説明

シート材、配管部材及びシート材の製造方法

【課題】シート材により、耐食性を有する配管部を容易かつ短時間に形成する。
【解決手段】粘着性を有する紫外線効果樹脂を伸延して所定厚さの第一紫外線硬化樹脂層2を形成し、第一紫外線硬化樹脂層2の上に第一ガラス繊維マット3を敷設し、第一ガラス繊維マット3の上に、粘着性を有する紫外線硬化樹脂を塗布して所定厚さの第二紫外線硬化樹脂層4を形成し、第二紫外線樹脂層4の上に第二ガラス繊維マット5を敷設し、第二ガラス繊維マット5の上に、粘着性を有する紫外線硬化樹脂を塗布して所定厚さの第三紫外線硬化樹脂層6を形成することにより、シート材1を形成する。このシート材1を配管部に貼り付け、紫外線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として酸やアルカリを示す化学薬品や温泉水等の輸送配管に使用されるFRP(繊維強化樹脂)を積層して補強を行うためのシート材、シート材が貼り付けられた配管部材及びシート材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腐食性を有する酸、アルカリ等の化学薬品や温泉水等の輸送配管には、繊維強化樹脂を積層して補強されたPVC(ポリ塩化ビニル)が使用されている。これら繊維強化樹脂で補強された管継手の製造方法は、ハンドレイアップ法、レジンインジェクション法、あるいはバルクモールディングコンパウンド、シートモールディングコンパウンドを使用したコンプレッション法等が一般的に採用されている。その中の一つとして、樹脂を含浸させた強化繊維を芯金表面に積層させる方法が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の方法は、図10に示すように、芯金101表面に樹脂含浸強化繊維102を積層して硬化させるFRP管の外面硬化方法であり、最外層の強化繊維の含浸樹脂をビニルエステル樹脂103とし、樹脂含浸強化繊維層表面に紫外線104を照射して表面層を硬化させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−141483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のFRP管の外面硬化方法は、樹脂含浸強化繊維を巻回して紫外線ランプ105などで照射することで、ビニルエステル樹脂103からなる表面層を硬化する。このため、作業時に相応の設備が必要となり、屋外などの配管施工を行う現場でFRPを積層して被覆させる作業には向かない。また、樹脂含浸強化繊維102を直管以外の配管部材に巻回することは困難であり、例えば屈曲した部分や凹凸が多い管と継手の接続部分などに樹脂含浸強化繊維102を巻回する場合には、樹脂含浸強化繊維102にシワやたるみ等のムラが起こりやすく、芯金101との接着が妨げられるおそれがある。また、積層した層が硬化するにつれて反りが発生し、表面層が剥がれるおそれがある。
【0005】
以上の点より、配管施工を行う現場で繊維強化樹脂による補強を行う場合には、ハンドレイアップ法による積層が主に用いられている。しかしながら、ハンドレイアップ法では、繊維シートの敷設と液状樹脂の含浸塗布を何度も繰り返す作業を行わなければならず、作業に手間と時間がかかる。また、樹脂液を現場で調合するなど前準備が必要となり、作業が煩雑で手間がかかる上に、多くの作業用具を準備する必要があり、こぼれた樹脂液で作業現場が汚れやすいという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、酸やアルカリの薬液に対し、耐食性を有する配管部を容易かつ短時間に形成できるシート材、シート材が貼り付けられた配管部材及びシート材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるシート材は、2層以上積層されたガラス繊維マットを有し、ガラス繊維マットには、粘着性を有する紫外線硬化樹脂が含浸されていることを特徴とする。
また、本発明は、ガラス繊維マットを2層以上積層してなるシート材の製造方法であって、粘着性を有する紫外線効果樹脂を伸延して所定厚さの第一紫外線硬化樹脂層を形成し、該第一紫外線硬化樹脂層の上に第一ガラス繊維マットを敷設し、該第一ガラス繊維マットの上に、粘着性を有する紫外線硬化樹脂を塗布して所定厚さの第二紫外線硬化樹脂層を形成し、該第二紫外線樹脂層の上に第二ガラス繊維マットを敷設し、該第二ガラス繊維マットの上に、粘着性を有する紫外線硬化樹脂を塗布して所定厚さの第三紫外線硬化樹脂層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガラス繊維マットを2層以上積層してシート材を構成し、各ガラス繊維マットに紫外線硬化樹脂が含浸されるので、酸やアルカリの薬液に対し、耐食性を有する配管部を容易かつ短時間に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るシート材の構成を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るシート材の製造方法の第一の製造工程を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るシート材の製造方法の第二の製造工程を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るシート材の製造方法の第三の製造工程を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るシート材の製造方法の第四の製造工程を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るシート材をPE製のフィルムで密封した状態を示す部分断面斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るシート材を紫外線フィルムで包装した状態を示す部分断面斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る配管部材にシート材を貼り付ける工程を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るシート材が貼り付けられた配管部材を示す斜視図である。
【図10】従来のFRP管の外面硬化方法を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明が本実施形態に限定されないことは言うまでもない。図1は、本発明の実施の形態に係るシート材の構成を示す斜視図である。シート材1は、第一紫外線硬化樹脂層2と、第一ガラス繊維マット3と、第二紫外線硬化樹脂層4と、第二ガラス繊維マット5と、第三紫外線硬化樹脂層6とがそれぞれ順番に積層されて形成されている。第一、第二ガラス繊維マット3、5は、例えば450g/mのガラス繊維で形成されており、液状の紫外線硬化樹脂が含浸された状態で積層されている。第一、第二、第三紫外線硬化樹脂層2、4、6は、不飽和ポリエステル樹脂と光重合開始剤からなる液状樹脂である。
【0011】
本実施形態で使用される紫外線硬化樹脂は、マトリックス液状樹脂として、数平均分子量4000〜5000の高分子量のビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂75質量部と、数平均分子量2500〜3500の低分子量のビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂25質量部と、光重合開始剤1質量部と、増粘剤0.5質量部を配合して使用する。なお、ここでは、数平均分子量の異なるビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂を区別するため、上述したように「高分子量」及び「低分子量」の語句を使用する。このとき、紫外線硬化樹脂の粘度は例えば3000mPa・sに調整されている。ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂を用いることにより、耐アルカリ性が向上し、上述の分子量の樹脂を混合することにより、樹脂組成物の安定性、硬化性を最適化できる。
【0012】
本実施形態において、第一、第二ガラス繊維マット3、5は450g/mのガラス繊維で形成されるとしたが、第一、第二ガラス繊維マット3、5は300g/m〜500g/mの範囲内にあればよい。すなわち、ガラス繊維による十分な補強が行えるように300g/m以上とすることが好ましく、ガラス繊維マットを積層してシート材1にした状態でもシート材1が柔軟性を有し、凹凸のある表面に応じてシートを積層させる施工を容易に行えるように500g/m以下とすることが好ましい。なお、ガラス繊維マットは2層以上であれば、その層数は特に限定されないが、積層の施工作業を行い易くするために、2層または3層とすることが好ましい。ガラス繊維マットを4層とする場合には、2層のガラス繊維マットを有するシート材を2枚重ねて使えばよい。
【0013】
紫外線硬化樹脂の粘度を3000mPa・sとしたが、粘度は1000〜5000mPa・sの範囲内にあればよい。すなわち、紫外線硬化樹脂の粘度はシート材1の製造性や施工性に大きく影響するものであり、施工中に液状の紫外線硬化樹脂が垂れることを抑えつつ、紫外線硬化樹脂を含浸した第一、第二ガラス繊維マット3、5を第一、第二、第三紫外線樹脂層2、4、6により挟持できるように、すなわち、第一、第二ガラス繊維マット3、5が第一、第二、第三紫外線樹脂層2、4、6によってコーティングされて直接重ならないようにするために、粘度は1000mPa・s以上とすることが好ましい。また、第一、第二ガラス繊維マット3、5に樹脂をムラなく含浸させ、液状の紫外線硬化樹脂を均一な平面板状に伸ばしやすくするとともに、粘度が高くなりすぎることでシート材1の配管部材への施工性を低下させないように、粘度は5000mPa・s以下とすることが好ましい。
【0014】
上記の高分子量のビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂の多価アルコール成分として少なくとも一部にビスフェノール付加物を用いたものである。この樹脂は、ビスフェノールを含む多価アルコール成分と、多塩基性酸成分を反応して得られる不飽和ポリエステル樹脂をスチレンモノマーに溶解し、重合禁止剤、重合触媒などを添加した液状樹脂である。その他の多価アルコール成分としては、プロピレンオキシド、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなども併用することができる。1モルのビスフェノールAに3〜5モルのプロピレンオキシドを付加したもの、あるいはこのビスフェノールA・プロピレンオキシド付加物にその2割(重量)以内の上記グリコール類で置換したものも好適に用いることができる。多塩基酸としては、フマール酸、マレイン酸などが好適である。ビニル系モノマーとしてはスチレン、重合禁止剤としてはハイドロキノン、重合触媒としてはナフテン酸銅が好適である。スチレンモノマーの量は用途に応じて決まるが、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して50〜100重量部の範囲が適当な量であり、目的に応じてこの範囲内で適宜選択すればよい。
【0015】
高分子量ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂の数平均分子量は4000〜5000であるが、数平均分子量は4200〜4600であることがより好ましい。分子量は原料組成と重合条件によって調整できる。一方、低分子量のビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂も、ビスフェノール(好ましくは水添ビスフェノール)と多価アルコール成分と、多塩基酸成分を反応して得られる不飽和ポリエステル樹脂をスチレンモノマーに溶解し、重合禁止剤、重合触媒などを添加した液状樹脂である。多価アルコール成分としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなど、また、多塩基酸としてはフマール酸、マレイン酸を用いることができる。その他イソフタル酸、テレフタル酸なども添加してもよい。
【0016】
ビスフェノールとして水添ビスフェノールA、他のグリコールとしてプロピレングリコール、多塩基酸として無水マレイン酸、さらにはイソフタル酸、また重合禁止剤としてハイドロキノン、ターシャリブチルハイドロキノン、重合触媒としてナフテン酸銅を用いることが好ましい。具体的製法を例示すると、水添ビスフェノールA、プロピレングリコール、イソフタール酸及び無水マレイン酸を反応釜に仕込み、窒素を吹き込みながら205〜215℃で10〜15時間反応させ、酸価が25以下の段階で反応を終了させる。ついで、仕込原料の全重量に対し、68〜72%量のスチレンモノマーを投入し、この反応溶液量基準で100〜120ppm となるハイドロキノン、80〜85ppm となるターシャリーブチルハイドロキノン、及び17〜22ppm となるナフテン酸銅を添加する。
【0017】
この低分子量ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂の数平均分子量は2500〜3500であるが、数平均分子量は2700〜3200であることがより好ましい。分子量は原料組成と重合条件により調整できる。
【0018】
上記の高分子量および低分子量のビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂の好適な混合割合は、重量比(固形分)で、高分子ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂が60〜90質量部のときに、低分子ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂が10〜40質量部の範囲内にあればよく、両樹脂を混合させて100質量部になるようにすることが好ましい。このとき、樹脂組成物の硬化性が悪くならないように高分子ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂の割合を60以上にすればよく、樹脂組成物の安定性が悪くならないように高分子ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂の割合を90以下にすればよい。
【0019】
上記の光重合開始剤として、ラジカル系の光重合開始剤、カチオン系の光重合開始剤、アニオン系の光重合開始剤などを用いることができるが、ラジカル系の光重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル系の光重合開始剤とは、光などのエネルギー線を受けることにより分解し、発生するラジカルによってラジカル重合反応を開始させる化合物である。光重合開始剤は、高分子量および低分子量のビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂からなる樹脂成分100質量部に対して0.1〜2質量部を配合するのが好ましい。すなわち、紫外線の照射により樹脂を硬化させるために0.1質量部以上とすることが好ましく、施工作業中に硬化しないように2質量部以下とすることが好ましい。
【0020】
ラジカル系の光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系光重合開始剤、アントラキノン系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤等の公知の材料から選ぶことができる。具体的には、ベンゾフェノン、N,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、N,N−テトラエチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、α−ヒドロキシイソブチルフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤や、2−エチルアントラキノン、t−ブチルアントラキノン、1,4−ジメチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2,3−ジクロロアントラキノン、3−クロル−2−メチルアントラキノン、1,2−ベンゾアントラキノン、2−フェニルアントラキノン、1,4−ナフトキノン、9,10−フェナントラキノン等のアントラキノン系光重合開始剤や、ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル化合物等のベンゾイン系光重合開始剤などが挙げられる。
【0021】
また、特に、樹脂組成物を着色させないものとしては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等のα−ヒドロキシアルキルフェノン系化合物や、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド系化合物などが好適なものとして挙げられ、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ]−エチルエステルとオキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステルの混合物及びこれらを組み合わせたものを用いても良い。光重合開始剤としては、特に硬化性に優れ、塗膜の色調変化が殆どないという理由からα−ヒドロキシアルキルフェノン系化合物や、アシルフォスフィンオキサイド系化合物が好ましい。
【0022】
紫外線硬化樹脂に、樹脂の粘度を増加させるために増粘剤をさらに配合してもよく、増粘剤によって紫外線硬化樹脂の粘度を1000〜5000mPa・sの範囲内に調整できる。増粘剤の配合量は、紫外線硬化樹脂の樹脂成分が100質量部に対して0.5〜5質量部とすればよい。すなわち、樹脂の粘度を上昇させるために0.5質量部以上とすることが好ましく、制御できなくなるほど粘度が上昇しないように5質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、1〜2質量部とすればよい。
【0023】
増粘剤としては、アルカリ土類金属の酸化物または水酸化物、アルミニウムアルコレート、イソシアネートなどがあるが、アルカリ土類金属の酸化物または水酸化物を用いることが好ましく、例えば酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化亜鉛などが挙げられる。液状樹脂の粘度を高めるためにシリカ微粉末を添加しても良い。このうちガラス繊維シートに樹脂を含浸させ、シート材の施工に好適な粘度を得るためにシリカ微粉末80〜98%と酸化マグネシウム粉末2〜20%を混合したものを増粘剤として使用することが好ましい。すなわち、シリカは粘度の経時的な変化を抑えるので、粘度の長期安定性を維持するために80〜98%混合すればよい。また、不飽和ポリエステル樹脂に対して樹脂分子末端のカルボン酸や水酸基に作用させ、急激に分子量を増大させて増粘効果を発揮させるために、少量の酸化マグネシウムを含めればよく、酸化マグネシウムは2〜20%混合するとよい。
【0024】
本実施形態では、紫外線硬化樹脂の樹脂成分として不飽和ポリエステル樹脂を用いているが、不飽和ポリエステル樹脂とビニルエステル樹脂のいずれも使用することができる。不飽和ポリエステル樹脂としては、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂、イソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂、ヘット酸系不飽和ポリエステル樹脂などを用いることができる。ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂やイソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂は、防蝕性や保存安定性が良く、安価であるため、より好適に用いることができる。ビニルエステル樹脂としては、エピビス系ビニルエステル樹脂、ノボラック系ビニルエステル樹脂、ビスフェノール系ビニルエステル樹脂、ハロゲン化ビス系ビニルエステル樹脂などを用いることができるが、ビスフェノール系ビニルエステル樹脂やノボラック系ビニルエステル樹脂を用いることが好ましい。また、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂は、高分子量のものと低分子量のものとを混合したものとすることが好ましい。ここで、高分子量として数平均分子量が4000〜5000程度のものを、低分子量として数平均分子量が2500〜3500程度のものを用いることが好ましい。
【0025】
紫外線硬化樹脂には、必要に応じて離型剤、着色剤、消泡剤、硬化促進剤等を添加することもできる。各添加剤は、添加剤の硬化が発揮できる程度に配合すればよく、例えば樹脂成分100重量部に対して離型剤0〜2重量部、着色剤0〜15重量部、消泡剤0〜2重量部、硬化促進剤0〜1重量部を配合してもよい。
【0026】
次に、図2〜図7を参照し、本実施の形態に係るシート材1の製造方法について説明する。
【0027】
シート材1の製造は、直射日光の当たらない場所で行う。まず、シート材1の形状よりも大きめにポリエチレン(以下、PEと記す)製のフィルム7aを切り出し、このフィルム7aを平面状の台の上に敷設する。次に、図2に示すように、このPE製のフィルム7aの上に、所定粘度の粘着性を有する液状の紫外線硬化樹脂を、肉厚が1mm程度でほぼ均一になるようにブレード8を用いて薄く伸ばしながら塗布し、第一紫外線硬化樹脂層2を形成する。このとき、第一紫外線硬化樹脂層2の肉厚は0.5〜2mmの範囲内とすることが好ましい。すなわち、第一ガラス繊維マット3に紫外線硬化樹脂を含浸させるとともに、第一ガラス繊維マット3をコーティングするような層を形成するために肉厚は0.5mm以上が好ましく、紫外線硬化樹脂を余分に設けないようにするために2mm以下が好ましい。
【0028】
次に、図3に示すように、PE製のフィルム7a上に形成した第一紫外線硬化樹脂層2の上に第一ガラス繊維マット3を敷設する。さらに、図4に示すように、この第一ガラス繊維マット3の上に、所定粘度の粘着性を有する紫外線硬化樹脂を、1mm程度の肉厚になるようにブレード8を用いて薄く伸ばしながら塗布し、第二紫外線硬化樹脂層4を形成する。このとき、第二紫外線硬化樹脂層4を形成するのと同時に、第一ガラス繊維マット3に紫外線硬化樹脂を含浸させる。同様の方法で、第二紫外線硬化樹脂層4の上に第二ガラス繊維マット5を敷設し、さらに第二ガラス繊維マット5の上に、所定粘度の粘着性を有する紫外線硬化樹脂を、1mm程度の肉厚になるようにブレード8を用いて薄く伸ばしながら塗布し、第三紫外線硬化樹脂層6を形成する。このとき、第三紫外線硬化樹脂層6を形成するのと同時に、第二ガラス繊維マット5に紫外線硬化樹脂を含浸させる。なお、ガラス繊維マットを3層以上設ける場合には、上述の工程を繰り返せばよい。
【0029】
以上の工程により、PE製のフィルム7aの上にシート材1が形成される。この場合、紫外線硬化樹脂の粘度を1000〜5000mPa・sの範囲内とすることにより、ブレード8を用いて樹脂を一定の肉厚に容易かつ均一に伸延させることができ、第一紫外線硬化樹脂層の肉厚を0.5mm〜2mmの一定の状態に維持できる。また、紫外線硬化樹脂を第一、第二ガラス繊維マット3、5の全体にムラなく含浸させることができるとともに、シート材1の各層の積層状態を維持できる。さらに、シート材1を配管部材に貼り付ける作業中に余分な樹脂が液垂れすることを抑えることができ、垂れた樹脂で周囲を汚すことを防止できる。なお、シート材1の各層の積層状態では、第一ガラス繊維マット3と第二ガラス繊維マット5との間に第二紫外線硬化樹脂層が形成され、ガラス繊維マット3、5同士は直接重なってはいない。
【0030】
上述したようにPE製のフィルム7aの上にシート材1が形成された後、図5に示すようにシート材1の上に別のPE製のフィルム7bを敷設し、PE製のフィルム7bの上面をゴムローラー9で伸ばしながらシート材1内の脱泡を行う。次いで、図6に示すように、PE製のフィルム7a、7bの外周縁を加熱圧着して貼り合わせ、シート材1を密封する。この密封により、液状の紫外線硬化樹脂の液垂れを防止でき、シート材1の取り扱いや保管が容易となる。シート材1を密封する方法は、シート材1に空気が入らないように密封できれば特に限定されず、PE製のフィルム7a、7bの外周縁をクリップ材で止めたり、布テープやビニールテープで貼り付けても良い。シート材1をPE製のフィルム7とともに適度な大きさに切断して密封しても良い。なお、フィルム7の材質は、シート材1を密封するのに必要な強度と耐久性を有する樹脂製であればPE製以外でもよく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、フッ素樹脂などを用いることもできる。
【0031】
その後、図7に示すように、PE製のフィルム7で密封されたシート材1をアルミ製の紫外線遮断フィルム10で包装する。これにより、施工現場で紫外線遮断フィルム10の包装を開封するまで、シート材1を紫外線で硬化することなく保管できる。この場合、シート材1を紫外線遮断フィルム10に単体で包装してもよく、複数まとめて包装してもよい。紫外線遮断フィルム10でシート材1を密封できるのであれば、PE製のフィルム7を用いずに紫外線遮断フィルム10で直接シート材1を密封して包装してもよい。なお、紫外線遮断フィルム10によるシート材1の包装方法は、シート材1に紫外線が直接当たらないように包装できれば特に限定させず、袋状に形成された紫外線遮断フィルム10にシート材1を密封して包装してもよく、1枚の紫外線遮断フィルム10でシート材1を包むように包装してもよい。
【0032】
次に、図8、図9を参照し、本実施の形態に係るシート材1を配管部材に取り付ける施工手順について説明する。
【0033】
ここでは、繊維強化熱硬化性樹脂(以下、FRPと記す)補強塩化ビニル樹脂(以下、PVCと記す)フランジ11に、FRP補強PVCパイプ12を接続した配管部材にシート材1を取り付ける場合について説明する。この場合、FRP補強PVCパイプ12の管端部のFRP被覆層を剥離してFRP補強PVCフランジ11に接着によって接続し、この接続部分の補強を行うために、接続部分にシート材1を取り付ける。この施工は直接日の当たらない日陰で行う。
【0034】
まず、FRP補強PVCフランジ11とFRP補強PVCパイプ12にパテを盛り、接合部分の段差が埋まるように滑らかな表面にする。次に、シート材1を取り付ける表面の接着性を向上させるためにPVC及びパテ部分を研磨し、プライマーを塗布する。さらに、PE製のフィルム7で密封されたシート材1を紫外線遮断フィルム10の包装から取り出し、取付の大きさに合わせて専用のはさみで切断する。そして、図8に示すように、PE製のフィルム7を剥がして接続部分にシート材1を貼り付ける。この場合、PE製のフィルム7で密封されたシート材1を貼り付け位置に位置合せすることで、シート材1の必要形状を確認することができ、シート材1を無駄なく必要な大きさに切断できる。このとき、シート材1はPE製のフィルム7ごとはさみ等で切断すればよく、液状の紫外線硬化樹脂で汚れることを抑えつつ作業を行うことができる。余分なシート材1は、PE製のフィルム7の切断面を布テープやビニールテープなどで張り合わせて紫外線遮断フィルム10により再包装することで、その後の施工時まで容易に保管できる。
【0035】
シート材1の貼り付けが終了すると、ローラー(図示せず)を用い、配管部材の表面形状に合わせてシート材1の形を整えるとともに、シート材1のシワを伸ばしてシート材1の表面を整える。このとき、シート材1の第一、第二ガラス繊維マット3、5は300g/m〜500g/mのガラス繊維で形成されており、ガラス繊維量が厚すぎず薄すぎないので、シート材1を配管部材の凹凸形状に容易に合わせることができ、施工性が容易である。また、ガラス繊維マット3、5の表面には、1000〜5000mPa・sの粘度の紫外線硬化樹脂が含浸されて紫外線硬化樹脂層2、4、6が形成されているので、紫外線硬化樹脂が硬化していない状態でも各層間に適度な密着性があり、ガラス繊維マットのずれを防止できる。さらに、シート材1はガラス繊維マットと紫外線硬化樹脂のみの積層構造であるため、紫外線の照射により樹脂が硬化する過程において、収縮の差が起こりにくくシート材1の反りが抑えられる。なお、施行時には必要に応じて複数枚のシート材1を積層したり貼り合わせたりしても良い。
【0036】
最後に、図9に示すようにシート材1の貼り付けによりFRP被覆を行った後、配管部材を太陽に直接当てることでシート材1を紫外線硬化させる。日差しの弱い天候や屋内での作業時等には、シート材1に紫外線ランプを照射させてもよい。
【0037】
以上のように本実施の形態では、予め紫外線硬化樹脂及びガラス繊維マットが積層されたシート材1を、紫外線遮断フィルム10の包装から取り出してFRP被覆を行いたい箇所に貼り付けるだけで、容易に繊維強化樹脂の積層を行うことができる。また、シート材1は太陽に当てるだけで硬化されるので、施工現場の作業において容易かつ短時間に施工を行うことができる。また、繊維強化樹脂の積層に必要な樹脂と繊維マットが一つのシート材1として樹脂製フィルム7で密封された状態で使用されるため、例えばハンドレイアップ法による作業における場合のように樹脂を余らせたり不足したりすることがなく、材料を無駄なく効率よく消費できる。
【0038】
以上をまとめると、本実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)施行現場において、シート材1の表面の外装のフィルム7を取り外し、積層する部分にシート材1を貼り付けることで容易にFRPを積層して補強することができる。また、紫外線照射、すなわち太陽光を当てることにより、シート材1を容易に硬化でき、施行作業を短時間で簡単に行うことができる。
(2)樹脂と繊維マットが積層体のシート材1として予め一体に構成されているので、施行時に準備する道具はそれほど必要でなく、作業現場で溶液の調合などの前準備をする必要もない。
(3)シート材1を紫外線が当たらないように保管しておけば、時間経過により樹脂や架橋剤が硬化することがなく、安定した紫外線硬化樹脂の粘度でシート材1を使用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 シート材
2 第一紫外線硬化樹脂層
3 第一ガラス繊維マット
4 第二紫外線硬化樹脂層
5 第二ガラス繊維マット
6 第三紫外線硬化樹脂層
7 PE製のフィルム
8 ブレード
9 ローラー
10 紫外線遮断フィルム
11 FRP補強PVCフランジ
12 FRP補強PVCパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上積層されたガラス繊維マットを有し、
前記各ガラス繊維マットには、粘着性を有する紫外線硬化樹脂が含浸されていることを特徴とするシート材。
【請求項2】
請求項1に記載のシート材において、
前記ガラス繊維マットは、300g/m〜500g/mのガラス繊維で形成され、
前記紫外線硬化樹脂の粘度は、1000〜5000mPa・sであることを特徴とするシート材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシート材において、
積層された第一ガラス繊維マットと第二ガラス繊維マットとを有し、
前記第一ガラス繊維マットの一の表面には、前記紫外線硬化樹脂により第一紫外線硬化樹脂層が形成され、前記第一ガラス繊維マットの他の表面と前記第二ガラス繊維マットの一の表面との間には、前記紫外線硬化樹脂により第二紫外線硬化樹脂層が形成され、前記第二ガラス繊維マットの他の表面には、前記紫外線硬化樹脂により第三紫外線硬化樹脂層が形成されているシート材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート材において、
前記シート材の表面は、樹脂製フィルムで密封されていることを特徴とするシート材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート材において、
前記シート材は、紫外線遮断フィルムで包装されていることを特徴とするシート材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のシート材において、
前記紫外線硬化樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂のいずれかと、光重合開始剤とを含むことを特徴とするシート材。
【請求項7】
請求項6に記載のシート材において、
前記不飽和ポリエステル樹脂は、ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂またはイソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂であることを特徴とするシート材。
【請求項8】
請求項7に記載のシート材において、
前記紫外線硬化樹脂は、数平均分子量4000〜5000の高分子量ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂60〜90質量部と、数平均分子量2500〜3500の低分子量ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂含有液状樹脂10〜40質量部と、光重合開始剤0.1〜2質量部とを含むことを特徴とするシート材。
【請求項9】
請求項8に記載のシート材において、
前記紫外線硬化樹脂は、さらに増粘剤0.5〜5質量部を含むことを特徴とするシート材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のシート材が、表面に貼り付けられていることを特徴とする配管部材。
【請求項11】
ガラス繊維マットを2層以上積層してなるシート材の製造方法であって、
粘着性を有する紫外線効果樹脂を伸延して所定厚さの第一紫外線硬化樹脂層を形成し、
該第一紫外線硬化樹脂層の上に第一ガラス繊維マットを敷設し、
該第一ガラス繊維マットの上に、粘着性を有する紫外線硬化樹脂を塗布して所定厚さの第二紫外線硬化樹脂層を形成し、
該第二紫外線樹脂層の上に第二ガラス繊維マットを敷設し、
該第二ガラス繊維マットの上に、粘着性を有する紫外線硬化樹脂を塗布して所定厚さの第三紫外線硬化樹脂層を形成することを特徴とするシート材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−1665(P2012−1665A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139403(P2010−139403)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】