招き易い。また、被印刷物に割れや欠けが生じた場合に、その細かい破片がテーブルの負圧吸着孔に入り込んでその通路を部分的に閉塞してしまい、負圧吸着力の低下を招く原因となる。また、被印刷物をテーブルから取り出す場合に負圧吸着孔を通じて被印刷物に正圧を印加すると、負圧吸着孔に詰まっていた細かい破片が飛び出してテーブルの吸着面上に散乱してしまうため、新たな被印刷物を負圧吸着すると、吸着面上に散乱した破片から被印刷物に局所的な応力が加わり、割れや欠けを助長する原因になる。特に、硬度が高いシリコンウェハは、金属性のテーブルに散乱する破片によって破損し易いため、テーブルから破片を除去するための清掃を強いられる。また、ペーストがテーブルに付着すると、アライメントカメラによる画像処理にエラーを生じ易い。
【0005】
そこで、本発明は、上述の問題を解決し、被印刷物を吸着面に負圧吸着する際の被印刷物や吸着面の損傷を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係わるシートは、スクリーン印刷の被印刷物を負圧吸着する吸着面に配置されるシートであって、吸着面に開口する負圧吸着孔の位置に対応する位置に形成されたスリット状の切れ目を備える。この切れ目は、負圧吸着孔からの負圧の作用を受けて負圧方向に変形することにより負圧吸着孔と被印刷物との間を開通し、被印刷物へ負圧吸着力を作用させ、且つ、負圧吸着孔からの正圧の作用を受けて正圧方向に変形することにより負圧吸着孔と被印刷物との間を閉塞し、被印刷物への負圧吸着力の作用を遮断する。被印刷物の破片やその他の異物が負圧吸着孔に入り込んだとしても、被印刷物を吸着面から取り出すときに、シートの切れ目が負圧吸着孔からの正圧の作用を受けて負圧吸着孔と被印刷物との間を閉塞することにより、破片等が吸着面に散乱することを効果的に抑制できる。
【0007】
シートの切れ目の断面形状は、略V字形が好ましい。これにより、僅かな正圧の作用でも切れ目は、負圧吸着孔と被印刷物との間を閉塞することができる。
【0008】
シートは、可撓性材質から成るものが好ましい。これにより、シートの切れ目は、負圧吸着の圧力変動を受けて容易に弾性変形することができ、負圧吸着孔と被印刷物との間のガス通路を開閉できる。また、シートは、弾性緩衝作用を有するため、被印刷物と吸着面との接触に起因する被印刷物の破損や吸着面の表面の塗装又はメッキの剥がれを回避できる。
【0009】
シートの色は、被印刷物の色とは異なるものが好ましい。これにより、アライメントカメラによる被印刷物の外観の誤検出を回避できる。
【0010】
シートは、吸着面に貼着するための粘着部材を更に備えてもよい。これにより、吸着面へのシートの貼り付け及び剥離が容易となり、シート上にペーストやその他の異物が付着したとしても容易に交換できるため、シートの表面を常時清潔な状態に維持することができる。
【0011】
本発明に係わるスクリーン印刷の被印刷物を負圧吸着する吸着面に配置されるシートの製造方法は、吸着面に開口する負圧吸着孔の位置に対応するシート上の位置にスリット状の切れ目を形成する工程を備える。この切れ目は、負圧吸着孔からの負圧の作用を受けて負圧方向に変形することにより負圧吸着孔と被印刷物との間を開通し、被印刷物へ負圧吸着力を作用させ、且つ、負圧吸着孔からの正圧の作用を受けて正圧方向に変形することにより負圧吸着孔と被印刷物との間を閉塞し、被印刷物への負圧吸着力の作用を遮断する。切れ目を形成するには、例えば、負圧吸着孔の位置に対応するシート上の位置を突起状の金型で押圧すればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被印刷物を吸着面に負圧吸着する際の被印刷物や吸着面の損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係わるスクリーン印刷機の概略構成を示す説明図である。
【図2】本実施形態に係わるシートの平面図である。
【図3】本実施形態に係わるシートの変形動作を示す説明図である。
【図4】本実施形態に係わるシートの変形動作を示す説明図である。
【図5】本実施形態に係わるシートを用いて印刷を行った場合の歩留まりと本実施形態に係わるシートを用いないで印刷を行った場合の歩留まりとの比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係わるスクリーン印刷機10の概略構成を示す説明図であり、図2は本実施形態に係わるシート30の平面図である。図3及び図4は本実施形態に係わるシート30の変形動作を示す説明図である。同一の部材には同一の符号を付すものとし、重複する説明を省略する。また、説明の便宜上、各図の部材の寸法比率は実際の部材の寸法比率とは異なる。また、本明細書において特に断りがない限り、上下方向は、図面中の±Z方向を意味するものとする。
【0015】
図1に示すように、テーブル20の上にシート30を介して被印刷物40が載置される。図3及び図4に示すように、テーブル20の吸着面22には、被印刷物40を負圧吸着するための負圧吸着孔21が開口している。スクリーン印刷は、半導体装置や薄膜表示装置の電極材料、配線材料、半田ペースト、接着剤の付与等に多目的に使用可能であるため、被印刷物40は、スクリーン印刷可能なあらゆる基板を含み、例えば、太陽電池の製造に応用する場合には、シリコンウェハ等が好適である。図1に示すように、テーブル20の上方には、枠体60に保持されたスクリーン50が被印刷物40から離間して対向するように配置されている。スクリーン50は、複数の微細孔51から成る版下を有している。スクリーン50の上方には、ペースト90をスクリーン50に押し当てるスキージ70が配置される。例えば、シリコンウェハを被印刷物40として、太陽電池の電極配線を印刷する場合、スクリーン50は配線パターンの版下を有しており、ペースト90は金属粉を含有している。スキージ70はホルダ80によって保持され、移動機構(図示せず)によって図示のX方向に移動される。これにより、ペースト90は、スキージ70から圧力が加えられた状態でスクリーン50の微細孔51を通じて被印刷物40の表面に押し出されて付着する。被印刷物40に付着したペースト90は、自然乾燥或いは別工程で乾燥され、印刷処理が完了する。
【0016】
図2に示すように、シート30には、その表裏を部分的に切り裂くスリット状の切れ目31が形成されている。切れ目31の形成位置は、負圧吸着孔21の開口位置に対応している。切れ目31を形成するには、例えば、負圧吸着孔21の開口位置に対応するシート30上の位置を突起状の金型で押圧すればよい。シート30は、負圧吸着孔21の圧力変動に応じて弾性変形可能な適度な弾力性を有する可撓性シートであればよく、特定の材質に限られるものではないが、例えば、紙シート、塩化ビニルシート、ポリエステルフィルムシート、ポリスチレンフィルムシート、又はシリコン薄膜等が好適である。シート30の膜厚は、10mm以下が好ましく、特に0.01mm程度が好適である。図3に示すように、切れ目31は、負圧吸着孔21からの負圧の作用を受けて負圧方向(−Z方向)に弾性変形することにより、負圧吸着孔21と被印刷物40との間のガスの流れを開通し、被印刷物40へ負圧吸着力を作用させる。これにより、被印刷物40は、シート30を介してテーブル20に吸着される。図4に示すように、切れ目31は、負圧吸着孔21からの正圧の作用を受けて正圧方向(+Z方向)に弾性変形することにより、負圧吸着孔21と被印刷物40との間のガスの流れを閉塞し、被印刷物40への負圧吸着力の作用を遮断する。これにより、被印刷物40は、テーブル20から取り出すことができる。このように、切れ目31は、負圧吸着孔21の圧力に応じてガス通路を開閉する弁として機能し、その開弁動作(図3)を通じて被印刷物40はテーブル20に負圧吸着され、また、その閉弁動作(図4)を通じて被印刷物40への負圧吸着が解除される。
【0017】
開閉弁として機能する切れ目31を有するシート30をテーブル20の吸着面22と被印刷物40との間に配置することにより、以下の利点が得られる。例えば、図4に示すように、被印刷物40の破片やその他の異物100が負圧吸着孔21に仮に入り込んだとしても、被印刷物40をテーブル20から取り出すときに切れ目31が閉弁動作することにより、破片等が吸着面22に散乱することを効果的に抑制できる。また、被印刷物40は、相対的に硬いテーブル20に接触するのではなく、弾性緩衝作用のある相対的に柔らかいシート30に接触するため、被印刷物40とテーブル20との接触に起因する被印刷物40の破損やテーブル20の表面の塗装又はメッキの剥がれを回避できる。また、被印刷物40の破損等に伴う破片の発生を抑制できるため、そのような破片が負圧吸着孔21に詰まることによって生じる負圧吸着力の低下を抑制できる。
【0018】
なお、シート30の色は、特に限定されるものではないが、例えば、被印刷物40の色とは異なる色にすることで、アライメントカメラによる被印刷物40の外観の誤検出を回避できる。シート30の色は、被印刷物40の色に対してコントラストを強調できる色が好ましい。例えば、被印刷物40としてシリコンウェハを用いる場合、シート30の色は白色が好ましい。また、シート30は、吸着面22に貼着するための粘着部材を更に有していることが好ましい。これにより、吸着面22へのシート30の貼り付け及び剥離が容易となり、仮にシート30上にペースト90やその他の異物が付着したとしても容易に交換できるため、シート30の表面を常時清潔な状態に維持することができる。例えば、吸着面22に接する側のシート30の一面全部に接着糊を塗布してもよい。
【0019】
ところで、僅かな正圧の作用で切れ目31を容易に閉弁させるためには、例えば図4に示すように、切れ目31をXZ平面で切断して得られる断面形状は、吸着面22側に向かって先細りの略V字形が好ましい。切れ目31の断面形状をこのような形状に形成するためには、例えば、先細りの略V字形の金型でシート30を押圧すればよい。また、負圧吸着孔21をXY平面で切断して得られる断面形状は、特定の形状に限定されるものではなく、例えば円形や楕円形等でもよいが、僅かな正圧の作用で切れ目31を容易に閉弁させるためには、負圧吸着孔21の内部の壁面はZ方向に沿って直線状であることが好ましい。但し、負圧吸着孔21の壁面は必ずしも直線状である必要はなく、局所的に湾曲している部分を有していてもよい。
【0020】
図5の実線は、スクリーン印刷機10にシート30を貼付して印刷を行った場合の歩留まりの推移を示すグラフであり、同図の破線は、従来のスクリーン印刷機を用いて印刷を行った場合の歩留まりの推移を示すグラフである。同図の横軸は、被印刷物40の処理枚数を示し、縦軸は歩留まりを示す。但し、被印刷物40を3000枚印刷する毎にシート30を交換した場合の結果である。同図に示すように、被印刷物40の処理枚数が多くなる程、従来のスクリーン印刷機では、歩留まりが大きく低下するのに対し、スクリーン印刷機10にシート30を貼付して印刷を行った場合には歩留まりの大きな低下は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明に係わるシート及びその製造方法は、スクリーン印刷の被印刷物を吸着面に負圧吸着する機構を備えるスクリーン印刷機への応用が可能である。
【符号の説明】
【0022】
10…スクリーン印刷機
20…テーブル
21…負圧吸着孔
22…吸着面
30…シート
31…切れ目
40…被印刷物
50…スクリーン
51…微細孔
60…枠体
70…スキージ
80…ホルダ
90…ペースト
100…異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン印刷の被印刷物を負圧吸着する吸着面に配置されるシートであって、
前記吸着面に開口する負圧吸着孔の位置に対応する位置に形成されたスリット状の切れ目を備える、シート。
【請求項2】
請求項1に記載のシートであって、
前記切れ目は、前記負圧吸着孔からの負圧の作用を受けて負圧方向に変形することにより前記負圧吸着孔と前記被印刷物との間を開通し、前記被印刷物へ負圧吸着力を作用させ、且つ、前記負圧吸着孔からの正圧の作用を受けて正圧方向に変形することにより前記負圧吸着孔と前記被印刷物との間を閉塞し、前記被印刷物への負圧吸着力の作用を遮断する、シート。
【請求項3】
スクリーン印刷の被印刷物を負圧吸着する吸着面に配置されるシートの製造方法であって、
前記吸着面に開口する負圧吸着孔の位置に対応するシート上の位置にスリット状の切れ目を形成する工程を備える、シートの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のシートの製造方法であって、
前記切れ目は、前記負圧吸着孔からの負圧の作用を受けて負圧方向に変形することにより前記負圧吸着孔と前記被印刷物との間を開通し、前記被印刷物へ負圧吸着力を作用させ、且つ、前記負圧吸着孔からの正圧の作用を受けて正圧方向に変形することにより前記負圧吸着孔と前記被印刷物との間を閉塞し、前記被印刷物への負圧吸着力の作用を遮断する、シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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