説明

シート材、ならびにそれを有する感圧性接着シート

【課題】液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布し乾燥することによって感圧性接着剤層を形成することができる感圧性接着シート用の剥離機能を有するシート材、ならびにそれを用いた感圧性接着剤層とシート材との間の剥離性にすぐれる感圧性接着シートを提供する。
【解決手段】単層または積層のシート材であって、単層の場合には当該シート材自体が、また積層の場合にはその少なくとも一方の最外層が、密度が0.910〜0.935g/cm、メルトフローインデックスが15g/10min以下、かつ結晶化度が30〜60%である直鎖状エチレン系共重合体を含有し、当該シート材の厚みが30〜300μmであることを特徴とする感圧性接着シート用の剥離機能を有するシート材、ならびにそのシート材と感圧性接着剤層とを有する感圧性接着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧性接着シートなどの材料として好適なシート材、およびそのシート材を有する感圧性接着シートに関する。本明細書において、シート材、感圧性接着シートは、それぞれテープ材、感圧性接着テープを包含するものである。
【背景技術】
【0002】
感圧性接着シートは、剥離剤を硬化させてなる層のみを有するシート材または当該層を最外層として有する剥離機能を有するシート材と、該シート材に接する感圧性接着剤層とを有し、シート材と感圧性接着剤層との間で剥離させることができる。前記シート材は、剥離剤のみを硬化させるか、あるいは剥離シート基材の少なくとも感圧性接着剤層に接することを意図する側の層に剥離剤を塗布し硬化させることによって形成される。前記剥離剤としては、たとえばシリコーン系の剥離剤が知られている。感圧性接着剤層は、たとえばアクリル系の感圧性接着剤を用いて、シート材に接するように形成される。
【0003】
このような感圧性接着シートは、シート材と感圧性接着剤層との間の剥離時に、シート材に含有されるシリコーン化合物が感圧性接着剤層に付着してしまう。シリコーン化合物が付着した感圧性接着剤層は、シリコーン化合物が付着しない感圧性接着剤層と比較して、接着強さが著しく低下してしまう。
【0004】
また上述した感圧性接着シートを電子機器の部品の固定などに用いると、一般に電子機器内部の腐食または電子機器の誤動作が起こりやすくなる。このような腐食または誤動作は、前記シートがハードディスクドライブ(HDD)など電子機器の内部に用いられた場合に特に起こりやすい。これは、シート材と感圧性接着剤層との間の剥離時に感圧性接着剤層に付着したシリコーン化合物がシロキサンガスを発生するためであると考えられている。
【0005】
また特許文献1には、シリコーン系以外の剥離剤を用いて形成したシート材が開示されている。このシート材では、低密度ポリエチレン樹脂が用いられる。前記シート材は、剥離シート基材の表面上に、その表面の酸化を抑制しながら低密度ポリエチレン樹脂を積層することによって形成される。
【0006】
さらにまた特許文献2にも、シリコーン系以外の剥離剤を用いて形成したシート材が開示されている。このシート材は、低密度ポリエチレン樹脂とエチレン−プロピレン共重合体とによる混合樹脂または低密度ポリエチレン樹脂とエチレン−1−ブテンランダム共重合体とによる混合樹脂が用いられる。
【0007】
このようなシート材と感圧性接着剤層とを有する感圧性接着シートは、感圧性接着剤層が比較的高い接着強さを有する場合に、剥離性が低下する。剥離性が低下した感圧性接着シートは、感圧性接着剤層とシート材との間の剥離時に接着剤がシート材に付着したり、剥離後の感圧性接着剤層の表面の形状がパルス状となるスティックスリップなどと呼ばれる不所望な剥離を引き起こしたりする。これによって感圧性接着剤層とシート材との間の剥離で露出した感圧性接着剤層の表面粗さが大きくなってしまう。このような感圧性接着シートでは、感圧性接着剤層が本来備えている接着強さを充分に発揮することができず、接着性がよくない。
【0008】
またこれらのシート材は、低密度ポリエチレン樹脂を含有しているので、液状の感圧性接着剤に対する膨潤度が大きく、さらに加熱によって変形しやすい。このためこれらのシート材を有する感圧性接着シートの製造において、たとえば予め溶剤で希釈された液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布し乾燥することによって感圧性接着剤層を形成すると、感圧性接着剤の塗布時にシート材が膨潤を起こしてしまったり、あるいは乾燥時にシート材が収縮してしまう。これによって感圧性接着シートが不所望に変形してしまうか、または変形しなかったとしても感圧性接着シートの剥離性が低下してしまう。したがってこれらの感圧性接着シートは、支持基材の一表面に感圧性接着剤層を形成し、かつ剥離シート基材の一表面にシート材を形成した後、これらを感圧性接着剤層がシート材に接するように貼り合わせる方法で作製しなければならない。このような感圧性接着シートの作製方法は、液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布し乾燥させる方法と比較して製造効率が低く、またコストがかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭51−20205号公報
【特許文献2】特公昭57−45790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするものであり、その目的は、液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布し乾燥することによって感圧性接着剤層を形成することができる感圧性接着シート用の剥離機能を有するシート材、ならびにそのシート材と感圧性接着剤層とを有しかつ感圧性接着剤層とシート材との間の剥離性にすぐれる感圧性接着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、密度、メルトフローインデックスおよび結晶化度が特定の範囲内の物性値を示す直鎖状エチレン系共重合体を主として含有することによって、液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布し乾燥する方法で感圧性接着剤層を形成することができる感圧性接着シート用の剥離機能を有するシート材、ならびにそのシート材と感圧性接着剤層とを有しかつ感圧性接着剤層とシート材との間の剥離性にすぐれる感圧性接着シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]単層または積層のシート材であって、単層の場合には当該シート材自体が、また積層の場合にはその少なくとも一方の最外層が、密度が0.910〜0.935g/cm、メルトフローインデックスが15g/10min以下、かつ結晶化度が30〜60%である直鎖状エチレン系共重合体を含有し、当該シート材の厚みが30〜300μmであることを特徴とする感圧性接着シート用の剥離機能を有するシート材。
[2]直鎖状エチレン系共重合体のメルトフローインデックスが0.1g/10min以上であることを特徴とする[1]記載のシート材。
[3]少なくとも感圧性接着剤層に接することを意図する側の表面の算術平均粗さが1.0μm以下であることを特徴とする[3]記載のシート材。
[4]上記表面の算術平均粗さが0.01μm以上であることを特徴とする[3]記載のシート材。
[5]上記直鎖状エチレン系共重合体は、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンならびに1−オクテンのうちの少なくとも1種以上のコモノマーとエチレンとの共重合体であることを特徴とする[1]記載のシート材。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載のシート材と感圧性接着剤層とを有することを特徴とする感圧性接着シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布し乾燥する方法で感圧性接着剤層を形成することができる感圧性接着シート用の剥離機能を有するシート材、ならびにそのシート材と感圧性接着剤層とを有しかつ感圧性接着剤層とシート材との間の剥離性にすぐれる感圧性接着シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の感圧性接着シート用の剥離機能を有するシート材は、密度、メルトフローインデックスおよび結晶化度が下記の特定の範囲内の物性値を示す直鎖状エチレン系共重合体を主として含有する。
【0015】
前記直鎖状エチレン系共重合体は、JIS K−6760に規定されている測定方法によって測定される密度が0.910〜0.935g/cmであり、好ましくは0.915〜0.930g/cmである。密度が0.910g/cm未満である場合、液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布し乾燥して感圧性接着剤層を形成すると、感圧性接着剤の塗布時にシート材が膨潤を起こしてしまったり、あるいは乾燥時にシート材が収縮してしまうなどの問題がある。また密度が0.935g/cmを超える場合、剥離後の感圧性接着剤層の表面の形状がパルス状となったり、シート材と感圧性接着層との間が剥離しにくいなどというようにシート材の剥離性が低下する問題がある。
【0016】
前記直鎖状エチレン系共重合体は、JIS K−6760に規定されている測定方法によって測定されるメルトフローインデックスが15g/10min以下であり、好ましくは12g/10min以下である。またメルトフローインデックスの下限値は通常0.1g/10min以上、好ましくは0.2g/10min以上である。メルトフローインデックスが15g/10minを超える場合、液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布すると、シート材が膨潤を起こしてしまう問題がある。
【0017】
また、さらに前記直鎖状エチレン系共重合体は、公知の方法である広角X線回折法によって測定される結晶化度が30〜60%、好ましくは35〜55%である。結晶化度が30%未満である場合液状の感圧性接着剤をシート材に直接塗布すると、シート材が変形してしまう問題があり、60%を超える場合シート材の変形は起きないが、シート材の剥離性が低下する問題がある。
【0018】
本発明のシート材は、密度、メルトフローインデックスおよび結晶化度の各値がそれぞれ上述の範囲から選ばれる直鎖状エチレン系共重合体を用いているので、このシート材に液状の感圧性接着剤を直接塗布し乾燥することによって、感圧性接着剤層を形成することができる。またこのようにして感圧性接着剤層を形成しても、シート材が不所望に変形したり剥離機能が低下してしまうことがなく、上述したシート材と感圧性接着剤層とを有する感圧性接着シートは、シート材と感圧性接着剤層との間において良好な剥離性を有する。
【0019】
直鎖状エチレン系共重合体の密度、メルトフローインデックスおよび結晶化度のうちの少なくともいずれかが上述の範囲を逸脱した場合、液状の感圧性接着剤の塗布によってシート材が膨潤したり、あるいは乾燥によってシート材が収縮したりしてしまう。これによって本発明のシート材を有する感圧性接着シートは、不所望に変形してしまうか、または変形しなかったとしても剥離性が著しく低下してしまう。
【0020】
上述したように本発明のシート材は、液状の感圧性接着剤を直接塗布し乾燥することによって感圧性接着剤層を形成することができる。したがって低密度ポリエチレン樹脂を含有する従来のシート材と異なり、予め支持基材の表面に形成した感圧性接着剤層をシート材に接するように貼り合わせて作製しなくてもよい。これによって従来と比較して、高い製造効率でかつ低いコストで感圧性接着シートを製造することができる。
【0021】
また本発明のシート材は、少なくとも感圧性接着剤層に接することを意図する側の表面の算術平均粗さ(Ra)が1.0μm以下、好ましくは0.7μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。このような算術平均粗さは、JIS B−0601に規定されている測定方法によって測定される。前記算術平均粗さが1.0μmを超えると、剥離性が低下してしまい、剥離時に感圧性接着シートが伸びたり、あるいは剥離後の感圧性接着剤層の表面形状が荒れたりしてしまう。また前記算術平均粗さは、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.03μm以上であり、特に好ましくは0.05μm以上である。
【0022】
上述のように、本発明のシート材は、前記算術平均粗さが特定の範囲内に選ばれる。これによって本発明のシート材と感圧性接着剤層とを有する感圧性接着シートは、剥離時にシート材が伸びたりあるいは剥離後の感圧性接着剤層の表面形状が荒れたりしてしまうことがなく、シート材と感圧性接着剤層との間の剥離性を良好に保つことができる。したがって前記感圧性接着シートは、剥離時において接着剤がシート材に付着しにくく、かつシート材に含有される物質が感圧性接着剤層に付着しにくい。これによって剥離後の感圧性接着剤層の表面の粗さを小さくすることができ、感圧性接着剤層は本来備えている接着強さを充分に発揮することができる。
【0023】
またさらに本発明のシート材に主として含有される直鎖状エチレン系共重合体は、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンならびに1−オクテンのうちの少なくとも1種以上のコモノマーとエチレンとの共重合体であり、好ましくはエチレン−1−ヘキセン共重合体またはエチレン−1−オクテン共重合体である。このような直鎖状エチレン系共重合体は、公知の方法によって共重合の条件、精製の条件、および分別の条件を適宜選択すれば容易に得ることが可能である。また、市販品を試験して、本発明で特定する特性を有する直鎖状エチレン系共重合体を選択することによって得ることができる。
【0024】
本発明のシート材は、上述したような特定の範囲内の物性値を有する直鎖状エチレン系共重合体からなっていてもよく、また必要に応じて他の樹脂成分または添加物を含有する混合物であってもよい。ただし前記樹脂成分または添加物は、前記直鎖状エチレン系共重合体によってシート材に付加された剥離機能、成膜性、耐溶剤性および耐熱性を損なわない範囲の量で含有される。
【0025】
このようなシート材は、前記直鎖状エチレン系共重合体またはその混合物を押出し成形法などの公知の成形法によってシート状に成形した剥離シートとすることによって作製される。このような剥離シートの厚みは、その用途などに応じて適宜選択することができ、たとえば30〜300μm程度に選ばれる。
単層のシート材はかかる剥離シートをそのまま使用すればよい。
【0026】
また本発明のシート材は、剥離シート基材の少なくとも片側に前記直鎖状エチレン系共重合体またはその混合物が積層される積層のシート材であってもよい。このような直鎖状エチレン系共重合体またはその混合物と剥離シート基材との積層のシート材は、前記直鎖状エチレン系共重合体またはその混合物を押出しラミネーション、ドライラミネーション、ウェットラミネーションまたはホットメルトラミネーションなどの公知の積層法によって剥離シート基材の少なくとも片側に積層する。このような積層のシート材の厚みは、その用途などに応じて適宜選択することができ、たとえば30〜300μm程度に選ばれる。
【0027】
前記剥離シート基材としては、プラスティックフィルム、金属箔または紙などが用いられる。プラスティックフィルムとしては、具体的には、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリスチレンまたはポリ塩化ビニルが挙げられる。また前記金属箔としては、具体的には、アルミ箔またはステンレス箔が挙げられる。前記紙としては、具体的には、和紙、クラフト紙、上質紙またはクレープ紙が挙げられる。
【0028】
本発明のシート材を有する感圧性接着シートが含有する感圧性接着剤層は、前記剥離シートの一表面または前記積層のシート材に溶剤系、エマルジョン系またはホットメルト系の感圧性接着剤を塗布し、乾燥することによって形成される。感圧性接着剤層は、その厚みが1〜70μm、好ましくは20〜50μmとなるように形成される。
【0029】
このような感圧性接着剤層を形成するための感圧性接着剤としては特に限定されないが、好ましい一例としてポリアクリル酸エステルおよび/またはポリメタクリル酸エステルを含有するポリアクリル酸エステル系感圧性接着剤が挙げられる。ポリアクリル酸エステル系感圧性接着剤は、溶液重合法またはエマルジョン重合法などの当業者が通常用いる重合法によって得られるアクリル系ポリマーを主剤とする。前記アクリル系ポリマーは、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアルキルアクリレート、あるいはブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどのアルキルメタクリレートを主成分とする。このようなアクリル系ポリマーを得るための重合において、好ましくは、トルエン、酢酸エチルなどの溶媒が用いられ、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤が用いられる。このようなアクリル系ポリマーは、重量平均分子量が好ましくは15万〜100万、より好ましくは25万〜80万のものが用いられる。
【0030】
前記ポリアクリル酸エステル系接着剤は、このようなアクリル系ポリマーに、必要に応じて各種の添加剤を加えて調製される。このような添加剤としては、架橋剤、粘着付与剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤などが挙げられる。
【0031】
また前記アクリル系ポリマーは、必要に応じてアルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートに、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンおよび酢酸ビニルの内の少なくともいずれかのモノマーを共重合可能な改質用モノマーとして加えたモノマー混合物の共重合体であってもよい。この共重合において、好ましくは、トルエン、酢酸エチルなどの溶媒が用いられ、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤が用いられる。このような共重合体のアクリル系ポリマーから調整されるポリアクリル酸エステル系感圧性接着剤を感圧性接着剤層の形成に用いることによって、シート材と感圧性接着剤層との間の剥離性を更に向上することができる。
【0032】
またポリアクリル酸エステル系感圧性接着剤以外で、感圧性接着剤層の形成に好適な感圧性接着剤としては、ポリエステル系感圧性接着剤が挙げられる。中でも特に、脂肪族系ポリカーボネートジオールをポリオールの成分として有するポリエステル系感圧性接着剤が好ましい。脂肪族系ポリカーボネートジオールとは、下記式
【0033】
【化1】

【0034】
〔式中、Rは炭素数2〜20の直鎖状または分枝鎖状の炭化水素基である。〕で示される繰返し単位を有する脂肪族系ポリカーボネート構造を有するジオールである。このようなジオールは、たとえばブタンジオールなどのジオール成分とエチレンカーボネートなどのカーボネート化合物との反応によって得られる。前記ポリエステル系重合体は、重量平均分子量が好ましくは1万以上、より好ましくは3万以上(通常30万以下)のものが用いられる。
【0035】
上述の脂肪族系ポリカーボネートジオール以外の好適な前記ポリオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオールまたはオクタデカンジオールなどの直鎖状のジオール成分などが挙げられる。このようなジオール成分と反応させる多塩基性酸成分は、炭素数が2〜20個の脂肪族または脂環族の炭化水素基を分子骨格としたものが好ましい。前記脂肪族炭化水素基は直鎖状であってもよく、また分枝鎖状であってもよい。このような多塩基性酸成分として、具体的には、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、1,2−ドデカン二酸、1,14−テトラデカン二酸、n−ヘキシルアジピン酸、テトラヒドロフタル酸またはエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、あるいはそれらの酸無水物またはエステルなどの誘導体が用いられる。
【0036】
前記脂肪族系カーボネートジオールをポリオールの成分として有するポリエステル系感圧性接着剤は、上述したような脂肪族系ポリカーボネート構造を有するジオールに、必要に応じて各種の添加剤を加えて調製される。このような添加剤としては、架橋剤、粘着付与剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤などが挙げられる。
【0037】
上述した感圧性接着剤層の形成に好適な感圧性接着剤は、その調製過程でいかなる形態をも取り得るけれども、溶剤系、エマルジョン系およびホットメルト系のうちのいずれかの形態で用いられるのが取り扱いの上で好ましい。また上述した感圧性接着剤は、本発明の範囲を逸脱しない限り、あるいは感圧性接着剤としての接着性を損なわないならば単独で用いてもよく、また従来からの公知の混合方法または撹拌方法によって混合物として用いてもよい。
【0038】
また本発明のシート材と感圧性接着剤層とを有する感圧性接着シートは、好ましくは、前記感圧性接着剤層のシート材に接する側とは反対側に接する支持基材を備える。支持基材は、その厚みが30〜300μm、好ましくは50〜200μmに選ばれる。支持基材としては、プラスティックフィルム、金属箔または紙などが用いられる。プラスティックフィルムとしては、具体的には、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリスチレンまたはポリ塩化ビニルが挙げられる。また前記金属箔としては、具体的には、アルミ箔またはステンレス箔が挙げられる。前記紙としては、具体的には、和紙、クラフト紙、上質紙またはクレープ紙が挙げられる。
【0039】
上述のように本発明のシート材を有する感圧性接着シートは、シート材に感圧性接着剤を直接塗布し乾燥することによって感圧性接着剤層を形成することができるので、シート材に感圧性接着剤層を積層した後、感圧性接着剤層のシート材に接する側とは反対側に接するように支持基材を貼り合わせて設けることができる。したがって本発明では支持基材の材料として熱に弱い材料でも用いることができ、従来のシート材と比較して支持基材の材料の選択範囲を広くすることができる。
【0040】
また本発明のシート材を有する感圧性接着シートは、従来と同様に公知の方法によって、支持基材の一表面に感圧性接着剤層を形成し、かつシート材を形成した後、これらを感圧性接着剤層とシート材とが接するように貼り合わせて製造してもよい。
【0041】
また本発明のシート材を有する感圧性接着シートは、支持基材の両面に感圧性接着剤層とシート材との積層構造を備える両面の感圧性接着シートであってもよい。換言すると、支持基材の両面にそれぞれ接する各感圧性接着剤層と、各感圧性接着剤層にそれぞれ接する単層または積層のシート材とを備えてもよい。
【0042】
また本発明の感圧性接着シートは、たとえば支持基材の一方の表面に感圧性接着剤層が接し、かつ支持基材の他方の表面(背面)に前記剥離シートの一表面または前記積層体のシート材が接するような構造であってもよい。これによって自背面との剥離性にすぐれる感圧性接着シートを製造することができる。
【0043】
上述した本発明のシート材を有する感圧性接着シートの各形態は、感圧性接着テープにおいても好適である。すなわち本発明のシート材を有する感圧性接着テープは、両面の感圧性接着テープであってもよく、また自背面との剥離性にすぐれる感圧性接着テープであってもよい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは単なる例示であり、本発明は、これらにより何ら限定されるものではない。
【0045】
実施例1
密度0.919g/cm、メルトフローインデックス2.0g/10minのエチレン−1−ヘキセン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリオレフィン社製、ジェイレクス LL AC−404A)を、40φ1軸混練り押出機を用いて200℃の押出し温度で押出成形を行い、厚みが100μmの剥離シートを単層のシート材として作製した。X線発生装置(理学電機工業社製、RU−200B)を用い広角X線回折法によって、この剥離シートの結晶化度を算出したところ、45.2%であった。また前記剥離シートの表面の算術平均粗さは、0.18μmであった。
またn−ブチルアクリレート100重量部およびアクリル酸5重量部を、トルエンを溶媒として、当業者が通常用いる方法によって重合させた。重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイドを用いた。このような重合反応によって、重量平均分子量が50万のアクリル系ポリマーの溶液(固形分:30%)を得た。このようなアクリル系ポリマーに、アクリル系ポリマー100重量部あたりメラミン系架橋剤を1.5重量部、イソシアネート系架橋剤を3重量部配合して、ポリアクリル酸エステル系感圧性接着剤を調製した。
このポリアクリル酸エステル系感圧性接着剤を、乾燥後の厚みが30μmになるように上述のように作製した剥離シート上に塗布し、120℃で3分間乾燥して、感圧性接着剤層を形成した。前記感圧性接着剤層に、支持基材として厚みが25μmのポリエステルフィルムを貼り合わせることによって、感圧性接着シートを作製した。
【0046】
実施例2
実施例1と同様に調製したポリアクリル酸エステル系感圧性接着剤を、乾燥後の厚みが30μmとなるように、厚み25μmのポリエステルフィルムの一表面上に塗布し、120℃で3分間乾燥して、感圧性接着剤層を形成した。このように形成した感圧性接着剤層に接するように実施例1と同様に作製した剥離シートを貼り合わせることによって、感圧性接着シートを作製した。
【0047】
実施例3
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.925g/cm、メルトフローインデックスが3.5g/10minのエチレン−1−ヘキセン共重合体(日本ポリオレフィン社製、ハーモレックス LL NC−479A)を用いた以外は実施例1と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−1−ヘキセン共重合体の結晶化度を算出したところ、46.1%であった。またこの剥離シートの表面の算術平均粗さは、0.12μmであった。
【0048】
実施例4
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.919g/cm、メルトフローインデックスが2.3g/10minのエチレン−1−オクテン共重合体(ダウケミカル社製、ダウレックス 2047AC)を用いた以外は実施例1と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−1−オクテン共重合体の結晶化度を算出したところ、41.5%であった。またこの剥離シートの表面の算術平均粗さは、0.21μmであった。
【0049】
実施例5
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.920g/cm、メルトフローインデックスが4.0g/10minのエチレン−1−ヘキセン共重合体(三井化学社製、エボリュー SP2040)を用いた以外は実施例2と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−1−ヘキセン共重合体の結晶化度を算出したところ、39.1%であった。またこの剥離シートの表面の算術平均粗さは、0.13μmであった。
【0050】
実施例6
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.912g/cm、メルトフローインデックスが3.5g/10minのエチレン−1−ヘキセン共重合体(日本ポリオレフィン社製、ハーモレックス LL NC−544A)を用いた以外は実施例1と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−1−ヘキセン共重合体の結晶化度を算出したところ、36.4%であった。またこの剥離シートの表面の算術平均粗さは、0.33μmであった。
【0051】
実施例7
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.912g/cm、メルトフローインデックスが10.0g/10minのエチレン−1−ヘキセン共重合体(日本ポリオレフィン社製、ハーモレックス LL NH−744A)を用いた以外は実施例1と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−1−ヘキセン共重合体の結晶化度を算出したところ、33.2%であった。またこの剥離シートの表面の算術平均粗さは、0.42μmであった。
【0052】
実施例8
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.935g/cm、メルトフローインデックスが3.5g/10minのエチレン−1−ヘキセン共重合体(日本ポリオレフィン社製、ハーモレックス LL NC−499A)を用いた以外は実施例1と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−1−ヘキセン共重合体の結晶化度を算出したところ、53.8%であった。またこの剥離シートの表面の算術平均粗さは、0.38μmであった。
【0053】
実施例9
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.921g/cm、メルトフローインデックスが0.5g/10minのエチレン−(4−メチル−1−ペンテン)−(1−ブテン)共重合体(三井化学社製、ウルトゼックス 2005H)を用いた以外は実施例1と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−(4−メチル−1−ペンテン)−(1−ブテン)共重合体の結晶化度を算出したところ、46.4%であった。またこの剥離シートの表面の算術平均粗さは、0.29μmであった。
【0054】
比較例1
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.902g/cm、メルトフローインデックスが3.0g/10minのエチレン−1−オクテン共重合体(ダウケミカル社製、アフィニティー PL1850)を用いた以外は実施例1と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−1−オクテン共重合体の結晶化度を測定したところ、28.6%であった。
【0055】
比較例2
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.905g/cm、メルトフローインデックスが3.5g/10minのエチレン−1−ヘキセン共重合体(日本ポリオレフィン社製、ハーモレックス LL NC524A)を用いた以外は実施例1と同様にして感圧性接着シートを作製した。このエチレン−1−ヘキセン共重合体の結晶化度を測定したところ、31.1%であった。
【0056】
比較例3
直鎖状エチレン系共重合体として、密度が0.940g/cm、メルトフローインデックスが1.0g/10minのエチレン−1−オクテン共重合体(ダウケミカル社製、ダウレックス 2740E)を用いた以外は実施例2と同様にして感圧性接着シートを作製した。
【0057】
<感圧性接着剤の塗布および乾燥による剥離シートの形状変化>
実施例1,3,4,6〜9および比較例1,2で作製した各感圧性接着シートについて、剥離シートに感圧性接着剤を塗布し乾燥させて感圧性接着剤層を形成する際の剥離シートの形状の変化を判定した。感圧性接着剤層を形成しても特に問題がなかったものを○とした。感圧性接着剤層の形成において、感圧性接着剤の塗布によって剥離シートが膨れたりしわが発生したもの、あるいは前記塗布の時点では問題がなくても乾燥時に剥離シートが収縮したものを×とした。
【0058】
<剥離性試験>
実施例1〜9および比較例2,3で作製した各感圧性接着シートそれぞれについて、20mm幅に切断した試料を2個ずつ用意した。これらの各試料について剥離シート側を剛性を備える板状体に貼るとともに、ポリエステルフィルム側を万能引張試験機(オリエンテック社製、RTM−100)で引っ張り、公知の試験法である180°角剥離試験によって各試料の抵抗、言い換えると剥離力を測定した。前記試験は、温度23℃、60%RHの雰囲気中で、万能引張試験機のクロスヘッドのスピードが300mm/minの条件で行った。
【0059】
上述の感圧性接着剤の塗布および乾燥による剥離シートの形状変化および剥離性試験のそれぞれの結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示されるように、密度、メルトフローインデックスおよび結晶化度が特定の範囲内の物性値を示す直鎖状エチレン系共重合体を主として含有する実施例1,3,4,6〜9の本発明の剥離シートは、感圧性接着剤を直接塗布し乾燥して感圧性接着剤層を形成しても、不所望に変形することがなかった。実施例1,3,4,6〜9と同様の方法で作製した比較例1,2の本発明でない剥離シートは、いずれも作製の過程で剥離シートが不所望な変形を起こし、比較例1に至っては剥離性試験を行うことができなかった。また本発明の剥離シートを有する感圧性接着シートは、作製時に上述のような不所望な変形を起こさないとともに、すぐれた剥離性を有することが分かる。このことは、実施例1,3,4,6〜9と比較例2との剥離性試験の結果を比較してみると明らかである。
【0062】
また実施例2,5の感圧性接着シートは、従来と同様に、支持基材の一表面に感圧性接着剤層を形成し、かつ剥離シートを形成した後、これらを感圧性接着剤層が剥離シートに接するように貼り合わせて作製される。このような本発明の感圧性接着シートは、比較例3の本発明でない感圧性接着シートと比較して、よりすぐれた剥離性を有することが分かる。このことは実施例2,5と比較例3との剥離性試験の結果を比較してみると明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層または積層のシート材であって、単層の場合には当該シート材自体が、また積層の場合にはその少なくとも一方の最外層が、密度が0.910〜0.935g/cm、メルトフローインデックスが15g/10min以下、かつ結晶化度が30〜60%である直鎖状エチレン系共重合体を含有し、当該シート材の厚みが30〜300μmであることを特徴とする感圧性接着シート用の剥離機能を有するシート材。
【請求項2】
直鎖状エチレン系共重合体のメルトフローインデックスが0.1g/10min以上であることを特徴とする請求項1記載のシート材。
【請求項3】
少なくとも感圧性接着剤層に接することを意図する側の表面の算術平均粗さが1.0μm以下であることを特徴とする請求項1記載のシート材。
【請求項4】
前記表面の算術平均粗さが0.01μm以上であることを特徴とする請求項3記載のシート材。
【請求項5】
前記直鎖状エチレン系共重合体は、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンならびに1−オクテンのうちの少なくとも1種以上のコモノマーとエチレンとの共重合体であることを特徴とする請求項1記載のシート材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のシート材と感圧性接着剤層とを有することを特徴とする感圧性接着シート。

【公開番号】特開2010−196061(P2010−196061A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60416(P2010−60416)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【分割の表示】特願平11−340975の分割
【原出願日】平成11年11月30日(1999.11.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】